モモコとうさぎ*大島真寿美

  • 2018/04/21(土) 08:45:59

モモコとうさぎ
モモコとうさぎ
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大島 真寿美
KADOKAWA (2018-02-01)
売り上げランキング: 277,571

働くって、生きるってどういうことだろう―。モモコ、22歳。就活に失敗して、バイトもクビになって、そのまま大学卒業。もしかして私、世界じゅうで誰からも必要とされてない―!?何をやってもうまくいかなかったり、はみだしてしまったり。寄るべない気持ちでたゆたうように生きる若者の、云うに云われぬ憂鬱と活路。はりつめた心とこわばった躰を解きほぐす、アンチ・お仕事小説!


家庭の事情には複雑なものがあったが、それ以外には大学まで躓かずにやってきたモモコだったが、就職活動にことごとく失敗し、自分は世界中から必要とされていないのではないかという強迫観念にさいなまれ、引きこもってちくちくと縫物ばかりしている日々。そして不意に思い立っての家出。初めは友人知人に頼りつつ、暗~く生きていたが、触れ合う人たちから次第に掃除の腕を買われ、仮の居場所を得ていく。だが、そことて終の棲家とは言えず、モモコは自分の居場所を探し続けるのである。彼女にいつも寄り添うのは、かつての母のパートナーの連れ子である姉がくれた不思議なうさぎ。うさぎ同士が同期して不思議な力を持つようになるという。ときおり、あちこちにいるうさぎたちが話し合っていたりはするが、彼らがあまりうまく生かされていないような印象でいささか残念な気はする。結局、モモコの行く末は、いまだに茫漠としてはいるが、家出した当初から比べると、得るものがたくさんあったようには思える。母や家族に翻弄されず、これからはモモコとしての人生を生きていってほしいと思わせる一冊である。

風神の手*道尾秀介

  • 2018/04/17(火) 16:55:31

風神の手
風神の手
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道尾秀介
朝日新聞出版 (2018-01-04)
売り上げランキング: 32,495

彼/彼女らの人生は重なり、つながる。
隠された“因果律(めぐりあわせ)"の鍵を握るのは、一体誰なのかーー

遺影専門の写真館「鏡影館」がある街を舞台にした、
朝日新聞連載の「口笛鳥」を含む長編小説。
読み進めるごとに出来事の〈意味〉が反転しながらつながっていき、
数十年の歳月が流れていく──。
道尾秀介にしか描けない世界観の傑作ミステリー。

ささいな嘘が、女子高校生と若き漁師の運命を変える――心中花
まめ&でっかち、小学5年生の2人が遭遇した“事件"――口笛鳥
死を前にして、老女は自らの“罪"を打ち明ける ――無常風
各章の登場人物たちが、意外なかたちで集う ――待宵月


登場人物ひとりひとり、エピソードのひとつひとつにまったく無駄がない。力士が塩をまくようにばらまかれた要素が、見事なまでに拾い集められ、知りたかったことがすべて明らかにされる。だからと言って窮屈さはまったくなく、ストーリー展開も興味津々で読む手が止まらない。風が生まれるところを見たような心地にさせてくれる一冊である。

駒子さんは出世なんてしたくなかった*碧野圭

  • 2018/04/15(日) 10:41:05

駒子さんは出世なんてしたくなかった
碧野 圭
キノブックス (2018-02-28)
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水上駒子42歳。出版社で働く管理課課長。専業主夫の夫と高校生の息子あり。平穏な毎日に突然降りかかった昇進辞令。社内をかけめぐる噂と悪口、足を引っ張る年上の部下、女を使うことも厭わない同性ライバル…セクハラ・パワハラの横行する男社会をかいくぐり、駒子はどんな明日をつかむのか!?痛快お仕事小説!


