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妻の罪状*新津きよみ

  • 2022/01/11(火) 18:30:09


バナナの皮で、あの人殺せますか……?
家族関係はどんでん返しの連続!

夫と義母を殺した罪で、懲役10年の判決を受けた茅野春子。
「多重介護殺人事件」として知られるこの悲劇に意外すぎる真相が?(「妻の罪状」)
介護、遺産相続、8050問題、終活、夫婦別姓など、
今日的な7つの問題をテーマに名手があざやかに描く、心揺さぶるミステリ短編集。
変転する家族それぞれの心の機微が行きつく先にあるものとは……。

第1話 半身半疑
第2話 ガラスの絆
第3話 殻の同居人
第4話 君の名は?
第5話 あなたが遺したもの
第6話 罪の比重
第7話 妻の罪状


どの物語も、そこはかとなく恐ろしい。狂気めいたところもありながら、実際に起こらないとは言い切れない。どこかで一歩踏み出す方向を間違ったら、もしかすると自分も……、と思わされる怖さを秘めている。それでも、先を読まずにはいられない興味をそそられてしまうのである。怖いもの見たさだろうか。そしてさらには、人間の弱さと誘導されやすさも思い知らされる一冊である。

セカンドライフ*新津きよみ

  • 2021/02/13(土) 16:49:49


二十三年前に殺された父。母が殺人依頼したのかも…(「見知らぬ乗客」)。熟年離婚で手に入れたこの自由は手放したくない(「セカンドライフ」)。老後と呼ぶには若すぎる、寿命が延びた現代社会において第二の人生をどう生きるかは男も女も切実だ。そんなとき邪魔になるのは長年連れ添ったあの人―。定年世代の来し方行く末を七つの人生の情景で綴る、毒あり華あり上質のミステリー短篇集。


表題作のほか、「見知らぬ乗客」 「演じる人」 「誤算」 「三十一文字(みそひともじ)」 「雲の上の人」 「定年つながり」

人生百年時代、定年後のまだまだ長い人生をどのように過ごすか、それはひと昔前よりも切実な問題なのかもしれない。その時に、どんな行動を起こすのか。違う場所、違う立場の人たちの第二の人生をのぞき見するような物語と言えるのかもしれない。ブラックなテイストのものが多い気がするのは、夫と妻の思いの差、とも言えるのかもしれない。粒よりの一冊である。

星の見える家*新津きよみ

  • 2020/04/13(月) 18:36:54


安曇野で一人暮らしをする佳代子。病気がちの弟のため、家族で引っ越し、ペンションを始めたのだが、体調が回復した弟が東京の高校に進学したことを機に、家族はゆるやかに崩壊していく。一人になった佳代子は、ペンションをやめベーカリーを始めるのだが、そこにはある秘密が…(表題作)。再び生きることを目指す女性の恐怖と感動を描く、オリジナル短編集。


表題作のほか「危険なペア」 「二度とふたたび」 「五年日記」 「約束」 「再来」 「セカンドオピニオン」

どの物語も、読み始めて間もなく、次の展開が早く知りたくてページを繰る手が止まらなくなる。題材も、ストーリーの流れも、魅力的で、著者お得意の落とし方も見事で、毎回ときめく。粗挽き胡椒のように、ピリッとした後味も愉しめる一冊である。

夫が邪魔*新津きよみ

  • 2019/08/25(日) 19:19:34

夫が邪魔 (徳間文庫)
夫が邪魔 (徳間文庫)
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新津きよみ
徳間書店 (2019-06-11)
売り上げランキング: 8,062

仕事がしたい。
なのに、あの男は“私の家"に帰ってきて偉そうに「夕飯」だの「掃除」だの命令する。
苛立ちが募る女性作家のもとに、
家事を手伝いたいと熱望する
奇妙なファンレターが届く(表題作)。
嫌いな女友達より、恋人を奪った女より、
誰よりも憎いのは……夫かも。
あなたが許せないのは誰ですか。
第五十一回日本推理作家協会賞
短編部門候補作を含む極上ミステリー七篇。
(解説:杉江松恋)


