i *西加奈子 

  • 2017/02/28(火) 18:35:33

i(アイ)
i(アイ)
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西 加奈子
ポプラ社
売り上げランキング: 1,459

「この世界にアイは存在しません。」入学式の翌日、数学教師は言った。ひとりだけ、え、と声を出した。ワイルド曽田アイ。その言葉は、アイに衝撃を与え、彼女の胸に居座り続けることになる。ある「奇跡」が起こるまでは―。「想うこと」で生まれる圧倒的な強さと優しさ―直木賞作家・西加奈子の渾身の「叫び」に心揺さぶられる傑作長編!


シリアで生まれ、アメリカ人の父と日本人の母の養子となったアイ。両親は惜しみなく愛してくれ、何不自由なく育てられてしあわせだったのだが、幼いころから、何かの被害に遭った人を見るたび、「なぜ自分ではなかったのか」と自問自答し、申し訳ないような思いにとらわれていた。誰かを不幸にしてしあわせになっている自分が、こんなにしあわせで申し訳ない、という屈折した思いは、高校の数学教師の「この世界にアイは存在しません」というひと言――教師の言った「アイ」とは、虚数のことだったのだが――で、さらに深く胸に入り込む。人と違う容姿をしていること、人と違う家庭環境にあること、意識的無意識的にかかわらず異分子として見られること、さまざまなことを考えすぎてしまうアイにとって、この世界は生きづらいことこの上ないのだった。だが、高校で出会ったミナと心を通わせるうちに、少しずつ他者を通して自らの内面を客観的に眺められるようにもなり、大学院生時代に知り合ったユウと恋愛すると、自分の異質さなど意識せずに夢中になれることがあることにも気づく。アイの悩みも喜びも、実は周りの親しい人たちが、いつも大きく見守ってくれているのである。ほんとうのところでアイのことを理解することはできないが、少しでも安らかな気持ちで健やかに生きていかれるように祈らずにはいられなくなる一冊である。

まく子*西加奈子

  • 2016/03/26(土) 09:25:10

まく子 (福音館の単行本)
西加奈子
福音館書店
売り上げランキング: 3,700

小さな温泉街に住む小学五年生の「ぼく」は、子どもと大人の狭間にいた。ぼくは、猛スピードで「大人」になっていく女子たちが恐ろしかった。そして、否応なしに変わっていく自分の身体に抗おうとしていた。そんなとき、コズエがやってきたのだ。コズエはとても変だけれど、とてもきれいで、何かになろうとしていなくて、そのままできちんと足りている、そんな感じがした。そして、コズエは「まく」ことが大好きだった。小石、木の実、ホースから流れ出る水、なんだってまきちらした。そして彼女には、秘密があった。彼女の口からその秘密が語られるとき、私たちは思いもかけない大きな優しさに包まれる。信じること、与えること、受け入れること、変わっていくこと、そして死ぬこと……。この世界が、そしてそこで生きる人たちが、きっとずっと愛おしくなる。
西加奈子、直木賞受賞後初の書き下ろし。究極ボーイ・ミーツ・ガールにして、誰しもに訪れる「奇跡」の物語。


大人になることに嫌悪感を抱き、女子からはもちろん男子からも距離を置きたがる慧が、「まく」ことが好きな転校生・コズエと出会うことで物語は始まる。田舎の温泉街の密度の濃い人間関係の中で成長していくことは、時に逃げられない窮屈な思いと闘うことでもあるのかもしれなくて、その思いが、一風変わったコズエを知ることで、外へ気持ちを向かわせるきっかけにもなっているような気がする。慧にとってだけではなく、ほかの人たちにとっても、コズエやそのオカアサンとの出会いは、あるべくしてあったことなのだろうと思われる。どんな人にもコズエがいてくれたら、と思わされる一冊である。

サラバ!下*西加奈子

  • 2014/12/28(日) 06:51:47

サラバ! 下サラバ! 下
(2014/10/29)
西 加奈子

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父の出家。母の再婚。サトラコヲモンサマ解体後、世間の耳目を集めてしまった姉の問題行動。大人になった歩にも、異変は起こり続けた。甘え、嫉妬、狡猾さと自己愛の檻に囚われていた彼は、心のなかで叫んだ。お前は、いったい、誰なんだ。


