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ショートショート千夜一夜*田丸雅智

  • 2019/01/16(水) 16:43:44

ショートショート千夜一夜
田丸 雅智
小学館
売り上げランキング: 31,073

多魔坂神社へようこそ―祭りの夜に集うのは、妖しの屋台とおかしな客たち。


多魔坂神社の祭りの夜を軸として、その場所や、そこに集う者たちや物たちにまつわる、奇妙で不思議な物語の数々である。ほんの短い物語に込められたものは存外濃く奥深いものでもある。文句なく愉しめる一冊である。

水曜日の手紙*森沢明夫

  • 2019/01/15(火) 18:53:48

水曜日の手紙
水曜日の手紙
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森沢 明夫
KADOKAWA (2018-12-07)
売り上げランキング: 14,237

会うことのないあなたへ――最小で最高の奇蹟をお届けします。

家族が寝静まった夜更け、日課として心の毒をこっそり手帳に吐き出していた井村直美は、そんな自分を変えたいと夢を叶えた理想の自分になりかわって空想の水曜日をしたため、「水曜日郵便局」に手紙を出す。一方、絵本作家になる夢を諦めた今井洋輝も婚約者のすすめで水曜日の手紙を書いていた。会うことのない2人の手紙は、やがてそれぞれの運命を変えていき――。『夏美のホタル』『虹の岬の喫茶店』の著者が贈る、ほっこり泣ける癒やし系小説!

水曜日郵便局とは……
水曜日の出来事を記した手紙を送ると、かわりに知らない誰かの日常が綴られた手紙が届くという、一週間に一度・水曜日だけ開くちょっと不思議なプロジェクト。


ちょっとしたきっかけで水曜日郵便局を知った人たちが、胸にたまった思いを便せんにしたため、水曜日郵便局に送り、同じような見知らぬ誰かの手紙を受け取ったことがきっかけで、少しだけ気持ちの持ちようが前向きになって、一歩前に踏み出せるようになるまでの物語である。そして、人々の心を受けとめる水曜日郵便局で働く人とその家族の物語も添えられていて、さらに胸があたたかくなる。これまでの作品で見知ったあれこれもちょこちょこと出てきて、思わず頬が緩む。バタフライ効果のように、前向きな気持ちが伝染していくのが目に見えるようで、嬉しくなる一冊である。

春は始まりのうた マイ・ディア・ポリスマン*小路幸也

  • 2019/01/14(月) 16:26:05

春は始まりのうた マイ・ディア・ポリスマン
小路幸也
祥伝社
売り上げランキング: 153,076

夜空に浮かぶのは、満開の桜と……白いお化け!? 〈東楽観寺前交番〉に赴任して三年目の巡査・宇田巡(うためぐる)。彼のもとに幼馴染みで音楽事務所社長の市川公太がやってきて、白い化け物にでくわし荷物をとられたと言う。じつは似た訴えはこれで三件目、巡は捜査を開始する。一方、巡 の彼女で、伝説の掏摸(すり)の孫にしてマンガ家デビューをしたばかりの楢島あおいは、高校の卒業式の帰りに巡を見張っている男がいることに気づく。身許を確かめようとしたところ、その男の懐にあったのは何と警察手帳だった……。 犯罪者が〝判る〟お巡りさん、伝説の掏摸の血を受け継ぐ美少女マンガ家、 超絶記憶を誇る兄弟……そして、新たな凄ワザメンバーが登場!? 面白さ倍増で贈る、キュートでハード(?)なミステリー!


今回も、ほのぼのとしているようで、国家を揺るがす一大事がバックにあったりして侮れない。どうしてこの町のこの地域にだけ、これほど特殊な技能の持ち主が集まってしまったのかという疑問は於くとして、みんな根っこがいい人たちなのである。かなり物騒なことに関わりあってはいるものの、日々はいたってのどかに繰り広げられており、巡とあおい、行成と杏菜も順調に前に向かっているようでほほえましい。この町にいる限り、何が起きても大丈夫な気がするシリーズである。

熱帯*森見登美彦

  • 2019/01/11(金) 21:28:54

熱帯
熱帯
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森見 登美彦
文藝春秋
売り上げランキング: 1,547

汝にかかわりなきことを語るなかれ――。そんな謎めいた警句から始まる一冊の本『熱帯』。
この本に惹かれ、探し求める作家の森見登美彦氏はある日、奇妙な催し「沈黙読書会」でこの本の秘密を知る女性と出会う。そこで彼女が口にしたセリフ「この本を最後まで読んだ人間はいないんです」、この言葉の真意とは?
秘密を解き明かすべく集結した「学団」メンバーに神出鬼没の古本屋台「暴夜書房」、鍵を握る飴色のカードボックスと「部屋の中の部屋」……。


