「茶の湯」の密室*愛川晶

  • 2018/02/22(木) 18:24:48

「茶の湯」の密室: 神田紅梅亭寄席物帳 (ミステリー・リーグ)
愛川 晶
原書房
売り上げランキング: 489,201

知り合いの茶会に招かれた山桜亭馬伝の妻亮子。思っていた以上に本格的な席で、緊張が先立つなか、亮子はほんの一瞬、そこにいるはずのない猫を見てしまう。話を聞いた馬伝はその奥にある「謎」を見抜くのだが…五年ぶりに復活した「紅梅亭」シリーズ新ステージ、新たな人物も登場し、物語も謎も充実の開幕!


訳あって前作を飛ばしてしまったので、一気に時が経ち、福の助は真打になって馬伝を名乗っているし、馬春師匠もぼつぼつではあるが高座に復帰している。八ちゃんと亮子夫妻には雄太という息子までできていて、驚かされたものの、ほっと胸をなでおろしもする。だが、高座で落語に絡めて謎解き披露をするという趣向は変わらず、相変わらずはらはらしながら愉しめる。今回は、いささか物騒な謎が多いが、それがなおさらハラハラドキドキ感を増している。早く前作も読まなくちゃ、と思わされる一冊である。

うまや怪談*愛川晶

  • 2018/02/21(水) 13:22:08

うまや怪談 (神田紅梅亭寄席物帳) (ミステリー・リーグ)
愛川 晶
原書房
売り上げランキング: 1,110,991

高座で「罠」を打ち返し、怪談噺で謎を解き、ついには「あの人」を引っ張り出して…動き出す木彫りのねずみ、落語競演会で仕掛けられた「陰謀」学校での「妙ちきりんな事件」と義兄の結婚問題、そして師匠と十五センチの謎と駐車場で見たもの、これがあんなでそんなことに…。大好評「本格落語」シリーズ第三弾。


今回はなんと福の助が馬春師匠の知恵を借りずに謎を解き明かしてしまう。しかもそれが後々厄介事を引き起こすことになり、さらに思いがけない吉報をもたらすことにもなるのだから、なにが起こるか目が離せない。福の助の察しの良さはもちろん、妻の亮子も段々と落語に絡めて推し量ることができるようになっているのが、噺家のおかみさんとしても頼もしさを感じる。ただ、個人的には馬春師匠の浮気話はどうしても好きになれない。せっかく格好良かったのにがっかりである。それが謎解きの要素のひとつにもなったのだから仕方がないのかもしれないが……。それ以外は、スカッと小気味よく愉しめる一冊だった。

芝浜謎噺 神田紅梅亭寄席物帳*愛川晶

  • 2018/02/17(土) 18:14:03

芝浜謎噺―神田紅梅亭寄席物帳 (ミステリー・リーグ)
愛川 晶
原書房
売り上げランキング: 824,706

あの「芝浜」を、故郷で病気の母に聞かせてやりたい……。
なんとかしてやりたいと弟弟子のために悩む八ちゃんこと寿笑亭福の助。そこへ起こった「紅梅亭ダイヤ消失事件」。ところがこぼれたカルピスが引き金になって、「芝浜」も「ダイヤ」もすべてに合点!
笑いあり、ほろりと泣ける、本格落語ミステリー第二弾!


落語の知識がなくても、落語の薀蓄に耳を傾けたくなり、俄か落語通になった心持ちになれる。しかも、人情話としても泣かせどころが満載。さらに、日常の謎を落語にかけて、しかも高座の上で解き明かし、客席の当事者をぐうの音も出ない状態にさせてしまう技の見事さにやられてしまう。探偵役を務める福の助はもちろん格好いいが、彼にヒントを与える師匠の馬春がさらに格好いい。今回はことにお見事としか言いようがない。何度も泣かされる一冊である。

妖盗S79号*泡坂妻夫

  • 2018/02/10(土) 07:47:44

妖盗S79号 (河出文庫)
泡坂 妻夫
河出書房新社
売り上げランキング: 116,267

神出鬼没の怪盗S79号!指輪に名画、名刀に化石まで、古今東西のお宝を、奇想天外な手口で次々と盗み出す。そんな中、世間では、連続猟奇殺人事件も発生中で、大混乱!果たして、警視庁のS79号専従捜査班は怪盗の正体とその真の目的を暴くことができるのか?ユーモラスで見事なトリックが光る傑作、待望の復刊!


