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きたきた捕物帖*宮部みゆき

  • 2021/05/03(月) 18:47:03


宮部みゆき、久々の新シリーズ始動! 謎解き×怪異×人情が味わえて、著者が「生涯、書き続けたい」という捕物帖であり、宮部ワールドの要となるシリーズだ。
舞台は江戸深川。いまだ下っ端で、岡っ引きの見習いでしかない北一(16歳)は、亡くなった千吉親分の本業だった文庫売り(本や小間物を入れる箱を売る商売)で生計を立てている。やがて自前の文庫をつくり、売ることができる日を夢見て……。
本書は、ちょっと気弱な主人公・北一が、やがて相棒となる喜多次と出逢い、親分のおかみさんや周りの人たちの協力を得て、事件や不思議な出来事を解き明かしつつ、成長していく物語。
北一が住んでいるのは、『桜ほうさら』の主人公・笙之介が住んでいた富勘長屋。さらに『<完本>初ものがたり』に登場する謎の稲荷寿司屋の正体も明らかになるなど、宮部ファンにとってはたまらない仕掛けが散りばめられているのだ。
今の社会に漂う閉塞感を吹き飛ばしてくれる、痛快で読み応えのある時代ミステリー。


新シリーズの始まりである。人望のある岡っ引き・千吉親分が、シリーズが始まったとたんにあの世の人になってしまい、どうなることかと思っていたら、幼いころに拾われて世話になっていた北一が、千吉親分のおかみさんである盲目の松葉の知恵を借り、その手足となって、尊敬する親分の後を継いでいく物語になりそうで、愉しみである。相棒になりそうな喜多次とも出会って、北一がどんどん頼もしくなっていきそうな予感である。これからますます愉しみなシリーズである。

さよならの儀式*宮部みゆき

  • 2019/11/15(金) 19:07:56

さよならの儀式
さよならの儀式
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宮部みゆき
河出書房新社
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「母の法律」
虐待を受ける子供とその親を救済する奇蹟の法律「マザー法」。でも、救いきれないものはある。
「戦闘員」
孤独な老人の日常に迫る侵略者の影。覚醒の時が来た。
「わたしとワタシ」
45歳のわたしの前に、中学生のワタシが現れた。「やっぱり、タイムスリップしちゃってる! 」
「さよならの儀式」
長年一緒に暮らしてきたロボットと若い娘の、最後の挨拶。
「星に願いを」
妹が体調を崩したのも、駅の無差別殺傷事件も、みんな「おともだち」のせい?
「聖痕」
調査事務所を訪れた依頼人の話によれば----ネット上で元〈少年A〉は、人間を超えた存在になっていた。
「海神の裔」
明治日本の小さな漁村に、海の向こうから「屍者」のトムさんがやってきた。
「保安官の明日」
パトロール中、保安官の無線が鳴った。「誘拐事件発生です」なぜいつも道を間違ってしまうのか……


いつものようにボリュームのある一冊ではあるが、短編集なので、気軽に読み始められるのは確かである。物語のテイストは、完全にとは言わないが、かなりSFに傾いている。しかも、後半になるほどその度合いが増していくので、SFがあまり得意でないわたしは、個人的には前半の方が面白く読めた。ただ、設定が現実世界と違ってはいるものの、考えさせられる要素が盛り込まれているので、惹きこまれる部分もあるし、一歩間違えば身近にあってもおかしくない話でもあり、複雑な思いにもさせられる。読みやすい一冊ではある。

昨日がなければ明日もない*宮部みゆき

  • 2019/05/04(土) 18:59:15

昨日がなければ明日もない
宮部みゆき
文藝春秋 (2018-11-29)
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杉村三郎vs.“ちょっと困った”女たち。自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳ありの新婦、自己中なシングルマザー。『希望荘』以来2年ぶりの杉村シリーズ第5弾!


すっかり探偵になった杉村三郎である。探偵というよりは、ご近所の困りごと解決所のような趣がなくもないが、調査はきっちり――ときには嫌味なくらい――念入りにやっている。自らも屈託を抱えている杉村だが、周囲の人に恵まれ、束縛がなくなったフットワークの軽さと人の好さも手伝って、飢え死にしない程度には依頼も来ている。ただ、同じ理由で、頼まれていないことにまで首を突っ込み、厄介事を解きほぐそうとしてしまうのが、良いところとも言えるし、玉に瑕ともいえるかもしれない。依頼人や調査対象者たちの常識はずれな困ったちゃんぶりには開いた口が塞がらないが、現実には往々にして、こんな理不尽が横行しているものかもしれない。厄介事は解決しても、胸のもやもやがすっきりとは晴れないシリーズではある。

あやかし草子 三島屋変調百物語 伍之続*宮部みゆき

  • 2019/03/07(木) 07:53:48

あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続
宮部 みゆき
KADOKAWA (2018-04-27)
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人間の愚かさ、残酷さ、哀しみ、業――これぞ江戸怪談の最高峰!

