ウチのセンセーは今日も失踪中*山本幸久

  • 2018/06/01(金) 18:13:18

ウチのセンセーは、今日も失踪中 (幻冬舎文庫)
山本 幸久
幻冬舎 (2018-03-15)
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富山から東京の出版社に漫画の持ち込みに行った宏彦は、失踪癖のある大御所漫画家のアシスタントになるハメに。クセのある仲間や編集者とセンセーの連載を落とさないよう必死に頑張る宏彦。実は、陸上の有望選手だったが、高三の秋のある事件で進学を諦め、病弱な妹の言葉で漫画家を目指すことになったのだ。カッコ悪くも沁みる、痛快エンタメ。


漫画家の仕事場やアシスタントの仕事ぶり、という点では、現在放映中の朝ドラと重なる部分もあり、興味深くはある。急遽アシスタントとして重用されることになる豊泉宏彦の奮闘ぶりや、デビューに向かっての奮戦ぶりも応援したくなる。――のだが、著者のお仕事ものがたりにしては、いささかピントが散漫になっている印象である。シリーズ化されるのだとすれば、次作以降でぎゅっと詰まっていくのかもしれないとは思いつつ、本作のみに限れば、何となく物足りない感は否めない。面白くないわけではないのだが、これまでの山本幸久ワールドとはちょっぴり違うかもしれない。シリーズ化されて、凝縮されることを願いたい一冊である。

ふたりみち*山本幸久

  • 2018/05/02(水) 16:32:53

ふたりみち
ふたりみち
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山本 幸久
KADOKAWA (2018-03-29)
売り上げランキング: 95,406

函館から津軽海峡をフェリーで渡る67歳の野原ゆかりは、元ムード歌謡の歌手。借金返済のため、営業の旅に復帰したのだ。その船内で知り合った12歳の家出少女森川縁が、なぜかゆかりの後をついて来る。旅先で起きるトラブルや55歳の歳の差を乗り越えて、いつしかふたりは固い絆で結ばれていく。そしてたどり着いた最後の会場、東京。そこにはゆかりの悲しい過去が刻まれていた…。


67歳と12歳、ゆかりと縁(ゆかり)の「ふたりみち」の物語である。それぞれに事情を抱えた利の差55歳の二人は、津軽海峡を渡るフェリーで出会い、なぜか一緒に旅をすることになる。歌を、音楽を通して、二人のなかにある何かが響きあったのかもしれない。行く先々でトラブルに見舞われ、ろくに歌うこともできずにいるミラクル・ローズ(=ゆかり)だったが、縁がいつも支えになってくれている。12歳らしい幼さと、12歳とは思えない逞しさを持ち合わせた縁がいたからこその、ゆかりの旅なのである。ゆかりにとっては、人生の来し方を振り返る旅にもなっており、縁にとっては、人生の行方を探す旅でもあるのだろう。切なさ、ほほえましさ、人情のあたたかさ、一筋縄ではいかないやりきれなさなど、さまざまな感情を呼び起こされる一冊でもある。

ミックス。*古沢良太:脚本 山本幸久:小説

  • 2017/12/11(月) 16:51:05

([や]2-4)ミックス。 (ポプラ文庫)
古沢 良太 山本 幸久
ポプラ社 (2017-10-03)
売り上げランキング: 18,301

母のスパルタ教育により、かつて“天才卓球少女”として将来を期待された多満子。母の死後、普通に青春を過ごし、普通に就職する平凡な日々を送っていたが、新入社員の美人卓球選手・愛莉に恋人の江島を寝取られてしまう。
人生のどん底に落ち、田舎に戻った多満子だったが、亡き母が経営していたフラワー卓球クラブは赤字状態。クラブの部員も、元ヤンキーのセレブ妻、ダイエット目的の中年夫婦、オタクの引きこもり高校生、さらに妻と娘に見捨てられた元プロボクサーの萩原など、全く期待が持てない面々だった。
しかし、江島と愛莉の幸せそうな姿を見た多満子は、クラブ再建と打倒江島・愛莉ペアを目標に、全日本卓球選手権の男女混合ダブルス(ミックス)部門への出場を決意。部員たちは戸惑いながらも、大会へ向け猛練習を開始する。多満子は萩原とミックスを組むものの、全く反りが合わずケンカばかり。しかし、そんな二人の関係にも、やがて変化が訪れていく――。
大注目の脚本家・古沢良太と人気作家・山本幸久の「ミックス」で贈る、恋と人生の再生の物語。


