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代理母、はじめました*垣谷美雨

  • 2021/04/18(日) 07:29:20


義父の策略で、違法な代理母出産をさせられた17才のユキ。命がけで出産したにもかかわらず、報酬はすべて義父の手に。再び代理母をさせ稼ごうとする義父の手から逃げだし、ユキは自らの経験を逆手に取り、自分のような貧しい女性を救う大胆な〈代理母ビジネス〉を思いつく。ユキを支えるのは医師の静子&芽衣子のタッグと、ゲイのミチオ&一路。さまざまな事情を抱えた「子どもを持ちたい」人々が、最後の砦としてユキたちを頼ってやってくるが……日本の生殖医療の闇、貧困層の増大、妊娠・出産をめぐる負担など、現代日本が放置した社会問題を明るみにしながら、「代理母」ビジネスのタブーに切り込んだ問題作。


表紙からは、もっと軽くコミカルな感じの物語を想像したのだが、いきなり悲惨な現状が目の前に展開していて驚いた。主人公のユキの年齢に比しての無知さも気になる。義父に都合のいいように言いくるめられて代理母を引き受けてしまうなんて、16歳としてはあまりにも自分のことも世間のことも知らなすぎるのではないか。題材はとても興味深く、知らないことも多かったが、いささか都合よく進み過ぎの感が否めず、しかも結局、代理母たちは実情を偽っていたりするのが腑に落ちないところもある。社会においての女性の立場を少しでも良くしたいという思いはとても伝わってくるので、疑問符も浮かびながら共感する点もたくさんあった一冊である。

短編宇宙

  • 2021/04/16(金) 16:24:32


最近、夜空を見上げていますか? 個性豊かな人気作家陣が「宇宙」をテーマに描くのは、無限の想像力がきらめく七つの物語。石垣島を旅する父娘に、コロナ禍でステイホーム中の天文学者。銀河を舞台に戦う殺し屋に、恋する惑星!? じんわり泣ける家族小説から、前衛的SF作品まで、未知との遭遇を約束する傑作アンソロジー。鬱屈した日々に息苦しさを覚えたら、この一冊とともに、いざ宇宙へ!


加納朋子「南の十字に会いに行く」  寺地はるな「惑星マスコ」  深緑野分「空へ昇る」  西島伝法「惑い星」  雪舟えま「アンテュルディエン」  宮澤伊織「キリング・ベクトル」  川端裕人「小さな家と生きものの木」

宇宙が主題の物語たちなのだが、扱い方はそれぞれで興味深い。割と普通のストーリーだと思っていると、唐突に宇宙感が出てきたり、まるっきり宇宙が舞台なのにも関わらず人間の営みのようだったり、遠い宇宙と自分の身の回りを知識と想像力とで行ったり来たりしていたり。さまざまな宇宙を愉しめる一冊だった。

日没*桐野夏生

  • 2021/04/14(水) 16:13:58


小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いの行く末は――。


これ以上ないと思われる絶望の果てには、信じられないがさらなる絶望が待っている。そんな気鬱に苛まれながら読み進んだ。日常の些細な悩みや葛藤と、何とかつき合いながら、普通に暮らしている小説家のマッツ夢井のもとにある日届いたブンリンからの召喚状。不審に思いながらも、ちょっと行ってくるか程度の心構えで出向いた先は、療養所跡に作られた矯正施設だった。理不尽に塗れ、抗い、打ちのめされ、考え、想像をめぐらし、何とか生き延びようと抵抗を試みる姿に、きっとどこかから手が差し伸べられるはず、とわずかな希望を抱きながらなおも読み進む。だが――。ここまで極端でなくても、現代社会において、その兆しが全くないかと問われたら、自信をもってないとは答えられない。それが、得体の知れない怖さを助長している。叫び出したくなるような一冊である。

スープやしずくの謎解き朝ごはん 心をつなぐスープカレー*友井羊

  • 2021/04/12(月) 13:36:10


「スープ屋しずく」のシェフ・麻野がこしらえるスープにかかれば、お客の心も不思議な謎もあっという間にほぐれます!
リモート会議中に同僚がつぶやいた「人参がワープした……」という言葉の謎や、閉店を決めた洋食店「えんとつ軒」店主の真意など、
思わずスープが食べたくなる、美味しくて優しい書き下ろし連作短編全5話収録。


なんとシリーズ六6作目だという。1作目以降読んでいなかったのだが、時間の流れはあるものの、一話完結なので、愉しむのには何の支障もない。見た目にはシンプルだが、丁寧な下ごしらえによって、地味深く奥行きのある味わいのさまざまなスープが文字で味わえるのも変わらない魅力である。麻野の謎の解きほぐし方と相まって、お腹の底が温まる心地になれる一冊でもある。

