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喧騒の夜想曲

  • 2022/08/30(火) 06:50:48


ミステリーの協演を味わい尽くす!最旬15作家による魅惑のアンソロジー下巻。赤川次郎、芦沢央、天祢涼、太田忠司、恩田陸、呉勝浩、近藤史恵、知念実希人、長岡弘樹、新津きよみ、東川篤哉、東山彰良、深緑野分、前川裕、米澤穂信、全15名の作品を収録。


ひとつひとつは短いので、あっという間に読めてしまうのだが、それぞれにテーマも扱い方も違っていて、味わいながら愉しめる。そして、犯人の真意に気づいたときに、さらに背筋が寒くなる。贅沢な宝箱のような一冊である。

共犯関係

  • 2022/08/23(火) 07:17:36


わたしたちは永遠の共犯者。二度と離れることはない―(「Partners in Crime」)。夏祭りの日、少年は少女と町を出る(「Forever Friends」)。難病におかされた少年に起こった奇跡(「美しき余命」)。“交換殺人してみない?”冗談のはずが、事態は思わぬ方向に(「カフカ的」)。苦境の作家の会心作。だが酷似した作品がインターネット上に―(「代償」)。五人のミステリ作家が描く、共犯者たち。驚愕のアンソロジー。


秋吉理香子、友井羊、似鳥鶏、乾くるみ、芦沢央各氏が独自の共犯関係を描き出している。それぞれ趣が違い、そしてどれも怖い。合意の上での共犯関係、なし崩し的な共犯関係、慮りからの共犯関係、などなど、現実にも陥りそうで、一瞬ヒヤッとする。世の中にはこんなにも危うい共犯関係があふれているのかと思い知らされる一冊である。

本からはじまる物語

  • 2022/06/08(水) 18:14:53


森を飛びかう絵本をつかまえる狩人、ほしい本をすぐにそろえてくれる不思議な本屋、祖父がゆっくり本を読む理由、書店のバックヤードに隠された秘密……。
青春、恋愛、時代小説から、ミステリにファンタジーまで、「本」と「本屋」をテーマに豪華執筆陣18名が集結! 本の世界の奥深さが短いお話の中にたっぷり詰まっています。1話5分でわくわくできてどこから読んでも面白い、本にまつわるショートショート・アンソロジー。


阿刀田高 有栖川有栖 いしいしんじ 石田衣良 市川拓司 今江祥智 内海隆一郎 恩田陸 篠田節子 柴崎友香 朱川湊人 大道珠貴 梨木香歩 二階堂黎人 本田孝好 三崎亜記 山崎洋子 山本一力
と、著者を並べてみただけでも贅沢である。似たような着想のものもあるが、どの物語も本への愛があふれていて、その先が知りたくなるものも多い。どこから読み始めても、どこで読み終えてもいい気楽さもあり、あっという間に読めてしまうのが、楽しくもありもったいなくもある一冊である。

11の秘密 ラスト・メッセージ*アミの会(仮)

  • 2022/05/27(金) 18:19:36


最後に届けたかったのは――。
隠された幻の家訓、ある一族の謎めいた掟、読まれるはずのなかった遺言……
さまざまな形で残された<ラスト・メッセージ>とは?
秘められた思いが届くとき、驚きの結末に心揺さぶられる……
各ジャンルで活躍する実力派女性作家11名による、豪華アンソロジー!

大崎梢/近藤史恵/篠田真由美/柴田よしき/永嶋恵美/新津きよみ/ 福田和代/松尾由美/松村比呂美/光原百合/矢崎存美


最後のメッセージと言ってもさまざまである。11名の女性作家それぞれのメッセージは、時にはやさしく、また時にはさらなる謎をもたらし、腑に落ちたり、驚かされたり、長年のもやもやが解消されたりと、それらがもたらす効果もさまざまである。ささやかな謎解きを楽しみながら、さまざまな人たちが最後に伝えたかった思いを愉しんだ一冊である。

おしゃべりな部屋*川村元気 近藤麻理恵

  • 2022/05/24(火) 18:01:24


近藤麻理恵が片づけてきた1000以上の部屋にまつわる実話を基に、川村元気が紡ぐ7つの部屋の物語。
気鋭の絵本作家・大桃洋祐のカラーイラストを40点以上収載。読売新聞連載時から話題沸騰の小説がついに単行本化!

