- | こんな一冊 トップへ |
- 次ページへ»
月下美人を待つ庭で 猫丸先輩の妄言*倉知淳
- 2021/02/19(金) 07:15:17
猫丸という風変わりな名前の“先輩”は、妙な愛嬌と人柄のよさで、愉快なことには猫のごとき目聡さで首をつっこむ。そして、どうにも理屈の通らない出来事も彼にかかれば、ああだこうだと話すうちにあっという間に解き明かされていくから不思議だ。悪気なさそうな侵入者たちをめぐる推理が温かな読後感を残す表題作や、電光看板に貼りつけられた不規則な文字列が謎を呼ぶ「ねこちゃんパズル」など、五つの短編を収める。日常に潜む不可思議な謎を、軽妙な会話と推理で解き明かす連作短編集。
表題作のほか、「ねこちゃんパズル」 「恐怖の一枚」 「ついているきみへ」 「海の勇者」
偶然居合わせたり、通りかかったりして小耳にはさんだちょっとした謎を、猫丸先輩が豊かな洞察力と推理力、想像力をフル回転させて解き明かすという趣向である。とはいえ、サブタイトルにもあるように、すべては猫丸先輩の妄言であり、実際にどうなのかはほぼ謎のままなのだが、なぜか妙に納得させられてしまう。それにしても、猫丸先輩は相変わらず経験値が高いのか低いのかよくわからない。そこが魅力でもあるのが、近しい人たちの振り回され感はいや増している気がする。早く次が読みたいシリーズである。
作家の人たち*倉知淳
- 2019/08/16(金) 18:19:42
押し売り作家、夢の印税生活、書評の世界、ラノベ編集者、文学賞選考会、生涯初版作家の最期…。可笑しくて、やがて切ない出版稼業―!?
出版業界の内幕暴露本である。とは言っても、多分に自虐的な要素を含むコメディ仕上げなので、遠慮なく笑えてしまうところもある。昨今の出版業界を思えば、さもありなんということも多く、このまま手を拱いていれば、いずれこうなるかもしれない、と思わせることもあって、出版業界に身を置く人たちの苦悩をも想わされる。最終章で作家の倉ナントカさんが、この世の最期に書きたくて仕方がないと切望した小説を、ぜひ読んでみたいものである。ブラックながら愉しめる一冊である。
ドッペルゲンガーの銃*倉知淳
- 2018/12/25(火) 19:22:08
女子高生ミステリ作家(の卵)灯里は、小説のネタを探すため、
警視監である父と、キャリア刑事である兄の威光を使って事件現場に潜入する。
彼女が遭遇した奇妙奇天烈な三つの事件とは――?
・密閉空間に忽然と出現した他殺死体について「文豪の蔵」
・二つの地点で同時に事件を起こす分身した殺人者について「ドッペルゲンガ-の銃」
・痕跡を一切残さずに空中飛翔した犯人について「翼の生えた殺意」
手練れのミステリ作家、倉知淳の技が冴えわたる!
あなたにはこの謎が解けるか?
謎解きよりも何よりも、まず設定に目を惹かれる。警視監の息子で警部補だが、陽だまりのタンポポのようにのほほんとしている大介と、高校生ながらミステリ作家の卵の灯里(あかり)のコンビが、不可解で不思議で謎に満ちた事件現場に赴き、関係者から事情を聴いて謎解きをするのである。だがそれだけではなく、実際謎解きをするのは、また別の人物(?)であり、あまりにも無理やり感満載であるにもかかわらず、なんかあるかも、と思わせてしまうのが著者のキャラクタづくりの妙なのかもしれない。ともかく、不可思議な事件の謎は解かれ、警視庁での大介の株は上がるのだから、文句はない。愉しく読める一冊である。
豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件*倉知淳
- 2018/08/07(火) 18:17:06
戦争末期、帝國陸軍の研究所で、若い兵士が倒れていた。屍体の周りの床には、なぜか豆腐の欠片が散らばっていた。どう見ても、兵士は豆腐の角に頭をぶつけて死んだ様にしか見えなかったが―?驚天動地&前代未聞&空前絶後の密室ミステリの真相は!?ユーモア&本格満載。猫丸先輩シリーズ最新作収録のミステリ・バラエティ!
