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真実への盗聴*朱野帰子

  • 2019/06/16(日) 16:57:31

真実への盗聴
真実への盗聴
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朱野 帰子
講談社
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結婚して間もない七川小春は、勤め先のブラック会社を退職した。高齢化が進み年金負担が激増する社会で、小春は寿命遺伝子治療薬「メトセラ」を開発したアスガルズ社の採用に応募する。
じつは小春は19年前に受けた遺伝子治療の副作用で、聴覚が異常に発達していた。その秘密を知るアスガルズ社の黒崎は、「メトセラ」の製品化を阻もうとする子会社に、小春をスパイとして派遣する。


はっきりと時代は書かれてはいないが、どうやら近未来の物語のようである。遺伝子治療、年金破綻、格差拡大、極端な少子高齢化、そして、サプリメントのように気軽に服用できるという触れ込みの延命薬の実用化。どの要素も、本当にすぐそこまで迫ってきているような恐ろしさが、足元からひたひたとせり上がってくるような気がする。人としての幸せとはなんだろう、と考えさせられてしまう一冊である。

駅物語*朱野帰子

  • 2019/05/31(金) 16:34:42

駅物語
駅物語
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朱野 帰子
講談社
売り上げランキング: 780,345

「大事なことを三つ言っとく。緊急時は非常停止ボタン。間に合わなければ走れ。線路に落ちたら退避スペースに入れ」 酔っ払う乗客、鉄道マニアの同期、全自動化を目論む副駅長に、圧倒的な個性をもつ先輩たち。毎日100万人以上が乗降する東京駅に配属された若菜は、定時発車の奇跡を目の当たりにし、鉄道員の職務に圧倒される。臨場感あふれる筆致で駅を支える人と行き交う人を描ききった、書き下ろしエンターテインメント!


東京駅の舞台裏、という感じの物語である。電車が定時にやってきて、何事もなく目的地に到着する、という普段気にも留めないことの裏側に、これほどたくさんの人の努力や苦労や緊張や覚悟があるのだということに、改めて感謝したくなる。なんて過酷な仕事なのだ、という思いとともに、責任と誇りをもって業務にあたっている駅員さんたちの姿に敬意を表したくなる。一方、そんな彼らも普通の人。プライベートな悩みも屈託もあり、人間関係の煩わしさに悩まされたりもするのだが、日々少しずつ、相手の立場に立ち、相手を慮ろうとする姿勢も見られるようになり、じわじわとなくてはならない存在になっていくのである。何かあった時に、頼りたいと思う仲間がいることに胸が熱くなる。駅員さんウォッチを目的に東京駅に行きたくなる一冊である。

TIMELESS*朝吹真理子

  • 2019/05/29(水) 09:56:19

TIMELESS
TIMELESS
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朝吹 真理子
新潮社
売り上げランキング: 18,918

空から死は降ってこない。降ってくるとしたら、それは――。芥川賞受賞から七年、待望の新作長篇。恋愛感情のないまま結婚し、「交配」を試みるうみとアミ。高校時代の広島への修学旅行、ともに歩く六本木、そこに重なる四百年前の土地の記憶、いくつものたゆたう時間。やがてうみは妊娠、アミは姿を消す。――二〇三五年、父を知らぬまま17歳になった息子のアオは、旅先の奈良で桜を見ていた……。待望の芥川賞受賞後第一作。


独特の雰囲気のある作品である。物語全体にごく薄い斜がかかっているような、触れられそうで触れられず、届きそうで届かないような、なんと話のもどかしさが充満している。さらには、あらゆる感覚が曖昧で、現在なのか過去なのか、自分なのか他人なのかも時としてまじりあう。同じ場所に、薄紙を重ねるように時間が降り積もって現在に至り、ある時ふとしたきっかけで底が抜けて、薄紙の裂け目から過去の時間に落ちていくような感覚である。そして、過去の自分とは無関係な事々との近さに比して、身近なにいる人との関係がとても頼りなく感じられもする。読みながら、薄い羽衣のようなものに絡めとられていく心地になる一冊である。

賢者の石、売ります*朱野帰子

  • 2019/05/22(水) 20:42:36

賢者の石、売ります
賢者の石、売ります
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朱野 帰子
文藝春秋
売り上げランキング: 144,469

