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老父よ帰れ*久坂部羊

  • 2019/11/20(水) 18:41:32

老父よ、帰れ
老父よ、帰れ
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久坂部羊
朝日新聞出版 (2019-08-07)
売り上げランキング: 33,555

45歳の矢部好太郎は有料老人ホームから認知症の父・茂一を、一念発起して、自宅マンションに引き取ることにした。
認知症専門クリニックの宗田医師の講演で、認知症介護の極意に心打たれたからだ。勤めるコンサルタント会社には介護休業を申請した。妻と娘を説得し、大阪にいる弟一家とも折にふれて相談する。好太郎は介護の基本方針をたててはりきって取り組むのだが……。
隣人からの認知症に対する過剰な心配、トイレ立て籠もり事件、女性用トイレ侵入騒動、食事、何より過酷な排泄介助……。ついにマンションでは「認知症対策」の臨時総会が開かれることになった。
いったい家族と隣人はどのように認知症の人に向き合ったらいいのか。
懸命に介護すればするほど空回りする、泣き笑い「認知症介護」小説。


認知症の親を自宅で介護する大変さの予備知識になる物語である。認知症を患う父親を家で看たいという長男、その家族、遠方に住む弟一家、マンションの住人たち、それぞれの立場や思いは、その立場になって考えれば、それなりにどれも納得できるものであり、だからこそ、いま自分がどの立場に立っているのかで見方が変わってくることもあるだろうと思われる。並々ならない苦労があることはよくわかるのだが、同居する家族の感じ方や、日々の不自由さがいまひとつ伝わってこなかったのが、いささかきれいごとめいて感じられる一因かもしれないとも思う。現実はとても書き尽くせないものであろうことは想像に難くないので、ある程度仕方のないことかもしれないが、認知症介護の表層をさらっと一通り描いた感が拭えないのも確かである。「自分の都合で考えず、患者本位で接すること」という心構えがわかっただけでも収穫かもしれないと思える一冊である。

あの日に帰りたい 駐在日記*小路幸也

  • 2019/11/18(月) 18:19:08

あの日に帰りたい-駐在日記 (単行本)
小路 幸也
中央公論新社
売り上げランキング: 80,475

1971年。元刑事・蓑島周平と元医者・花の夫婦の駐在生活も板についてきた頃。新たな仲間、柴犬のミルも加わりのんびりした生活……と思いきや、相変わらず事件の種はつきないようで――。平和(なはず)の田舎町を、駐在夫婦が駆け回る!


語り口が東京バンドワゴンと似てきているように感じるのはわたしだけだろうか。特に食事の支度をする場面で、色濃く出ているような気がする。それはともかく、雉子宮駐在所の日々は、大方はのんびりしているものの、いざ何か起こると、結構大事になったりするので気が抜けない。だが、どんな事件であれ、住人のことを第一に考え、この先もよりよく生きて行けるように配慮する簑島巡査や花さんの対応が素晴らしい。真相は、当事者と花さんの日記でしかわからないので、読者はお得である。雉子宮に観光客がたくさん来て、町が潤ってほしいと思いはするが、こののどかさは変わらずにいてほしいと願ってしまうシリーズである。

さよならの儀式*宮部みゆき

  • 2019/11/15(金) 19:07:56

さよならの儀式
さよならの儀式
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宮部みゆき
河出書房新社
売り上げランキング: 3,963

「母の法律」
虐待を受ける子供とその親を救済する奇蹟の法律「マザー法」。でも、救いきれないものはある。
「戦闘員」
孤独な老人の日常に迫る侵略者の影。覚醒の時が来た。
「わたしとワタシ」
45歳のわたしの前に、中学生のワタシが現れた。「やっぱり、タイムスリップしちゃってる! 」
「さよならの儀式」
長年一緒に暮らしてきたロボットと若い娘の、最後の挨拶。
「星に願いを」
妹が体調を崩したのも、駅の無差別殺傷事件も、みんな「おともだち」のせい?
「聖痕」
調査事務所を訪れた依頼人の話によれば----ネット上で元〈少年A〉は、人間を超えた存在になっていた。
「海神の裔」
明治日本の小さな漁村に、海の向こうから「屍者」のトムさんがやってきた。
「保安官の明日」
パトロール中、保安官の無線が鳴った。「誘拐事件発生です」なぜいつも道を間違ってしまうのか……


