FC2ブログ

国道食堂 2nd season*小路幸也

  • 2021/03/28(日) 18:33:00


小田原を抜けてしばらく経った頃、国道沿いに元プロレスラーが営む「ルート517」という店が見えてくる。
ドライブインというより、大衆食堂というのにピッタリなため、「国道食堂」という名もある。
この店の食事は、どれも美味しいが、ちょっと変わっているのは、プロレスのリングがあること。
さまざまな人々が集うこの店には、偶然か運命のいたずらか、とんでもないことが起きることがあって……。
好調シリーズの続篇刊行!


読み始めてしばらくは、前作の人間関係があやふやだったりもしたが、読み進めるうちに思い出してきて、そうだったそうだった、と懐かしい人たちに会えたような気分になった。山の中の田舎の学校の校舎を小さくしたような食堂で、こんなにも多彩な出会いと繋がりが生まれて、どんどん広がっているなんて、誰が思うだろうか。広いようで世間は狭い(都合よく狭すぎる気がしなくもないが、そこは敢えておいておく)。きっとそれは、十一さんを初めとして、国道食堂に集まってくる人たちが、お互いのことが好きで、それぞれに思いやっているからこそのことなのだろう。基本的に悪人が出てこない著者の物語だが、たまに心根の曲がった人が出てきたとしても、単純に排斥しないところが著者らしい。世界がこうだったら、どんなにか生きやすいだろうと思う。まだまだこの先を知りたくなるシリーズである。

三兄弟の僕らは*小路幸也

  • 2020/08/18(火) 18:29:43


平凡で幸せな家庭に育ちながらも、突然の交通事故で両親を一度に失ってしまった、稲野朗・昭・幸の三兄弟。そんな彼らを助けるべく、ほとんど面識がなかった母方の祖母が家にやってくる。その暮らしの中で兄弟たちは、祖母と母の不仲の理由や父の出生の秘密など、これまで知らなかった家族の裏側を少しずつ知っていくのだが…。中・高・大学生の三兄弟の成長と、家族の絆を描いた、感涙必至のハートフルストーリー。


一般的に見えれば、ものすごく不幸でありながら、まったくそうは見えない三兄弟ではある。著者の作品には、基本的には善人しか出てこないが、本作もまた然り。三兄弟(小学生の末の弟までも)も、周りの人たちも、あまりにも人間ができすぎていて、ともすると白けてしまいそうなのだが、著者の物語はなぜかそうはならず、応援したくなってしまうのが不思議である。これ以上不運に見舞われないように、というよりも、どんな状況に置かれても、いいことを探しているような彼らなので、末永くそのまま穏やかに、と願わずにはいられない一冊である。

イエロー・サブマリン 東京バンドワゴン*小路幸也

  • 2020/08/06(木) 08:04:35


四世代が同居する堀田家には、今日も不思議な事件が舞い込む。伝説の作家のアトリエに潜む秘密、紺に届いた盗作を訴える手紙、古本を定期的に買っては店に置いていくミステリアスな少女、藤島とパートナーになった美登里につきまとう過去の亡霊―。バンドワゴンの面々は「LOVE」という強い絆を持って立ち向かう。人気シリーズ待望の第15弾!


なんと第15弾!お見事である。堀田家の様子も、年々様変わりし、とうとう研人が高校を卒業する年齢に。なんとも感慨深いものがある。だが、相変わらず、厄介事とは縁が切れないようで、今回もあちこちから様々な厄介事が転がり込んでくる。我南人がふらっといなくなるのはいつものことで、最後にびしっと決めてくれるのも、いつも同様Loveである。改めて人と人とのつながりのありがたさを思うシリーズでもある。

のご挨拶*小路幸也

  • 2020/06/29(月) 16:45:08


港町を見下ろす高台にある高級料亭旅館“銀の鰊亭”。一年前の火事で当主とその妻は焼死。二人を助けようと燃え盛る炎の中に飛び込んだ娘の文は怪我を負い、記憶を失った。ところが、その火事の現場には身元不明の焼死体もあった―。あの火事は“事故”なのか“事件”なのか?文の甥・光は刑事の磯貝とその真相を追うことになるのだが…。


