三鬼--三島屋変調百物語 四之続*宮部みゆき

  • 2017/03/21(火) 12:39:35

三鬼 三島屋変調百物語四之続
宮部 みゆき
日本経済新聞出版社
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江戸の洒落者たちに人気の袋物屋、神田の三島屋は“お嬢さん"のおちかが一度に一人の語り手を招き入れての変わり百物語も評判だ。訪れる客は、村でただ一人お化けを見たという百姓の娘に、夏場はそっくり休業する絶品の弁当屋、山陰の小藩の元江戸家老、心の時を十四歳で止めた老婆。亡者、憑き神、家の守り神、とあの世やあやかしの者を通して、せつない話、こわい話、悲しい話を語りだす。
「もう、胸を塞ぐものはない」それぞれの客の身の処し方に感じ入る、聞き手のおちかの身にもやがて心ゆれる出来事が……

第一話 迷いの旅籠
第二話 食客ひだる神
第三話 三鬼
第四話 おくらさま


今回はまた恐ろしくも面妖な語りばかりである。語る方も聞く方も、体力も気力も要りそうで、それを読むこちらも思わず息を詰めていることに気づかされることが再々ある。だが、語り手が心の重荷をすっと降ろして、楽な気持ちで帰っていくのはいつでもうれしいことである。おちかの聞き手ぶりもすっかり堂に入ってきたこのごろでもある。そして、今作では、おちかのこれからの生き方の標となるような出来事もあり、娘らしい人生を歩むおちかをぜひこの目で見たいものだと思わされる一冊にもなっている。

悲嘆の門 下*宮部みゆき

  • 2015/05/30(土) 17:10:06

悲嘆の門(下)
悲嘆の門(下)
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宮部 みゆき
毎日新聞社
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「連続切断魔」の正体は?「悲嘆の門」とは何か?圧巻の終章に向けて物語は加速する!最高傑作誕生。このめくるめく結末に震撼せよ。


あぁ、やっぱりこの手の物語とは相性が良くなかった。現実のミステリの部分は純粋に愉しめ、孝太郎の人間関係も興味深く読んだが、ガラが絡み、孝太郎自身が魔物化してしまってはもう着いて行けなかった。伝えたいことはよく判るのだが、テイスト自体が受け付けないので、最後は義務のように読んでしまってもったいない一冊だった。

悲嘆の門 上*宮部みゆき

  • 2015/05/23(土) 19:01:22

悲嘆の門(上)
悲嘆の門(上)
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宮部 みゆき
毎日新聞社
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日本を縦断し、死体を切り取る戦慄の殺人事件発生。
ネット上の噂を追う大学一年生・孝太郎と、退職した刑事・都築の前に、“それ"が姿を現した!
ミステリーを超え、ファンタジーを超えた、宮部みゆきの新世界、開幕。大ベストセラー『英雄の書』に続く待望の新刊!


貧困ゆえに飢えと病で命を落とした母親と、なすすべもなく寄り添う五歳の娘。殺害された挙句身体の一部を切り取られる、連続猟奇事件。行方不明になるホームレスたち。茶筒ビルと呼ばれる廃ビルの上から下界を見下ろすガーゴイル像の微妙な変化。これらの断片が今後どうつながるのか、つながらないのか。硬派のミステリの様相で始まった物語だが、サイバーパトロールの会社「クマー」でアルバイトする孝太郎が、あることを調べているさなか行方不明になったアルバイト仲間の森永を探し始めると、次々に不可解なことに出くわし、物語は一気にファンタジーに移行する。実はファンタジー、ちょっと苦手である。前半のテイストのままで進んでくれた方が好みではあるのだが、これはこれで下巻でどんな風に展開していくのか興味が湧くのも確かである。前半のいくつかのピースがどんな風に落ち着くのだろうか。下巻も愉しみな一冊である。

