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流れ星と遊んだころ*連城三紀彦

  • 2021/07/12(月) 16:10:57


傲岸不遜な大スター「花ジン」こと花村陣四郎のパワハラに苦しむマネージャーの北上梁一は、ある夜、一組の男女と出会う。
秋場という男の放つ危険な魅力に惚れこんだ梁一は、彼をスターにすることを決意。
その恋人である鈴子も巻きこみ、花ジンから大作映画の主役を奪い取ろうと画策する。
芸能界の裏側を搔い潜りながら着実に階段を上る三人だが、やがてそれぞれの思惑と愛憎が絡みあい、事態は思わぬ展開をみせる――。

虚々実々の駆け引きと二重三重の嘘、二転三転のどんでん返しが、
めくるめく騙しの迷宮に読者を誘う技巧派ミステリの傑作。

「このミステリーがすごい! 2004年版」第9位。
「おすすめ文庫王国2015」第1位。


一人称がさらりと入れ替わり、時間軸が前触れもなく移動し、知らず知らずのうちに、頭も心も遠い所へと連れ去られていたような印象の物語である。一体誰が騙し、誰が騙されたふりをし、騙されたふりを信じたふりをしているのか。誰もがみな騙し、騙され、騙されたふりをし、騙す演技をしているようである。それなのに、読んでいる間中、深いところでは完全に理解している気持ちになっている。終始騙され続けているのに、いたって心地好い一冊とも言える。

虹のような黒*連城三紀彦

  • 2020/01/04(土) 13:06:15


誰もが彼女を狙っている――。
大学祭の当日、英文学ゼミの教室で発生した凌辱事件。ばらまかれる怪文書、謎の猥褻画、五転六転する議論の応酬。いったい、あの「密室」で何が起こったのか?
連城三紀彦“最後の未刊長篇”を初書籍化。さらに、連載時(「週刊大衆」2002~2003年。全36回)に著者が毎回描き下ろした自筆挿画(全72点)を完全収録。本文と連動した挿画にによる著者ならではの企みに満ちた「仕掛け」にも注目いただきたい、ファン必携の愛蔵本。


実際にあったことは何なのか、関わった人々それぞれが胸に持つ思いによって、それぞれの脳裏に描かれた物語と、実際にだれが何のために何をしたか、という歴然とした事実が入り乱れ、読むものを混乱させる。突き詰めてしまえば、ただひと組の夫婦の愛の在り方のすれ違いから端を発したと言ってもいいのかもしれない。初めのうち、その描写にへきえきとする部分もあったが、次第に、真実を知りたい気持ちが高まり、それを知ったのちもなお、理解しがたい何ものかに胸の中をかき回されている心地である。気楽に読める一冊ではない。

わずか一しずくの血*連城三紀彦

  • 2019/11/03(日) 13:33:00

わずか一しずくの血
わずか一しずくの血
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連城 三紀彦
文藝春秋
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薬指に結婚指輪をはめた左脚の白骨死体が山中で見つかり、
石室敬三とその娘は、その脚が失踪した妻のものだと確信する。

この事件をきっかけに、日本各地で女性の身体の一部が発見される。
伊万里で左腕、支笏湖で頭部、佐渡島で右手……それぞれが別の人間のものだった。
犯人は、一体何人の女性を殺し、なんのために遠く離れた場所に一部を残しているのか?
壮大な意図が、次第に明らかになっていく。


流れる空気は全体を通して暗く重いものである。時代の負った罪とでもいうようなものを、全身で憎み恨んでしまったひとりの男と、彼の周りで、知ってか知らずかに関わらずその空気に呑み込まれた人たちの復讐劇というような印象である。まるで、日本という国の負の記憶を一身に背負ってしまったかのような悲壮感と、ある種使命感のようなものが、彼を突き動かす原動力になっているとしか思えない。哀しく重苦しく、切なく澱んだものが折り重なったような一冊だった。

悲体*連城三紀彦

  • 2018/08/04(土) 18:45:51

悲体
悲体
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連城 三紀彦
幻戯書房
売り上げランキング: 219,292

