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問いのない答え*長嶋有
- 2013/12/30(月) 07:06:01
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なにをしていましたか?
先週の日曜日に、学生時代に、震災の日に――様々な問いと答えを「遊び」にして、あらゆる場所で緩やかに交流する人々の切実な生を描く、著者四年振りの長篇群像劇。
震災発生の三日後、小説家のネムオはtwitter上で、「それはなんでしょう」という言葉遊びを始めた。一部だけ明らかにされた質問文に、出題の全容がわからぬまま無理やり回答する遊びだ。設定した時刻になり出題者が問題の全文を明らかにしたとき、参加者は寄せられた回答をさかのぼり、解釈や鑑賞を書き連ね、画面上に“にぎやかななにか”が立ち上がるのだ。最近ヘアスタイリストと離婚したばかりの「カオル子」、ボールベアリング工場勤務の「少佐」、震災を機に派遣社員をやめた「七海」、東京郊外の高校に転校してきたばかりの美少女「蕗山フキ子」……気晴らしの必要な人だけ参加してくださいという呼びかけに集まったのは、数十人の常連だった。グラビアアイドルに取材する者、雑貨チェーン店の店長として釧路に赴任する者、秋葉原無差別殺傷事件の犯人に思いをやる者、亡き父の蔵書から押し花を発見する者、言葉遊びに興じながら、彼らはさまざまな一年を過ごす。そして二〇一二年四月、twitter上の言葉遊びで知り合ったある男女の結婚を祝うため、たくさんの常連たちが一堂に会することになり――。
Twitterをやったことのない人には、なんだかよくわからず、読みにくいだろうなぁ、とは思う。だが、やったことのある人には、あぁ、そうそう、と思わされることが多々あり、普段何気なく素通りしていることに改めて気づかされることもある。インターネット上の交流の手軽さと存外の奥深さを併せ持ったような印象である。インターネット上で買わされる軽い会話の基には、当然のことながらここの地道な暮らしが厳然と横たわっているのである。それを飾り、上辺だけを掬い、あるいはありのままを曝け出して、人々は140文字で孤独に呟きつつ他社と交わる。不完全な問いに答えるという、ただそれだけのことが、自分の裡側をみつめるきっかけになることもあり、思いを解き放つことになることもある。寂しいような愛おしいような一冊である。
夕子ちゃんの近道*長嶋有
- 2008/03/28(金) 07:06:06
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アンティーク店フラココ屋の二階で居候暮らしをはじめた「僕」。どうにも捉えどころのない彼と、のんきでしたたかな店長、大家の八木さん、その二人の孫娘、朝子ちゃんと夕子ちゃん、初代居候の瑞枝さん、相撲好きのフランソワーズら、フラココ屋周辺の面々。その繋がりは、淡彩をかさねるようにして、しだいに深まってゆく。だがやがて、めいめいがめいめい勝手に旅立つときがやってきて―。誰もが必要とする人生の一休みの時間。7つの連作短篇。
物語り全体に漂う なにか寂しげで地面からほんの少し浮かんだままのような心もとなさは、フラココ屋のアルバイトで二階に居候している「僕」がどこの誰ともわからないことがいちばんの理由だろう。いつでもどこへでも行ってしまえる不安定さを、しかしフラココ屋の店長は危ぶむでもなく大事な仕事を任せているのが不思議でもあるが当然であるようにも思えてしまう。
フラココ屋というちっとも儲かっているようには見えない古道具屋が、普通に暮らしながらもそれぞれに寂しさを抱えている登場人物たちをゆるく束ねていて、安心させられる。
タムラフキコさんの装画が物語の雰囲気をとてもよく表わしていると思う。
切なく寂しく、それでいてほっとあたたかくなるような一冊である。
ジャージの二人*長嶋有
- 2005/08/17(水) 17:09:49
☆☆☆・・
父と息子と犬のミロが北軽井沢の別荘で過ごす夏の日々の物語である。
などと書くと、爽やかな物語をイメージするかもしれないが、じめじめとして少々黴臭く、なにやら情けない事情を互いに胸に燻らせてのだらだらとした怠け者生活である。
別荘は、むかしむかし 祖母が、戦争がまた起きても困らないようにと何もない山の中に買ったものだし、二人が着ているのは、もったいながりやのその祖母があちこちからもらったり押し付けられたりしてダンボールに溜まっていた どこかの小学校のジャージなのだから。
家族――父と息子とか夫と妻とか――とはいちばん近いくせにいちばんどうしようもなく何も言えないもののようだ。互いを思いやってはいても そこから一歩近づいて直接的な行動に出られないのはお互いのことをわかりすぎているからだろうか、それとも実は何も知らないからだろうか。
泣かない女はいない*長嶋有
- 2005/05/18(水) 21:19:50
☆☆☆☆・
表題作のほかに、センスなし。
就職難のいま、落ちるのを覚悟で受けた試験になんとなく受かって入った物流会社に 睦美は通う。設計の段階からサイズを間違ったのではないかと思うほど小さなシャトルと呼ばれる乗り物に乗って。場所は大宮を少し過ぎたところ。
物流会社の仕事に 一緒に働く人たちに、距離を感じながらも少しずつなじみ、家には在宅で仕事をする恋人もいながら恋心を抱いたりもする。
とりたてて特別でも輝きに溢れているわけでもない、どちらかといえば地味に生きる人たちを描いて妙である。気持ちの揺れや流れがとても自然に描かれていて、睦美が自分と溶け合ってしまいそうになる一瞬がある。
著者が男性だということを疑いたくなるほど、女性の内面の描き方が絶妙なのだ。
パラレル*長嶋有
- 2005/05/07(土) 20:55:12
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