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スウィート・ヒアアフター*よしもとばなな

  • 2012/02/19(日) 17:39:09

スウィート・ヒアアフタースウィート・ヒアアフター
(2011/11/23)
よしもと ばなな

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命の輝きが、残酷で平等な世界の中で光を増していく――。
今、生きていること。その畏れと歓びを描き切った渾身の書き下ろし長編小説!

「とてもとてもわかりにくいとは思いますが、この小説は今回の大震災をあらゆる場所で経験した人、生きている人死んだ人、全てに向けて書いたものです。」――よしもとばなな

ある日、小夜子を襲った自動車事故。同乗していた恋人は亡くなり、自身はお腹に鉄の棒が刺さりながらも死の淵から生還するが、それを機に小夜子には、なぜか人には視えないものたちが見えるようになってしまった。行きつけのバーに行くと、いつもカウンターの端にいる髪の長い女性に気付いたり、取り壊し寸前のアパート「かなやま荘」の前を通ると、二階の角部屋でにこにこと楽しそうにしている小柄な女性がいたり……。その「かなやま荘」の前で出会った一人の青年・アタルと言葉を交わすうちに、小夜子の中で止まっていた時間がゆっくりと動き始める。事故で喪ってしまった最愛の人。元通りにならない傷を残した頭と体。そして、戻ってこない自分の魂。それでも、小夜子は生き続ける。命の輝きが、残酷で平等な世界の中で光を増していく。今、生きていること。その畏れと歓びを描き切った渾身の書き下ろし。


震災のことは物語の中にそれと判るようには触れられていないが、不慮の事故で亡くなった恋人を、同じ事故で生き残った小夜子がどう弔い、これからどう生きていくか、ということを描くなかに著者の気持ちがこめられているのだろう。ある日突然愛する人を喪った心は、単純に悲しみ――あるいは哀しみ――に覆い尽くされるだけでなく、名づけられない空白部分も多く、それこそが扱い辛く宥め難いのだと想像することはできる。そんな名づけられない気持ちの動きが、著者らしいスピリチュアルな感じで語られているので、読者も小夜子と一緒に、いまある事々を受け容れていけるようになるのではないだろうか。やりきれなくはあるが、生きる力も感じられる一冊である。

サウスポイント*よしもとばなな

  • 2008/08/23(土) 11:07:11

サウスポイントサウスポイント
(2008/04)
よしもと ばなな

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かつて初恋の少年に送った手紙の一節が、ハワイアンの調べに乗って耳に届いた。キルト作家となった私はその歌い手を訪ねるが……。生命の輝きに充ちたハワイ島を舞台に描く書き下ろし長篇。


普通とはいえない境遇で育ち、だが不幸せかといえばそうも言い切れず、そのときどきでしあわせな風景を思い出すことができるようなテトラと珠彦。事情はまったく違うが、大人の都合に否応なしに振り回された子ども時代。そんな頃に、生木を裂くように別れ別れになり、自分の判断と責任でなんでもできる大人になって再び出会った。
キルト作家になっているテトラは、珠彦の亡くなった弟・幸彦のキルトを作るために、珠彦一家の住むハワイ島に赴き、その場所の魅力に惹きつけられるのだった。
しあわせなのか不幸せなのかよくわからない心のありようのテトラや珠彦とハワイの時間の流れ方がとてもしっくりとなじんでいて、物語を読んでいるというよりも、おなじ時間の流れのなかに身を置いているようなひとときだった。理屈ではないなにかが、こちらの胸のなかに流れ込んでくるような心地の一冊である。

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ひとかげ*よしもとばなな

  • 2007/10/10(水) 17:07:45

ひとかげ ひとかげ
よしもと ばなな (2006/09)
幻冬舎

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「私の、私の聖堂を、取りもどさなくては。」過去のつらい体験にとらわれ、心に傷を抱えながら愛しあう二人。深い闇で起きた、たくましい生命の復活を描く、「祈り」の物語。14年ぶり。進化したとかげの誕生。


