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風は西から*村山由佳
- 2018/05/18(金) 16:30:05
大手居酒屋チェーン「山背」に就職し、繁盛店の店長となり、張り切って働いていた健介が、突然自ら命を絶ってしまった。大手食品メーカー「銀のさじ」に務める恋人の千秋は、自分を責めた――なぜ、彼の辛さを分かってあげられなかったのか。なぜ、彼からの「最後」の電話に心ない言葉を言ってしまったのか。悲しみにくれながらも、健介の自殺は「労災」ではないのか、その真相を突き止めることが健介のために、自分ができることではないか、と千秋は気づく。そして、やはり、息子の死の真相を知りたいと願う健介の両親と共に、大企業を相手に戦うことを誓う。小さな人間が秘めている「強さ」を描く、社会派エンターテインメント。
過労死、ことに過労自殺に焦点を当てた物語である。現実に起こった出来事を下敷きにしているせいもあり、遺族の憤りや口惜しさがリアルに伝わってくる。過労自殺に至る以前の、健介と千秋の二人の関係が、あまりにもあたたかく、幸福に包まれて充実しているので、過重労働によるすれ違いや、気持ちのささくれ、実際に顔を合わせて話ができないことからくる誤解などがつぶさに見て取れて、胸が痛くなる。ずぶずぶとアリジゴクに囚われていくさまを、客観的に眺められるので、何度も押しとどめたい思いに駆られる。取り返しがつかなくなる前に何とかならなかったのか。誰しもがそう思うだろうが、本作を読む限り、それがものすごく難しいことも思い知らされ、愕然とさせられる。最終的には和解という決着に辿り着いたわけだが、それでも健介は戻ってこないのだということが、いっそうやりきれない思いにさせる。一気に読み進んだ一冊である。
天使の柩*村山由佳
- 2013/11/22(金) 07:04:41
![]() | 天使の柩 (天使の卵) (2013/11/05) 村山 由佳 商品詳細を見る |
「世の中がどんなにきみを責めても、きみの味方をするよ」14歳の少女・茉莉(まり)が出会った20歳年上の画家――その人の名は、歩太(あゆた)。望まれない子どもとして育ち、家にも学校にも居場所がないまま、自分を愛せずにいる少女・茉莉。かつて最愛の人・春妃(はるひ)を亡くし、心に癒えない傷を抱え続けてきた歩太。公園で襲われていた猫を助けようとして偶然出会った二人は、少しずつ距離を近づけていく。歩太、そして彼の友人の夏姫(なつき)や慎一との出会いに、初めて心安らぐ居場所を手にした茉莉だったが、二人の幸福な時間はある事件によって大きく歪められ――。『天使の卵』から20年、『天使の梯子(はしご)』から10年。いま贈る、終わりにして始まりの物語。
前々作、前作からそんなに時間が経っていたのだと、改めて感慨深く思う。時の隔たりをまったく感じさせない本作である。どれほど時が経とうと、厭されず哀しみを抱えたままの歩太と、生まれてきたという理由で自分のことを愛せない少女・茉莉が、ふとした偶然で出会ってほんとうによかったと思える物語である。世界中にたった一人でも、無条件に自分を全肯定してくれる人がいたなら、人は笑って生きていけるのではないかと思わせてくれる一冊である。
おいしいコーヒーのいれ方 ⅠⅡⅢ*村山由佳
- 2006/09/26(火) 11:23:43
☆☆☆・・ 高校3年生になる春、父の転勤のため、いとこ姉弟と同居するはめになった勝利。そんな彼を驚かせたのは、久しぶりに会う5歳年上のかれんの美しい変貌ぶりだった。しかも彼女は、彼の高校の新任美術教師。同じ屋根の下で暮らすうち、勝利はかれんの秘密を知り、その哀しい想いに気づいてしまう。守ってあげたい!いつしかひとりの女性としてかれんを意識しはじめる勝利。ピュアで真摯な恋の行方は。 キスまでの距離―おいしいコーヒーのいれ方〈1〉
村山 由佳 (1999/06)
集英社
この商品の詳細を見る 僕らの夏―おいしいコーヒーのいれ方〈2〉
村山 由佳 (2000/06)
集英社
この商品の詳細を見る 彼女の朝―おいしいコーヒーのいれ方〈3〉
村山 由佳 (2001/06)
集英社
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上記は<Ⅰ>の内容紹介。今現在<Ⅹ>まで出版されている。
イラストは志田正重さん。
三巻目までしか読んでいないが、おそらく十巻目まで勝利とかれんのもどかしいような恋愛模様が描かれているのだろうと思う。ラブコミックスのような さらさらきらきらと光がこぼれるような若い恋愛物語なので、三巻目まで読んで、いささかお腹いっぱい感が__。なのでここまでにしておこう。
若い人はのめり込んで読めるかもしれない。
ヘヴンリーブルー*村山由佳
- 2006/09/12(火) 17:38:04
☆☆☆・・ ヘヴンリー・ブルー
村山 由佳 (2006/08/25)
集英社
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19歳の歩太と27歳の春妃のせつなく激しい恋を描いた『天使の卵』から12年。そして『天使の梯子』から2年。29歳の妹・夏姫が回想するエモーショナルな懺悔。哀しくて、エロティックな青春の詩。
『天使の卵』では、どんなに熱い想いを歩太に抱いても報われなかった夏姫の恋。思いがけず姉・春妃に向けた恨みの言葉。狂おしい熱情と悔恨と懺悔。夏姫のモノローグで綴るせつない4つの短編。
『天使の卵』『天使の梯子』の行間を振り返って描いたような物語。
前2作を読んでいないと詳しい事情がつかみきれないところもあるかもしれない。3作でひとつの物語として読んだほうがいいかもしれない。
そういう意味では少しばかり物足りない一冊だったとも言える。
きみのためにできること*村山由佳
- 2006/06/23(金) 17:50:24
☆☆☆☆・ 恋人がふたり、僕の心に棲み始めた。 きみのためにできること
村山 由佳 (1996/11)
集英社
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深く眠った魂が呼び覚まされる・・・・・。 ――帯より
帯の惹句だと 二股をかけている浮気男の話のように思えるが、そうではない。
浮気心がまったくなかったかといえば そうでもない。
主人公の俊太郎は、高校三年のとき 関東学生映画コンクールに音に凝った映画を出品し佳作に選ばれた。そしてそのときに評価してくれた音のプロ キジマ・タカフミに憧れて音声技師の仕事に就くために、恋人のピノコを故郷の勝浦に残して上京した。
女優の鏡耀子とは、仕事を一緒にする機会があって知り合い、度重なる偶然もあって惹かれるようになるが、ピノコへの想いも揺るぎないものなので俊太郎は悩むのだった。
耀子に恋したかもしれないと悩み、ピノコに何もしてやれないと悩む俊太郎の 若さと真っ直ぐさが清々しい。そして、俊太郎のためにならないことはするまいと健気に我慢するピノコの想いもいとおしい。
こんなふたりが幸せにならなくて一体誰が幸せになれるというのか!
