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ノースライト*横山秀夫

  • 2019/07/17(水) 18:36:34

ノースライト
ノースライト
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横山 秀夫
新潮社
売り上げランキング: 8,765

一級建築士の青瀬は、信濃追分へ車を走らせていた。望まれて設計した新築の家。施主の一家も、新しい自宅を前に、あんなに喜んでいたのに…。Y邸は無人だった。そこに越してきたはずの家族の姿はなく、電話機以外に家具もない。ただ一つ、浅間山を望むように置かれた「タウトの椅子」を除けば…。このY邸でいったい何が起きたのか?


初めから終わりまで、みっしりと面白かった。装丁を見ただけで、そこはかとなく不安な気持ちにさせられ、読み始めてもその感はさらに強くなる。ブルーノ・タウトの椅子の出所を探るというのは、確かにひとつの要素ではあり、建築士としての青瀬の興味の在処でもあるのだろうが、つまるところ、そこにまつわるいくつかの家族の再生の物語なのではないかと思う。初めに抱いたそこはかとない不安は、次第に形を変え、一時は誰かの悪意を伴った不安に変わり、そして最後には、
一抹の無念さとともに、ある種の安堵と希望の種となって、物語全体を包み込むのである。大団円に向かって畳みかけるように進んでいく物語が心地好い一冊だった

64(ロクヨン)*横山秀夫

  • 2013/01/03(木) 13:49:30

64(ロクヨン)64(ロクヨン)
(2012/10/26)
横山 秀夫

商品詳細を見る

警察職員二十六万人、それぞれに持ち場があります。刑事など一握り。大半は光の当たらない縁の下の仕事です。神の手は持っていない。それでも誇りは持っている。一人ひとりが日々矜持をもって職務を果たさねば、こんなにも巨大な組織が回っていくはずがない。D県警は最大の危機に瀕する。警察小説の真髄が、人生の本質が、ここにある。


わずか8日の昭和64年に起きた誘拐殺害事件。14年経った現在も未だ犯人逮捕には至っていない。そんなD県警史上最悪で痛恨の「64ロクヨン」と符牒で呼ばれる事件を軸に、警察内部の確執と、広報官・三上のプライベートを絡め、緊張感あふれる濃く深い横山ワールドが展開されている。647ページというボリュームを感じさせない面白さである。最後は人間の職人魂とも言えるプロ意識がものを言うのだと思い知らされる一冊でもある。

震度0*横山秀夫

  • 2005/09/12(月) 07:06:02

☆☆☆・・



 警察小説はここまで進化した!
 大震災の朝、一人の県警幹部が失踪した。
 蒸発か?事件か?錯綜する思惑と利害、保身と野心、
 激しい内部抗争を背景に、N県警幹部6人の゛密室劇"の幕が開く・・・・・

                                (帯より)


誰とも深く関わらず、内面が読めない男・不破。県警N署の人事構想を練り上げたある日、突然姿を消す。奇しくも阪神淡路大震災の起こった朝だった。
不倫相手と逃げたのか、事件に巻き込まれたのか、あるいはもしかして・・・・・。N署の6人の幹部はそれぞれの思惑で思案をめぐらし、少しでも自分に有利になる道を探る。
阪神大震災の現場状況を映すテレビの画面を視野に入れつつも、保身に汲々とする幹部等の姿を描くことで、彼等の人間としての器の小ささを 著者は表わしたかったのかもしれないが、果たしてそれが阪神淡路大震災である必要性があったのだろうか、と被災者の方々のことを想うと腑に落ちない面もあった。
しかし、家族までもを含む警察という巨大機構の内部の表面とは真逆のおどろおどろしさには今回も溜息を禁じ得なかった。

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ルパンの消息*横山秀夫

  • 2005/06/15(水) 10:10:08

☆☆☆・・



 「昭和」という時代が匂いたつ社会派ミステリーの傑作!

 平成2年12月、警視庁にもたらされた一本のたれ込み情報。
 15年前に自殺として処理された女性教師の墜落死は、
 実は殺人事件だった――しかも犯人は、教え子の男子高校生3人だという。
 時効まで24時間。事件解明に総力を挙げる捜査陣は、
 女性教師の死と絡み合う15年前の「ルパン作戦」に遡っていく。
 「ルパン作戦」――3人のツッパリ高校生が決行した破天荒な
 期末テスト奪取計画には、時を超えた驚愕の結末が待っていた・・・・・。

 昭和の日本を震撼させた「三億円事件」までをも取り込んだ複眼的ミステリーは、
 まさに横山秀夫の原点、人気絶頂の著者がデビュー前に書いた
 “幻の処女作”が、15年の時を経て、ついにベールを脱いだ!

