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対岸の家事*朱野帰子

  • 2018/10/20(土) 18:47:04

対岸の家事
対岸の家事
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朱野 帰子
講談社
売り上げランキング: 143,353

家族のために「家事をすること」を仕事に選んだ、専業主婦の詩穂。娘とたった二人だけの、途方もなく繰り返される毎日。幸せなはずなのに、自分の選択が正しかったのか迷う彼女のまわりには、性別や立場が違っても、同じく現実に苦しむ人たちがいた。二児を抱え、自分に熱があっても休めない多忙なワーキングマザー。医者の夫との間に子どもができず、姑や患者にプレッシャーをかけられる主婦。外資系企業で働く妻の代わりに、二年間の育休をとり、1歳の娘を育てるエリート公務員。誰にも頼れず、いつしか限界を迎える彼らに、詩穂は優しく寄り添い、自分にできることを考え始める――。

手を抜いたっていい。休んだっていい。でも、誰もが考えなければいけないこと。
終わりのない「仕事」と戦う人たちをめぐる、優しさと元気にあふれた傑作長編!


こんなに真っ向から家事というものに焦点を当てた小説があっただろうか。専業主婦であれ、働く女性であれ、働く男性であれ、ひとり親であれ、独身者であれ、家事とは、生きていくうえで必ずやらなければならない仕事である。本作では、さまざまな立場や状況で、それぞれに家事に向き合い、愉しんだり、悩んだり、苦しんだりしながらも、それを投げ出せずにいる。そして、自分だけがこんなに大変なのだと、他者を攻めてイライラをぶつけ、悪循環に陥るのである。名前のない仕事とも言われる、日々の暮らしの中のほんとうに細かいあれこれから、人はどうしたって逃れることはできないのである。なので、家事というもののとらえ方を狭めてしまうと、人生の多くの時間を無駄にすることになるような気がする。それぞれが追い詰められている苦しさを、少しだけ体感できたような気持ちでもある。時にはほっぽり出すことも大切なのかもしれないと思わされる一冊でもあった。

小説の神様*相沢沙呼

  • 2018/10/08(月) 16:33:56

小説の神様 (講談社タイガ)
相沢 沙呼
講談社
売り上げランキング: 121,729

いつか誰かが泣かないですむように、今は君のために物語を綴ろう。

僕は小説の主人公になり得ない人間だ。学生で作家デビューしたものの、発表した作品は酷評され売り上げも振るわない……。
物語を紡ぐ意味を見失った僕の前に現れた、同い年の人気作家・小余綾詩凪。二人で小説を合作するうち、僕は彼女の秘密に気がつく。彼女の言う“小説の神様”とは? そして合作の行方は? 書くことでしか進めない、不器用な僕たちの先の見えない青春!



中学生でデビューした作家が同じクラスに二人もいるというのは、奇跡としか思えない設定ではあるが、もしそんなことがあったとしたら、普通に考えて、意気投合するか反発しあうか、完全に無視するかのどれかだろう。だが、彼らの場合はそのどれでもなく、二人でひとつの物語を紡ぐことになる。本作は、さまざまな要因を含みつつ、それをひとつずつ呑み込んで消化し、それでも消化しきれないものは少しでもかみ砕いて、二人でやっていこうとしっかりと思えるまでの物語である。自分と自分の編み出した物語を愛せるようにならないままでは、どうしたって二人でやっていくことはできなかったのである。自分たちの立ち位置を見極めたここからが、彼らの始まりなのだと思わされる一冊でもある。

菜の花食堂のささやかな事件簿 きゅうりには絶好の日*碧野圭

  • 2018/09/07(金) 16:25:52


「このあたりでは評判らしいですよ。ちょっとしたヒントから真実を見抜く、日本のミス・マープルだって」グルメサイトには載っていない、だけどとっても美味しいと評判の菜の花食堂の料理教室で靖子先生が教えてくれるのは、ささやかな謎と悩みの答え、そしてやっぱり美味しいレシピ。いつも駐車場に停まっている赤い自転車の持ち主は誰?野外マルシェでご飯抜きのドライカレーが大人気になったのはなぜ?小さな料理教室を舞台に『書店ガール』の著者が描き出す、あたたかくてほろ苦い大人気日常ミステリー、第二弾!


