わたしの忘れ物*乾ルカ

  • 2018/06/20(水) 16:40:02

わたしの忘れ物
わたしの忘れ物
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乾 ルカ
東京創元社
売り上げランキング: 479,553

中辻恵麻がH大学生部から無理矢理に紹介された、大型複合商業施設の忘れ物センター―届けられる忘れ物を整理し、引き取りに来る人に対応する―でのアルバイト。引っ込み思案で目立たない、透明なセロファンのような存在の私に、この仕事を紹介したのはなぜ?なぜこんな他愛のない物を引き取りに来るの?忘れ物の品々とその持ち主との出会い、センターのスタッフとの交流の中で、少しずつ心の成長を遂げる恵麻だが―。六つの忘れ物を巡って描かれる、じんわりと心に染みる連作集。


妻、兄、家族、友、彼女、そして私、という六つの忘れ物の物語である。大型商業施設の喧騒から離れた先の、スタッフオンリーかと思ってしまうような通路を曲がったところにある忘れ物センターが物語の舞台である。中辻恵麻は、母の介護のために休職中の係長の穴埋めのために、成り行きで半ば無理やりにここでアルバイトすることになったのである。舞台や設定からは、何やら小川洋子めいた匂いがするし、ガラクタにしか見えない忘れ物たちに、見えない価値を見つけ出す水樹さんや橋野さんも、いささか謎めいていて、興味を惹かれる。忘れ物を取りに訪れる人たちにもそれぞれ生活があり、さまざまなものを抱え込んでいて、そんなその人だけの価値を知ることにも心惹かれる。だが、それだけでこの物語は終わらない。恵麻の忘れ物の物語が解き明かされるとき、いままでの不思議が氷解し、あたたかい涙とともに流れ出してくるのである。遅くなくてよかった、と恵麻に行ってあげたくなる一冊である。

スイート・ホーム*原田マハ

  • 2018/06/18(月) 16:40:24

スイート・ホーム
スイート・ホーム
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原田 マハ
ポプラ社 (2018-03-08)
売り上げランキング: 53,860

香田陽皆(こうだ・ひな)は、雑貨店に勤める引っ込み思案な二十八歳。
地元で愛される小さな洋菓子店「スイート・ホーム」を営む、腕利きだけれど不器用なパティシエの父、
明るい「看板娘」の母、華やかで積極的な性格の妹との四人暮らしだ。
ある男性に恋心を抱いている陽皆だが、なかなか想いを告げられず……。(「スイート・ホーム」)
料理研究家の未来と年下のスイーツ男子・辰野との切ない恋の行方(「あしたのレシピ」)、
香田一家といっしょに暮らしはじめた〝いっこおばちゃん〟が見舞われた思いがけない出来事(「希望のギフト」)など、
稀代のストーリーテラーが紡ぎあげる心温まる連作短編集。


タイトルそのままの物語である。あまりにも理想的すぎると言われればその通りではあるが、素直な気持ちで読めば、心の奥から洗われる心地になること請け合いである。故郷の町を、そこに住む人たちを、そして何より我が家を大切にいとおしく思う気持ちにあふれていて、こちらまであたたかい気持ちになる。とはいえ、暮らしていく中には、いろいろと悩みも出てくるのだが、それさえも、周りの人たちのひと言や、ちょっとしたおせっかいで解決していく。人と人との程よい距離感がたまらない。やさしい気持ちになれる一冊である。

僕と彼女の左手*辻堂ゆめ

  • 2018/06/16(土) 19:28:15

僕と彼女の左手 (単行本)
辻堂 ゆめ
中央公論新社
売り上げランキング: 393,713

「明日から私の家庭教師をしてください」幼い頃遭遇した事故のトラウマで、医者の夢が断たれた僕。そんな時に出会ったのは、左手でピアノを奏でる不思議な子・さやこだった。天真爛漫な彼女にいつしか僕は恋心を抱くようになるが、同じ時間を過ごせば過ごすほど、彼女の表情は暗くなっていく。彼女はいったいどんな事情を抱え、僕のところへきたのだろうか。その謎が解けたとき、僕らはようやく最初の一歩を踏み出すことができる―。繊細な心理描写&精密なミステリを融合した、辻堂ゆめの傑作!