江戸は神田の筋違御門先にある袋物屋の三島屋で、風変わりな百物語を続けるおちか。 塩断ちが元凶で行き逢い神を呼び込んでしまい、家族が次々と不幸に見舞われる「開けずの間」。 亡者を起こすという“もんも声”を持った女中が、大名家のもの言わぬ姫の付き人になってその理由を突き止める「だんまり姫」。屋敷の奥に封じられた面の監視役として雇われた女中の告白「面の家」。百両という破格で写本を請け負った男の数奇な運命が語られる表題作に、三島屋の長男・伊一郎が幼い頃に遭遇した椿事「金目の猫」を加えた選りぬき珠玉の全五篇。人の弱さ苦しさに寄り添い、心の澱を浄め流す極上の物語、シリーズ第一期完結篇!


565ページというボリュームだが、読み始めてしまえば、あっという間にのめり込んでしまう。ただ、重い。連作でありながら、全体としてひとつの物語になっているので、黒白の間での語りが聴き手のおちかたちに及ぼす影響が、後の一歩につながっていくのが目に見えて興味深い。本作では、三島屋関連のさまざまなことがほどけ、明日につながる礎になったように思う。惹きこまれる読書タイムを味わえる一冊である。

希望荘*宮部みゆき

  • 2017/04/23(日) 18:30:21

希望荘
希望荘
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宮部 みゆき
小学館
売り上げランキング: 2,889

宮部ファン待望の14か月ぶりの現代ミステリー。特に人気の「杉村三郎シリーズ」の第4弾です。
本作品は、前作『ペテロの葬列』で、妻の不倫が原因で離婚をし、義父が経営する今多コンツェルンの仕事をも失った杉村三郎の「その後」を描きます。
失意の杉村は私立探偵としていく決意をし、探偵事務所を開業。ある日、亡き父・武藤寛二が生前に残した「昔、人を殺した」という告白の真偽を調査してほしいという依頼が舞い込む。依頼人の相沢幸司によれば、父は母の不倫による離婚後、息子と再会するまで30年の空白があった。果たして、武藤は人殺しだったのか。35年前の殺人事件の関係者を調べていくと、昨年に起きた女性殺人事件を解決するカギが……!?(表題作「希望荘」)
表題作の他に、「聖域」「砂男」「二重身(ドッペルゲンガー)」の4編を収録。


事件を引き寄せる体質の杉村三郎のその後の物語である。私立探偵になるまでの経緯よくわかる。それにしても、不運な事件を引き寄せる体質は相変わらずで、これはもう一生治りそうもない感じだが、故郷で周りの人たちに助けられながら、少しずつ地域の暮らしに溶け込み始めた杉村は、それはそれで平穏にやっていけそうでもあったのに、やはりそうはいかない運命なのだろう。杉村の解決の仕方はいつもどの事件でも相手を思いやる気持ちにあふれていて、それを一身に引き受けてしまいそうなのも心配ではある。娘の桃子ちゃんとはいい関係を築けているが、これからもそうであってほしいと願ってしまう。これからはいよいよ本格的に私立探偵杉村三郎の物語が展開されるのだろうか。ますます愉しみなシリーズである。

三鬼--三島屋変調百物語 四之続*宮部みゆき

  • 2017/03/21(火) 12:39:35

三鬼 三島屋変調百物語四之続
宮部 みゆき
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 2,351

江戸の洒落者たちに人気の袋物屋、神田の三島屋は“お嬢さん"のおちかが一度に一人の語り手を招き入れての変わり百物語も評判だ。訪れる客は、村でただ一人お化けを見たという百姓の娘に、夏場はそっくり休業する絶品の弁当屋、山陰の小藩の元江戸家老、心の時を十四歳で止めた老婆。亡者、憑き神、家の守り神、とあの世やあやかしの者を通して、せつない話、こわい話、悲しい話を語りだす。
「もう、胸を塞ぐものはない」それぞれの客の身の処し方に感じ入る、聞き手のおちかの身にもやがて心ゆれる出来事が……