なんと頭がぐるぐるする物語であろうか。佐山尚一著の『熱帯』という一冊の本を巡る物語であることは確かなのだが、この本の実態が全くと言っていいほどつかめない。しかも、『千一夜物語』という果てない夢の中にまで迷い込み、これらの二冊が互いに入れ子のようになっているようでもある。現実世界にいたかと思うと、あっという間に物語世界に取り込まれ、自分がいまどこにいて何を見ているのかを度々見失いそうになる。物語は結末を迎えるが、『熱帯』という謎は解かれることがあるのだろうか。何もかも終わったようでいて、その実、ここが始まりなのかもしれないとさえ思わされる。壮大なようでもあり、極めて狭いようでもある不思議な一冊である。

雨上がり月霞む夜*西條奈加

  • 2019/01/08(火) 08:54:44

雨上がり月霞む夜 (単行本)
西 條奈加
中央公論新社
売り上げランキング: 37,799

大坂・堂島で紙油問屋を営んでいた上田秋成は、一帯を襲った火事ですべてを失い、幼なじみの雨月が結ぶ庵のもとに寄寓して、衣食を共にするようになった。ところがこの雨月、人間の言葉で憎まれ口を叩く「遊戯」と呼ばれる兎を筆頭に、「妖し」を惹きつける不思議な力を持っており、二人と一匹の前に、つぎつぎと不可解な事象が振りかかるが――。
江戸時代中期の読本『雨月物語』に材を取った、不穏で幻想的な連作短編集。


言ってみれば『雨月物語』誕生秘話なのだが、それだけではない奥深さがある物語である。人の心というものの不可思議さ、異世界の者とこの世の者との関わり方、見えざる者とのふれあい、などなど、現実離れした事々も多いのだが、それらを大きく包み込んで受け容れられてしまうのである。秋成の屈託と雨月の憂いがそれぞれに切なくて、ぐんぐん惹きこまれていくのだが、最後にこんな風にひとつになるとは……。切ないながらも喜ぶべきことなのだろうと自分を納得させる一冊でもある。

会社を綴る人*朱野帰子

  • 2019/01/04(金) 21:06:05

会社を綴る人
会社を綴る人
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朱野 帰子
双葉社
売り上げランキング: 12,659

何をやってもうまくできない紙屋が家族のコネを使って就職したのは老舗の製粉会社。
唯一の特技・文を書くこと(ただし中学生の時にコンクールで佳作をとった程度)と
面接用に読んだ社史に感動し、社長に伝えた熱意によって入社が決まったと思っていたが――
配属された総務部では、仕事のできなさに何もしないでくれと言われる始末。
ブロガーの同僚・榮倉さんにネットで悪口を書かれながらも、紙屋は自分にできることを探し始める。
一方、会社は転換期を迎え……?会社で扱う文書にまつわる事件を、
仕事もコミュニケーションも苦手なアラサー男子が解決!?
人の心を動かすのは、熱意、能力、それとも……?
いまを生きる社会人に贈るお仕事小説。


面白い構成の物語である。物語の大部分で、ほとんどの人が仮名なのである。なぜかというと、会社の暗黒部分をブログにアップしている同僚の榮倉さんが、つけた名前だからである。主人公の紙屋(仮名)は、劣等感の塊であり、実際に何をやらせてもまともにできない。唯一できることといえば、文章を綴ることくらいなものである。優秀な商社マンの兄のコネで製粉会社に入った紙屋は、周りに迷惑をかけながらも、自分に正直に文章を綴り続ける。タイトルを見ると、創業時からの社史編纂に関わる物語を想像してしまうが、紙屋が書くのは、社内メールや工場の安全標語、営業部のプレゼン資料や広報誌にのせるコラムの添削など、日常の業務のほんの一端である。それでも、紙屋の与えられた仕事に真摯に向き合う姿は、少しずつ周囲の見方を変えていく。真面目なのはいいことだ、正直に生きるのは素晴らしいことだ、と思わされる。自分は何もできないと自覚したうえで、これならできると思えたことに真摯に向かう姿は人の胸を打つ。紙屋の正直さが、社内の人間関係や、日々の在り方にまで影響を及ぼす様子を見ると、なぜかほっとする。紙屋(本名・菅谷大和)のことをもっと知りたいと思わされる一冊だった。

