代体*山田宗樹

  • 2016/08/20(土) 18:39:50

代体
代体
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山田 宗樹
KADOKAWA/角川書店 (2016-05-28)
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近未来、日本。そこでは人びとの意識を取り出し、移転させる技術が発達。大病や大けがをした人間の意識を、一時的に「代体」と呼ばれる「器」に移し、日常生活に支障をきたさないようにすることがビジネスとなっていた。
大手代体メーカー、タカサキメディカルに勤める八田は、最新鋭の代体を医療機関に売り込む営業マン。今日も病院を営業のためにまわっていた。そんな中、自身が担当した患者(代体を使用中)が行方不明になり、無残な姿で発見される。残される大きな謎と汚れた「代体」。そこから警察、法務省、内務省、医療メーカー、研究者……そして患者や医師の利権や悪意が絡む、壮大な陰謀が動き出す。意識はどこに宿るのか、肉体は本当に自分のものなのか、そもそも意識とは何なのか……。科学と欲が倫理を凌駕する世界で、葛藤にまみれた男と女の壮大な戦いが始まる!


人間の躰の中から意識だけを取り出して、代体に移転させ、躰を治療している間、意識だけは日常生活を送ることができる。想像するのは難しいが、過酷な治療を受けなければならない人にとっては、福音と言ってもいいのかもしれない。だがそれも、医療の現場で利用される場合に限ってのことである。個人の野望にその技術が使われるとなると、考えるだに恐ろしい。そして、一度開発されてしまった技術が、正当な事由以外のところにまで派生していくのを止めることができないということは、現在の状況に鑑みても間違いないことだろう。実際にありそうで恐ろしい。ただ、人間的な情が、計算し尽くされた策謀の綻びの元になるラストには、ちょっぴりほっとさせられる。計算ずくでは測れないのが人間だと改めて思わされる一冊でもある。

百年法 上下*山田宗樹

  • 2013/05/16(木) 16:54:59

百年法 上百年法 上
(2012/07/28)
山田 宗樹

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原爆が6発落とされた日本。敗戦の絶望の中、国はアメリカ発の不老技術“HAVI”を導入した。すがりつくように“永遠の若さ”を得た日本国民。しかし、世代交代を促すため、不老処置を受けた者は100年後に死ななければならないという法律“生存制限法”も併せて成立していた。そして、西暦2048年。実際には訪れることはないと思っていた100年目の“死の強制”が、いよいよ間近に迫っていた。経済衰退、少子高齢化、格差社会…国難を迎えるこの国に捧げる、衝撃の問題作。


西暦2048年からの日本共和国での出来事である。夢物語のような不老不死が現実のものとなった世の中で、人は何を思って日々を暮すのだろうか。いいこと尽くめでないことは容易に想像がつくが、緩やかな死と直面することのない人々は自分とどう向き合っていけばいいのだろうか。上巻にはまだ何の解決策も示されてはいないが、それは下巻で示されるのだろうか。それとも加速度的に悪い方向へとなだれ込んで行ってしまうのだろうか。早く下巻を読みたい一冊である。


百年法 下百年法 下
(2012/07/28)
山田 宗樹

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不老不死が実現した社会。しかし、法律により100年後に死ななければならない―“生存制限法”により、100年目の死に向き合うことになった日本。“死の強制”をつかさどる者、それを受け入れる者、抗う者、死を迎える者を見送る者…自ら選んだ人生の結末が目の前に迫ったとき、忘れかけていた生の実感と死の恐怖が、この国を覆う。その先に、新たに生きる希望を見出すことができるのか!?構想10年。最高傑作誕生。


アメリカによる驚愕の研究結果によって、日本共和国が生き残るために取るべき施策が浮かび上がる。現役世代の共感を得るのは至難であろうと思われる施策だが、紆余曲折の末に大統領代行の座についた遊佐の果断により、極端とも言える施策が国民に発表され、国民投票に委ねられることになるのである。その結果は…。そして、上巻ではユニオンに属する一女性・蘭子の息子であるだけだった仁科ケンが、下巻ではどんどん存在感を増してくる。降ろうか処置を受けていない彼が未来への希望になるとは、なんという皮肉だろうか。生きるということ、老いるということ、国を治めるということ、などなど…。さまざまなことを考えさせられた一冊だった。

乱心タウン*山田宗樹

  • 2011/08/21(日) 14:28:20

乱心タウン乱心タウン
(2010/03)
山田 宗樹

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超高級住宅街の警備員・紀ノ川康樹、26歳。薄給にもめげず、最上級のセキュリティのために、ゲートの監視と防犯カメラのチェック、1時間に1回の敷地内パトロールを行う。住人たちは、資産はあるだろうが、クセもある人ばかり。だが、康樹は今の仕事に誇りを持っている。ある日、パトロール中に発見した死体を契機に、康樹は住人たちの欲望と妄想に巻き込まれていく―。


