私の幽霊 ニーチェ女史の常識外事件簿*朱川湊人

  • 2016/12/30(金) 06:55:17

私の幽霊 ニーチェ女史の常識外事件簿
朱川湊人
実業之日本社
売り上げランキング: 239,339

人が知ってることなんて、
ほんのちょっとだけなんだよ。

なぜ私の幽霊が目の前に――!?
怪しき博物学者と解き明かす超常現象の謎。
あなたはその真相に涙する。

故郷に住む高校時代の同級生聡美から「あなたの幽霊を見た」と告げられた“ニーチェ女史"こと雑誌編集者・日枝(ひえ)真樹子。
帰郷して幽霊が出たという森の近くまで行くと、そこには驚きの光景が……。
怪しき博物学者・栖(すみか)大智(だいち)と謎すぎる女・曲(まが)地(ち)谷(や)アコとともに、常識を超えた事件の謎に挑む。

切なさ×不思議全開ミステリー!

■第一話 私の幽霊
■第二話 きのう遊んだ子
■第三話 テンビンガミ
■第四話 無明浄
■第五話 コロッケと人間豹
■第六話 紫陽花獣



文化人類学の要素たっぷりで、しかもそれが日常の謎として提起されているというのが興味深い。犯罪でも事件でもない謎の出来事の数々。それを解き明かすと、切なく愛おしい物語がそこにあるのだった。探偵役は編集者のニーチェ女史こと日枝真樹子と、ふとした出会いから彼女が頼りにするようになった博物学者の栖大智。本作は登場人物紹介の要素も多分にあるので、シリーズ化されるのだと思うが、今後どんな不思議な出来事に出会えるのか、そしてどうやって解き明かしていくのかが愉しみになる一冊である。

幸せのプチ 町の名は琥珀*朱川湊人

  • 2016/12/23(金) 09:28:42

幸せのプチ ――町の名は琥珀
朱川 湊人
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 54,051

都電が走る、この下町には、白い野良犬の“妖精"がいる。
「きっとプチは、あの町で今も生きていて、たくさんの人たちを、小さくだけれど幸せにしているはずだ」
その町に生き、通り過ぎた人たちの心あたたまる物語。
銭湯の煙突が目立つ迷路のような路地は生活感が溢れ、地味なくせに騒々しい。口が悪くて、おせっかいな人たちが暮らす町に、ちょっぴり不思議で、ささやかな奇跡が起きる時……

直木賞作家・朱川湊人さんの25万部を超えたベストセラー『かたみ歌』。東京・下町の商店街を舞台にしたノスタルジックでちょっと不思議なことが起こる連作はシリーズとなり、当時は最先端だった団地に舞台を移し(『なごり歌』)、今作もそのラインに連なるといってもいい。

高度成長期の昭和から平成までの都電が走る町を舞台に紡がれる「追憶のカスタネット通り」「幸せのプチ」「タマゴ小町とコロッケ・ジェーン」「オリオン座の怪人」「酔所独来夜話」「夜に旅立つ」の6つの物語。1970&80年代の思い出とともに、あなたを追憶の彼方へ誘います。
恋、友情、大切な人を喪った哀しみ、家族の絆……ラジオの深夜放送、昔ながらの喫茶店、赤い公衆電話、揚げたてのコロッケ……
「きっと生きている限り忘れない。あの町の名は琥珀」


都電の走る、琥珀という名前の町で起こる日常のあれこれと、そこに暮らす人々のなんと言うことのない日々の暮らしの物語である。どこにでもありそうな出来事の向こう側にある人々の気持ちや、後々につながることごとの欠片が、ひとつずつ少しずつ積もり積もって町はできていて、そこに暮らす人々の心までも形作っているのだと、なにやらほっと懐かしい心地になれる一冊である。

キミの名前*朱川湊人

  • 2016/08/03(水) 18:44:25

キミの名前 箱庭旅団
キミの名前 箱庭旅団
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朱川 湊人
PHP研究所
売り上げランキング: 671,517

