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鑑定人氏家京太郎*中山七里

  • 2022/04/15(金) 18:14:47


民間の科学捜査鑑定所〈氏家鑑定センター〉。
所長の氏家は、女子大生3人を惨殺したとされる猟奇殺人犯の弁護士から再鑑定の依頼を受ける。
容疑者の男は、2人の殺害は認めるが、もう1人への犯行は否認している。
相対する警視庁科捜研との火花が散る中、裁判の行く末は——

驚愕の結末が待ち受ける、圧巻の鑑定サスペンス!


科捜研の体質に合わずに退職し、自らが起こした氏家鑑定センターに持ち込まれた猟奇殺人事件の再鑑定が主軸の物語である。「自分の仕事は分析であって、裁くことでも罰することでもない」という自らの心情に従って、課せられた仕事を進めていくのだが、あるところから、科捜研の鑑定結果に疑いを抱き始め、ブラック企業さながらの集中力で、スタッフたちと共に新たな目で証拠集めから取り組むことになる。そして判明した事実は、あまりに衝撃的である。真犯人はある程度のところで予想できてしまうのだが、それをどう扱うかというところに氏家の心情が生かされ、人柄もうかがい知れて好感度が上がるが、内心を慮ると忸怩たるものがある。派手さはなく、縁の下の力持ち的な仕事ではあるが、ぜひシリーズ化してほしいと思わされる一冊である。

五つの季節に探偵は*逸木裕

  • 2022/04/13(水) 18:18:10


“人の本性を暴かずにはいられない”探偵が出会った、魅惑的な5つの謎。

人の心の奥底を覗き見たい。暴かずにはいられない。わたしは、そんな厄介な性質を抱えている。

高校二年生の榊原みどりは、同級生から「担任の弱みを握ってほしい」と依頼される。担任を尾行したみどりはやがて、隠された“人の本性”を見ることに喜びを覚え――。(「イミテーション・ガールズ」)
探偵事務所に就職したみどりは、旅先である女性から〈指揮者〉と〈ピアノ売り〉の逸話を聞かされる。そこに贖罪の意識を感じ取ったみどりは、彼女の話に含まれた秘密に気づいてしまい――。(「スケーターズ・ワルツ」)

精緻なミステリ×重厚な人間ドラマ。じんわりほろ苦い連作短編集。


みどりは、いままでにいなかったタイプの探偵かもしれない。謎を解く動機が、依頼人のためでも事務所のためでもなく、ただただ人間の本質を知りたいという欲求だというのである。だから、謎が解けたあげくの調査結果が、依頼人を苦しめたり悲しませたりしても、躊躇なく報告する。その人間味がないとも見える対応は自覚していて、それでもやめることはできないのだった。そんな彼女が解いた謎の物語たちである。最後の章での出会いが、みどりにとっても、要にとっても、これからのためになることを祈らずにはいられない。この先の彼女たちをもっと知りたくなる一冊だった。

ひとりでカラカサさしてゆく*江國香織

  • 2022/03/15(火) 11:19:27


ほしいものも、会いたい人も、ここにはもうなんにもないの――。
大晦日の夜、ホテルに集まった八十歳過ぎの三人の男女。彼らは酒を飲んで共に過ごした過去を懐かしみ、そして一緒に命を絶った。三人にいったい何があったのか――。
妻でも、子どもでも、親友でも、理解できないことはある。唐突な死をきっかけに絡み合う、残された者たちの日常。人生におけるいくつもの喪失、いくつもの終焉を描き、胸に沁みる長篇小説。