わたし、橙木ミコには、誰にも言えない秘密がある。
部屋にある、モノの声が聞こえてしまうのだ。服や靴、本や家具がみな、話しかけてくる。
わたしは、依頼された家の“片づけ"を手伝う仕事をしている。
今、わたしの隣にいる片づけの相棒はボクス。おしゃべりな小箱だ。
どうして、片づけが仕事になったのか? どうやって、モノの声が聞こえるのか?
そもそも小箱が相棒って、どういうこと?
きっとあなたは不思議に思うだろう。けれども、これはどれも本当の話。
わたしが片づけてきた部屋は、千を超えた。
服を手放せない主婦、本を捨てられない新聞記者、なんでも溜め込んでしまう夫婦、好きなものが見つけられない少女、死の間際に片づけを決意する老婦人……。
部屋の数だけ、そこに暮らす人と、おしゃべりなモノたちとの思い出がある。
今からすこしだけ、その話を聞いてもらえたらと思う。
これはわたしが実際に体験した、すこし不思議な七つの部屋にまつわる物語だ。


大桃洋祐さんのイラストが、とてもよく合っていて、魅力を引き立てている。
片付けのプロ近藤麻理恵さんの実体験をもとに描かれているので、身につまされる部分が多々ある。そして、片付けは、決して片手間やその場しのぎでできるものではないということがよくわかる。たっぷりの時間と、気持ちの余裕がなければ、手をつけてはいけない。我が身を振り返り、いざ片づけることを想像すると、あまりの途方もなさにくらくらする。とは言え、このやり方で片づけたら、リバウンドはしないだろうと納得もする。ときめきを感じたくなる一冊である。

ポイズン 医療ミステリーアンソロジー ドクターM

  • 2022/02/11(金) 18:08:31


足の痒みに悩む水尾爽太は、訪れた薬局で毒島という女性薬剤師に出会う。誤診を見抜いた彼女に興味を抱き、伯父の病状について相談すると、話は予想外の方向へ──(「笑わない薬剤師の健康診断」)。医療ミステリーアンソロジー第2弾!


「片翼の折鶴」 浅ノ宮遼
「老人と犬」 五十嵐貴久
「是枝哲の敗北」 大倉崇裕
「ガンコロリン」 海堂尊
「笑わない薬剤師の健康診断」 塔山郁
「リビング・ウィル」 葉真中顕
「夜光の唇」 連城三紀彦

誰もが関わらずにはすまない医療を題材にしたミステリだが、切り口はそれぞれにまったく異なり、飽きることなく愉しめる。たださすがに医療にかかわるミステリなので、そのまま命を左右する分、恐ろしさもひとしおである。ことに、リビング・ウィルの難しさには、改めて唸らされた。自分のこととして、しっかり考えなければと思わされる。怖さを含めて愉しめる一冊だった。

教え子殺し 倉西美波最後の事件*愛川晶・谷原秋桜子

  • 2022/02/10(木) 07:18:19


学園では何が起きていたのか。殺害「自白」メール、教師・生徒たちの昏い過去、復讐、そして新たな悲劇……。『天使が開けた密室』の倉西美波におとずれた「最後にして最大」の事件。読者も翻弄する渾身の書き下ろし長編本格。


時間軸に錯誤があるだろうとは、早い時期に想像がついたが、それがどんな風に物語に組み込まれているのかは全くわからず、わかった後でも、何となくすっきりと腑に落ちた感じは得られなかった。その局面で、そんな単純なミスを犯すだろうか、という疑問が、すっきりできない一因だと思う。シリーズものとは知らずに読み始めたので、把握しきれない人間関係もあるのかとは思うが、本作単独でも充分に成り立つ物語ではある。物語に入り込むまでにいささか時間がかかった一冊でもある。

紙魚の手帖 vol.1

  • 2022/02/02(水) 16:42:30


■「ミステリーズ!」の後継誌ついに創刊。コンセプトは、国内外のミステリ、SF、ファンタジイ、ホラーを刊行してきた東京創元社による「総合文芸誌」。■『蝉かえる』で第74回日本推理作家協会賞、第21回本格ミステリ大賞W受賞の櫻田智也が贈る、〈エリ沢泉〉シリーズ最新作。■第21回本格ミステリ大賞全選評、一挙掲載。■第31回鮎川哲也賞&第18回ミステリーズ!新人賞選評、ならびに第18回ミステリーズ!新人賞受賞作「三人書房」掲載ほか。


既知の作家、新人作家、いろんなテイストの作品たちと、雑誌ならではのわくわく感を楽しめる一冊だった。

神様の罠

  • 2021/11/09(火) 18:01:44


人気作家6人の新作ミステリーがいきなり文庫で登場!
現在のミステリー界をリードする6人の作家による豪華すぎるアンソロジー。
最愛のひととの別れ、過去がふいに招く破綻、思いがけず露呈するほころび、
知的遊戯の結実、そして、コロナ禍でくるった当たり前の日常……。
読み解き方も楽しみ方も六人六様の、文庫オリジナルの超絶おすすめ本です。


