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憑神*浅田次郎

  • 2020/05/02(土) 13:34:40


時は幕末、処は江戸。貧乏御家人の別所彦四郎は、文武に秀でながら出世の道をしくじり、夜鳴き蕎麦一杯の小遣いもままならない。ある夜、酔いにまかせて小さな祠に神頼みをしてみると、霊験あらたかにも神様があらわれた。だが、この神様は、神は神でも、なんと貧乏神だった!とことん運に見放されながらも懸命に生きる男の姿は、抱腹絶倒にして、やがては感涙必至。傑作時代長篇。


文武両道に秀でており、人柄も申し分ないのに、不運につきまとわれているような彦四郎だが、ある日、河原で朽ちかけていた祠に手を合わせたばかりに、さらに厄介なものに憑かれてしまう。貧乏神、疫病神、死神、という何とも豪華な(?)ラインナップであるが、これがなんとも人情味があって微笑ましかったりもしてしまうのだが、災厄はしっかり身に降りかかり、難儀する。ただ、宿替えなどという奥の手を使い、なんとかかんとか乗り越えていくのもまた一興。彦四郎のキャラクタの魅力と、周りの人たちの魅力、そして、時代の変化と武士の葛藤。さまざまなものが織り込まれて充実した一冊になった。

わが心のジェニファー*浅田次郎

  • 2016/02/14(日) 18:53:23

わが心のジェニファー
浅田 次郎
小学館
売り上げランキング: 27,492

浅田次郎が描く、米国人青年の日本発見の旅!

日本びいきの恋人、ジェニファーから、結婚を承諾する条件として日本へのひとり旅を命じられたアメリカ人青年のラリー。ニューヨーク育ちの彼は、米海軍大将の祖父に厳しく育てられた。太平洋戦争を闘った祖父の口癖は「日本人は油断のならない奴ら」。
日本に着いたとたん、成田空港で温水洗浄便座の洗礼を受け、初めて泊まったカプセルホテルに困惑する。……。慣れない日本で、独特の行動様式に戸惑いながら旅を続けるラリー。様々な出会いと別れのドラマに遭遇し、成長していく。東京、京都、大阪、九州、そして北海道と旅を続ける中、自分の秘密を知ることとなる……。
圧倒的な読み応えと感動。浅田次郎文学の新たな金字塔!


物心つく前に、両親が自分を捨てて離婚し、祖父母に育てられたラリーは、自分のアイデンティティにコンプレックスを抱えたまま、これまでの人生を過ごしてきた。そんな折、結婚しようと思っている日本贔屓の恋人ジェニファーに、「日本をその目で見て感じてきて」と言われ、単身、PCも携帯も持たず、ポジとネガのガイドブック二冊を携えて日本に乗り込んだのだった。さまざまなカルチャーショックを受けながら、日本各地を旅して歩くラリーの様子が、微笑ましくもあり、日本を再発見する喜びも与えてくれて、ラリーと一緒に旅を続ける気分になった。そして最後の地は、北海道の釧路である。途中何度か、「もしや?」と思わないではなかったが、運命の神様のなせるわざとしか言えないラストである。出来過ぎの感は無きにしも非ず、ではあるが、これでラリーも自信をもって自分の家族を作れることだろう。いろんな意味で興味深い一冊だった。

赤猫異聞*浅田次郎

  • 2013/04/05(金) 07:06:52

赤猫異聞赤猫異聞
(2012/08/30)
浅田 次郎

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鎮火後、三人共に戻れば無罪、一人でも逃げれば全員死罪。「江戸最後の大火」は天佑か、それとも――。火事と解き放ちは江戸の華! 江戸から明治へ、混乱の世を襲った大火事。火の手が迫る小伝馬町牢屋敷から、曰くつきの三人の囚人が解放された。千載一遇の自由を得て、命がけの意趣返しに向かった先で目にしたものは――。数奇な運命に翻弄されつつも、時代の濁流に抗う人間たち。激変の時をいかに生きるかを問う、傑作長編時代小説!