「キミが知らないだけで、この世界には、いろいろな秘密があるんだよ」過去でも未来でも、現実の世界でも夢の世界でも、自由自在に出入りができる旅行者(トラベラー)である少年。白馬を道連れに、“傍観者"として覗いた世界をそれぞれ「箱庭」に見立てた、14のショート・ストーリー。
飼い猫の正体は“惑星調査員"(「マミオ、地球を去る」)、無職の兄と遭遇した時間の“ずれ"(「俺と兄貴が火曜日に」)、伯母にしか見えない小さな鬼(「鬼が来る正月」)、カバンの中に住む“なにか"(「シュシュと空きカバンの住人」)、 キリストと同じ誕生日の女(「クリスマスの呪い」)、“あの世"に行く前にかけた魔法(「跨線橋の秋」)、人間だけが知らない世界の原理(「バルル原理」)、ナブラ族の勇士と結婚した孫娘(「サトミを泣かせるな」)、夢の世界を自由に行き来できる男(「夢見王子」)、“天国に繋がった海"で出会った少年(「さよなら、旅行者」)などなど。
物語はいつまでも終わらない――直木賞作家が綴る、切なくて心温まる珠玉の連作短篇集。


トラベラーとして、さまざまな世界を行き来する少年が見たもの、彼の姿を見て言葉を交わした者、現実世界に何食わぬ顔で潜む異世界の者たち。なんと言うことのない暮らしに人知れず紛れ込む不思議の物語の数々である。なるほどそうだったのか、と納得してしまうものあり、ちょっぴり背筋が寒くなるものあり、味わいもさまざまな一冊である。

主夫のトモロー*朱川湊人

  • 2016/07/01(金) 06:55:32

主夫のトモロー
主夫のトモロー
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朱川 湊人
NHK出版
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一流のインテリアデザイナーを目指して働く妻を支え、家事と育児をこなす“主夫”斉藤知朗。自らも作家を志し、家族の幸せと夢を追い求めて日々奮闘するトモローに立ちはだかるのは、主夫に対する社会の壁。出会うママ友・パパ友たちもまた一筋縄ではいかない家庭の悩みを抱えているものの、トモローはつまずきながらともに一喜一憂して全力で向き合う。やがてトモローが導き出す、愛する妻と娘との「家族のかたち」、そして、現実と夢との折り合いとは―。著者渾身のハートフルストーリーとユーモアで描く、胸を打つ新たな家族小説。


現代は多様性の時代である、とは言っても、ここまで主夫に徹する家庭はなかなかないだろうと思われる。既成概念を打破するのがどれほど難しいかということの表れのひとつであろう。そんな環境で、主夫をしようと思うと、あれこれ壁にぶつかることになるのだと、改めて気づかされる。逆差別とも言えるような事々である。それでも、少しずつ良くなるように試行錯誤してみたり、信頼関係を築くこともできたり、充実した日々を過ごすトモローと妻の智恵子が微笑ましい。なによりいいのは、彼らがいつも娘の智里のことをいちばんに考えていることである。思わず応援したくなる一冊である。

わたしの宝石*朱川湊人

  • 2016/02/22(月) 17:06:41

わたしの宝石
わたしの宝石
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朱川 湊人
文藝春秋
売り上げランキング: 251,795

さみしさが目に見えたら、世界はどう変わるだろうか。苦しいほどの感情が胸に迫る。名手が放つ、切なさと爽快感いっぱいの直球6編!


ある年齢以上の人ならたいていが懐かしさとともに、そこはかとない寂しさを覚える風景が広がっている。自分の子ども時代と、あるいは青春時代と照らし合わせ、そのころ流れていた空気感まで甦ってくるようである。そんな中で、寂しさを抱えながら、現在のように気軽に声を上げられずにいる人たちがいる。そしてなんとなく事情を知りながら、深く入って行けない人たちもいる。この物語たちを読むと、寂しさというのは、隠そうとすればするほど、近しい人には見えてしまうものなのではないだろうかと思われてくる。そして、見えてしまっても手を差し伸べることができない寂しさもまたある。多くの人は、そんなどうにもできない寂しさを飼い慣らしながら日々を生きているのかもしれない。寂しくもなるが、胸の奥がほのかにあたたかくもなる一冊である。

今日からは、愛のひと*朱川湊人

  • 2015/07/05(日) 16:55:10

今日からは、愛のひと
朱川 湊人
光文社
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金ナシ職ナシ家族ナシ。助けた男は、悪魔に追われている元・天使!?
無職宿ナシの亀谷幸慈は、ある日、ギャルにカツアゲされていた青年を助け出す。
どうやら彼は記憶喪失で、元・天使。さっきのギャルは悪魔であるらしい。
関わりたくない相手だったが、ひょんなことから行動をともにすることに……。