歴史ある高級料亭旅館<銀の鰊亭>の知る人ぞ知る謎と、それにまつわる人たちの物語。もしもそれが事実だったとしたら、ものすごく大変なことなのだが、表向きのことしか知らされていない世間の人々にとっては、穏やかな日常が流れているのだろう。だが、コアなところでは、疑惑や思惑や駆け引きが繰り広げられ、まるで、川に浮かぶ水鳥の足掻きのようである。本当のところはどうだったのかは、永遠の謎だが、誰も不幸にしないところに落ち着いたのだろうと思う。仁さんのことは、残念だったが。文さんの記憶が戻ったらどうなるのか、ちょっぴり気になる一冊でもある。

国道食堂 1st season*小路幸也

  • 2020/06/14(日) 16:36:26


お店の中にプロレスのリング?ちょっと田舎にあるけれど何を食べても美味しい食堂“ルート517”。そんな、ちょっと変わった店に通う人々の様々なドラマ。


ちょっと変わった人が営む、ちょっと変わった食堂が舞台。やたらとメニューが多いが、何を食べてもおいしい「ルート517」(人呼んで国道食堂)にやってくる人たちの人生と人生が出会い、元プロボクサーの店主の人生も絡み合って、好い具合に何かが生まれていく。生まれついての資質を持っている人は、それだけでなにごともうまくいく、というようなうらやましすぎるような設定もあるが、それが鼻につかず、素直に肯けてしまうところも著者ならではなのかもしれない。人はひとりでは生きられない、意識してもしなくても、必ずどこかで誰かと何らかの形で繋がり、影響を与え合っているのだということを再認識させられる一冊でもある。1st season ということは、次があるということだろうか。愉しみである。

花咲小路一丁目の髪結いの亭主*小路幸也

  • 2020/02/14(金) 16:32:34


たくさんのユニークな人々が暮らし、日々大小さまざまな事件が起きる花咲小路商店街。すらりと背の高いせいらちゃんが働く「バーバーひしおか」は、古きよき香りが漂うレトロな“理髪店”。小柄な奥さん・ミミ子さんが切り盛りし、素敵に髪を整えてくれますが、店主の旦那さんはのんきに暮らしてばかり。それもそのはず、旦那さんには思いもよらぬ“裏の顔”があって―


花咲小路商店街、ますますその筋の達人が集まっているようで、ものすごく濃密である。傍から見ればなんということのないごくありふれた商店街なのだが、その実、内情を知れば知るほど侮れない。カテゴリーは様々ではあるが、その道では一流でありながら、誰もが日々を実直に暮らしているのがなおさら格好好い。バーバーひしおかのメンバーに加わったせいらちゃんも、素敵なひらめきで、呑み込みがとても早く、鋼鉄のセーラと言われるほど口が堅い。彼女もまた魅力的である。花咲小路がこれからどうなっていくのか、いつまでも平穏でいられるのか興味深いシリーズである。

夏服を着た恋人たち マイ・ディア・ポリスマン*小路幸也

  • 2020/01/18(土) 14:25:16


謎のカギを握るのは一枚のメモと高層マンション!?奈々川駅前の高層マンション“グレースタワー”最上階の部屋が暴力団の事務所になっている―。“東楽観寺前交番”に寄せられた通報を受け、赴任三年目の夏を迎えた宇田巡は捜査に向かう。一方、巡の恋人で新人マンガ家の楢島あおいは、年配の女性が不審な男に封筒を渡す場面を目撃してしまう。オレオレ詐欺事件と判断したあおいは、伝説の掏摸の祖母から受け継いだ技を使って、男の胸元から1枚のメモを掏り取る。そんな折、あおいの父・明彦は、長年行方不明だった大学時代の同級生、脇田広巳を町で見かけて…。町の仲間たちが凄ワザで謎に挑む人気ミステリー!


