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雲をつかむ話*多和田葉子
- 2012/05/19(土) 19:36:04
![]() | 雲をつかむ話 (2012/04/21) 多和田 葉子 商品詳細を見る |
人は一生のうち何度くらい犯人と出遭うのだろう――。
わたしの二ヵ国語詩集を買いたいと、若い男がエルベ川のほとりに建つ家をたずねてきた。彼女へのプレゼントにしたいので、日本的な模様の紙に包んで、リボンをかけてほしいという。わたしが包装紙を捜しているうちに、男は消えてしまった。
それから一年が過ぎ、わたしは一通の手紙を受け取る。
それがこの物語の始まりだった。
なんだか不思議な感触の物語だった。物語というよりも、エッセイのような語り口で、長い長い日記を読んでいるようでもある。語り手の「私」の心の底でいつもうごめいているのは、「禁固刑」とか「犯人」とかで、人生で何人の犯人に出会ったかと考えてみたり、狭い独房に入れられる自分を想像してみたりしている。そのせいか、そんな話題や出来事を引き寄せ、引き寄せられたりもするのである。夢と現の境目もあいまいなことがあり、現実のことかと思って読んでいると夢の中の話だったりして驚かされながらもほっとさせられることが幾度となくある。実際のところ雲をつかむような一冊である。
僕らのごはんは明日で待ってる*瀬尾まいこ
- 2012/05/17(木) 16:48:57
![]() | 僕らのご飯は明日で待ってる (2012/04/25) 瀬尾まいこ 商品詳細を見る |
体育祭の競技“米袋ジャンプ”をきっかけに付き合うことになった葉山と上村。大学に行っても淡々とした関係の二人だが、一つだけ信じられることがあった。それは、互いが互いを必要としていること。でも人生は、いつも思わぬ方向に進んでいき…。読んだあと、必ず笑顔になれる、著者の魅力がぎゅっと詰まった優しい恋の物語。
高校時代は屈託の塊。暗くて孤独で誰からも嫌われていた葉山。そんな彼を中学時代からひそかに好きだった上村。つきあうようになった二人だが、情熱的な恋人同士とは程遠い淡々とした関係が続き…。
失ってみて初めて気づくことがあり、離れてみてやっと解る大切さがある。回り道をしたとしても、それに気づいた二人には、きっとしあわせな明日が積み重なっていくことだろう。いまを大切にしたいと思わせてくれる一冊である。
ゆくとしくるとし*大沼紀子
- 2012/05/16(水) 16:53:08
![]() | ゆくとし くるとし (2006/11/22) 大沼 紀子 商品詳細を見る |
年末、久しぶりに帰省すると、そこには母と、オカマがいた。そんな予想を覆す我が家の風景に違和感を覚えながらも、閉じこもりがちな感情が、明るくたくましいオカマのお姉さんと、母のいつもと変わらぬ愛で、少しずつ開いていく・・・。第9回坊ちゃん文学賞大賞受賞作。
表題作のほか、「「僕らのパレード」
大沼さんの紡ぎだす物語は、とりたてて派手な出来事はないが、日々の暮らしの些細な引っ掛かりや、胸に抱え込んで凝ってしまった事々をじんわりと温めて溶かすような物語なのだと、この二編を読んで改めて思う。そしてやはり、足りないもののことを嘆くより、手の中にあるものを慈しむ方がずっとずっと満ち足りた心持ちになれるんだよ、と語りかけられているような一冊である。
てのひらの父*大沼紀子
- 2012/05/15(火) 17:08:20
![]() | てのひらの父 (2011/11/16) 大沼紀子 商品詳細を見る |
世田谷区、松陰神社前駅から徒歩15分。女性専用の下宿「タマヨハウス」には、年ごろの三人の女が暮らしていた。弁護士を目指す涼子、アパレルのデザイナーとして働く撫子、そして不条理なリストラに遭い、人生にも道にも迷い続ける柊子。幸せでも不幸せでもない日常を過ごしていた彼女たちだが、春の訪れとともに現れた真面目だけが取り柄の臨時管理人の過干渉によって、少しずつそれぞれの「足りない何か」が浮き彫りになっていく。
表紙は父の葬儀の日の幼い柊子である。わけもわからず黒ずくめの服を着せられ、手近にあった赤い傘を持たされた柊子。父はとっくに家を出ていて、柊子には父の思い出などひとつもないのだった。成長して一見明るく誰とでもうまくやっていける柊子だが、幼い日の境遇から、知らず知らず他人との間に見えない壁を築いてしまうようになったのかもしれない。彼女が暮らす女性だけの下宿・タマヨハウスに、ある事情で管理人のいとこのトモミさんがやってきてから、三人の下宿人たちの日常が少しずつ変わり始める。そして心のなかもわずかずつだが変化していくのだった。強ばったものがほどけるように、冷たく凍ったものが少しずつ溶けるように。足りないものを嘆くのではなく、持っているものにしあわせを見つけることが大切だと気づかせてくれるような一冊である。