いつものようにボリュームのある一冊ではあるが、短編集なので、気軽に読み始められるのは確かである。物語のテイストは、完全にとは言わないが、かなりSFに傾いている。しかも、後半になるほどその度合いが増していくので、SFがあまり得意でないわたしは、個人的には前半の方が面白く読めた。ただ、設定が現実世界と違ってはいるものの、考えさせられる要素が盛り込まれているので、惹きこまれる部分もあるし、一歩間違えば身近にあってもおかしくない話でもあり、複雑な思いにもさせられる。読みやすい一冊ではある。

薬も過ぎれば毒となる 薬剤師・毒島花織の名推理*塔山郁

  • 2019/11/12(火) 09:37:16


ホテルマンの水尾爽太は、医者から処方された薬を丹念に塗るも足の痒みが治まらず、人知れず悩んでいた。
薬をもらいに薬局に行くと、毒島という女性薬剤師が症状についてあれこれ聞いてくる。
そして眉根を寄せて、医者の診断に疑問を持ち……。
ホテル客室の塗り薬紛失事件に、薬の数が足りないと訴える老人、
痩身剤を安く売る病院など、毒島は薬にまつわる事件や謎を華麗に解決していく!


お仕事小説、薬剤師編、である。しかも薬にまつわるミステリ仕立てで、とても興味深い。薬や薬剤師に関してはまったく知識はないが、それでも興味津々、物語に惹きこまれてしまう。薬剤師の毒島さんのキャラクタと、彼女と親しくなりたいのになかなか思いが伝わらない爽太のキャラクタとが、物語をさらに面白くしているのは間違いない。二人の関係のこれからは、まだまだ簡単には行きそうもないが、もっと続きを、と思わされる一冊である。

クジラアタマの王様*伊坂幸太郎

  • 2019/11/11(月) 16:56:25

クジラアタマの王様
クジラアタマの王様
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伊坂 幸太郎
NHK出版 (2019-07-09)
売り上げランキング: 18,077

製菓会社に寄せられた一本のクレーム電話。広報部員・岸はその事後対応をすればよい…はずだった。訪ねてきた男の存在によって、岸の日常は思いもよらない事態へと一気に加速していく。不可思議な感覚、人々の集まる広場、巨獣、投げる矢、動かない鳥。打ち勝つべき現実とは、いったい何か。巧みな仕掛けと、エンターテインメントの王道を貫いたストーリーによって、伊坂幸太郎の小説が新たな魅力を放つ。


途中に川口澄子氏のイラスト(と言うかマンガ)を挟みながら、不思議な物語が進むのだが、文字だけではうまく想像がつかない部分を、まさに過不足なくイラストが補完してくれていて、荒唐無稽とも言える物語をリアリティのあるものとして愉しめるようになっている。物語自体は、普段わたしたちが知っているのと似た日常――とは言い切れないが――の世界と、アクションゲームのようなパラレルワールドとを行き来して語られる。あちらがこちらで眠った時に見る夢なら、こちらはあちらで眠った時に見る夢のようでもある。どちらの世界が先にあったのかは、はっきりとは判らないが、あちらの三人の戦士とリンクする人物が、こちらの世界でも知り合いになり、普通とは言えない縁を結ぶことになる。ときどき、どちらも夢なのかもしれないという気分になるくらい、繋がり方が絶妙で、段々境目が曖昧になっているような気もしてしまう。あちこちに寄り道しているように見えて、読み終えてみれば、終始一貫した目的に向かっていたのかもしれないとも思わされる。とにかく、先が気になり続ける一冊だった。

楽園の真下*荻原浩

  • 2019/11/08(金) 18:43:06

楽園の真下
楽園の真下
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荻原 浩
文藝春秋
売り上げランキング: 30,412

日本でいちばん天国に近い島といわれる「志手島」は、本土からは船で19時間、イルカやクジラの泳ぐコーラルブルーの海に囲まれ、亜熱帯の緑深い森に包まれている。
そんな楽園で、ギネス級かもしれない17センチの巨大カマキリが発見された。『びっくりな動物図鑑』を執筆中だったフリーライターの藤間達海は、取材のため現地を訪れるが、 志手島には楽園とは別の姿があった。
2年間で12人が、自殺と思しき水死体で発見されており、ネットでは「自殺の新名所」と話題になって「死出島」と呼ばれていたのだ。
かつて妻を自殺で失った藤間は、なぜ人間は自ら命を絶とうとするのかを考え続けており、志手島にはその取材も兼ねて赴いていた。
やがて島で取材を続ける藤間の身の回りでも不審死が……。