幼いころ列車の脱線事故に遭い、壮絶な体験をし、さらに父を亡くしたことがトラウマになっている医大生の時田習と、清家さやこが出会う場面で、既にさやこの思惑は想像がついたが、それからのことは、思いもよらないことが多かった。事実がひとつずつ明らかにされるたびに、ひとつずつ腑に落ち、さらに二人を応援したくなる。ひとりではだめでも、二人なら乗り越えられることもあるだろう。哀しい過去の記憶を上回るくらいたくさんの幸せが二人にあることを祈りたくなる一冊である。

つながりの蔵*椰月美智子

  • 2018/06/15(金) 09:54:29

つながりの蔵
つながりの蔵
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椰月 美智子
KADOKAWA (2018-04-27)
売り上げランキング: 177,937

祖母から母、そして娘へ。悩める少女たちに伝えたい感動の命の物語。
41歳の夏、同窓会に誘われた遼子。その同窓会には、蔵のあるお屋敷に住むの憧れの少女・四葉が来るという。30年ぶりに会える四葉ちゃん。このタイミングで再会できるのは自分にとって大きな一歩になるはず――。
小学校5年生のある夏。放課後、遼子と美音は四葉の家でよく遊ぶようになった。広大な敷地に庭園、隠居部屋や縁側、裏には祠、そして古い蔵。実は四葉の家は幽霊屋敷と噂されていた。最初は怖かったものの、徐々に三人は仲良くなり、ある日、四葉が好きだというおばあちゃんの歌を聞きに美音と遼子は遊びに行くと、御詠歌というどこまでも悲しげな音調だった。その調べは美音の封印していた亡くなった弟との過去を蘇らせた。四葉は、取り乱した美音の腕を取り蔵に導いて――。
少女たちは、それぞれが人に言えない闇を秘めていた。果たしてその心の傷は癒えるのか―。輝く少女たちの物語。


41歳の遼子の現在から物語は始まり、同窓会に誘われたことで、小学校5年生の頃の遼子と美音、四葉の日々へとつながっていく。彼女たちにとって、その先の人生の見え方が変わるような、かけがえのない時だったことが伝わってくる。三人それぞれが抱える苦悩や試練も、あの日があったからこそ乗り越えてこられたのかもしれない。そして、同窓会当日、三人が再開したところで物語は幕を閉じる。その先の彼女たちのおしゃべりを聞いてみたい気がするが、そこは読者それぞれが、物語を想像するための余白なのだろう。ちょっぴり怖くて、清らかで、じんわりあたたかい一冊だった。

玉村警部補の巡礼*海堂尊

  • 2018/06/14(木) 16:36:14

玉村警部補の巡礼
玉村警部補の巡礼
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海堂 尊
宝島社
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累計1000万部突破『チーム・バチスタの栄光』シリーズに登場する“加納&玉村"コンビが、お遍路道中で難事件を解決!
休暇を利用して八十八箇所を巡拝する四国遍路に出た玉村警部補。
しかし、なぜか同行してきた警察庁の加納警視正と、行く先々で出くわす不可解な事件に振り回され……。
軽やかに跳躍する海堂ワールド、珠玉のミステリー四編。

「阿波 発心のアリバイ」お遍路の道中に遭遇した賽銭泥棒事件。加納警視正は容疑者となった女の無実を証明できるのか。
「土佐 修行のハーフ・ムーン」十年前に起きた政治家秘書不審死事件の容疑者には、鉄壁のアリバイが存在した――。
「伊予 菩提のヘレシー」蚊を信仰する寺で発見された不審死体。事件性はないかに思われたが、加納はAiの実施を主張する。
「讃岐 涅槃のアクアリウム」讃岐のひょうげ祭りに爆破テロ予告が! しかし、その背後には巨大な闇組織の暗躍があった……。


玉村・加納コンビふたたび、である。リフレッシュ休暇でお遍路の旅に出たはずのタマちゃんこと玉村警部補であるが、どういうわけか、もれなく警察庁のハウンド・ドッグの異名を持つ加納警視正と同道することになる。タマちゃんのお遍路計画は台無しであり、加納に無理難題を突き付けられ、反論するたびに、妙に納得してしまう屁理屈でやりこめられるのだった。というのも、加納はただタマちゃんに着いて歩いているわけではなく、しっかり仕事をしているのである。しかも、予定になかった事件まで抱え込んだりする始末。そしてそれらをことごとく解決してしまうのである。恐るべし加納警視正。と書くと、やたらと格好よさそうだが、本人の強引すぎるキャラクタがそう感じさせないところがミソである。ともあれ、でこぼこコンビの珍道中を再び見られて満足な一冊である。

