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チョコレート・ガール探偵譚*吉田篤弘

  • 2019/08/21(水) 10:50:24

チョコレート・ガール探偵譚
吉田 篤弘
平凡社
売り上げランキング: 249,430

フィルムは消失、主演女優は失踪、そして原作の行方は……。
巨匠・成瀬巳喜男監督の幻の映画「チョコレート・ガール」を追う作り話のような本当の話。連続ノンフィクション活劇、今宵開幕!


「作り話のような本当の話」と書かれていて、たぶん本当のことなのだろうとは思うのだが、そう自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、架空の物語めいて見えてくるのが不思議である。それが、普段の著者の作品によるものなのか、著者ご本人の気質によるものなのかはよく判らないが。ともかく、現実にしても想像の産物にしても、「チョコレート・ガール」を追いかける旅にはこの上なくわくわくさせられ、あちこちにさりげなく配されたヒントをたどり、(この現代にあって、出来得る限り電網の世界の助けを得ずに)足で探したチョコレート・ガールの実態が、それはまた魅力的なのである。知らない顔で探すということの難しいけれど幸せ至極な充足感が伝わってきて、こちらも満ち足りた心地になる。愉しい探偵の時間をくれる一冊である。

月とコーヒー*吉田篤弘

  • 2019/08/01(木) 18:41:22

月とコーヒー (文芸書)
吉田 篤弘
徳間書店
売り上げランキング: 87,211

喫茶店“ゴーゴリ”の甘くないケーキ。世界の果てのコインランドリーに通うトカゲ男。映写技師にサンドイッチを届ける夜の配達人。トランプから抜け出してきたジョーカー。赤い林檎に囲まれて青いインクをつくる青年。三人の年老いた泥棒、空から落ちてきた天使、終わりの風景が見える眼鏡―。忘れられたものと、世の中の隅の方にいる人たちのお話です。小箱の中にしまってあったとっておきのお話、24ピース。


ほんとうに、ちょっとしたお話がたくさんたくさん詰まっている。どの物語をとっても、めくるめく出来事や波乱万丈のドラマがあるわけではないが、ひとつひとつが、その物語の主人公にとっては大切な事々なのだということが、しっかりと伝わってくる。きれいな月が出ていて、おいしいコーヒーがあれば、人生捨てたものじゃない。この世界のどこかに、今日も彼らがいるのではないかと思うと、ちょっぴりうれしい気持ちにもなれる。静かでやさしくて、実り多い一冊である。

あること、ないこと*吉田篤弘

  • 2018/08/16(木) 08:54:09

あること、ないこと
あること、ないこと
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吉田 篤弘
平凡社
売り上げランキング: 100,301

世界を繙く事典、探偵譚、他の惑星から来た友人、思い出深い食堂や音盤、長い置き手紙──虚実の出会う場所を描く美しい物語の数々。


タイトルの通り、まさしくあること、ないことがぎっしりと敷き詰められた、一枚の美しい絨毯のような印象である。あることとないこととの境も曖昧で、すべてが詩のようでもあり、心象風景のようでもある。著者の作品に触れるたびに思うことだが、一瞬で遠くへ旅して戻ってくるような心地の一冊である。

おやすみ、東京*吉田篤弘

  • 2018/07/28(土) 18:30:56

おやすみ、東京
おやすみ、東京
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吉田篤弘
角川春樹事務所
売り上げランキング: 24,983

この街の夜は、誰もが主役です。都会の夜の優しさと、祝福に満ちた長篇小説。


内容紹介には、長篇小説とあるが、濃密につながった連作短編のような趣である。描かれるのは、午前一時辺りの出来事である。人々が寝静まる深夜に、働く人たちがいて、それぞれにさまざまな思いを抱えて、何かを探している。そんな人たちが、次々につながり、誰かを、何かを見つけて、あるいは見つけられて、つながっていくのを見るのは、とても興味深く、なんだかページのこちら側でもうれしくなってしまう。夢なの現なのか、次第に曖昧になってくるようでもある一冊でもある。

金曜日の本*吉田篤弘

  • 2018/01/30(火) 16:54:38

金曜日の本 (単行本)
金曜日の本 (単行本)
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吉田 篤弘
中央公論新社
売り上げランキング: 168,033

仕事が終わった。今日は金曜日。明日あさっては休みで、特にこれといった用事もない。つまり今夜から日曜の夜まで、子どものころの「放課後」気分で心おきなく本が読める!
――小さなアパートで父と母と3人で暮らした幼少期の思い出を軸に、いつも傍らにあった本をめぐる断章と、読書のススメを綴った柔らかい手触りの書き下ろしエッセイ集。


小さいころの篤弘少年の姿が目に浮かぶようである。舞台の袖の黒い幕の間が好きだったり、端っこが好きだったりと、クラスの中では浮いていたかもしれない少年の、それでも自分の興味の赴くままに、目をキラキラさせて夢中になる姿が目の前に現れるようである。著者にこの少年時代があったからこそ、いまわたしたちは著者の物語世界を愉しむことができるのだと思わされる一冊である。