第一話 迷いの旅籠
第二話 食客ひだる神
第三話 三鬼
第四話 おくらさま


今回はまた恐ろしくも面妖な語りばかりである。語る方も聞く方も、体力も気力も要りそうで、それを読むこちらも思わず息を詰めていることに気づかされることが再々ある。だが、語り手が心の重荷をすっと降ろして、楽な気持ちで帰っていくのはいつでもうれしいことである。おちかの聞き手ぶりもすっかり堂に入ってきたこのごろでもある。そして、今作では、おちかのこれからの生き方の標となるような出来事もあり、娘らしい人生を歩むおちかをぜひこの目で見たいものだと思わされる一冊にもなっている。

悲嘆の門 下*宮部みゆき

  • 2015/05/30(土) 17:10:06

悲嘆の門(下)
悲嘆の門(下)
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宮部 みゆき
毎日新聞社
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「連続切断魔」の正体は?「悲嘆の門」とは何か?圧巻の終章に向けて物語は加速する!最高傑作誕生。このめくるめく結末に震撼せよ。


あぁ、やっぱりこの手の物語とは相性が良くなかった。現実のミステリの部分は純粋に愉しめ、孝太郎の人間関係も興味深く読んだが、ガラが絡み、孝太郎自身が魔物化してしまってはもう着いて行けなかった。伝えたいことはよく判るのだが、テイスト自体が受け付けないので、最後は義務のように読んでしまってもったいない一冊だった。

悲嘆の門 上*宮部みゆき

  • 2015/05/23(土) 19:01:22

悲嘆の門(上)
悲嘆の門(上)
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宮部 みゆき
毎日新聞社
売り上げランキング: 5,536

日本を縦断し、死体を切り取る戦慄の殺人事件発生。
ネット上の噂を追う大学一年生・孝太郎と、退職した刑事・都築の前に、“それ"が姿を現した!
ミステリーを超え、ファンタジーを超えた、宮部みゆきの新世界、開幕。大ベストセラー『英雄の書』に続く待望の新刊!


貧困ゆえに飢えと病で命を落とした母親と、なすすべもなく寄り添う五歳の娘。殺害された挙句身体の一部を切り取られる、連続猟奇事件。行方不明になるホームレスたち。茶筒ビルと呼ばれる廃ビルの上から下界を見下ろすガーゴイル像の微妙な変化。これらの断片が今後どうつながるのか、つながらないのか。硬派のミステリの様相で始まった物語だが、サイバーパトロールの会社「クマー」でアルバイトする孝太郎が、あることを調べているさなか行方不明になったアルバイト仲間の森永を探し始めると、次々に不可解なことに出くわし、物語は一気にファンタジーに移行する。実はファンタジー、ちょっと苦手である。前半のテイストのままで進んでくれた方が好みではあるのだが、これはこれで下巻でどんな風に展開していくのか興味が湧くのも確かである。前半のいくつかのピースがどんな風に落ち着くのだろうか。下巻も愉しみな一冊である。

荒神*宮部みゆき

  • 2014/12/15(月) 16:58:45

荒神荒神
(2014/08/20)
宮部みゆき

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元禄太平の世の半ば、東北の小藩の山村が、一夜にして壊滅状態となる。
隣り合う二藩の反目、お家騒動、奇異な風土病など様々な事情の交錯するこの土地に、
その"化け物"は現れた。
藩主側近・弾正と妹・朱音、朱音を慕う村人と用心棒・宗栄、
山里の少年・蓑吉、小姓・直弥、謎の絵師・圓秀……
山のふもとに生きる北の人びとは、
突如訪れた"災い"に何を思い、いかに立ち向かうのか。
そして化け物の正体とは一体何なのか――!?
その豊潤な物語世界は現代日本を生きる私達に大きな勇気と希望をもたらす。
著者渾身の冒険群像活劇。


565ページという大作で、しかも元禄の世の山里が舞台、しかも怪物が村を襲う物語。歴史、ホラーと個人的に苦手な分野の揃い踏みという感じで、読みはじめてすぐ、読むのをやめようかと一瞬思ったが、少し読み進めると、苦手は苦手として、それを取り巻く人間関係の機微や、使命感ゆえの強さなどの魅力に惹きこまれることになる。また、元禄の物語なのだが、どうしても現代と重ねて読んでしまうところが多く、やり切れなく哀しい思いに満たされそうにもなる。人の心の醜さや身勝手が何を生むか、それがどれほど恐ろしく虚しいものかを思い知らされる一冊でもある。

