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あとは 切手を、一枚貼るだけ*小川洋子 堀江敏幸

  • 2019/08/14(水) 07:58:46

あとは切手を、一枚貼るだけ (単行本)
小川 洋子 堀江 敏幸
中央公論新社
売り上げランキング: 7,511

かつて愛し合い、今は離ればなれに生きる「私」と「ぼく」。失われた日記、優しいじゃんけん、湖上の会話…そして二人を隔てた、取りかえしのつかない出来事。14通の手紙に編み込まれた哀しい秘密にどこであなたは気づくでしょうか。届くはずのない光を綴る、奇跡のような物語。


かつては誰よりも近しく過ごしたにもかかわらず、いまは触れることもできず、見ることもできない「私」と「ぼく」の、長い隔たりの後にやっと可能になった手紙のやり取りが、そのまま物語になっている。なぜ、どうして、と、謎や疑問が頭のなかを渦巻くが、反して二人のやり取りは研ぎ澄まされ、無駄なことなど何ひとつないようでいて、二人以外の人にとってはなくて何ら構わない事々で成り立っている。私とぼくの親密さがそこからも察せられ、いまの状況を思うとき、切なさに押しつぶされそうにもなるのである。だがそれに反して、二人のやり取りのなんと静謐でありしかも情熱的なこと。視えるということは、もしかするとさほど大切なことではないのではないかとすら思わされる、胸打たれる一冊である。

トロイメライ*村山早紀+げみ

  • 2019/07/03(水) 16:49:35

トロイメライ (立東舎)
村山 早紀 げみ
立東舎
売り上げランキング: 154,558

大人気作家・村山早紀の書き下ろし作品を含む3つの短編に、数多くの装幀で知られるイラストレーター・げみの世界観に寄り添うやさしいイラストが彩る、華麗な1冊。『春の旅人』に続くコラボレーション第2弾。
オールカラー・全イラスト描き下ろし。

あなたの心に寄り添う、3つの物語——。
「トロイメライ」:近未来、ロボットがぐっと身近になった世界。愛美ちゃんはお父さんと、ロボットのお兄ちゃんと暮らしていたのだけれど……。
「桜の木の下で」:大晦日、久しぶりにゆりちゃんが帰ってきた。同じ年にうまれた猫と女の子の物語。
「秋の祭り」:山奥に捨てられてしまった古いお雛様とお内裏様、三人官女。そんなお人形たちに、ある夜魂が宿ります。


全編に漂う世界観はとてもやさしく穏やかなのだが、その内容には、胸をふさがれるものもある。だが必ず、遠くても希望の光が見えていて、目を逸らさずにいようと思わせてもくれる。諍いのない穏やかなあしたへの道を閉ざしてはいけないと思わされる一冊である。

平成ストライク

  • 2019/05/26(日) 20:15:26

平成ストライク
平成ストライク
posted with amazlet at 19.05.26
青崎有吾 天祢涼 乾くるみ 井上夢人 小森健太朗 白井智之 千澤のり子 貫井徳郎 遊井かなめ
(株)南雲堂 (2019-04-23)
売り上げランキング: 142,892

激動の昭和が終わり、バブル経済の熱冷め止まぬうちに始まった平成。
福知山線脱線事故、炎上、児童虐待、渋谷系、差別問題、新宗教、消費税、ネット冤罪、東日本大震災――平成の時代に起こった様々な事件・事象を、九人のミステリー作家が各々のテーマで紡ぐトリビュート小説集。

「平成」という言葉を聞いて 感傷的になっちゃってる自分を照れくさく感じるような人たちへ。
「加速してゆく」青崎有吾
「炎上屋尊徳」井上夢人
「半分オトナ」千澤のり子
「bye bye blackbird...」遊井かなめ
「白黒館の殺人」小森健太朗
「ラビットボールの切断」白井智之
「消費税狂騒曲」乾くるみ
「他人の不幸は密の味」貫井徳郎
「From The New World」天祢涼



まったく好みではないものもあったが、平成という時代を振り返り、その長さと変化の激しさを改めて感じられる物語たちである。現在とは、小説に登場する小道具が違い、言葉遣いが違い、生活の周囲の空気感が違う。「平成」とひとくくりにしてしまうと、橋のない水路を飛び越して、新しい時代である現在(いま)に立っているような心地になる。だが、昭和から平成、そして令和、すべてが地続きなのだと、ふと気づいたりもする。時代の空気ってどうやって作られるのだろう、などと考えたくなる一冊である。