表題作のほか、「変奏曲・ABCの殺人」 「社内偏愛」 「薬味と甘未の殺人現場」 「夜を見る猫」 「猫丸先輩の出張」
猫丸先輩は、相変わらずユニークでとらえどころがなく、そのくせちゃ~んと事件の真相を解き明かしてしまう。すばらしいのだが、なんだかそうは思えないところも相変わらずである。猫丸先輩はこうでなくっちゃ。それ以外の物語は、まじめに考えていいものか、いささか迷ってしまうような意表を突く愉しさ満載である。ワクワクする一冊だった。
皇帝と拳銃と*倉知淳
- 2018/06/28(木) 09:11:03
計画は練りに練った。ミスなどあるはずがなかった。それなのに……いったいどこに落ち度があったというのだ!? 犯罪に手を染めた大学教授、推理作家、劇団演出家らの前に立ち塞がる、死神めいた風貌の警部の鋭利な推理。〈刑事コロンボ〉の衣鉢を継ぐ倉知淳初の倒叙シリーズ、4編を収録。
表題作のほか、「運命の銀輪」 「恋人たちの汀」 「吊られた男と語らぬ女」
まずは、刑事のコンビの風貌に目を惹かれる。まるで死神のような中年刑事と、現役モデルも真っ青なイケメン若手刑事なのである。しかもその名前は、乙姫と鈴木。出会った人は必ずと言っていいほどその風貌と名前のギャップに、一瞬志向が停止する。そしてこの死神乙姫は、感情の読めない立ち居振る舞いも死神にぴったりなのだが、事件現場における着眼点には目を瞠るものがある。一点のミスも犯していない自信を持つ犯人をじわじわと追い詰め、ついに退路を断った時、初めから疑っていたことを明かすのであるが、その際の犯人の驚きと虚脱感は想像に難くない。映像化にも向きそうな一冊で、愉しみなシリーズである。
片桐大三郎とXYZの悲劇*倉知淳
- 2016/01/25(月) 17:05:20
この一冊で、エラリー・クイーンの〝X・Y・Zの悲劇〟に挑戦!
歌舞伎俳優の家に生まれたものの、若くして映画俳優に転身、
世界的な人気を博す名監督の映画や、時代劇テレビシリーズなどに主演し、
日本に知らぬものはないほどの大スターとなった片桐大三郎。
しかし古希を過ぎたころ、突然その聴力を失ってしまった――。
役者業は引退したものの、体力、気力ともに未だ充実している大三郎は、
その特殊な才能と抜群の知名度を活かし、探偵趣味に邁進する。
あとに続くのは彼の「耳」を務める新卒芸能プロ社員・野々瀬乃枝(通称、のの子)。
スターオーラをまき散らしながら捜査する大三郎の後を追う!
「ドルリー・レーン四部作」を向こうに回した、本格ミステリー四部作をこの一冊で。
殺人、誘拐、盗難、そして……。最高に楽しくてボリューム満点のシリーズ連作。
冬の章 ぎゅうぎゅう詰めの殺意
春の章 極めて陽気で呑気な凶器
夏の章 途切れ途切れの誘拐
秋の章 片桐大三郎最後の季節
時代劇界の大御所、片桐大三郎が探偵役の物語である。聴力を失って役者は引退しているとは言え、存在感は少しも衰えず、社内でも、厳然と威容を誇っている。のの子(野々瀬乃枝)は、彼の耳代わりとして雇われたので、どこへ行くにもついていくことになるのだが、この二人のやり取りもなかなか味があって面白い。片桐は、庶民のことを知らないので、空気を読めないことは時にあるが、決して押しつけがましいわけではなく、観察眼は鋭く、推理力も見事なのである。警察が頼りたくなるのもうなずける。最後の章では、まさかそんな!?とどきどきさせられるが、まんまとしてやられてしまった。嬉しい限りである。もっと続きが読みたくなる一冊である。
シュークリーム・パニック Wクリーム*倉知淳
- 2014/03/14(金) 18:39:13
![]() | シュークリーム・パニック ―Wクリーム― (講談社ノベルス) (2013/11/07) 倉知 淳 商品詳細を見る |
「絶食って、何も食べちゃいけないんですか」―体質改善セミナーに参加したメタボな男性4人組。インストラクターの無慈悲な指導によって、耐え難い空腹感が行き場のない怒りへと変わっていく中、冷蔵庫のシュークリームが盗まれる事件が発生する。ミステリマニアの受講者、四谷は探偵役に名乗りを上げるが―!?爆笑必至の「限定販売特製濃厚プレミアムシュークリーム事件」はじめ、ひと味違う本格ミステリ作品を3編収録!