江戸から明治に移り変わる騒乱のなかで起こった火事騒ぎ。解き放たれた400の囚人たちの中に、いわくつきの三人がいた。繁松・お仙・七之丞、それぞれ重罪人でありながら、理不尽に絡め取られてもいる。鎮火後、三人ともに戻れば無罪、ひとりでも戻らなければ全員死罪、誰も戻らなければ鍵同心の小兵衛が腹を切る。鎮火の半鐘が鳴るまでの間の劇的な出来事がスリリングである。そして、時をおき、別々に違う人物があのときのことについて訊問される。そこで新たに明るみに出たことは、思いもよらない真実であった。涙あり、義理人情あり、憤りあり。ぞくぞくさせられる一冊だった。

アイム・ファイン!*浅田次郎

  • 2012/02/05(日) 16:59:38

アイム・ファイン! (小学館文庫)アイム・ファイン! (小学館文庫)
(2011/09/06)
浅田 次郎

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「鉄道員」で直木賞を受賞したベストセラー作家によるエッセイ集。
JAL機内誌「SKYWARD」人気連載中の旅エッセイ「つばさよつばさ」の単行本化第2弾です。
第1弾は2007年に単行本『つばさよつばさ』として刊行し、2009年10月に同名タイトルで小学館文庫より刊行。好評を博しています。
今作品も前作に引き続き旅をテーマにした一冊。ベストセラー作品『蒼穹の昴』の中国ロケで起きたこととは?(『西太后の遺産』)、
熊本で出会った""しろくま""の正体とは?(『しろくま綺譚』)など笑いあり、涙ありの浅田節が存分に描かれています。


その風貌から想像されるよりも、恥ずかしがり屋で小心で律儀な様子が微笑ましくもある。サービス精神も旺盛なようで、旅の企画はとても興味深い。どこを取っても浅田次郎がぎっしり、といった趣の一冊である。愉しい。

夕映え天使*浅田次郎

  • 2009/08/09(日) 16:37:51

夕映え天使夕映え天使
(2008/12)
浅田 次郎

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さびれた商店街の、父と息子二人だけの小さな中華料理店。味気ない日々を過ごす俺たちの前に現れた天使のような女・純子。あいつは線香花火のように儚い思い出を俺たちに残し、突然消えてしまった。表題作「夕映え天使」をはじめ、「切符」「特別な一日」「琥珀」「丘の上の白い家」「樹海の人」の6編の短篇を収録。特別な一日の普通の出来事、日常の生活に起こる特別な事件。


たしかに、「日常生活に起こる特別な事件」には違いないが、ただの特別とはひと味違う。
ひねり具合が絶妙で、仕掛けがわかったときには思わず唸ってしまう。特に『特別な一日』には驚かされたが、判って思い返すと、賦に落ちる場面がたくさんある。上手い。

あやし うらめし あなかなし*浅田次郎

  • 2008/07/30(水) 13:29:26

あやしうらめしあなかなしあやしうらめしあなかなし
(2006/06)
浅田 次郎

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日本特有の神秘的で幻妖な世界で、生者と死者が邂逅するとき、静かに起こる優しい奇蹟。此岸と彼岸を彷徨うものたちの哀しみと幸いを描く極上の奇譚集。名手が紡ぐ、懐かしくも怖ろしい物語。


「赤い絆」 「虫篝(むしかがり)」 「骨の来歴」 「昔の男」 「客人(まろうど)」 「遠別離」 「お狐様の話」

怪談と言ってしまってはこの妖しさは伝わらないだろう。妖しくなまめかしく不思議で、そして背筋が凍るような恐ろしさを秘めている。まさに奇譚の数々である。
ほんとうに起こったかもしれない出来事が淡々と語られていくのに耳を澄ませるうちに、背後から冷たい気配が忍び寄ってくるような心地の一冊である。

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天切り松闇がたり*浅田次郎

  • 2006/02/15(水) 12:02:56

☆☆☆☆・



今世紀最高のピカレスク文学
伝説の大泥棒が追憶する愛と涙の裏稼業!
  ――帯より


留置場に寝泊りさせることを条件に警察のマニュアル作りに貢献する、いまは引退している天切りの松こと松蔵老のひとりがたりの物語である。
松蔵は僅か9歳の時に、当時 その筋だけではなく世間に広く名を馳せた盗賊の一家に売られ、爾来盗賊――なかでも天切り――として生きてきたのであった。
天切りとは、屋根から邸内に忍び入り盗みを働く盗人の呼称である。

留置場の先客だけでなく看守や刑事たちまでもが、闇がたりという独特の語り口で来し方のあれこれを語る松蔵の話を聞きたがり、待ちわびているのがよくわかる。盗人ではあるが、半端な堅気者よりもずっと立派に筋を通すその生き様は感動的でさえあり、読者も留置場の彼らと共に引き込まれるように先を聞きたくなるほどの壮絶な人生模様なのだった。