京都で考えた*吉田篤弘

  • 2018/01/23(火) 16:25:28

京都で考えた
京都で考えた
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吉田篤弘
ミシマ社
売り上げランキング: 80,406

答えはいつもふたつある。京都の街を歩きながら「本当にそうか?」と考えたこと―。


著者が京都の街を歩きながら考えたつれづれである。ここにいながら、そこを想うような、ここに存在しながら、心はここではない場所を旅するような、そんな物語を編み出す著者の思考回路の一端に触れられた思いがして、思わず頬が緩んでしまう。境界が好きだという著者が生み出す物語だからこそ、読者を旅する心地に誘ってくれるのだとわかる。とても興味深い一冊だった。

ブランケット・ブルームの星型乗車券*吉田篤弘

  • 2017/05/30(火) 13:36:06

ブランケット・ブルームの星型乗車券
吉田 篤弘
幻冬舎 (2017-03-09)
売り上げランキング: 13,511

ようこそ、毛布をかぶった寒がりの街へ
クラフト・エヴィング商會の作家による、ここではない、どこかの街の物語。

本好きのための酒屋「グラスと本」、
別れについて学ぶ「グッドバイ研究所」、
春の訪れを祝う「毛布を干す日」……。
寒い季節にぴったりの、ブランケットで包まれたような温もりいっぱいの一冊。


ブランケット・シティの新聞社<デイリー・ブランケット>紙の専属ライターのブランケット・ブルーム君(27歳)のコラムを軸に構成された一冊である。さまざまな場所に赴き、さまざまな出来事を拾い集めて書かれたコラムは、ブランケット・シティの小さな小さな欠片たちがぎゅっと詰まっていて愛おしくなることこの上ない。読みながら、ときどき目を閉じて、静かに想像を巡らせると、知らず知らずにブランケット・シティの街角にたたずんでいるような心持ちになっている。手には、星型の乗車券が握りしめられているのである。静かで穏やかでしあわせな気分に満たされる一冊である。

台所のラジオ*吉田篤弘

  • 2016/07/22(金) 16:50:22

台所のラジオ
台所のラジオ
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吉田篤弘
角川春樹事務所
売り上げランキング: 83,027

昔なじみのミルク・コーヒー、台所のラジオと夜ふけのお茶漬け、江戸の宵闇でいただくきつねうどん、子供のころの思い出のビフテキ…。滋味深く静かな温もりを胸に灯す12の美味しい物語。『ランティエ』連載を単行本化。


さまざまな場所、さまざまな状況で、台所に置いたラジオを聴く――あるいは聞くともなく聞く――時間。ラジオのなかで話す人の声と、その声を耳にした人たちとが、ひとつになるほんの一瞬があるのかもしれない。いろんな場所にあるそれぞれ別の台所に、ぽつんと置かれたラジオと、そこから動き出す情景が目に見えるようである。実に現実的なようであって、ほんの少しばかりのずれのなかに迷い込んだような、吉田ワールドが堪能できる一冊である。

電球交換士の憂鬱*吉田篤弘

  • 2016/02/29(月) 17:06:43

電球交換士の憂鬱 (文芸書)
吉田 篤弘
徳間書店
売り上げランキング: 28,339

世界でただひとり、彼にだけ与えられた肩書き「電球交換士」。こと切れたランプを再生するのが彼の仕事だ。人々の未来を明るく灯すはずなのに、なぜか、やっかいごとに巻き込まれる―。謎と愉快が絶妙にブレンドされた魅惑の連作集。


電球交換士の十文字扉の物語。かかりつけのやぶ医者(本人曰く)に、不死身であると宣告されて以来、「どうせ」死なないのだから、という諦めと虚しさのような気分に浸されているような気がしている。電球を交換してほしいという依頼があれば、あちこちに出向いて「十文字電球」に交換するが、その電球にも実は事情があって、いずれこのままではいけないという思いを抱えているのである。行きつけのバーに集う常連客達とのやり取りや、それぞれの事情に考えさせられることもあり、滅びていくものと続いていくもの、そして新しく作られるもののことに思いを馳せたりもする。不死身の我が身の来し方行く末を考えるのも、途方もない心地である。いくつもの軸を持って流れている時間というもののことを考えさせられる一冊でもあるような気がする。

ソラシド*吉田篤弘

  • 2015/03/05(木) 16:52:40

ソラシドソラシド
(2015/01/30)
吉田 篤弘

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拍手もほとんどない中、その二人組は登場した。ひとりはギターを弾きながら歌い、もうひとりは黙々とダブル・ベースを弾きつづけた。二人とも男の子みたいな女の子だった。彼女たちの音楽は1986年のあの冬の中にあった――。消えゆくものと、冬の音楽をめぐる長篇小説。


現代と1968年とをゆるやかに行き来するような物語である。「冬の音楽」を奏でたいと言ったカオルとソラのデュオ「ソラシド」を探す旅の物語でもあり、主人公と異母妹とその親たちをめぐる物語でもある。躰は現在に在るとしても、想いが流れるように遠く近くに旅をするような印象の一冊である。