荒神*宮部みゆき

  • 2014/12/15(月) 16:58:45

荒神荒神
(2014/08/20)
宮部みゆき

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元禄太平の世の半ば、東北の小藩の山村が、一夜にして壊滅状態となる。
隣り合う二藩の反目、お家騒動、奇異な風土病など様々な事情の交錯するこの土地に、
その"化け物"は現れた。
藩主側近・弾正と妹・朱音、朱音を慕う村人と用心棒・宗栄、
山里の少年・蓑吉、小姓・直弥、謎の絵師・圓秀……
山のふもとに生きる北の人びとは、
突如訪れた"災い"に何を思い、いかに立ち向かうのか。
そして化け物の正体とは一体何なのか――!?
その豊潤な物語世界は現代日本を生きる私達に大きな勇気と希望をもたらす。
著者渾身の冒険群像活劇。


565ページという大作で、しかも元禄の世の山里が舞台、しかも怪物が村を襲う物語。歴史、ホラーと個人的に苦手な分野の揃い踏みという感じで、読みはじめてすぐ、読むのをやめようかと一瞬思ったが、少し読み進めると、苦手は苦手として、それを取り巻く人間関係の機微や、使命感ゆえの強さなどの魅力に惹きこまれることになる。また、元禄の物語なのだが、どうしても現代と重ねて読んでしまうところが多く、やり切れなく哀しい思いに満たされそうにもなる。人の心の醜さや身勝手が何を生むか、それがどれほど恐ろしく虚しいものかを思い知らされる一冊でもある。

ペテロの葬列*宮部みゆき

  • 2014/04/20(日) 13:06:45

ペテロの葬列ペテロの葬列
(2013/12/20)
宮部 みゆき

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今多コンツェルン会長室直属・グループ広報室に勤める杉村三郎はある日、拳銃を持った老人によるバスジャックに遭遇。事件は3時間ほどであっけなく解決したかに見えたのだが―。しかし、そこからが本当の謎の始まりだった!事件の真の動機の裏側には、日本という国、そして人間の本質に潜む闇が隠されていた!あの杉村三郎が巻き込まれる最凶最悪の事件!?息もつけない緊迫感の中、物語は二転三転、そして驚愕のラストへ!『誰か』『名もなき毒』に続く杉村三郎シリーズ待望の第3弾。


杉村三郎シリーズ、これで完結なのだろうか、というのが読後すぐの思いである。杉村が巻き込まれたバスジャック事件を軸に、連帯感を持った人質たちの身を案じ、悪徳詐欺商法の内実に切り込み、広報室内の人間関係に振り回され、今多コンツェルンのなかでの立場に葛藤し、最愛の妻と娘との時間を大切にし……、という物語の本筋はとてもスリルと人情に富んでいて興味深く、ページを繰る手が止まらなかったのだが、やっと一段落したと思った折も折にこの仕打ちはあんまりなのではないだろうか。それでも杉村に、納得してへこたれず強くなれと要求するのか。腑に落ちない気分のままこのシリーズが完結してしまうのは忍びないので、ぜひ北川の遺志を継いで私立探偵になった杉村の姿を続編で書いていただきたい。面白かったのだが、最後の最後でもやもや感が残る一冊である。

<完本>初ものがたり*宮部みゆき

  • 2014/02/13(木) 16:57:29

<完本>初ものがたり (PHP文芸文庫)<完本>初ものがたり (PHP文芸文庫)
(2013/07/17)
宮部 みゆき

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文庫本未収録の三篇を加え、茂七親分の物語が再び動き始めた!茂七とは、手下の糸吉、権三とともに江戸の下町で起こる難事件に立ち向かう岡っ引き。謎の稲荷寿司屋、超能力をもつ拝み屋の少年など、気になる登場人物も目白押し。鰹、白魚、柿など季節を彩る「初もの」を巧みに織り込んだ物語は、ときに妖しく、哀しく、優しく艶やかに人々の心に忍び寄る。ミヤベ・ワールド全開の人情捕物ばなし。