出世欲はさほど強くないものの、出版社の管理課で課長を務める駒子さんが主人公である。家には、専業主婦の夫と息子がいて、日々はとてもうまく回っていると疑わなかったが、社内のセクハラ問題の後始末的な人事異動に始まり、駒子さん自身の昇進と新部署立ち上げという目の回る忙しさに加え、夫がカメラマンの仕事を再開することになって、家庭内にも不協和音が響き始める。あっちもこっちも、うまくいかないことだらけ。とは言いながらも、立ち止まってはいられない。人脈や熱意や、開き直りも駆使しつつ乗り越えていくことになるのである。掛け違った歯車にどこで気づき、どれだけ迅速に修正するかでその後の展開が変わってくるというのが伝わってくる。完璧な人間なんかどこにもいないのだから、頼り頼られながら、一歩ずつ前へ進めばいいのだ、と思わせてくれる一冊でもある。

ノーマンズランド*誉田哲也

  • 2018/04/14(土) 07:48:05

ノーマンズランド
ノーマンズランド
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誉田哲也
光文社
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またしても同僚の殉職を経験し、心身に疲弊の残る姫川玲子が入ったのは、葛飾署管内で起こった若い女性の殺人事件捜査本部。しかし、事件の背後にはもっと大きな事件が蠢いている気配があった……。あらゆる伝手を辿り、玲子が摑んだ手がかりとは!?


冒頭では、過去の女子高生失踪事件に至るまでの日々と、現在の警察の様子が並行して描かれる。どうつながっていくのか興味を惹かれつつ読み進めると、とんでもない事実が浮かび上がってくる。しかも、別件の捜査に行き詰まり、裏にはなにやら胡乱な動きがあるようなのだ。現在の事件の捜査が、過去の事件とつながり、点が少しずつ線になり、全体像が現れると思いきや、手の届かないところへ行ってしまう。姫川玲子の動向や、元姫川班の面々との関わりにも興味を惹かれる。その暴走ぶりや、男社会では「これだから女は……」と言われかねない不安定さや弱さがそのまま描かれているのも、姫川の魅力のひとつだろう。日下との関係が、これまでにない展開になったのも、今後の愉しみのひとつかもしれない。凄惨な場面は正直言って得意ではないが、このシリーズは読み続けたいと思わせる一冊である。

犬とペンギンと私*小川糸

  • 2018/04/12(木) 16:29:23

犬とペンギンと私 (幻冬舎文庫)
小川 糸
幻冬舎 (2017-02-07)
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女子四人組で旅したインドでは、ヨガとカレー三昧。仕事で訪れたパリでは、お目当てのアップルパイを求めて一人お散歩。旅先で出会った忘れられない味と人々。でも、やっぱり我が家が一番!新しく家族の一員になった愛犬と“ペンギン”の待つ家で、パンを焼いたり、いちじくのジャムを煮たり。毎日をご機嫌に暮らすヒントがいっぱいの日記エッセイ。


そもそもが日記なのだから、何が書いてあろうと文句を言う立場にはないのだ。それと知って読んでいるのだからなおさらである。でも、最初から最後まで、何となく置き去りにされた感が否めず、人の暮らしを覗き見て、ふんふんとうなずく愉しみは、残念ながら得られなかった。まったく勝手な感想だということは重々承知である。単に相性があまり良くなかったということなのかもしれないが、時折イラっとさせられる一冊ではあった。

さよなら、わるい夢たち*森晶麿

  • 2018/04/10(火) 16:43:06

さよなら、わるい夢たち
森 晶麿
朝日新聞出版 (2018-02-20)
売り上げランキング: 180,106

〈日本悪夢すぎるだろ。待機児童って何だよ、待機してんのは俺たち家族な〉
〈出てったよ。もう疲れました、だってよ。〉
〈嫁帰ってこない。詰んだな。〉

ジャーナリストの長月菜摘は、
学生時代の友人・薄井麻衣亜の夫のSNSから、彼女が幼い息子を連れて家庭を捨てたことを知る。
夫も、両親も、友人も、同僚も、彼女が消えた理由を知らないというが、
誰もが麻衣亜を失踪に駆り立てるだけの要因を持っていた――。

現代女性が背負わされた、見えない「重荷」の正体を抉りだす、
本格社会派ミステリー。
アガサ・クリスティー賞受賞作家の新境地!