引き抜き屋2 鹿子小穂の帰還*雫井脩介

  • 2018/06/11(月) 18:11:45

引き抜き屋(2)鹿子小穂の帰還
雫井 脩介
PHP研究所
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「いい加減で質の悪いヘッドハンターも跋扈(ばつこ)しておりましてね」
父がヘッドハンターの紹介で会社に招き入れた大槻(おおつき)の手によって、会社を追われた鹿子小穂(かのこ・さほ)は、再就職先でヘッドハンターとして働き始めた。各業界の経営者との交流を深め、ヘッドハンターとしての実績を積んでいく小穂の下に、父の会社が経営危機に陥っているとの報せが届く。父との確執を乗り越え、ヘッドハンターとして小穂が打った、父の会社を救う起死回生の一手とは?
ビジネスという戦場で最後に立っているのは――。
予測不能、そして感涙の人間ドラマ。ヘッドハンターは会社を救えるのか!?
仕事と人生に真正面から取り組むすべての人に勇気を与える、一気読み必至のエンターテインメント。


前作のラストで井納が言った通り、今作では小穂の挫折が描かれるかと思いきや、そんなこともなく、相変わらず手強いがやりがいのある仕事に励む小穂である。花織里に連れていかれた夜のアルバイトのおかげもあって、人脈も随分と広がり、条件を並べられても、即座に候補が頭に浮かぶようにもなってきた。この上なくやりがいのある案件に取り組んでいるさなか、実家であるアウトドアメーカー・フォーンの不穏な噂を耳にする。本作の半分は、フォーンがらみの物語である。とはいえ、単純に小穂が古巣に戻って会社を再建するということではなく、ここでもヘッドハンターとして腕を振るうことにあるのである。点と点だった人とのつながりが、少しずつ重なって線になり、まわりまわって自分を助けることになる、ということを思わされる一冊でもある。面白かった。

引き抜き屋1 鹿子小穂の冒険*雫井脩介

  • 2018/06/10(日) 18:18:34

引き抜き屋(1)鹿子小穂の冒険
雫井 脩介
PHP研究所
売り上げランキング: 101,250

会社を潰すのはヘッドハンターか!?
父が創業したアウトドア用品メーカーに勤める鹿子小穂(かのこ・さほ)は、創業者一族ということもあり、若くして本部長、取締役となった。しかし父がヘッドハンターを介して招聘した大槻(おおつき)と意見が合わず、取締役会での評決を機に、会社を追い出されてしまう。そんな小穂を拾ったのが、奇しくもヘッドハンティング会社の経営者の並木(なみき)で……。新米ヘッドハンターとして新たな一歩を踏み出した小穂は、プロ経営者らに接触し、彼らに次の就職先を斡旋する仕事のなかで、経営とは、仕事とは何か、そして人情の機微を学んでいく――。
かけひき、裏切り、騙し合い――。
『犯人に告ぐ』『検察側の罪人』の著者、渾身の新境地。


今回の雫井氏はヘッドハンターである。半ば偶然のような形でヘッドハンターの道を進むことになった小穂だが、いまのところ何となくうまいこといっている。ボスである並木も、ただ口がうまく要領のいい人物のように見えて、実は根回しが徹底しているという、なかなか興味を惹かれるキャラクタであり、ファーム(ヘッドハント会社)のほかのメンバーも、癖が強い面々がそろっているのが、また魅力的でもある。最後の飲み会で、井納が指摘した通り、小穂にとって、これまでのところはビギナーズラックのようなものかもしれない。続編でどんな展開になるのかが愉しみである。興味深いシリーズである。

春の旅人*村山早紀+げみ

  • 2018/06/09(土) 07:49:58

春の旅人 (立東舎)
春の旅人 (立東舎)
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村山 早紀 げみ
立東舎
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大人気作家・村山早紀の未発表作品を含む3つの短編を数多くの装幀で知られるイラストレーター・げみの世界観に寄り添うやさしいイラストが彩る、華麗な1冊。「花ゲリラの夜」さゆりさんは、いつもポケットに花の種や小さな球根を隠し持っている。散歩のふりをして、町中に種をまくのだけれど…。「春の旅人」夜のゆうえんち。そこで出会ったおじいさんから、ぼくは星をみながらとあるお話を聞くことになった。「ドロップロップ」ドロップロップかんをふるところん―。大人も子どもも楽しめる、カラフルなお話。


前回の読書(『連続殺人鬼カエル男』)とは打って変わって、心が穏やかになるやさしくあたたかい物語である。短いお話だが、想像力を掻き立てられ、別の世界に入り込んだような心地になる。イラストと物語がやさしく寄り添う一冊である。

連続殺人鬼 カエル男*中山七里

  • 2018/06/09(土) 07:44:08

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)
中山 七里
宝島社 (2011-02-04)
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口にフックをかけられ、マンションの13階からぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。街を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の犯行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに…。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の目的とは?正体とは?警察は犯人をとめることができるのか。