40年前に消えた母を探し韓国へ来た男の物語は、それを書きつつある作者自身の記憶と次第に混じり合う…出生の秘密をめぐるミステリと私小説的メタフィクションを融合させた、著者晩年の問題作にして最大の実験長篇、遂に書籍化。


いま自分は物語を読んでいるのか、著者の語りを聴いているのか、時々判然としなくなり、夢とうつつの間を行きつ戻りつしている心地にさせられる。父と母、そして自分。さらには母といい仲になった男。彼らの胸の芯にあっただろうものに思いを馳せ、捕まえかけたと思えばまたするりと逃げられる。自分の身体の中を巡る血は、誰と誰のものなのか、そして、どこの国のものなのか。あの時の彼、彼女の思惑はどんなことだったのか。自分は本当はどうしたかったのか。そんな取り返しのつかないあれこれが、不意に押し寄せてきて、それに駆り立てられるように韓国へ飛ぶ。謎が謎を呼び、手掛かりが見えたと思えば、またつかみ損ねるようなもどかしさと、いっそのこと知らずにいた方が幸せでいられると、わざと追わずにいたりもする。自分探しは、傷つくことを恐れていてはできないのかもしれない。もどかしく、哀しく、やるせない一冊である。

処刑までの十章*連城三紀彦

  • 2014/11/19(水) 07:17:07

処刑までの十章処刑までの十章
(2014/10/09)
連城 三紀彦

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ひとりの平凡な男が突然消えた。弟直行は、土佐清水で起きた放火殺人事件、四国の寺で次々と見つかるバラバラ死体が、兄の失踪と関わりがあるのではと高知へと向かう。真相を探る度に嘘をつく義姉を疑いながらも翻弄される直行。夫を殺したかもしれない女に熱い思いを抱きながら、真実を求めて事件の迷路を彷徨う。禁断の愛、交錯する嘘と真実。これぞ、連城マジックの極み。耽美ミステリーの名手が遺してくれた渾身の1000枚!闘病中に書き上げた執念の大長編を、追悼の意を込めて、一周忌に刊行―。


怖かった。初めはただの浮気の果ての逃避行かと思われた平凡な男の失踪が、美しい青い蝶・アサギマダラを介してはるか四国の放火事件やバラバラ死体遺棄事件と繋がり、じわりじわりと怖くなる。しかも、夫・靖彦に失踪されて呆然とする妻だと思っていた順子は、靖彦の弟・直行に痴れっと嘘をつくのである。夫と妻と義弟の捻じれた三角関係、そしてはるか四国の歪んだ三角形。関係があるようで遠いようなもどかしさ。真相に近づきかけるとするりと逃げられるような喪失感。そして思っても見なかった真相。捻じれ歪み背筋がうすら寒くなる一冊だった。

小さな異邦人*連城三紀彦

  • 2014/08/28(木) 17:10:08

小さな異邦人小さな異邦人
(2014/03/10)
連城 三紀彦

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8人の子供と母親からなる家族へかかってきた1本の脅迫電話。「子供の命は預かった、3千万円を用意しろ」だが、家には子供全員が揃っていた!?生涯最後の短篇小説にして、なお誘拐ミステリーの新境地を開く表題作など全8篇。


表題作のほか、「指飾り」 「無人駅」 「蘭が枯れるまで」 「冬薔薇」 「風の誤算」 「白雨」 「さい涯てまで」

男女の愛の行方の哀しくも切ない物語たちであるが、なによりの印象は女性の強さである。どの物語でも、犯人であったり主役で会ったりする女性の芯の強さが際立っている。それは愛ゆえなのかもしれない。その辺りを丁寧に繊細に描きつつ、ぞくぞくする企みをそっと隠して、最後の最後に明かして見せる巧さは見事である。重たい曇り空が似合う雰囲気の一冊である。

夜よ鼠たちのために*蓮城三紀彦

  • 2010/05/25(火) 20:30:21

夜よ鼠たちのために (新潮文庫)夜よ鼠たちのために (新潮文庫)
(1986/04)
連城 三紀彦

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脅泊電話に呼び出されて出かけた総合病院の院長が殺され、続いて、同じ病院の内科部長の死体が発見された。見つかった二人の死体は、首に針金を二重に巻きつけられ、白衣を着せられていた。何故二人がこんな姿で殺されたのか?そして、「妻の復讐のために殺した」という犯人の電話の意味は?執拗な復讐者の姿を追う表題作ほか、人間の心の奥に潜む闇を描くサスペンス6編。


