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意識のリボン*綿矢りさ

  • 2018/04/01(日) 18:17:22

意識のリボン
意識のリボン
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綿矢 りさ
集英社
売り上げランキング: 45,469

少女も、妻も、母親も。
女たちはみんな、このままならない世界をひたむきに生きている。

迷いながら、揺れながら、不器用に生きる女性たち。
綿矢りさが愛を込めて描く、八編の物語。


表題作のほか、「こたつのUFO] 「ベッドの上の手紙」 「履歴のない女」 「怒りの漂白剤」 「声の無い誰か」

エッセイなのか小説なのか、一読判断がつかないようなテイストの物語たちである。作家の葛藤のようなものも書かれているが、それも著者の胸の裡とは限らない。だからこその小説の愉しみだとも言える。その辺りにあれこれ想像をめぐらすのもまた愉しい。本作に描かれている女性たちの生き方は、一般的なものとは思えないが、彼女たちの生きづらさはよく伝わってくる。なかなか興味深い一冊ではある。

おとぎ菓子*和田はつ子

  • 2013/03/05(火) 07:36:14

おとぎ菓子―料理人季蔵捕物控 (時代小説文庫)おとぎ菓子―料理人季蔵捕物控 (時代小説文庫)
(2010/06)
和田 はつ子

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日本橋は木原店にある一膳飯屋・塩梅屋。主の季蔵が、先代が書き遺した春の献立「春卵」を試行錯誤しているさ中、香の店酔香堂から、梅見の出張料理の依頼が来た。常連客の噂によると、粋香堂では、若旦那の放蕩に、ほとほと手を焼いているという…(「春卵」より)。四篇を収録。季蔵が市井の人々のささやかな幸せを守るため、活躍する大人気シリーズ、待望の第七弾。


表題作のほか、「春卵」 「鰯の子」 「あけぼの薬膳」

初読みなのだが、シリーズ七作目のようである。長寿シリーズなのだなぁ。だが、一話完結なので、細かい事情はわからないながら、想像力で補えないほどではないので、途中からでも充分愉しめる。江戸と食べものとミステリは相性がいいのだろうか。同じような組み合わせの作品はかなりいろいろあるように思う。そしてたいていどれも面白い。江戸の暮らしの季節感を愉しむ風情と、工夫しながら創り出し作り上げる料理と、謎を解き明かして悪を懲らしめる爽快感が、それぞれを高め合うのかもしれない。そこに人情や恋事情が絡めば、もう惹かれないわけがない。やさしくあたたかく、スリルのある一冊である。

左手に告げるなかれ*渡辺容子

  • 2010/01/16(土) 16:48:41

左手に告げるなかれ左手に告げるなかれ
(1996/09)
渡辺 容子

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スーパーの万引捕捉に賭ける女性保安士が巻き込まれた殺人事件!不倫相手の妻が殺され、容疑者リストに「私」の名が…。右腕の傷にかけられた疑惑は、みずからの手で払いのけなければならない。第42回江戸川乱歩賞受賞作。


  

  第一章  氷のバラ
  第二章  不審者
  第三章  生贄
  第四章  誘い水
  第五章  審判


警備会社の万引きジーメンである八木薔子は、かつての不倫相手の妻が殺害された事件で刑事の訪問を受けた。容疑を晴らすためには、自分で真犯人を見つけるほかないと思った薔子は、休憩時間に自分なりの捜査を始めたのだが、本来の仕事に集中できず、検挙率がガクッと落ちた。薔子のボスである坂東指令長は、そんな薔子を事件現場に近い店に配置転換させ、捜査に便宜を計ってくれるのだった。この坂東指令長が、仕事の上でも人間的にもカッコイイ女性なのである。このまま万引きジーメン物語を読み続けたいと思わせるほどである。本筋の事件は、別物と思われていた事件との思わぬ関連も明らかになり、大事になりそうな予感を孕んでくるが、最終章ではあっけなく様相を変える。
薔子の捜査にはできすぎ感が否めないし、どんでん返しというほどの醍醐味には欠けるように思うが、物事の見え方が、先入観によって変わるものだということはよくわかった。

エスケープ!*渡部健

  • 2009/08/16(日) 16:53:23

エスケープ!エスケープ!
(2009/07)
渡部 健

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シュウは会社の内定も決まり、かわいい彼女もいる大学四年生。春からは忙しく働き、数年後には彼女と結婚して子どもをもうける予定―。「でもなあ、そんな人生って…正直、楽しそうじゃないな」将来は約束されている。でも、その将来には何も刺激がない。ぜいたくな不満だと頭では理解している。けれど…。そんなある日、シュウは人生を変えるかも知れない雑誌記事を見つけてしまった。「プロが語る!空き巣手口のすべて!」その日からシュウの日常は一変。かつてない情熱で入念に計画を立て、人生で初の興奮を覚えながらの綿密な下見。すべては完璧で、安全だと思われた空き巣計画。が、しかし…忍び込んだ家の中にはなんと―。