タイトルからは想像できない凄まじさである。ゆるりゆるりとした島時間で過ごす島の人たちだが、ここ二年で12人もの自殺者が出るというのは尋常ではない。しかも、涙人湖(るにんこ)という沼のような湖が、決まってその現場なのである。フリーライターの藤間は、17㎝の大カマキリの情報を追って、志手島にやってきたのだが、志手島野生生物研究センターの秋村准教授とともに調査するうちに、とんでもないことが起こっている気配に、調査にも本腰が入る。次々に明らかになる知られざる事実に愕然とし、そんな暇もないほど緊迫した状況になる。島民のゆるりゆるり体質が恨めしくも感じられる。後半は、アクションホラーと言ってもいいような様相を呈し、頭がなかなか起こっていることを受け入れてくれないが、死と隣り合わせであることだけは確信できる。ラストは、一件落着でめでたしめでたし、かと思いきや、またまた不安の種が蒔かれてしまった。実写化されたとしても見たくない一冊である。

臨床真理*柚木裕子

  • 2019/11/05(火) 16:42:03

臨床真理 (このミス大賞受賞作)
柚月 裕子
宝島社
売り上げランキング: 169,012

第7回『このミス』大賞は大紛糾! 選考委員がまっぷたつに分かれ、喧々諤々の議論の末、大賞ダブルの受賞となりました。本作は、臨床心理士と共感覚を持つ青年が、失語症の少女の自殺の真相を追う、一級のサスペンス!「書きたいものを持ち、それを伝えたいという、内なるパトスを感じさせる。醜悪なテーマを正統派のサスペンスに仕立て上げた手腕を、高く評価したい」茶木則雄(書評家)「文章、会話、冒頭のつかみや中盤の展開など、新人とは思えぬ素晴らしい筆力だ。とりわけ人物に危機の迫るサスペンス・シーンが秀逸」吉野仁(書評家)


障碍者施設、さらにはその中の精神障害を持つと診断された青年と少女を取り巻く物語で、素人がなかなかうかがい知ることができない内部が描き出されている印象である。主人公は、自死して搬送される救急車の中で事件を起こした青年・藤木司と、彼を担当する臨床心理士の佐久間美帆。手に負えないと思った司の内面に心から共感するようになるにつれて、障碍者施設で起こっている悪事に気づいていく。真相に近いものは早くから想像がつくが、真実はさらにおぞましく、思わず目をそむけたくなる。これぞイヤミスである。胸の底にどんどん滓がよどんでいくような心地にもなるが、信頼関係の確かさも感じさせられ、厭なばかりではない気分を味わえる一冊でもある。

わずか一しずくの血*連城三紀彦

  • 2019/11/03(日) 13:33:00

わずか一しずくの血
わずか一しずくの血
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連城 三紀彦
文藝春秋
売り上げランキング: 558,773

薬指に結婚指輪をはめた左脚の白骨死体が山中で見つかり、
石室敬三とその娘は、その脚が失踪した妻のものだと確信する。

この事件をきっかけに、日本各地で女性の身体の一部が発見される。
伊万里で左腕、支笏湖で頭部、佐渡島で右手……それぞれが別の人間のものだった。
犯人は、一体何人の女性を殺し、なんのために遠く離れた場所に一部を残しているのか?
壮大な意図が、次第に明らかになっていく。


流れる空気は全体を通して暗く重いものである。時代の負った罪とでもいうようなものを、全身で憎み恨んでしまったひとりの男と、彼の周りで、知ってか知らずかに関わらずその空気に呑み込まれた人たちの復讐劇というような印象である。まるで、日本という国の負の記憶を一身に背負ってしまったかのような悲壮感と、ある種使命感のようなものが、彼を突き動かす原動力になっているとしか思えない。哀しく重苦しく、切なく澱んだものが折り重なったような一冊だった。

ひと*小野寺史宜

  • 2019/10/28(月) 16:42:41

ひと
ひと
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小野寺 史宜
祥伝社
売り上げランキング: 5,148