表題作のほか、「二つの顔」 「過去からの声」 「化石の鍵」 「奇妙な依頼」 「二重生活」

どれもとてもよくできた物語である。極自然にまっすぐに流れていた流れが、ある時点を境にもつれ絡まり合い逆流するように、がらっと様相を変える。その変わり様が見事である。真実がわかるとそれまで見逃していた些細な点が、浮かび上がるように見えてくるのが不思議である。どこでどうひっくり返されるかわくわくする一冊だった。

造花の蜜*連城三紀彦

  • 2009/04/23(木) 09:02:10

造花の蜜造花の蜜
(2008/11)
連城 三紀彦

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造花の蜜はどんな妖しい香りを放つのだろうか…その二月末日に発生した誘拐事件で、香奈子が一番大きな恐怖に駆られたのは、それより数十分前、八王子に向かう車の中で事件を察知した瞬間でもなければ、二時間後犯人からの最初の連絡を家の電話で受けとった時でもなく、幼稚園の玄関前で担任の高橋がこう言いだした瞬間だった。高橋は開き直ったような落ち着いた声で、「だって、私、お母さんに…あなたにちゃんと圭太クン渡したじゃないですか」。それは、この誘拐事件のほんの序幕にすぎなかった―。


一体何度クライマックスに近づく興奮を味わわせれば気が済むのだろう。登りつめたと思えば、更にその先に登るべき道が続いている。そして、とうとうほんとうに登りきり、頂上に立って再び下りてきたと思えば、気を抜くまもなく、まるでデジャブのように同じ登り道を登っていることに気づかされるのである。
単純な誘拐事件の様相ではじまった物語は、誰もが真実を語っていないような不穏さで満ちみち、最初から最後まで不協和音を奏でながら、しかし終わってみれば見事な協奏曲になっている。
ページを繰る手を止められない一冊だった。

恋文*連城三紀彦

  • 2005/07/24(日) 12:58:01

☆☆☆・・



 直木賞受賞作
 過ぎ去った想い出に苦笑いしつつ、なお人は誰かを愛さずにはいられない・・・・・。

 マニキュアで窓ガラスに描いた花吹雪を残し、夜明けに下駄音を響かせて
 アイツは出ていった――。結婚十年目に夫に家出をされた
 歳上でしっかりものの妻の戸惑い。しかしそれを機会に、彼女には
 初めて心を許せる女友達が出来たが・・・・・。
                  *
 表題作など著者の新しい才能が光るネオ・ロマン五篇!
   (帯より)


表題作のほか、紅き唇・十三年目の子守唄・ピエロ・私の叔父さん。

人を愛するとは何か、しあわせとは何かを考えさせられる作品たちである。
どの作品のどの登場人物も、自分のなかに湧いてくる愛という気持ちを上手く手なずけられず、さまざまな歪んだ形で表わそうとする。
それはあまりにも真っ直ぐすぎたり 回り道しすぎたりで、相手にそのまま届くことはない。
切なくもどかしく熱を帯びた五篇である。

明日という過去に*連城三紀彦

  • 2003/11/09(日) 07:38:49

☆☆☆・・   明日という過去に

一言でいってしまうと 往復書簡という形を取った女のたたかい。

終始 柔らかで穏やかな言葉遣いで綴られた二人(一時的には三人)の女の手紙のやり取りなのだが
その内容たるや 四次元方程式にもにた男女の関係の中での静かで激しい闘いそのものなのだ。
真実らしく語られた手紙の内容が「嘘でした」のひと言で何度覆されることか。
結局何が言いたいのか 最後までよく判らないままだった気もするし
途中 これもまた嘘なのぉ~ と笑い出したくなってしまうことがなくもないが
結局 女なんて いや人間なんて 薄い一枚の仮面の下に 何を仕舞いこんでいるか想像もつかない ということなのだろう。と 筆者が見たら溜息をつくかもしれない自分なりの納得の仕方で読了(笑