                         (単行本裏表紙より)


この作品の単行本化は 時効の15年とシンクロするように決められたのだろうか。
15年前と現在とが並行するように物語は進められてゆく。
そしてその15年前に起こった三億円事件までもが伏線として絶妙に絡められているのである。
それこそが主線と言ってもいいかもしれないのであるが...。
登場人物のそれぞれが――捜査陣としてであれ、事件の関係者としてであれ――霞むことなく役割を果たし、たどり着くべき結論にたどり着いたという感じである。
警察の内部事情を描かせて絶妙な著者の本領はすでにデビュー前から発揮されていたといえよう。

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出口のない海*横山秀夫

  • 2004/10/05(火) 20:03:00

☆☆☆・・


大学で野球に燃える若者たちにも否応なく戦争の火の粉がかかりはじめ、それぞれに戦地へと送られてゆく時代。
鳴り物入りで入部した並木は 肩を痛めて周囲の期待を裏切るという立場に悶々としながら 魔球を編み出す夢を捨てずにいた。そんな彼が就いた任務とは・・・。

戦争――しかも 公言せずとも負けることを誰もが感じている――という極限状態で尚、向かう夢を持てることのしあわせと それが実現できないことを悟ってしまうことの不幸せをしみじみと感じさせられて切なく哀しい。
 俺はとうとう死ぬことを目的に生きることができなかった。
 人が生きてゆくには夢が必要だ。
 俺は死ぬことを夢に生きることができなかった。

という 並木が沖田に宛てた手紙のことばが いつまでも頭の中で渦巻いている。

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臨場*横山秀夫

  • 2004/06/03(木) 08:11:20

☆☆☆☆・


臨場=変死体のある現場へ検死官が赴くこと

その検死眼の確かさから「終身検死官」の異名を取る 倉石義男のかかわる 8つの短編。

世間的に言えば表舞台には立つことのない いわば縁の下の力持ち的役割である 検死官。そこにも職人気質とも言える男がいる。誰のために検死をするのか?上司のためか?世間のためか?否、ホトケさんのためだ!と間髪を入れず断言する徹底振り。異端と言われようが上司から煙たがられようが天職と定めた検死の道を歩きつづける。
警察の舞台裏を書かせたら天下一品の作者であるが また一人 惚れ惚れする男を生み出してくれた。

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看守眼*横山秀夫

  • 2004/04/13(火) 19:30:57

☆☆☆・・


表題作を含む6つの短編。

どの作品の主人公も 少しだけ自分の思い描いた道を外れ 現在の境遇に気持ちを折り合わせようと葛藤しているのだろう。少なからず鬱屈した、しかしこれだけは譲れない というような心持ちを抱いている人たちである。
人生の表舞台でスポットライトを浴びることなどないであろうこれらの人物たちの人生の一瞬を切り取って これほど惹きつけるものを書けるのは 横山さんならではであろう。

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影踏み*横山秀夫

  • 2004/03/19(金) 14:05:30

☆☆☆☆・


深夜寝静まった民家に忍び込み現金を盗み出す泥棒のことを警察用語で「ノビ」という。
ノビの真壁=ノビカベ がこの物語の主人公。
15年前のある事件を境に 真壁は法を捨てた。

死んだ時から真壁修一の頭の中に住み続ける双子の弟啓二。
その啓二の他人には聞こえない声に助けられながらさまざまな謎を明らかにするために走り回る真壁。

真壁にとって啓二の存在とは何だったのだろうか。きっと影だったのだ。
人は誰も自分の影を踏まれまいとして生きているのかもしれない。
日陰に入って見えなくなったように思えても 一歩日の中に出て行けば どこまでも着いてくる影。逃れることのできない自分の影を踏まれないようにして生き延びなければならないのだ。きっと。

それにしても 警察と昔気質の腕一本で稼ぐ泥棒たちの関係たるや ホームズとルパン、銭形警部とルパンⅢ世 のごときあたたかき信頼関係――と言ってしまっては身も蓋もないが――で結ばれているようで 羨ましくさえ思えてしまうのはなぜだろう。

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クライマーズ・ハイ*横山秀夫

  • 2004/01/14(水) 08:04:57

☆☆☆☆・



ある因縁によって結ばれた 17年と言う時を隔てた二つの物語が 並行して語られていく。
ひとつは 日航ジャンボ機墜落のその時、墜落現場の地元群馬の地元新聞社。
もうひとつは 八ヶ岳の衝立岩。

ジャンボ機墜落の時 「日航全権デスク」として 事故後の報道に携わることになった 悠木。新聞記者としての誇りと派閥争いの醜悪さに翻弄され疲れきった時 選んだのは 「下りない」で続けることだった。

その17年後、「下りるために登る」と言い 専務の犬となって這い回ることをやめる決意をしながら倒れた安西の息子と登る衝立岩。

取材とは何か 報道とは何か?
記者の誇りとは?
大切な命とそうでない命とは?
親子とは?

