彗星物語*宮本輝

  • 2005/05/02(月) 20:48:07

☆☆☆☆・


 城田家にハンガリーからの留学生がやってきた。
 総勢十三人と犬一匹。ただでさえ騒動続きの大家族に、
 あらたな波乱が巻きおこる。
 異文化へのとまどい、肉親ゆえの愛憎。泣き、笑い、時に激しく衝突しながら、
 家族一人ひとりは、それぞれの政の新しい手がかりを得る。
 そして別れ――。人と人の絆とはなにかを問う長篇小説。

                      (文庫裏表紙より)


キーワードは、城田家の母、敦子が突然胸に抱いた≪突如、彗星の如く≫という言葉だろう。
彗星は、天の一角に現われ、刷毛で撫でるように通り過ぎてゆくのだ。人生における人と人との出会いもまた、これと似たようなものなのではないか。ある一時期にその人の人生と並行し、あるとき交差してすれ違ってゆく。たとえ一瞬のことだとしても、与え与えられるものは数え切れないほどなのだ。
人間でも犬でも、そして彗星でも、出会えたということだけで、それはそれは強い絆で結ばれているということなのだと、読み終わってしみじみ思う。一期一会という考え方にも通ずるだろう。

星々の悲しみ*宮本輝

  • 2005/04/16(土) 20:19:58

☆☆☆・・
星々の悲しみ

表題作の他、西瓜トラック・北病棟・火・小旗・蝶・不良馬場。

 喫茶店の壁にかかっていた一枚の絵「星々の悲しみ」。
 この薄命の画家の作品を盗み出し、ひとり眺めいる若者を描く表題作のほか、
 不思議なエネルギーそもつ輝かしい闇の時代・青春のさなかに、
 生きているあかしを、はげしく求める群像を、
 深い洞察と巧みな物語展開で、みごとに描いた傑作短篇の数々。

                    (文庫裏表紙より)

何年か前に読んだのを忘れていて再読。

「星々の悲しみ」と題された絵に、題の意味は図りかねながらもなぜか惹きつけられてしまう若者に、洋々たる未来を持ちながら自分を掴みかねている若い時代ゆえの哀しみを重ねてしまう。
生きているということの可能性と、うらはらの儚さを思う。

月光の東*宮本輝

  • 2004/07/16(金) 12:57:25

☆☆☆・・


 ワタシヲオイカケテ
 謎の言葉を残して消えた女

 近くにあるのに見えない場所・・・・・。
 私の祈りとは何だろう。
 私は祈りの叶う場所を求めようとは思わない。
 祈りの叶う人間になりたいと思う。
 だいそれた祈りではなく、ささやかであっても大切な祈りが・・・・・。

                            (帯より)


「追いかけてきて。月光の東まで 私を追いかけて」
という言葉を残して去った 塔屋米花。そしてその言葉は自分にだけ残されたものではなかった。

隠れているわけでもないのに 探している塔屋米花は確かな形で姿を見せることはなく 探す人たちときちんと対面することもない。そして タイトルにもなっている謎のキーワード「月光の東」の謎もきちんと解き明かされることはない。それなのに これ以上の終わり方はないという風にどこか納得してしまうのである。それが何故なのか、塔屋米花の圧倒的な生き方を垣間見たことで 彼女を探す人たちの中のなにかが変わったことは おそらく間違いないだろう。塔屋米花が生きている限り 謎は謎として生き続けるのかもしれない。

約束の冬 上下*宮本輝

  • 2004/01/11(日) 21:19:01

☆☆☆☆・


味わい深い一冊だった。

著者自身が あとがきで 自分のそばにいてくれたらいいと思える人物ばかりを描いたと言うだけあって 登場人物の一人一人が たいそう魅力的である。

キーワードは飛ぶ蜘蛛。
冬が来る前の 風のないうららかな日を選び 小さな蜘蛛たちは 自らの尻から細い糸を吐き出し それに掴まるようにして 微かな風に乗って空を飛ぶという。ほとんどは 糸が絡まり地に落ちるか 運良く舞い上がれても鳥に食べられてしまうが 運がいいものは 遥か2千キロ以上も飛ぶのだという。
蜘蛛が飛ぶ情景をそこここに散りばめながら 物語は進む。
いくつかの約束を果たそうとする者たちを巡って。

人は いつの日も 果たそうとして、あるいは果たせるはずがないのを知りながら 約束をしてしまうものではないだろうか。そして 良かれ悪しかれ その約束に縛られる。

10年前、引越してきたばかりの7歳年上の女性に 「10年後一緒に蜘蛛が飛ぶのを見よう」と手紙を渡した15歳の少年・見知らぬ少年から不意に手紙を渡された女性・少年の義理の父・少年の実の父の父・女性の幼なじみ。
それぞれが それぞれの約束を果たすために生きているのだ。
約束を果たそうとすることそのものが 生きる ということなのかもしれない。

人間の幸福*宮本輝

  • 2003/11/08(土) 07:37:24

☆☆☆・・   人間の幸福

昼間の道端、金属バットで主婦が撲殺された。
それまで 悪意のないありきたりな日常を繰り返していた近所の住人達に起こったことは?

犯人探しがメインではなく 犯人がわかるまでの人々の心の中の渦巻きが興味深い。
明確な悪意を持っていない人間達同士が どうして互いに傷つけ合うのか。
ささやかな幸せを守ることに汲々とするあまり 他者に対して狭量になっていくのは何故なのか。

幸福とは一体何なのだろう。