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森は知っている*吉田修一

  • 2015/08/09(日) 13:41:44

森は知っている
森は知っている
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吉田 修一
幻冬舎
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自分以外の人間は誰も信じるな―子供の頃からそう言われ続けて育てられた。しかし、その言葉には、まだ逃げ道がある。たった一人、自分だけは信じていいのだ。ささやかでも確かな“希望”を明日へと繋ぐ傑作長篇!


『太陽は動かない』で非情な産業スパイとして働いた鷹野が、17歳の頃の物語である。スパイ小説は得意な方ではないが、そこに至る鷹野の事情や、ある意味それに付け入る大人たちの都合、そしてそんな中でも鷹野や同じような境遇の少年たちを気遣い見守るまなざしの物語は、胸に迫るものがある。AN通信に保護されてから、18歳になるまでの鷹野や柳は、深奥に苦しい思いを抱えているとは言うものの、実に少年らしく光り輝く日々を送っていた。それを目にすることができたのは救いと言えると思う。だが、今後のことを思うと地団太を踏みたくなるような一冊でもある。

太陽は動かない*吉田修一

  • 2015/07/03(金) 13:23:23

太陽は動かない
太陽は動かない
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吉田 修一
幻冬舎
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新油田開発利権争いの渦中で起きた射殺事件。AN通信の鷹野一彦は、部下の田岡と共に、その背後関係を探っていた。商売敵のデイビッド・キムと、謎の美女AYAKOが暗躍し、ウイグルの反政府組織による爆破計画の噂もあるなか、田岡が何者かに拉致された…。いったい何が起きているのか。陰で糸引く黒幕の正体は?それぞれの思惑が水面下で絡み合う、目に見えない攻防戦。謀略、誘惑、疑念、野心、裏切り、そして迫るタイムリミット―。


スパイ物と知って読み始めたのだが、苦手な分野でもあり、入り込むまでにはやや時間を要した。だが、物語に動きが出てくると、展開に目が離せなくなり、後半はあっという間に読み切った感がある。鷹野らが諜報員になった経緯や、国会議員の一回生・五十嵐が大きすぎる動きに巻き込まれていく様子、味方なのか敵なのか読み切れないスリル。そして何より登場人物それぞれのキャラクタが、ありがちながら絶妙で惹かれてしまう。映像向きの一冊でもあると思う。

怒り 下*吉田修一

  • 2014/04/27(日) 08:29:19

怒り(下)怒り(下)
(2014/01/24)
吉田 修一

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愛子は田代から秘密を打ち明けられ、疑いを持った優馬の前から直人が消え、泉は田中が暮らす無人島である発見をする―。衝撃のラストまでページをめくる手が止まらない。『悪人』から7年、吉田修一の新たなる代表作!


日本全国、あちこちに山神かもしれないと思わせる怪しい人物がいて、なんとなく周りの人たちを不安にさせていながら、決定的な証拠がないまま終わった上巻だったが、下巻では、周りの人たちがそれぞれ疑念の人物に何らかの働きかけをし、それまでの良好な関係を壊してしまう。大切な人を疑う不安と罪悪感、大切な人から疑われる憤りと哀しみが、あまりにも切なく、胸に迫る。そんななかで、山神本人がいちばんしれっと平気な顔をしていたように見えてしまうのはわたしだけだろうか。山神が追われることになった元々の殺人事件は結局彼の死とともに解明されずに終わり、彼が何に怒って犯行以及んだのかは闇のなかであるが、そんな彼に対してこそ強い怒りが湧くのである。翻弄された人たちのあしたが明るいことを祈りたくなる一冊である。

怒り 上*吉田修一

  • 2014/04/25(金) 17:15:21

怒り(上)怒り(上)
(2014/01/24)
吉田 修一

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殺人現場には、血文字「怒」が残されていた。事件から1年後の夏、物語は始まる。
房総の漁港で暮らす洋平・愛子親子の前に田代が現われ、大手企業に勤めるゲイの優馬は新宿のサウナで直人と出会い、母と沖縄の離島へ引っ越した女子高生・泉は田中と知り合う。それぞれに前歴不詳の3人の男…。惨殺現場に残された「怒」の血文字。整形をして逃亡を続ける犯人・山神一也はどこにいるのか?『悪人』から7年、吉田修一の新たなる代表作!