妖盗S79号と専従捜査班の東郷と二宮の対決の物語である。あっという間に目的のものを盗み出し、尻尾を掴ませない妖盗S79号の鮮やかさと、妄念とも言える執着ぶりで逮捕に向けて捜査を続ける東郷の懸命ながら滑稽でもある様子の対比が面白さを増している。出てくる人出てくる人、みんなが怪しげなのもなかなかおかしい。ラストの種明かしには、いささか驚かされたが、味のある真実だったと思う。愉しめる一冊である。

道具屋殺人事件――神田紅梅亭寄席物帳*愛川晶

  • 2018/02/04(日) 13:24:20

道具屋殺人事件──神田紅梅亭寄席物帳  [ミステリー・リーグ]
愛川 晶
原書房
売り上げランキング: 1,007,204

高座の最中に血染めのナイフがあらわれる、後輩は殺人の疑いをかけられる、妻の知り合いは詐欺容疑……。次から次へと起こる騒動に、二つ目、寿笑亭福の助が巻き込まれながらも大活躍! 落語を演じて謎を解く、一挙両得の本格落語ミステリー!


神田の紅梅亭がらみの厄介事を、二つ目の福の助が妻の亮子の助けや、病を得て館山に引っ込んでいる元師匠の馬春の絶妙なアシストによって解き明かし、落語に寄せて講座で披露するという趣向である。謎解きに至る過程も興味深く、いよいよ事実を明らかにする落語の場面も胸がすく。登場人物たちもみな味のあるキャラで、読み進めるにつれて馴染みになっていく心持ちになる。落語好き、ミステリ好き、どちらもが満足する一冊である。

手がかりは「平林」*愛川晶

  • 2018/01/15(月) 18:49:24


落語を聞いていた児童たちのたわいない言葉遊びがお伝さん襲撃事件に意外なかたちでむすびつく(「手がかりは『平林』」)、お伝さんのテレビ出演から血縁問題がもちあがり大金が絡んで遺産騒動に!そこで犯人あぶり出しになんと「立体落語」を持ち出す(「カイロウドウケツ」)。落語好きからミステリマニアまで楽しめるシリーズ最新刊!


シリーズとは知らずに最新刊から読んでしまったが、物語自体は、問題なく愉しめる。別のシリーズの神楽坂倶楽部の関係者もちらっと登場し、行き来のあるシリーズになっているようなのが、愉しくもある。謎解き自体も、それぞれ違った趣向で、お伝の生い立ちに絡む複雑な事情と相まって、嫌でも興味をそそられる構成である。これから先も愉しみだが、遡って読んでみたいシリーズである。

木曜日にはココアを*青山美智子

  • 2017/12/22(金) 16:56:46

木曜日にはココアを
木曜日にはココアを
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青山 美智子
宝島社
売り上げランキング: 83,555

僕が働く喫茶店には、不思議な常連さんがいる。必ず木曜日に来て、同じ席でココアを頼み、エアメールを書く。僕は、その女性を「ココアさん」と呼んでいる。ある木曜日、いつものようにやって来たココアさんは、しかし手紙を書かずに俯いている。心配に思っていると、ココアさんは、ぽろりと涙をこぼしたのだった。主夫の旦那の代わりに初めて息子のお弁当を作ることになったキャリアウーマン。厳しいお局先生のいる幼稚園で働く新米先生。誰にも認められなくても、自分の好きな絵を描き続ける女の子。銀行を辞めて、サンドイッチ屋をシドニーに開業した男性。人知れず頑張っている人たちを応援する、一杯のココアから始まる温かい12色の物語。


登場人物もエピソードも、何一つ無駄がなく、点と点が見事にひとつながりになっている。次の話しでは、誰が誰とどんな風につながっているのだろう、という興味でどんどん愉しくなっていく。じんとしたり、ほろりとさせられたり、微笑ましく眺めたり、それぞれの物語もしっかりしているので、なお愉しめる。ただ、ひとつ気になったのは、「等親」という言葉。ない言葉ではないと思うが、「親等」の方がずっと一般的ではないだろうか。それとも何か意図があって、使ったのだろうか。いささか気になった。それ以外はとても愉しい一冊だった。

バック・ステージ*芦沢央

  • 2017/10/03(火) 19:09:24

バック・ステージ
バック・ステージ
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芦沢 央
KADOKAWA (2017-08-31)
売り上げランキング: 16,923

バラバラのピースがぴったりハマったラストに思わず「ビンゴ!」と大喝采!

新入社員の松尾はある晩会社で、先輩の康子がパワハラ上司の不正の証拠を探している場面に遭遇するが、なぜかそのまま片棒を担がされることになる。翌日、中野の劇場では松尾たちの会社がプロモーションする人気演出家の舞台が始まろうとしていた。「離婚したばかりのシングルマザー」「再会した同級生」「舞台に抜擢された新人俳優」「認知症の兆候が表れた大女優」舞台の周辺では、4つの事件が同時多発的に起き、勘違いとトラブルが次々発生。バラバラだったパズルのピース、それが松尾と康子のおかしな行動によって繋がっていき……。すべてのピースがピタリとはまったラストに、思わず「ビンゴ!」。毎日ストレスフルに働くあなたを、スッキリさせる「気分爽快」ミステリー!