ペテロの葬列*宮部みゆき

  • 2014/04/20(日) 13:06:45

ペテロの葬列ペテロの葬列
(2013/12/20)
宮部 みゆき

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今多コンツェルン会長室直属・グループ広報室に勤める杉村三郎はある日、拳銃を持った老人によるバスジャックに遭遇。事件は3時間ほどであっけなく解決したかに見えたのだが―。しかし、そこからが本当の謎の始まりだった!事件の真の動機の裏側には、日本という国、そして人間の本質に潜む闇が隠されていた!あの杉村三郎が巻き込まれる最凶最悪の事件!?息もつけない緊迫感の中、物語は二転三転、そして驚愕のラストへ!『誰か』『名もなき毒』に続く杉村三郎シリーズ待望の第3弾。


杉村三郎シリーズ、これで完結なのだろうか、というのが読後すぐの思いである。杉村が巻き込まれたバスジャック事件を軸に、連帯感を持った人質たちの身を案じ、悪徳詐欺商法の内実に切り込み、広報室内の人間関係に振り回され、今多コンツェルンのなかでの立場に葛藤し、最愛の妻と娘との時間を大切にし……、という物語の本筋はとてもスリルと人情に富んでいて興味深く、ページを繰る手が止まらなかったのだが、やっと一段落したと思った折も折にこの仕打ちはあんまりなのではないだろうか。それでも杉村に、納得してへこたれず強くなれと要求するのか。腑に落ちない気分のままこのシリーズが完結してしまうのは忍びないので、ぜひ北川の遺志を継いで私立探偵になった杉村の姿を続編で書いていただきたい。面白かったのだが、最後の最後でもやもや感が残る一冊である。

<完本>初ものがたり*宮部みゆき

  • 2014/02/13(木) 16:57:29

<完本>初ものがたり (PHP文芸文庫)<完本>初ものがたり (PHP文芸文庫)
(2013/07/17)
宮部 みゆき

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文庫本未収録の三篇を加え、茂七親分の物語が再び動き始めた!茂七とは、手下の糸吉、権三とともに江戸の下町で起こる難事件に立ち向かう岡っ引き。謎の稲荷寿司屋、超能力をもつ拝み屋の少年など、気になる登場人物も目白押し。鰹、白魚、柿など季節を彩る「初もの」を巧みに織り込んだ物語は、ときに妖しく、哀しく、優しく艶やかに人々の心に忍び寄る。ミヤベ・ワールド全開の人情捕物ばなし。


<愛蔵版>をすでに読んでいるが、そこに未収録の「寿の毒」と「鬼は外」を加えた九編である。
謎の稲荷寿司の屋台の親父の素性は、すっかり判るかと思いきや、そこはまだ定かにはならず、しかしほんの小さな糸口はつかめたような気がするようなしないような……。それはそれとして、この屋台で出される料理が相変わらずにおいしそうなのである。茂七親分に連れて行ってもらいたいくらいである。茂七親分が頭を悩ませているときに、親父が何気なくもらすひと言にも味わいがあり、それが探索のヒントになったりするのも興味深い。やはりこの親父只者ではない。手下の権三や糸吉との掛け合いも、リズミカルで心憎い。稲荷寿司屋台の親父の謎が明かされるのも愉しみなシリーズである。

宮部みゆきの江戸怪談散歩*宮部みゆき

  • 2013/10/29(火) 13:06:40

宮部みゆきの江戸怪談散歩 (新人物文庫)宮部みゆきの江戸怪談散歩 (新人物文庫)
(2013/08/08)
宮部 みゆき

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人の業がなせる、恐ろしくも切ない怪談話の語り部・宮部みゆき。稀代のストーリーテラーが織りなす物語には、どんな思いがあったのか。『泣き童子』が話題の「三島屋変調百物語」シリーズをはじめ、物語の舞台を歩きながらその魅力を探る異色の怪談散策!さらに怪異の世界を縦横に語りつくす北村薫氏との特別対談に加え、“今だから読んでほしい”小説4編を厳選。ファン必携!著者責任編集「宮部怪談」公式読本。


「三島屋変調百物語」の舞台となった界隈の地図を冒頭に載せ、辺りを散策するという趣向で始まる。その後、北村薫氏との対談や、百物語の一篇である「曼珠沙華」など宮部作品や宮部氏推薦の怪談が配されるという構成である。
ひと口に怖い話と言っても、はっきりしたあるものに焦点を定めた怖さ、なにやら得体の知れない怖さなど、さまざまあることに改めて思い至る。なにが怖いのか判らない得体の知れなさほど恐ろしいものはないと思わされる一冊である。