「限定販売特別濃厚プレミアムシュークリーム事件」 「通い猫ぐるぐる」 「名探偵南郷九条の失策--怪盗ジャスティスからの予告状」
コミカルタッチの本格推理小説である。やり過ぎと思えるほど繰り返される説明文といい、お約束のような会話といい、わざとうんざりさせようとしているとしか思えなかったりもするが、それがまたひとつの味になっていて、堅苦しいだけではないミステリになっているように思う。ふざけているようであって、押さえるところはちゃんと押さえられているのが著者流だろうか。愉しめる一冊である。
シュークリーム・パニック 生チョコレート*倉知淳
- 2013/11/19(火) 16:49:04
![]() | シュークリーム・パニック ―生チョコレート― (講談社ノベルス) (2013/10/08) 倉知 淳 商品詳細を見る |
高校2年生の夏休み。受験勉強を前に、羽を伸ばしてすごせる最後の夏、「僕」は仲間たちと映画制作を始めた。監督の「僕」は以前から気になっていた同級生、百合川京子を主役に抜擢し、撮影は快調。しかしその最終日、ラストシーンのロケ場所から、彼女の姿が消えた―!?感動的な結末に心がほっこりする中編「夏の終わりと僕らの影と」はじめ、本格ミステリの名手の技が光る3編を収録。
「現金強奪作戦!(但し現地集合)」 「強運の男」 「夏の終わりと僕らの影と」
タイトルが中身とどうつながるのかがいまひとつよく解らないが、三篇ともそんなに甘いものではない。初めの二編など、明らかに辛い、というか苦い。だから面白くないというわけではないが、タイトルの甘さがどこかで気になって、個人的には集中を削がれた気がしなくもない。テイストの違う物語を愉しめる一冊ではある。
こめぐら―倉知淳作品集―*倉知淳
- 2011/08/07(日) 13:47:12
![]() | こめぐら (倉知淳作品集) (2010/09/29) 倉知 淳 商品詳細を見る |
密やかなオフ会で発生した謎。男たちが真剣に探し求めるのは、とんでもないものの鍵だった!?キツネさん殺害事件の容疑者は当然ながら(?)どうぶつばかり。“非本格推理童話”の結末は?1994年の本格的作家デビュー以来、コミカルで上質なミステリの執筆に取り組んでいる著者が、16年のあいだに発表したノンシリーズ作品を集成。ボーナス・トラックとして、猫丸先輩探偵譚を一編収録。
「Aカップの男たち」 「「真犯人を探せ(仮題)」」 「さむらい探偵血風録 風雲立志編」 「偏在」 「どうぶつの森殺人(獣?)じけん」 「毒と饗宴の殺人」
最後の最後に猫丸先輩登場である。思わず、「猫丸先輩!」と声を出してしまった。家でよかった。表紙を見た時点で気づくべきだったと読後表紙を見返して思ったのだった。どの作品も一風変わった捻りがあって好きだが、やはり猫丸先輩が出てくるとわくわくする。改めて猫丸先輩への愛を確認した一冊である。
なぎなた―倉知淳作品集―*倉知淳
- 2011/07/18(月) 06:52:36
![]() | なぎなた (倉知淳作品集) (2010/09/29) 倉知 淳 商品詳細を見る |
著者デビュー後、16年のあいだに書かれたノンシリーズ・ミステリ全短編を収録するファン垂涎・必携の作品集、二巻本その1。
完璧だったはずの殺人計画を徐々に崩壊へと導いてゆく、“死神”を思わせる風貌の警部。米大統領選挙の熱狂の最中、勃発したひとつの殺人事件。謎は、消え去った三発の銃弾。たくらみに満ちたミステリ・ワールド、「運命の銀輪」「闇ニ笑フ」「幻の銃弾」など七編を収録。
「運命の銀輪」 「見られていたもの」 「眠り猫、眠れ」 「ナイフの三」 「猫と死の街」 「闇ニ笑フ」 「幻の銃弾」
アンソロジーで既読のものもあったが、久々にまとめて著者の作品を読めたのがなにより嬉しかった。死神のような乙姫刑事はシリーズ化されたらとても嬉しい。もっともっと読みたい。一作ずつにつけられたあとがきも贅沢である。倉知淳を堪能した一冊。作品集2の『こめぐら』もたのしみ。
ほうかご探偵隊*倉知淳