大晦日の夜、都心のホテルで、80歳過ぎの男女三人が猟銃で自ら命を絶った。
そこから始まる、彼ら三人に連なる、関係性や親密度のそれぞれ違う人たちに、じわじわと広がる波紋のような心の動きが、淡々と昂ることなく描かれていて、同じ時空に共に生きていたということの大きさを、それぞれがそれぞれなりに受け止めているさまが愛おしくさえ思えてくる。近しい人の死によって、自らの生を改めて思う時、どこにもない答えを突き付けられるような困惑と、もどかしさを覚えるのではないかという印象を受ける。人には、その人にしかわからない何かが確かにあって、それは他人がどうこう言えるものではないのだと改めて思わされる。一般的に見ればセンセーショナルな事件ではあるが、当人たちの心はいたって静かで満たされており、この時しかないと思い決めてのことだったのだと、読み終えてすとんと胸に落ちる心地がする一冊だった。

蜜蜂と遠雷*恩田陸

  • 2017/03/03(金) 16:46:28

蜜蜂と遠雷
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俺はまだ、神に愛されているだろうか?

ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、そして音楽を描き切った青春群像小説。

著者渾身、文句なしの最高傑作!

3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。「ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」ジンクスがあり近年、覇者である新たな才能の出現は音楽界の事件となっていた。養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年・風間塵15歳。かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビューもしながら13歳のときの母の突然の死去以来、長らくピアノが弾けなかった栄伝亜夜20歳。音大出身だが今は楽器店勤務のサラリーマンでコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ=アナトール19歳。彼ら以外にも数多の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。第1次から3次予選そして本選を勝ち抜き優勝するのは誰なのか?


初めは、音楽を文字だけで表現できるものだろうか、と訝しい気持ち半分でいたのだが、読み進むうちに、まったくの杞憂であることが判り、しかも、風間塵の、栄伝亜夜の、マサルの音を、世界を早く聴きたい気持ちに心が逸る自分がいることに気づかされるのである。彼らが思い描く風景に惹きこまれ、その場で一緒に同じものを見ているかのような昂揚感に包まれ、しばしば涙が止まらなくなる。そして、舞台に上がっていないときの彼らのその年齢らしい瑞々しい部分と、音楽家としての成熟した部分とのギャップに驚かされもするのである。コンテスタントひとりひとりの、まったく違うそれぞれの緊張感と昂揚感、そして幸福感が伝わってくる一冊である。

東雲の途*あさのあつこ

  • 2012/05/03(木) 10:49:56

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「弥勒の月」「夜叉桜」「木練柿」に続くシリーズ第4弾! 小間物問屋遠野屋清之介、同心木暮信次郎、そして、二人が引き寄せる事件を「人っていうのはおもしれえ」と眺める岡っ引きの伊佐治。突出した個性を持つ三人が織りなす江戸の巷の闇の物語。川から引き揚げられた侍の屍体には謎の瑠璃石が隠されていた。江戸で起きた無残な事件が清之介をかつて捨てた故郷へと誘う。特異なキャラクターと痺れるキャラクターとが読者を魅了した、ファン待望の「弥勒シリーズ」、興奮の最新作!


今回は、岡っ引き・伊佐治親分の視線で語られる部分が多い。遠野屋と木暮という並の尺度では計れない二人の間にあって、仕える身ながら包み込むような存在である伊佐治の役割は、物語のなかで大きなものだと改めて思わされる。味のある存在である。そして遠野屋清之介が、どうしようもなく背負っている昏い過去とどう折り合いをつけていくかの明るい兆しが見えたような一冊でもある。これからの商人としての清之介と木暮や伊佐治との関係も気になるところである。

神様のカルテ2*夏川草介

  • 2011/06/30(木) 11:11:49

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(2010/09/28)
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医師の話ではない。人間の話をしているのだ。

