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イオニアの風*光原百合

  • 2011/07/21(木) 13:34:28

イオニアの風イオニアの風
(2009/08)
光原 百合

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偶然のいたずらで“意志”を得た人間たちは、長きにわたり互いに争い血を流し続けていた。時に罰し、時に救い、人間の歴史に介入してきたオリュンポスの神々は、ついに、人間に三つの試練を与え自らの道を選ばせることを決める。運命が用意した試練は、トロイア戦争を巡るふたつ。そして、強大な魔物を巡るひとつ―。人間の未来を拓くため、最後にして最大の難関に挑む、英雄の子テレマコスと美しき吟遊詩人ナウシカアの運命は!?神々の時代から人間の時代へと移りゆく世界を舞台に描く、壮大な愛と冒険の物語。


ギリシャ神話に特段の興味があるわけではないので、読みはじめてからしばらくの間は実は、いつ本を閉じようかと思いながらの読書だった。だが、読み進むうちにいつしか気づかないうちに物語の中に惹きこまれていたようで、ページを繰る手が止まらなくなっていたのだった。神々の駆け引きも興味深いし、テレマコスとナウシカアの素直とは言えない者同士の恋の行方――有川浩さんが書きそうである――にも、ふたりを阻む幾多の試練とちょこちょこ顔を出す神たちの人間(?)らしさがなんとも言えず興味深いのである。壮大でありながらとても身近に感じられる一冊だった。

虹のまちの想い出*光原百合

  • 2011/06/07(火) 17:16:09

虹のまちの想い出虹のまちの想い出
(2011/04/29)
光原 百合

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知られざる名曲を聴きながら、物語の世界を堪能する贅沢な読書体験。音楽教育界のシューベルト“ウィリアム・ギロック”の曲に魅せられた三人のアーティストが夢の共演!ピアニスト小原孝による貴重な演奏CD付き。


光原百合さんの物語、鯰江光二さんの絵、そして小原孝さんのピアノというコラボ作品である。ピアノはCDが付いていて、イメージどおりの音楽をBGMに物語を読むという贅沢に浸ることができる。それぞれが短い曲ながら、曲想はさまざまで豊かである。そしてファンタスティックな絵とゆるやかにつながっている物語とが縒り合わさってひとつの作品ができあがっている。愉しい一冊である。

扉守*光原百合

  • 2009/12/17(木) 19:26:49

扉守(とびらもり)扉守(とびらもり)
(2009/11/25)
光原 百合

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瀬戸の海と山に囲まれた懐かしいまち・潮ノ道にはちいさな奇跡があふれている。こころ優しい人間たちとやんちゃな客人が大活躍。待望の、煌めく光原百合ワールド。


表題作のほか、「帰去来の井戸」 「天の音、地の声」 「桜絵師」 「写想家」 「旅の編み人」 「ピアニシモより小さな祈り」

著者の故郷・尾の道を舞台にしたちょっと不思議な物語である。三つの山と海に囲まれた弓形の土地・潮の道は、古の昔から、不思議な力が集まる場所と言われていたらしい。現代になってもそれは変わらず、さまざまな不思議な力を持つ人々が惹き寄せられるようにやってくるのだった。持福寺の住職・了斎は、普段は住職らしからぬさばけたオジサンなのだが、どういうわけかいろんな人と繋がりがあって、潮の道に呼び寄せるのである。実は、潮の道の要のような人物なのである。不思議な現象を毛嫌いして排除するのではなく、あるがままに受け止めて日常にしてしまう潮の道の人々の懐の深さが素敵であり、そんな土地に暮らしていることが羨ましくなる一冊である。
どうやらシリーズ化しそうである。次作も愉しみ。

遠い約束*光原百合

  • 2007/05/01(火) 13:16:29

☆☆☆☆・

遠い約束 遠い約束
光原 百合 (2001/03)
東京創元社

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駅からキャンパスまでの通学途上にあるミステリの始祖に関係した名前の喫茶店で、毎週土曜二時から例会―謎かけ風のポスターに導かれて浪速大学ミステリ研究会の一員となった吉野桜子。三者三様の個性を誇る先輩たちとの出会い、新刊の品定めや読書会をする例会、合宿、関ミス連、遺言捜し…多事多端なキャンパスライフを謳歌する桜子が語り手を務める、文庫オリジナル作品集。