殺人事件が起きて、刑事が捜査に歩き回る、というだけの図式ではない。もちろん警察の捜査状況も折々に挟みこまれてはいるのだが、それ以外は、房総、新宿、沖縄の離島という離れた場所での、まったく無関係の人々の暮らしが接点のないまま描かれているのである。共通するのは、正体不明の男と知り合っていることだけ。彼らの誰かが殺人犯・山神一也なのだろうか。上巻ではまだヒントさえつかめない。下巻が愉しみな一冊である。

キャンセルされた街の案内*吉田修一

  • 2010/10/14(木) 06:35:46

キャンセルされた街の案内キャンセルされた街の案内
(2009/08/22)
吉田 修一

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東京、大阪、ソウル、そして記憶の中にしか存在しない街―戸惑い、憂い、懼れ、怒り、それでもどこかにある希望と安らぎ。あらゆる予感が息づく「街」へと誘う全十篇。


表題作のほか、「日々の春」 「零下五度」 「台風一過」 「深夜二時の男」 「乳歯」 「奴ら」 「大阪ほのか」 「24 Pieces」 「灯台」

どこかの街で流れるきわめて個人的な時間、というゆるいつながりの短編集である。物語のテイストは清々しかったりやるせなかったりとさまざまなのだが、底に流れる気分というようなものがどこか似通っていて、ゆるいつながりを違和感なく読み進められる。
カバーをきっちり貼り付けてしまう図書館で借りたので、小窓からのぞく地図を見られなかったのが残念。

静かな爆弾*吉田修一

  • 2008/05/29(木) 17:25:18

静かな爆弾静かな爆弾
(2008/02)
吉田 修一

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テレビ局に勤める早川俊平は、ある日公園で耳の不自由な女性と出会う。取材で人の声を集める俊平と、音のない世界で暮らす彼女。2人はやがて恋に落ちるが…。恋愛小説の新境地を切り開く意欲作。


勢いに任せて言葉を迸らせ、後付けで意味を与えるような――言ってみればごく一般的な――日々を過ごしていた主人公・俊平は、音のない世界にいる女性・響子と出会って、「伝える」ということの意味を改めて考えるようになる。喧騒のむなしさや、音がなくても伝わる大切なことなども。
ある日ふたりして買い物をし、俊平のマンションに帰るとき、あとを着いてきた野良猫の仔にハムを与える響子を見て、一瞬偽善を感じた俊平だったが、響子が母から聞かされた話――「いつ神様に出くわすかわからないから、用心、用心」――を聞いて、角度を変えてみると違って見えることに気づかされる。
バーミヤンの仏像破壊事件の報道という仕事を抱えて目の回るような日々を過ごす俊平にとって、響子の存在は、あるいはふいに出会った神様なのかもしれない。

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悪人*吉田修一

  • 2007/10/12(金) 16:56:17


悪人悪人
(2007/04)
吉田 修一

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なぜ、もっと早くに出会わなかったのだろう――携帯サイトで知り合った女性を殺害した一人の男。再び彼は別の女性と共に逃避行に及ぶ。二人は互いの姿に何を見たのか? 残された家族や友人たちの思い、そして、揺れ動く二人の純愛劇。一つの事件の背景にある、様々な関係者たちの感情を静謐な筆致で描いた渾身の傑作長編。


ひとつの殺人事件を巡り、当事者や関係者がそれぞれの立場で事件――あるいは事件の当事者たち――について語るという手法で、外側から中心に向かって事件の本質を見極めようとする作品である。ただ、見極めようとすればするほど、いったいこの殺人事件はなんだったのだろうか、という疑問も湧いてくるのである。どうして石橋佳乃は殺されなければならなかったのか、犯人はどうして彼女を殺してしまったのか。そして・・・・・悪人はいったい誰だったのか・・・・・。
事実としての事件の真相が露わになっても、読者の気持ちはまるですっきりせず、かえって割り切れないもやもや感じ包まれるのである。人間の弱さ、淋しさ、踏み外した一歩の大きさをいやでも思わされるのである。