オレオレ詐欺、ドローン技術、SNSの波及力、などなど、現代を表す要素が満載である。だが、東楽観寺前交番の佇まいは、なんだかひと昔前ののどかさを残していて懐かしい感じである。ここに暮らす人たちの関係性も、現代の忙しなさとは遠く、つながりが濃く、その人脈故に解決されることも多々あるのである。今回も、事象そのものは現代的だが、解決のために根底を流れるものは、そんな密なつながりによるところが大きい。誰もが誰かのことを思い、誰かのためを思って動くことで、信頼関係が築かれ、それが次につながっていくのが見て取れてほっとさせられる。次も愉しみなシリーズである。

あの日に帰りたい 駐在日記*小路幸也

  • 2019/11/18(月) 18:19:08

あの日に帰りたい-駐在日記 (単行本)
小路 幸也
中央公論新社
売り上げランキング: 80,475

1971年。元刑事・蓑島周平と元医者・花の夫婦の駐在生活も板についてきた頃。新たな仲間、柴犬のミルも加わりのんびりした生活……と思いきや、相変わらず事件の種はつきないようで――。平和(なはず)の田舎町を、駐在夫婦が駆け回る!


語り口が東京バンドワゴンと似てきているように感じるのはわたしだけだろうか。特に食事の支度をする場面で、色濃く出ているような気がする。それはともかく、雉子宮駐在所の日々は、大方はのんびりしているものの、いざ何か起こると、結構大事になったりするので気が抜けない。だが、どんな事件であれ、住人のことを第一に考え、この先もよりよく生きて行けるように配慮する簑島巡査や花さんの対応が素晴らしい。真相は、当事者と花さんの日記でしかわからないので、読者はお得である。雉子宮に観光客がたくさん来て、町が潤ってほしいと思いはするが、こののどかさは変わらずにいてほしいと願ってしまうシリーズである。

アンド・アイ・ラブ・ハー*小路幸也

  • 2019/08/23(金) 18:38:21

アンド・アイ・ラブ・ハー 東京バンドワゴン
小路 幸也
集英社
売り上げランキング: 103,927

一進一退を続けるボンの容態に、落ち着かない日々を過ごす堀田家。しかしトラブルが起これば、すかさず助太刀参上!進路に悩む研人に、「老人ホーム入居を決めてきた」と宣言するかずみ。そして長年独身を貫いてきた藤島がついに―。それぞれが人生の分かれ道に立った家族、でもつながっているのはやっぱり「LOVE」があるから!人気シリーズ待望の第14弾!


もう14作目か、という感慨ひとしおである。小さかった人たちは大人になり、もっと小さかった人たちも小学生になり、大人たちはさらに歳を重ね、充分に歳を重ねていた人たちは、さらに老いていく(サチさんを除いて)。おめでたく明るい反面、どうしても一抹の寂しさも感じるのは、致し方のないことなのだろう。そんなすべてを受け止め見守る覚悟が、人生には必要なのだということを、本作が教えてくれる気がする。シリーズが続くほどに人間関係が広がっていくのは当然のことで、堀田家にもずいぶん新しい関係が築かれている。若い人たちが増えて、これからさらに広がっていくだろうと予想もされ、頼もしくも思われるが、読者としては、どこまで着いていけるかという不安も多少あるのが本音である。今回も厄介事が持ち込まれはしたが、それよりなにより、「ゆく人くる人」感の強い一冊だった。

テレビ探偵*小路幸也

  • 2019/02/09(土) 16:33:29

テレビ探偵
テレビ探偵
posted with amazlet at 19.02.09
小路 幸也
KADOKAWA (2018-12-25)
売り上げランキング: 224,188

1969年、イケイケで無類に楽しく、でもちょっといかがわしい、そんなテレビに誰もが夢中だったあの頃―コミックバンド「ザ・トレインズ」のボーヤとなって芸能界入りした19歳の葛西靖之(チャコ)は、個性的なメンバーや業界人たちに振り回されていつも忙しい。ある日、トレインズに土曜夜8時の新番組を持つ話が持ち上がった。スターへの道が拓けたことを喜ぶ者、音楽に専念できないことを危ぶむ者…間で右往左往するばかりのチャコだが、そんな中、生放送中の舞台で殺人未遂(?)事件が発生し―。停滞の時代にガツンと元気を届ける、昭和青春ミステリの開幕!