読む順番が逆になってしまったが、ピクルスの瓶詰を売ることになった経緯に、なるほど、と思った。そして、靖子先生の事情が垣間見られ、収まるところに収まったのだと胸をなでおろした。自分に関するな謎も自分で解いてしまう靖子先生なのであった。心を込めて丁寧に、ということをあらためて思わされるシリーズでもある。

菜の花食堂のささやかな事件簿 金柑はひそやかに香る*碧野圭

  • 2018/09/02(日) 18:50:42


「靖子先生、そういう謎を解くのが得意なんです。いつも、ちょっとしたヒントから真実を見つけてくれるんです」手を掛けたランチが評判の菜の花食堂を営む靖子先生はいつも、とびきりの料理と謎の答えと、明日へと進むためのヒントを手渡してくれる―。好き嫌いがないはずの恋人が手作りのお弁当を嫌がるのはなぜ?野菜の無人販売所の売上金が、月末に限って増えている理由は?小さな食堂の料理教室を舞台に『書店ガール』の著者が描き出す、あたたかくて美味しい大人気日常ミステリー、第三弾!


菜の花食堂、香奈さんと優希が手伝うようになって、それまでよりも少しずつ地域に開かれた、憩いの場になっているようである。新しいことに積極的に取り組み、宣伝も増やして、広く知ってもらう試みも、いままで以上にやっている。常連さんにも愛され、相変わらずさまざまな謎も持ち込まれる。靖子先生はほんの小さなとっかかりから見事に推理して解き明かしてしまうのだが、今回は、先生自身にまつわる謎を解き明かし、先生ご一家の心をも解きほぐしたのが、何よりの謎解きだったのかもしれない。菜の花食堂、ますます地域になくてはならない場所になっている。あたたかい気持ちになれる一冊だった。

オーパーツ 死を招く至宝*蒼井碧

  • 2018/05/04(金) 16:40:00


貧乏大学生・鳳水月の前に現れた、顔も骨格も分身かのように瓜二つな男・古城深夜。鳳の同級生である彼は、OOPARTS―当時の技術や知識では、制作不可能なはずの古代の工芸品―の、世界を股にかける鑑定士だと高らかに自称した。水晶の髑髏に囲まれた考古学者の遺体、夫婦の死体と密室から消えた黄金のシャトル…謎だらけの遺産に引き寄せられるように起こる、数多の不可解な殺人事件。難攻不落のトリックに、変人鑑定士・古城と巻き込まれた鳳の“分身倹ひ”の運命は?2018年第16回『このミステリーがすごい!』大賞大賞受賞作。


全くの他人でありながら、瓜二つの容貌を持つ古城深夜と鳳水月が、主に古城の主導によって事件に巻き込まれ、謎を解き明かすという趣向である。多分にマニアックな蘊蓄が語られているので、興味がある人には垂涎ものなのだろうが、それ以外の人には、とっつきにくい部分も多いかもしれない。キャラクタもまだ発展途上という印象で、続編があるなら、少しずつこなれていきそうな気はする。個人的にはあまり入り込めない一冊ではあった。

駒子さんは出世なんてしたくなかった*碧野圭

  • 2018/04/15(日) 10:41:05

駒子さんは出世なんてしたくなかった
碧野 圭
キノブックス (2018-02-28)
売り上げランキング: 50,724

水上駒子42歳。出版社で働く管理課課長。専業主夫の夫と高校生の息子あり。平穏な毎日に突然降りかかった昇進辞令。社内をかけめぐる噂と悪口、足を引っ張る年上の部下、女を使うことも厭わない同性ライバル…セクハラ・パワハラの横行する男社会をかいくぐり、駒子はどんな明日をつかむのか!?痛快お仕事小説!


