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ショートケーキ。*坂木司

  • 2022/06/29(水) 18:46:23


星の数ほどあるケーキの種類のなかでも、不動の人気を誇る「苺のショートケーキ」。「和菓子のアン」シリーズなど、甘いものを描いた作品星のに定評のある著者による、誰しも思い出のひとつやふたつはあるだろうショートケーキをめぐる5篇の連作集です。


ショートケーキつながりの、ゆるい連作物語。ショートケーキの扱い方も、キーパーソンのつながり方も、そうきたか、という感じの緩さで、よかった。そして、どの物語も、互いを思いやるやさしさにあふれていて、甘酸っぱい心もちにさせてくれる。まさにショートケーキ。ショートケーキなくしてはありえなかった一冊である。

楽園ジューシー*坂木司

  • 2022/04/09(土) 06:51:39


南国青春ミステリ。あのホテルにまた会える!

ここは楽園じゃないけど、面白いところではある。
「残念なパーマの、残念なハーフ。人呼んでザンパ」。不名誉なあだ名とともに暗黒の少年時代を過ごした青年ザッくん。どん底から救ってくれた親友たちに背中を押されて、沖縄の安宿・ホテルジューシーでバイトをすることに。そこで待ち受けていたのは、おいしい沖縄料理の数々に超アバウトなオーナー代理、そしてやたらと癖のある宿泊客たち。困難に立ち向かいながら、諦めムードだったザッくんの人生が、南風とともに変わっていく……?


初めは、主人公・ザッくんのミックスという見た目での先入観による差別と偏見に苦しむ境遇に同情的で、何とかいじめた人たちの鼻を明かしてやりたい、くらいの気持ちだった。しかし、何となく成り行きで応募してしまった沖縄のホテルジューシーでアルバイトをすることになる中、個性的すぎるホテルの面々や、癖のある宿泊客、と日々接し、それぞれが、傍からはうかがい知れない屈託を抱えながらも懸命に生きているのを目の当たりにし、振り返って自分自身の偏見にも気づかされると、少しずつ見え方が変わってくる。自分の世界にこもって、自分だけの基準や価値観で物事を見ているだけでは、世界のほんとうの姿は見えては来ないのだ。世の中は広くて多様なのだ。他と違うのは自分だけではないのだ。沖縄という、独自の文化と、日米に翻弄される場所だからこそのジレンマも伝わってくる。タイトルや装丁のお気楽さとは裏腹に、さまざま考えさせられる一冊でもあった。シリーズなのだが、単独でも楽しめる。

アンと愛情*坂木司

  • 2021/04/20(火) 18:36:17


成人式を迎えるアンちゃん。大人になるには、まだ早い気がするけど、それでも時間は進むし、世の中は待ってくれません。おいしいおやつを食べて、前を向いて。さあいきましょう。デパ地下から着物売り場、催事場に金沢旅行。少しずつ拡がる世界。さらに深くなる和菓子の謎。お待たせいたしました。たっぷりお召し上がりください。


アンちゃんはもちろんのこと、みつ屋の面々や周りの人たちがみんな、一生懸命で、愛おしすぎて泣ける。お客さまに喜んでいただこうという一心で接客するアンちゃんの成長ぶりや、ちょっとした疑問を放っておかないところが健気でほのぼのしながら泣ける。珍しく友人たちとの金沢の旅の物語もあって、数年前に訪れたところと(和菓子屋さん以外)ほぼ同じだったので懐かく思い出しながら読んだ。ただ、アンちゃんたちが路線バスで回ったところを、わたしたちはすべて徒歩で回ったなぁ、なんて思ったり。比較的のんびりしているみつ屋ではあるけれど、それでも日々いろんなお客が訪れ、いろんなことが起こる。そのひとつひとつを、未熟ながら着実にこなして、少しずつ成長していくアンちゃんを見ていると、応援せずにはいられないのである。もちろん登場するお菓子はどれもみなおいしそうで、目の前にないのが恨めしくなる。早く次を読みたくなるシリーズである。

おやつが好き*坂木司

  • 2019/06/07(金) 13:30:16

おやつが好き
おやつが好き
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坂木 司
文藝春秋
売り上げランキング: 47,163

ああ、もう全部食べたい。
ベストセラー「和菓子のアン」の著者の人生の娯楽はおやつの時間。美味しいものがひそんでる銀座の名店から量販店のスナック菓子まで、ふわふわ、サクサクのホロホロ、こってりあっさりの奇跡の融合に、パリパリカリポリ、つるんとなめらかにさらさらと語り尽くします。
お菓子にまつわる小説も併録。
小腹が空いている時に読めばおやつテロ。ダイエットしようと思っている時に読めば挫折しちゃうかも。ページをめくるたびに、広がる楽しいおやつの世界。
著者の描写力に舌と胃袋が負けること間違いありません。
自分にご褒美、今日のおやつは何食べる?