母のスパルタ指導のせいで、卓球が嫌いだったかつての天才少女・多満子は、母の死後、ガングロになったり普通に就職したりと、卓球からはすっかり離れていた。だが、職場の恋人で卓球選手の江島を、同じ卓球部の新人女子に奪われて傷心し、会社を辞めて実家に帰ってきたのだった。そこから物語はスタートする。いまは寂れている亡き母のフラワー卓球クラブの寄せ集めのようなメンバーが、奮起して全日本卓球選手権の予選に出場するまでの日々が、それぞれのエピソードを織り込みながら、次第に熱を帯びて描かれ、それぞれが、抱えているものを乗り越えてひとつになっていくのが目に見えるので、ついつい読んでいて応援したくなってしまう。多満子が卓球をどんどん好きになる様が、とても気持ち好くてうれしくて、ついつい微笑んでしまうくらいである。熱く愉しい一冊である。

天晴れアヒルバス*山本幸久

  • 2016/10/30(日) 18:25:19

天晴れアヒルバス
天晴れアヒルバス
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山本幸久
実業之日本社
売り上げランキング: 257,116

アヒルバスのバスガイドになって12年、いつしかベテランになった高松秀子(デコ)。恋も仕事も充実…のはずが、後輩に追い抜かれっぱなしの日々。外国人向けオタクツアーのガイドを担当するが、最悪の通訳ガイド・本多光太のおかげでトラブル続発。デコは乗客に、そして自分にも幸せを運ぶことができるのか―!?アラサーのデコにもとうとう春が来る!?


デコさんもすっかりベテランになり、後輩を指導する立場にもなっているが、後輩たちが次々に企画を出して採用される中、さっぱりアイディアが浮かばず、密かに落ち込むこともあるのだった。後輩が企画したツアーのガイドをするのも忸怩たる思いがないわけではないが、その上さらに、厄介な新人本多光太のお目付け役まで仰せつかってしまい、さんざんである。だが、お客さんと接するのは愉しいし、先輩後輩、取引先の人たち初め、周りの人間関係には恵まれているのである。なんとアカコとヒトミも登場し、新しい展開がありそうだし、でこさん自身にもロマンスの兆しが見えたような見えないような。さらなる展開が愉しみなシリーズである。

誰がために鐘を鳴らす*山本幸久

  • 2016/04/07(木) 21:13:46

誰がために鐘を鳴らす
山本 幸久
KADOKAWA/角川書店 (2016-03-02)
売り上げランキング: 345,764

翌年の廃校が決まっている、男子だらけの県立高に通う錫之助。ある日、担任のダイブツから音楽室の片付けを命じられた錫之助は、そこで見付けたハンドベルの音に魅せられ、居合わせた3人の同級生とハンドベル部を創立することになる。イケメンでそつがない播須、いじめられ体質の美馬、不良の土屋、顧問はお地蔵さん似の教師のダイブツ―チームワークもバラバラ、音楽の知識もないメンバーで、「女子高のハンドベル部との交流」という不純な目標から始まった部活動。だが、4人は段々と演奏の面白さに目覚め、交流の輪は広がってゆき…。卒業目前、彼らがハンドベルを通して選んだ未来とは?一人では絶対に演奏できない楽器、それがハンドベル。4人の凸凹男子高校生と独身教師が奏でる、笑えて泣ける極上の物語!