仙台ぐらし*伊坂幸太郎
- 2012/05/09(水) 17:08:00
コバルトブルーのパンフレット*赤川次郎
- 2012/05/09(水) 07:28:09
![]() | コバルトブルーのパンフレット―杉原爽香三十七歳の夏 (光文社文庫) (2010/09/09) 赤川 次郎 商品詳細を見る |
カルチャースクールの再建を任された爽香は、トーク番組の司会で人気の高須雄太郎に講師を依頼。このとき爽香はビル清掃係の笠木京子と係りを持つ。彼女の息子、達人が交際相手を殺害。そのとき親子が取った行動とは!?高須、笠木、そして爽香の兄―。問題を抱えたそれぞれの家庭の行く末は…。主人公・杉原爽香が読者とともに年齢を重ねる大人気シリーズ。文庫オリジナル/長編青春ミステリー。
久々に読んだ杉原爽香シリーズである。爽香も37歳になっていたとは、ちょっと驚きである。それにしても、なんて波乱の多い人生なのだろう。しかも、プライベートでもそれ以外でもどこでもいつでも何かしらのトラブルに巻き込まれ続けている。爽香に安らぎの日々は来るのか、それが心配になってしまうほどである。今回も、舞い込んで来たり、自分から首を突っ込んだりして、いくつかのトラブルに巻き込まれながらもなんとか切り抜けるが、人徳に負う部分もかなりあるように思われる。走り続けるといつかパタッと倒れるよ、と爽香に言ってあげたい一冊でもある。
風が笑えば*俵万智 著 奥宮誠次 写真
- 2012/05/06(日) 19:41:52
真夜中のパン屋さん--午前0時のレシピ*大沼紀子
- 2012/05/05(土) 07:16:35
![]() | 真夜中のパン屋さん (ポプラ文庫) (2011/06/03) 大沼紀子 商品詳細を見る |
都会の片隅に、真夜中にだけオープンする不思議なパン屋さんがあった。あたたかい食卓がなくても、パンは誰にでも平等に美味しい。心地良い居場所を見つける物語。
謎多き笑顔のオーナー・暮林と、口の悪いイケメンパン職人・弘基が働くこの店には、
パンの香りに誘われて、なぜか珍客ばかりが訪れる……。
夜の街を徘徊する小学生、ワケありなオカマ、ひきこもりの脚本家。
夜な夜な都会のはぐれ者たちが集まり、次々と困った事件を巻き起こすのだった。
家庭の事情により親元を離れ、「ブランジェリークレバヤシ」の2階に居候することになった
女子高生・希実は、“焼きたてパン万引き事件”に端を発した失踪騒動へと巻き込まれていく…。
期待の新鋭が描く、ほろ苦さと甘酸っぱさに心が満ちる物語。
人気漫画家の山中ヒコ氏が装画を担当
真夜中は得意ではないが、パンは大好きなので、タイトルにまず惹かれた。真夜中、という時点ですでになにやら訳あり感が漂っているが、オーナー・暮林陽介、パン職人・柳弘基をはじめ、ブランジェリークレバヤシに引き寄せられるようにやってくる人たちがみな、ちょっと普通ではない屈託を抱えながらも宥めなだめ生きているのだった。苦く切なくやりきれないことばかりなのだが、弘基――のちには暮林も、そしてこだまも――が作るパンの香ばしい匂いとふっくらとしたあたたかさ、頬張ったときのしあわせ感が、胸に凝るものをほろほろと解かしてくれるのである。独りぼっちで尖っていないで、誰かに頼っていいのだと思わせてくれる一冊である。そして確実においしいパンを食べたくなる。
東雲の途*あさのあつこ
- 2012/05/03(木) 10:49:56
![]() | 東雲(しののめ)の途(みち) (2012/02/18) あさの あつこ 商品詳細を見る |
「弥勒の月」「夜叉桜」「木練柿」に続くシリーズ第4弾! 小間物問屋遠野屋清之介、同心木暮信次郎、そして、二人が引き寄せる事件を「人っていうのはおもしれえ」と眺める岡っ引きの伊佐治。突出した個性を持つ三人が織りなす江戸の巷の闇の物語。川から引き揚げられた侍の屍体には謎の瑠璃石が隠されていた。江戸で起きた無残な事件が清之介をかつて捨てた故郷へと誘う。特異なキャラクターと痺れるキャラクターとが読者を魅了した、ファン待望の「弥勒シリーズ」、興奮の最新作!