母の故郷の鳥取で店を開くも失敗、交通事故死した調理師の父。女手ひとつ、学食で働きながら一人っ子の
僕を東京の大学に進ませてくれた母。――その母が急死した。柏木聖輔は二十歳の秋、たった一人になった。
全財産は百五十万円、奨学金を返せる自信はなく、大学は中退。仕事を探さなければと思いつつ、動き出せ
ない日々が続いた。そんなある日の午後、空腹に負けて吸い寄せられた商店街の総菜屋で、買おうとしていた
最後に残った五十円コロッケを見知らぬお婆さんに譲った。それが運命を変えるとも知らずに……。

そんな君を見ている人が、きっといる――。


主人公・聖輔の境遇は、劇的だが、それを除いて、物語は淡々と描かれている。人の縁に恵まれ、自らの判断にも助けられながら、さまざまなものを捨てながらも、それ以上のものを得て生きている聖輔の日々が愛おしくなる。誰かに見せるためでなくても、自分を律し、他人のことを慮って生きている姿に、とても好感が持てる。日々は淡々と過ぎていくように見えるが、確実に何かが積み重ねられているのだと感じられる。もっと他人に頼ればいいのに、と思ってしまうが、それができないところが聖輔であり、それだからこそ今、そしてこれからがあるのかもしれない。頼り合え、支えあえる存在がずっと一緒にいてくれることを願いたくなる一冊である。

ひよっこ社労士のヒナコ*水生大海

  • 2019/10/26(土) 12:32:57

ひよっこ社労士のヒナコ
水生 大海
文藝春秋
売り上げランキング: 117,510

パワハラ、産休育休、残業代、裁量労働制、労災、解雇、ブラックバイト…。新米社労士の朝倉雛子(26歳、恋人なし)が、6つの事件を解決。


ひよっこ社労士の朝倉雛子が、さまざまなクライアントのもとへ駆けつけ、各社の問題点を提起し、改善策をアドバイスしながら、人間関係を観察したり、しがらみに絡めとられそうになったりしながらも奮闘し、成長していく物語である。ヒナコの葛藤を、読者も無理なく共有できるので、同じ目線で共感したり憤ったりする愉しみもある。今後の成長も愉しみな一冊である。

いつかの岸辺に跳ねていく*加納朋子

  • 2019/10/24(木) 07:21:14

いつかの岸辺に跳ねていく
加納 朋子
幻冬舎 (2019-06-26)
売り上げランキング: 137,594

あの頃のわたしに伝えたい。明日を、未来をあきらめないでくれて、ありがとう。生きることに不器用な徹子と、彼女の幼なじみ・護。二人の物語が重なったとき、温かな真実が明らかになる。


前半の「フラット」では護の目線で、後半の「」レリーフ」では徹子の目線で語られている。護目線の物語は、ちょっと変わった幼馴染の徹子を、つかず離れず見守り続ける護が見たものが描かれていて、ごく普通の青春物語といった趣である。だが、徹子の語りに入ると間もなく、それまで見てきたものごとの本質がみるみる立ち現われ、腑に落ちるとともに、徹子の健気さに切なくもなる。徹子の人生に思いをいたす時、徹子の健気さに切なくなり、知らずに涙があふれてくる。だが、ラストでその涙は、あたたかいものに変わるのである。徹子がまいた種は、さまざまな場所で実をつけていると確信できる。切ないが、愛情深い一冊だった。

妻のトリセツ*黒川伊保子

  • 2019/10/22(火) 16:37:56

妻のトリセツ (講談社+α新書)
黒川 伊保子
講談社
売り上げランキング: 186

いつも不機嫌、理由もなく怒り出す、突然10年前のことを蒸し返す、など、耐え難い妻の言動…。ベストセラー『夫婦脳』『恋愛脳』の脳科学者が教える、理不尽な妻との上手な付き合い方。


本来は夫に読ませるために書かれたもののようであるが、妻であるわたしが読んでもうなずける部分が多くある。だが、男性諸氏からは反発も多いだろうな、とは想像できる。あまりにも、妻中心の家庭の在り方なのである。夫のトリセツもあれば、両方を比べてそれぞれに歩み寄れることはあるかもしれない、とも思う。ともあれ、わたし自身、女性なので、納得できることが大部分ではあるのだが、男性脳の部分も結構あることがわかって興味深かった。まあ、ある意味女性を機嫌よくさせておけば、家内安全と言える、ということではあるだろう、という感じの一冊である。

いけない*道尾秀介

  • 2019/10/21(月) 07:34:03

いけない
いけない
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道尾 秀介
文藝春秋
売り上げランキング: 2,206

騙されては、いけない。けれど絶対、あなたも騙される。
『向日葵の咲かない夏』の原点に回帰しつつ、驚愕度・完成度を大幅更新する衝撃のミステリー!