元々仲がいいわけでもない高校生男子四人と男性教師一人の五人がハンドベル部を作った。しかも、音楽経験者は、男子一人(美馬)と指導者の唐沢(カラニャン)だけである。さらに、学校は今年度限りで廃校になる。成功しそうな要素はほぼないと言っていいハンドベル部の、躓きながら、迷いながら、揉めながら、曲を奏でるという目標に一歩ずつ近づいていく姿がカッコイイ。純粋とは言えない動機から始まったハンドベル部ではあったが、少しずつ彼らの臨む姿勢が変わってくるのが胸を熱くする。誰が欠けても成り立たなかっただろうと思われて、これからの彼らも応援したくなる。最後に錫之助が見た未来の通りになればいいな、と思う一冊である。

エイプリルフールズ*脚本:古沢良太 小説:山本幸久

  • 2015/04/25(土) 18:56:26

エイプリルフールズ (ポプラ文庫 日本文学)エイプリルフールズ (ポプラ文庫 日本文学)
(2015/03/05)
古沢良太、山本幸久 他

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エイプリルフール――それは1年で唯一嘘が許される日。
そんな日に巻き起こる事件の数々。人間模様の数々がからみ、つながり、そして小さな「嘘」が奇跡を起こす!
戸田恵梨香主演、『キサラギ』『リーガル・ハイ』『デート~恋とはどんなものかしら~』など今最も注目されている脚本家・古沢良太のオリジナル脚本で映画化される作品を、人気作家・山本幸久が小説化!


一年の内でも特別な一日、それが四月一日ではないだろうか。唯一嘘をついても許される一日として。そんな日が誕生日の人がいる。そんな日にささやかな嘘をついた人がいる。そしていろんな人が繋がり合い、さまざまなことがもつれ合って、てんでに散らばり、めぐりめぐって元のところに戻る。だが戻ったところはすでに過去のそことは同じではなく、時は進んで進化しているのである。その様がとても面白い一冊である。

店長がいっぱい*山本幸久

  • 2014/12/06(土) 20:33:39

店長がいっぱい店長がいっぱい
(2014/11/14)
山本 幸久

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夫を亡くしたばかりの真田あさぎは、小学生のひとり息子を育てるため、「友々丼」と名付けた“他人丼”の専門店「友々家」を開いた―。あれから30年余り。いまでは、百二十店舗を数えるまでになった。東京、神奈川、群馬…今日も、あちこちの「友々家」では、店長たちが、友々丼をせっせと提供している。それぞれの事情を抱え、生きるために「友々丼」をつくり続ける7人の店長と、共に働く人々のちょっぴり切ない七つの物語。


「松を飾る」 「雪に舞う」 「背中に語る」 「一人ぼっちの二人」 「夢から醒めた夢」 「江ノ島が右手に」 「寄り添い、笑う」

友々家の各地の店の店長がそれぞれの章の主役である。店ごとに客層もスタッフの質もさまざまで、店長になったいきさつもそれぞれである。各店の抱える悩みや、店長個人の屈託、スタッフとのかかわり方など、ひとつとして同じ例はなく興味深い。そして、店長たちの物語ではあるのだが、それを大きく包んだ形で、創業者の真田あさぎとその家族の物語でもあるのが、さらに味わい深い。やり手で美人の霧賀さんもしあわせになれそうな感じなのも、つい嬉しくなってしまう。友々家に行ってみたくなる一冊である。

芸者でGO!*山本幸久

  • 2014/07/28(月) 16:41:36

芸者でGO!芸者でGO!
(2014/07/10)
山本 幸久

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恋するゲイシャガールin八王子!?
5人の芸者が未来へGO!