パリ警察1768*真梨幸子

  • 2021/04/10(土) 18:38:52


人に潜む闇を、どぎついまでに見せつけ さらに待ち受ける衝撃の結末。 あなたの知らない真実。 革命直前のパリを舞台にした 繊細で大胆なミステリー。


1768年のパリで起きた騒動は、18年前に起きた事件を思い起こさせ、どちらの渦中にも登場するサド侯爵と彼の周りの人々のことが改めて思い起こされる。それらをめぐるあれこれを探る、マレー警部やほかの警察官の出自や育ちにまで物語は及ぶ。現在からは全く想像ができない18世紀のパリの風物も興味深く、眉を顰めたくなるようではあるが、犯罪も、その環境に影響される部分も多くあったのかもしれないと思ったりもする。現代のミステリとは全く別の読み解き方を示された一冊でもあるかもしれない。

カラット探偵事務所の事件簿3*乾くるみ

  • 2021/04/07(水) 16:25:09


「謎解き専門」を謳うカラット探偵事務所。父親の墓に人知れず花を供える怪しい墓参者の正体を追う「秘密は墓場まで」事件、「謎を〝作ってほしい″」という不思議な依頼に挑む「遊園地に謎解きを」事件など、日常に潜む些細な謎や奇妙な謎を、所長の古谷と助手の井上が鋭い推理で解き明かす! ミステリの名手による大人気シリーズ、8年振りの最新作にして待望の第三弾。


最後までこの設定は貫き通すのか、とは思ったが、それがあればこその面白さもまたあるので、良しとする。でも、完結してしまいそうな感じの終わり方なのがいささか残念である。カルテットで探偵事務所をやってくれてもいいのに。謎解きは、例によって、ふとしたきっかけによる閃きがヒントになり、何度見ても見事だが、謎解き専門の探偵事務所にやってくる依頼者のバラエティにも驚かされる。いたるところに謎はあるのだ。そして、ホームズとワトソンばりに、事件の記録を小説にまとめている助手の井上だが、かなり年月を要しており、それがまた妙な具合に本作を面白くしているのだから困ってしまう。もっと二人を見ていたいシリーズである。

ノゾミくん、こっちにおいで*水生大海

  • 2021/04/05(月) 12:25:16


「ノゾミくん、こっちにおいで」海のそばで合わせ鏡を作り、そう唱えるとノゾミくんがやってきて願いを叶えてくれるのです――。そんな都市伝説が、若者たちの間で流れていた。 高校教師の遠山逸子は、教え子である古滝克己と恋愛関係にある。ある日、克己の妹の美咲とその友人の由夢がノゾミくんに願いを掛けにいく。だが、願いが叶ったかに思われていた由夢が、「のぞみくんにころされる」というメッセージを残し、屋上から落下。さらなる犠牲者も増えていき……。 ノゾミくんの正体は何なのか、連鎖する呪いは解けるのか――。 衝撃のラストが待ち受けるホラーミステリ―。


前半はミステリ風味が強かったのだが、次第に人もたくさん死に、ホラーテイストが増してきて、読むのをちょっぴり躊躇したりもした。都市伝説が生まれる現場に立ち会うことなど滅多にないと思うが、それがどうやって生まれ、巷に広まっていくのかということの一端を垣間見たような気分である。もともと悪意のあるものではなくても、人の口に乗るたびに少しずつ都合のいいように意訳され、大元の願いとは全くかけ離れたものになることもある。「友だちの友だちから聞いたんだけど」というたぐいの話を、無闇に広めることの恐ろしさが胸に迫ってくるようである。合わせ鏡が怖くなる一冊でもある。

悪の芽*貫井徳郎

  • 2021/04/04(日) 16:24:05


犯人は自殺。無差別大量殺人はなぜ起こったのか?
世間を震撼させた無差別大量殺傷事件。事件後、犯人は自らに火をつけ、絶叫しながら死んでいった――。元同級生が辿り着いた、衝撃の真実とは。現代の“悪”を活写した、貫井ミステリの最高峰。