今回は、岡っ引き・伊佐治親分の視線で語られる部分が多い。遠野屋と木暮という並の尺度では計れない二人の間にあって、仕える身ながら包み込むような存在である伊佐治の役割は、物語のなかで大きなものだと改めて思わされる。味のある存在である。そして遠野屋清之介が、どうしようもなく背負っている昏い過去とどう折り合いをつけていくかの明るい兆しが見えたような一冊でもある。これからの商人としての清之介と木暮や伊佐治との関係も気になるところである。
しあわせなミステリー
- 2012/04/30(月) 19:46:01
![]() | しあわせなミステリー (2012/04/09) 伊坂 幸太郎、中山 七里 他 商品詳細を見る |
伊坂幸太郎(第5回本屋大賞受賞/第21回山本周五郎賞受賞)、中山七里(第8回『このミス』大賞受賞)、柚月裕子(第7回『このミス』大賞受賞)、吉川英梨(第3回日本ラブストーリー大賞特別賞受賞)ら大人気作家が、“人の死なない"幸せなミステリーをお届けします。伊坂節全開、決して期待を裏切らない超絶人気作家の書き下ろし短篇「Bee」。ラストで想定外の巧妙な仕掛けが炸裂する中山七里の新境地「二百十日の風」、新たな高みに到達した検事・佐方シリーズ、感動の新作「心を掬う」。ドラマ化の女性秘匿捜査官・原麻希シリーズからは子供探偵・原菜月(6歳)が大活躍の「18番テーブルの幽霊」。以上四篇を収録。
死体がごろごろ転がる物語よりも、リラックスして読める一冊である。とは言え、はらはらどきどきは充分に愉しめる。伊坂さんは、一瞬、また壮絶な殺し合い?と思わされるが、今回はさにあらず、である。微笑ましくさえある。ほかはみな初読みの作家さんだったが、どの物語も平穏とは言えないが人は殺されず、ラストに微笑が残るような物語で、心がほんわかする一冊である。
短編復活
- 2012/04/30(月) 08:02:01
![]() | 短編復活 (集英社文庫) (2002/11/20) 赤川 次郎、浅田 次郎 他 商品詳細を見る |
「小説すばる」に掲載されてきた、膨大な数の短編小説を厳選してお届けするアンソロジー。ミステリから恋愛小説、はたまた爆笑ユーモア小説まで、とっておきの16編を集めました。
赤川次郎、浅田次郎、綾辻行人、伊集院静、北方謙三、椎名誠、篠田節子、志水辰夫、清水義範、高橋克彦、坂東眞砂子、東野圭吾、宮部みゆき、群ようこ、山本文緒、唯川恵
圧巻である。著者名を見ただけで、ジャンルも作風も色とりどりで読書欲をそそられる。そしてもちろん、読み始めても予想を裏切られることはない。短編集なので隙間時間に読めるのに、こんなに愉しめていいのだろうか、という一冊である。
キングを探せ*法月綸太郎
- 2012/04/27(金) 17:23:53
![]() | キングを探せ (特別書き下ろし) (2011/12/08) 法月 綸太郎 商品詳細を見る |
奇妙なニックネームで呼び合う4人の男たち。なんの縁もなかった彼らの共通項は“殺意”。どうしても殺したい相手がいる、それだけで結託した彼らは、交換殺人を目論む。誰が誰のターゲットを殺すのか。それを決めるのはたった4枚のカード。粛々と進められる計画に、法月警視と綸太郎のコンビが挑む。
法月警視&綸太郎親子シリーズ。
交換殺人の謎を解く物語である。やたらと順調な滑り出しで、こんなに早くからくりに気づいてしまっていいのだろうか、と思ってしまうほどである。ターゲットを決める際のカードの組み合わせも綸太郎の読みのとおりだったし、全面解決は時間の問題、と思われたが、それほどすんなりと解決には至らないのだった。犯人たちにとっての番狂わせが起きると、、途端に先行きが読めなくなり、物語は俄然おもしろさを増す。父と子の語らいのなかで、謎を解くヒントがアンテナに引っかかるのも微笑ましく興味深い。ずっと続いて欲しいシリーズである。