ギリギリ*原田ひ香

  • 2019/01/03(木) 19:18:10

ギリギリ
ギリギリ
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原田 ひ香
KADOKAWA/角川書店 (2015-09-30)
売り上げランキング: 781,094

女性管理職として仕事に没頭する瞳。前夫の一郎太が過労死した寂しさをまぎらわすかのように、同窓会で再会した脚本家の卵の健児と再婚した。瞳と健児のもとには、一郎太の母親や不倫相手から細々と連絡があり、相談に乗ったり、一郎太の不在を嘆いたりしている。ある日、瞳はゴミ箱のなかから健児が書いた脚本の草稿を見つけ、自分が選んだ道に疑問を感じるようになるが…。


瞳の心情と健児の心情が交互に語られる。大切な人を亡くしたり、脚本家としてなかなか芽が出ない不甲斐なさを抱えていたり、お互いに頼りあってはいるが遠慮もある瞳と健児である。そこに、亡くなった前夫・一太郎の母の静江さんの存在や、一太郎の不倫相手だったという冴子さんの存在が入り込んできて、さらに素直なだけではいられなくなるのだった。何となく流れで再婚してしまったが、どことなく危うい地盤の上に立っているような不安定さが始終つきまとっていて、読む者にもどかしさを感じさせる。互いに必要としているのに素直になり切れず、かといって、はっきり問いただすこともできずに抱え込んだものは、日々積もり積もってはけ口をなくすのである。二人が前に進むには、こうするしかなかったのだろうか。切なさの残る解決でもある。とはいえ、思わず苦笑してしまうこともあったりして、軽快に読める一冊ではある。

花咲小路三丁目北角のすばるちゃん*小路幸也

  • 2018/12/31(月) 20:27:08

花咲小路三丁目北角のすばるちゃん
小路 幸也
ポプラ社
売り上げランキング: 61,261

たくさんのユニークな人々が暮らし、日々さまざまな事件が起きる花咲小路商店街。
にぎやか商店街の裏には、真っ赤なシトロエンが看板代わりの駐車場<カーポート・ウィート>があるのです。
若社長・すばるちゃんが営むカーポートを訪れるのはいろんな車。ときには厄介ごとも乗せてきて――


花咲小路シリーズ、今回は、三丁目北角の赤いシトロエンが目印の駐車場の若き経営者・すばるちゃんが主人公。母は、すばるちゃんが生まれてすぐに出ていき、父は病気で亡くなり、その後育ててくれた祖父も亡くなって、ひとりになってしまったが、花咲小路商店街の人たちに見守られて、恙なく暮らしている。赤いシトロエンは、すばるちゃんの住まいであるとともに、亡くなった父の魂が宿り、カーラジオを通じて話ができる、という秘密も載せているのだった。花咲小路のエピソードはこれまでにもさまざまな人たちを主役に繰り広げられてきたが、その度に、花咲小路商店街の絵地図に色をつけていくような気持になった。今回もまた違う一角に新しい色を塗れて、絵地図がどんどん生き生きしてくるようでうれしくなる。人は、ひとりで生きているようでも、周りの人たちに見守られているのだと実感する一冊でもある。

アリバイ崩し承ります*大山誠一郎

  • 2018/12/30(日) 16:30:52

アリバイ崩し承ります
大山 誠一郎
実業之日本社
売り上げランキング: 8,337

美谷時計店には、「時計修理承ります」だけでなく「アリバイ崩し承ります」という貼り紙がある。「時計にまつわるご依頼は何でも承る」のだという。難事件に頭を悩ませる捜査一課の新米刑事は、アリバイ崩しを依頼する。ストーカーと化した元夫のアリバイ、郵便ポストに投函された拳銃のアリバイ、山荘の時計台で起きた殺人のアリバイ…7つの事件や謎に、店主の美谷時乃が挑む。あなたはこの謎を解き明かせるか?