アニメコンベンション・通称アニコンの会場で火炎瓶や刃物による無差別殺人事件が起こり、犯人はその場で焼身自殺した。ニュースを見た安達は、犯人が小学校の同級生ではないかと思う。しかも、自分が身勝手な意趣返しで、悪意のあるあだ名をつけたばかりに、その後虐められて不登校になった同級生である。悔恨の念と罪悪感から逃れたい思いがせめぎ合うなかで、安達はパニック障害を起こし休職することになる。そして、犯人・斉木のことを調べ始める。斉木のしたことは、どんな理由があっても許されることではないが、安達の行動も、どちらかといえば保身のようにも見えてしまい、もやもやした思いは拭い去れない。登場人物それぞれが、結局は自分のことしか考えていないようで、(人間なんてそんなものかもしれないが)誰にも感情移入はできない。斉木を犯行に駆り立てたものの正体を、突き止めたようでありながら、本当のところはたぶん本人にもはっきり判ってはいなかったのではないだろうか。悪の芽がいつ芽生えたかよりも、その芽をどう育ててしまったかを考えなければならないような気がする。最後には小さな善の芽も芽生える兆しを見せたが、それですべて良しとはならない一冊である。

麦本三歩の好きなもの 第二集*住野よる

  • 2021/04/03(土) 07:26:18


後輩、お隣さん、合コン相手ーー 三歩に訪れる色んな出会い 図書館勤務の20代女子・麦本三歩の あいかわらずだけどちょっと新しい日々 住野よるが贈る、心温まる日常小説シリーズ 待望の最新刊!


相変わらずの三歩である。身近にいたらイラっとさせられることが多そうだが、これほどでなくても、実際にありそうなこともたくさんあって、共感できるところもあり、職場の図書館では、なんだかんだ言っても愛されキャラである。先輩や、今回できた後輩に守られながら、それに甘んじることなく、自分の失敗に落ち込み、(次に生かされるかどうかは別として)反省し、前向きに努力しようとする姿勢には好感が持てる。その頑張りは、他人から見ればまだまだ足りないかもしれないが、三歩にとっては死に物狂いなのだということも伝わってきて、応援したくなる。少しずつ大人になっていく三歩をもっと見たいシリーズである。

毒をもって毒を制す 薬剤師・毒島花織の名推理*塔山郁

  • 2021/04/01(木) 07:23:13


薬剤師の毒島さんは、薬にまつわる不思議な出来事をまるで名探偵かのように鮮やかに解決する。アルコール依存症の男性が急に「酒がまずくなった」と言い出したのはなぜ? 赤ん坊のための様々な薬を、あまりにも頻繁に薬局に取りに来る若い母親。彼女の真の目的は? いつものように鮮やかな推理を見せる毒島さんだったが、しかし彼女のもとにも新型コロナウイルスの影が忍び寄っていた。毒島さんに憧れるホテルマン・爽太が、仕事中高熱を出した同僚と濃厚接触したとして、ホテルに隔離されたのである。そして、それを機にホテル従業員が相次いで高熱を出し……。


今回も毒島さんの知識と熱意のおかげで、いくつもの事案が解決される。2021年1月に出版されているので、まさに、全世界がコロナ禍に騒然とし始めたころに書きはじめられたものと思われ、まだ未知の恐ろしさに満ちていて、対処法が模索されつつあるころを想起させられる舞台設定でもあるので、ストーリーの本筋とは別の興味もある。とはいえ、毒島さんと爽太の関係は、ほぼ進展せず、毒島さんの気持ちがなかなか読めないのがもどかしくもある。次作では少しは進展してほしい気もするが、どうなることだろう。さらなる毒島さんの活躍が愉しみなシリーズである。

そこに工場があるかぎり*小川洋子

  • 2021/03/30(火) 18:33:34


作家小川洋子氏による、おとなの工場見学エッセイ。
あのベストセラー『科学の扉をノックする』の工場版ともいえる本です。
幼いころから変わらぬ小川さんの好奇心と工場愛がじわじわ心にしみて、
今、日本のものづくりに携わる人々と、繊細で正確な数々の製品のこと、
あなたもきっと、とても愛おしく思うようになるでしょう!
<目次>
細穴の奥は深い (エストロラボ<細穴屋>)
お菓子と秘密。その魅惑的な世界 (グリコピア神戸)
丘の上でボートを作る (桑野造船)
手の体温を伝える (五十畑工業)
瞬間の想像力 (山口硝子製作所)
身を削り奉仕する (北星鉛筆)


小川さんが作った本だなぁ、という感じである。見学する工場のチョイスから、見学中の目のつけ所まで、著者の知りたい欲求にあふれていて、まるで自分が工場内を歩いて見学しているような気分になる。物を作るみなさんの熱さも伝わってきて、出来上がったものが愛おしく思えるようにもなる。愉しい見学ができた一冊である。

国道食堂 2nd season*小路幸也

  • 2021/03/28(日) 18:33:00


小田原を抜けてしばらく経った頃、国道沿いに元プロレスラーが営む「ルート517」という店が見えてくる。
ドライブインというより、大衆食堂というのにピッタリなため、「国道食堂」という名もある。
この店の食事は、どれも美味しいが、ちょっと変わっているのは、プロレスのリングがあること。
さまざまな人々が集うこの店には、偶然か運命のいたずらか、とんでもないことが起きることがあって……。
好調シリーズの続篇刊行!