読み進めるにしたがって、少しずつ印象が変わってくる物語である。失踪した友人の行方を捜す高校時代の友人のジャーナリスト菜摘の懸命さがクローズアップされる前半から、失踪した麻衣亜とその家庭の事情の救いのなさに胸を締め付けられる中盤。そして、次第にさまざまな事情が明らかになるにつれて、かすかに苛立ちを覚え始める後半からラストにかけては、だんだんと厭な気分が募ってくる。何かとんでもないものに振り回されたような心地の一冊である。

そのバケツでは水がくめない*飛鳥井千砂

  • 2018/04/08(日) 13:36:15

そのバケツでは水がくめない
飛鳥井千砂
祥伝社
売り上げランキング: 84,040

アパレルメーカー「ビータイド」に勤める佐和理世は、自らが提案した企画が採用され、新ブランド「スウ・サ・フォン」の立ち上げメンバーに選ばれた。そんなある日、カフェに展示されていたバッグのデザインに衝撃を受けた理世は、その作者・小鳥遊美名をメインデザイナーにスカウトする。色白で華奢、独特の雰囲気を纏う美名の魅力とその才能に激しく惹かれる理世。社内でのセクハラ事件をきっかけに二人の距離は一気に縮まるが、やがてその親密さは過剰になっていく…。


理世が主役のお仕事ものがたりという趣で始まる物語である。だが、kotoriこと小鳥遊美名というデザイナーと電撃的に出会い、仕事上のパートナーであり、ともだちでもあるという関係になってから、次第に空気が変わってくる。表面上は穏やかで静かでやわらかいのだが、ちょっとした隙間にふと入り込み、チクリと針の跡を残していくような気分になることがあり、次第に気のせいでは片づけられなくなっていく。真綿で首を絞められるような、じわじわと追い込まれる恐怖がリアルに描かれていて、他人事とは思えないほど怖くなる。距離を置いて眺めれば誤らない判断が、渦中にいると、アリジゴクに引きずり込まれるようにはまってしまう恐ろしさをじわじわ味わわされる一冊である。

御子柴くんと遠距離バディ*若竹七海

  • 2018/04/06(金) 20:37:10

御子柴くんと遠距離バディ (中公文庫)
若竹 七海
中央公論新社 (2017-12-22)
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長野県警から警視庁へ出向中の御子柴刑事。すっかり東京のペースにも慣れ、刑事としても中堅どころになり、わりあい平穏な日々を送っていた。だが、その油断がたたったのか、年末押し迫ってから行く先々で事件にぶちあたり、さらには凶刃に倒れてしまう! 相棒の竹花刑事は御子柴の死を覚悟するが……。シリーズ第二弾は波瀾の幕開け。


御子柴くん、相変わらず、厄介事引き寄せ体質全開である。しかも、大したことではないと思われている些細なきっかけが、続々と事件を発覚させ、さらには解決へと導いていってしまうのだから、もっと尊重されてしかるべきだと思うのだが、どうしたわけか、いいように使われている感が拭えない(実はそうでもないのかもしれないが……)。バディである竹花刑事と、今回は遠距離での絡みだったが、それでも信頼関係がうかがえて、思わずうれしくなった。ラストでは、次作につながる嬉しい仄めかしもあるので、さらに楽しみである。御子柴くんにはくれぐれも躰を大切にしてもらいたいと思うシリーズである。

緑の庭で寝ころんで*宮下奈都

  • 2018/04/03(火) 16:27:18

緑の庭で寝ころんで
緑の庭で寝ころんで
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実業之日本社 (2018-01-26)
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ふるさと福井で、北海道の大自然の中で、のびやかに成長する三人の子どもたち。その姿を作家として、母親として見つめ、あたたかく瑞々しい筆致で紡いだ「緑の庭の子どもたち」(月刊情報誌「fu」連載)4年分を完全収録。ほかに、読書日記、自作解説ほか、宮下ワールドの原風景を味わえるエッセイ61編、掌編小説や音楽劇原作など、単行本初収録の創作5編も収載。本屋大賞『羊と鋼の森』誕生前夜から受賞へ。そしてその後も変りなくつづく、愛する家族とのかけがえのない日々。著者充実の4年間のあゆみを堪能できる、宝箱のようなエッセイ集!
地元の新聞社が月に一度発行する情報誌『fu』に、二〇一三年からエッセイを連載してきた。「緑の庭の子どもたち」という、子どもたちがテーマの文章だ。本になるとは思っていなかったので、ずいぶんリラックスして書いている。寝ころんで読んでもらえるくらいでちょうどいいなと思う。読んでくれた方の夢も、きっといつのまにか叶っているに違いない。これはしあわせのエッセイ集なのだ。 (「まえがき」より)