光原百合の名で書かれた吉野桜子の物語である。
祖母の葬儀で久しぶりに会った大叔父さんと幼い日の桜子は、ミステリ好き同士とわかって親しく語り合い、別れ際に ある約束をする。
それから11年が過ぎ、何度も会うことなく大叔父さんは亡くなってしまう。そして、遺言書を見つけるために大叔父の仕掛けた暗号を解読することになるのだった。
浪速大学(なんだい)ミステリ研の個性的な三回生の三人の先輩の手を借りて――というか委ねて――桜子が辿り着いた遺言の内容とは・・・・・。

ミステリ研の三人の先輩のキャラクターがそれぞれとても好い。表紙のイラストでイメージが固定されてしまうのがもったいないほどである。物語は、日常の謎的なミステリ風味の青春物語といった趣でもあり、それがかえって好ましくもある。
素晴らしい先輩たちに巡り会え、素晴らしい遺言を手にした桜子のこれからのことも知りたいと願うのは贅沢だろうか。

橋を渡るとき*光原百合

  • 2007/04/05(木) 13:21:50

☆☆☆☆・

橋を渡るとき 橋を渡るとき
光原 百合 (2007/02)
岩崎書店

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心優しく、どこまでもピュアなミステリー
劇団に所属する兄貴は、ハタ迷惑な情熱野郎だ。その兄貴が引きおこす、悲しくもせつない愛の告発を描いた「兄貴の純情」や、温かく穏やかなレンジャーの深森護が織りあげる“心優しい真実”を若杉翠の手だすけで解きあかす「時計を忘れて森へいこう」や、表題作の「橋を渡るとき」などを収録。


『十八の夏』のなかから「兄貴の純情」、『時計を忘れて森へいこう』のなかから「時計を忘れて森へいこう」、そしてアンソロジー『紅迷宮』に収録された「橋を渡るとき」が一冊にまとめられている。
どれもが、若く未熟ながらも思いやりあふれる主人公のやさしさが心地好い物語で、読んでいて躰の力がふっと抜けるようである。

銀の犬*光原百合

  • 2006/10/12(木) 18:55:53

☆☆☆☆・

銀の犬 銀の犬
光原 百合 (2006/06)
角川春樹事務所

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この世に想いを残す魂を解き放つ、伝説の祓いの楽人(バルド)-オシアン。声を失った楽人オシアンとその相棒ブランの物語。ケルトの民話・伝説に登場する妖精や妖魔が次々と現れる不思議で切ない愛の物語。


表題作のほか、「声なき楽人」「恋を歌うもの」「水底の街」「三つの星」という五つの連作物語。
壮大な夢幻の世界に迷い込んでしまったようで、ページを開いてまもなくはどちらに進んでいいのか戸惑い、きょろきょろと辺りを見回すばかりだった。それが読み進むうちにぐんぐんと世界に惹き込まれオシアンやブランやそれぞれの物語に登場する人たちに寄り添って、彼らと旅を共にする心地になっているのにはたと気づくのであった。
声を失い、祓いの楽人として最も大切な歌を歌うことができないながらも竪琴を奏でることで、亡くなって尚行くべき場所へ行けずにいる魂を 行くべきところへ導き送りつづけるオシアン。彼を唯一の主となし、我が命はオシアンのもの と言い切って、彼の言葉となって働く生意気な少年・ブラン。まずはこの二人の魅力の虜になり、読者も共に旅をせずにはいられなくなるのである。
さまざまな場所に赴き、迷える魂を救う彼らだが、オシアンが声を失った理由や、ブランと出会ったいきさつなど、彼ら自身に関する謎に答えは未だない。あとがきにも書かれているが、彼らの旅はまだまだ続いているので、そう遠くないいつかきっと また彼らと共に旅ができることだろう。早くまたあの竪琴の音色を聴きたい。

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十八の夏*光原百合

  • 2005/09/15(木) 17:28:50

☆☆☆☆・



 日本推理作家協会賞受賞作
 本年度(2002年度)最高の感動を呼ぶ癒しの物語
 朝顔、金木犀、ヘリオトロープ、夾竹桃。
 四つの花が彩る珠玉の連作ミステリー
          (帯より)


