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遊戯*藤原伊織
- 2007/10/04(木) 19:39:13
追悼・藤原伊織。最後の謎。作家は何を企んでいたのか。著者が闘病中も書き続けた表題作と、遺作となった中編「オルゴール」を収録。ネット上の対戦ゲームで出会った男と女。正体不明の男に監視されながら、2人は奇妙に繋がり合っていく。 遊戯
藤原 伊織 (2007/07)
講談社
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遊戯、帰路、侵入、陽光、回流、と進んできた連作はここで途切れている。いやでも興味をそそられる導入部を終え、これから謎がひとつひとつ解き明かされていこうというところで幕は下ろされてしまったのだ。この先にどんな物語が続くのかは、読者それぞれが想像するしかないのである。著者の頭の中には、いったいどんなストーリーが眠っていたのだろう。知り得ないだけに切実に知りたくもある。残念としか言えない。
ダナエ*藤原伊織
- 2007/02/21(水) 19:34:10
☆☆☆・・ 個展に出品された肖像画に何者かがナイフを突き立て、硫酸をかけた。 ダナエ
藤原 伊織 (2007/01)
文藝春秋
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その事実を知った画家がとった行動とは?(『ダナエ』)
男たちと、女たちの痛切な悲哀を描いた、心揺さぶられる待望の最新作品集!
表題作のほか、「まぼろしの虹」「水母」
ギリシャ神話のダナエになぞらえた復讐劇なのか。切り裂かれ硫酸をかけられた肖像画の作者・宇佐美がたどりついた真相は・・・・・。
男たちと 女たちの、と帯にはあるが、親と子の捩れた絆、というか抗えない運命の物語であるようにも思える。
表題作以外の二作品の底にも親子の捩れた関係性が窺える。
ひまわりの祝祭*藤原伊織
- 2006/03/19(日) 17:41:59
☆☆☆・・
表紙にファン・ゴッホ(ファンまでつけるのが正確なのだとか)の「ひまわり」が乗っているので、それに関係する物語なのだろうとは思って読みはじめたのだが、物語り半ばの200ページを過ぎる頃まで何がどう関係してこれほどハードなストーリーが展開されているのかが判らない。主人公・秋山秋二に突然のように降りかかる災厄の原因の見当が皆目つかないもどかしさと早く核心に触れてくれ、という欲求で半分まで読み進むと、後半 いきなり加速し、二転三転しつつ真実に迫る、という感じである。
行動を見張られていたり、出会いを仕組まれたり、激しい銃撃戦があったりする割には 物語全体に漂う印象は静かである。不思議だが、これは秋山のキャラクターの成せる技でもあるのかもしれない。
物語がはじまったときにはすでに亡くなっている秋山の妻・英子の想いがいつもどんなときにも秋山に寄り添っているのが切なくもある。ラブストーリーと言ってもいいかもしれない。
シリウスの道*藤原伊織
- 2005/08/31(水) 13:39:32
☆☆☆・・
絶賛の声、続々。話題沸騰の長編ミステリー!
離ればなれになった3人が25年前の「秘密」に操られ、
吸い寄せられるように、運命の渦に巻き込まれる――。
東京の大手広告代理店の営業部副部長・辰村祐介は子供のころ大阪で育ち、
明子、勝哉という2人の幼馴染がいた。
この3人の間には、決して人には言えない、ある秘密があった。
それは・・・。 (帯より)
結果からいえば、辰村の仕事もプライベートも、駆けずり回った割には報われないままなのだが、仕事面では誇りを捨てなかったすがすがしさが残り、プライベートでは未来は少し変わるかもしれないというほの明るい期待が残る。
つまみがホットドッグしかないバーには、以前どこかできたことがあると思ったのだが、『テロリストのパラソル』で来ていたのだった。
『テロリストのパラソル』の続編というわけではないのだろうが、あのときのバー≪吾兵衛≫が重要な役割を果たしている。
てのひらの闇*藤原伊織
- 2005/01/05(水) 08:46:34
☆☆☆☆・
2人の男の道を決定づけたのは、生放送中のスタジオで発せられた、
不用意な、しかし致命的な一言だった。
20年後、その決着をつける時が訪れ、1人は自死を、
1人は闘うことを選んだ。
(帯より)
男には自分の身を滅ぼしても守ろうとするものがあった。
そしてその男の想いを見届けたいと思う男がいた。
生まれとか育ちとか職業とか地位とかいうものではとても判断できない人間の価値というものを考えさせられる。
この物語の登場人物の中で一番のクズは最も地位の高い人物であろう。
この物語の中では端役であったとしても その背後にある人生を思わずにはいられない。核の部分に光るものを持った人物が多く、それ故の身の処し方の哀しさもぬぐえない。
藤原作品は、お腹の底にずしっと溜まる。
ダックスフントのワープ*藤原伊織
- 2004/09/05(日) 18:04:08
☆☆☆・・
利発で難しい言葉を使いたがる癖のある自閉傾向の10歳の少女マリの家庭教師として――標準的な家庭教師10人分ほどの報酬で――雇われている心理学科の学生である「僕」が 彼女にしている授業は [話をすること]である。今は老いたダックスフントの物語を話しているところだ。
マリは「僕」の話を自分なりに噛みしめて理解しているように見える。そこに何か意味を見出そうとするように ときに 自分の身に引き比べたり 遠いこととして眺めているように。それでも「僕」の家庭教師としての仕事の効果は出ていたように思える。
マリと「僕」とのやりとりは 10歳の少女と大学生の青年との会話、というよりも 哲学者同士の会話、とでもいう雰囲気に包まれている。人生を悟っているのか あるいは逆に人生を諦めているように見える。しかし 外側を包む雰囲気とはうらはらに 本当はキラキラと生きたいのだと思う。弾むように生き生きと。
なのに_____。
テロリストのパラソル*藤原伊織
- 2004/07/07(水) 12:46:19
☆☆☆☆・
70年代の学園紛争の中心となった世代の物語である。
その時から20年以上が経った ある10月の雨上がりの土曜日、新宿中央公園でその事件は起こる。その事件とは多数の死傷者を出す爆破事件である。
学園紛争をリアルタイムでは知らないが、主義主張とは別に 盛り上がらざるを得ない雰囲気 というものも多分に在ったのではないかと思われる。熱せられた空気が冷えた時 ほとんどの者は我を取り戻し何かを背負いつつ日常に戻ったのではないだろうか。
だがここに 日常に戻れなかった男がいるのだ。彼は 心の中の沸点を越えることもなく いとも容易くテロリストへの道を歩きつづけてしまったように見える。静か過ぎて恐ろしくなる。
終止符を打つきっかけになったのは一首の歌だというのも象徴的である。
殺むるときもかくなすらむかテロリスト蒼きパラソルくるくる回すよ
短歌は詩よりときには日記より 胸のうちを顕わにするものなのかもしれない。
菊地は どんな明日を生きていくのだろうか。生きている限り平安はないのだろうか。
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