科学の正しさが人を幸せにする。その信念ゆえに、賢児は会社や家庭で孤立を深めるが……。人間関係に不器用な青年の成長物語。


科学を愛する少年だった賢児は、親友の譲と科学館に入り浸り、夢を語った。科学者になることにあこがれたが、現実はなかなか思い通りにならず、「商人」になる。だが、世の中には似非科学に騙され、それを利用するような似非科学商品を作って売る人がいる。そんな部署に異動させられ、似非科学製品を排除することに心を傾けるようになる。当然会社では変人扱いであり、孤立することになる。家に帰れば、未開人の代表のような姉の美空にいらいらさせられ、母との関係もうまくいかない。科学とは、正義とは、さらには人との関わりに大切なものとは何かを考えさせられる。科学絶対主義に凝り固まっていた賢児の視野がほんの少し広がって、これからの行動の仕方に変化がありそうな兆しが見えて、応援したくなる。数年後の賢児を見てみたいと思わされる一冊である。

真壁家の相続*朱野帰子

  • 2019/05/12(日) 16:26:24

真壁家の相続
真壁家の相続
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双葉社 (2015-04-24)
売り上げランキング: 15,155

ある日、大学生の真壁りんは、祖父の死を知らされた。急いで葬儀会場へ向かい、真壁家の一族が集まったところで、一人の青年が現れる。彼が「隠し子」と名乗ったことを皮切りに、相続の話し合いは揉めに揉めることに。マイペース、しっかり者、自由人、冗談好き、ゴシップ通…。一人一人はいい人なのに、火種が次々と浮上し家族は崩壊寸前。解決に奔走するりんは、真壁家一族で笑い合える日々を取り戻すことができるのか?笑って泣けるホームドラマの傑作。


まさに実際にありそうで、他人事とは思えずに読み通した。ほとんどの人が、自分の家族は仲が良く、相続の揉め事など無関係だと思っているはずだが、ひとたび火がつくと、ほんの小さな火種が、とんでもない大火事にもなり得ることが、その家庭とともに実感されて、自分が真壁家の協議の場に同席しているような沈鬱な気分にさせられる。そんな中、始終気働きに徹し、自己主張もせずに穏やかにそこにいたりんの母・容子(死亡した祖父の息子の嫁)の態度の訳が、最後の最後に明らかにされて、つい「ふふふ、なかなかやるな」と、ほくそ笑んでしまった。真壁家の相続問題は何とか円満に着地したが、日本のあちこちでいままさに修羅場を演じている家族がたくさんあるのだろうと思うと、安閑とはしていられない心地でもある。その時が来たら、我が家の相続が円満に運びますように、と願わずにはいられない一冊である。

くらやみガールズトーク*朱野帰子

  • 2019/05/07(火) 16:46:12

くらやみガールズトーク
朱野 帰子
KADOKAWA (2019-03-01)
売り上げランキング: 162,045

女性の人生には通過儀礼が沢山ある。たとえば結婚。もう21世紀だというのに、当然のように夫の名字を与えられ、旧姓は消えてしまう。気づいた時は自分が自分でなくなり、夫の家の「モノ」とされてしまうのではないかという不安は、胸の奥にとじこめればとじこめるほど、強いエネルギーに育って、くらやみの扉をこじあけてしまう。他にも、独り暮らし、恋、子育て、親の痴ほう……。自分で選んだ人生のはずなのに、古い社会通念の箱に押し込められ、じわじわと別のものに変容させられていくのはなぜなのだろう? そんな誰にも言えない恐怖を、静かに見つめ、解放してくれる物語。新しい時代を自由に自分らしく生きたいと願う女性たちへの応援歌。30代、40代の女性たちの代弁者・朱野帰子の最新作!


よく考えてみれば、特に変わったことが書かれているわけではない。何となく普通だと思い、深く考えることなく受け入れてやってきたことが、ほんの少し視点をずらしてみてみるだけで、こんなにも普通でなくなり、歪んだものに見えてくることに驚きさえ覚える。そしてそんな自分にまた驚くのである。なんと不用意に生きてきたことか、と。でも、いちいちここに引っかかっていたら、現実には恐ろしく生き辛いだろうな、とも思う。鈍感で居られるからこそ、心の平安を得られるのかもしれない、とも思う。とはいえ、いちいち腑に落ちてしまう一冊でもあった。

わたし、定時で帰ります。 ハイパー*朱野帰子

  • 2019/04/30(火) 21:19:37

わたし、定時で帰ります。 :ハイバー
朱野 帰子
新潮社
売り上げランキング: 1,798

定時の女王は体育会系ブラック企業に勝てるのか!? 大注目のお仕事小説第二弾。絶対に残業しない主義の結衣だったが、なんと管理職になってしまう。新人教育を任されたものの、個性的過ぎる若者たちに翻弄される結衣。そんな折、差別的なCMで炎上中の企業のコンペに参加することに。パワハラ、セクハラのはびこる前時代的で超絶ブラックな社風に、結衣は絶句するが……。