昭和の真ん中を生きてきたわたしにとっては、懐かしすぎる物語である。いくらフィクションだとは言え、実際の彼らの顔で頭の中に物語が展開されてしまうのは仕方がないだろう。テレビでは見られない裏側の世界が、垣間見られた気分になれて、お得感満載の物語でもある。なんだかいろいろといい時代だったなぁ、と思い出に浸りたくなってしまう一冊でもあった。

春は始まりのうた マイ・ディア・ポリスマン*小路幸也

  • 2019/01/14(月) 16:26:05

春は始まりのうた マイ・ディア・ポリスマン
小路幸也
祥伝社
売り上げランキング: 153,076

夜空に浮かぶのは、満開の桜と……白いお化け!? 〈東楽観寺前交番〉に赴任して三年目の巡査・宇田巡(うためぐる)。彼のもとに幼馴染みで音楽事務所社長の市川公太がやってきて、白い化け物にでくわし荷物をとられたと言う。じつは似た訴えはこれで三件目、巡は捜査を開始する。一方、巡 の彼女で、伝説の掏摸(すり)の孫にしてマンガ家デビューをしたばかりの楢島あおいは、高校の卒業式の帰りに巡を見張っている男がいることに気づく。身許を確かめようとしたところ、その男の懐にあったのは何と警察手帳だった……。 犯罪者が〝判る〟お巡りさん、伝説の掏摸の血を受け継ぐ美少女マンガ家、 超絶記憶を誇る兄弟……そして、新たな凄ワザメンバーが登場!? 面白さ倍増で贈る、キュートでハード(?)なミステリー!


今回も、ほのぼのとしているようで、国家を揺るがす一大事がバックにあったりして侮れない。どうしてこの町のこの地域にだけ、これほど特殊な技能の持ち主が集まってしまったのかという疑問は於くとして、みんな根っこがいい人たちなのである。かなり物騒なことに関わりあってはいるものの、日々はいたってのどかに繰り広げられており、巡とあおい、行成と杏菜も順調に前に向かっているようでほほえましい。この町にいる限り、何が起きても大丈夫な気がするシリーズである。

花咲小路三丁目北角のすばるちゃん*小路幸也

  • 2018/12/31(月) 20:27:08

花咲小路三丁目北角のすばるちゃん
小路 幸也
ポプラ社
売り上げランキング: 61,261

たくさんのユニークな人々が暮らし、日々さまざまな事件が起きる花咲小路商店街。
にぎやか商店街の裏には、真っ赤なシトロエンが看板代わりの駐車場<カーポート・ウィート>があるのです。
若社長・すばるちゃんが営むカーポートを訪れるのはいろんな車。ときには厄介ごとも乗せてきて――


花咲小路シリーズ、今回は、三丁目北角の赤いシトロエンが目印の駐車場の若き経営者・すばるちゃんが主人公。母は、すばるちゃんが生まれてすぐに出ていき、父は病気で亡くなり、その後育ててくれた祖父も亡くなって、ひとりになってしまったが、花咲小路商店街の人たちに見守られて、恙なく暮らしている。赤いシトロエンは、すばるちゃんの住まいであるとともに、亡くなった父の魂が宿り、カーラジオを通じて話ができる、という秘密も載せているのだった。花咲小路のエピソードはこれまでにもさまざまな人たちを主役に繰り広げられてきたが、その度に、花咲小路商店街の絵地図に色をつけていくような気持になった。今回もまた違う一角に新しい色を塗れて、絵地図がどんどん生き生きしてくるようでうれしくなる。人は、ひとりで生きているようでも、周りの人たちに見守られているのだと実感する一冊でもある。

妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ*小路幸也

  • 2018/07/25(水) 19:22:53

妻よ薔薇のように 家族はつらいよ3 (講談社文庫)
小路 幸也 平松 恵美子
講談社 (2018-03-15)
売り上げランキング: 354,610

無神経な夫・平田幸之助の言動に、それまで一家を支えてきた嫁・史枝がついにキレた。妻として母として嫁として、いなくなって初めてわかる史枝の有難み。後悔しつつも素直になれない幸之助に、周囲の心配は募るばかり……。山田洋次監督の傑作映画を、「東京バンドワゴン」の小路幸也がノベライズ。笑いと涙で家族の愛情を描く、喜劇シリーズの総決算!


史枝さん、よくやった!という感じである。それにつけても、幸之助のなんと無神経で身勝手なことか。史枝さんがも、よくいままで耐えてきたものである。救いは、義理の関係も含め、周りがおおむね史枝さんの存在意義を大いに認めてくれているということだろう。それがなければ、個人的には、金輪際戻りたくはない。幸之助がすっかり心を入れ替えたとは、まだ信じられないが、少しずつ変わってくれることを祈るばかりである。家庭の、主婦のありがたさがよくわかる一冊である。

ヘイ・ジュード 東京バンドワゴン*小路幸也

  • 2018/07/22(日) 08:47:50

ヘイ・ジュード 東京バンドワゴン
小路 幸也
集英社
売り上げランキング: 59,801

花陽の医大受験を目前に控え、春を待つ堀田家。古書店“東京バンドワゴン”の常連・藤島さんの父親が亡くなって、書家だった父親のために記念館を設立するという。すると古書をきっかけに思いがけないご縁がつながって…。笑って泣ける、下町ラブ&ピース小説の決定版!下町の大家族が店に舞い込む謎を解決する人気シリーズ第13弾!


もう13作目なのか、とまずは感慨深い思いに浸る。いい加減新しいネタもないのではないだろうか、という懸念をよそに、きょうも堀田家の面々は、誰かのためにあわただしく動いているのである。そして、あの花陽が医大受験の年を迎えたのだという感慨も深い。子どもたちの成長とともに、堀田家内の役割も少しずつ変わってきて、それもまた興味深い。人生の旅を終える人がいると思えば、また新たに堀田家や東京バンドワゴンの流れに乗る人もいて、時の移ろいは途切れることがないのだと思わせても暮れる。人間の営みのことなのだから、ネタ切れなどということは有り得ないのかもしれない。研人のふるまいが、我南人のそれに似てきたのもうれしいところである。これからもどんどん動いていく堀田家が愉しみなシリーズである。

花歌は、うたう*小路幸也

  • 2018/01/22(月) 07:29:58

花歌は、うたう
花歌は、うたう
posted with amazlet at 18.01.21
小路 幸也
河出書房新社
売り上げランキング: 111,632

天才的ミュージシャンだった父の失踪から9年。秘められた音楽の才能が花開くとき、止まっていた時が動き始める―。幼なじみの勧めで歌をうたうことに真剣に向き合い始めた花歌は、父親譲りの天才的な音楽の才能を花開かせていく。そんな中、父・ハルオの目撃情報が届き…。祖母・母・娘、三世代女子家庭の再生の物語―。


ストーリーはかなり劇的ではあるものの、物語自体は割と淡々とよくある日常のひとコマを切り取ったように描かれている。主人公の花歌がいちばんのほほんとして見えるのは、祖母のうたや母の花子を始めとする周りの大人たちや、親友のむっちゃんやリョーチのおかげなのだろう。そして、無自覚な才能を引き出せるということは、それもまた才能なのだろう。伝説のミュージシャンで花歌の父・ハルオの失踪に至る心の闇には、さらりと触れるだけだったので、そこももっと知りたい気はしたが、それはまた別の物語になってしまいそうではある。花歌の歌を実際に聴いてみたくなる一冊である。