草原からの使者*浅田次郎

  • 2006/02/04(土) 17:23:44

☆☆☆☆・



沙高楼綺譚

各界の名士が集う秘密サロン「沙高楼」。
世の高みに登りつめた人々が、人生の秘事をあかしあう。
  ――帯より

沙高楼にようこそ。今宵もみなさまがご自分の名誉のために、また、ひとつしかないお命のために、けっして口になさることのできなかった貴重なご経験を、心ゆくまでお話くださいまし。語られる方は誇張や飾りを申されますな。お聞きになった方は、夢にも他言なさいますな。あるべきようを語り、巌のように胸に(しま)うことが、この会合の掟なのです。  ――本文より


表題作のほか、宰相の器・終身名誉会員・星条旗よ永遠なれ。

女装の主人が迎える青山の高層ビルの最上階に沙高楼はある。
そこに集う人々は地位も名誉も兼ね備え 地上においては言い知れない苦労もしている人々なのである。しかし、ひとたびここ沙高楼に集ったからには、何も隠し立てする必要はなく、胸に仕舞って誰にも言えずにいた事ごとをありのままに語ることができるのだった。
この本のなかの四つの物語も、その夜の客人たちがそれぞれに語った物語なのだった。

もうとにかく面白かった。語る人も 語られる物語も、まさに実際にありそうでいて まさかと思わされるような事柄であるし、また、語り手の話し振りから その性格が窺い知れて ますます興味深くもある。
どの述懐の面白さにも甲乙つけがたいものがある。

地下鉄(メトロ)に乗って*浅田次郎

  • 2005/07/29(金) 07:11:18

☆☆☆・・

地下鉄(メトロ)に乗って 地下鉄(メトロ)に乗って
浅田 次郎 (1994/03)
徳間書店

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 ファイト!ファイト!!ファイト!!!
 すべての地下鉄通勤者に捧ぐ愛と冒険の傑作ファンタジー!


一代で名を成し財を成した暴君のような父に虐げられ反発しつづけた小沼真次が語る。
帯の惹句から想像したのとはちょっと趣が違ったが、恐ろしくもあり、また胸が温まる一冊だった。

小沼真次は兄が自殺したあと、父親に反発して家を出、小沼財閥を弟の圭三に任せて貧乏暮らしをしている。セールス品がちっとも売れずに、ふらふらと同窓会に出席してしまい、帰りの地下鉄の駅でかつての恩師 のっぺいこと野平先生と出会ったことが引き金になって過去の世界へと運ばれてしまう。
そこで出会った生きることに貪欲なアムールという若者は、なんと若かりしころの父だった・・・・・。
地下鉄の階段が過去のさまざまな時代への通り道となり、どの時代へ運ばれても真次は必然のように父と出会い、その生き様を目の当たりにするのである。
暴君とばかり思ってきた父の現在がどういう理由でここにあるのかを見せつけられた真次にとって、父は反発するだけの存在ではなくなっている。そしてその代償のように大切なものを失ってしまったことに気づくのである。
真次を過去へ運んだのは何だったのだろう。命を終えようとしている父の魂だったのか、それとも 一度たりとも父を認めようとしなかった真次自身の後ろめたさだったのだろうか。
地下鉄(メトロ)はきょうも人生を運ぶ。

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霧笛荘夜話*浅田次郎

  • 2005/05/05(木) 20:51:17

☆☆☆・・


港の桟橋を渡ると否応なくたどり着いてしまう不思議な佇まいのアパート・霧笛荘。
その大家である 小柄な中国人の老女・太太が語る 過ぎ去りし霧笛荘の日々と、その日々を織りなした6人の住人たちのこと。

わけありの暮らしの果てに霧笛荘にたどり着いた人々は、奇妙な形のおんぼろアパートにお金では購えない何かを得たのだ。
バラバラな人々の奇妙だがあたたかいつながりは、地上げ屋でさえ解くことは出来なかったのだ。
けれど、それを思い出として語らなければならない太太の胸の裡はいかばかりであろうか。

霧笛荘へと続く橋は傷を癒してくれる異界・ある種 お伽の国の架け橋だったのかもしれない。

オー、マイ、ガアッ!*浅田次郎

  • 2004/09/14(火) 18:13:57

☆☆☆・・


 クスブリ人生、一発逆転。
 舞台はラスベガス。取り戻すのは己の(ほこ)り!
 浅田次郎のパワー全開、笑いと涙のテンコ盛り!