複雑な読後である。空想物語と笑って愉しむには人間の自我の醜さがリアルすぎる。それになにより初めから不気味に隠密裏に進められている陰謀の内容が、2011年の現在では冗談では済まされない現実味を帯びてしまっているからでもある。(本作が出版されたのは2010年3月である。)著者も驚いていることだろう。某知事の震災後の天罰発言を思い出させられもして――著者の意図するところではまったくないだろうが――、なんとも言えない重い気持ちにさせられるのである。ただ、大多数の一般庶民にしてみれば、胸のすく展開であることも間違いいない。ガードマンの康樹に肩入れしながら、庶民の心意気を満足させるのである。本作では超高級住宅街・マナトキオは3mの壁に囲まれているのでわかりやすいが、物理的な壁がないところでも実際にありそうなことである。壁が目に見えないだけかえって始末が悪いかもしれない。康樹と景子のこれからだけが唯一の救いである。刊行直後に読めば感想も違ったと思うが、現在だからこそ読後どんよりとしてしまう一冊。

ジバク*山田宗樹

  • 2008/04/12(土) 16:22:51

ジバクジバク
(2008/02/22)
山田 宗樹

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女は哀しくも恐ろしく、 男はどこまでも愚かだった。 押し寄せる衝撃と感動。 残酷なまでに転落し続ける人生を描く、書き下ろし長編小説。

外資系投資会社のファンドマネージャー、麻生貴志は42歳。年収2千万を稼ぎ、美しい妻・志緒理と1億4千万のマンションを購入する予定を立てていた。自らを“人生の勝ち組”と自認する貴志は、郷里で行われた同窓会でかつて憧れた女性ミチルに再会する。ミチルに振られた苦い過去を持つ貴志は、「現在の自分の力を誇示したい」という思いだけから、彼女にインサイダー行為を持ちかける。大金を手にしたミチルを見て、鋭い快感に似た征服感を味わう貴志。だがそれが、地獄への第一歩だった……不倫、脅迫、解雇、離婚。 勝ち組から滑り落ちた男は、 未公開株詐欺に手を染め、 保険金目的で殺されかけ、 事故で片脚を切断される。 それでも、かすかな光が残っていた――。


坂道を転げ落ちるように加速度的に転落していく人生が描かれているので、『嫌われ松子』の男性版、とも言われる本作であるが、暗さ・惨めさ・悲惨さで言えば、圧倒的に松子に軍配が上がるだろう。というのも、松子の転落が、男に頼ったがためという要素が強かったのに比べて、本作の麻生の場合は、すべて身から出た錆であるというのが大きいからではないだろうか。
それでも、はじめのほんの小さな躓きが、こうも加速度的な悪循環を引き起こすきっかけになるのだということは、面白いようによく判って、一気に読み終えた。
物語の筋には直接関係のない細部まで――たとえば、交通誘導員の仕事の難しさとか、人間が歩くことができる機能の複雑さなど――丁寧に書かれていて、それもとても興味深かった。

タイトルの「ジバク」は冒頭に登場する核爆弾としてのラジカセが象徴するように「自爆」であり、またプライドに囚われたゆえの「自縛」でもあるのだろう。

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直線の死角*山田宗樹

  • 2007/05/02(水) 17:19:48

☆☆☆☆・

直線の死角 直線の死角
山田 宗樹 (2003/05)
角川書店

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注目の作家・山田宗樹の第18回・横溝正史賞受賞作、待望の刊行!!

企業ヤクザの顧問を務める弁護士・小早川の事務所に、あらたな事務員として紀籐ひろこが採用される。その当時、小早川事務所は二件の交通事故の弁護を同時に引き受けていた。一件は謝罪の意思の無い加害者の弁護。もう一件は死亡現場に警察の見つけていない証拠の残された事件であった。素人同然のひろこは難航していた二件の糸口を見つけだす。才能あるひろこに次第に惹かれていく小早川であったが、身元を調査した結果は…。究極の女性を好きになった男の深き苦悩と愛情の物語。


まずキャラクターの設定に惹きつけられる。正義の味方とはお世辞にも言えないが一家言ある弁護士の小早川、彼が顧問を務めるヤクザ企業の社長・永田、そして パート事務員として小早川弁護士事務所に新しく雇われた紀藤ひろこなど。それぞれがそれぞれにいい味を出している。
そして、交通事故の被害者と加害者からの別々の依頼がたまたま重なったという設定も自然で無理がなく、しかも互いを補い合って見事である。
内容紹介では、愛情物語のように書かれているが、ロマンスの味付けはあるものの、ミステリとしての謎解きの愉しみもたっぷりと味わえる。

