ブランケット・ブルームの星型乗車券*吉田篤弘

  • 2017/05/30(火) 13:36:06

ブランケット・ブルームの星型乗車券
吉田 篤弘
幻冬舎 (2017-03-09)
売り上げランキング: 13,511

ようこそ、毛布をかぶった寒がりの街へ
クラフト・エヴィング商會の作家による、ここではない、どこかの街の物語。

本好きのための酒屋「グラスと本」、
別れについて学ぶ「グッドバイ研究所」、
春の訪れを祝う「毛布を干す日」……。
寒い季節にぴったりの、ブランケットで包まれたような温もりいっぱいの一冊。


ブランケット・シティの新聞社<デイリー・ブランケット>紙の専属ライターのブランケット・ブルーム君(27歳)のコラムを軸に構成された一冊である。さまざまな場所に赴き、さまざまな出来事を拾い集めて書かれたコラムは、ブランケット・シティの小さな小さな欠片たちがぎゅっと詰まっていて愛おしくなることこの上ない。読みながら、ときどき目を閉じて、静かに想像を巡らせると、知らず知らずにブランケット・シティの街角にたたずんでいるような心持ちになっている。手には、星型の乗車券が握りしめられているのである。静かで穏やかでしあわせな気分に満たされる一冊である。

台所のラジオ*吉田篤弘

  • 2016/07/22(金) 16:50:22

台所のラジオ
台所のラジオ
posted with amazlet at 16.07.22
吉田篤弘
角川春樹事務所
売り上げランキング: 83,027

昔なじみのミルク・コーヒー、台所のラジオと夜ふけのお茶漬け、江戸の宵闇でいただくきつねうどん、子供のころの思い出のビフテキ…。滋味深く静かな温もりを胸に灯す12の美味しい物語。『ランティエ』連載を単行本化。


さまざまな場所、さまざまな状況で、台所に置いたラジオを聴く――あるいは聞くともなく聞く――時間。ラジオのなかで話す人の声と、その声を耳にした人たちとが、ひとつになるほんの一瞬があるのかもしれない。いろんな場所にあるそれぞれ別の台所に、ぽつんと置かれたラジオと、そこから動き出す情景が目に見えるようである。実に現実的なようであって、ほんの少しばかりのずれのなかに迷い込んだような、吉田ワールドが堪能できる一冊である。

電球交換士の憂鬱*吉田篤弘

  • 2016/02/29(月) 17:06:43

電球交換士の憂鬱 (文芸書)
吉田 篤弘
徳間書店
売り上げランキング: 28,339

世界でただひとり、彼にだけ与えられた肩書き「電球交換士」。こと切れたランプを再生するのが彼の仕事だ。人々の未来を明るく灯すはずなのに、なぜか、やっかいごとに巻き込まれる―。謎と愉快が絶妙にブレンドされた魅惑の連作集。


電球交換士の十文字扉の物語。かかりつけのやぶ医者(本人曰く)に、不死身であると宣告されて以来、「どうせ」死なないのだから、という諦めと虚しさのような気分に浸されているような気がしている。電球を交換してほしいという依頼があれば、あちこちに出向いて「十文字電球」に交換するが、その電球にも実は事情があって、いずれこのままではいけないという思いを抱えているのである。行きつけのバーに集う常連客達とのやり取りや、それぞれの事情に考えさせられることもあり、滅びていくものと続いていくもの、そして新しく作られるもののことに思いを馳せたりもする。不死身の我が身の来し方行く末を考えるのも、途方もない心地である。いくつもの軸を持って流れている時間というもののことを考えさせられる一冊でもあるような気がする。

ソラシド*吉田篤弘

  • 2015/03/05(木) 16:52:40

ソラシドソラシド
(2015/01/30)
吉田 篤弘

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拍手もほとんどない中、その二人組は登場した。ひとりはギターを弾きながら歌い、もうひとりは黙々とダブル・ベースを弾きつづけた。二人とも男の子みたいな女の子だった。彼女たちの音楽は1986年のあの冬の中にあった――。消えゆくものと、冬の音楽をめぐる長篇小説。


現代と1968年とをゆるやかに行き来するような物語である。「冬の音楽」を奏でたいと言ったカオルとソラのデュオ「ソラシド」を探す旅の物語でもあり、主人公と異母妹とその親たちをめぐる物語でもある。躰は現在に在るとしても、想いが流れるように遠く近くに旅をするような印象の一冊である。