【収録作品】
乾くるみ『夫の余命』
余命わずかと知りながら、愛を誓ったふたりは……
米澤穂信『崖の下』
スキー場で遭難した4人。1人が他殺体で見つかり……
芦沢央『投了図』
地元でタイトル戦が開かれる。将棋ファンの夫は……
大山誠一郎『孤独な容疑者』
23年前、私はある男を殺したのだ……
有栖川有栖『推理研VSパズル研』
江神二郎シリーズ待望の新作!
辻村深月『2020年のロマンス詐欺』
大学生になったけれど、コロナ禍で……


それぞれ、違った趣向で愉しめたが、なんといっても最後を飾る辻村作品が面白かった。まず冒頭に事件の新聞記事が置かれ、その後にそこに至る顛末が描かれるという趣向である。記事を見ただけのときは、「あぁ堪え性のない若者が困ったものだなぁ」くらいの、よくある事件の記事を読んだ感じだったのが、顛末を詳しく知ると、まったく印象が変わってくる。起こった事件そのものは全く変わっていないのに、不思議なものである。どんな事件にも、そこに至る事情があるのだろうと想像すると、事件そのものは容認できるものでないとしても、景色はずいぶんと変わってくるのかもしれない。裁判員裁判の参考資料がこんな風だったら、判断が大きく変わるかもしれないとも思ったりする。それにしても、悪意に呑み込まれていく過程は、引き返そうとしても引き返せない心理状態に引きずり込まれるもので、恐ろしすぎる。愉しい読書タイムを過ごせる一冊だった。

Day to Day

  • 2021/10/10(日) 16:29:44


コロナ禍の奇跡ーー2020年4月1日以降の日本を舞台にした連載企画Day to Day。100人の作家による物語とエッセイが一冊にまとまった、珠玉の1冊!

相沢沙呼 青柳碧人 赤川次郎 秋川滝美 秋吉理香子 朱野帰子 朝井まかて 朝井リョウ 朝倉かすみ 浅田次郎 あさのあつこ 麻見和史 芦沢央 我孫子武丸 有川ひろ 有栖川有栖 彩瀬まる 五十嵐律人 石黒正数 伊集院静 市川拓司 五木寛之 井上真偽 井上夢人 内館牧子 宇山佳佑 榎田ユウリ 榎本憲男 大崎梢 尾崎世界観 恩田陸 海堂尊 垣谷美雨 垣根涼介 川越宗一 神林長平 木内一裕 木内昇 北方謙三 京極夏彦 黒澤いづみ ごとうしのぶ 近藤史恵 今野敏 佐藤青南 澤村伊智 塩田武士 志駕晃 重松清 島田荘司 周木律 春原いずみ 瀬名秀明 高岡ミズミ 高橋克彦 竹本健治 田中芳樹 田丸雅智 知念実希人 月村了衛 辻真先 辻村深月 砥上裕將 長岡弘樹 中山七里 凪良ゆう 西尾維新 西村京太郎 似鳥鶏 貫井徳郎 法月綸太郎 原田マハ 早坂吝 林真理子 伴名練 東川篤哉 東野圭吾 東山彰良 蛭田亜紗子 深水黎一郎 椹野道流 真下みこと 真梨幸子 麻耶雄嵩 三秋縋 皆川博子 湊かなえ 宮内悠介 宮城谷昌光 宮澤伊織 森絵都 森博嗣 森村誠一 薬丸岳 横関大 吉川トリコ 米澤穂信 友麻碧 夢枕獏 輪渡颯介


日々のあれこれが、一人当たり3ページほどで綴られている。形式は様々で、日記風のものあり、感想風のものあり、掌編小説風のものありと、読み続けても飽きさせない趣向になっている。ついつい次も次もと、読み進めてしまい、あっという間に最後までたどり着いてしまった。もっとじっくり読めばよかったかもしれない。どの作品も、新型コロナウィルスに翻弄される日々がキーになっているのだが、あしたは必ず来ると、未来を信じられる気持ちになるのはなぜだろう。愉しい読書タイムをもたらしてくれた一冊である。

朝倉かすみリクエスト! スカートのアンソロジー

  • 2021/10/03(日) 18:52:19


読書家にして、市井の名もなき男女の機微を自在に描く朝倉かすみが、今いちばん読みたいテーマで、いちばん読みたい作家たちに「お願い」して、一筋縄ではいかないアンソロジーができました。もちろん、「女性の物語」とは限りません。


「明けの明星商会」 朝倉かすみ
「そういうことなら」 佐原ひかり
「くるくる回る」 北大路公子
「スカートを穿いた男たち」 佐藤亜紀
「スカート・デンタータ」 藤野可織
「ススキの丘を走れ(無重力で)」 高山羽根子
「I、Amabie」 津原泰水
「半身」 吉川トリコ
「本校規定により」 中島京子

