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怪を編む

  • 2018/10/23(火) 18:16:15

怪を編む: ショートショート・アンソロジー (光文社文庫)
アミの会(仮)
光文社 (2018-04-12)
売り上げランキング: 118,730

アミの会(仮)とは、各ジャンルで活躍する女性作家の集まり。網のように広がる交遊関係、フランス語で友だちという単語(amie)、全国各地のメンバーがインターネットで意見交換をしながら、一冊のアンソロジーを編むというところから名付けられた。アンソロジー企画第五弾は、十三人の豪華ゲストを迎え、二十五編の書下ろしショートショートをお届け!


ほんの短い物語なのに、そのどれもに「怪」が濃密に詰まっていて読み応えがある。じわじわと、ひたひたと、怖さが足元から這い上ってくるものあり、一瞬にして恐怖に身体中の毛穴が開く感覚のものあり、実に厭な感じのものありと、テイストがさまざまで、次から次へと味わってみたくなる一冊である。

対岸の家事*朱野帰子

  • 2018/10/20(土) 18:47:04

対岸の家事
対岸の家事
posted with amazlet at 18.10.20
朱野 帰子
講談社
売り上げランキング: 143,353

家族のために「家事をすること」を仕事に選んだ、専業主婦の詩穂。娘とたった二人だけの、途方もなく繰り返される毎日。幸せなはずなのに、自分の選択が正しかったのか迷う彼女のまわりには、性別や立場が違っても、同じく現実に苦しむ人たちがいた。二児を抱え、自分に熱があっても休めない多忙なワーキングマザー。医者の夫との間に子どもができず、姑や患者にプレッシャーをかけられる主婦。外資系企業で働く妻の代わりに、二年間の育休をとり、1歳の娘を育てるエリート公務員。誰にも頼れず、いつしか限界を迎える彼らに、詩穂は優しく寄り添い、自分にできることを考え始める――。

手を抜いたっていい。休んだっていい。でも、誰もが考えなければいけないこと。
終わりのない「仕事」と戦う人たちをめぐる、優しさと元気にあふれた傑作長編!


こんなに真っ向から家事というものに焦点を当てた小説があっただろうか。専業主婦であれ、働く女性であれ、働く男性であれ、ひとり親であれ、独身者であれ、家事とは、生きていくうえで必ずやらなければならない仕事である。本作では、さまざまな立場や状況で、それぞれに家事に向き合い、愉しんだり、悩んだり、苦しんだりしながらも、それを投げ出せずにいる。そして、自分だけがこんなに大変なのだと、他者を攻めてイライラをぶつけ、悪循環に陥るのである。名前のない仕事とも言われる、日々の暮らしの中のほんとうに細かいあれこれから、人はどうしたって逃れることはできないのである。なので、家事というもののとらえ方を狭めてしまうと、人生の多くの時間を無駄にすることになるような気がする。それぞれが追い詰められている苦しさを、少しだけ体感できたような気持ちでもある。時にはほっぽり出すことも大切なのかもしれないと思わされる一冊でもあった。

公園へ行かないか?火曜日に*柴崎友香

  • 2018/10/19(金) 07:34:33

公園へ行かないか? 火曜日に
柴崎 友香
新潮社
売り上げランキング: 83,124

アメリカにいるから、考えること。そこにいないから、考えられること。2016年11月8日、わたしはアメリカで歴史的瞬間に居合わせた、はずだった――。世界各国から作家や詩人たちが集まる、アイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラムに参加した著者が、英語で議論をし、街を歩き、大統領選挙を経験した3ヶ月。現地での様々な体験から感じたことを描く11の連作小説集。


限りなくエッセイに近い小説集である。英語が自由に操れず、コミュニケーションが自在に取れないもどかしさの中、アメリカという国にいて、アメリカ以外から集まった作家たちそれぞれの背景や抱える問題、意識の違いなどがリアルにつづられていて興味深い。同じものごとを目にしても、それに対する反応や表現の仕方はさまざまで、それは個性であるとともに国民性でもあり、英語が不自由なゆえに、それらを静かに観察できている様子がよくわかる。日本を離れているから見えること、余計にわからなくなること、その揺らぎが伝わってきて、改めて考えさせられる。等身大の日々が伝わる一冊である。

中山七転八倒*中山七里

  • 2018/10/16(火) 18:14:24

中山七転八倒 (幻冬舎文庫)
中山 七里
幻冬舎 (2018-08-03)
売り上げランキング: 70,610

雑誌連載が10本に減り大いに危機感を抱き、プロットが浮かばずブランデーをがぶ飲み。原稿の締め切り直前、設定していたトリックが使えないことが判明。栄養ドリンクの三種混合を一気飲みし、徹夜で考え抜く――。どんでん返しの帝王がプロットの立て方や原稿の進め方、編集者とのやりとりを赤裸々に告白。本音炸裂、非難囂々の爆笑エッセイ!