これからもいろいろと波はあるかもしれないが、俊太郎とピノコならきっと乗り越えていくだろう。
楽園のしっぽ*村山由佳
- 2006/04/08(土) 17:13:11
☆☆☆・・ 季節の約束ごと、肩書きなど無縁の動物たち。
大自然に囲まれた農場暮らしは、人を謙虚に、自由にしてくれる!
楽園の土の上から寄せられる、優しくつよいメッセージ、全50篇。
土と風と太陽、そして愛する動物たち
しっぽのある仲間、ない仲間、
そしてそれをとりまくすべての命にとって、
ここが楽園でありますように――
房総の丘の上、馬と犬と猫、鶏、うさぎに囲まれた自給自足の生活。
「憧れの田舎暮らし」を実現させて十余年、
自然と向き合う日々は・・・・・じつは結構ツライ。
容赦ない気候、終わりなき農作業、作物の病害虫、人の都合などお構いなしの動物たち。でも生きものとして真っ当に日々を過ごせる、ここが私にとっての「楽園」なのだ――。 ――帯より
「主人」という呼ばれ方を好まないため「相方」と呼ばれているしっぽのない仲間や種類も大きさもさまざまなしっぽのある仲間たちとの関係、そして 抗うことのできない なにか大きなもの としての自然との関係が、辛いこと愉しいこといろいろ含めてしあわせで仕方がないという感じで描かれていて、読み手までも満ち足りた心地にしてくれる。
著者自身の手に成る 巻頭の「楽園アルバム」に登場する動物たちの写真からさえもその信頼関係が滲み出しているようだ。
夜明けまで1マイル*村山由佳
- 2005/03/13(日) 13:57:29
天使の梯子*村山由佳
- 2005/01/20(木) 09:07:03
天使の卵*村山由佳
- 2004/08/06(金) 13:59:50
☆☆☆☆・
―エンジェルズ・エッグ―
あなたは運命の出会いというのを信じるだろうか。この物語の主人公
一本槍歩太は春まだ浅い池袋へ向かう西武線の中で まさに運命の出会いがあるということを信じたのである。「力いっぱい何があってもこのひとを守り抜きたい」という思いに駆り立てられたのだ。そして思いもかけないところで再び巡り会った彼女は・・・。
人は多かれ少なかれ何かに傷つき 消えないままの傷痕を隠して生きているのではないだろうか。そしてその傷ゆえ必要以上に前へ進むことを拒んでみたり しあわせを拒絶したりする。より大きな傷を負うことから無意識に逃げているのだろう。運良く乗り越えたと思っても 狙い澄ますように別の苦悩が待ち構えている。何故人には越えなければならないものがこんなにも多いのだろう と、茫然としてしまう。
星々の舟*村山由佳
- 2004/07/14(水) 12:55:35
☆☆☆・・
禁断の恋に悩む兄妹、他人の男ばかり好きになる末っ子、
居場所を探す団塊世代の長兄、
そして父は戦争の傷痕を抱いて――
愛とは、家族とはなにか。こころふるえる感動の物語。
(帯より)
ある一家の物語である。
どこにでもある、と言うほどありふれてはいないが 取り立てて特別ではないある一家の 世代も考え方も違うそれぞれが さまざまな悩みに直面し 乗り越えやり過ごしながら それでも家族という同じ舟に揺られている。
家族であるが故に 思いやることをないがしろにしがちな 心の深いところに抱える想い。一見 理不尽とも思える言動の裏に畳み込まれているものの大きさ、重さ。家族という舟は 小さいけれど大きい世界そのものなのではないだろうか。
すべての雲は銀の。。。*村山由佳
- 2004/04/29(木) 19:42:45
☆☆☆☆・
タイトルは英語の格言
"Every cloud has silver lining."
(どんな不幸にもいい面はある)
からつけられている。
登場人物は誰も彼も 何かしらどこかしら哀しい。
しかし 作中でも語られているように 幸福や不幸はその人だけにしかわからないもので、どんなに周りから不幸に見えようと 本人が幸福だと思えばそれは幸福なのだし 逆もまた真なのである。
哀しくて仕方がないのにじんわりと安らかな気持ちにさせられるのは何故だろう。きっとそれは 物語の舞台となっている「かむなび」に流れている真摯さと、自分を自分として認められることの充実と責任からくるものなのだろう。人の気持ちのあたたかさほど冷たい胸を温めてくれるものはない。
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