フランダースの帽子*長野まゆみ

  • 2016/03/13(日) 06:49:55

フランダースの帽子
フランダースの帽子
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長野 まゆみ
文藝春秋
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ポンペイの遺跡、猫めいた老婦人、白い紙の舟…。不在の人物の輪郭、欠落した記憶の彼方から、おぼろげに浮かび上がる六つの物語。たくらみに満ちた短篇集


著者らしい怪しさに満ちた物語たちである。読み流していると、あるところから急に見える景色ががらりと変わる。そして、姉と弟の組み合わせの多いこと。しかも、一筋縄ではいかない現れ方でもあるので、騙されずにはいられない。判ったときには、なるほど、となる。たしかに企みに満ちた一冊である。

冥途あり*長野まゆみ

  • 2015/08/25(火) 18:47:19

冥途あり
冥途あり
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長野 まゆみ
講談社
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川辺の下町、東京・三河島。そこに生まれた父の生涯は、ゆるやかな川の流れのようにつつましくおだやかだった―。そう信じていたが、じつは思わぬ蛇行を繰り返していたのだった。亡くなってから意外な横顔に触れた娘は、あらためて父の生き方に思いを馳せるが…。遠ざかる昭和の原風景とともに描き出すある家族の物語。


「冥途あり」 「まるせい湯」

「冥途あり」は、思い出語りをしているように家族や親類とのあれこれが淡々と綴られ、まるでエッセイのような印象である。生きている間に知ることのなかった父親の姿が、懐かしい昭和の風物とともに立ち上がってくる。記憶にある出来事のひとコマの背後に在った事々が、不思議な感慨とともに明らかにされ、さまざまなことが腑に落ちたりもするのである。それに比べて「まるせい湯」は、ペテン師の素質がありそうな双子の従兄弟のせいもあり、どこまでが真実で、どこからが作り事なのか、従兄弟の話を聴きながらも定かではない。その証が立てられないとらえどころのないもどかしさで、夢の中にいるような不思議な心地にさせられる。見たこともない家族の末席にいつの間にか連なっているような心地の一冊である。

兄と弟、あるいは書物と燃える石*長野まゆみ

  • 2015/08/16(日) 06:56:46

兄と弟、あるいは書物と燃える石
長野まゆみ
大和書房
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その家とその本は、何を隠しているのか──?猫の住む家に集う人々とカルト的人気の小説を幾重にも取り巻く甘美な罠。謎に満ちた物語。


読みはじめ、中盤、終盤と、開くページによって全く様相が変わってしまう物語である。物語は大きな一本の樹ではあるのだが、枝葉はまったく別の顔をしている。プレゼントをもらってリボンを解き、箱を開けるとまたそこには少し小さな別の箱があり、それはそれでとてもきれいで、手にとって開けるとまたその中には別の箱が……、というくらくらするような心地になる。ひとつの事実を知るたびに、頭の中を整理し、新たな筋道を探ろうとするのだが、次の角を曲がると予想もしなかったことが待っている。一体誰が実存で、誰が虚構なのか。そもそもどれが事実でどれが妄想なのか。考えれば考えるほどわからなくなるのだが、とても静かで穏やかな一冊でもあるのが不思議である。

団地で暮らそう!*長野まゆみ

  • 2014/05/18(日) 11:09:18

団地で暮らそう!団地で暮らそう!
(2014/03/15)
長野 まゆみ

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築50年の団地に移り住んだ平成の青年・安彦くん。間取り2K、家賃3万8000円。いま、めぐりあう不思議な“昭和”。なつかしさいっぱい、謎いっぱい、著者初の団地小説!


昭和の団地レポートのような小説である。本作、読者の年代によって、印象も感想もずいぶん違ってきそうである。まさに憧れの団地生活をした世代や少しでも昭和の匂いを知っている世代にとっては、つつましいながらもしあわせで懐かしい思いに浸れるだろう。だが、平成以降に生まれ、戦後の復興期などまったく知らない世代にとっては、ただの団地レポートでしかないだろう。評価が分かれる一冊であるとは思うが、わたし自身は昭和の真ん中生まれなので、コーダン&コーシャ団地で暮らしたことはないが、懐かしい空気を満喫できて愉しい一冊だった。

ささみみささめ*長野まゆみ

  • 2013/11/01(金) 16:56:35

ささみみささめ (単行本)ささみみささめ (単行本)
(2013/10/10)
長野 まゆみ

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よく耳にするありきたりなひと言。しかしその言葉の裏にはじつに奇妙な物語が潜んでいるものだ。白昼夢のような短篇25篇が色とりどりにきらめき連なる小説集。