出世欲はさほど強くないものの、出版社の管理課で課長を務める駒子さんが主人公である。家には、専業主婦の夫と息子がいて、日々はとてもうまく回っていると疑わなかったが、社内のセクハラ問題の後始末的な人事異動に始まり、駒子さん自身の昇進と新部署立ち上げという目の回る忙しさに加え、夫がカメラマンの仕事を再開することになって、家庭内にも不協和音が響き始める。あっちもこっちも、うまくいかないことだらけ。とは言いながらも、立ち止まってはいられない。人脈や熱意や、開き直りも駆使しつつ乗り越えていくことになるのである。掛け違った歯車にどこで気づき、どれだけ迅速に修正するかでその後の展開が変わってくるというのが伝わってくる。完璧な人間なんかどこにもいないのだから、頼り頼られながら、一歩ずつ前へ進めばいいのだ、と思わせてくれる一冊でもある。

妖盗S79号*泡坂妻夫

  • 2018/02/10(土) 07:47:44

妖盗S79号 (河出文庫)
泡坂 妻夫
河出書房新社
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神出鬼没の怪盗S79号!指輪に名画、名刀に化石まで、古今東西のお宝を、奇想天外な手口で次々と盗み出す。そんな中、世間では、連続猟奇殺人事件も発生中で、大混乱!果たして、警視庁のS79号専従捜査班は怪盗の正体とその真の目的を暴くことができるのか?ユーモラスで見事なトリックが光る傑作、待望の復刊!


妖盗S79号と専従捜査班の東郷と二宮の対決の物語である。あっという間に目的のものを盗み出し、尻尾を掴ませない妖盗S79号の鮮やかさと、妄念とも言える執着ぶりで逮捕に向けて捜査を続ける東郷の懸命ながら滑稽でもある様子の対比が面白さを増している。出てくる人出てくる人、みんなが怪しげなのもなかなかおかしい。ラストの種明かしには、いささか驚かされたが、味のある真実だったと思う。愉しめる一冊である。

木曜日にはココアを*青山美智子

  • 2017/12/22(金) 16:56:46

木曜日にはココアを
木曜日にはココアを
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青山 美智子
宝島社
売り上げランキング: 83,555

僕が働く喫茶店には、不思議な常連さんがいる。必ず木曜日に来て、同じ席でココアを頼み、エアメールを書く。僕は、その女性を「ココアさん」と呼んでいる。ある木曜日、いつものようにやって来たココアさんは、しかし手紙を書かずに俯いている。心配に思っていると、ココアさんは、ぽろりと涙をこぼしたのだった。主夫の旦那の代わりに初めて息子のお弁当を作ることになったキャリアウーマン。厳しいお局先生のいる幼稚園で働く新米先生。誰にも認められなくても、自分の好きな絵を描き続ける女の子。銀行を辞めて、サンドイッチ屋をシドニーに開業した男性。人知れず頑張っている人たちを応援する、一杯のココアから始まる温かい12色の物語。


登場人物もエピソードも、何一つ無駄がなく、点と点が見事にひとつながりになっている。次の話しでは、誰が誰とどんな風につながっているのだろう、という興味でどんどん愉しくなっていく。じんとしたり、ほろりとさせられたり、微笑ましく眺めたり、それぞれの物語もしっかりしているので、なお愉しめる。ただ、ひとつ気になったのは、「等親」という言葉。ない言葉ではないと思うが、「親等」の方がずっと一般的ではないだろうか。それとも何か意図があって、使ったのだろうか。いささか気になった。それ以外はとても愉しい一冊だった。

バック・ステージ*芦沢央

  • 2017/10/03(火) 19:09:24

バック・ステージ
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芦沢 央
KADOKAWA (2017-08-31)
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バラバラのピースがぴったりハマったラストに思わず「ビンゴ!」と大喝采!