どのページを開いても、宮下さんのお人柄の魅力がほとばしり出てくる。彼女の目が見つめるもの、彼女の心が受けとめる事々、なにからなにまでに著者の慈しみがあふれていて、心が洗われるようである。愛と信頼がぎゅっと詰まった一冊である。

意識のリボン*綿矢りさ

  • 2018/04/01(日) 18:17:22

意識のリボン
意識のリボン
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綿矢 りさ
集英社
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少女も、妻も、母親も。
女たちはみんな、このままならない世界をひたむきに生きている。

迷いながら、揺れながら、不器用に生きる女性たち。
綿矢りさが愛を込めて描く、八編の物語。


表題作のほか、「こたつのUFO] 「ベッドの上の手紙」 「履歴のない女」 「怒りの漂白剤」 「声の無い誰か」

エッセイなのか小説なのか、一読判断がつかないようなテイストの物語たちである。作家の葛藤のようなものも書かれているが、それも著者の胸の裡とは限らない。だからこその小説の愉しみだとも言える。その辺りにあれこれ想像をめぐらすのもまた愉しい。本作に描かれている女性たちの生き方は、一般的なものとは思えないが、彼女たちの生きづらさはよく伝わってくる。なかなか興味深い一冊ではある。

花ひいらぎの街角*吉永南央

  • 2018/03/30(金) 18:28:35

花ひいらぎの街角 紅雲町珈琲屋こよみ
吉永 南央
文藝春秋
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北関東の小さな町で、珈琲豆と和食器の店「小蔵屋」を
営むおばあさん、お草さん。
彼女の周囲にあたたかく描かれる人間の営み、日常に
ふと顔をのぞかせる闇が読むものをグイグイ引き込む大人気シリーズ第6弾。

秋のある日、草のもとに旧友の初之輔から小包が届く。中身は彼の書いた短い小説に、絵を添えたものだった。
これをきっかけに、初之輔と再会した草は、彼の苦しかった人生を元気づけるために、彼の短編を活版印刷による小本に仕立て贈ることにした。この本を作るために小さな印刷会社と関わり、個人データに遭遇。行き詰まる印刷会社を助けることに。草の働きによって、印刷会社周辺の人々の記憶までもが明るく塗りかえられてゆく。


お草さんの優等生過ぎないキャラクタが相変わらず好ましい。悟りすましておらず、人間臭くて、失敗することも後悔することも日々数えきれないほどあり、それでも周りの人たちや、小蔵屋の客たちに解決のヒントをもらい、助けられて、前向きに気分を立て直して生きている。そんな姿に親近感を覚える。今回も、厄介ごと満載だが、愉しみなことや心躍ることもたくさんあり、お草さんの毎日は忙しい。久美ちゃんのこれからのこともあれこれ気になる。次作ではそのあたりも何か進展があるといいな、とひそかに思う。読むたびに小蔵屋を訪れてみたくなるシリーズである。

キラキラ共和国*小川糸

  • 2018/03/26(月) 16:46:20

キラキラ共和国
キラキラ共和国
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小川 糸
幻冬舎 (2017-10-25)
売り上げランキング: 4,863

ツバキ文具店は、今日も大繁盛です。夫からの詫び状、憧れの文豪からの葉書、大切な人への最後の手紙…。伝えたい思い、聞きたかった言葉、承ります。『ツバキ文具店』待望の続編。


今回は、代書屋さんの物語よりも、鳩子の私生活によりスポットが当てられていたように思う。代書の仕事ももちろんあるのだが、新しく家族になった、ミツローさんやQPちゃんのこと、お隣のバーバラ婦人やご近所さんたちとのあれこれ、そして、鳩子の産みの母のことなどが描かれていて、さらに次につなげるための物語のようでもある。代書の仕事に関しては、一件一件に心が込められていて、軽い気持ちではできないことがうかがい知れる。ただ、我が身に当てはめて考えてみると、なにからなにまでおまかせで、内容さえも知らずに出す手紙には、いささか抵抗がある。ことに、初めてのときにお任せするのは勇気が要りそうである。ツバキ文具店と守景一家がこれからどうなっていくのか愉しみなシリーズではある。