さすがタイトルに「ハイパー」とつくだけはある。前作に比べ、取引企業のブラック度のひどさは飛びぬけている。しかも、管理職になった結衣の下に着いた新人たちのキャラも個性派ぞろいで、一般的な新人の概念ではくくれない。とはいえ、なんだかんだで、結衣の味方は多くもあるのである。しかも今作では、上海からも強力な味方が現れるのもハイパーだ。残業漬けの日々を送りながらも、それでいいはずがないと思っている人はたくさんいるのである。胸が痛む描写も多々あるが、ひとつずつクリアして前へ進まなければ、どうにもならないのだろう。定時で帰る結衣だからこそできることもあるのである。ラストでは、結衣にとうとう新しい帰る場所ができそうで、心底ほっとする。フィクションとは思えない凄まじさでもあるが、要は人のつながりだとも思わせてくれるシリーズである。

早朝始発の殺風景*青崎有吾

  • 2019/04/27(土) 18:54:43

早朝始発の殺風景
早朝始発の殺風景
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青崎 有吾
集英社 (2019-01-04)
売り上げランキング: 83,724

青春は気まずさでできた密室だ――。
今、最注目の若手ミステリー作家が贈る珠玉の短編集。
始発の電車で、放課後のファミレスで、観覧車のゴンドラの中で。不器用な高校生たちの関係が、小さな謎と会話を通じて、少しずつ変わってゆく――。
ワンシチュエーション(場面転換なし)&リアルタイム進行でまっすぐあなたにお届けする、五つの“青春密室劇”。書き下ろしエピローグ付き。


タイトルに想像力を掻き立てられて手に取ったのだが、それはちょっとずるいんじゃないの、というのが第一印象だった。だが、読み進むうちに、そんなことはどうでもよくなってくるほど興味を掻き立てられてしまう。ほんの狭い範囲の短い期間しか描かれていないのだが、ひとつひとつの平面的な物語が、シャドーボックスのように重ねられて立体感を増し、最後にひとつの絵になっていく経過を見せられているようでもある。そしてその平面的な絵の一枚一枚に謎があり、それが見事に解決されるのだから、わくわく感が募るのである。それぞれの物語のシチュエーションも何気なくて魅力的である。読みやすくて愉しめる存外(失礼)中身の濃い一冊だった。

ガラスの殺意*秋吉理香子

  • 2019/04/03(水) 16:43:12

ガラスの殺意
ガラスの殺意
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秋吉 理香子
双葉社
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「憎きあいつを殺したのは……私!?」二十年前に起きた通り魔事件の犯人が刺殺された。
警察に「殺した」と通報したのは、同じ事件で愛する両親を失った女性。
だが、彼女はその現場から逃げる途中で交通事故に遭い、脳に障害を負っていた。
警察の調べに対し、女性による殺害の記憶は定かでない。
復讐は成し遂げられたのか、最後に待つ衝撃の真相とは?
驚愕の長編サスペンス・ミステリー!


事故による高次脳機能障害のせいで、記憶が保持できなくなった柏原麻由子は20年前に両親を殺した通り魔の男を刺殺したと自ら警察に通報し逮捕される。だが、記憶がとどまらないために、捜査は難航し、麻由子自身も自分がどうして、なんのためにその場所にいるのかが頻繁にわからなくなる。通り魔から逃げる途中の麻由子を車ではね、現在の状況の原因を作った光治は、麻由子の夫となり、献身的に介護をしている。母親のように親しくし、麻由子を支えてくれる久恵という存在もある。取り調べを担当する刑事、桐谷優香と野村淳二のとの捜査などあれこれとの二本立てで物語は進む。記憶障害ゆえのもどかしさに加え、なにか割り切れない事件の在りようが、もやもや感を増すのだが、あるところから、これはもしや、と思わされる。それからは間違った方へ進まないようにと祈るような気持ちで読み進んだ。解決に導く場面は、いささか偶然に頼りすぎな感もなくはないが、物語の興味を損なうほどのものではないだろう。ラストの切ない幸福感は堪らない。もろくはかなく愛にあふれた一冊だった。

絶対正義*秋吉理香子

  • 2019/02/21(木) 16:43:00

絶対正義
絶対正義
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秋吉 理香子
幻冬舎 (2016-11-10)
売り上げランキング: 82,717

範子はいつでも礼儀正しく、一つの間違いも犯さず、また決して罪を許さない。なにより正義を愛していた。和樹は、痴漢から助けてもらった。由美子は、働かない夫を説得してもらった。理穂は、無実の罪を証明してもらった。麗香は、ピンチを救われチャンスを手にした。彼女たちは大いに感謝し、そして、のちに範子を殺した。しかし、死んだはずの範子からパーティへの招待状が届いた。そこで、四人が見たものとは―?