泣き童子--三島屋変調百物語 三之続*宮部みゆき

  • 2013/08/04(日) 16:52:20

泣き童子 三島屋変調百物語参之続泣き童子 三島屋変調百物語参之続
(2013/06/28)
宮部 みゆき

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不思議で切ない「三島屋」シリーズ、待望の第三巻
江戸は神田。叔父の三島屋へ行儀見習いとして身を寄せるおちかは、叔父の提案で百物語を聞き集めるが。
人気時代小説、待望の第三巻。


変わり百物語の聞き役もすっかり板についてきたおちかである。聞いて聞き捨て、語って語り捨てが約束だが、おちかは重荷にならないのだろうか、といささか心配になるくらい、胸に重い語りが続く。聞き捨てとはいっても、聞いている間は、語り手の想いに寄り添い、その場に立ち会うような心持ちでいるのだから、身も心も疲れ果てるのではないかとつい案じてしまう。だが、語り終えた語り手は、一様に重荷を下ろしたように心を軽くして帰っていくのだ。それがおちかの糧になってもいるのかもしれない。おちかがいつの日か人並みのしあわせを手にすることができますように、と願わずにはいられないシリーズである。

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桜ほうさら*宮部みゆき

  • 2013/04/17(水) 16:55:24

桜ほうさら桜ほうさら
(2013/02/27)
宮部 みゆき

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舞台は江戸深川。
主人公は、22歳の古橋笙之介。上総国搗根藩で小納戸役を仰せつかる古橋家の次男坊。
大好きだった父が賄賂を受け取った疑いをかけられて自刃。兄が蟄居の身となったため、江戸へやって来た笙之介は、父の汚名をそそぎたい、という思いを胸に秘め、深川の富勘長屋に住み、写本の仕事で生計をたてながら事件の真相究明にあたる。父の自刃には搗根藩の御家騒動がからんでいた。
ミステリアスな事件が次々と起きるなか、傷ついた笙之介は思いを遂げることができるのか。「家族は万能薬ではありません」と語る著者が用意した思いがけない結末とは。
厳しい現実を心の奥底にしまい、貸本屋・治兵衛が持ってきたくれた仕事に目を開かれ、「桜の精」との淡い恋にやきもきする笙之介の姿が微笑ましく、思わず応援したくなる人も多いはず。
人生の切なさ、ほろ苦さ、そして長屋の人々の温かさが心に沁みる物語。


とにかく登場人物がみないい。すべてが善人というわけではなく、悪人も、ずるがしこい奴も、ろくでなしも様々いるのだが、どの人物もいまこの時を生きているように見える。主人公の笙之介ももちろんである。武士でありながら剣術の腕はイマイチで、ある目的のために貧乏長屋で貸本屋の治兵衛の頼まれ仕事をしながら暮らしているが、芯には揺るがない強さを持っている。長屋やその周りの人間関係も、つかず離れずありがたい。笙之介自身は、大きな想いに抱かれて操られたようにも見えるが、だからこそそこから前へ進むことができるのだろう。周囲の想いを受け止めた笙之介の明日が穏やかでありますように、と願わずにはいられない一冊である。

ソロモンの偽証--第三部 法廷*宮部みゆき

  • 2012/12/07(金) 19:18:55

ソロモンの偽証 第III部 法廷ソロモンの偽証 第III部 法廷
(2012/10/11)
宮部 みゆき

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この裁判は仕組まれていた!? 最後の証人の登場に呆然となる法廷。驚天動地の完結篇! その証人はおずおずと証言台に立った。瞬間、真夏の法廷は沸騰し、やがて深い沈黙が支配していった。事件を覆う封印が次々と解かれてゆく。告発状の主も、クリスマスの雪道を駆け抜けた謎の少年も、死を賭けたゲームの囚われ人だったのだ。見えざる手がこの裁判を操っていたのだとすれば……。驚愕と感動の評決が、今下る!


驚天動地、というか、第二部までで喉元までせり上がってきていた疑心と膨らんだ想像に着地点が与えられてほっとした、というような第三部だったような気がする。物語の筋としては、前述のとおりなのだが、単にそれだけではないものがこの物語にはあるように思う。結果ではなくそこに行きつく過程こそが、そしてその過程に自分たちが立ち会うことがなにより大事なのだというのが、学校内裁判に関わった中学生たちの心情ではないだろうか。そして、エピローグで張りつめていたものが、ふっと溶かされていく心地になった。これがあってよかった。欲を言えば、野田健一だけでなく、神原和彦の、大出俊介の、藤野涼子の、ほかのメンバーのその後も知りたかった。そして、生きるということについて考えさせられる一冊でもあった。