上巻が姉の奇行を糧に歩が自分の立ち位置を測る時代だとすれば、下巻は、圷(今橋)家の激動の時代だとは言え、歩にとっては手痛いから緩やかな下降の時とも言えるように思う。何もかもが思うようにはいかず、頭髪までもが徐々に30代の自分を見離し始め、幼いころから容姿にだけは自信があった歩の自我をさえ崩壊させるのである。下巻の後半では、姉は自分なりの信じるものを見つけて彼女なりに安定に向かっているが、歩自身はそれとは裏腹にこれまでの人生すらガラガラと音を断てて崩れていくような思いから抜け出せない。良かれ悪しかれ姉の存在の大きさを思わされる。そしてカイロへ……。「サラバ!」が歩の心のお守りになったのだと涙が出る思いのラストである。圷(あえてそう言いたい)一家がしあわせでありますようにと願わずにはいられない一冊である。

サラバ!上*西加奈子

  • 2014/12/26(金) 18:41:33

サラバ! 上サラバ! 上
(2014/10/29)
西 加奈子

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西加奈子作家生活10周年記念作品。
1977年5月、圷歩は、イランで生まれた。
父の海外赴任先だ。チャーミングな母、変わり者の姉も一緒だった。
イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。
後の人生に大きな影響を与える、ある出来事が待ち受けている事も知らずに――。


長男・歩の独白の形を取った圷(あくつ)家の物語である。個性的な家族(特に女性)のせいで、気配を消してことさらいい子でいる術を身に着けた歩は、家族の中で、近所の人たちの間で、そして友人たちとの関係で、そこそこうまくやっているのだが、いつも頭の上に奇抜でつかみどころのない姉・貴子の存在がある。それは、家から離れても、どこかで逃れられないものなのだった。海外赴任者の家族として、知らない国で暮らすことが、貴子や歩の生き方にかなりの影響を及ぼしたように見えるが、貴子が解放されたのに比べて、歩にとってはさらに処世術を磨く機会になったようにも思われる。上巻だけで、歩が生まれてから大学生までの長期間が描かれているのだが、下巻ではどこまで行くのだろう。この先の圷家の人たちの行方がとても気になる。不思議に惹きこまれる一冊である。

舞台*西加奈子

  • 2014/03/08(土) 07:51:35

舞台舞台
(2014/01/10)
西 加奈子

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「生きているだけで恥ずかしい――。」自意識過剰な青年の、馬鹿馬鹿しくも切ない魂のドラマ!
29歳の葉太はある目的のためにニューヨークを訪れる。初めての一人旅、初めての海外に、ガイドブックを暗記して臨んだ葉太だったが、滞在初日で盗難に遭い、無一文になってしまう。虚栄心と羞恥心に縛られた葉太は、助けを求めることすらできないまま、マンハッタンを彷徨う羽目に……。決死の街歩きを経て、葉太が目にした衝撃的な光景とは――?
思い切り笑い、最後にはきっと泣いてしまう。圧倒的な面白さで読ませる、西加奈子の新境地長編小説!


折々に挟みこまれる太ゴシックが、さながらニューヨークの観光案内のようである。そこをまさにいま歩いている葉太は29歳。作家であった亡父の遺産で、一週間の予定でアパートメントに宿泊している、極度に自意識過剰の青年である。どこを歩いても、いかにもその場所らしくて恥ずかしくてたまらなくなり、そんな自分にさらに羞恥心を募らせるのである。セントラルパークで好きな作家の「舞台」という新刊を読もうとするが、そこでほぼすべてが入ったバッグを持ち去られるというトラブルに見舞われる。それからの葉太の恥ずかしくも逞しい一週間の物語である。舞台を読もうとする葉太自身が、人生という大きな舞台で果たす役割と、ほんとうの自分自身に出会う顛末に滑稽ながら親しみを覚える。誰もが、どんなキャラクターだとしても自分の人生という舞台の主役を張っているのだと思える一冊である。

ふる*西加奈子

  • 2013/02/04(月) 16:57:06

ふるふる
(2012/12/06)
西加奈子

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池井戸花しす、28歳。職業はAVへのモザイクがけ。誰にも嫌われないよう、常に周囲の人間の「癒し」である事に、ひっそり全力を注ぐ毎日。だが、彼女にはポケットにしのばせているICレコーダーで、日常の会話を隠し録るという、ちょっと変わった趣味があった―。