正義は悪いことのはずはない。それは確かなことだが、そこに絶対がつくと、いささか腑に落ちない場面も出てくるのである。高校の仲好し五人組、のはずだったが、ひとり、四角四面に正義を押し通す則子という存在があまりにも大きくて、ほかの四人の人生を大きく変えることになってしまう。法律に則っていないことは悪、ということは、裏を返せば法律を犯しさえしなければ何をしてもいい、ということにもなりかねない。正義についていろいろと考えさせられる物語である。そして、普段の生活の中で、厳密にいえば法を犯していることのなんと多いことか、ということにも驚かされるのである。身体の芯が冷たくなるような恐ろしさの一冊だった。

わたし、定時で帰ります。*朱野帰子

  • 2019/02/04(月) 16:40:38

わたし、定時で帰ります。
朱野 帰子
新潮社
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絶対に残業しないと決めている会社員の結衣。個性豊かな同僚たちに揉まれながら働く彼女の前に、無茶な仕事を振って部下を潰すというブラック上司が現れて―。新時代を告げるお仕事小説、ここに誕生!


壮絶なお仕事小説である。定時に帰れる会社を目指し、ひとり戦う会社員の結衣が主人公。周りの評価は様々で(とはいえ概ね仕事に熱心ではないという評価なわけである)、それにめげずに定時帰社を貫こうとする結衣なのである。現状は、結衣ひとりがどう足掻いても、同僚や後輩、上司までもが敵であり、みんな仕事に取り憑かれたように自分を痛めつけるような残業を続ける。恋愛にも職場環境にもジレンマを抱える結衣の奮闘ぶりと、周囲の亀の歩みのような変化が見どころである。まだまだすっきり解決したわけではないが、ここからがきっと勝負だろう。イライラもやもやしながらも、終始結衣を応援した一冊である。

会社を綴る人*朱野帰子

  • 2019/01/04(金) 21:06:05

会社を綴る人
会社を綴る人
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朱野 帰子
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何をやってもうまくできない紙屋が家族のコネを使って就職したのは老舗の製粉会社。
唯一の特技・文を書くこと(ただし中学生の時にコンクールで佳作をとった程度)と
面接用に読んだ社史に感動し、社長に伝えた熱意によって入社が決まったと思っていたが――
配属された総務部では、仕事のできなさに何もしないでくれと言われる始末。
ブロガーの同僚・榮倉さんにネットで悪口を書かれながらも、紙屋は自分にできることを探し始める。
一方、会社は転換期を迎え……?会社で扱う文書にまつわる事件を、
仕事もコミュニケーションも苦手なアラサー男子が解決!?
人の心を動かすのは、熱意、能力、それとも……?
いまを生きる社会人に贈るお仕事小説。


面白い構成の物語である。物語の大部分で、ほとんどの人が仮名なのである。なぜかというと、会社の暗黒部分をブログにアップしている同僚の榮倉さんが、つけた名前だからである。主人公の紙屋(仮名)は、劣等感の塊であり、実際に何をやらせてもまともにできない。唯一できることといえば、文章を綴ることくらいなものである。優秀な商社マンの兄のコネで製粉会社に入った紙屋は、周りに迷惑をかけながらも、自分に正直に文章を綴り続ける。タイトルを見ると、創業時からの社史編纂に関わる物語を想像してしまうが、紙屋が書くのは、社内メールや工場の安全標語、営業部のプレゼン資料や広報誌にのせるコラムの添削など、日常の業務のほんの一端である。それでも、紙屋の与えられた仕事に真摯に向き合う姿は、少しずつ周囲の見方を変えていく。真面目なのはいいことだ、正直に生きるのは素晴らしいことだ、と思わされる。自分は何もできないと自覚したうえで、これならできると思えたことに真摯に向かう姿は人の胸を打つ。紙屋の正直さが、社内の人間関係や、日々の在り方にまで影響を及ぼす様子を見ると、なぜかほっとする。紙屋(本名・菅谷大和)のことをもっと知りたいと思わされる一冊だった。