ランチブッフェ*山田宗樹

  • 2007/03/24(土) 19:31:12

☆☆☆☆・

ランチブッフェ ランチブッフェ
山田 宗樹 (2006/06)
小学館

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信子、38歳、専業主婦。特に生活に不満はないけれど…。ランチのひとときに浮かび上がる女たちの人生模様を描いた表題作ほか、笑い・涙・恐怖・切なさ満載の短編全6話を収録。『文芸ポスト』ほか掲載を単行本化。


表題作のほか、「二通の手紙」「混入」「電脳蜃気楼」「やくそく」「山の子」

「怖さ」「痛さ」ということを思わされる物語たちだと思う。一読、恐ろしいと思うものもあるが、一見やさしい顔をしているものも、するりと通り抜けることのできないなにかしらの恐ろしさや痛さを内包している。
表題作など、そのタイトルの平穏さに惑わされて読み進むと、ずんずん胸が痛くなってくる。だがこの痛さは病みつきになりそうでもあるのが怖い。

ゴールデンタイム*山田宗樹

  • 2006/09/05(火) 17:23:32

☆☆☆・・

ゴールデンタイム―続・嫌われ松子の一生 ゴールデンタイム―続・嫌われ松子の一生
山田 宗樹 (2006/05)
幻冬舎

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歩き続けていく。
素晴らしい明日があることを信じて――。

伯母である川尻松子の惨殺死から四年。松子の甥・川尻笙は、大学は卒業したが就職をすることもなく、将来への不安を抱きながら、東京でその日暮らしの生活を送っていた。しかし偶然知り合ったユリとミックの舞台演劇に対する熱い思いに触れ、笙も芝居の魅力へ強く惹かれていく。一方、自らの夢だった医師への道を着実に歩んでいた笙の元恋人・明日香は、同級生であり恋人の輝樹からプロポーズされ、学生結婚への決意を固め始めていた。だが両者が人生の意味を考えた時、思わぬ出来事が二人の未来を変えていく・・・・・。

松子の‶生"を受け継ぐ二人の青春を爽やかに描き、熱く心を揺さぶる青春小説の大傑作、誕生!
  ――帯より


東京でその日暮らしをする笙と、佐賀で医大生としてがんばっている明日香の日々が、章ごとに繰り返され、最後に四年ぶりに二人が顔を合わせ、別れてそれぞれの道を再び歩き出す。
松子伯母さんの生涯があまりに波乱万丈で圧倒的だったこともあり、まだ若い笙と明日香の人生の悩みは それぞれに真剣で壮絶なのだが、あまりにも普通に見えてしまうのは仕方がないことなのだろう。
続・嫌われ松子の一生、とするにはあまりに普通の青春物語な気がしなくもない。

聖者は海に還る*山田宗樹

  • 2006/04/09(日) 17:18:38

☆☆☆☆・



とても面白かった。惹き込まれるように読んでしまった。
題材は人の心を癒し導くカウンセラーという 現代になって益々望まれ欠くことのできない存在である。

19年前のある日、カウンセラーの別宮の元をひとりの母親が訪れた。十一歳の息子が、猫を殺しナイフで腹を裂いて内蔵を引きずり出すことをくり返すので、何とか止めさせてもとの素直な息子に戻してはもらえないだろうか、というのが相談の内容だった。そしてそれから少年とのセッション(カウンセリング)がはじまったのだった。

そして現在、中高一貫の進学校・陵光学院の中学部三年B組で、ある日生徒が担任教師を銃で撃ち、自らもその場で自殺するというショッキングな事件が起こる。生徒や教師たちの事件後の精神状態を慮って校長はスクールカウンセラーを置くことにした。比留間亮というそのカウンセラーは着実に生徒のみならず教師たちの心をも癒し、みなに慕われてゆくのだったが。

はじめのうちは少年の治療の様子と、陵光学院の様子が交互に描かれ、どこでどう関連しているのかと興味をそそられるのだが、あるとき、ぴったりと符牒が合うようにひとつに繋がり、ぞくりとさせられる。そしてその後の切なさは言いようがない。
人の心を扱う難しさと、そもそも人の心自体の難しさを思い知らされるようである。待っている律と拓郎と生まれてくる赤ん坊のところに、いつか彼が戻ってくることを祈らずにいられない。

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天使の代理人*山田宗樹

  • 2005/11/26(土) 14:19:33

☆☆☆☆・



 望まれない命はありますか?
 子供の命は誰のものですか?
 中絶は殺人ではないですか?