金ナシ職ナシ家族ナシの亀谷幸慈。そんな絶望的な状況で、偶然暴行されているところに通りかかって助けた男は、記憶喪失の天使だった。それから一風変わった、だがなにやら幸せな日々が始まったのだった。幸慈たちが暮らすことになった八王子の猫の森という一軒家の主は、シメ子というバイシュンフで、そこではひと癖もふた癖もある面々が共同生活をしている。過去のことは詮索しない、とか朝ドラが終わるまでには起きること、などといういくつかのきまりを守ればとても快適な猫の森。だがしかし、そんなに簡単に家族やしあわせが手に入るはずはなかったのである。実は幸慈を含めて彼らにはそれぞれ過酷な過去があったのだった。あたたかくて残酷で、それでも人間の善性を信じずにはいられなくなるような一冊である。

冥の水底*朱川湊人

  • 2014/11/25(火) 16:59:00

冥の水底冥の水底
(2014/10/29)
朱川 湊人

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医者である市原玲人は、友人の平松光恵に、首から上だけが狼のいわゆる「狼男」の死体写真を見せられる。彼女はその写真と大切な取材手帳を市原に託し、忽然と姿を消した。時は20年遡る。阿巳雄山の奥に、特殊能力を持つ「マガチ」とよばれる人々が暮らしていた。マガチの青年シズクは、初恋の少女を忘れられず、彼女を追って東京で暮らし始めるが……。一途な純粋さが胸を抉る、一気読み必至の、純愛ホラー巨編。


現在の市原玲人が巻き込まれた事件と、二十年前の曲地谷(まがちや)シズクが初恋の女性に宛てた出す当てのない手紙とが交互に描かれている。マガチという特殊な力を持った一族に生まれたシズクの一途な想いゆえに始まった物語は、ラストでひとつに収束し、結末を迎える。ホラーでありながらこれ以上ないほどの純愛物語であり、切なくもなるのだが、起こしてしまった事々は償いようのないことで胸が痛む。恐ろしくもあり透き通った一冊でもある。

月蝕楽園*朱川湊人

  • 2014/08/03(日) 16:36:30

月蝕楽園月蝕楽園
(2014/07/16)
朱川 湊人

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直木賞作家が描く、切なくて激しい純愛小説集。
みつばち・金魚・トカゲ・猿・孔雀をモチーフにした恋愛を描きますが、甘い蕩けるようなものではない。
重く・強い、読み手の心を鷲掴みにして離さない、たたきのめされるような短編集。


「みつばち心中」 「噛む金魚」 「夢見た蜥蜴」 「眠れない猿」 「孔雀墜落」

純愛小説であることは確かである。ただその形がいささか一般的とは言えない歪なものであり、それぞれの物語の主人公がそれをいちばんよくわかっているのが哀しく切なくもある。甘やかなのに罪深さと秘密の匂いがつきまとう。ぞくっとする一冊である。

黄昏の旗--箱庭旅団*朱川湊人

  • 2013/11/10(日) 11:30:34

黄昏(たそがれ)の旗黄昏(たそがれ)の旗
(2013/10/12)
朱川 湊人

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「見ている風景は、誰も似たようなものだわ。そこから何を見つけるかは、あなたの心しだい……」
どんな時代にも、どんな場所でも、映画や本のような作られた世界のなかでも、自由自在に行き来できる「旅行者(トラベラー)」である少年が、白馬とともに旅する世界をそれぞれ「箱庭」に見立て、短篇の名手が物語を紡ぐ。
国道四号を悠々と歩きつづけるゾウ(「誰もゾウにはかなわない」)、夕暮れの車窓から見えるオレンジ色の旗(「黄昏の旗」)、ジェフじいさんが壊した機械人形(「ヴォッコ3710」)、幽体離脱して好きな女性の危機を救った男(「人間ボート、あるいは水平移動の夜」)、アンデス山中で見たファニカの正体(「ひとりぼっちのファニカ」)、最果ての岬に響く哀調に満ちたバイオリンの音(「傷心の竜のためのバイオリンソナタ」)、真っ白な水着を着た僕たちの女神(「三十年前の夏休み」)などなど。
笑いあり、涙あり、恐怖あり……直木賞作家が贈る、ちょっと不思議で懐かしい連作短篇集。


なんとも不思議な物語の数々である。わたしたちが暮らしている世界と似てはいるのだが、尺度が少しずつずれているような、微妙な違和感を覚えつつ読み進む感じである。白馬を連れた少年が時間旅行している先々で出会った物語なのだと最後で判るが、それぞれの物語中に、ちらっとでも彼が姿を見せてくれたらもっと効果的だったのでは、という気もしなくはない。しばし時間旅行のお供をしている心地の一冊である。