新入社員の松尾はある晩会社で、先輩の康子がパワハラ上司の不正の証拠を探している場面に遭遇するが、なぜかそのまま片棒を担がされることになる。翌日、中野の劇場では松尾たちの会社がプロモーションする人気演出家の舞台が始まろうとしていた。「離婚したばかりのシングルマザー」「再会した同級生」「舞台に抜擢された新人俳優」「認知症の兆候が表れた大女優」舞台の周辺では、4つの事件が同時多発的に起き、勘違いとトラブルが次々発生。バラバラだったパズルのピース、それが松尾と康子のおかしな行動によって繋がっていき……。すべてのピースがピタリとはまったラストに、思わず「ビンゴ!」。毎日ストレスフルに働くあなたを、スッキリさせる「気分爽快」ミステリー!


別々の場所で、一見無関係のように起こる出来事が、次第に一本にまとまり、パズルのピースがパタパタとはまるように一枚の絵になっていく。好きな設定なのだが、この物語では、一本にまとまる過程の爽快感があまり感じられなかった気がする。なので、ラストまでカタルシスを得ることができなくて少し残念だった。面白くないわけではないのだが、それぞれの事件が自分の好みからはちょっぴりはずれていたということかもしれない。個人的には物足りなさもあったが、愉しめる一冊ではある。

書店ガール6 遅れてきた客*碧野圭

  • 2017/09/01(金) 07:29:54

書店ガール 6  遅れて来た客 (PHP文芸文庫)
碧野 圭
PHP研究所 (2017-07-11)
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彩加が取手の駅中書店の店長になってから一年半、ようやく仕事が軌道に乗り始めたと感じていたところ、本社から突然の閉店を告げられる。一方、編集者の伸光は担当作品『鋼と銀の雨が降る』のアニメ化が決定して喜ぶものの、思わぬトラブル続きとなり……。逆境の中で、自分が働く意味、進むべき道について、悩む二人が見出した答えとは。書店を舞台としたお仕事エンタテインメント第六弾。


今回の主役は、取手のエキナカ書店、本の森の店長の彩加と、東京の疾風文庫の編集長・小幡である。片や、やっと軌道に乗ってきた書店の閉店を告げられ、片や、小説のアニメ化に伴う駆け引きに悩まされ、それぞれがこの先進むべき道を手探りするなかで、周囲との関わりに助けられ、一歩ずつ進んでいく物語である。たくさんの理不尽と、本音と建て前、大人の事情や思いやるからこその葛藤。それぞれの心の動きが、それはもう溢れるほどに伝わってきて、読んでいるこちらまで苦しくなってくる。あっちもこっちも切ないが、助けてくれる人も必ずそばにいて、なんとか拓けていくのである。新しい一歩を踏み出そうと思わせてくれる一冊である。

貘の耳たぶ*芦沢央

  • 2017/08/30(水) 18:17:05

貘の耳たぶ
貘の耳たぶ
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芦沢 央
幻冬舎 (2017-04-20)
売り上げランキング: 109,756

帝王切開で出産した繭子は、あるアクシデントと異様な衝動に突き動かされ、新生児室の我が子を同じ日に生まれた隣のベッドの新生児と「取り替えて」しまう。取り替えた新生児は、母親学級で一緒だった郁絵が産んだ子だ。とんでもないことをしてしまった、正直に告白しなければ、いや、すぐに発覚するに違いない……、と逡巡するが、発覚することなく退院の日を迎える。そして、その子は「航太」と名付けられ、繭子の子として育っていく。罪の意識にとらわれながらも、育児に追われ、だんだん航太が愛しくなっていく繭子。やがて四年がたち、産院から繭子のもとに電話がかかってくる。
一方、郁絵は「璃空」と名付けた子を自分の子と疑わず、保育士の仕事を続けながらも、愛情深く育ててきた。しかし、突然、璃空は産院で「取り違え」られた子で、その相手は繭子の子だと知らされる。璃空と過ごした愛しい四年を思うと、郁絵は「血の繋がりがなんだというのだ」と思うのだが、周囲はだんだん「元に戻す」ほうへ話を進める。両家の食事会、バーベキュー、お泊まり……。郁絵の気持ちは揺らいでいく。