現在と過去を行ったり来たりしながら、花しすの輪郭を浮かび上がらせるような物語である。何の関係もないように見える、現在の職業と、初潮を迎えるころ見ていた祖母を介護する母と介護される祖母の姿のシンクロ。それは生きるということの根源でもあるように思える。癒しの存在であり、やさしい人である花しすの一風変わった趣味である会話の録音は、心の奥に秘めている本当の気持ちに気づかせてくれる。意識せずにやっているさまざまなことが、あちこちでつながって一本の流れになるような一冊である。

ふくわらい*西加奈子

  • 2012/10/03(水) 13:12:33

ふくわらいふくわらい
(2012/08/07)
西加奈子

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マルキ・ド・サドをもじって名づけられた、書籍編集者の鳴木戸定。
彼女は幼い頃、紀行作家の父に連れられていった旅先で、誰もが目を覆うような特異な体験をした。
その時から、定は、世間と自分を隔てる壁を強く意識するようになる。
日常を機械的に送る定だったが、ある日、心の奥底にしまいこんでいた、自分でも忘れていたはずの思いに気づいてしまう。
その瞬間、彼女の心の壁は崩れ去り、熱い思いが止めどなく溢れ出すのだった――。


上記の紹介文のように、幼いころに特殊な体験をしたことが定(サダ)の人となりにかなりの影響を及ぼしたことは確かだとは思うが、それ以前に、生まれ持った感性がすでに周りの子どもとはひと味違っていたからこその彼女であっただろうと思うのである。興味のツボというのか、揺り動かされる点が、それはもう独特である。長じて編集者になった――どうして採用されたのか不思議でもあるが、それは置いておくとして――定だが、担当作家に真剣に寄り添おうとする定に、癖のある作家もいつしか心を開き、定もただならぬ影響を受けてゆく。思えば定という女性は、拒否するということをしないのだなぁ。儀礼的でなく、丸ごと相手のすべてをまず受け入れ、自分の中に取り込んで彼女なりに咀嚼しようとするのである。なかなかできないことだが、それを自然としてしまうのが定の特徴なのである。それでいて、自分というものを失くさずにいるのも定ならばこそだろう。社会では生きにくいかもしれないが、いつの間にか社会の方が歩み寄ってきそうにも思え、ふふふ、と笑いたくなる一冊である。

地下の鳩*西加奈子

  • 2012/01/02(月) 16:49:01

地下の鳩地下の鳩
(2011/12)
西 加奈子

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大阪、ミナミの繁華街―。夜の街に棲息する人々の、懸命で不恰好な生き様に、胸を熱くする力作誕生。


大阪・ミナミでキャバレーの呼び込みをする男・吉田の物語である表題作と、同じ街のオカマバーのママ・ミミィの物語である「タイムカプセル」から成る。

何者かに成り、何事かを成したかったが、何者にも成れず何事も成し得ずに、それでも日々を生きている人たちの痛々しいような一生懸命さが胸に迫る。吉田もミミィも、ほかの人々も、誰もが在るがままの自分を認めてほしいのだ、いまここに自分がいていいのだと思いたいのである。人は誰でも傷つけられるために生きているのではない。人が生きる意味について考えさせられる一冊である。

漁港の肉子ちゃん*西加奈子

  • 2011/10/09(日) 17:07:11

漁港の肉子ちゃん漁港の肉子ちゃん
(2011/09)
西 加奈子

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みんな、それぞれで生きている。それでいい。圧倒的な肯定を綴る、西加奈子の柔らかで強靱な最新長編。


ふたりきりで漁港に暮らす見須子(みすじ)母娘――ほんとうは菊子という名前なのに、その容姿から「肉子ちゃん」と呼ばれている母と、その娘だが、母にはまるで似ずにかわいらしい容姿のキクりんこと喜久子――の物語。寂れた漁港の焼き肉店「うをがし」で働く肉子ちゃんは波乱万丈の人生を送ってきたが、いまはキクりんとふたりしあわせである。キクりんは、学校で陰湿に繰り広げられる女子同士のあれこれを思い煩ったり、遠くから視線を送ってくる男子たちには無関心なのに、いつもその後ろにいてときどき変な顔をする二宮のことは気になったりしながら、小学五年生の日々を送っている。何気なく見えるが互いに互いを思いやっているのがよくわかって、あたたかい気持ちにさせられる。最後に衝撃の――キクりんにとってはそんなこともなかったようだが――真実が明らかにされて、どうなることかと思ったが、どうにもならず、しあわせな母娘はさらにお互いを大切に思うようになったのだろう、とわかったのも嬉しかった。物悲しくあたたかく、安心させられる一冊である。