一見すると軽やかなようであって、その実深くて重いテーマなのだと、読んでみて今更ながら実感したのだった。たかがスカート、されどスカートである。編者の朝倉かすみ氏は、なんと絶妙なテーマを提起したことだろう。これを差し出された作家のみなさんの頭の中には、まず最初にどんな閃きがあったのだろうか、興味深いところである。いろんな仕立て方があるだろうな、と想像はしたのだが、圧倒的に軽やかな肯定感は見受けられず、どこかジェンダーがらみの屈託を抱えるものとして描かれるものが多い印象である。スカートというものは、今やこういう存在なのか、と再認識させられもした。深い。何事にも是もあり非もあり、疑問に思うことから何かが始まるのだと考えさせられる一冊でもあった。

短編宇宙

  • 2021/04/16(金) 16:24:32


最近、夜空を見上げていますか? 個性豊かな人気作家陣が「宇宙」をテーマに描くのは、無限の想像力がきらめく七つの物語。石垣島を旅する父娘に、コロナ禍でステイホーム中の天文学者。銀河を舞台に戦う殺し屋に、恋する惑星!? じんわり泣ける家族小説から、前衛的SF作品まで、未知との遭遇を約束する傑作アンソロジー。鬱屈した日々に息苦しさを覚えたら、この一冊とともに、いざ宇宙へ!


加納朋子「南の十字に会いに行く」  寺地はるな「惑星マスコ」  深緑野分「空へ昇る」  西島伝法「惑い星」  雪舟えま「アンテュルディエン」  宮澤伊織「キリング・ベクトル」  川端裕人「小さな家と生きものの木」

宇宙が主題の物語たちなのだが、扱い方はそれぞれで興味深い。割と普通のストーリーだと思っていると、唐突に宇宙感が出てきたり、まるっきり宇宙が舞台なのにも関わらず人間の営みのようだったり、遠い宇宙と自分の身の回りを知識と想像力とで行ったり来たりしていたり。さまざまな宇宙を愉しめる一冊だった。

ショートショートドロップス*新井素子編

  • 2021/02/20(土) 16:42:06


女性作家による珠玉のSSアンソロジー!
ほら、不思議な味がするでしょう?
新井素子が編む、短くて、ずっと心に残る15の物語
【収録作家および作品】(五十音順)
新井素子「のっく」  上田早夕里「石繭」  恩田陸「冷凍みかん」  図子慧「ダウンサイジング」  高野史緒「舟歌」  辻村深月「さくら日和」  新津きよみ「タクシーの中で」  萩尾望都「子供の時間」  堀真潮「トレインゲーム」  松崎有理「超耐水性日焼け止め開発の顛末」  三浦しをん「冬の一等星」  皆川博子「断章」  宮部みゆき「チヨ子」  村田沙耶香「余命」  矢崎存美「初恋」


編者も初めに言い訳しているが、ショートショート言うにはいささか長いものもある。だが、充分に愉しめるので吉、である。どれもが、短い時間で、いろんなテイストのワクワクドキドキを体験できるのは、まさに缶入りドロップを振って、次にどんな味のドロップが出てくるかを楽しみにするような気持を味わえる。味わっては満足し、また次が欲しくなる。病みつきになる一冊だった。

ドクターM 医療ミステリーアンソロジー

  • 2020/12/13(日) 16:25:44


非合法組織の歯科医師。相手の嘘を必ず見抜く内科医。深夜の病棟で魔女を探す看護師。老女に人格再編手術を施す脳外科医。医療現場で起きる事件や不思議な出来事を、様々な角度から紐解いていく―。8人の人気作家が描く、医療にまつわるミステリーアンソロジー。


「エナメルの証言」 海堂尊  「嘘はキライ」 久坂部羊  「第二病棟の魔女」 近藤史恵  「人格再編」 篠田節子  「人魂の原料」 知念実希人  「小医は病を医し」 長岡弘樹  「解剖実習」 新津きよみ  「厨子家の悪霊」 山田風太郎

馴染みのキャラクタが登場する物語もあり、嬉しく懐かしく愉しんだ。ひと口に医療ミステリと言っても、取り上げる要素は様々で、スポットライトが当たる人物も、切り口もさまざまなので、どの物語も新鮮に愉しめる一冊である。

その境界を越えてゆけ

  • 2020/11/08(日) 07:27:35


「物語の力が、私たちを少しだけ前に進ませてくれる」


世界中にはびこるさまざまな境界。たとえばジェンダー、たとえば人種。積もり積もった差別の実態は、一朝一夕に乗り越えられるものではない。境界線のこちらとそちらには、想像を絶する格差があったりするものである。そんな不毛な境界を、物語世界で越えて行こうという試みである。極個人的には、この雑誌的な作りは、何となく集中できない気がして苦手ではあるのだが、内容自体は興味深く読める一冊ではあった。