主人公たちの職業意識の甘さなど、十四年を経て納得できないことごとがあり、書き直された『とかげ』のリメイク作品である。うしろに『とかげ』も併せて収録されている。
比べて読むとたしかに著者の伝えたいことがより細やかに描かれ、わかりやすくなっていると思う。
ただ仕方のないことだろうが、『とかげ』をすでに読んでいると、自分の罰し方とか人とのかかわり方とか、さまざまな点で印象は前作よりも薄くなるのも否めない。

ハードボイルド/ハードラック*吉本ばなな

  • 2007/03/03(土) 17:04:28

☆☆☆・・

ハードボイルド/ハードラック ハードボイルド/ハードラック
吉本 ばなな (1999/04)
ロッキングオン

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死んだ女ともだちを思い起こす奇妙な夜(「ハードボイルド」)。
そして入院中の姉の存在が、ひとりひとりの心情を色鮮やかに変えていく(「ハードラック」)。
闇の中を過ごす人々の心が輝き始める時を描く二つの癒しの物語。


奈良美智さんの表紙画と挿画が、ただのんきに笑いたくはない物語の気分にマッチしていて、それぞれの主人公の心持を思わされるようである。
そして、ばななさんは 吉本でもよしもとでもやはりばななさんである。
物語中で主人公に「何の霊感も持たないが」と言わせながらも感じてしまうのだ。死にゆく人とのきのうと、その人亡きあとのあす、そしていま。その時々を同じように大切に思う気持ちが沁みてくる。

子供ができました*よしもとばなな

  • 2006/10/27(金) 07:11:24

☆☆☆・・

子供ができました―yoshimotobanana.com〈3〉 子供ができました―yoshimotobanana.com〈3〉
よしもと ばなな (2003/10)
新潮社

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妊娠届けを提出したが、なかなか気の休まる日はこない。うんざりするテレビのニュース、仕事上のトラブル。胎児の画像を見て感動する。人生のペースを落とし、自分のからだの声を聞こうと思う。冷え、ぎっくり腰、犬の急病、食あたり、仕事場の引っ越し。妊婦を次々に襲う試練の数々。公式ホームページの日記とQ&Aを文庫化する第三弾。「けんかの仲直りの仕方」も伝授。


ばななさんは妊娠中もやっぱりばななさんだった。
大変だ、苦しい、重い、と言いながらも、なんだかんだと出かけていて、会った相手や場所から“気”をもらいつつお腹の中で他人を育てることに責任を感じている様に、基本的なことではあるが胸を打たれる。周りにいい人たちがたくさんいて、プラスのパワーを受け取っていることがページから感じられる。たとえ愚痴っぽいことが書いてあるページからも。

ハチ公の最後の恋人*吉本ばなな

  • 2006/10/23(月) 17:28:02

☆☆☆・・

ハチ公の最後の恋人 ハチ公の最後の恋人
吉本 ばなな (1998/08)
中央公論社

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霊能者の祖母が遺した予言通りに、インドから来た青年「ハチ」と巡り会った私は、彼の「最後の恋人」になった…。運命に導かれて出会い、別れの予感の中で過ごす二人だけの時間―求め合う魂の邂逅を描く愛の物語。


祖母がこぢんまりと始めた新興宗教は、祖母の死後、母を含めてなにやら違う方向に行ってしまい、マオはやり切れない思いで家出を繰り返していた。15歳。そんなときにおばあちゃんの予言どおりインドから来たハチと出会い、彼と恋人が暮らす部屋へ転がり込むのだった。
17歳。ハチの恋人が事故で亡くなり 家に戻っていたマオだったが、無理やり新興宗教の跡継ぎにさせられそうになり、家を出ようとしているところへハチが訪ねてきて そのまま彼と暮らし始める。
ところがハチは、一年後にインドに帰って出家すると言う。その日から 期間限定の幸福がはじまるのだった。