円卓*西加奈子

  • 2011/08/17(水) 16:47:45

円卓円卓
(2011/03/05)
西 加奈子

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世間の“当然”に立ち止まり、悩み考え成長する物語。うるさいぼけ。なにがおもろいねん。平凡やしあわせに反発する琴子、小学3年生。好きな言葉は、「孤独」。


小学三年の琴子は、3LDKの公団に祖父母・両親・14歳の三つ子の姉と八人で暮らしている。茶の間には、中華料理屋からもらい受けた大きく深紅の円卓がでんと幅をきかせ、一家はぎゅうぎゅう詰めで食事をするのである。琴子は孤独にあこがれた。
同級生の眼帯や吃音や国籍の違いや境遇の違いに憧れを抱き、頭のなかにはいつも文字が渦巻いている。そして幼馴染のぽっさんは人とは少しばかり変わっている琴子のことをだれよりもよく解っていてくれるのだった。登場人物がみな個性的なのは、琴子の目を通して見るからだろうか。ひとりひとりがその人としてしか生きられないように生きているように見えて、はっとさせられる。大人の世界では生きにくそうである琴子も、家族やぽっさんというかけがえのない存在に守られているようである。ごつごつとあちこちにぶつかって痛く、だがあたたかく安心な心地になれる一冊である。

白いしるし*西加奈子

  • 2011/01/16(日) 16:47:31

白いしるし白いしるし
(2010/12)
西 加奈子

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失恋ばかりの、私の体。私は彼のことが、本当に、好きだった。32歳。気づいたら、恋に落ちていた。軽い気持ちだった、知らなかった、奪えると思った。なのに、彼と関係を持ってから、私は笑えなくなった。恋は終わる。でも、想いは輝く。極上の失恋小説。


そうか、失恋小説だったのか、と上記内容紹介を読んで改めて思った。そういえば、主人公の夏目だけでなく、友人の瀬田も彼の周りの女たちも失恋していた。だが、失恋するにはまず恋をしなければならない。これは抗いようもなく恋に落ちる物語でもあるのだ。近づいてはいけないいけないと身の内から発せられる警告に慄きながらも、互いに持ち合った磁石のように吸い寄せられていってしまう。そんな瞬間の強烈なパワーも感じられるのである。それが幸福なことかどうかは別にして。間島の白く発光するような絵に一瞬にして魅せられた夏目香織のそれからの時間は、彼女にとってなくてはならない時間だったのだように思える。不器用でまっすぐな心の一冊である。

炎上する君*西加奈子

  • 2010/10/08(金) 16:44:13

炎上する君炎上する君
(2010/04/29)
西 加奈子

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私たちは足が炎上している男の噂話ばかりしていた。ある日、銭湯にその男が現れて…。何かにとらわれ動けなくなってしまった私たちに訪れる、小さいけれど大きな変化。奔放な想像力がつむぎだす不穏で愛らしい物語。


表題作のほか「太陽の上」 「空を待つ」 「甘い果実」 「トロフィーワイフ」 「私のお尻」 「船の街」 「ある風船の落花」

一瞬にして意識がどこかへ飛んでいってしまうような唐突さを交え、物語はゆるりと捻れながら進む。とりたてて口にするほどでもない日常が、ある一瞬で別世界となる不思議と不穏、頭もからだも裏返るような心許なさ。それが恋であり、それを巧みに捉え物語にした一冊ではないだろうか。