屍人荘の殺人*今村昌弘

  • 2018/03/24(土) 18:34:51

屍人荘の殺人
屍人荘の殺人
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今村 昌弘
東京創元社
売り上げランキング: 970

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け―。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった…!!究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?!奇想と本格ミステリが見事に融合する選考委員大絶賛の第27回鮎川哲也賞受賞作!


密室謎解きミステリとしては面白いのだが、ゾンビが出てきた段階で――たとえそれなくしてはトリックが成立しないとしても――、昂揚感がすっと引いてしまった――個人的な好みの問題なのだが――のが、残念でならない。なにかもっと、現実に起こる可能性が高い設定にしてくれたら、もっと愉しめたのだろうと思うと、ゾンビが必要不可欠な要素だからと言っても、がっかり感がぬぐえない。感染症まではいいが、それをゾンビにする以外なんとかしようがなかったものかと思ってしまう。評判が高いだけに、個人的にはいささか腑に落ちない一冊になってしまった。

雪子さんの足音*木村紅美

  • 2018/03/22(木) 18:49:24

雪子さんの足音
雪子さんの足音
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木村 紅美
講談社
売り上げランキング: 6,672

東京に出張した薫は、新聞記事で、大学時代を過ごしたアパートの大家・雪子さんが、熱中症でひとり亡くなったことを知った。
20年ぶりにアパートに向かう道で、彼は、当時の日々を思い出していく。
人間関係の襞を繊細に描く、著者新境地の傑作!
第158回芥川賞候補作。


いまどき珍しい、店子と距離を近く取りたがる月光荘の大家の雪子さんを、大学生だった薫は、ある意味いいように利用しながら、次第に鬱陶しく面倒くさく思うようになり、若さゆえもあり、相手の思惑を思いやることもできずに、突き放すようにして引っ越してしまったのだった。社会人になった彼は、新聞の片隅に、雪子さんの死亡記事を見つけ、出張帰りに月光荘の前まで行ってみることにした。そこまでの道筋で思い返したあの日々の物語である。大家の雪子さんと、湯佐薫、そして、もうひとりの住人で薫と同い年の女性・小野田さんとの、ちょっぴり不思議な関係が、ある角度から見ると微笑ましくもあり、別の角度から見ると互いに依存しすぎにも見えて、登場人物それぞれの気持ちが判るだけに、やり切れなくもある。心の窪みを何かで埋めたいという欲求がお互いを縛り合っているようにも見え、三人ともが少しだけ不器用だったのかもしれないとも思う。ほんの少しの違いで、まったく別の関係性が築けたかもしれないと思うと、もったいないような気もする。懐かしいような、切なく哀しいような、さまざま考えさせられる一冊である。

映画化決定*友井羊

  • 2018/03/20(火) 16:37:58

映画化決定
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友井 羊
朝日新聞出版 (2018-01-04)
売り上げランキング: 153,615

放課後の教室でナオトが落とした一冊のノートを拾ったのは、同級生の天才画家監督・ハル。彼女はそこに書かれたマンガのネームを見て、言った。これをわたしに撮らせてほしい。創作者としてぶつかり合いつつ、ナオトは徐々にハルに惹かれていく。しかし―涙とサプライズのせつない青春小説。


そのまま実写化できそうな物語である。全編に映画作りのあれこれがふんだんにあふれているし、ぶつかり合いやのめり込みようも含めて、高校生たちの情熱が漲っている。そして、その裏に流れる切なさが、ただがむしゃらなだけではない悲哀をも表わしていて、涙を誘われること間違いない。ハルとナオト、そして杏奈や乙羽さんたちそれぞれの想い、ナオトが抱える屈託と、ハルの事情。さまざまな要因が絡み合って、象徴的なラストへと向かう。――のだが、それだけで終わらず、その先にひと捻りあるところがミソである。人の心の純粋さや、やさしい嘘の哀しさに想いを致す一冊である。