表題作のほか、「ああ、どうしよう」 「ちらかしてるけど」 「あしたは晴れる」 「行ってらっしゃい」 「おかけになった番号は…」 「ママには、ないしょにしておくね!」 「きみは、もう若くない」 「あなたにあげる」 「ウチに来る?」 「名刺をください」 「一生のお願い」 「ヒントはもう云ったわ」 「ありそうで、なさそうな」 「もう、うんざりだ」 「わたしに触らないで」 「ウチ、うるさくないですか?」 「ドシラソファミレド」 「すべって転んで」 「ここだけの話」 「スモモモモモモ」 「春をいただきます!」 「最後尾はコチラです」 「悪いけど、それやめてくれない?」 「こんどいつ来る?」

こうしてタイトルを並べただけでも、これからどんなお話が始まるのかとわくわくする。どれもこれも、どこででも聞こえてくるようなごくごくフツーのひと言である。それが著者の手にかかれば、意味深長なひと言に姿を変えるのである。タイトルも装丁も、なにやらやさしげであるが、粗挽きの胡椒がピリリと舌を刺すような、思わぬ落ちが待っている。贅沢な一冊である。

45°*長野まゆみ

  • 2013/04/19(金) 08:51:15

45°45°
(2013/03/29)
長野 まゆみ

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ビルから転落し、一時記憶喪失となった経験を持つ男。自らの事故の理由を知るため、その目撃者を捜し出したが……。謎が響きあう九つの物語。日常の風景に潜む不条理を描き、著者の新境地を示すスタイリッシュでミステリアスな最新連作短篇集。


表題作のほか、「11:55」 「/Y」 「●」 「+-」 「W.C.」 「2°」 「×」 「P.」

タイトルを一見しただけで、すでに狐につままれた心地である。これからどんな物語の中に連れて行かれるのか、そこはかとなく不安にもなる。そして、そんな気分を裏切られない物語たちだった。不思議、内向的、マイペース、運命、逆転、転換。そんなあれこれが渦巻いている。ラストに驚かされることも多い。そこはかとなく胸にもやもやが残る一冊でもある。

チマチマ記*長野まゆみ

  • 2012/12/18(火) 08:50:07

チマチマ記チマチマ記
(2012/06/27)
長野 まゆみ

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小巻おかあさんの家で飼われることになったチマキ、ノリマキの迷いネコ兄弟。複雑な関係だけど仲良しな大家族「宝来家」で、食事を一手に引きうけているのはおかあさんの息子・カガミさん。家族の健康を第一に、カガミさんは美味しくて身体にいい食事を黙々と作り続ける。もうひとつ、カガミさんが気になるのは、中学・高校の先輩で宝来家に居候している桜川くんの存在なのだが…。


初めに人物相関図が載せられているように、複雑な人間関係の宝来家である。だが、みんなさらりと明るく、前を向いて暮らしているので、つい複雑さを忘れてしまう。もともと迷い猫だったチマキとノリマキ兄弟の兄・チマキの目線で書かれているのが新鮮である。ずいぶんとお利口さんなのである。そして何といっても魅力的なのは、粽たちの飼い主・小巻さんの息子のカガミさんの作る料理である。みんなの健康を考え、あたたかい気持ちで丁寧に作られた料理はどれもとてもおいしそうで、カガミさんが語る薀蓄もとても役に立つことばかりで、すぐにでも実践したくなる。ちょっぴり切なくて、愛にあふれた一冊である。

野川*長野まゆみ

  • 2011/11/06(日) 17:00:49

野川野川
(2010/07/14)
長野 まゆみ

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両親の離婚により転校することになった音和。野川の近くで、彼と父との二人暮らしがはじまる。新しい中学校で新聞部に入った音和は、伝書鳩を育てる仲間たちと出逢う。そこで変わり者の教師・河合の言葉に刺激された音和は、鳥の目で見た世界を意識するようになり…。ほんとうに大切な風景は、自分でつくりだすものなんだ。もし鳥の目で世界を見ることが、かなうなら…伝書鳩を育てる少年たちの感動の物語。