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女たちは二度遊ぶ*吉田修一

  • 2006/08/03(木) 18:29:22

☆☆☆・・

女たちは二度遊ぶ 女たちは二度遊ぶ
吉田 修一 (2006/03/25)
角川書店

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甘く、時に苦く哀しい、美しい女たち、11人のショートストーリー。 女の生態と男の心理をリアルに描く、著者会心のイレブン・ストーリーズ。
ルーズな女、がらっぱちな女、気前のいい女、よく泣く女、美人なのに、外見とはかけ離れた木造ボロアパートに住む女……。甘く、時に苦く哀しい、美しい女たち、11人のショートストーリー。気鋭による傑作短篇集。

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本当になんにもしない女だった。炊事、洗濯、掃除はおろか、こちらが注意しないと、三日も風呂に入らないほどだった―。(本文より)


どしゃぶりの女・公衆電話の女・自己破産の女・殺したい女・夢の女・平日公休の女・泣かない女・最初の妻・CMの女・十一人目の女・ゴシップ雑誌を読む女。

さまざまなタイプの女が主役の物語である。 女が主役ではあるのだが、どの物語の女も男の目というフィルターを通してみた女であるのが 少し不満と言えば言えなくもない。 しかも、女のごく近くにいる男、としての男の目を通しているのである。 女の側にもきっと言い分があるだろう。
女の物語とは言え、これは即ち男の物語でもあるのではないか。 女をこういう風に見る男の__。

ひなた*吉田修一

  • 2006/05/30(火) 20:43:21

☆☆☆・・

ひなた ひなた
吉田 修一 (2006/01/21)
光文社

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一組のカップル、一組の夫婦、
そして一人の男の物語
さらけださない、人間関係

芥川賞受賞直後、JJという舞台で著者が試みたこと
  ――帯より


この小説は、おずおずと、いつのまにか産まれ、巨大ななにかに成長していた。
別の「物語」が棲息する空間に、出かけたのです。
それは、少なくとも、閉じ込もるよりましなことだ、と作家は考えたのではないでしょうか。
そして、そう考える作家は、いつもたいへん少ないのです。
  高橋源一郎


春・夏・秋・冬 と季節を追って物語りは進んでゆく。それぞれの季節に主な登場人物4人がそれぞれの立場で語る。4人とは、大学4年の大路尚純・その恋人で超有名アパレル企業に就職したばかりの新堂レイ・尚純の兄浩一・その妻で雑誌編集者の桂子である。
大路家は茗荷谷の坂の途中にある築五十年以上の古いが立派ともいえる家で、両親と尚純が暮らしていたが、兄夫婦が同居することになり、しかし、嫁姑の確執もなく 至極円満に暮らしている。

世間も自分たちも何不足なく幸せに暮らしていると思っているであろう毎日でも、日が当たる部分があれば陰になる部分ができてくるものなのだろう。なにがどうと言葉にすることはできなくても、漠然と 意識の下のどこかに それは少しずつ積もっていくのかもしれない。
著者は、一言で表わすことのできない「人」というものの特性を描いて妙である。
そして、読み終えて胸に残ったのは、微かな悲しみと寂しさだった。

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熱帯魚*吉田修一

  • 2005/03/03(木) 13:38:54

☆☆☆・・


表題作の他に、 グリーンピース、突風

 村上龍氏推薦!
 「現代的な人情」が描かれていて、
 しかも普遍的な明るさに充ちている。

                     (帯より)


騒々しさの中で、ふと自分の周りだけが静まり返り、身の置き所を失ってどんどん自分が透明になっていくような、そんな淋しさを感じた。

 「誰にでもやさしいっていうのは、
  誰にもやさしくないのと同じじゃないか?」

                       (「熱帯魚」より)

日曜日たち*吉田修一

  • 2005/02/28(月) 13:37:25

☆☆☆・・


 きっといつかは忘れてしまう、
 なのに忘れようとするほど忘れられない。
 ありふれていて特別な、それぞれの日曜日――。
 東京ひとり暮らしの男女5人、それぞれの物語に
 同時代の<生=リアル>を映す、長篇最高傑作!