書店ガール 7*碧野圭

  • 2018/12/20(木) 18:42:18

書店ガール7 旅立ち (PHP文芸文庫)
碧野 圭
PHP研究所
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中学の読書クラブの顧問として、生徒たちのビブリオバトル開催を手伝う愛奈。故郷の沼津に戻り、ブックカフェの開業に挑む彩加。仙台の歴史ある書店の閉店騒動の渦中にいる理子。そして亜紀は吉祥寺に戻り…。それでも本と本屋が好きだから、四人の「書店ガール」たちは、今日も特別な一冊を手渡し続ける。すべての働く人に送る、書店を舞台としたお仕事エンタテインメント、ついに完結!


本シリーズも完結か、と思って読むと、ほんとうにいろいろなことがあったものだなぁという感慨が押し寄せてくる。ただひとつ、最初から最後まで変わらないのは、書店員たちの本に対する愛情である。ただ、活字離れが叫ばれ、紙の本の需要も減り、さらにはネット書店の台頭で、町の本屋さんの閉店が相次ぐ昨今、経営者サイドからすれば、本への愛情だけでやっていけるものでもないという事情もよくわかる。それでもやはり、最後の最後まで、お客様と共にある空間のために、情熱を注ぐのも書店員なのだろう。愛奈、彩加、理子、亜紀それぞれにスポットが当てられてはいるが、やはり理子の章の読み応えが群を抜いている。「ネットで買うのは作業だけど、本屋で買うのは体験」という言葉が印象に残る一冊だった。

小説の神様 あなたを読む物語 上*相沢沙呼

  • 2018/11/27(火) 19:34:35

小説の神様 あなたを読む物語(上) (講談社タイガ)
相沢 沙呼
講談社
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もう続きは書かないかもしれない。合作小説の続編に挑んでいた売れない高校生作家の一也は、共作相手の小余綾が漏らした言葉の真意を測りかねていた。彼女が求める続刊の意義とは…。その頃、文芸部の後輩成瀬は、物語を綴るきっかけとなった友人と苦い再会を果たす。二人を結びつけた本の力は失われたのか。物語に価値はあるのか?本を愛するあなたのための青春小説。


読み始める前に、既読の『小説の神様』を上下巻に分けたのかと、ちょっと迷ったのだが、純然たる続編である(ちょっぴり紛らわしい)。時間もほとんど前作と地続きで、小余綾や千谷の抱える悩みもほぼそのままの状態からの続きなので、目新しさはほとんどない。人々にとって小説とは何か、という大きすぎる問題がいつも目の前にあり、自分がどういう姿勢でそれに向かうのかという葛藤から逃れることができずに、何もかもが混沌としているような印象である。この悩みから抜け出すことはできるのだろうか。抜け出せれば、合作小説も目覚ましく進捗するのだろうか。それは本作ではまだわからない。文芸部の成瀬の友人たちに対する心の持ちようにも少しずつ変化が現れ、こちらは少し明るいが、中学時代の友人真中との関係は、なかなか難しいままである。下巻では、これらがすべて解決されるのだろうか。不安要素はたくさんある気がする。ともかく下巻を早く読みたいシリーズである。

火のないところに煙は*芦沢央

  • 2018/11/01(木) 13:37:32

火のないところに煙は
芦沢 央
新潮社
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本年度ミステリ・ランキングの大本命! この面白さ、《決して疑ってはいけない》……。「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」。突然の依頼に、かつての凄惨な体験が作家の脳裏に浮かぶ。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。作家は、事件を小説にすることで解決を目論むが――。驚愕の展開とどんでん返しの波状攻撃、そして導かれる最恐の真実。読み始めたら引き返せない、戦慄の暗黒ミステリ!


普段怪談など書かない作家が依頼を受け、過去の体験を思い出して小説にするが、それに紐づけられるように、次々と不思議な話が舞い込んでくる。論理的な考えをめぐらし、解決策を探ってみたりするが、知らず知らずのうちに、形のない流れに取り込まれていくのだった。どれもがまったく別個の出来事だと信じて疑わなかった作家が、ある共通点に気づいたとき、それまでの恐ろしさが倍増する。不安と恐怖の連鎖の物語でもある。物語が終わっても、恐怖は何も終わっていないと、さらに恐ろしくなる一冊である。