東京・八王子の置屋「夢民(ゆめたみ)」
に在籍する五人の芸者たち

●弐々(杉浦晴子)元女子高生。大学受験に失敗、恋人とも別れて芸者の道へ。
●未以[みい](沢村紗英)元キャバクラ嬢。年下の男の子に貢ぎ癖が直らない。
●茂蘭[もらん](細井千香)元看護師。大学生の息子がいるシングルマザー。
●兎笛[とてき](望月優希)元女子プロレスラー。女らしくなりたくて芸者の道へ。
●寿奈富[すなふ](田中喜久代)元丸の内OL。憧れの的だが人には言えない秘密が……。

彼女たちは人生の逆境をのりこえて八王子最大の祭り
「八王子まつり」で最高の芸を見せることができるのか。
そしてままならぬ恋の行方は……!?
傑作『ある日、アヒルバス』の笑いと感動再び!
最高に面白くてキュンとくるお仕事&青春&恋愛エンターテインメント!!
山本お仕事小説の新境地!


今回のお仕事小説はなんと芸者!しかも舞台は八王子。八王子に芸者のイメージはまったくなかったのだが、意外に花街としての歴史は古いということを改めて知ってなるほど、と思う。訳アリ五人の芸者ガールたちの仕事や恋や来し方行く末が良いことも悪いこともきらきらしていて魅力的である。アヒルバスのデコさんも大事な役どころで登場し、カキツバタ文具とも縁があり、となかなか粋な計らいもあり、茂蘭姐さんの息子の長治くんといい感じの岡田鞠子ちゃんが、寿奈富姐さんを見ているあたりはもしかして……。なんだかみんな明るい未来に向かっているようで、さすが山本さんという一冊である。美以も佐野君も、しあわせになるに決まっているさ。

ジンリキシャングリラ*山本幸久

  • 2014/04/16(水) 14:15:41

ジンリキシャングリラジンリキシャングリラ
(2014/03/06)
山本 幸久

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「だったらさ。人力車部、入ってくんない?」by鷭高2年・珠井由紀
“北陸の小江戸"と呼ばれる猫跨市で、市役所に勤める父と2人で暮らす高校一年の雄大は、イケメンなのに女子が苦手でぶきっちょで、おまけに喧嘩っ早い。入学早々に先輩と喧嘩して野球部から退部勧告を受けた直後、一つ上の可愛い先輩・珠井由紀から誘われるままに人力車部へ入部することになった。
そこには、ヨーダと呼ばれる顧問の先生、人気者ではあるがまるでモテない部長の倉掛、唯一の女性車夫で誰よりも男前な先輩・阿武、サボることにかけては誰にも負けない同級生の峰などなど、個性溢れる(?)面々がいて……。
「ずっと彼らと一緒にいたい」と思わずにいられない、愉快で、切なくて、甘ずっぱい物語である。“山本幸久の真骨頂"ともいうべき、読後感さわやかで、心あたたまる青春&家族小説。


まさに山本幸久である。爽やかな汗、ほろ苦くきゅんとする恋心、熱い仲間たち。そこに、父と息子の葛藤、亡き母への思慕、将来の夢、などのスパイスがふりかけられれば、それはもうのめりこむしかないのである。みんなの夢も、恋心もかなうといいなぁ、と思わされる一冊である。

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幸福トラベラー*山本幸久

  • 2013/06/10(月) 19:33:09

幸福トラベラー (一般書)幸福トラベラー (一般書)
(2013/02/13)
山本 幸久

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新聞部部長、だけどダメでさえない“ぼく”が、上野で出会った、謎めいた少女。修学旅行で東京に来たという彼女には、何か隠している目的があるようで…。突然はじまった秘密の旅は幸せな未来にむかうのか!?携帯番号も知らない、住んでいる場所も知らない。お互いの名前しか知らないふたりがたどる、奇跡の物語。東京の下町・上野を舞台に、ダメな中2男子が頑張る、リトルラブストーリー。


やっぱり山本さんはいいなぁ。きゅんとして、ほっとして、じんとして、前向きになって、ちょっぴり奇跡を信じてもいいかな、と思わせてくれる物語である。アヒルバスのデコさんが出てきたり、カキツバタ文具が野球大会をしていたり、物語の本筋ではないところでもにやり、とさせてくれる。小美濃くんも行方さんも、未来にたくさんの幸福を持っていると読者にも思わせてくれる幸福な一冊である。