電氣ホテル*吉田篤弘

  • 2014/10/12(日) 09:35:24

電氣ホテル電氣ホテル
(2014/09/25)
吉田 篤弘

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二人の詩人の冒険に立ちはだかる
謎につぐ謎、奇人また奇人!
停電調査の旅に出た詩人・オルドバと猿のチューヤー。
この世の二階から魔都・東京の夜景を見おろす詩人・シャバダ。
忽如として行方不明になった十数名の「児島」と、その謎を追う探偵・中田と相棒の探偵犬・終列車。
物語の行方は、この世の二階にあるといわれる、幻の〈電氣ホテル〉へ――。
奇怪にして愉快な活劇小説!


そもそも、停電調査人の上田(オルドバ)が停電調査は旅であるという自説故に、尾久へ行くのにやたらと遠回りをし、旅となそうとしたのが事の始まり。尾久へ直行していたら、この物語はなかったのかもしれない。いや、そうではなく、誰が何をしようとどこへ行こうと、変わらなくあったのかもしれない。この世の二階の辺りで、静かに。尾久へ向かうオルドバとチューヤーをどんどん遠く離れて物語は中二階、二階、三階、(四階)辺りをさまようが、まわりまわってまたオルドバたちへと帰って来る。かと言って何かが解決したわけではない。大停電の謎は解けたが……。下町の一画で起こっていることとはついぞ思えない長く遠く草臥れる旅であったことよ、と思わされる一冊である。

イッタイゼンタイ*吉田篤弘

  • 2014/04/10(木) 16:48:26

イッタイゼンタイイッタイゼンタイ
(2013/04/20)
吉田篤弘

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「なおす」という言葉がふたつの意味を持った。かつて「殺し屋」と呼ばれていた者は「なおし屋」となり、かつて「修理屋」と呼ばれていた者も「なおし屋」と呼ばれている。男はこわれたものをなおし、女は男をなおしてゆく。都会の片隅のシュールでコミカルな日常と秘密を描く現代の寓話。


著者の作品のなかでは、いささか趣が違う一冊である。ファンタジーのようでもあり、ホラーのようでもある。そしていま現在我々の身の回りでじわじわと進行していることそのものであるようにも見える。そのときどきの読み手の状態によっていかようにも受け取れてしまうのが興味深くて恐ろしくもある。人間というものは、幾度繰り返しても学ばない生き物なのかもしれないと、やれやれという心持ちにもなる一冊である。

うかんむりのこども*吉田篤弘

  • 2013/10/17(木) 07:32:59

うかんむりのこどもうかんむりのこども
(2013/09/30)
吉田 篤弘

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「自我自讃」に「自画持参」、「短刀直入」、一番大切な漢字を決める……文字モジした言葉エッセイ集。「俺」と「僕」には「人」がいるが、「私」の中には不在の「人」。「禾」が「人」になると「私」は「仏」、死して「私」は初めて「人」になる? 絵文字の元祖、(笑)(怒)(仮)につづく( )内の新顔、あらゆるところに潜む「心」、一番偉そうな漢字、文字を売る店……クラフト・エヴィング商會の物語作者がカラーイラストつきで綴る、日本語の愉しみ方。


これはおもしろい。漢字の成り立ちにも、意味づけにも、文字そのものにも、言葉というものにも俄然興味が湧く。なるほど、と頷くことも度々である。クラフトエヴィング商會の手に成る挿画も、シンプルでさりげないながら、洒脱で素敵である。いろいろ愉しい一冊だった。

なにごともなく、晴天。*吉田篤弘

  • 2013/10/05(土) 20:59:39

なにごともなく、晴天。なにごともなく、晴天。
(2013/02/27)
吉田 篤弘

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高架下商店街の人々と、謎めいた女探偵、銭湯とコーヒーの湯気の向こうで、ささやかな秘密がからみ合う。『つむじ風食堂の夜』の著者によるあたたかく懐かしく新しい物語の始まり。


著者のいままでの物語とはひと味違った物語のような気がする。雲をつかむような、夢と現の境を行き来するようなものではなく、――一風変わってはいるが――確かな手触りや、生きている人の体温を感じられるような物語である。これもまたとてもいい。なにより登場人物がみな素敵だし、舞台設定も絶妙なのである。高架下に暮らしてみたくなるような一冊である。