たくさんの【?】を投げかけられた一冊である。

答えは それぞれが 生きているあいだ中考え続けなければいけないのかもしれない。

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深追い*横山秀夫

  • 2003/12/14(日) 08:19:20

☆☆☆・・   深追い

短編集
 |深追い
 |又聞き
 |引き継ぎ
 |訳あり
 |締め出し
 |仕返し
 |人ごと

 「愛」と「毒」に満ちた警察小説が書きたかった

と 著者自身が言っているように 警察という機構とその中で生きる警察官の話である。
あることに出遭った時の瞬時の判断力を問われる警察官。
非情であることを求められることの多い警察官。
そんな中で日々生きる警察官自身の「情」や「欲」を描いて見事である。

【組織ぐるみ】という単語がふと頭をかすめる。
民間人には想像もつかないほどの 保身意識がそこにあることも間違いないようだ。

第三の時効*横山秀夫

  • 2003/12/11(木) 08:16:45

☆☆☆・・   

6篇の中篇から成る。
・沈黙のアリバイ
・第三の時効
・囚人のジレンマ
・密室の抜け穴
・ペルソナの微笑
・モノクロームの反転

タイトルを見渡しただけで 早くも興味津々。

アリバイ崩し 謎解きはもちろんのこと
警察内部、ことに捜査一課 強行班内部の熾烈な手柄争奪戦を描いて見事である。
しかも 競い合う者同士の 一筋縄では行かない個性――人としても犯人を追うものとしても――
の魅力には 抗いがたいものがある。
捜査の仕方然り、部下の扱い方然り、被害者との接し方然り、犯人の落とし方然り、である。

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陰の季節*横山秀夫

  • 2003/11/23(日) 07:48:23

☆☆☆・・   陰の季節
警察を 内部の目で書いた作品。
しかも ポストや利権を巡るさまざまな駆け引きや葛藤を書いているのが興味をそそられる。
警察という閉ざされた【村】の中で職務に燃える警察官がいる一方
何とかして這い上がろうとする肩書き至上主義者が存在し
そこまで極端でなくとも 出世のために何がしかを犠牲にせざるを得ない苦悩も描かれている。
どこの社会でも 登りつめる為の争いは同じかもしれないが
舞台が市民の安全を守るべき警察署の内側だということが 興味深い。

ある場面 あるいは言葉によって 仕掛けの謎が閃く所は 何度読んでもドキッとする。

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顔*横山秀夫

  • 2003/10/19(日) 18:22:46

☆☆☆・・   顔 FACE

目撃者の証言を元に 似顔絵を描いて犯人逮捕に結びつける。
そんな役割を負う 似顔絵婦警 平野瑞穂の物語。
プロローグとエピローグに挟まれた 5編のオムニバス。

警察という男社会の中で 男達と肩を並べて悪と闘い
それよりも尚 警察と言う閉ざされた世界の中で 男達と闘う。
【女】を意識するまいと思いながらも 【女】であることが邪魔をし自らを傷つける。
【男同士】ならなんでもないことが【女同士】であるが故に ささくれのように痛みを伴う。
そうまでして 闘わなければならないのか、という思いと
とことん闘って何かを勝ち取って欲しい、という思いがせめぎ合う。
けれどそもそも 勝ち取るものとは何なのだろうか。

瑞穂が似顔絵を描いている時。その時こそが 彼女が自分を生きている時なのだろう。

最後の一文(板垣の胸の内で贈られた言葉なのだが)を私からも贈りたい。

若鮎のような婦警、平野瑞穂の前途に幸多からんことを――。

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半落ち*横山秀夫

  • 2003/10/05(日) 17:28:43

☆☆☆☆・

半落ち とは 罪は認めながら 細部を完全に明かさない状態のことなのだとか。

ひとつの事件をめぐり 様々な立場で関わることになる
様々な人々の視点による オムニバス形式の作品。

見所は 随所に見られる。
それぞれの立場から語られる物語は ある意味それぞれで完結している。
だが 始まりが 【半落ち】なので どの物語にも満たされなさ もどかしさが残る。
最後の物語の 最後の最後まで その消化不良感は引きずられることになる。

これから 梶総一郎はどう生きていくつもりなのか あるいはどう死んでいくつもりなのか。
わからないながらも 物語の最後は 涙だった。

横山さん 凄い!

  半落ち

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動機*横山秀夫

  • 2003/10/03(金) 17:27:31

☆☆☆・・

表題作を含む 4編の短編集。

どの作品も 唸らせてくれる。
相手の心を探っていたら いつしか思いもよらない場所に行き着いていた。
それが どの作品の主人公にも通ずる気分ではないだろうか。
主人公の思考に従って読者である私も どんどん見たくないものの方へ導かれていくようだ。
そしてまた 読者に結末を想像させる終わり方が なんとも心憎いばかりである。
読み手によって 読後感は違うのかもしれない。
私は 明るい未来が連なることを想像しよう。

  動機

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