展覧会いまだ準備中*山本幸久

  • 2013/03/23(土) 17:06:06

展覧会いまだ準備中展覧会いまだ準備中
(2012/12/18)
山本 幸久

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学生時代は応援団に在籍していた変わり種学芸員の今田弾吉。東京郊外の公立美術館に勤める彼は、職員の中で一番下っ端。個性豊かな先輩たちにコキ使われながらも、「上の命令は絶対」という応援団精神を発揮して、目の前の仕事に追われる日々を送っていた。自ら企画立案した美術展の実現なんて遠い夢。しかし美術品専門運送会社の美人社員・サクラとの出会いと、応援団の大先輩からある一枚の絵を鑑定依頼されたことが、弾吉の心に、何かのスイッチを入れたのだった。


お仕事物語、学芸員編である。数いる応募者を結果的に押しのけて、やりたかったことを仕事にしている弾吉だが、自分のやりたいことをやれているかと問われると、答えに窮するのが実情の毎日である。いちばん下っ端なので、上から言われたことをこなすのが精いっぱい。そんな日々に、楔を打ち込んだのは、学生時代の先輩に見せられた一枚の絵だった。一朝一夕に変わるものではないが、少しずつ一歩ずつ弾吉は自分の企画を実現させるために動き出す。いまだ準備中の展覧会がどれほどたくさんあるのだろうか、ということを想うと、気が遠くなるようでもあり、わくわくするようでもある。いつの日か、思わずニンマリしてしまうような羊や駱駝や鰐の絵を野猿美術館で観てみたいと思わされる一冊である。

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東京ローカルサイキック*山本幸久

  • 2012/11/09(金) 21:08:09

東京ローカルサイキック東京ローカルサイキック
(2012/09/28)
山本 幸久

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日暮誠は死んだミーニャのことを思い出すと瞬間移動した。吉原花菜は恋をすると体が浮いた。そんな二人が中学の図書委員会で一緒になった。委員長の花菜とひとつ歳下の日暮。おたがい想いを寄せながらもいつしかすれ違い―。それから六年。意外な形で二人は再会する。花菜がハマった深沢アキ、彼女は日暮の母親だった。しかも親友の穂先友美によれば、深沢アキにはピンクのクラゲがついているという…。


冒頭から目を疑う場面が繰り広げられている。小学校四年の日暮誠は、愛猫を失った哀しみに暮れていたら瞬間移動してしまったというのである。これからページを繰るごとにどこへ連れて行かれるのだろう、と少しだけ慄く。そして読み進むと、現象は違うが、不思議なことが身に起こる人たちばかりが現れる。だが、それ以外は普通の青春物語であり、成功物語であり、再開の物語なので、あっという間に不思議な設定にも慣れてしまう。ラスト近くのホテルの騒動は、あまりにもドタバタで、どう終わらせるのか不安がよぎることもあったが、無事すとんと納まるところに納まって、これもハッピーエンドというのだろうか。いささか毛色は変わっていたが、憎めない一冊である。

GO!GO!アリゲーターズ*山本幸久

  • 2012/06/10(日) 16:59:48

GO! GO! アリゲーターズGO! GO! アリゲーターズ
(2012/04/26)
山本 幸久

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再就職先は、超弱小野球チーム。アラサー×バツイチ×シングルマザー。人生に遭難中の茜が拾われたのは、成績も経営も低迷する地方球団アリゲーターズだった。日々奮闘するすべての人へ贈る、最高のお仕事小説。