<愛蔵版>をすでに読んでいるが、そこに未収録の「寿の毒」と「鬼は外」を加えた九編である。
謎の稲荷寿司の屋台の親父の素性は、すっかり判るかと思いきや、そこはまだ定かにはならず、しかしほんの小さな糸口はつかめたような気がするようなしないような……。それはそれとして、この屋台で出される料理が相変わらずにおいしそうなのである。茂七親分に連れて行ってもらいたいくらいである。茂七親分が頭を悩ませているときに、親父が何気なくもらすひと言にも味わいがあり、それが探索のヒントになったりするのも興味深い。やはりこの親父只者ではない。手下の権三や糸吉との掛け合いも、リズミカルで心憎い。稲荷寿司屋台の親父の謎が明かされるのも愉しみなシリーズである。

宮部みゆきの江戸怪談散歩*宮部みゆき

  • 2013/10/29(火) 13:06:40

宮部みゆきの江戸怪談散歩 (新人物文庫)宮部みゆきの江戸怪談散歩 (新人物文庫)
(2013/08/08)
宮部 みゆき

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人の業がなせる、恐ろしくも切ない怪談話の語り部・宮部みゆき。稀代のストーリーテラーが織りなす物語には、どんな思いがあったのか。『泣き童子』が話題の「三島屋変調百物語」シリーズをはじめ、物語の舞台を歩きながらその魅力を探る異色の怪談散策!さらに怪異の世界を縦横に語りつくす北村薫氏との特別対談に加え、“今だから読んでほしい”小説4編を厳選。ファン必携!著者責任編集「宮部怪談」公式読本。


「三島屋変調百物語」の舞台となった界隈の地図を冒頭に載せ、辺りを散策するという趣向で始まる。その後、北村薫氏との対談や、百物語の一篇である「曼珠沙華」など宮部作品や宮部氏推薦の怪談が配されるという構成である。
ひと口に怖い話と言っても、はっきりしたあるものに焦点を定めた怖さ、なにやら得体の知れない怖さなど、さまざまあることに改めて思い至る。なにが怖いのか判らない得体の知れなさほど恐ろしいものはないと思わされる一冊である。

泣き童子--三島屋変調百物語 三之続*宮部みゆき

  • 2013/08/04(日) 16:52:20

泣き童子 三島屋変調百物語参之続泣き童子 三島屋変調百物語参之続
(2013/06/28)
宮部 みゆき

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不思議で切ない「三島屋」シリーズ、待望の第三巻
江戸は神田。叔父の三島屋へ行儀見習いとして身を寄せるおちかは、叔父の提案で百物語を聞き集めるが。
人気時代小説、待望の第三巻。


変わり百物語の聞き役もすっかり板についてきたおちかである。聞いて聞き捨て、語って語り捨てが約束だが、おちかは重荷にならないのだろうか、といささか心配になるくらい、胸に重い語りが続く。聞き捨てとはいっても、聞いている間は、語り手の想いに寄り添い、その場に立ち会うような心持ちでいるのだから、身も心も疲れ果てるのではないかとつい案じてしまう。だが、語り終えた語り手は、一様に重荷を下ろしたように心を軽くして帰っていくのだ。それがおちかの糧になってもいるのかもしれない。おちかがいつの日か人並みのしあわせを手にすることができますように、と願わずにはいられないシリーズである。

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桜ほうさら*宮部みゆき

  • 2013/04/17(水) 16:55:24

桜ほうさら桜ほうさら
(2013/02/27)
宮部 みゆき

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舞台は江戸深川。
主人公は、22歳の古橋笙之介。上総国搗根藩で小納戸役を仰せつかる古橋家の次男坊。
大好きだった父が賄賂を受け取った疑いをかけられて自刃。兄が蟄居の身となったため、江戸へやって来た笙之介は、父の汚名をそそぎたい、という思いを胸に秘め、深川の富勘長屋に住み、写本の仕事で生計をたてながら事件の真相究明にあたる。父の自刃には搗根藩の御家騒動がからんでいた。
ミステリアスな事件が次々と起きるなか、傷ついた笙之介は思いを遂げることができるのか。「家族は万能薬ではありません」と語る著者が用意した思いがけない結末とは。
厳しい現実を心の奥底にしまい、貸本屋・治兵衛が持ってきたくれた仕事に目を開かれ、「桜の精」との淡い恋にやきもきする笙之介の姿が微笑ましく、思わず応援したくなる人も多いはず。
人生の切なさ、ほろ苦さ、そして長屋の人々の温かさが心に沁みる物語。