アンジャッシュのコントそのままの一冊である。
見事なまでの勘違いと思い込みで、同じ場所にいながら、まったく別の物語を歩きつづける人物たちは、それぞれ真剣なのだが、仕掛けをすべて承知している読者は、くすくす笑いを禁じ得ない。
そして、ラストにダメ押しのようなひと捻りが配されていて、さらに愉しめた。
愉しい読書タイムだった。

夢を与える*綿矢りさ

  • 2007/09/17(月) 06:50:48


夢を与える夢を与える
(2007/02/08)
綿矢 りさ

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チャイルドモデルから芸能界へ。幼い頃からテレビの中で生きてきた美しくすこやかな少女・夕子。ある出来事をきっかけに、彼女はブレイクするが…。成長する少女の心とからだに流れる18年の時間を描く待望の長篇小説。


この平坦さは著者の意図するところなのだろうか。小説というよりも、ドキュメンタリーを読んでいるような、ただ起こったことが淡々と並べられているような印象である。誰の心の中にも深く入り込まずに、上っ面だけをさらっと撫でて通り過ぎたようで、著者が何に(誰に)焦点を当てたかったのかがよく判らなかった。

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すっぴん素顔のこのまんま*渡辺一枝

  • 2007/06/05(火) 17:00:50

☆☆☆・・

すっぴん素顔のこのまんま―私の気持ちいい毎日 すっぴん素顔のこのまんま―私の気持ちいい毎日
渡辺 一枝 (1996/04)
ベストセラーズ

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彩りの食卓のこと、大好きな着物や歌舞伎鑑賞のこと、子どもや夫との大切な生活のこと、そしてこれからの夢等、さりげない日常をたおやかに綴る。年齢を重ねるのが楽しくなる魔法の本。


あとがきには「一九九六年 節分に」と書かれているから、十一年前の一冊である。著者五十歳。

ちょうどそのときの著者といまの自分が同じ年頃ということもあるかもしれないが、あちらこちらに見られる共通点を喜び、違いを興味深く思いながら読んだ。
ご自身を、間口が広くはないとおっしゃるが、日々を慈しみ大切に暮らしていらっしゃる様子が目に見えるようであこがれでもある。

もりのへなそうる*わたなべ しげお

  • 2005/04/23(土) 20:34:44

☆☆☆☆・


児童書です。
わたなべ しげお・さく やまわき ゆりこ・え

5歳のてつたと 3歳のみつや、そして探検していた森で赤と黄のしましまの大きな卵から孵った不思議な生きもの≪へなそうる≫のお話。

てつたとみつやの兄弟が へなそうるに出遭ってもちっとも怖がらなかったのに、へなそうるがカニやおたまじゃくしを怖がったり。
兄弟が自分達が持ってきたおにぎりやドーナツやチューインガムなどをへなそうるに分けてあげるところや、なんにも知らないへなそうるに 自分なりに知っていることを教えてあげる二人の様子はとても微笑ましくて 思わず笑みが浮かんでしまいます。

一日遊び終わって夕方になり、兄弟が家に帰るときに へなそうるが木の幹にからだを隠して淋しそうに見送る姿に鼻の奥がつんとします。

自転車いっぱい花かごにして*渡辺一枝

  • 2005/04/08(金) 18:17:28

☆☆☆・・
自転車いっぱい花かごにして

生活の場近くにひっそりと咲く、旅の途中の車窓から眺めた、旅先の知らない土地を歩き回ってみつけた野の花たちのあれこれを、ご自分やご家族のことをさりげなく織り込みながら綴った一冊です。
もちろん主役は可憐な野の花たちなのだけれど、食べものや、なにより和名の色がとてもたくさんでてきていて、その微妙な色の表情の描かれ方をもじっくりと愉しんで読み終えました。

蹴りたい背中*綿矢りさ

  • 2004/09/27(月) 19:52:46

☆☆☆・・


 愛しいよりも、いじめたいよりも もっと乱暴な、この気持ち
 
 高校に入ったばかりの“にな川”と“ハツ”はクラスの余り者同士。
 臆病ゆえに孤独な二人の関係のゆくえは・・・・・

                           (帯より)


ハツの気持ちが痛いほどよく解る。
近くにいて同じ空気を共有しているはずなのに、自分の中のどこかの歯車がカチリと嵌ってしまった瞬間に 誰もが、何もかもがものすごく遠くなるのだ。ふぅーーっと、それは見事に。そして自分は周りからは見えているにもかかわらず そこにいなくなる。
おそらく 程度の差こそあれ 誰もが似たような感じをもったことがあるのではないだろうか。
時代を隔てて振り返れば どうということもなく、対処の仕方もわかるようなことでも 渦中にいる時には世界はそれですべてなのだ。未だ渦中にいるともいえそうな年頃の著者が、これほど客観的に突き放して描けるものかと感心する。

印象深かったフレーズ。

 こんなにきれいに、空が、空気が青く染められている場所に
 一緒にいるのに、全然分かり合えていないんだ。

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