帝王切開で出産したことを、心のどこかで後ろめたく思い、不安定な気持ちで新生児室を覗いた繭子が、新生児につけられた名札が外れそうになっているのを見つけて、ついふらふらとそれを取り変えてしまったのは、動機としては弱いかもしれないが、産後の不安定さの中でかけられたふとした言葉や、ほかの母親と我が身を比べて、命を産み、これから育てていかなければならない責任と重圧に押しつぶされそうになり、自信を喪失する気持ちはとてもよく解る。そんな出来心でやってしまったことを、告白する機会を幾度も逃し、退院し、四年もそのままにしてしまったことに、弁解の余地はない。だが、繭子にとっても、子どもを取り違えられた郁絵にとっても、二人の子どもたちにとっても、あまりにも切なすぎる。繭子がもう少し強い心を持てていたら、とか、勇気をもって告白していたら、というのは簡単だが、そのときにはきっと、大きな流れに呑み込まれるように引きこまれてしまったのだろう、とも思う。子どもたちも、親たちも――繭子にはそんな日は来ないとわかってはいるが――、いつか心の傷が少しでも癒えて、屈託なく笑いあえる日が来ることを願うだけである。考えさせられることが多いが、切なすぎる一冊でもあった。

星に願いを、そして手を。*青羽悠

  • 2017/05/10(水) 10:10:21

星に願いを、そして手を。 (集英社文芸単行本)
集英社 (2017-02-24)
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「小説すばる新人賞」史上最年少受賞

大人になった僕たちの、“ 夢"との向き合い方。
16 歳の現役高校生が描く、ストレートな青春群像劇。

中学三年生の夏休み。宿題が終わっていない祐人は、幼馴染の薫、理奈、春樹とともに、町の科学館のプラネタリウムに併設された図書室で、毎年恒例の勉強会をおこなっていた。そんな彼らを館長はにこやかに迎え入れ、星の話、宇宙の話を楽しそうに語ってくれた。小学校からずっと一緒の彼らを繋いでいたのは、宇宙への強い好奇心だった。宇宙の話をするときはいつでも夢にあふれ、四人でいれば最強だと信じて疑わなかった。時が経ち、大人になるまでは――。
祐人は昔思い描いていた夢を諦め、東京の大学を卒業後、故郷に帰り、公務員となった。そんな祐人を許せない理奈は、夢にしがみつくように大学院に進み、迷いながらも宇宙の研究を続けている。薫は科学館に勤め、春樹は実家の電気店を継いだ。それぞれ別の道を歩いていた彼らが、館長の死をきっかけに再び集まることになる――。
第29 回小説すばる新人賞 受賞作


宇宙への興味と憧れで最強に結びつけられていた高校時代の四人、裕人・理奈・春樹・薫。大人になって、夢は夢としてそれぞれの道を歩んでいる現在、放課後の長い時間を過ごしていた科学館の館長の訃報を受け、思いは現在から過去へ、消化しきれないまま置き去りにしてきてしまったなにかへと戻っていく。その後、追い打ちをかけるように科学館の閉館が決まり、館長夫妻の事情も絡めて、答えを探す心の旅に身を置くことになるのである。そこここに若さゆえの角の取れない感じがある印象もあるが、基本的に前向きで、あしたを信じられるストーリー展開には好感が持てる。高校時代を懐かしく思い出させられる一冊でもある。