とにかく登場人物がみないい。すべてが善人というわけではなく、悪人も、ずるがしこい奴も、ろくでなしも様々いるのだが、どの人物もいまこの時を生きているように見える。主人公の笙之介ももちろんである。武士でありながら剣術の腕はイマイチで、ある目的のために貧乏長屋で貸本屋の治兵衛の頼まれ仕事をしながら暮らしているが、芯には揺るがない強さを持っている。長屋やその周りの人間関係も、つかず離れずありがたい。笙之介自身は、大きな想いに抱かれて操られたようにも見えるが、だからこそそこから前へ進むことができるのだろう。周囲の想いを受け止めた笙之介の明日が穏やかでありますように、と願わずにはいられない一冊である。

ソロモンの偽証--第三部 法廷*宮部みゆき

  • 2012/12/07(金) 19:18:55

ソロモンの偽証 第III部 法廷ソロモンの偽証 第III部 法廷
(2012/10/11)
宮部 みゆき

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この裁判は仕組まれていた!? 最後の証人の登場に呆然となる法廷。驚天動地の完結篇! その証人はおずおずと証言台に立った。瞬間、真夏の法廷は沸騰し、やがて深い沈黙が支配していった。事件を覆う封印が次々と解かれてゆく。告発状の主も、クリスマスの雪道を駆け抜けた謎の少年も、死を賭けたゲームの囚われ人だったのだ。見えざる手がこの裁判を操っていたのだとすれば……。驚愕と感動の評決が、今下る!


驚天動地、というか、第二部までで喉元までせり上がってきていた疑心と膨らんだ想像に着地点が与えられてほっとした、というような第三部だったような気がする。物語の筋としては、前述のとおりなのだが、単にそれだけではないものがこの物語にはあるように思う。結果ではなくそこに行きつく過程こそが、そしてその過程に自分たちが立ち会うことがなにより大事なのだというのが、学校内裁判に関わった中学生たちの心情ではないだろうか。そして、エピローグで張りつめていたものが、ふっと溶かされていく心地になった。これがあってよかった。欲を言えば、野田健一だけでなく、神原和彦の、大出俊介の、藤野涼子の、ほかのメンバーのその後も知りたかった。そして、生きるということについて考えさせられる一冊でもあった。

ソロモンの偽証--第二部 決意*宮部みゆき

  • 2012/12/01(土) 21:30:57

ソロモンの偽証 第II部 決意ソロモンの偽証 第II部 決意
(2012/09/20)
宮部 みゆき

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騒動の渦中にいるくせに僕たちは何も知ろうといなかった。けど、彼女は起ちあがった。校舎を覆う悪意を拭い去ろう。裁判でしか真実は見えてこない!彼女の覚悟は僕たちを揺さぶり、学校側の壁が崩れ始めた…気がつけば、走り出していた。不安と圧力の中、教師を敵に回して―他校から名乗りを上げた弁護人。その手捌きに僕たちは戦慄した。彼は史上最強の中学生か、それともダビデの使徒か―。開廷の迫る中で浮上した第三の影、そしてまたしても犠牲者が…僕たちはこの裁判を守れるのか!?