 日本史上最大のお気楽男、
 ファッション・メーカーの共同経営者にだまされ
 彼女にも逃げられた正真正銘のバカ、大前剛47歳。
 元スーパー・キャリア・ウーマン、
 現ラスベガス・ブールヴァードのコール・ガール、
 肉体以外のすべてを捨てた梶野理沙32歳。
 ベトナム戦争末期の鬼軍曹も、いまはただの飲んだくれ、
 エリートの妻に捨てられたジョン・キングスレイ――
 が、スロット・マシンで史上最高のジャック・ポットを出しちまった!
 だが・・・・・。
 謎の老婆に若き石油王、元マフィア父子にヒットマンetc。
 爆笑のうちに、人生はルーレットのごとく回転し、そして!
 著者会心の、勇気百倍正調喜劇。

                           (帯より)


まことに可笑しくも哀しいドタバタ喜劇である。登場人物の名前を一見しただけでも充分に予測できるのだが。
だが 無防備にげらげらと笑い転げていると 物語のあちこちに人生訓とも言うべきものが――決して説教臭くはないのだが――散りばめられていることに気づく。それに気づいて 今度はなにやらしんみりとした心持ちになるのである。
ラスベガス...行ってみたくなった。

王妃の館 上下*浅田次郎

  • 2004/06/20(日) 08:27:54

☆☆☆☆・


 俺とカフェ・オ・レ。なーんちゃって。
 浅田次郎、ブッちぎりのお笑い人情巨編、ついに登場!

                           (帯より)

どんなドタバタ抱腹絶倒の展開が待ち受けているのかと お笑いモードにスイッチを切り替えて臨んだのだった。
たしかに 設定はこれ以上ないほどのドタバタ劇、しかもクサイ芝居なのである。舞台も登場人物も筋立ても__。

なのに 涙は 抱腹絶倒笑いの涙ではなかった。じんわりと何度も目の前をぼやけさせたのは 作者お得意の人情のすばらしさのせいだった。
コメディの究極はこれなのだと思う。馬鹿話で笑わせるだけではなく 人生の縮図をひとつの舞台に乗せ、笑いの裏にある涙を思わせること。
歴史の重みと舞台装置の壮大さも併せて味わえるのだから なんともお得な一冊である。

椿山課長の七日間*浅田次郎

  • 2004/02/05(木) 12:44:29

☆☆☆・・


死後 人間は この世でも極楽でもない【中陰役所】なる場所で そのまま極楽へ行くか 現世での罪を反省して極楽へ行くか それ相応の理由によって現世に逆そうされれるかを審査される。
この物語は ここで 逆送を果たした三人の現世での行動のリポートである。
但し、生きていた頃とは真逆のキャラクターで蘇り 期限は死んだ時からきっちり七日間。
設定からして コメディタッチなのだが 心に染みるあれこれは やはり浅田流。

ほのぼのと温かい涙を流しつつ読了。
やっぱり正直に生きるのがいちばん!と肝に銘じる。

薔薇盗人*浅田次郎

  • 2004/01/06(火) 21:16:22

☆☆☆・・


表題作を含む 6つの短編集。

華やかな表舞台には一生立つことがないであろう やるせない人生を歩むやるせない人々を書かせたら 浅田さんに敵う者はいないだろうと思う。
そんな人々が登場する物語たちである。しかし 日の当たらない路地裏のような人生でも 一生懸命生きている人々がいて じんゎり束の間温もるような 人情がある。そのことが またやるせなさを増し 鼻の奥をツンとさせるのである。

そんな中にあって 表題作の『薔薇盗人』は少し趣の変わった作品と言える。
キーワードは【子供の無邪気さは時として残酷さである】
この作品でやるせないのは ダディの胸の中であろうか。

活動寫真の女*浅田次郎

  • 2003/10/23(木) 19:53:23

☆☆☆・・   活動写真の女

昭和四十四年の京都を舞台にした恋愛小説。
と 言ってしまうには あまりにも 日本映画全盛期の色の濃い作品。
時代は昭和であっても 昭和に生きる登場人物たちは
古き良き日本映画の時代を生きているかのよう。
実際(?)昭和に現われた 薄幸の美人女優 伏見夕霞によって
賑やかな映画時代に連れ戻されたのかもしれない。

それにしても 昭和四十四年 という時代からさえも ずいぶんと遠くに来てしまったものだと 筋違いな感慨を覚えてしまったりもする。