とても好きな一冊である。期待以上に――と言ったら失礼極まりないが――素晴らしかった。著者の作品は好きなものが多いのだが、これはその中でもいちばんと言っていいほど心に添う物語だった。両親の離婚に伴う新生活に、表面上はともかく不安定に揺れ動く中学生の音和。転向先の中学で出会った国語教師・河井の型にはまらない親身の教えは音和の心をどれほど安定させ、未来を明るいものにしたことだろう。そして、新聞部のメンバーや鳩たち、ことに世話を任された飛べない鳩・コマメが、どれほど音和の助けになったことだろう。野川やその周辺の成り立ちや植生を淡々と描きながら、この物語はどれほど大切なことを伝えてくれるのだろう。しみじみと深く胸に届く一冊である。

デカルコマニア*長野まゆみ

  • 2011/07/04(月) 07:00:26

デカルコマニアデカルコマニア
(2011/05)
長野 まゆみ

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21世紀の少年が図書室で見つけた革装の古書には、亀甲文字で23世紀の奇妙な物語が綴られていた。200年後のあなたに届けたい、時空を超えた不可思議な一族の物語。


初めの数ページはもったいぶったようで、もうやめようかと思うほどだった。ただ、それがこの物語の持ち味だということもわかったので、もう少し堪えて読み進めることに。基本的には「デカルコ」(よく知られた言葉で言えばタイムマシンである)で、20世紀から23世紀の時空を行き来する一族の物語なのだが、その時代その時代で展開される物語がまたそれぞれに複雑に絡み合っているので、混乱することこの上ないのである。むずかしい。だが、読み進めるうちに次第に法則(のようなもの)がわかってくると、ははぁこの人物はおそらくあの人物と・・・・・・というのがうっすらと見えてくるので読み解く愉しみも出てくるのである。それにしても、250年に亘る物語なので登場人物も多いのだが、ほんとうのところは一体何人出てきたのだろう。思いのほか少ないことは確かである。デコラティブな飾り文字でかかれた暗号のような一冊である。

咲くや、この花 左近の桜*長野まゆみ

  • 2009/08/30(日) 16:31:36

咲くや、この花  左近の桜咲くや、この花 左近の桜
(2009/03/27)
長野 まゆみ

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春の名残が漂う頃、「左近」の長男・桜蔵のもとに黒ずくめの男が現れて、「クロツラを駆除いたします」という怪しげな売り込みのちらしを置いていった。数日ののち、離れに移ってきた借家人の骸が押し入れから転がり出た。そこへくだんの男が現れて言うには、クロツラに奪われたタマシイを取り戻せば息を吹きかえすと…。魂を喰う犬を連れた男、この世の限りに交わりを求める男、武蔵野にたたずむ隠れ宿「左近」の桜蔵を奇怪な出来事が見舞う…。夢と現が交錯する蠱惑の連作小説シリーズ第二作。


シリーズ一作目は『左近の桜』。未読である。
「迷い犬」 「雨彦(あまひこ)」 「白雨(ゆうだち)」 「喫茶去(きっさこ)」 「ヒマワリ」 「千紫(せんむらさき)」 「髪盗人」 「雪虫」 「灰かぶり」 「黒牡丹」 「梅花皮(かいらぎ)」 「桜守」

看板も軒行灯も出さず、少々ワケアリな商いをしている宿・左近の物語である。桜蔵(さくら)は、ここの長男だが、その生い立ちも少々ワケアリである。そのせいか、この世ならぬ妖しいものを惹き寄せる性質であるらしい。
そんな桜蔵が出会い、取り憑かれ、惹きこまれる妖しいひずみのような世界が描かれている。著者らしい妖しさ全開の一冊である。

カルトローレ*長野まゆみ

  • 2008/05/23(金) 17:12:20

カルトローレカルトローレ
(2008/04)
長野 まゆみ

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謎の航海日誌カルトローレ。キビ色の沙地の白い家で暮す私の仕事は、「船」にあった109冊の日誌を解読することだった…。作家生活20周年の新境地が白い世界に拓かれる記念碑的作品。


過去なのか未来なのか、どこの国のどこの場所なのか、特定することはとても難しく、そして特定することに意味はない。
「船」を降りて適応化のために、沙獏のとある自治区で航海日誌の解読という仕事を与えられたタフィの語る物語。夢のなかの出来事のような、はるか昔の昔語りを聞かされているような、それでいてなにか未来の鍵を握る大切なことを仄めかされているような、不思議な心地のする物語である。
著者の言葉の選び方や、文字の表記の仕方にたいするこだわりや丁寧さが、物語の雰囲気をいっそう懐かしさあふれるものにし、それでいて焦がれるように追い求めさせもするのである。
ひとりのエトランゼとして、物語のなかに紛れ込んだような心地にしてくれる一冊である。