エッセイというか、2016年と2017年の日記そのものの体裁である。それだけで605ページも読ませるのだから、さすがと言ってもいいだろう。ずいぶん希釈されていたり、伏字になていたりするものの、作家と編集者の内幕がかなりシビアに暴露されていて、読者ののぞき見趣味も満足させてくれる。とはいえ、個人的には、作家の各エッセイに好みに合わないものが多いので、途中からは、いささかお腹いっぱいの感は否めなかった。しかも、図書館ユーザーで、愚にもつかない感想をアップしている身。針の筵感も半端ないのである。事情はとてもよく理解できるが、こちらにも事情があるのよ、とちょっと言ってみたくなる一冊でもあった。

院内カフェ*中島たい子

  • 2018/10/13(土) 18:21:01

院内カフェ (朝日文庫)
中島たい子
朝日新聞出版
売り上げランキング: 57,998

「ここのコーヒーはカラダにいい」と繰り返す男や、態度の大きい白衣の男が常連客。その店で働く亮子は売れない作家でもある。夫との子どもは望むけれど、治療する気にはなれない。病院内カフェを舞台にふた組の中年夫婦のこころと身体と病を描く長編小説。


病院のなかにあって、病院ではない。院内カフェは独特の存在である。入院患者も外来患者も、その家族も見舞客も、誰でも分け隔てなく迎え入れ、ここではみな等しく客という存在になる。そんな、中立国のようなこの場所にも、毎日、さまざまな人生模様が描かれ続ける。主婦であり、作家であり、カフェのバイト店員でもある亮子の目が捉える人間模様を、彼女自身の家庭の事情も織り込みながら、紡ぎだしているのが本作である。自分というものの在りようや、夫婦や親子のかかわりあい方のことを、いままでにない角度から考えさせられる一冊でもある。

脅迫者 警視庁追跡捜査係*堂場瞬一 

  • 2018/10/12(金) 18:50:02

脅迫者 警視庁追跡捜査係 (ハルキ文庫)
堂場瞬一
角川春樹事務所
売り上げランキング: 4,026

新人刑事時代のある捜査に違和感を抱いていた追跡捜査係の沖田は、二十年ぶりの再捜査を決意。自殺と処理された案件は、実は殺人だったのではないか―内部による事件の隠蔽を疑う沖田を、同係の西川はあり得ないと突っぱねるが、当時事件に携わった刑事たちへの事情聴取により、疑惑はさらに高まる。そんな折、沖田は何者かに尾行されていることに気づくが…。シリーズ史上最も厄介な敵を相手に、熱き男たちの正義感が爆発する!書き下ろし警察小説。


二十年前の自殺事件のとき、新人だった自分だけが蚊帳の外に置かれ、何ひとつ教えてもらえなかったことに違和感を抱き続けていた沖田は、追跡捜査係の仕事の一環として再捜査を始めた。自殺ということで、なんの捜査もせず、記録さえろくに残されていなかった事件の真相は、もしかすると殺人だったのではないかと当たりをつけはしたが、再捜査はなかなか進まない。そんな折、沖田が何者かに尾行されていることに気づく。そこから、闇はどんどん深くなり、思っていたほど単純な構図ではないことが次々に明らかになっていく。はたして、沖田たちはとんでもない一件を引きずり出しそうになっていたのだった。それぞれの立場や思惑、上下関係や、さらにそれを上回る圧力。個人にできることはどこまでなのか、興味を惹きつけられる。捜査する側の個人的な事情も絡めながら進んでいくストーリーは緊迫感と切迫感があって、息がつけない。巨大組織の中で動くことの難しさや、正義を貫くことの意味までをも考えさせられる一冊だった。

つかのまのこと*柴崎友香 東出昌大

  • 2018/10/08(月) 16:40:55

つかのまのこと
つかのまのこと
posted with amazlet at 18.10.08
柴崎 友香 東出 昌大
KADOKAWA (2018-08-31)
売り上げランキング: 18,174