第一部のラストの藤野涼子の決意で動き出した第二部である。渦中にいながら蚊帳の外状態に置かれ、自分たちも積極的に知ろうとしないまま、割り切れない思いだけを胸にわだかまらせていた柏木の同級生たち。涼子の一歩によって、ただ真実を知りたいという思いが、彼らを動かし、自分たちで学校内裁判をすることになったのである。弁護人として加わった他校の生徒・神原は、複雑な環境にありながら有能な弁護人ぶりを発揮し、三中のメンバーを助け、あるいはリードして共に真実へと向かっている。――と言い切っていいのかどうか、実は確証が持てずにいる。彼には何かある。それが喜ぶべきことなのか悲しむべきことなのかはまだ判らないが、第三部ではきっとその辺りもはっきりするのだろう。第二部は、夏休みのほんの短い期間のことなのだが、これでもかと言うくらい驚くべき新しいことが、事件も含めて起こったので、第三部でこれらがどういう風に収束していくのかが愉しみである。第一部以上に惹きこまれた一冊だった。

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ソロモンの偽証--第一部 事件*宮部みゆき

  • 2012/11/06(火) 21:38:43

ソロモンの偽証 第I部 事件ソロモンの偽証 第I部 事件
(2012/08/23)
宮部 みゆき

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クリスマスの朝、雪の校庭に急降下した14歳。彼の死を悼む声は小さかった。けど、噂は強力で、気がつけばあたしたちみんな、それに加担していた。そして、その悪意ある風評は、目撃者を名乗る、匿名の告発状を産み落とした―。新たな殺人計画。マスコミの過剰な報道。狂おしい嫉妬による異常行動。そして犠牲者が一人、また一人。学校は汚された。ことごとく無力な大人たちにはもう、任せておけない。学校に仕掛けられた史上最強のミステリー。


それぞれに700ページを超える三部作の第一部である。中学二年男子が校舎の屋上から落ちて亡くなった。その事件をきっかけに学校や生徒たちに広がった波紋は、第二、第三の事件を生むことになる。導入部である第一部から、緊迫感に満ちており、主人公たちが14歳という多感な年代だけになおさら、周囲の判断や対応に関心が向く。そしてラストの藤野涼子の決意によって、第二部の展開にますます興味が湧くのだった。テーマはもちろん、ひとつひとつの判断、ひとつひとつの言葉の重みがのしかかってくるような一冊である。

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おまえさん【上】【下】*宮部みゆき

  • 2012/03/23(金) 18:54:37

おまえさん(上)おまえさん(上)
(2011/09/22)
宮部 みゆき

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痒み止め薬「王疹膏」を売り出し中の瓶屋の主人、新兵衛が斬り殺された。本所深川の“ぼんくら”同心・井筒平四郎は、将来を期待される同心・間島信之輔(残念ながら醜男)と調べに乗り出す。その斬り口は、少し前にあがった身元不明の亡骸と同じだった。両者をつなぐ、隠され続けた二十年前の罪。さらなる亡骸…。瓶屋に遺された美しすぎる母娘は事件の鍵を握るのか。大人気“ぼんくら”シリーズ第三弾。あの愉快な仲間たちを存分に使い、前代未聞の構成で著者が挑む新境地。


辻斬りに遭ったと思われる身元不明の男の亡骸が見つかり、そのあとになかなか消えない人像(ひとがた)が残された。その後、生薬屋・瓶屋の主人・新兵衛が斬られ、どうやら同じ人物の手によるらしいと判明し、同心・井筒平四郎と間島信之輔は調べに乗り出す。平四郎の甥・弓之助や、信之輔の叔父・源右衛門の知恵を借り、岡っ引き・政五郎やその手下のおでこの三太郎の助けも借りながら、二十年前のいわくに遡る。平四郎が入り浸っているお菜屋のお徳とのやりとりも気持ちがいいし、彼らを取り巻く人たちがみな生き生きと描かれていて、ほんとうに生きていて、日々を暮らしているような心地にさせられる。上巻では、いよいよこれからミステリ部分の謎が解き明かされるか、というところで終わっているのも、巧みである。早く続きを知りたい要素がたくさんの一冊である。下巻が愉しみ。