雨利終活写真館*芦沢央

  • 2017/01/22(日) 19:23:36

雨利終活写真館
雨利終活写真館
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芦沢 央
小学館
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巣鴨の路地裏にひっそり佇む、遺影専門の写真館。祖母の奇妙な遺言が波紋を呼ぶ(「一つ目の遺言状」)。母の死を巡る、息子と父親の葛藤(「十二年目の家族写真」)。雨利写真館に残る1枚の妊婦写真の謎(「三つ目の遺品」)。末期癌を患う男性の訳ありの撮影(「二枚目の遺影」)。見事な謎解きで紡ぎ出すミステリー珠玉の4編。


遺影専門の写真館が舞台である。高齢化社会故でもあるのだろう、昨今、「終活」という言葉を目にする機会が、以前と比べて随分と増えてきている。そんな折にタイムリーな設定である。雨利終活写真館のスタッフは、終活コーディネーターの永坂夢子(金儲け主義)、アシスタントの道頓堀(似非大阪弁のお調子者)、カメラマンの雨利(不愛想で態度が悪い)、そして一話目の主人公で、後に雨利写真館のスタッフになる元有名美容室のヘアメイク・黒子ハナ、と癖がありすぎる面々である。依頼される案件も、ひと口に遺影と言っても事情はさまざまで、事前のカウンセリングで聞き出した客の要望に添うように考えて撮影される。そして、それぞれの事情にただならむものを感じ取り、ついつい首を突っ込んで真相を解き明かそうとしてしまうのがハナの悪い癖である。道頓堀がナイスアシストし、雨利がぼそりとつぶやくひと言が、意外なヒントになったりして、すっかり謎解き集団になっている。今作は、登場人物の紹介っぽくもあるし、シリーズ化されたら嬉しいと思う一冊である。

何様*朝井リョウ

  • 2016/11/14(月) 07:16:59

何様
何様
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朝井 リョウ
新潮社
売り上げランキング: 1,343

生きていくこと、それは、
何者かになったつもりの自分に裏切られ続けることだ。
光を求めて進み、熱を感じて立ち止まる。
今秋映画公開予定『何者』アナザーストーリー集。

光太郎が出版社に入りたかったのはなぜなのか。
理香と隆良はどんなふうに出会って暮らし始めたのか。
瑞月の両親には何があったのか。拓人を落とした面接官の今は。
立場の違うそれぞれの人物が織り成す、`就活'の枠を超えた人生の現実。
直木賞受賞作『何者』から3年。いま、朝井リョウのまなざしの先に見えているものは――。


『何者』のアナザーストーリーなので、もちろん読んでいれば、あちこちになるほどと思えることが出てきて、何者の登場人物たちのキャラクタがより補完され、深く知ることができる。だが、本作単体でも充分に読み応えがある。人が抱える己の不充分さや未熟さ、それでも何事かを成しながら生きていかなければならないという葛藤の中で、より自らの内面を見つめ、他者の救いを求めるのかもしれない。著者の人間観察の充実ぶりに驚かされる一冊でもある。

許されようとは思いません*芦沢央

  • 2016/08/13(土) 09:11:44

許されようとは思いません
芦沢 央
新潮社
売り上げランキング: 49,588

あなたは絶対にこの「結末」を予測できない! 新時代到来を告げる、驚愕の暗黒ミステリ。かつて祖母が暮らしていた村を訪ねた「私」。祖母は、同居していた曾祖父を惨殺して村から追放されたのだ。彼女は何故、余命わずかだったはずの曾祖父を、あえて手にかけたのか……日本推理作家協会賞短編部門ノミネートの表題作ほか、悲劇をひき起こさざるを得なかった女たちを端整な筆致と鮮やかなレトリックで描き出す全五篇。


表題作のほか、「目撃者はいなかった」 「ありがとう、ばあば」 「姉のように」 「絵の中の男」

どの物語も昏く凄惨で救いがないように見える。だが、ラストの思ってもみない仕掛けによって、それまで見えていたものとは全く違う世界が立ち現われ、一点の救いの光が差してくるものもある。どれも読後感がいいとは言えないが、すっと納得できる一冊である。