三匹のおっさん ふたたび*有川浩
- 2012/04/26(木) 14:12:21
![]() | 三匹のおっさん ふたたび (2012/03/28) 有川 浩 商品詳細を見る |
剣道の達人・キヨ、柔道の達人・シゲ、機械をいじらせたら右に出る者なしのノリ。「還暦ぐらいでジジイの箱に蹴り込まれてたまるか!」と、ご近所の悪を斬るあの三人が帰ってきた! 書店万引き、不法投棄、お祭りの資金繰りなど、日本中に転がっている、身近だからこそ厄介な問題に、今回も三匹が立ち上がります。ノリのお見合い話や、息子世代の活躍、キヨの孫・祐希とノリの娘・早苗の初々しいラブ要素も見逃せません。漫画家・須藤真澄さんとの最強タッグももちろん健在。カバーからおまけカットまでお楽しみ満載の一冊です。
三匹のおっさん、相変わらずカッコイイ。三人三様の個性を的確に活かし、でしゃばりすぎず目立ちすぎず、分をわきまえて悪を斬る。おっさんたちの活躍はもちろんだが、彼らの家族の悩みやトラブルが次の行動のきっかけになったり、思いやりが人の心を救ったり。再婚話あり、若者の恋あり、過去の恋心あり、明日を生きる希望あり。人はひとりで生きているわけではない、ということを実感させてくれる一冊である。
ある一日*いしいしんじ
- 2012/04/26(木) 08:23:25
![]() | ある一日 (2012/02/29) いしい しんじ 商品詳細を見る |
こんどこそ生まれてきてくれる――。赤ん坊の誕生という紛れもない奇跡。京都、鴨川にほどちかい古い町屋に暮らす四十代の夫婦のもとに、待ちに待った赤ん坊が誕生する。産みの苦しみに塗りこめられる妻に寄り添いながら、夫の思いは、産院から西マリアナ海嶺、地球の裏側のチリの坑道まで、遠のいてはまた還ってくる。陣痛から出産まで、人生最大の一日を克明に描きだす、胸をゆすぶられる物語。
ある夫婦のある一日がつぶさに描かれている、それだけの物語である。ただ、その一日というのは、やっと授かり、待ちに待った我が子誕生のその日なのである。ほかのどの一日とも際立って違う一日なのである。産む者と生まれ出る者、そしてつきっきりで立ち会う者それぞれの存在のありようが、くっきり別のことではあるのだが、ひとつのことを成し遂げようとする一体感を持って胸に迫るのである。この物語は、この夫婦と生まれる子どもだけのものなのだが、読む者それぞれが、我が身のそのときのことを胸によみがえらせながら、特別な気持ちを抱きつつページを捲る一冊である。
聖女の救済*東野圭吾
- 2012/04/23(月) 19:36:39
![]() | 聖女の救済 (2008/10/23) 東野 圭吾 商品詳細を見る |
男が自宅で毒殺されたとき、離婚を切り出されていたその妻には鉄壁のアリバイがあった。草薙刑事は美貌の妻に魅かれ、毒物混入方法は不明のまま。湯川が推理した真相は―虚数解。理論的には考えられても、現実的にはありえない。
ガリレオシリーズである。
ドラマの、湯川=福山がどうも腑に落ちなくて、それを想定して書かれているような後続作品を読む気になれずにいたのだが、やはり手が出てしまったのだった。福山、柴咲コンビに見えてしまうのは仕方がないとしても、それ以外はさすが東野さんだった。よくこんなトリックを考えついたものである。読み進めるほどに、新たな局面がちらちらと姿を現すので、目が離せなくなる。内海の動物的勘や、草薙の恋(?)心も、物語に面白みを増すスパイスになっている。タイトルも秀逸な一冊である。
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