人生最悪のときに拾ってもらったから働いているが、茜は野球に何の思い入れもなかったのである。しかもチームは弱小地方チームであり、メンバーさえ片手間気分が抜けない有り様なのである。さらに茜は、アルバイトが辞めたからという理由で、チームのマスコット・ワニの着ぐるみアリーちゃんに入ることになってしまった。それがいつの間にか、なんだか熱くなっているのである。茜もアリゲーターズの面々も。そこに至るひとつひとつの出来事やひとりひとりの気持ちの動きが絶妙である。憎まれ役も情けない選手もみんなが物語の中で生きて悩んでいるのが伝わってくる一冊である。山本さんパワー全開である。

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一匹羊*山本幸久

  • 2012/03/13(火) 17:04:59

一匹羊一匹羊
(2011/10/18)
山本幸久

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縫製工場に勤める大神は、若いころと違って事なかれ主義で働いていた。そこに、職場体験に中学生がやって来る。年下の同僚とともに、中学生の面倒を見るはめになった大神。そこで、ある問題が生じて―(「一匹羊」)。OL、女子高生、フリーター、元野球選手、主婦…相手にされなくても。変人に思われても。一歩踏み出すと、素敵な自分が見つかるかもしれない、それぞれの「明日が少し元気になれる」物語。表題作ほか、7編を収録。


表題作のほか、「狼なんてこわくない」 「夜中に柴葉漬」 「野和田さん家のツグヲさん」 「感じてサンバ」 「どきどき団」 「テディベアの恩返し」 「踊り場で踊る」

見るからに著者らしいタイトルである。表紙の後姿の羊もやさしげでちょっぴり哀愁があってぴったりである。そして八編の物語も、登場人物も状況もみんな違うのに、やさしくてちょっぴり哀愁が漂うが、最後には気負わない力が湧きあがるのが感じられて微笑ましい。いいことばかりじゃないけれど、悪いことばかりでもないよね、と思える一冊。

寿フォーエバー*山本幸久

  • 2012/01/31(火) 18:53:33

寿フォーエバー寿フォーエバー
(2011/08/23)
山本 幸久

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東京都下の結婚式場・寿樹殿(じゅじゅでん)に勤め始めて5年目の井倉靖子は、彼氏イナイ歴9年の28歳、独身女性。"お客様たち(カップル)"のラブラブっぷりにあてられて心の中で毒づいちゃったり、逆に担当する花嫁さんに肩入れしすぎて辛い思いもすることもあるけれど、それでも彼女たちの幸せな顔を見るために、今日も自分なりに頑張って働いている。
ある日、頼りにしていた大先輩が急に退職したため、靖子は超ビッグで責任重大な結婚式をたった一人で担当することに。そんな中、近隣には強力なライバル店が出現、さらに、ラブラブだったはずのカップルにも破局の危機が! 相次ぐピンチに一生懸命立ち向かう靖子だったが......。
優秀でも美人でも、ましてやモテ女でもなく、恋も仕事もままならないごくごく普通の靖子と、彼女をとりまく個性的な面々が結婚式場を舞台にくりひろげる、クスッと笑えてホロリと泣ける、幸せになれる"結婚×お仕事小説"!


ハートとピンクとゴンドラと。立川から青梅線で数駅のところにある、いささか時代錯誤と言えなくもない結婚式場・寿樹殿が舞台である。個性的なメンバーの中で、勤続5年目28歳の靖子は、一生懸命ではあるものの、なんとなくこなしているという感じで日々仕事をしていた。ビッグカップルの婚礼の担当として煩雑な仕事をしつつ、近所にできたライバル店のことも気になり、合コンのことも気になるのであった。だが、いろんなカップルのさまざまな事情を見聞きし、個性的過ぎる同僚や上司とともに、ライバル店に負けないようにアイディアを出し合っているうちに、知らず知らず以前よりも仕事に心がこもるようになっているのだった。寿樹殿のスタッフたちのキャラクターが強烈過ぎるので、靖子の特徴のなさも個性のひとつになっているように見えるのがおもしろい。そして、この人たちがいるからこそ寿樹殿はきっといつまでも愛される結婚式場なのだろうな、と思わされる一冊である。