おいしそうなものがあとからあとから現れて、すっかり食べた気分になってしまう。あるときは、濃いブラックのコーヒー、またある時はにほろ苦い緑茶、あるいは香ばしいほうじ茶。そんなものを傍らに置いて愉しみたい一冊である。

鶏小説集*坂木司

  • 2018/02/18(日) 13:32:51

鶏小説集
鶏小説集
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坂木 司
KADOKAWA (2017-10-20)
売り上げランキング: 332,534

おまえの羽はどこにある? 様々な岐路で迷い、奮闘する全ての人へ―‐

トリドリな物語。旨さあふれる「鶏」小説を召し上がれ。
「トリとチキン」…似てるけど似てない俺たち。思春期のゆらぎと成長を描く/あげチキ
「地鶏のひよこ」…地方出身の父親と、都会生まれの息子/地鶏の炭火焼
「丸ごとコンビニエント」…コンビニバイトの僕が遭遇したクリスマスの惨劇とは/ローストチキン
「羽のある肉」…高校受験を控えた夏。彼女と二人で出かける/鶏手羽の照り煮
「とべ エンド」…死にたがりだった漫画家。そのエピソードゼロとは/鶏ハム


豚肉の次は鶏肉である。おいしそうな鶏肉料理に絡めて、さまざまな(トリドリな?)エピソードが語られる。鬱屈したものを解き放てずに溜め込む若者たちの姿が、飾らずに描かれていて興味深い。ページの向こうにいる人を思わず応援したくなったりもする。鶏肉と同じで、噛めば噛むほど味わい深くなる一冊である。

僕と先生*坂木司

  • 2017/08/09(水) 07:08:25

僕と先生
僕と先生
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坂木 司
双葉社
売り上げランキング: 475,288

大学の推理小説研究会に入ったけれどこわがりな僕と、ミステリ大好きでしっかりした中学生の先生が、日常に潜む謎を解いていく〈先生と僕〉シリーズの最新刊。
社会問題にも目を向け、ちょっぴり大人になった二人の活躍をどうぞお楽しみに!


一話 レディバード  二話 優しい人  三話 差別と区別  四話 ないだけじゃない  五話 秋の肖像  指先の理由

一作目のタイトルが『先生と僕』だったので、同じ作品と勘違いしてずっとスルーしてしまっていて、やっと二作目であることに気づいて読んだのだが、気づいてよかった。大学生の二葉は、相変わらずお人好しで怖いものが大の苦手。中学生の隼人は、二葉をワトソン代わりにして、アームチェアディテクティブ――時に現場にも赴くが――ぶりに磨きをかけている。今作では、薬指だけにテントウムシのネイルアートがある女性が、ところどころに登場し、キーになっている。ある意味、問題提起的な役割とも言えようか。なにが善でなにが悪か、ある行動の奥にどんな気持ちが隠れているのか、ということを、考えるきっかけにもなるのである。日常の謎を解きながら、さまざまな人間模様も愉しめるシリーズである。

女子的生活*坂木司

  • 2017/01/08(日) 13:47:36

女子的生活
女子的生活
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坂木 司
新潮社
売り上げランキング: 68,055

都会に巣食う、理不尽なモヤモヤをぶっとばせ! 読めば胸がスッとする、痛快ガールズストーリー。ガールズライフを楽しむため、東京に出てきたみきは、アパレルで働きながらお洒落生活を満喫中。マウンティング、セクハラ、モラハラ、毒親……おバカさんもたまにはいるけど、傷ついてなんかいられない。そっちがその気なら、応戦させてもらいます! 大人気『和菓子のアン』シリーズの著者が贈る、最強デトックス小説。