かつての住み家であったのであろう、“この家”を彷徨い続ける“わたし”。その理由がわからないままに時は移り、家には次々と新しい住人たちがやってくる。彼らを見守り続ける“わたし”は、ここで、いったい何を、誰を待っているのか―。俳優・東出昌大をイメージして作品を執筆、さらに写真家・市橋織江がその文学世界を撮影した、“新しい純文学”。



東出昌大さんを想定して書かれた物語ということである。どうやら幽霊として、ある古い日本家屋に住み着いている男の目を通してみた日常の風景。当て書きというだけあって、折々に挿みこまれる写真が、物語と一体になって、胸のなかがたいそう穏やかになる気がする。窓も開けていないのに、ふと空気の流れを感じるとき、もしかすると人ならぬものが通って行ったのかもしれない、などと想像してしまいそうになる。変わっていくものと変わらずに在るもののことを考えてみたくなる一冊である。

小説の神様*相沢沙呼

  • 2018/10/08(月) 16:33:56

小説の神様 (講談社タイガ)
相沢 沙呼
講談社
売り上げランキング: 121,729

いつか誰かが泣かないですむように、今は君のために物語を綴ろう。

僕は小説の主人公になり得ない人間だ。学生で作家デビューしたものの、発表した作品は酷評され売り上げも振るわない……。
物語を紡ぐ意味を見失った僕の前に現れた、同い年の人気作家・小余綾詩凪。二人で小説を合作するうち、僕は彼女の秘密に気がつく。彼女の言う“小説の神様”とは? そして合作の行方は? 書くことでしか進めない、不器用な僕たちの先の見えない青春!



中学生でデビューした作家が同じクラスに二人もいるというのは、奇跡としか思えない設定ではあるが、もしそんなことがあったとしたら、普通に考えて、意気投合するか反発しあうか、完全に無視するかのどれかだろう。だが、彼らの場合はそのどれでもなく、二人でひとつの物語を紡ぐことになる。本作は、さまざまな要因を含みつつ、それをひとつずつ呑み込んで消化し、それでも消化しきれないものは少しでもかみ砕いて、二人でやっていこうとしっかりと思えるまでの物語である。自分と自分の編み出した物語を愛せるようにならないままでは、どうしたって二人でやっていくことはできなかったのである。自分たちの立ち位置を見極めたここからが、彼らの始まりなのだと思わされる一冊でもある。

錆びた滑車*若竹七海

  • 2018/10/06(土) 16:47:46

錆びた滑車 (文春文庫)
若竹 七海
文藝春秋 (2018-08-03)
売り上げランキング: 5,914

女探偵・葉村晶は尾行していた老女・石和梅子と青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれる。ミツエの持つ古い木造アパートに移り住むことになった晶に、交通事故で重傷を負い、記憶を失ったミツエの孫ヒロトは、なぜ自分がその場所にいたのか調べてほしいと依頼する―。大人気、タフで不運な女探偵・葉村晶シリーズ。


葉村晶ももう若くはない。それなのに、相変わらず不運で、巻きこまれ体質で、いつも身体中に傷を負っている。そして、その割に報われない。なんとも効率が悪くて、やるせなくなる。だが、目のつけ所、引っかかったことをうやむやにしない執念深さ、さらには若い時ほどではないとはいえ、そのフットワークの軽さと、なんだかんだで周りを巻きこみつつ情報を得る能力で、いくつも散らばっている謎を一本に束ね、最後には解き明かしてしまうのだから、もっと尊敬されてもいいのではないかと思ってしまう。今後もこの調子で探偵業を続けていたら、身体が先に音を上げるのではないかと心配してしまう。とはいえ、今回もまわりまわって真実に辿り着く過程を存分に楽しませてもらった一冊である。

星をつなぐ手―桜風堂ものがたり―*村山早紀

  • 2018/10/03(水) 18:55:49

星をつなぐ手 桜風堂ものがたり
村山 早紀
PHP研究所
売り上げランキング: 43,067

田舎町の本屋と、ある書店員の身に起こった奇跡を描き、全国書店員の共感を集め、2017年本屋大賞5位になった『桜風堂ものがたり』。その続編の登場です!
郊外の桜野町にある桜風堂書店を託され、昔の仲間たちとともに『四月の魚』をヒット作に導いた月原一整。しかし地方の小さな書店であるだけに、人気作の配本がない、出版の営業も相手にしてくれない、という困難を抱えることになる。そんな折、昔在籍していた銀河堂書店のオーナーから呼び出される。そのオーナーが持ちかけた意外な提案とは。そして一整がその誠実な仕事によって築き上げてきた人と人とのつながりが新たな展開を呼び、そして桜野町に住む桜風堂書店を愛する人たちが集い、冬の「星祭り」の日に、ふたたび優しい奇跡を巻き起こす。
今回も涙は流れるかもしれません。しかし、やはり悲しい涙ではありません!