栗原一止は夏目漱石を敬愛し、信州の「24時間、365日対応」の本庄病院で働く内科医である。写真家の妻・ハルの献身的な支えや、頼りになる同僚、下宿先「御嶽荘」の愉快な住人たちに力をもらい、日々を乗り切っている。
そんな一止に、母校の医局からの誘いがかかる。医師が慢性的に不足しているこの病院で一人でも多くの患者と向き合うか、母校・信濃大学の大学病院で最先端の医療を学ぶか。一止が選択したのは、本庄病院での続投だった(『神様のカルテ』)。新年度、本庄病院の内科病棟に新任の医師・進藤辰也が東京の病院から着任してきた。彼は一止、そして外科の砂山次郎と信濃大学の同窓であった。かつて“医学部の良心"と呼ばれた進藤の加入を喜ぶ一止に対し、砂山は微妙な反応をする。赴任直後の期待とは裏腹に、進藤の医師としての行動は、かつてのその姿からは想像もできないものだった。
そんななか、本庄病院に激震が走る。


シリーズ一作目では若いに似合わずなんと古めかしい、と思わされたイチ先生のもの言いにもすっかり慣れ、もうこれ以外考えられないほどキャラクターと馴染んでしまっている。そして、前作以上に医師というよりも人間の物語になっている。患者との、病院スタッフとの、先輩医師との、同僚との、朋友との、妻との、アパートの住人との、どこの誰との関係をとってもそこには人間栗原一止がいるのである。それが読んでいてとても心地好く、安心させられる。どれほど身を削るように忙しい中でも大切なひとつのことを忘れずにいるかぎり人は心豊かに生きていけるのだと教えられるような気がする。いつまでもこの世界に身をおいていたいと思わされる一冊である。

民宿雪国*樋口毅宏

  • 2011/05/21(土) 16:55:20

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梁石日氏絶賛!「なみなみならぬ筆力に感服した。人間の底知れぬ業を描き切る」  2012年8月、国民的画家・丹生雄武郎氏が亡くなった。享年97歳。  80年代のバブル時に突如衆目を集め、華やかな時代を背景に一躍美術界の新星として脚光を浴びる。しかし、各方面からの称賛の声をよそに、けして表舞台には出ようとせず、新潟県T町にて日本海を見下ろす寂れた「民宿雪国」を経営、亡くなるまで創作に没頭した。「芸術はなんというなれの果てまで私を連れてきたのだろう……」 大正4年生まれ、使用人との間に生まれ、病弱で不遇な少年時代を過ごし、第二次大戦ではニューギニアに応召、敗戦後はシベリアに抑留される。復員すると愛妻は疎開先で亡くなっており、彼は終生「遺された者の不幸」と「戦争で死ねなかった負い目」に苛まれたと推測される。 しかし一方で、丹生氏の過去にはいささか不明瞭な部分もあった。 かつて「民宿雪国」に宿泊、丹生氏によって人生を左右されたと明言するジャーナリスト・矢島博美氏がその死後に丹生氏の過去を掘り下げたところ、以外な事実が明るみに出たのだった。 彼はなぜその経歴を詐称したのか。 やがて彼の破天荒な生涯が、かくされた昭和史を炙り出したのだった――。 あらゆるジャンルを越境する文芸界の最終兵器・樋口毅宏が贈る、本年度最高のエンタテインメント・ピカレスク・ロマン!


まるでドキュメンタリーを読んでいるようにさまざまな場面を思い浮かべることができる一冊である。と同時に、幾度も幾度も表と裏が反転し、どちらが裏でどちらが表か判別がつかなくなる心地にさせられもする。読み終えてもまだまだ真の素顔はどこか別のところに押し込められているのではないかと疑いさえしてしまう。絶妙に織り込まれた昭和史や世間を騒がせた人々でさえ著者の手にかかると丹生雄武郎の人生の一部になってしまうようで舌を巻く。途轍もないものを読んだという後味の一冊である。

コロヨシ!!*三崎亜記

  • 2010/07/24(土) 17:32:46

コロヨシ!!コロヨシ!!
(2010/02/27)
三崎 亜記

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20XX年、掃除は日本固有のスポーツとして連綿と続きつつも、何らかの理由により統制下に置かれていた。高校で掃除部に所属する樹は、誰もが認める才能を持ちながらも、どこか冷めた態度で淡々と掃除を続けている。しかし謎の美少女・偲の登場により、そんな彼に大きな転機が訪れ―一級世界構築士三崎亜記がおくる奇想青春小説。