目を惹くタイトルであり、多くの妻たちの共感を得られそうな印象だったのだが、実際は、設定が一般的とは言えないこともあり、いささか期待外れではあった。それでも、それぞれの物語の女性の気持ちが、実際の行動にどう結びついていくのかを想像しながら読むのは興味深くもあった。視点の移動による小さなどんでん返しもあり、著者らしい一冊と言えると思う。

二年半待て*新津きよみ

  • 2018/01/27(土) 18:26:59

二年半待て (徳間文庫)
徳間書店 (2017-08-03)
売り上げランキング: 15,698

婚姻届を出すのは待ってほしい──彼が結婚を決断しない理由は、思いもよらぬものだった(「二年半待て」)。このお味噌汁、変な味。忘れ物も多いし……まさか。手遅れになる前に私がなんとかしないと(「ダブルケア」)。死の目前、なぜか旧姓に戻していた祖母。“エンディングノート”からあぶりだされる驚きの真実とは(「お片づけ」)。人生の分かれ道を舞台にした、大人のどんでん返しミステリー。


就活・婚活・恋活・妊活・保活・離活・終活という、昨今よく使われる言葉にまつわるあれこれである。どの物語にも、なにがしかの裏の事情があり、すんなりハッピーな気持ちで読み終えられるものはほとんどない。そしてそれこそが魅力でもあるのである。胸の奥底がぞわりとする一冊だった。

同居人*新津きよみ

  • 2015/03/26(木) 20:05:42

同居人 (角川ホラー文庫)同居人 (角川ホラー文庫)
(2003/01)
新津 きよみ

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35歳、デザイナーの麻由美は都内に新築マンションを3800万円で購入する。ローンの繰り上げ返済のためにルームメイトを募り、添乗員・乃理子との同居生活がスタートした。しかし、お互いに「秘密」を抱えているために、ぎくしゃくしはじめる2人の関係。ある日乃理子が部屋に呼び入れた女性が、2人の生活を崩壊へと向かわせた―。嫉妬、虚栄心、独占欲…。女性心理の名手が紡ぎ出す、渾身のホラー・サスペンス。


初めから怖い。冷蔵庫がキーになっていて、実は乃理子が冷蔵庫に不倫相手の妻の……、などと考えてしまったが、それは深読みだったか。だが、見知らぬ他人が住む部屋の同居人になるというだけでもかなり怖い気もする。そして、お互いの疑心暗鬼も手伝って、さらなる恐怖を引き入れてしまうのだから、どうしようもない。タイトルの真の意味がラストになって判るが、そこはまったくのホラーで、叫びだしたくなる。じわじわと怖い一冊である。

トライアングル*新津きよみ

  • 2010/12/21(火) 07:18:35

トライアングルトライアングル
(2008/09/25)
新津 きよみ

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郷田亮二は、駆け出しの刑事。医学部を卒業して医師になったが、医師を辞めて刑事になったという変わった経歴の持ち主である。亮二のこの経歴には、過去に遭遇した事件が大きく影響していた。十歳の時、初恋の少女・葛城佐智恵が誘拐され、殺されたのだ。事件から十五年が経って時効が成立した時、亮二は自ら刑事となって、この事件を追い続けることを決意した。そんな亮二の前に、「葛城サチ」と名乗る美しい女性が現れた。彼女は、殺された葛城佐智恵にあまりにも似ていた。この女性はいったい何者なのか―?亮二の心は激しく揺れ動く。


ドラマになったのはまったく知らなかったが、Amazonのレビューはいつもながら酷評である。わたしはとても面白く読んだ。巧いと思った。二分の一成人式の作文や思春期の入り口に差しかかる10歳の心情、殺人事件と母親の事情、担任教師のその後、里親、そして事件の真相。さまざまな要素がそれぞれ並び立ち、しかも思ってもいないラストである。佐智恵の母が単身中国に渡ることを決意した理由はいささか説得力に欠けるようにも思うが、それ以外はとても好みの一冊だった。

アルペジオ*新津きよみ

  • 2008/05/01(木) 16:59:09

アルペジオアルペジオ
(1998/10)
新津 きよみ

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女は拳銃に運命を、警官は音楽に人生を賭けた。
女は夢みた結婚生活が夫の暴力で破綻し、家を飛び出した。
男は警視庁音楽隊でクラリネットを吹いている。
違う道を歩んできた2人の人生が、いまアルペジオ(分散和音)を奏でる。
新境地を拓く書下ろしサスペンス野心作!