ショートショート美術館 名作絵画の光と闇

  • 2019/03/17(日) 16:26:35

ショートショート美術館 名作絵画の光と闇
太田 忠司 田丸 雅智
文藝春秋
売り上げランキング: 451,579

ショートショートから作家としてのキャリアをスタートした太田忠司と
新世代ショートショート作家として人気を集める田丸雅智の二人が
ゴッホ、ムンク、マグリットなどの名画をテーマに競作。
絵画の世界に引き込まれる一作です。


10の絵画作品を題材に、田丸雅智氏と太田忠司氏がそれぞれの感性で物語を創っている。同じ絵を見ても、それぞれ受け取るものが微妙に違っているのが興味深く、その表し方もそれぞれで愉しめる。太田氏の方が、どちらかというと想像力を遠くまで飛ばしているような印象であるが、それも含めて愉しめる一冊になっている。

世にもふしぎな動物園

  • 2019/02/17(日) 16:19:33

世にもふしぎな動物園 (PHP文芸文庫)
小川 洋子 鹿島田 真希 白河 三兎 似鳥 鶏 東川 篤哉
PHP研究所
売り上げランキング: 146,292

ペンネームの一部に「動物」が隠れた人気作家による、それぞれの動物をテーマとした異色の短編集。
不吉とされる黒子羊を飼う、村で唯一の託児所(小川洋子「黒子羊はどこへ」)、牧場の経営者が亡くなった。犯人を推理するのは馬!?(東川篤哉「馬の耳に殺人」)、高校の新聞部の友人と共に白いカラスの謎を探っていたはずが……(似鳥鶏「蹴る鶏の夏休み」)等、バラエティに富んだ五作を収録。


面白い趣向である。そして内容紹介の通り、物語のテイストもバラエティに富んでいて、ぐいぐい引っ張られる。それぞれにブラックな要素が盛り込まれているのも魅力である。小川洋子氏はことに著者らしく、やわらかなひつじのイメージとは全く違う秘密めいた雰囲気がたまらない。愉しめる一冊だった。

だから見るなといったのに

  • 2018/11/23(金) 09:27:20

だから見るなといったのに: 九つの奇妙な物語 (新潮文庫nex)
恩田 陸 芦沢 央 海猫沢 めろん 織守 きょうや 小林 泰三 澤村 伊智 前川 知大 北村 薫 さやか
新潮社 (2018-07-28)
売り上げランキング: 10,841

色とりどりの恐怖をどうぞ召し上がれ。あのとき、目をそらしていたら。でも、もはや手遅れ。あなたはもとの世界には二度と戻れない。恐怖へ誘うのは、親切な顔をした隣人、奇妙な思い出を語り出す友人、おぞましい秘密を隠した恋人、身の毛もよだつ告白を始める旅の道連れ、そして、自分自身……。背筋が凍りつく怪談から、不思議と魅惑に満ちた奇譚まで。作家たちそれぞれの個性が妖しく溶け合った、戦慄のアンソロジー。


既読のものもあったが、それでも、この並びのなかにあるとまた違った怖さを感じられた。ことさら怖がらせようとしているわけではないのに、じわりじわりと足元から恐ろしさが這い登ってきて、気づいたらがんじがらめにされている心地である。怖さのテイストが作家さんごとに違っているのも、飽きずに愉しめる(恐がれる)要因のひとつだろう。つい身体がこわばってしまう一冊である。

怪を編む

  • 2018/10/23(火) 18:16:15

怪を編む: ショートショート・アンソロジー (光文社文庫)
アミの会(仮)
光文社 (2018-04-12)
売り上げランキング: 118,730

アミの会(仮)とは、各ジャンルで活躍する女性作家の集まり。網のように広がる交遊関係、フランス語で友だちという単語(amie)、全国各地のメンバーがインターネットで意見交換をしながら、一冊のアンソロジーを編むというところから名付けられた。アンソロジー企画第五弾は、十三人の豪華ゲストを迎え、二十五編の書下ろしショートショートをお届け!


ほんの短い物語なのに、そのどれもに「怪」が濃密に詰まっていて読み応えがある。じわじわと、ひたひたと、怖さが足元から這い上ってくるものあり、一瞬にして恐怖に身体中の毛穴が開く感覚のものあり、実に厭な感じのものありと、テイストがさまざまで、次から次へと味わってみたくなる一冊である。

ほんのきもち

  • 2018/09/17(月) 16:41:43

ほんのきもち
ほんのきもち
posted with amazlet at 18.09.17
朝吹 真理子 彩瀬 まる いしい しんじ 乾 ルカ オカヤ イヅミ 甲斐 みのり 鹿子 裕文 木皿 泉 今日 マチ子 小林 エリカ 坂木 司 桜木 紫乃 佐藤 ジュンコ 平松 洋子 藤野 可織 文月 悠光
扶桑社 (2018-08-10)
売り上げランキング: 4,855