ガリヴァーの帽子*吉田篤弘

  • 2013/10/04(金) 16:54:45

ガリヴァーの帽子ガリヴァーの帽子
(2013/09/12)
吉田 篤弘

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もういちどガリヴァーを呼び戻すために―。
名手・吉田篤弘が贈る、おかしく哀しく奇妙で美しい、色とりどりのおもちゃ箱のような短編集。


上記の内容紹介がすべてを言い得ている。実態があるようでないような場所で、実態があるようでないような物語が繰り広げられているのである。時間も空間も超越したような不思議な読み応えはいつものことである。現実からほんのわずか浮き上がったような心地になる一冊である。

つむじ風食堂と僕*吉田篤弘

  • 2013/09/27(金) 17:04:03

つむじ風食堂と僕 (ちくまプリマー新書)つむじ風食堂と僕 (ちくまプリマー新書)
(2013/08/07)
吉田 篤弘

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少し大人びた少年リツ君12歳。
つむじ風食堂のテーブルで、町の大人たちがリツ君に「仕事」の話をする。
リツ君は何を思い、何を考えるか…。
人気シリーズ「月舟町三部作」番外篇。


「それからはスープのことばかり考えて暮らした」のサンドイッチ屋の息子・リツくんが主人公の物語である。つむじ風食堂で定食を食べながら、大人たちはリツくんに自分の仕事のことをあれこれと教えてくれる。それを聞きながら、リツくんが自分の将来に想いを馳せる時、そこに浮かび上がってきたものはいままで考えもしていなかったものだった。自分の仕事のことを話すときの大人たちの誇らしげな様子や、聴きながらあれこれ思うリツくんの思慮深い横顔を想うと、胸の中にあたたかなものが満ちてくる。そして、青い鳥のように最後に見つけたものの輝かしさと言ったら、それはもうなによりも素晴らしいものなのである。短いながら中身の詰まった一冊である。

モナ・リザの背中*吉田篤弘

  • 2011/12/03(土) 16:56:07

モナ・リザの背中モナ・リザの背中
(2011/10/22)
吉田 篤弘

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ある日、訪れた美術館で、展示中の「受胎告知」の世界に迷い込んでしまい…。絵の中に迷い込んだ男の冒険奇譚。


曇天先生は五十歳を迎えてからどうもヘンである。上野の美術館で絵を鑑賞していたはずなのに、うっかり絵の中に入り込んでしまったり、大学の研究室の助手アノウエくん(先生の命名であり、実はイノウエくん)と人形焼を食べていたはずがいつのまにか異世界をさまよい歩いていたりするのである。絵の中の世界では振り向くことができず、ひたすら前を前を目指して歩くのである。そして行きついたところはまた別の絵の奥とつながっていたりする。時間も空間も飛び越えた旅と言えなくもないが、それにしても思考はぐるぐると渦を巻くように先へ進まない。しまいには、いつもと同じ日常を望んでいるのか、未体験の世界を冒険したいのか、自分でもわけが判らなくなってくるのである。要するに、五十歳になって、これまで生きてきた道のりと、これから最期へと向かう道のりについての思考の渦に読者が巻き込まれているだけのような気もしないではないが、誰にも先生を助け出すことはできないのである。軽妙だが深くもある一冊。

パロール・ジュレと紙屑の都*吉田篤弘

  • 2010/10/11(月) 16:46:59

パロール・ジュレと紙屑の都パロール・ジュレと紙屑の都
(2010/03/27)
吉田 篤弘

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キノフという町では、言葉が凍りついてパロール・ジュレと呼ばれる結晶になるという…。その神秘を古書の紙魚となって追究する諜報員、謎を追う刑事、言葉の解凍士。言葉を巡る壮大なマジカルファンタジー。


紙魚となって本から本を渡り歩き、目的の地までいき、誰かになり変わって諜報活動をするフィッシュと呼ばれる諜報員。言葉が凍るというキノフの町で繰り広げられるパロール・ジュレをめぐる腹の探り合い。それらがみな、どこか遠い夢のようでもあり、すぐ近くの町で起きていることのようでもある。読み終えてみれば、ひどく遠回りをして元の場所に戻ってきたようでもあり、狐につままれた心地がしなくもないが、ものごととは得てしてそういうものなのだろうとも思って腑に落ちる一冊である。