電氣ホテル*吉田篤弘

  • 2014/10/12(日) 09:35:24

電氣ホテル電氣ホテル
(2014/09/25)
吉田 篤弘

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二人の詩人の冒険に立ちはだかる
謎につぐ謎、奇人また奇人!
停電調査の旅に出た詩人・オルドバと猿のチューヤー。
この世の二階から魔都・東京の夜景を見おろす詩人・シャバダ。
忽如として行方不明になった十数名の「児島」と、その謎を追う探偵・中田と相棒の探偵犬・終列車。
物語の行方は、この世の二階にあるといわれる、幻の〈電氣ホテル〉へ――。
奇怪にして愉快な活劇小説!


そもそも、停電調査人の上田(オルドバ)が停電調査は旅であるという自説故に、尾久へ行くのにやたらと遠回りをし、旅となそうとしたのが事の始まり。尾久へ直行していたら、この物語はなかったのかもしれない。いや、そうではなく、誰が何をしようとどこへ行こうと、変わらなくあったのかもしれない。この世の二階の辺りで、静かに。尾久へ向かうオルドバとチューヤーをどんどん遠く離れて物語は中二階、二階、三階、(四階)辺りをさまようが、まわりまわってまたオルドバたちへと帰って来る。かと言って何かが解決したわけではない。大停電の謎は解けたが……。下町の一画で起こっていることとはついぞ思えない長く遠く草臥れる旅であったことよ、と思わされる一冊である。

イッタイゼンタイ*吉田篤弘

  • 2014/04/10(木) 16:48:26

イッタイゼンタイイッタイゼンタイ
(2013/04/20)
吉田篤弘

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「なおす」という言葉がふたつの意味を持った。かつて「殺し屋」と呼ばれていた者は「なおし屋」となり、かつて「修理屋」と呼ばれていた者も「なおし屋」と呼ばれている。男はこわれたものをなおし、女は男をなおしてゆく。都会の片隅のシュールでコミカルな日常と秘密を描く現代の寓話。


著者の作品のなかでは、いささか趣が違う一冊である。ファンタジーのようでもあり、ホラーのようでもある。そしていま現在我々の身の回りでじわじわと進行していることそのものであるようにも見える。そのときどきの読み手の状態によっていかようにも受け取れてしまうのが興味深くて恐ろしくもある。人間というものは、幾度繰り返しても学ばない生き物なのかもしれないと、やれやれという心持ちにもなる一冊である。

うかんむりのこども*吉田篤弘

  • 2013/10/17(木) 07:32:59

うかんむりのこどもうかんむりのこども
(2013/09/30)
吉田 篤弘

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「自我自讃」に「自画持参」、「短刀直入」、一番大切な漢字を決める……文字モジした言葉エッセイ集。「俺」と「僕」には「人」がいるが、「私」の中には不在の「人」。「禾」が「人」になると「私」は「仏」、死して「私」は初めて「人」になる? 絵文字の元祖、(笑)(怒)(仮)につづく( )内の新顔、あらゆるところに潜む「心」、一番偉そうな漢字、文字を売る店……クラフト・エヴィング商會の物語作者がカラーイラストつきで綴る、日本語の愉しみ方。


これはおもしろい。漢字の成り立ちにも、意味づけにも、文字そのものにも、言葉というものにも俄然興味が湧く。なるほど、と頷くことも度々である。クラフトエヴィング商會の手に成る挿画も、シンプルでさりげないながら、洒脱で素敵である。いろいろ愉しい一冊だった。

なにごともなく、晴天。*吉田篤弘

  • 2013/10/05(土) 20:59:39

なにごともなく、晴天。なにごともなく、晴天。
(2013/02/27)
吉田 篤弘

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高架下商店街の人々と、謎めいた女探偵、銭湯とコーヒーの湯気の向こうで、ささやかな秘密がからみ合う。『つむじ風食堂の夜』の著者によるあたたかく懐かしく新しい物語の始まり。


著者のいままでの物語とはひと味違った物語のような気がする。雲をつかむような、夢と現の境を行き来するようなものではなく、――一風変わってはいるが――確かな手触りや、生きている人の体温を感じられるような物語である。これもまたとてもいい。なにより登場人物がみな素敵だし、舞台設定も絶妙なのである。高架下に暮らしてみたくなるような一冊である。

ガリヴァーの帽子*吉田篤弘

  • 2013/10/04(金) 16:54:45

ガリヴァーの帽子ガリヴァーの帽子
(2013/09/12)
吉田 篤弘

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もういちどガリヴァーを呼び戻すために―。
名手・吉田篤弘が贈る、おかしく哀しく奇妙で美しい、色とりどりのおもちゃ箱のような短編集。


上記の内容紹介がすべてを言い得ている。実態があるようでないような場所で、実態があるようでないような物語が繰り広げられているのである。時間も空間も超越したような不思議な読み応えはいつものことである。現実からほんのわずか浮き上がったような心地になる一冊である。