表題作のほか、
ささやかな奇跡・兄貴の純情・イノセント・デイズ。

どの物語でも花が重要な役割を果たす。
その花がなかったら物語が成立しないほどに それは主役でもある。
花は善意も悪意も持たないのに、それに篭められる想いがあるために象徴にされてしまうのは、花自身にとっては哀しいことかもしれない。

十八の夏では、朝顔の成長で殺すべき人を占われ、ささやかな奇跡では、金木犀の香りの表わし方で運命が決められようとし、兄貴の純情では、ヘリオトロープが兄の純情を象徴し、そしてイノセント・デイズでは、夾竹桃が人を殺す。

どの物語でも、主人公はちょっぴり不器用で、それでも精一杯生きている。
主人公の周りの人たちもみな静かなぬくもりを湛えていてほっとさせられる。
ささやかな奇跡の大家さんの思いやりにほろりとさせられた。

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最後の願い*光原百合

  • 2005/09/02(金) 13:16:42

☆☆☆・・



 偽の手紙。不審な電話。盗まれて戻るバッグ。
 日常に潜む謎の奥にある人間ドラマを、優しい目で描く青春ミステリー。

 新しく劇団を作ろうとしている男がいた。
 度会(わたらい)恭平。
 劇団の名は、劇団φ。
 納得するメンバーを集めるため、日々人材を探し回る。
 その過程で出遭う謎――。
                (帯より)


劇団を主宰する――と言っても、メンバーもまだ揃っていないのだが――度会恭平は、会った人がみな≪よさそうな人≫と評するような青年である。
人当たりがよく、こまめに動く。
だが、ときとして、自信に満ちた自意識が顔をのぞかせ、がらりと表情を変えることがある。
演出家兼役者の彼は、文字通り天使も悪魔もできる男なのである。
時にものすごく格好よくなるときがあるのだが、身長165cmと小柄なので完璧に格好よくなりすぎないところがまたいい。

度会恭平と、メンバーを探していて知り合った風見爽馬の二人が、更なるメンバー探しの過程で出遭うちょっとした謎を鋭い推理でパーツを組み立て、解き明かしていき、謎の中心にいる人物をメンバーに取り込んでいって、最終的には公演にこぎつけ、前半で懸案になっていた大きな謎を解くのである。

劇団φは 見かけは決してまとまりのいい仲よしグループではないのだが、それぞれがそれぞれを尊重し、芯のところで信頼しあっているのが伝わるので好感がもてる。きっとこれからも、観客を魅了する芝居を見せてくれることだろう。

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時計を忘れて森へいこう*光原百合

  • 2005/07/30(土) 17:32:30

☆☆☆☆・

時計を忘れて森へいこう 時計を忘れて森へいこう
光原 百合 (1998/04)
東京創元社

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 若杉 翠(わかすぎ みどり)16歳の春
 迷い込んだ森の中なにげなく踏み出した一歩が彼女の運命を変えた・・・・・

                         (帯より)


16歳の若杉翠が深森護に出会ったのは父親の仕事の都合でこの清海という場所にやってきて、新しい場所にも高校生活にもやっと慣れた頃だった。
護はシーク協会(The society for Educational in Kiyomi)の「環境教育セクション」の自然解説指導員(レンジャー)なのだった。
翠が高校の郊外学習で訪れたシークの森に母にもらった腕時計を落としたことがきっかけで出会い、それからの季節をまさに≪時計を忘れて≫過ごすことになる。
自然のなかの護のすばらしさ――翠にだけとびきりの特別なのかもしれないが――に魅了され、押しかけボランティアとして通ううちに、ますますどんどん惹かれていく。
そんな護はさまざまな欠片から物語を織りなす名人でもあった。人の悩みや哀しみ苦しみを物語を織りなすことによって解きほぐしてゆき、結果的にその人の背負ったものを軽くしてやることができるのだった。
まさにミステリで言う探偵役なのだが、気負ったところなどひとつもなく、自然の流れに任せているうちに自ずとそういう結果になっているのが、自然と過ごし、自然を慈しむ護ならではであたたかい心地にさせてくれる。
護はもちろん、シークで働く人たち、シークに集まる人々に、そしてなによりもシークの森に本当に会いに行きたい気持ちになってしまう。
それほど遠くない未来に、深森翠になったとしても、翠はシークの森とシークの人々と共にいくつもの季節を過ごしてゆくのだろう。

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