なごり歌*朱川湊人

  • 2013/07/10(水) 20:54:10

なごり歌なごり歌
(2013/06/28)
朱川 湊人

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きっと、また会える。あの頃、団地は、未来と過去を繋ぐ道だったから。三億円事件の時効が迫り、「8時だョ!全員集合」に笑い転げていたあの頃。ひとつの町のような巨大な団地は、未来への希望と帰らない過去の繋ぎ目だった。失われた誰かを強く思う時、そこでは見えないものがよみがえる。ノスタルジックで少し怖い、悲しくて不思議な七つの物語。ベストセラー『かたみ歌』に続く感涙ホラー。


「遠くの友だち」 「秋に来た男」 「バタークリームと三億円」 「レイラの研究」 「ゆうらり飛行機」 「今は寂しい道」 「そら色のマリア」

埼玉との県境に近いマンモス団地に暮らす人々をめぐる連作物語。希望にあふれた未来都市のように思われた団地に暮らす人々も、それぞれの事情を抱えていた。そして、その事情が少しずつ重なり、あちらとこちらとがつながって、初めて見えてくるものもあるのだった。懐かしいような、切ないような、心もとないような心地にさせられる一冊である。

サクラ秘密基地*朱川湊人

  • 2013/04/08(月) 16:58:43

サクラ秘密基地サクラ秘密基地
(2013/03/13)
朱川 湊人

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直木賞受賞作『花まんま』や、涙腺崩壊のキャッチフレーズ『かたみ歌』で、読者の涙を誘った短編の名手・朱川湊人が、家族と写真にまつわるちょっぴり不思議で哀しいお話をお贈りします。二〇一二年秋に、三十九年の長期連載が幕を閉じたミステリ界の巨人・佐野洋氏の連載「推理日記」で、設定の妙を大絶賛された、UFOをでっち上げた同級生の美人の女の子の身の上話「飛行物体ルルー」、とある事故をきっかけにして、優しかった近所のおねえさんの意外な一面を見てしまった少年の淡い慕情の末「コスモス書簡」、ぶっきらぼうで、口より手が先に出る不器用な父と、その父に寄り添うように暮らす聡い男の子、そして同じボロアパートに、とある事情で身を隠すように暮らすことになった私との心の交流を描いた「スズメ鈴松」、ほのかな想いを寄せながら亡くなった同級生の想いが、不思議なカメラに乗り移ってもたらされた写真にまつわる奇妙な出来事「黄昏アルバム」、小学生の男子四人でつくった秘密基地にまつわる哀しい過去を巡る表題作「サクラ秘密基地」など、夕焼けを見るような郷愁と、乾いた心に切ない涙を誘う、短編を六本を収録。


どの物語もどこか秘密めいていて、ちょっぴりうしろめたく、自分の胸の中だけにしまっておきたいようでありながら、思い出すたび、なんともいえない懐かしさに包まれ、甘酸っぱい感情で満たされるような気がする。主人公たちにとっては、自分を語る上で避けては通れないあれこれであるが、写真という形で切り取られた思い出は、それらをいつの間にか美化していたりすることもある。不思議で切なく懐かしい一冊である。

満月ケチャップライス*朱川湊人

  • 2012/10/20(土) 16:50:52

満月ケチャップライス満月ケチャップライス
(2012/10/05)
朱川 湊人

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―あれ以上においしくて元気の出る食べ物は、きっと、この世に存在しない。
ある朝、中学一年生の進也は、妹の亜由美に起こされた。台所を見に行くと、知らない男の人が体育坐りで眠っている。夜の仕事をしている母が連れて帰ってきた人らしい。進也はあまり気にせず、いつものように目玉焼きを作りはじめると…「あ、そろそろ水を入れた方が、いいんじゃないですか?」
3人家族と謎の男チキさんの、忘れられない物語が始まる。


ある年齢以上の人ならだれでも一度は真似したことがあると思われる超能力のこととか、世の中を戦慄させるテロ事件を起こした宗教団体のことなどを織り込みながら、これほど切なく身近で、哀しくてしあわせにあふれている物語がほかにあるだろうか。人と人との出会いと心の結びつきの運命的な不思議さと、別れの理不尽さに涙を誘われる。チキさん・・・と思わずつぶやいてしまいそうになる一冊である。そして、チキさんの作ってくれるごはんが、簡単なのにどれもとてもとてもおいしそうで、素敵。