いろいろあって銀河堂書店を辞め、桜風堂書店を任されることになった月原一整とその周辺の物語である。田舎の小さな個人書店である桜風堂には、さまざまな問題や悩みが尽きない。人気作家の新刊が配本されなかったり、店内の展開が思うようにできなかったり、人手が足りなくても専門の人を雇うことができなかったり、と。そんなたくさんの問題を抱えながらも、周りの本が、書店が好きな人たちに助けられ、紙の本離れや書店の閉店の一因ともいえるインターネット上のネットワークまでもが味方になって、桜風堂を盛り上げてくれる様子には胸が高鳴った。何事も、諦めては何も始まらないのだ。こうしたい、こうなりたい、これを守りたい、という思いを持ち続けてこそ、ほんの小さなきっかけを見逃すことなくつかまえられるのである。次々に歯車がかみ合うように、星まつりの夜に向けて高まっていく興奮が伝わってくるようで、あたたかくこみ上げるものを抑えきれない一冊だった。

誤断*堂場瞬一

  • 2018/10/02(火) 12:42:23

誤断 (中公文庫)
誤断 (中公文庫)
posted with amazlet at 18.10.02
堂場 瞬一
中央公論新社 (2017-11-22)
売り上げランキング: 162,558

長原製薬の広報部員・槇田は、副社長から極秘である調査を命じられた。相次いで発生している転落死亡事故に、自社製品が関わっている可能性があるというのだ。各地の警察に赴き、自社製品の使用履歴を密かに調べる槇田。経営不振により外資企業と合併交渉中の長原製薬にとって、この時期の不祥事は致命的だ。槇田は被害者家族の口を金で封じるという業務を任されるのだが、過去の公害事件も再燃してきて――。警察小説の旗手が挑む、社会派サスペンス!


大手製薬会社と、過去から連綿と続く隠ぺい体質、さらには、薬害の事後処理とそれに当たる社員の苦悩、そして経営悪化による合併と、さまざまな事情が絡み合って、胃が痛くなるようなストーリーである。製薬の現場に関しては全くの素人なので、現実にこんなことがあるのかどうかは確かめようもないが、絶対にあってほしくない事象であり、もしその当事者になってしまったとしたら、と考えると、うかうかと薬も飲めない気分である。しかもこの対応である。会社を守るのか、人間としての矜持を守るのか、実際に突き付けられたときの葛藤は、計り知れないものがある。重苦しさに胸を押しつぶされるようだったが、槙田の決断をたたえたいと思わされる一冊だった。

ポストカプセル*折原一

  • 2018/09/29(土) 16:36:27

ポストカプセル
ポストカプセル
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折原一
光文社
売り上げランキング: 289,182

ラブレターが、遺書が、脅迫状が、礼状が、文学賞の受賞通知が、15年遅れで届いたら――? 心温まるはずの善意の企画(?)の裏に、驚愕の真相が……!? 騙しの名手が腕をふるった怪作ミステリーをご堪能ください。


本来ならポストカプセルに投函されるべきではない手紙がポストカプセルとして15年後に届けられたとしたら、受け取った人はどんな反応をするだろうか。ある者は懐かしみ、またある者は訝しみ、焦り、絶望し、何とか送り主に連絡を取ろうとし、あるいは、そのままくずかごに放り込む。本作の受取人たちの反応と、その後の対応、そして展開が早く知りたくて、気が逸る。そこに漂う気配は、決して本来のポストカプセルのようにほほえましいものではなく、怪しく不審なので、なおさらである。たった一通の手紙によって、人の未来はこれほど変わってくるものだろうか。ひとつひとつの事例にぞくぞくするのはもちろん、それらがどこかで繋がっているのに気づいたときには、驚きと戦慄が走る。だれが何のために、とさらにページを繰る手が止まらなくなる。小説ならではのハラハラ感である。読みながら思わず背後を気にしてしまう一冊でもある。