主人公のみきは、躰は男性、心は女性、しかも恋愛対象は女性という性的マイノリティとして、東京のアパレル関係のブラック企業で働いている。ブラックではあるのだが、自身にとってはある意味快適な職場環境ではある。職場の同僚たちにはカミングアウト済み。そんな同僚たちとの付き合いや、合コンにおける立ち位置、それぞれの女子たちの日々の闘いをそっと応援したくなる。もちろんみきもである。突然転がり込んできてなし崩し的にルームシェアすることになった中学の同級生の後藤の男のステレオタイプの見本のような行動様式にイライラさせられたり、合コン相手の反応に怒りまくったりするものの、案外いまがしあわせなんじゃないかとも思わせてくれる。考えさせられる面もあり、爽快な面もあり、これからのみきの人生をもっと見ていたいと思わされる一冊である。

アンと青春*坂木司                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              アンと青春*坂木司                                                                             

  • 2016/04/27(水) 18:51:04

アンと青春
アンと青春
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坂木 司
光文社
売り上げランキング: 9,104

ある日、アンちゃんの手元に謎めいた和菓子が残された。これは、何を意味するんだろう―美人で頼りがいのある椿店長。「乙女」なイケメン立花さん。元ヤン人妻大学生の桜井さん。そして、食べるの大好きアンちゃん。『みつ屋』のみんなに、また会える。ベストセラー『和菓子のアン』の続編。


「空の春告げ鳥」 「女子の節句」 「男子のセック」 「甘いお荷物」 「秋の道行き」

待ちに待った続編である。またアンちゃんやみつ屋の立花さん、椿店長、桜井さんに会えて嬉しくてたまらない。アンちゃんも、相変わらず自分の存在にいまひとつ自信を持てずにいたりはするが、それでも疑問に思い、自分で調べて対処しようとする姿には成長が感じられる。ふと発せられた言葉の端から、起こっていることの問題を拾い上げ、核心に迫って解決策を導き出す。誰かに助けを求め、誰かと話すことからヒントを掴んで、少しでも良く在りたいとしている姿は、きっと誰でも応援したくなる。ただ、今回は、立花さんとの関係が、ちょっとうまくいっていない。どこか歯車がかみ合っていないのである。その原因はおそらく立花さんの側にあって、次回作で進展があるのだろう。早く続きが読みたいシリーズである。そうそう、出てくるお菓子もどれもおいしそうで、口の中によだれが……。

何が困るかって*坂木司

  • 2015/01/13(火) 07:20:13

何が困るかって何が困るかって
(2014/12/12)
坂木 司

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子供じみた嫉妬から仕掛けられた「いじわるゲーム」の行方。夜更けの酒場で披露される「怖い話」の意外な結末。バスの車内で、静かに熾烈に繰り広げられる「勝負」。あなたの日常を見守る、けなげな「洗面台」の独白。「鍵のかからない部屋」から出たくてたまらない“私”の物語―などなど。日常/非日常の情景を鮮やかに切り取る18篇を収録。


著者の作品としては珍しいテイストである。読み始めて、「え?ほんとうに坂木さん?」と表紙を見直してしまう感じ。ひとつひとつの物語はとても短く、あっという間に読めてしまいはするのだが、喉越しはまったく滑らかではなく、どこかにちいさな何かが引っかかっているような居心地の悪さが残りもするのである。かと言って腑に落ちないわけではなく、「あるある」的な納得感も満載なのだから不思議である。強いて言えば、日常に潜むホラーのような怖さだろうか。気づかずに通り過ぎてしまえばどうということもないのに、一旦気づいてしまったら最後、足が竦んでしまうような。そんな中に、じんわりあたたかい気分になる物語が紛れ込んでいたりもして、絶妙な一冊である。

肉小説集*坂木司

  • 2014/12/13(土) 07:35:10

肉小説集肉小説集
(2014/11/01)
坂木 司

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豚足×会社を辞めて武闘派として生きる元サラリーマン。ロースカツ×結婚の許しを得るべくお父さんに挑むデザイナー。角煮×母親に嫌気がさし、憧れの家庭を妄想する中学生。ポークカレー×加齢による衰えを感じはじめた中年会社員。豚ヒレ肉のトマトソース煮込みピザ風×片思いの彼女に猛アタックを試みる大学生。生ハム×同じ塾に通う女の子が気になる偏食小学生。肉×男で駄目な味。おいしくてくせになる、絶品の「肉小説」