おまえさん(下)おまえさん(下)
(2011/09/22)
宮部 みゆき

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二十年前から続く因縁は、思わぬかたちで今に繋がり、人を誤らせていく。男は男の嘘をつき、女は女の道をゆく。こんがらがった人間関係を、“ぼんくら”同心・井筒平四郎の甥っ子、弓之助は解き明かせるのか。事件の真相が語られた後に四つの短篇で明かされる、さらに深く切ない男女の真実。


謎解きは、切なくやり切れないものだった。盲点ともいうべき人物の存在が浮かび上がり、にわかにそれまでとは違った方向に目が向けられるようになったのである。「おまえさん」は、過去の罪が生んだ哀しい事件を解き明かす物語だが、それに連なる四つの物語は、人の恋心の物語でもあるように思われる。恋ゆえに理不尽な想いに悩み、恋ゆえに恐ろしい目に遭い、恋ゆえに真実を見失う。そして今作では、レギュラー陣の人となりがより生き生きと濃く感じられた。弓之助とおでこ、そして弓之助の兄・淳三郎のこれからもずっと見守っていきたいと思わされる一冊である。

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ばんば憑き*宮部みゆき

  • 2011/06/16(木) 14:35:09

ばんば憑きばんば憑き
(2011/03/01)
宮部 みゆき

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湯治旅の帰途、若夫婦が雨で足止めになった老女との相部屋を引き受けた。不機嫌な若妻をよそに、世話を焼く婿養子の夫に老女が語り出したのは、五十年前の忌まわしい出来事だった…。表題作「ばんば憑き」のほか、『日暮らし』の政五郎親分とおでこが謎を解き明かす「お文の影」、『あんじゅう』の青野利一郎と悪童三人組が奮闘する「討債鬼」など、宮部みゆきの江戸物を縦断する傑作全六編。


表題作のほか、「坊主の壺」 「お文の影」 「博打眼」 「討債鬼」 「野鎚の墓」

「ばんば」とは、強い恨みの念を抱いた亡者のことだそうである。どの物語もおぞましく恐ろしく足元から寒気が這い上がってくるような物語であるが、登場する江戸の人たちの暮らし向きや関わり方が慎ましいがあたたかくてほっとさせられる。見知った顔が活躍しているのを見るのもまた嬉しいものである。おぞましく惨い妖しであるが、その実を知れば哀しみにあふれていて哀れでもある。人の昏く哀しい心の溜まり場になってしまった怪異なものを問答無用に退治するだけではないのが人間らしくて救われもする。著者らしい一冊である。

小暮写眞館*宮部みゆき

  • 2011/03/01(火) 13:36:08

小暮写眞館 (100周年書き下ろし)小暮写眞館 (100周年書き下ろし)
(2010/05/14)
宮部 みゆき

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物語のすべてが詰まった700ページの宝箱著者3年ぶり現代エンターテインメント長編。


第一話 小暮写眞館  第二話 世界の縁側  第三話 カモメの名前  第四話 鉄路の春

700ページを超える大作である。だが、厚さを感じさせない面白さでぐいぐい読ませる、ミステリ要素のあるファンタジーとでもいうような物語である。
舞台は、亡くなった小暮さんがやっていた写眞館を買い取ってそのまま住んでいる花菱家。そして、語り手である花菱家の長男・英一が通う都立三雲高校や花菱家に小暮写眞館を売った不動産屋やその周辺である。鍵になるのは幽霊、そして心霊写真。並べると妖しげな物語のようだが、物語自体にはまやかしも妖しさも怪しさも微塵もなく、高校生が主体となって行動する微笑ましくもあるものである。登場人物がそれぞれ個性的だが、誰もがみないい味を出していて生きて動いている姿が容易く想像できるのがいい。みんなが心やさしく責任感と思いやりを持っていて、それゆえに行き違ったりもするのだが、そのときの切なさもたまらない。ぽっかり雲が浮かぶ大空を心行くまで眺めながら、いまごろみんなどうしているだろうとときどき思い出したくなるような一冊である。