  第一章 活動制限スポーツ「掃除」
  第二章 初めての挫折
  第三章 暗闇の特訓
  第四章 無手の一手
  第五章 それぞれの戦い
  第六章 不自由な自由
  最終章 道途の風


今回はどんな風にズレた世界を見せてくれるのだろうという期待で読みはじめたが、なんと今回はスポーツである。しかもその競技は「掃除」なのだという。のっけからもうやられてしまった。なにやらいわくあり気で、格式もありそうで、一筋縄ではいきそうもない競技である。しかも、スポ根物的愉しみやら、青春恋愛小説的愉しみやら、ルーツ探し的愉しみやら、さまざまな要素が盛り込まれているのである。もう堪らない。読みはじめてしばらくは、掃除用語や舞台設定が脳に染み込んでいかずに少々苦労したが、一度入り込んでしまえば自分のどこかがほんの僅かズレたことにも気づかずに読み耽ってしまうのだった。

孔雀狂想曲*北森鴻

  • 2008/02/01(金) 07:10:09

孔雀狂想曲孔雀狂想曲
(2001/10)
北森 鴻

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骨董店・雅蘭堂には、様々なものが、人々のいろいろな思いをいっぱいにつめて集まってくる。店主・越名集治が、価値ある「モノ」を通じ、人間の欲望や闇を描き出す8つの短編ミステリー。


表題作のほか、「ベトナム ジッポー・1967」 「ジャンクカメラ・キッズ」 「古九谷焼幻化」 「キリコ・キリコ」 「幻・風景」 「根付け供養」 「人形転生」

冬狐堂シリーズの『狐闇』にも重要な役どころで登場した雅蘭堂の越名集治が主役の物語である。舞台はやはり骨董の世界。細い目でいつも眠っているようだといわれる越名の真実を感じ取る直感とでもいうような才が燻銀のように味わい深い物語たちでもある。
押しかけアルバイターの女子高生・長坂安積――冒頭の物語で危うく万引き反になるところだったのだ――と越名の無意味なようで結構的を射た掛け合いもたのしい。

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  • 2006/02/02(木) 09:01:18

FC2ブログの仕様変更により 以下のようになるそうです。

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TBをくださる方にはお手数をおかけすることになりますけれど、
これからも どうぞよろしくお願いいたします。

book baton に答えてみました

  • 2005/06/26(日) 09:38:57

本を読む女。改訂版のざれこさんが回してくださった ≪book baton≫に答えてみました。

質問パターンはいくつかあるようですけれど
わたしは パターン2に答えます。


a お気に入りのテキストサイト(ブログ)

  cap verses / そよ日暮らし
   
   soyo さんが主催する、四行詩のシリトリのサイトです。


b 今読んでいる本

  恩田陸さんの『蒲公英草紙』を読みおわり
  栗田有起さんの『ハミザベス』を読みはじめたところです。


c 好きな作家

  恩田陸・東野圭吾・横山秀夫・江國香織・川上弘美・伊坂幸太郎・
  石田衣良・森絵都・若竹七海・・・・・
  たくさんいすぎて書ききれません。


d よく読むまたは、思い入れのある本

  
  『ひとりのはらに』
  
  質問a の soyoさんこと斉藤そよさんの言葉と
  写真家の若林浩樹さんのニセコの草花の写真との
  コラボレーション作品。
  ページを繰るごとに、ニセコの野原をお散歩している心地になれます。


e この本は手放せません!

  上記の『ひとりのはらに』と
  やはり 【そよ日暮らし】のサイトから生まれた
  シリトリ投稿作品をまとめた一冊
  『そよ日暮らし 2』
  オンデマンド出版です。


f 次にバトンを渡すヒト3名

  バトンはどなたにも渡しませんけれど
  もしご興味のある方がいらしたら、答えてみてください。


バトンを回してくださった ざれこさん、ありがとうございました。