「武闘派の爪先」 「アメリカ人の王様」 「君の好きなバラ」 「肩の荷(+9)」 「魚のヒレ」 「ほんの一部」

表紙は、よくお肉屋さんにある豚の部位別名称のイラストである。そして内容も、その部位別の物語になっている。ごりごりだったり、ぎとぎとだったり、ほろほろだったり、噛み切れなかったり。味わいも噛み応えもさまざまであるが、どの物語にもいささかの情けなさやほろ苦さや哀しみが漂っている。だが最後には胃の腑に沁み渡るやさしさに変わるのである。坂木流豚肉料理といった風味の一冊である。

ホリデー・イン*坂木司

  • 2014/07/30(水) 13:16:37

ホリデー・インホリデー・イン
(2014/05/27)
坂木 司

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「初めまして、お父さん」。
元ヤンでホストの沖田大和の生活が、しっかり者の小学生・進の登場で一変! 思いもよらず突然現れた息子と暮らすことになった大和は、宅配便会社「ハニー・ビー・エクスプレス」のドライバーに転身するが……荷物の世界も親子の世界も謎とトラブルの連続。宅急便会社の仲間や、ホストクラブの経営者で女装のジャスミン、ナンバーワンホストの雪夜らをも巻き込んでの大騒動を描いた『ワーキング・ホリデー』が刊行されたのは2007年。2012年にはその後の大和と進の物語を書いた『ウィンター・ホリデー』が、同年には『ワーキング・ホリデー』が映画化され、人気となっている「ホリデー」シリーズから誕生した、初のスピンアウト短編集が本作『ホリデー・イン』である。
今回は親子の物語ではなく、彼らを取り巻く愛すべき人々のもうひとつの物語。ジャスミン、雪夜、進らそれぞれを主人公にした6編が収録された。
01「ジャスミンの部屋」 …… クラブ経営者が拾った謎の中年男の正体は?
02「大東の彼女」 …… お気楽フリーターの大東の家族には実は重い過去があった
03「雪夜の朝」 …… 完璧すぎるホストの雪夜にだってムカつく相手はいるんだ!
04「ナナの好きなくちびる」 …… お嬢様ナナがクラブ・ジャスミンにはまった理由
05「前へ、進」 …… まだ見ぬ父を探し当てた小学生の進の目の前には――
06「ジャスミンの残像」 …… ヤンキーだった大和とジャスミンの出逢いの瞬間
どの作品も登場人物たちの過去の秘密を明かしつつ、ハートウォーミングな結末は読者を暖かな気持にしてくれる。『和菓子のアン』で大ブレイク中の坂木さんの、さらなる魅力を惹き出すお洒落な作品集だ。


ジャスミンさん、知れば知るほど哀しくて切なくて、しあわせで愛すべきキャラクタである。惚れてしまいそう。そして、登場人物の誰もが、何かしらの屈託を抱えながら、拾われたり、偶然だったり、事情は違うがジャスミンさんの元に集まっている。いましあわせなことがなぜか哀しく感じられ、鼻の奥がつんとしてくる。それぞれの過去を知ることで、お互いの関係により深みが増すように思えるのが嬉しくもある一冊である。

大きな音が聞こえるか*坂木司

  • 2013/01/06(日) 17:04:06

大きな音が聞こえるか大きな音が聞こえるか
(2012/12/01)
坂木 司

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八田泳、高校一年生。そこそこ裕福でいわゆる幸せな家庭の息子。帰宅部。唯一の趣味はサーフィン。凪のように平坦な生活に自分を持て余している。だがそんな矢先、泳は製薬会社に勤める叔父がブラジル奥地へ行くと知らされた。さらにアマゾン川の逆流現象=ポロロッカで波に乗れるという情報を聞いて―小さな一滴が大きな波紋を生んでいく、等身大の成長物語。