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コドモノクニ*長野まゆみ

  • 2007/08/07(火) 13:12:41

☆☆☆☆・

コドモノクニ コドモノクニ
長野 まゆみ (2003/04)
河出書房新社

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「これから三十一年たつと 二十一世紀になるんだって」

「マボちゃんは、何になりたいの。なりたい仕事があったら、黙ってるのよ・・・・・
誰にも云わないでいると、きっと希みが叶うわよ」

チロリアンテープ、四つ葉のクローバー、ギンガムチェック、フィンガービスケット、万博、新幹線・・・・・
“未来”があった時代の子どもたちが甦る待望の連作小説。


「小鳥の時間」「子どもだっていろいろある」「子どもは急に止まれない」の三章からなる。

最初から最後までエッセイだとばかり思って読んでいたのだが、読み終えて帯を読むと「連作小説」とあってびっくり。小説だったのだ。
だが、著者とほぼ同年代のわたしにとっても、ここに書かれていることは懐かしく思い出されることが多く、漠然とだったにしろいろいろな未来が疑いようもなく開けていたあのころが甦ってくるのだった。まるで色や匂いや手触りまでもがあの時代そのままで、自分が子どもにかえって物語の世界にいるような心地になった。

となりの姉妹*長野まゆみ

  • 2007/07/27(金) 11:00:46

☆☆☆☆・

となりの姉妹 となりの姉妹
長野 まゆみ (2007/03/23)
講談社

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懐かしい場所に、いちばん大切なものがある。
ある日、庭から発見された蛇の石の意味は?
家と家、人と人にまつわる不思議の縁、幼いときの記憶と「今」を結ぶ秘密の架け橋。長野まゆみの新境地を拓く新作長編小説!
姉妹はふたりともいい年頃だ。器量はそこそこで、化粧をすれば美人で通る。

……神童だったわが家の兄が今のような風来坊になったのは、自転車で塾へ向かう途中で雷に撃たれたからだと云う人がある。運よくかすり傷だったものの、3日ほど寝こみ、そのあとで以前とは別人のような性格になった。でたらめな話だが、近所のうわさとはそんなものだ。<本文より>


ごく普通の日常生活が描かれているのにものすごく不思議で、不思議なことだらけなのにとっても日常的な物語。梨木香歩さんのわくわくする不可思議さと北村薫さんの日常の謎のたのしさを併せ持ったような一冊。
キーワードのひとつに「しりとり」があるが、不思議なにおいのするこの絡まりあった物語のなかで、登場する物も人もぐるりとひとめぐり繋がっているのが最後になってストンと腑に落ちる。なぁんだ可笑しなことはまったくなかったんじゃないか・・・と。

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上海少年*長野まゆみ

  • 2007/07/25(水) 18:34:27

☆☆☆☆・

上海少年 上海少年
長野 まゆみ (1995/11)
集英社

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潮の匂いと異国の香り。波止場にたたずむ人々。少年の待ち人は、いつまでたっても現われなかった…。表題作「上海少年」ほか「満天星」「雪鹿子」など全5篇を収載した作品集。


上記のほか、「幕間」「白昼堂々」

世の中に慎みとか恥じらいとかいうものがまだまだ重んじられていた時代の匂いを感じさせる物語たちである。それでいて、そんな囲いをひょいと飛び越えてしまった人びとが描かれてもいる。背景がそんな時代だからこその胸の高鳴りもあるのかもしれない。
著者独特の文字遣いが、隠されたものを陽の下にさらしたくなる衝動を描く助けになっているようにも思われる。

メルカトル*長野まゆみ

  • 2007/07/19(木) 21:19:07

☆☆☆☆・

メルカトル メルカトル
長野 まゆみ (2007/04)
大和書房

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「あなた、自分に値段をつけたことある?」「…値段?」「そう。自分の値打ちがどのくらいかってこと」 地図収集館で働く青年リュスの周囲で次々と起こる不可思議な出来事。地図をめぐるロマンティック・ストーリー。


リュスは両親も本当の自分の名前も知らずに救済院で育った孤児である。高校を17歳で飛び級で卒業し、育った街を出てミロナの地図収集館に勤めはじめたのだが・・・・・。
ずいぶんたくさんの登場人物が入れ替わり立ち代りリュスのいる舞台上に現れては彼に関わっていくのだが、最後まで読んで、実際のところ登場人物は何人いたのだろう と思わず指を折ってしまうのだった。
地味で変わり映えのしない日常に地図がもたらしたちょっとした不思議。そしてそれが行き着いたところは自分自身の原点とも言えるところだったのだ。まるで物語り全体がリュスのための地図のようである。