読み始めてしばらくは、前作の人間関係があやふやだったりもしたが、読み進めるうちに思い出してきて、そうだったそうだった、と懐かしい人たちに会えたような気分になった。山の中の田舎の学校の校舎を小さくしたような食堂で、こんなにも多彩な出会いと繋がりが生まれて、どんどん広がっているなんて、誰が思うだろうか。広いようで世間は狭い(都合よく狭すぎる気がしなくもないが、そこは敢えておいておく)。きっとそれは、十一さんを初めとして、国道食堂に集まってくる人たちが、お互いのことが好きで、それぞれに思いやっているからこそのことなのだろう。基本的に悪人が出てこない著者の物語だが、たまに心根の曲がった人が出てきたとしても、単純に排斥しないところが著者らしい。世界がこうだったら、どんなにか生きやすいだろうと思う。まだまだこの先を知りたくなるシリーズである。

ワンさぶ子の怠惰な冒険*宮下奈都

  • 2021/03/27(土) 07:46:52


北海道トムラウシの山村留学から福井に帰ってきた宮下家。当時、子供たちの妄想犬だった白い柴犬ワンさぶ子が家族の一員に。三人の子供たちは、大学生高校生中学生となり、思春期真っ只中。それぞれが自分の道を歩き始めていく。しなやかに自由を楽しむ、宮下家五人と一匹の三年間の記録。


「いいなぁ、宮下家」と随所で思わされる、ほのぼのと心温まるエッセイである。個人的に作家さんのエッセイはちょっと苦手なのだが、川上弘美さんと宮下奈都さんは別である。エッセイを読むとさらに小説作品が好きになる。ちょっとしたエピソードが素敵すぎて、折々に胸が熱くなり、目の前がぼやけるので、ちょっと困るほどである。読み終えるのがもったいなく、今後も折に触れ手続きをお願いしたいと切に願う一冊である。

スタッキング可能*松田青子

  • 2021/03/26(金) 07:29:10


“あなた”と“私”は入れ替え可能?小さかろうがなんだろうが希望は、希望。


いままで慣れ親しんできた小説とはひと味違うテイストである。表題作では、主人公がすべてアルファベットの匿名で、同じビルの別々の階で働く人々、という設定である。読み始めは、それぞれのつながりを探そうとしていたが、間もなくそれがまったく無駄なことであることに気づかされる。頭の中で映像化してはいけない物語である。読み続けると、なんだかそこにいるのが自分でなくても一向に構わない心地にさせられて、虚しささえ感じ、辛く投げやりな気持ちになる反面、ちょっぴり気が楽になったりもする。表題作以外も、なんというか、とても実験的な印象がある。不思議な読後感の一冊だった。

土曜はカフェ・チボリで*内山純

  • 2021/03/24(水) 16:14:29


児童書の出版社に勤める香衣は、とあるきっかけで“カフェ・チボリ”を訪れ、常連客となる。美味しい料理とあたたかなもてなしに毎回すっかりくつろいで、常連客たちは、身の回りで起こった謎について語り始める。それらはいずれも『マッチ売りの少女』や『人魚姫』などアンデルセン童話を彷彿とさせる出来事で―。「皆さん、ヒュッゲの時間です」高校生店主のレンが優雅にマッチを擦ると、謎は瞬く間に解かれてゆく。土曜日だけ営業する不思議なカフェでの安楽椅子探偵譚。


「マッチ擦りの少女」  「きれいなあひるの子」  「アンデルセンのお姫様」  「カイと雪の女王」

登場人物たちの年齢や境遇、立場もさまざまで、出会い方もちょっと変わっている。そして、何よりいちばん変わっているのは、物語の舞台となるカフェ・チボリである。営業日然り、立地然り、店の設え然り、メニュー然り。何よりマスターが高校生の男の子なのである。そこに持ち込まれるちょっと変わった謎を、常連客達がそれぞれの立場で推理し、解き明かす。それがきっかけになって、ますますきずなが深まっていくのである。チボリのマスターレンの一族の経緯も興味深く、一話完結の連作ながら、すべて流れがつながったひとつの物語としても愉しめる。ぜひシリーズ化してほしい一冊である。