捜査一課の新米刑事の僕は、腕時計の電池を交換してもらおうと、商店街の時計店に入った。そこには、時計修理や、電池交換のほかに、「アリバイ崩し承ります」という貼り紙が。若い女性店主・時乃が、成功報酬五千円でアリバイを崩してくれるという。ちょうど担当している事件のアリバイ崩しに行き詰っていた僕は、アリバイ崩しを頼んでみることにする。頼りない男性としっかり者の女性という組み合わせには、特に目新しさはない。しかも、キャラクタがいささか弱い印象でもある。シリーズ化されて練れてくると違ってくるのかもしれないとも思う。アリバイはあっけなく崩れるが、その後の謎解きは面白く読んだ。次があることを期待したい一冊ではある。

ブロードキャスト*湊かなえ

  • 2018/12/28(金) 16:54:05

ブロードキャスト
ブロードキャスト
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湊 かなえ
KADOKAWA (2018-08-23)
売り上げランキング: 5,965

町田圭祐は中学時代、陸上部に所属し、駅伝で全国大会を目指していたが、3年生の最後の県大会、わずかの差で出場を逃してしまう。その後、陸上の強豪校、青海学院高校に入学した圭祐だったが、ある理由から陸上部に入ることを諦め、同じ中学出身の正也から誘われてなんとなく放送部に入部することに。陸上への未練を感じつつも、正也や同級生の咲楽、先輩女子たちの熱意に触れながら、その面白さに目覚めていく。目標はラジオドラマ部門で全国高校放送コンテストに参加することだったが、制作の方向性を巡って部内で対立が勃発してしまう。果たして圭祐は、新たな「夢」を見つけられるか―。


なんと学園ドラマである。陸上部の描写という、タイトルから想像したのとは全く違う始まり方をしたが、信じがたい出来事のせいで、タイトルの流れに戻ってきた。圭祐は、正也に放送部に誘われなければ、ひき逃げ事故で足を怪我するという自分の不運を呪い続け、高校三年間ずっと立ち直れなかったかもしれないと思うと、中学時代から圭祐の声の良さに目をつけてくれていた正也には、いくら感謝してもし足りないかもしれない。放送部という、一見地味な文化部の実際の活動を知ることができたのも興味深い。みんな、それぞれの場所で熱意をもって日々を過ごしているのだと、改めてじんとする。熱意を持ち続けて、若者たち、と思わず応援したくなる一冊でもある。

夫婦で行く東南アジアの国々*清水義範

  • 2018/12/27(木) 16:56:26

夫婦で行く東南アジアの国々 (集英社文庫)
清水 義範
集英社 (2018-01-19)
売り上げランキング: 219,400

熟年夫婦の旅行の楽しみ方を知り尽くしている清水夫妻。舞台は、大人気の東南アジア! 歴史あり、夫婦のほんわかエピソードなど、根強い人気を誇る旅エッセイシリーズ最新作。


これはもう純然たる旅行記である。著者流の捻った視点からの感想などを期待したのだが、それはなく、真っ直ぐな旅行記である。東南アジアの国々のさまざまな場所でさまざまな文化に触れ、それが紹介されているのだが、なんと最も印象に残ったのは、食べるものが口に合わなかったということである。自分もアジア系の料理が得意ではないので、苦笑しつつ読んだ。期待とはいささか違った一冊だった。

ドッペルゲンガーの銃*倉知淳

  • 2018/12/25(火) 19:22:08

ドッペルゲンガーの銃
倉知 淳
文藝春秋
売り上げランキング: 174,939

女子高生ミステリ作家(の卵)灯里は、小説のネタを探すため、
警視監である父と、キャリア刑事である兄の威光を使って事件現場に潜入する。
彼女が遭遇した奇妙奇天烈な三つの事件とは――?

・密閉空間に忽然と出現した他殺死体について「文豪の蔵」

・二つの地点で同時に事件を起こす分身した殺人者について「ドッペルゲンガ-の銃」

・痕跡を一切残さずに空中飛翔した犯人について「翼の生えた殺意」

手練れのミステリ作家、倉知淳の技が冴えわたる!
あなたにはこの謎が解けるか?


謎解きよりも何よりも、まず設定に目を惹かれる。警視監の息子で警部補だが、陽だまりのタンポポのようにのほほんとしている大介と、高校生ながらミステリ作家の卵の灯里(あかり)のコンビが、不可解で不思議で謎に満ちた事件現場に赴き、関係者から事情を聴いて謎解きをするのである。だがそれだけではなく、実際謎解きをするのは、また別の人物(?)であり、あまりにも無理やり感満載であるにもかかわらず、なんかあるかも、と思わせてしまうのが著者のキャラクタづくりの妙なのかもしれない。ともかく、不可思議な事件の謎は解かれ、警視庁での大介の株は上がるのだから、文句はない。愉しく読める一冊である。