朝吹真理子、彩瀬まる、いしいしんじ、乾ルカ、オカヤイヅミ、甲斐みのり、鹿子裕文、木皿泉、今日マチ子、小林エリカ、坂木司、桜木紫乃、佐藤ジュンコ、平松洋子、藤野可織、文月悠光の16名が書下ろし!
16のちいさな贈りものがたり
装画:西淑


ひとつひとつのエッセイも、登場する贈り物たちも、挿みこまれるイラストも、どれもがとてもキラキラしている。
しかも、やさしい気持ちになれて、実際の役にも立ちそうで、なんてお得な一冊なのだろう。
来年のお年賀が、一発で決まってしまった。

未来製作所

  • 2018/09/01(土) 18:21:53

未来製作所
未来製作所
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太田 忠司 田丸 雅智 北野 勇作 松崎 有理 小狐 裕介
幻冬舎 (2018-06-21)
売り上げランキング: 59,953

いつでも、誰とでも、行きたい場所へ。
移動が面白くなれば、世界は変わる!
5分で胸が高鳴ってくる、ショートショートアンソロジー

家を持たず、レンタルのクルマで優雅に暮らす若者。
交通事故がゼロになる「ラプラス・システム」を開発した研究者の妹と政治家の兄。
犬とパソコンを一体化させるという新鮮奇抜なアイデアを成功させた会社員……。
あなたにひらめきをもたらす10篇が収録された1冊


太田忠治、北野勇作、小狐祐介、田丸雅智、松崎有理の五氏による、10の物語である。
「移動」「ものづくり」というキーワードにゆるく縛られた未来の姿は、想像できそうでもあり、思いがけなくもあり、それでもやはり、誰かのために、という思いが感じられて、人間の在り方はそうそう変わるものではないのだとも改めて思わされる。ブラックテイストは薄いが、愉しめる一冊だった。

女ともだち

  • 2018/07/07(土) 16:38:20

女ともだち (文春文庫)
村山 由佳 坂井 希久子 千早 茜 大崎 梢 額賀 澪 阿川 佐和子 嶋津 輝 森 絵都
文藝春秋 (2018-03-09)
売り上げランキング: 154,213

村山由佳、坂井希久子、千早茜、大崎梢、額賀澪、阿川佐和子、嶋津輝、森絵都――
当代きっての人気女性作家8人が「女ともだち」をテーマに豪華競作!
「彼女」は敵か味方か……微妙であやうい女性同士の関係を、小説の名手たちが
描きだす逸品ぞろいの短編小説アンソロジー。
コワくて切なくて愛しい物語の世界を、ぜひご堪能ください。


どの物語も、必ずうなずける要素があって、興味深かった。女性なら、おそらく誰しも身に覚えがあるだろうし、男性なら、身近な女性のふるまいの謎が少しだけ解けるかもしれない。だが、立場や年齢、生い立ちが違っても、女ともだちのつながり方の絶妙さは、男性には一生判らないだろう。八篇すべて、どれもが満足できる一冊である。

謎の館へようこそ 白

  • 2018/05/16(水) 16:27:05

謎の館へようこそ 白 新本格30周年記念アンソロジー (講談社タイガ)
東川 篤哉 一 肇 古野 まほろ 青崎 有吾 周木 律 澤村 伊智
講談社
売り上げランキング: 134,164

テーマは「館」、ただひとつ。
今をときめくミステリ作家たちが提示する「新本格の精神」がここにある。
奇怪な館、発生する殺人、生まれいづる謎、変幻自在のロジック――!
読めば鳥肌間違いなし。謎は、ここにある。新本格30周年記念アンソロジー第二弾。
収録作品:
東川篤哉『陽奇館(仮)の密室』
一肇『銀とクスノキ ~青髭館殺人事件~』
古野まほろ『文化会館の殺人 ――Dのディスパリシオン』
青崎有吾『噤ヶ森の硝子屋敷』
周木 律『煙突館の実験的殺人』
澤村伊智『わたしのミステリーパレス』


「黒」よりは、かなり普通に愉しめた。ただ、物語にのめりこんで、次へ次へとページを繰る手が止まらなくなる、というほどのことはなく、キャラクタを作りこみすぎな印象のものがあったり、これも館か?というようなものもあったり――それはそれで奇をてらって悪くはないのだが――、もうひとつグッとくる何かが欲しい気がしてしまう。まあまあ愉しめる一冊ではあった。