- 2006/08/16(水) 17:32:44
☆☆☆☆・ 僕のクラスで連続消失事件が発生。僕は四番目の被害者に!といっても、なくなったのはもう授業でも使わないたて笛の一部。なぜこんなものが!?棟方くんの絵、ニワトリ、巨大な招き猫型募金箱、そしてたて笛が一日おきに姿を消すという奇妙な事件が五年三組にだけ起こっている。ニワトリなんか密室からの消失だ。この不可思議な事件を解決してみないかと江戸川乱歩好きの龍之介くんに誘われ、僕らは探偵活動を始めることにした。僕がちょっと気になっている女子も加わり事件を調べていくのだが…。そこにニワトリ惨殺目撃証言が!町内で起きた宝石泥棒との関連は?龍之介くんの名推理がすべてを明らかにする。 ほうかご探偵隊
倉知 淳 (2004/11)
講談社
この商品の詳細を見る
かつて子どもだったあなたと少年少女のための ミステリーランドからの一冊。
語り手は僕・藤原高時。 五年三組で続けて起こっている不要品消失事件の四番目の被害者になってしまい、クラスメイトの龍之介や吉野明里、成見沢めぐみたちと捜査に乗り出したのだった。
休み時間や放課後に小さな手がかりから犯人の動機や犯行の方法を推理し、聞き込みをして情報を集めたり、現場検証をして証拠品を探したり。 なんだかわくわくとたのしくすらあったのだが、二番目に消失したニワトリが殺されたことがわかって事件はにわかに物騒なものになる。
僕はマイペースな龍之介くんにくっついてわけもわからずうろうろしていることが多いのだが、龍之介君にはどうやら何かが判っているようだ。
龍之介くんは、小柄でリスのようなくりっとした目をした怪人二十面相好きな少年で、東京に住む叔父さん(お父さんの弟)に憧れている。 その叔父さんというのは、特に決まった仕事はしていないみたいで 面白いことが何より好きな人らしい。 それってあのものすごくよく知っているキャラのあの人ですよね。 龍之介くんの名字だけどこにも出てこなかったのは そういうわけだったのだ!
壺中の天国*倉知淳
- 2006/08/15(火) 17:37:33
☆☆☆・・ 第1回 本格ミステリ大賞受賞 壺中の天国
倉知 淳 (2000/09)
角川書店
この商品の詳細を見る
本格ミステリ作家クラブが選んだベスト1<2000年>
家庭諧謔探偵小説 圧巻の書き下ろし1050枚
彼は一人だ。
世界中が彼を置き去りにして動いている。
彼は四人の人を殺した――。
静かな地方都市で起きる連続通り魔殺人。 犯行ごとにバラ撒かれる自称「犯人」からの怪文書。 果たして犯人の真の目的は――。 互いに無関係の被害者達を結ぶ、ミッシング・リングは存在するのか? ――帯より
短大時代の恋人の子どもをひとりで産み、故郷・稲岡市の父親の元に帰ってきて、クリーニング屋で配達の仕事をしている知子が語る 知子の周りの日常のさまざまな出来事。 連続殺人となる通り魔事件の被害者となる人たちの 殺されるまでのそれぞれの日常。 そして怪しげなフィギュアを作る正体不明の誰かの様子。 この三つのパートが交互に繰り返されて 稲岡市が 通り魔殺人事件一色になる様子が描かれる。
被害者とよく似たフィギュアを作る怪しげな人物な一体誰なのだろうか。 それが犯人なのだろうか...。 知子の家にかつて居候していて 現在はこの事件を追っている記者の水島や 知子の友人で定職を持たず 家で絵画教室を開いている正太郎の推理などから 知子や父も犯人像を思い描いたりするのだったが。
知子や正太郎や娘の実歩は言うまでもなく、クリーニング屋の夫婦とか 近所のおばさんとか いわば脇役の人々のキャラクターがみな丁寧に描かれていて それが稲岡という市の深みになっているような気がする。 正太郎の発言には、事件に関係のないところでも頷かされることが多かった。
幻獣遁走曲*倉知淳
- 2006/07/18(火) 21:16:13
☆☆☆・・ 『日曜の夜は出たくない』『過ぎ行く風はみどり色』でも片鱗を覗かせた、猫丸先輩の多業種アルバイトが本書のお題。奇妙なアルバイトの陰に事件あり、事件の陰にはいかな事態に陥ろうとも平常心で謎を解く猫丸先輩あり。 幻獣遁走曲―猫丸先輩のアルバイト探偵ノート