圏外へ*吉田篤弘

  • 2009/10/08(木) 16:54:05

圏外へ圏外へ
(2009/09/16)
吉田 篤弘

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主人公の「カタリテ」=小説家が書き出しで行き詰まるうちに、自作の登場人物たちが勝手に語り始めたり、作者自らが作品の中に入り込んでいく、小説を書き続けることの喜び・苦しみを正面から描ききった意欲作。


503ページの大作である。とにかく分厚くて――軽いのだが――読むのに持ちにくくて疲れた。
物語自体は、吉田篤弘パワー全開といったところだろうか。作家が次に綴ろうとする物語に向き合う想いを語っているようであり、己の裡なる声に耳を澄ませ、そこに見える風景を見つめる物語であり、ただ単に執筆に行き詰って居眠りしながら見た夢の世界のようでもある。どれもみな間違いで、どれもみな正解なのかもしれない。
読者は、あっというまに遠い遠いところへと連れて行かれたと思うと、南新宿の路地裏に引き戻され、また一瞬にして「南」へと連れ去られて不可思議な体験をさせられる。かと思えば、円田(つぶらだ)くんと娘・音(おん)との解説めいたやりとりを見せられて、ここが本来の場所か、と思うのも束の間、またとんでもないところでとんでもない人物と出会っていたりするのである。
近くて遠く、遠くて近い一冊だった。

小さな男*静かな声*吉田篤弘

  • 2009/03/08(日) 16:54:45

小さな男 * 静かな声小さな男 * 静かな声
(2008/11/20)
吉田 篤弘

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□いまは独り身である。
□友だちはあまりいない。
□引き出しから、思いがけないガラクタが出てきたことがある。
□自転車に乗れる。
□自由奔放な弟/妹になれたら、とときどき思う。
□道に迷いがちである。
□小さなものが好きである。
2つ以上あてはまるものがあれば、どうぞページをおめくりください。
煌めくことばの宝箱。待望の2年ぶりの新作小説!


小さな男は、百貨店の寝具売り場に勤めていて、自分だけの百科事典を作ることを第二の仕事にしている。
静かな声の静香さんは、とあるラジオ局でパーソナリティをしており、夜中に静かな声でラジオから語りかけている。
独身で、同じ街に暮らすこと以外、二人の接点は何もないのだが、それぞれに自分の仕事をこなし、物思いにふけりながら日々を生きている。
はじめのうちは、まったく別の二人の日々が交互に綴られているが、あるとき、あるひとりの人物を通して、ほんの微かに――というか驚くほどの濃密さで、というか――間接的につながりを持つ。だが、つながりを持ったことを、彼らはまったく知らないのであり、それがまたとても好い。
知らずにこぼした小さな種が、風に飛ばされて、思ってもみない場所で芽を出すような、そんな物語である。

それからはスープのことばかり考えて暮らした*吉田篤弘

  • 2007/01/16(火) 17:10:50

☆☆☆☆・

それからはスープのことばかり考えて暮らした それからはスープのことばかり考えて暮らした
吉田 篤弘 (2006/08)
暮しの手帖社

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どんなときでも同じようにおいしかった。だから、何よりレシピに忠実につくることが大切なんです…。ある町に越してきた映画好きのオーリィ君と、彼にかかわる人たちとの日々の暮らしを描く短編集。


短編集 とは言っても、全体でひとつの物語になっている。
大好きな映画館の隣の路面電車の走る町に引っ越してきた 失業中のオーリィくんこと大里青年と、彼を取り巻く人々、屋根裏のマダムこと 大家の大屋さん、サンドイッチ屋さん「3(トロワ)」の主人の安藤(アン・ドゥ)さんと息子のリツ、そして オーリィが映画館で会う緑色の帽子のご婦人との親身で、ほろりと物悲しく さりげなくあたたかな物語。
だれもが何かあるいは誰かを失くし、欠けた場所を埋める何かを探すように日常を暮らしている。だが、失くなったものは 目の前からは消えたが、心の中での大切さは変わることがなく、それぞれがそれぞれのやりかたで守り続けている。それと同時に、これからのために新しいものを生み出すことにも心を砕いている。
疲れきったときに差し出される一杯の温かなスープは、心にも躰にも きっととびきりやさしいだろう。

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