ハチと過す時間が、唯一自分と私がデートできる、短くて切ない時だった。


という一文が、恋というものの本質を言い当てているような気がする。

王国 その3 ひみつの花園*よしもとばなな

  • 2006/06/25(日) 09:34:00

☆☆☆・・

王国〈その3〉ひみつの花園 王国〈その3〉ひみつの花園
よしもと ばなな (2005/11)
新潮社

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雫石の不倫相手、真一郎の協議離婚が成立した。新しい生活が始まろうとするその矢先、壁が立ち塞がる。それは、真一郎の亡き親友が残した美しい庭と、その庭を守り抜こうとする若く魅力的な義母の出現だった。真一郎の思いを見抜き悩む雫石。落ち込んだ自分を見つめ、自分が何に耐えられないのかを知ろうとする雫石の心の旅。


『王国 その2』では あんなにお互いにかけがえのない風に見えた雫石と真一郎だったのだが、ひとつ壁を乗り越えたところにできたわずかの隙間には 初めから決まっていたかのように入り込んでくる何ものかがあったのだった。いち早くそれに気づいてしまった雫石の悩みを 真一郎ははじめは理解することができないのだが、やはり現実は進むべく方向へと進んでゆくのだ。
そして、傷心の雫石を救ってくれたのは、またもや 自分を偽らない心を持っている人たちの力だった。
今回のキーワードは《台湾》。台湾でのあれこれは、まだまだつづいてゆきそうに思われる。

なんくるない*よしもとばなな

  • 2006/05/31(水) 21:24:58

☆☆☆☆・

なんくるない なんくるない
よしもと ばなな (2004/11/25)
新潮社

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舞台は沖縄。
何かに感謝したくなる四つの物語。
どうにかなるさ、大丈夫。

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私はあくまで観光客なので、それ以外の視点で書くことはやめた。これは、観光客が書いた本だ。
沖縄は日本人にとって、あらゆる意味で大切にしなくてはいけない場所だ。
沖縄を愛する全ての人・・・・・深くても軽くてもなんでも、あの土地に魅せられた人全てと、沖縄への感謝の気持ちを共有できたら、それ以上の喜びはないと思う。 (あとがきより)
  ――帯より


表題作のほか、ちんぬくじゅうしい・足てびち・リッスン。
ばななさんの本は、こちらの心のありようによって受け取るものがかなり変わる本だと思う。ときには、まったく何も入ってこなくて 言葉が躰の表面を滑り落ちて流れてしまうように思えることもあり、またときには、ひとことひとことがすべて細胞レベルまで染み込むような気がすることもある。
今回は、後者だった。
特に、あとがきに述べられているように あくまでも外からやってきた者として沖縄をみている その視点が押し付けがましくなくて好ましかったのだと思う。自分に足りない大らかさ 拘らなさを、沖縄の何かが補ってくれるかもしれないという気にさせられて、沖縄の光の具合を想ってみた。

みずうみ*よしもとばなな

  • 2006/01/27(金) 17:34:16

☆☆☆・・



母を亡くしたばかりの壁画描きのちひろが語る物語。
その頃住んでいた部屋の道路をはさんだ向かい側の窓辺越しにいつも会っている人と少しずつ近づき、とうとうその人はちひろの部屋に泊まるようになった。それが中島君だった。
彼は窺い知れないほど傷ついていて その傷痕と今でも闘っているような人で、ちひろは何もしてあげられないながらどんどん惹かれていく。

中島君の深い傷が新興宗教もどきの団体絡みだったりするところに多少時代性のようなものを感じなくもないが、著者の立つ場所は初めの頃からずっと変わらない、と思わせられる。良い悪いは別にして。
気持ちが膨らみすぎて器に入りきれずにぱんぱんになって溢れ出しそうなパワーを見せつけられ、それでいて逆に あまりにも静かで漣も立たない湖のように 内側のものを見せずに外側ばかり映してしまうようなそっけなさを感じさせられるのだ。ばななさんのどの作品にもそれは共通して言えるように思う。