夏を取り戻す*岡崎琢磨

  • 2018/12/23(日) 10:53:24

夏を取り戻す (ミステリ・フロンティア)
岡崎 琢磨
東京創元社
売り上げランキング: 83,749

これは、もうすぐ二十一世紀がやってくる、というころに起きた、愛すべき子供たちの闘いの物語。―不可能状況下で煙のように消え去ってみせる子供たちと、そのトリックの解明に挑む大人の知恵比べ。単なる家出か悪ふざけと思われた子供たちの連続失踪事件は、やがて意外な展開を辿り始める。地域全体を巻き込んだ大騒ぎの末に、雑誌編集者の猿渡の前に現れた真実とは?いま最も将来を嘱望される俊英が新境地を切り拓く、渾身の力作長編。ミステリ・フロンティア百冊到達記念特別書き下ろし作品、遂に刊行!


小学4年生の子どもたちが考えたこととは思えない出来事の連続だった。初めは単純に、子どもらしい動機からだと思って読み始めたが、ほどなく、なにかもっと深い理由が隠されているのではないかと思い始めた。城野原団地の内と外(傘外)との確執や、雑誌記者の佐々木と城野原との関わり、キャンプで起きた哀しい出来事、などなどが絶妙に絡み合い、事実が単純には見えてこないのも興味をそそられる。当事者の子どもたちが、意外過ぎるほど深刻にいろんなことを考えていることにも驚かされ、また、大人もその気持ちをないがしろにはできないと思い知らされる。ラストは、明るい未来を感じさせられるものになっていて、ほっとした。ほんの短い期間の出来事とは思えないほど濃密な内容の一冊だった。

書店ガール 7*碧野圭

  • 2018/12/20(木) 18:42:18

書店ガール7 旅立ち (PHP文芸文庫)
碧野 圭
PHP研究所
売り上げランキング: 44,194

中学の読書クラブの顧問として、生徒たちのビブリオバトル開催を手伝う愛奈。故郷の沼津に戻り、ブックカフェの開業に挑む彩加。仙台の歴史ある書店の閉店騒動の渦中にいる理子。そして亜紀は吉祥寺に戻り…。それでも本と本屋が好きだから、四人の「書店ガール」たちは、今日も特別な一冊を手渡し続ける。すべての働く人に送る、書店を舞台としたお仕事エンタテインメント、ついに完結!


本シリーズも完結か、と思って読むと、ほんとうにいろいろなことがあったものだなぁという感慨が押し寄せてくる。ただひとつ、最初から最後まで変わらないのは、書店員たちの本に対する愛情である。ただ、活字離れが叫ばれ、紙の本の需要も減り、さらにはネット書店の台頭で、町の本屋さんの閉店が相次ぐ昨今、経営者サイドからすれば、本への愛情だけでやっていけるものでもないという事情もよくわかる。それでもやはり、最後の最後まで、お客様と共にある空間のために、情熱を注ぐのも書店員なのだろう。愛奈、彩加、理子、亜紀それぞれにスポットが当てられてはいるが、やはり理子の章の読み応えが群を抜いている。「ネットで買うのは作業だけど、本屋で買うのは体験」という言葉が印象に残る一冊だった。

ボーダレス*誉田哲也

  • 2018/12/19(水) 07:30:11

ボーダレス
ボーダレス
posted with amazlet at 18.12.18
誉田 哲也
光文社
売り上げランキング: 102,907

なんてことのない夏の一日。でもこの日、人生の意味が、確かに変わる。教室の片隅で、密かに小説を書き続けているクラスメイト。事故で失明した妹と、彼女を気遣う姉。音大入試に失敗して目的を見失い、実家の喫茶店を手伝う姉と、彼女との会話を拒む妹。年上の彼女。暴力の気配をまとい、執拗に何者かを追う男。繋がるはずのない縁が繋がったとき、最悪の事態は避けられないところまで来ていた―。


著者の作品で、このタイトルなので、もっと凄惨な場面が多く出てくる物語なのかと思ったが、思ったほどではなかった。とはいえ、登場人物たちが恐ろしい思いをしたことは確かである。初めは、なんの関係もなさそうな四組の物語が交互に語られ、それぞれに興味深いのだが、どうつながっていくのかと思い始めたころ、ドミナンという喫茶店に登場人物たちが偶然に引きき寄せられるように集まってきて、わくわくどきどきする。その後の展開は、ややこじつけ感がなくもないが、それぞれにお互いの大切さを再認識し、きずなを深める結果になったのはよかったと言える。お嬢さまはどうなったのだろう。何気ない日常の一歩先にも、何が待ち構えているかわからない、と思わされる一冊でもあった。