倉知 淳 (1999/10)
東京創元社
この商品の詳細を見る
今回 猫丸先輩は様々な業種のアルバイターである。
『猫の日の事件』では、「日本良い猫コンテスト」の控え室の警護係になり、
『寝ていてください』では、新薬開発の治験者になり、
『幻獣遁走曲』では、幻の獣《アカマダラタガマモドキ》の捕獲隊として働き、
『たたかえ、よりきり仮面』では、着ぐるみの悪役を演じ、
『トレジャーハント・トラップ・トリップ』では、持ち主の手に余るほど豊富な収穫量の宝の山での松茸狩りの案内人である。
そして、猫丸先輩がアルバイトをするところどこにでも謎は出現し、真実かどうかは証明されはしないが鮮やかに謎に答えを与えるのである。
猫丸先輩の価値判断基準は、終始一貫《面白いか面白くないか》なのだが、いつもどんなときも興味津々の表情で一生懸命な猫丸先輩が魅力的である。
過ぎ行く風はみどり色*倉知淳
- 2006/07/18(火) 12:48:58
☆☆☆☆・ 亡き妻に謝罪したい――引退した不動産業者・方城兵馬の願いを叶えるため、長男の直嗣が連れてきたのは霊媒だった。インチキを暴こうとする超常現象の研究者までが方城家を訪れ騒然とする中、密室状況下で兵馬が撲殺される。霊媒は悪霊の仕業と主張、かくて行われた調伏のための降霊会で第二の惨劇が勃発する。名探偵・猫丸先輩が全ての謎を解き明かす、本格探偵小説の雄編! ――文庫裏表紙より 過ぎ行く風はみどり色
倉知 淳 (2003/07)
東京創元社
この商品の詳細を見る
猫丸先輩大活躍である。猫丸先輩の謎解きに 関係者一同大いに納得したのである。とは言っても 雑談の一貫として関係者の前で自らの推理を話しただけなのだが。それでもことごとく頷ける謎解きなのだから、さすが猫丸先輩である。
聴衆を惹きつけ、聴き入らせる巧をちゃんと心得ている猫丸先輩なのだが、今回は それに加えて思いやる心のやさしさが際立っていたように思う。
そして、立て続けに方城家で起こった3つの殺人事件だが、読み終えて振り返ってみるとあちこちに伏線が張られ、ヒントが配されているのがわかるのだが、読んでいる最中には多少の引っ掛かりを覚えても通り過ぎてしまっている。悔しいがお見事である。そして、思い込みで判断してはいけないことをここでもまた思い知らされるのである。何度やられても学習できない...。
それにしても猫丸先輩。
いつも鮮やかにはぞを解いてスッキリさせてくれるのに、後輩たちにはいつまでも変わり者と思われ、いささかうんざりされてもいるのは ちょっぴり可哀相な気もする。
まほろ市の殺人 春*倉知淳
- 2006/05/17(水) 07:46:01
☆☆☆・・ 「人を殺したかも知れない・・・」真幌の春の風物詩「浦戸颪」が吹き荒れた翌朝、美波はカノコから電話を受けた。七階の部屋を覗いていた男をモップでベランダから突き落としてしまったのだ。ところが地上には何の痕跡もなかった。翌日、警察が鑑識を連れどやどやとやって来た。なんと、カノコが突き落とした男は、それ以前に殺され、真幌川に捨てられていたのだ! ――裏表紙より
サブタイトルは≪無節操な死人≫
三浦しをんさんの書く「まほろ市」とはまったく別の、こちらは多分正真正銘(?)虚構の街で起こる物語である。
真幌市で一人暮らしをする大学の同級生の美波と新一が事件と係わり合いになったのは、やはり同級生のカノコからの「人を殺したかも知れない」という一本の電話からだった。そして、美波の実家からやって来た弟の渉がいちばん冷静な探偵役となって真相を推理してゆく。
殺人事件を扱ってはいるが おどろおどろしい感じは微塵もなく、死体の処理の仕方など ちょっと無理があるんじゃないだろうかと思われることもあるのだが、ちゃんと辻褄があってしまうのが面白くもある。読後感はさわやかな青春物語といった感じか。
- | こんな一冊 トップへ |
- 次ページへ»