High and dry(はつ恋)*よしもとばなな

  • 2004/09/03(金) 17:59:32

☆☆☆・・


 生まれて初めて、ひとを「好き」になった瞬間を、覚えていますか?
 14歳の少女が恋をした。
 ばななワールドの新たなる幕開け、心温まる永遠のファンタジー。

                           (帯より)


誰かを好きになること。それはもしかすると 同じキラキラを同時に見つけてしまうようなことなのかもしれない。「あっ!?」と思った瞬間 時が止まり、いたずらを見つかった子どものように「しまった!!」と思ってももう遅いのだ。そして ある者はせっかちに、またある者はじっくりと キラキラの在処を見定めてゆくのだ。この物語の二人、夕子とキュウくんは ちょっとずつ近づいて ちょっとずつ仲良くなっていった。とてもしあわせなやり方で。
目に見えないもののほんとうの力を信じることができるということ、そしてそれを否定されないということの あたたかさや安心な感じが とても嬉しい一冊だった。
カラフルでポップなカバーは、見ただけで元気になれそうだし それを外すと 装丁が春の雨ふりの牧場みたいで とてもやさし気できゅんとなる。

王国-その2*よしもとばなな

  • 2004/04/22(木) 19:40:02

☆☆☆・・


サブタイトルは
痛み、失われたものの影、そして魔法

王国-その1――アンドロメダ・ハイツ の続編。

暗闇の中にぼんやりと あるいはくっきりと浮かぶ光のように 人と人とは重なり合い影響を与え合っているのだ、と気づき 明日を信じられるようになる。

 私のためだけに生きるのなら、私はすごく小さい。
 でも、私を必要としている人がいるから、
 私はひとまわり大きな力が出せるし、出したいと思うのだろう。



 何かが終われば必ず何かがはじまっている。
 それを見るか見ないかだけが私の自由なのだ。


こんな文章に立ち止まった一冊だった。

デッドエンドの思い出*よしもとばなな

  • 2004/01/28(水) 08:15:45

☆☆☆・・


あとがきに 何ひとつ身に起きたことなど書いていないのに いちばん私小説らしい小説だ と書かれている。過去のつらかったことを全部清算しようとしたのか とも。

確かに出来事としては 辛いことばかり描かれているのだが
読者は一緒になって辛い気分にはならないと思う。少なくとも私はならなかった。
なぜかというと どの物語も 辛い気持ちが浄化され 少しずつ凹みが元に戻ってゆく話しだから だと思う。

以前にも他の作品の感想に書いたかもしれないが ばななさんの書く食べ物は
たとえそれが ご馳走でもなくありきたりなものだとしても とても温かく美味しそうである。そして それがものすごく魅力的なのだ。
自然の 宇宙の営みの 不思議だけれど当然の成り行きを 跳ね返すことなく自然に躰や心に受け容れていこう、と素直に思わされる ばなな風味な一冊だった。

ハゴロモ*よしもとばなな

  • 2003/10/21(火) 19:46:50

☆☆☆・・   ハゴロモ

人の、意図しない優しさは、さりげない言葉の数々は、羽衣なのだと私は思った。
いつのまにかふわっと包まれ、今まで自分をしばっていた重く苦しい重力から
ふいに解き放たれ、魂が宙に気持ちよく浮いている。


この物語のかたりべである ほたるの思い。
これが この作品の全てと言っても けっして言い過ぎではないだろう。
そういう感じが 全編に満ち満ちている。

自然の営み、宇宙の営みから 無理なく何かを受け取れるというのは
訓練とか 修行とかで得られるものでは なかなかなく
命の中に 自然に芽生えるものなのだろう。
とても羨ましく 憧れを持って遠くから眺めてしまう。
ばななさんの描く 何かに疲れた女の子は いつもそんな風に自然や宇宙に寄り添うように近く
私を しばらくの間 ほっとさせてくれる。