箱庭旅団*朱川湊人

  • 2012/07/04(水) 17:17:51

箱庭旅団箱庭旅団
(2012/06/08)
朱川 湊人

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「とにかく旅に出ることだ。世界は本当に広い……今のこの世界だけでも広大無辺なのに、昔や未来、作られたものの世界まで数に入れたら、本当に無限だよ」――それぞれの世界を「箱庭」に見立て、短篇の名手が紡いだ物語が詰まった一冊。
白馬とともにさまざまな世界を旅する少年は、物語にあふれた世界で、さまざまな「出合い」を経験する。“出る"と噂の部屋(「ミッちゃんなんて、大キライ」)、みんなから愛された豆腐売りの少年(「黄昏ラッパ」)、世の中の流行を決めるマンモスに似た生き物(「神獣ハヤリスタリ」)、ある女性編集者の不思議な体験(「『Automatic』のない世界」)、雨の日だけ訪れる亡くなった孫(「秋の雨」)、ぐうたらな大学生二人の奥義(「藤田クンと高木クン」)、サンタクロースにそっくりの獣医(「クリスマスの犬」)などなど。
『かたみ歌』で読者の涙を誘った直木賞作家による、16篇のショート・ストーリー。懐かしくて温かい気持ちになれる連作小説集。


不思議な心の旅の物語。一話完結で、大枠だけある連作かと思いきや、最後近くでぱたぱたと一本の太い流れに収束していくのが小気味よい。誰にもありそうで、誰かに話すと「あるある」と盛り上がりそうで、それでいて自分だけの特別な心の旅である。共有しているのだが固有のものであるという不思議な感覚も味わえる一冊である。

銀河に口笛*朱川湊人

  • 2012/02/08(水) 19:26:45

銀河に口笛銀河に口笛
(2010/03/05)
朱川 湊人

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昭和40年代――。小学3年生の僕らは、身の回りに起こる不思議な事件を解決する「ウルトラマリン隊」を結成した。やがて僕らの小学校に不思議な力を持つ少年リンダが転校してきた……。ノスタルジックな雰囲気満載の連作長編小説。


時代の雰囲気を、主人公の少年たちとほぼ同年代として体験しているだけに、その場に流れる空気がとてもよくわかり懐かしい。大人になったモッチがいまはもう会えないキミ=リンダに語りかけながら回想するという手法をとっているのでなおさらノスタルジックな趣になるのかもしれない。子どもたちを取り巻く大人の世界ではさまざまな出来事が起こり、その影響は、子どもたちの世界にも大人が思うよりも色濃く及ぶ。子どもなりに頭を悩ませ、自分たちで解決していることも意外に多いのである。流れ星が落ちた日に出会った少年リンダは、少し不思議な力を持ち、彼らの日常に小さな波紋を広げ、虹色の夢を見せたのかもしれない。読みながらときどき小路さんを読んでいるような心地になった。悪人の出てこない、切なく胸に沁みる一冊である。

オルゴォル*朱川湊人

  • 2011/11/26(土) 07:51:00

オルゴォルオルゴォル
(2010/10/08)
朱川 湊人

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「実は前から、ハヤ坊に頼みたいことがあってなぁ」東京に住む小学生のハヤトは、トンダじいさんの“一生に一度のお願い”を預かり、旅に出る。福知山線の事故現場、父さんの再婚と新しい生命、そして広島の原爆ドーム。見るものすべてに価値観を揺さぶられながら、トンダじいさんの想い出のオルゴールを届けるため、ハヤトは一路、鹿児島を目指す。奇跡の、そして感動のクライマックス!直木賞作家による感動の成長物語。


長いものには巻かれろ的な行動パターンの小学四年生のハヤトが主人公である。積極的に悪さをするタイプではないけれど、巻き込まれれば消極的には加担する、という感じの、いささか情けない印象の少年でもある。そんな彼にくっついてくるクラスで浮いているシンジロウ。正直鬱陶しいと思っていたハヤトだったが、彼と出会ったことが大きく見るとハヤトを変えたのかもしれない。母のヒトミさんとの関係、遠くで暮らす父との関係、父の新しい奥さんとの出会い、そして電撃ガール・サエさんとの出会いが、ハヤトに自分で考えることの大切さを気づかせたのだろう。奇跡のようなクライマックスではあるが、出会いとタイミングの妙を思わされる一冊である。