「そういえば、良介さん、いま警察にいるって知ってる?」
どきっとした。垂水良介。大学2年の夏まで、1年間あまり交際していた男だ。
「警察官なんて、意外よね。良介さん。音楽好きでもの静かな感じだったでしょう?」
あの細くてしなやかな指でクラリネットのリング・キイを押さえていた良介と、警察官という職業とが結びつかなかった。――本文より


一時期つきあい、やがて未熟さゆえの他愛のない理由で別々の道を歩いていた由布子と良介の物語である。
由布子は身長の低さによるコンプレックスから、背が高く逞しい男と結婚し、暴力を振るわれて家を出る。
良介は警察官になり音楽隊に配属されてクラリネットを吹く。
由布子は長身の逸美に世話になり、偶然拾ってそのまま持ってきてしまった拳銃を彼女に売る。
良介は上司で長身で優秀なクラリネット奏者の橋爪の豪邸に招かれ、立派なクラリネットをプレゼントされる。
ふたりは、別々の場所でそれぞれに重すぎる荷物を背負い、違う人たちと関わりながら別々に生きているはずだった。いつしか引き合うように糸が撚り合わされるまでは・・・・・。

由布子と良介それぞれ(特に由布子)の平穏とは言えない人生が悩ましく苦しくなるようである。根底にあるのが、背の低さという他人にはなかなか理解されないコンプレックスであることが、現実味を増し、胸を打たれる。途中で逸美の哀しい人生も撚り合わさって、ますます目が離せなくなる。一気に読ませる一冊だった。

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ママの友達*新津きよみ

  • 2007/10/31(水) 18:39:53


ママの友達ママの友達
(2007/03/20)
新津 きよみ

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突然届いた中学時代の交換日記が、四十代のいまを変えていく
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四十代の主婦・野島典子は、反抗的になってきた中学二年の娘・美咲との関係に
悩んでいた。そんな典子のもとに、ある日差出人不明で届いた中学時代の交換
日記。送り主は、メンバー四人の中でリーダー格だった長谷川淳子かと思われた
が、淳子は一週間ほど前に殺されていた。そのことをニュースで知り、驚く典
子。音信不通だった残りのふたり----すでに孫がいる等々力久美子と、幼い娘
を持つシングルマザーの藍川明美----の人生も、日記をきっかけに大きく動き
出す。
女性の人生に起こる様々な事件をサスペンスタッチで描き出す、感動の書き下ろ
し長編!


タイトルから受けるほのぼのとした感じとは裏腹に、物語はなにやら不穏な幕開けである。典子の元に届けられた「交換日記在中」と書かれた封筒に送り主の名はなく、宛名も定規を当てて書かれたような文字なのだった。中身は確かに典子が中学生のころ四人で回していた交換日記のノートだったのだが・・・。
突然届いた三十年前の交換日記は、典子に中学生のころのことを思い出させただけではなく、現在中学二年の娘・美咲についての悩みにまで強く意識するきっかけになる。三十年間交流が途絶えていた間、四人はそれぞれにさまざまなものを抱えながら生きていて、想いは日記をきっかけにして過去と現在を微妙に揺らす。
誰からもうらやまれる優等生だったハセジュンが殺された事件の意味というか位置づけにはもう少し重みがあってもいいような気はするが、それもひとつの人生なのだと言えばそうなのだろう。女・四十五歳の立ち位置の微妙な不安定さがよく表わされた一冊だと思う。

緩やかな反転*新津きよみ

  • 2004/08/05(木) 13:58:36

☆☆☆☆・


ショックによって 魂が別の人間に宿ってしまう。
こんな設定の小説はいくつか知っているが この作品は ただ魂が入れ替わるだけではない。
過去に遡り記憶の不確かさ身勝手さに不意を突かれる。すべてを覚えているということは なんと残酷で容赦のないことなのか。

物語は終わっても まだ終われない家族がいる。これから野田一家はどうなっていくのだろう。野田光代は 野田光代に戻れるのだろうか。

キーワードは鏡。鏡にはきっと何かが宿っている。