うつくしい人*西加奈子

  • 2010/02/03(水) 19:19:46

うつくしい人うつくしい人
(2009/02)
西 加奈子

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他人の苛立ちに怯え、細心の注意を払いながら重ねていた日々を自らぶちこわしにした百合。会社を辞め、「ただの旅行」で訪れた島のリゾートホテルのバーにいたのは、冴えないがゆえに百合を安心させるバーテンダー坂崎と、暇を持て余す金髪のドイツ人、マティアスだった。美しい瀬戸内海の離島、そこしかないホテルで不思議に近づく三人の距離。地下には、宿泊客が置いていく様々な本が収められた図書室がある。本に挟まっていたという一枚の写真を探すため、ある夜、三人は図書室の本をかたっぱしから開き始める―。会社を逃げ出した女、丁寧な日本語を話す美しい外国人、冴えないバーテンダー。非日常な離島のリゾートホテルで出会った三人を動かす、圧倒的な日常の奇跡。


他人の目にどう映るかを気にしすぎるあまり自分を見失い、重く重くなってしまった蒔田百合。重さから逃れるために、四泊五日の一人旅に出かけ、雑誌で見て気に入った島のホテルで贅沢に過ごすはずだった。だが、ほんとうにいちばん気にしているのは、現在は引きこもり中の姉にどう思われるかなのだと気づく。近すぎる故に逃れられない家族という呪縛は、比類ないほど鬱陶しく、だが、なんと大切なものだったのか。ホテルのバーの冴えない中年バーテンダー、お金と時間が有り余る流暢な日本語を話す白人青年。惹かれ合うように出会った、やはり胸に重さを抱える彼らと過ごすうち、吸収するだけではなく置いていってもいいのだ、ぱんぱんになったらあふれ出させてもいいのだ、ということが身をもってわかり、少しだけ軽くなって帰途につく百合に、こちらもほっとさせられる。張り詰めていたものがほぐれる心地好さを味わえる一冊である。

きりこについて*西加奈子

  • 2009/12/22(火) 18:44:54

きりこについてきりこについて
(2009/04/29)
西 加奈子

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きりこは両親の愛情を浴びて育ったため、自分がぶすだなどと思ってもみなかった。小学校の体育館の裏できりこがみつけた小さな黒猫「ラムセス2世」はたいへん賢くて、しだいに人の言葉を覚えていった。ある事件がきっかけで引きこもるようになったきりこは、ラムセス2世に励まされ、外に出る決心をする。夢の中で泣き叫んでいた女の子を助けるために…。美しいってどういうこと? 生きるってつらいこと? きりこがみつけた世の中でいちばん大切なこと。最新書き下ろし長編小説。


きりこの容姿は、言い表す言葉を見つけるのが難しいほど一般的な「美」から外れている。要するに「ぶす」である。だが、両親(パァパとマァマ)はこの上なく愛娘・きりこのことを可愛がり、あふれんばかりの愛を注いで育てたので、周りの反応がどうあれ、きりこ自身は自分がぶすだなどとはこれっぽっちも思わず、思春期のある出来事までは、いちばん可愛いのだと思っていた。価値観を覆され、引きこもり、予知夢を見て立ち上がり、自分を取り戻す過程をすべて見ていたのは、賢い黒猫ラムセス2世だった。
唯一無二の自分であること、容れ物ではなく中身で判断すべきだということ、心の声に従うことが自分を大切にすることであるということ、惜しみない愛は強いということ。さまざまな教訓が含まれているのだが、説教臭いわけではなく、自分を見つめ直してみようという心地にさせられる一冊である。

こうふく あかの*西加奈子

  • 2009/04/02(木) 17:06:12

こうふく あかのこうふく あかの
(2008/03/27)
西 加奈子

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二ヶ月連続作品「こうふく」シリーズ第二作
結婚して十二年、三十九歳の調査会社中間管理職の「俺」の妻が、ある日他の男の子どもを宿す話。
二〇三五年、小さなプロレス団体に所属する無敵の王者、アムンゼン・スコットの闘いの物語。二つの話が響き合う。


一作目の『こうふく みどりの』とのつながりは、「ここからそこへ、そうつなげたか!」という感じである。伏線はしっかり張られていたのだ。
そして、本作では、2007年の物語と2039年の物語が並行して語られ、初めはまったく関係がないように別々に進んでいくのだが、あるところでそのつながりが見えてくると、いままで見てきた景色に突然色がついたような興奮を覚えるのである。
前作からのどの登場人物も無意味ではないのだということを思わされもする。

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