あまりにも凄惨な場面が多そうなので、ずっと敬遠していたのだが、続編が出たのをきっかけに、やはり手に取らずにはいられなくなってしまった。危惧した通りの凄惨さで、読み進めるのがつらくなることもあったが、真犯人に対する興味がそれを上回り、途中からはページを繰る手が止まらなくなった。遅々として進まない操作の果てに、やっと一筋の光が見えたと思えば、あっさりと裏切られ、さらにそれも裏切られ、とんでもないところまで行きついたころには、残りページはわずかで、このまま終わってしまうのかと不安にさせられた挙句のあのラストである。これは続編を楽しみにせざるを得ない。絶対にあってほしくない犯罪ではあるが、興味深い一冊だった。

卵を買いに*小川糸

  • 2018/06/06(水) 16:35:48

卵を買いに (幻冬舎文庫)
小川 糸
幻冬舎 (2018-02-07)
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取材で訪れたラトビアに、恋してしまいました。手作りの黒パンや採れたての苺が並ぶ素朴だけれど洗練された食卓、代々受け継がれる色鮮やかなミトン、森と湖に囲まれて暮らす人々の底抜けに明るい笑顔。キラキラ輝くラトビアという小さな国が教えてくれた、生きるために本当に大切なもの。新たな出会いと気づきの日々を綴った人気日記エッセイ。


著者のエッセイを読むのはやめようと思っていたのに、うっかり読み始めてしまった。前回ほどではないが、やはり個人的には好きになれない。自分が知らないとき、体験したことがないときには、それに関係する他人を批判したりもするのに、いざ自分が体験して、その物事のことを知ったりすると、がらりと評価を変え――それ自体は悪いことではないのだが――、あっさりと前言を翻すあたりが、なんとも腑に落ちないのである。それなら、自分が知らないことにのめりこむ人を批判しなければいいのに、と思ってしまう。今回も、著者の身勝手さばかりが鼻についてしまった感じの一冊である。

向こう側の、ヨーコ*真梨幸子

  • 2018/06/05(火) 16:52:39

向こう側の、ヨーコ
向こう側の、ヨーコ
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真梨幸子
光文社
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独身を謳歌する陽子には幼い頃からよく見る夢があった。それは、もう一人の私、かわいそうなヨーコが出てくる夢。一方、夫と子供の世話に追われる陽子は愚痴ばかりこぼす毎日を送っていた。境遇の異なる二人の陽子の人生が絡み合う、イヤミスの傑作!


あの時、違う選択肢を選んでいたらこうなっていただろう、というパラレルワールドを生きる自分を夢に見るA面の陽子と、B面のパラレルワールドのなかの陽子の物語が、交互に描かれている。初めはその違いははっきりしているのだが、物語が進むにつれて互いに浸食しあい、影響しあってくる印象である。なので、いまどちらの面にいるのか、ふと判らなくなり、めまいに似た気分になることが時々あって混乱させられる。分岐した世界であるはずなのに、人間関係も時としてもつれ合っていて、夢遊病のように、あちらとこちらの世界を行き来しているのではないかと思わされることも、ことに後半ではたびたびある。陽子がどんどん追い詰められていき、深みにはまっていく様は、見ていて痛々しく、どのエピソードも胸がささくれるようなものである。ラストの後味の悪さは格別で、自業自得ともいえるが、やりきれなさすぎる。登場人物の誰にも親近感を抱けない一冊である。

かがみの孤城*辻村深月

  • 2018/06/04(月) 07:08:54

かがみの孤城
かがみの孤城
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辻村 深月
ポプラ社
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あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。


学校でいじめられている中学生を励ます物語かと思って読み始めたが、想像よりもはるかに深く温かく胸の奥までしみ込んでくる。お城のナビゲーター役のオオカミさまとは誰なのか、なぜこの七人が選ばれたのか、願いの部屋の鍵を見つけるのは誰で、どんな願い事をし、その後はどうなるのか。などなど、さまざまな興味がを掻き立てられながら読み進むことになる。いじめの陰湿さや、傷ついて、殺されるとまで思い詰める被害者の心の動きと、学校側の認識との激しすぎるずれにいらだったり、母の心配や焦りや不安のリアルさと、それにさえ反発してしまう娘の苦しさ。それぞれに苦しみを抱えて城にやってくる仲間たちとのやりとりも、初めは手探りで、全面的には心を許すことができない。それほどに傷ついていることのやりきれなさにも胸が痛む。そして、少しずつ、ひとつずつ、さまざまな事情が明らかになっていくにつれ、さらに涙を誘われる場面が多くなり、最終的にすべてがつながったときには、さらなる驚きと納得、そして安心感に包まれるのである。城に呼ばれる子どもなどいないほうがいいが、彼らはここに呼ばれて、まさに人生を生き抜く力を得たのだと思う。子どもだけでなく、すべての人が勇気づけられる一冊である。