温い毎日をなんとなく生きている泳は、それでもなんとなくは、いまのままではいけないような気分を抱えていた。いつもサーフィンをしに行く海には、仙人と呼ばれる人がいて、終わらない波に乗ったことがあるという。そんなとき、製薬会社に勤める母の弟の剛がブラジルに赴任し、アマゾンの奥地へ行くという。アマゾンには川を遡る巨大な波=ポロロッカがあるということを初めて知る。そのとき、泳のスイッチが入ったのだった。ポロロッカに乗りに行くために、バイトをして旅費を稼ぎ、両親を説得するところから、泳の新しい日々は始まった。友人の二階堂や、バイト先の人たちとの交流、家族の在りよう、クラスでの在り方。普通の生ぬるい高校生としての泳と、目的に向かって遮二無二進む泳とのギャップが微笑ましい。そしてアマゾンに行ってからの泳と、夢を叶えて帰国してからの泳の違いも著しく、その成長ぶりが頼もしくもある。それぞれの場所でそのときそのときで頑張る姿がとてもいい一冊である。

ウィンター・ホリデー*坂木司

  • 2012/02/29(水) 17:15:19

ウィンター・ホリデーウィンター・ホリデー
(2012/01)
坂木 司

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届けたい。間に合わないものなんてないから。一人から二人、そして…。父子の絆の先にある、家族の物語。父親は元ヤン・元ホスト・現宅配便ドライバー、息子はしっかり者だけど所帯じみてるのが玉にきずの小学生。冬休み、期間限定父子ふたたび。


前作『ワーキング・ホリデー』は夏休みだったが、今回は冬休み前からはじまる。大和はもうすっかり夏休みに突然現れた息子・進を待ちわびる父親である。今回も、場当たり的な大和としっかりものの進の好対照に苦笑いし、まだまだ回り道をしているようなところのある距離感をもどかしく思いつつ、父子の絆の深まりに胸を熱くするのだった。そしてなにより今回は、進の母・由希子との関係にも前回とはひと味違う進展――と言ってしまっていいであろう――があって、今後に期待が持てるのだった。大和や進を囲む個性は揃いの面々のあたたかな気持ちも変わらずにあって、読者もその一員になった心地で応援してしまうのである。まだまだもっともっと続きを読みたい一冊である。

和菓子のアン*坂木司

  • 2010/11/18(木) 19:41:15

和菓子のアン和菓子のアン
(2010/04/20)
坂木 司

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やりたいことがわからず、進路を決めないまま高校を卒業した梅本杏子は、「このままじゃニートだ!」と一念発起。デパ地下の和菓子屋で働きはじめた。プロフェッショナルだけど個性的な同僚と、歴史と遊び心に満ちた和菓子に囲まれ、お客さんの謎めいた言動に振り回される、忙しくも心温まる日々。あなたも、しぶ~い日本茶と一緒にいかがですか。


表題作のほか、「一年に一度のデート」 「萩と牡丹」 「甘露家」 「辻占の行方」

甘い香りが漂ってきそうな日常の謎の物語である。デパ地下和菓子店・みつ屋でアルバイトをすることになったアンちゃんこと梅本杏子が主役である。みつ屋のメンバーは、中身はオッサンかと思わせる椿店長に外見はイケメンなのに中身は乙女の菓子職人を目指す立花さん、アルバイトの先輩で元ヤンキーの桜井さんという個性的な面々だが、それぞれから学ぶことは多い杏子である。お店にやってくるお客さんの様子から、その抱える問題や悩みを推し量り、解きほぐしてしまう椿店長の細かい観察眼はお見事である。杏子も気づいたことを口にすることで、謎解きに一役買ったりもするようになる。みつ屋の面々のプロフェッショナルぶりとあたたかさが、登場する和菓子と共にほっと和ませてくれる一冊である。表紙のおまんじゅうを食べられないのが残念である。

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短劇*坂木司

  • 2009/05/13(水) 14:19:11

短劇短劇
(2008/12/17)
坂木 司

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たとえば、憂鬱な満員電車の中で。あるいは、道ばたの立て看板の裏側で。はたまた、空き地に掘られた穴ぼこの底で。聞こえませんか。何かがあなたに、話しかけていますよ。坂木司、はじめての奇想短編集。少しビターですが、お口にあいますでしょうか。


26の短い物語集。
ちょっといい話もないわけではないが、全体のトーンはホラーとまでは言えないが、いささか薄気味悪い感じである。
暗闇に立てたろうそくを一本ずつ吹き消しながら、語って聞かせる百物語にも似合いそうな話も多い。
ひとつひとつの窓に、外からは窺い知れない物語が隠されている、と思わせられるような装丁もぴったりである。

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