 『嫌われ松子の一生』の著者が再び生命の尊さを描いた
 深く胸に響く衝撃作、書き下ろし!!

 平成3年、生命を誕生させるはずの分娩室で行われた後期妊娠中絶。
 数百にのぼる胎児の命を奪ってきた助産婦・桐山冬子がその時見たものは、
 無造作に放置された赤ん坊の目に映る醜い己の顔だった。
 罪の償いのため生きていくことを決意する冬子。
 その日から決して声高に語られることのない、生を守る挑戦が始まった。

 平成15年。
 冬子は助産婦をしながら“天使の代理人”という組織を運営していた。
 社会的地位を獲得することを目標に生きてきたものの、
 突然銀行でのキャリアを捨て精子バンクを利用して出産を決意した
 川口弥生、36歳。
 待望の妊娠が分った直後、人違いで中絶させられた
 佐藤有希恵、26歳。
 何も望まぬ妊娠のため中絶を考えたものの産み育てることを選んだ
 佐藤雪絵、20歳。
 それぞれの人生と、“天使の代理人”が交錯し、
 ひとつの奇跡が起ころうとしていた――。
         (帯より)


優生保護法の元、経営のためにお産よりも中絶を多く扱う病院があり、快楽を求めた挙句あまりにも簡単にに中絶手術を受けようとする人々がいる。
胎児を命ある一個の人間とみなさず、虫歯か腫瘍のように扱いその思いを忖度せずにないものとする人々がいる。
そんな医療の現場にあって、自らも何百という命を断つことに手を貸してきた桐山冬子が、いたたまれない償いの気持ちから著し自費出版した一冊の本『天使の代理人』から物語ははじまった。
中絶しようと病院を訪れた女性の元に“天使の代理人”と名乗る中年女性が現われ、中絶とはどういうことか、今の胎児の状態はどんな風かを話し、中絶を思いとどまらせようとする ということが密かにあちこちで行われていた。桐山冬子はまったく知らないことだったのだが・・・・・。

助産師として妊産婦のケアをする――のちには“天使の代理人”の役割も負いながら――桐山冬子の側と、中絶しようとする女性たちの側の事情が交錯しながら物語りは進んでいく。そしてそこに患者の取り違えで心から望んだ妊娠を中絶させられた佐藤有希恵と、取り違えの相手で “天使の代理人”の説得で中絶をキャンセルした佐藤雪絵とのありえないような、けれど心温まる物語が絡められている。
妊娠中絶の是非にひとつの明確な答えが出たわけではないのだが、最後の数ページは特にじんと胸に迫るものがある。

嫌われ松子の一生*山田宗樹

  • 2005/09/29(木) 17:17:25

☆☆☆☆・



 九州から上京し二年目の夏を迎えた大学生・川尻笙は、
 突然の父の訪問で三十年以上前に失踪した伯母・松子の存在と、
 その彼女が最近東京で何者かに殺されたことを知る。
 松子の部屋の後始末を頼まれた笙は、
 興味本位から松子の生涯を調べ始める。
 それは世間知らずの彼にとって凄まじい人生との遭遇だった。
 殺人歴を持つ男やかつての友人との出会いを経て、松子が聖女ではなく
 小さな幸せを求め苦闘した生身の女性であったことに気づいていく笙。
 いつしか彼は、松子の彷徨える魂を鎮めるために、
 運命の波に翻弄されつづけた彼女の人生の軌跡を辿っていく――。

                              (見返しより)


嫌われ松子というタイトルから、松子という女性はどれほど人々に忌み嫌われたのだろうかと思って読みはじめたのだが、その実、松子のことを心底嫌った人は一人もいなかったのではないかと思わせられた。
その晩年こそは周囲の人に得体の知れない薄気味悪さを感じさせていたかもしれないが、波乱万丈の人生のときどきでは憧れられ、求められ、愛されてさえいたのである。それならばなぜ著者はこんなタイトルをつけたのだろう。
思うにそれは、松子自身の胸の裡の切なく狂おしい想いだったのではないのか。
病弱な妹を第一に可愛がり、自分のことをほとんど省みなかった――と松子には思われた――父に、好かれたいのに、何をどうしても好かれないばかりか、良かれと思うことがどんどん悪い方に転がり泥沼に入り込み、父を落胆させる道ばかり歩んでしまう己自身を哀れむ気持ちの表れなのではないだろうか。

松子の歩いてきた人生と、笙が調べまわる松子の生き様とが交互に描かれ、どうして松子はここまで哀しい一生を送らなければならなかったのかと、どこか歯車の食い違った一瞬へ彼女を連れ帰ってやりたい想いにかられるのである。

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