ウチのセンセーは今日も失踪中*山本幸久

  • 2018/06/01(金) 18:13:18

ウチのセンセーは、今日も失踪中 (幻冬舎文庫)
山本 幸久
幻冬舎 (2018-03-15)
売り上げランキング: 593,761

富山から東京の出版社に漫画の持ち込みに行った宏彦は、失踪癖のある大御所漫画家のアシスタントになるハメに。クセのある仲間や編集者とセンセーの連載を落とさないよう必死に頑張る宏彦。実は、陸上の有望選手だったが、高三の秋のある事件で進学を諦め、病弱な妹の言葉で漫画家を目指すことになったのだ。カッコ悪くも沁みる、痛快エンタメ。


漫画家の仕事場やアシスタントの仕事ぶり、という点では、現在放映中の朝ドラと重なる部分もあり、興味深くはある。急遽アシスタントとして重用されることになる豊泉宏彦の奮闘ぶりや、デビューに向かっての奮戦ぶりも応援したくなる。――のだが、著者のお仕事ものがたりにしては、いささかピントが散漫になっている印象である。シリーズ化されるのだとすれば、次作以降でぎゅっと詰まっていくのかもしれないとは思いつつ、本作のみに限れば、何となく物足りない感は否めない。面白くないわけではないのだが、これまでの山本幸久ワールドとはちょっぴり違うかもしれない。シリーズ化されて、凝縮されることを願いたい一冊である。

極小農園日記*荻原浩

  • 2018/05/30(水) 16:30:20

極小農園日記
極小農園日記
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荻原 浩
毎日新聞出版 (2018-03-09)
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小さな庭での野菜づくりに一喜一憂。 創作や旅の名エッセーを収録したファン待望の初エッセイ集。
家族に白い目で見られながらも庭の片隅で細々と続ける長年の趣味、家庭菜園。
小さな戦場で季節ごとの一喜一憂を綴った爆笑奮闘記。

書き下ろし、直筆イラストも多数収録。
直木賞受賞時も絶賛された軽快な文章とユーモアで、
著者の素顔(時々毒づきオヤジ)が垣間見える、愉快痛快エッセー集。

もくじ
第1章 極小農園日記」PART1(秋冬編)
第2章 極狭旅ノート
第3章 極私的日常スケッチ(厳選25篇)
第4章 極小農園日記PART2(初夏編)......書き下ろし


著者にこんなご趣味があったのを初めて知って、なんだかうれしくなる。菜園での奮闘ぶりや、一喜一憂ぶりが目に浮かぶようである。まさに好きではくてはこだわれないあれこれが満載で、思わずにんまりしてしまう。農園日記以外も、思わず漏れ出てくる心の声がどれもこれも好ましい。小説家の書かれるエッセイは、個人的に苦手なものが多いのだが、本作は好みの一冊である。

コンビニたそがれ堂 小鳥の手紙*村山早紀

  • 2018/05/28(月) 10:03:42

(P[む]1-17)コンビニたそがれ堂 小鳥の手紙 (ポプラ文庫ピュアフル)
村山 早紀
ポプラ社 (2018-03-03)
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千花が幼い頃、隣家の庭に不思議なポストがあった。そこに手紙を入れると、なぜか空の上の「あの人」から返事がくる。結婚を控え故郷を離れようとしている千花は、もう一度だけ優しい手紙を読みたくなって。知らぬ間に見守ってくれていた温かなまなざしの物語、「小鳥の手紙」。春の風早の街を舞台にした二話と、話題作『百貨の魔法』の番外編を収録。大切な探しものが見つかる不思議なコンビニたそがれ堂、大人気シリーズ第7弾!


表題作のほか、「雪柳の咲く頃に」 番外編「百貨の魔法の子どもたち」

子どものころに体験した不思議なことは、いくつになってもその人の心のどこかに仕舞われていて、何かの折にふと思い出すと、この上なくやさしく懐かしい気持ちにさせてくれるものである。今作も、そんな不思議な経験と、懐かしさにあふれた物語たちである。子どものころに、こんな体験をした人は、大人になって、たとえ間違った道を選びそうになったとしても、自然に正しいほうに導かれていきそうな気がする。信じる心や想像力のパワーをとても感じられる物語である。じんわりほろりの一冊だった。