                       (帯より)


 ・日曜日のエレベーター
 ・日曜日の被害者
 ・日曜日の新郎たち
 ・日曜日の運勢
 ・日曜日たち

たのしいことばかりではないが、かと言って嫌なことばかりだったわけではない。
東京で暮らす5人の男女は、それぞれのしあわせや悔しさ、哀しみ、ささやかな喜びを胸に秘めて、その日その日を送っているのだ。
5つの物語の接点となっている、母を訪ねて九州から出てきた幼い兄弟に働きかける時、彼らの日常がなぜか光に照らされたように見える。
この兄弟が、東京で倦んでいる者たちの中を貫くようにして通り過ぎてゆくのだ。
表題作『日曜日たち』が、最後に気持ちを明るくしてくれた。

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ランドマーク*吉田修一

  • 2005/01/25(火) 09:13:53

☆☆☆・・


さいたま新都心=大宮に建設中の地上35階建ての捩じれるビル
O-miya スパイラルにそれぞれ別の立場で関わる 犬飼と隼人を軸に語られる。

ビルの捩じれは、そのまま人の世の不条理や人間関係の捩じれを象徴的に表わしているのだろうか。
我慢して我慢して我慢しつづけた後で臨界点を超えて爆発しそうになるような不安感をも与えられる一冊である。

パーク・ライフ*吉田修一

  • 2005/01/25(火) 09:11:53

☆☆☆・・


 芥川賞受賞作
 他人だから、恋がはじまる。
 東京のド真ん中「日比谷公園」を舞台に、
 男と女の“今”をリアルに描いた最高傑作!

                            (帯より)

村上龍氏の芥川賞時の選評が言い得て妙なので引いておく。
 「何かが常にはじまろうとしているが、まだ何もはじまっていない」
 という、現代に特有の居心地の悪さと、不気味なユーモアと、
 ほんのわずかな、あるのかどうかさえはっきりしない希望のようなものを
 獲得することに成功している。


霞ヶ関駅で不意に止まってしまった地下鉄の窓から見える「臓器移植ネットワーク」の広告を見て先に降りた先輩に話し掛けるつもりで見知らぬ女に声をかけてしまうところからこの物語ははじまる。
同じ駅で降り、違う出口から地上に出た男女は、日比谷公園でふたたび出会う。


仕事中毒とも言われる日本人の、仕事をしていない時間の取り立ててなんと言うこともないありようを、技巧を凝らすでもなくなんということもないように描いて妙である。
村上龍氏の言われるとおり、そこはかとなく居心地が悪く、不気味でありながら、なぜか心を解いてしまいたくなる安心感をも抱かせる。

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春、バーニーズで*吉田修一

  • 2005/01/12(水) 08:54:30

☆☆☆☆・
春、バーニーズで

日常は、さしたる不自由も差し障りもなく 機嫌よく笑いながら流れているように見えるが、その流れはときに激しかったり渦巻いたり澱んだりしているのだ。それはきっと確かなことだろう。

そして人は、さまざまな違った要素の縄を幾筋も撚り合せたようにしてできている。
ある一面を見てすべてを推し量ることなど不可能なのだ。
だから人は誰でも一筋縄では行かないものなのだ。

他の作品も読んでみたい。

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パレード*吉田修一

  • 2004/12/26(日) 08:20:25

☆☆☆・・


 この不愉快な社会に生きることの、つまらなさ、切なさ――。
 現代の若者の心中をリアルに描いた最高傑作!
  (帯より)


伊原直樹(28歳・映画配給会社勤務)と恋人の美咲が暮らすマンションに住み着いた 美咲の友だち 相馬未来(24歳・イラストレーター兼雑貨屋店長)、直樹の後輩の後輩 杉本良介(21歳・H大学経済学部3年)、未来の友人 大垣内琴美(23歳・人気俳優と恋愛中で無職)、そして ある日酔った未来が連れてきた 小窪サトル(18歳・男娼)が それぞれひとつずつの章で語り手になっている。
それぞれの目に映る他の人たち、そして自分がそれぞれの章で語られてゆく。
そこに見えてくるのは、人と深く関わらず、愉しげな生活を続けている空々しさと、それ故の心地好さ過ぎるほどの結びつきなのだった。
若い世代に特有のものとは言い切れないと思うが(現に私自身もそうかもしれない)、期待し、期待され、裏切り、裏切られないために 人の深部に踏み込もうとせず、楽しさを演じる表層だけで付き合ってしまうことの 気楽さと寂しさがとてもよく解る一冊だった。