ヴィジュアル・クリフ 行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2018/09/27(木) 09:26:59


似非健康商品を売りつける「ご長寿研究所」の店長が殺された。別件で指名手配中の男が現場付近で目撃されていたが、絵麻は違和感を覚える。そして新たに捜査線上に上がった人物は、行動心理学のかつての第一人者で絵麻の恩師・占部亮寛だった。店の常連客らしい占部。絵麻が聴取に行くと、占部は心を読み取られないよう抗不安薬を飲み―。相手のしぐさから嘘を見破る“エンマ様”シリーズ第6弾。


今回の捜査は、エンマ様こと楯岡絵麻にとっては、辛いものだったことだろう。というのも、捜査対象が、かつての恩師・占部であり、絵麻に行動心理学を教えてくれたその人だったのだから。とはいえ、胸の裡はともかく、捜査に手を抜くことはないのがエンマ様である。占部と絵麻の駆け引きから目が離せない。相棒の西野も、ずいぶん頼もしくなっている。彼以外ではエンマ様とのコンビは成り立たないのではないかとすら思わされる。今回、西野も贔屓のキャバクラ嬢の真実の姿に目が覚めたようでもあるし、今後の展開も愉しみである。じっくり味わいたいシリーズである。

わたしの本の空白は*近藤史恵

  • 2018/09/25(火) 16:37:00

わたしの本の空白は
わたしの本の空白は
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近藤史恵
角川春樹事務所
売り上げランキング: 163,927

気づいたら病院のベッドに横たわっていたわたし・三笠南。目は覚めたけれど、自分の名前も年齢も、家族のこともわからない。現実の生活環境にも、夫だという人にも違和感が拭えないまま、毎日が過ぎていく。何のために嘘をつかれているの?過去に絶望がないことだけを祈るなか、胸が痛くなるほどに好きだと思える人と出会う…。何も思い出せないのに、自分の心だけは真実だった。


自分が誰なのか、どんな立場で、誰とどんな暮らしをしていたのか、思い出せないのはどれほど心細いだろうと、まず胸が痛くなる。しかも、どんな理由で、記憶をなくして病院のベッドで目覚めたのかも皆目判らないのである。どこに帰ればいいのか、誰を信じればいいのか。極端なことを言えば、自分さえも信じられないだろう。ただ、主人公の南の場合は、覚えてはいなくても、居心地がいいとか、安心できるとかいう気分は何となくわかるようで、当面は、それで判断するしか方法がない。途轍もなくい緊張感の中で過ごさなくてはならないことが容易に想像できる。日々を過ごし、周りの人の話や、折に触れて接するものごとから、少しずつ手掛かりに触れられるようになってくると、そこには、思いもしなかった現実が待ち構えているのだった。すべて忘れたままだったほうが幸せなのか、それともすべてはっきり思い出すのが幸せなのか。どちらにせよ、悩みは尽きそうにない。次の展開が早く知りたくて、ページを繰るのがもどかしい一冊だった。

ツキマトウ 警視庁ストーカー対策室ゼロ係*真梨幸子

  • 2018/09/23(日) 16:09:54

ツキマトウ 警視庁ストーカー対策室ゼロ係
真梨 幸子
KADOKAWA (2018-07-27)
売り上げランキング: 150,325

自己顕示欲の塊となって、ブログに日々よしなしごとを綴るダメンズ女、離婚したパートナーの動向チェックに余念がない元妻、ささいなことで恨みを募らせていく反社会性パーソナリティ障害の元同僚、妄想を暴走させてSNSを炎上させるアイドルオタク…ふとした日常の違和感、感情の掛け違いから、妄執に取り憑かれていく男女たち。詐欺、ストーカー、リベンジポルノ、盗撮、盗聴…「愛」という大義の下の暴力を、イヤミスの女王が執拗にあぶり出す!


さまざまな立場のツキマトイが描かれていて、そのどれもがいつ現実になってもちっとも不思議ではないものばかりなので、背筋が寒くなる。しかも、本作では、それが奇妙に連鎖していて、つきまとわれているのかつきまとっているのか、時に判然としなくなる。一方的な言い分だけで判断してはいけないと、そこも恐ろしくなる。人は、自分に都合のいい理屈で行動するものなのである。充分厭な気分にさせらた後、そこに待っているのはさらに厭な事実だった。いい加減にして!と叫びたくなる一冊である。