第1章「弓投げの崖を見てはいけない」
自殺の名所付近のトンネルで起きた交通事故が、殺人の連鎖を招く。
第2章その話を聞かせてはいけない」
友達のいない少年が目撃した殺人現場は本物か? 偽物か?
第3章「絵の謎に気づいてはいけない」
宗教団体の幹部女性が死体で発見された。先輩刑事は後輩を導き捜査を進めるが。

どの章にも、最後の1ページを捲ると物語ががらりと変貌するトリックが……!
ラストページの後に再読すると物語に隠された〝本当の真相〟が浮かび上がる超絶技巧。
さらに終章「街の平和を信じてはいけない」を読み終えると、これまでの物語すべてがが絡み合い、さらなる〝真実〟に辿り着く大仕掛けが待ち受ける。感戦したくなること必至の、体験型ミステリー小説。


連作短編として読んでも、それぞれに想像を裏切られる展開が盛り込まれているが、長編として読むと、さらに驚きの結末が待っている。ラストを踏まえて思い返せば、あちこちに穴があることに気づくことができるが、初読では全く想像もしていなかった。だが、すんなりすべての仕掛けに気づけたかと言えば、いまだに気づけていないひっかけが潜んでいるのかもしれないという危惧も抱く。どこまで深読みすればいいのか悩ましくもある一冊である。

無実の君が裁かれる理由*友井羊

  • 2019/10/19(土) 16:38:18

無実の君が裁かれる理由
友井羊
祥伝社
売り上げランキング: 748,578

私が疑いを晴らしてあげる―突然、同級生へのストーカー行為を告発された大学生の牟田幸司。身に覚えはないが、“証拠”を盾に周囲は犯人扱いだ。追い詰められた幸司を救ったのは、冤罪を研究する先輩・紗雪の一言だった。幸司を陥れた“証拠”とは何なのか?調べを進めると、目撃証言や記憶など人間の認知が驚くほど曖昧なものだったことが判明。幸司の疑いは晴れた。真犯人は別にいる、それは誰だ?謎を追う二人の前に、さらなる事件が待ち受けていた!(「無意識は別の顔」)。なぜ冤罪は生まれるのか?人間心理の深奥を暴く!青春&新社会派ミステリー!!


冤罪事件は、身近なところでも案外起こっているのだな、というのがまず初めの印象である。そんな、身の回りで起こる冤罪から、実際に裁かれて刑が確定してしまった冤罪まで、大学生の主人公・牟田が巻きこまれながら、先輩・紗雪のアシスタント的な立ち位置で解き明かしつつ、彼女の抱える屈託をもほぐしていくことになる。人の記憶の不確かさや、思い込みの恐ろしさにも、改めて気づかされる。興味深い一冊だった。

窓の外を見てください*片岡義男

  • 2019/10/16(水) 18:45:29

窓の外を見てください
片岡 義男
講談社
売り上げランキング: 213,662

デビューしたばかりの青年作家・日高は、勝負の2冊目執筆のため、かつて親しかった3人の美女を訪ねようと思い立つ。その間にも、創作の素材となる出会いが次々に舞い込んできて…。小説はどのように発生し、形になるのか。めぐり逢いから生まれる創造の過程を愉しく描く。瑞々しい感性を持つ80歳の“永遠の青年”片岡義男、4年ぶりの最新長篇。


いま自分は、小説を読んでいるのか、それとも作中の小説を読んでいるのか、はたまた、作中作の中の小説を読んでいるのか……。ふと判らなくなって、元来た道を引き返して、角から来し方をのぞいてみたくなるような物語である。どこまでが現実であり事実であるのか、どこからが物語であり虚構であるのか。裏の裏は表ではなく、めくればめくるほど別の地平に立っていることに気づくような。きわめて日常的であるにもかかわらず重層的で、なんとも不可思議な一冊である。