宮辻薬東宮

  • 2018/03/12(月) 16:38:41

宮辻薬東宮
宮辻薬東宮
posted with amazlet at 18.03.12
宮部 みゆき 辻村 深月 薬丸 岳 東山 彰良 宮内 悠介
講談社
売り上げランキング: 201,985

宮部みゆきさんの書き下ろし短編を辻村深月さんが読み、短編を書き下ろす。その辻村さんの短編を薬丸岳さんが読み、書き下ろし……今をときめく超人気作家たちが2年の歳月をかけて“つないだ”ミステリーアンソロジー。


「人・で・なし」宮部みゆき  「ママ・はは」辻村深月  「わたし・わたし」薬丸岳  「スマホが・ほ・しい」東山彰良  「夢・を・殺す」宮内悠介

一斉に同じテーマで書くのではなく、できあがった前の作品を読んでから自分の作品を書く、というリレー形式で書かれているので、前作から何かしらの要素を引き継いでいたりするのも興味深い。個人的にホラーは好みではないのだが、この程度なら拒否反応は起こらない。ただ、想像するとますます怖さが増し、目を閉じるとふと情景が浮かんでしまったりして困る。日常に何気なく紛れ込んでいそうな気にさせられるのも背筋が寒くなる。怖がりつつ愉しんだ一冊である。

7人の名探偵

  • 2018/02/13(火) 20:22:05


テーマは「名探偵」。新本格ミステリブームを牽引したレジェンド作家による書き下ろしミステリ競演。ファン垂涎のアンソロジーが誕生! 綾辻行人「仮題・ぬえの密室」 歌野晶午「天才少年の見た夢は」 法月綸太郎「あべこべの遺書」 有栖川有栖「船長が死んだ夜」 我孫子武丸「プロジェクト:シャーロック」 山口雅也「毒饅頭怖い 推理の一問題」 麻耶雄嵩「水曜日と金曜日が嫌い ――大鏡家殺人事件――」


馴染みのある名探偵たちが謎解きをする様子が、次から次へと愉しめるなんて贅沢なことである。どの作品もそれぞれ著者らしく面白かったが、綾辻氏のいささか趣向の変わった物語も、――約束違反と言えないこともない気もするが――なかなか味わい深くて個人的には好きだった。わくわくする一冊だった。

謎の館へようこそ 黒

  • 2018/02/06(火) 10:49:20

謎の館へようこそ 黒 新本格30周年記念アンソロジー (講談社タイガ)
恩田 陸 はやみね かおる 高田 崇史 綾崎 隼 白井 智之 井上 真偽
講談社
売り上げランキング: 36,714

「館」の謎は終わらない――。館に魅せられた作家たちが書き下ろす、色とりどりのミステリの未来!
奇怪な館、発生する殺人、生まれいづる謎、変幻自在のロジック――!
読めば鳥肌間違いなし。謎は、ここにある。新本格30周年記念アンソロジー第三弾。

収録作品:
はやみねかおる『思い出の館のショウシツ』
恩田 陸『麦の海に浮かぶ檻』
高田崇史『QED~ortus~ ―鬼神の社―』
綾崎 隼『時の館のエトワール』
白井智之『首無館の殺人』
井上真偽『囚人館の惨劇』


正直なところ、途中で読むのを止めようかと思った作品もあった。はやみねかおる、恩田陸、という名前には惹かれるものがあり、惹きこまれる部分もなかったわけではないが、全体を通して、あまりお勧めしたいとは言えない一冊だった。

きっと嫌われてしまうのに*松久淳+田中渉

  • 2018/01/18(木) 16:48:38

きっと嫌われてしまうのに
松久 淳 田中 渉
双葉社
売り上げランキング: 479,956

高校入学後、充はユキちゃんにひとめぼれした。それまで遊び人キャラだったが、
人が変わったように彼女を前にするとまともに話すことも出来なくなってしまう。
しかし、周りから「ストーカー」扱いされるほどの猛アタックの末、二人は付き合うことになった。
しかし、ふとした瞬間ユキちゃんは寂しそうな無気力なような表情を見せる。
彼女にはある秘密があった――。高校生にふりかかる残酷な現実。
最終章で世界が一転する二度読み必至のどんでん返し!


高校生の熱烈純愛物語かと思わせて、実は複雑な問題を潜ませている物語である。素直な読者はあっという間に騙され、最終章でがらっと世界が様相を変えることになる。その快感は味わえるのだが、内包している問題についての嫌悪感は強く、二度の大震災の扱われ方にも共感できなかった。何とも後味の悪い一冊だった。