別々の場所で、一見無関係のように起こる出来事が、次第に一本にまとまり、パズルのピースがパタパタとはまるように一枚の絵になっていく。好きな設定なのだが、この物語では、一本にまとまる過程の爽快感があまり感じられなかった気がする。なので、ラストまでカタルシスを得ることができなくて少し残念だった。面白くないわけではないのだが、それぞれの事件が自分の好みからはちょっぴりはずれていたということかもしれない。個人的には物足りなさもあったが、愉しめる一冊ではある。

書店ガール6 遅れてきた客*碧野圭

  • 2017/09/01(金) 07:29:54

書店ガール 6  遅れて来た客 (PHP文芸文庫)
碧野 圭
PHP研究所 (2017-07-11)
売り上げランキング: 23,717

彩加が取手の駅中書店の店長になってから一年半、ようやく仕事が軌道に乗り始めたと感じていたところ、本社から突然の閉店を告げられる。一方、編集者の伸光は担当作品『鋼と銀の雨が降る』のアニメ化が決定して喜ぶものの、思わぬトラブル続きとなり……。逆境の中で、自分が働く意味、進むべき道について、悩む二人が見出した答えとは。書店を舞台としたお仕事エンタテインメント第六弾。


今回の主役は、取手のエキナカ書店、本の森の店長の彩加と、東京の疾風文庫の編集長・小幡である。片や、やっと軌道に乗ってきた書店の閉店を告げられ、片や、小説のアニメ化に伴う駆け引きに悩まされ、それぞれがこの先進むべき道を手探りするなかで、周囲との関わりに助けられ、一歩ずつ進んでいく物語である。たくさんの理不尽と、本音と建て前、大人の事情や思いやるからこその葛藤。それぞれの心の動きが、それはもう溢れるほどに伝わってきて、読んでいるこちらまで苦しくなってくる。あっちもこっちも切ないが、助けてくれる人も必ずそばにいて、なんとか拓けていくのである。新しい一歩を踏み出そうと思わせてくれる一冊である。

貘の耳たぶ*芦沢央

  • 2017/08/30(水) 18:17:05

貘の耳たぶ
貘の耳たぶ
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芦沢 央
幻冬舎 (2017-04-20)
売り上げランキング: 109,756

帝王切開で出産した繭子は、あるアクシデントと異様な衝動に突き動かされ、新生児室の我が子を同じ日に生まれた隣のベッドの新生児と「取り替えて」しまう。取り替えた新生児は、母親学級で一緒だった郁絵が産んだ子だ。とんでもないことをしてしまった、正直に告白しなければ、いや、すぐに発覚するに違いない……、と逡巡するが、発覚することなく退院の日を迎える。そして、その子は「航太」と名付けられ、繭子の子として育っていく。罪の意識にとらわれながらも、育児に追われ、だんだん航太が愛しくなっていく繭子。やがて四年がたち、産院から繭子のもとに電話がかかってくる。
一方、郁絵は「璃空」と名付けた子を自分の子と疑わず、保育士の仕事を続けながらも、愛情深く育ててきた。しかし、突然、璃空は産院で「取り違え」られた子で、その相手は繭子の子だと知らされる。璃空と過ごした愛しい四年を思うと、郁絵は「血の繋がりがなんだというのだ」と思うのだが、周囲はだんだん「元に戻す」ほうへ話を進める。両家の食事会、バーベキュー、お泊まり……。郁絵の気持ちは揺らいでいく。


帝王切開で出産したことを、心のどこかで後ろめたく思い、不安定な気持ちで新生児室を覗いた繭子が、新生児につけられた名札が外れそうになっているのを見つけて、ついふらふらとそれを取り変えてしまったのは、動機としては弱いかもしれないが、産後の不安定さの中でかけられたふとした言葉や、ほかの母親と我が身を比べて、命を産み、これから育てていかなければならない責任と重圧に押しつぶされそうになり、自信を喪失する気持ちはとてもよく解る。そんな出来心でやってしまったことを、告白する機会を幾度も逃し、退院し、四年もそのままにしてしまったことに、弁解の余地はない。だが、繭子にとっても、子どもを取り違えられた郁絵にとっても、二人の子どもたちにとっても、あまりにも切なすぎる。繭子がもう少し強い心を持てていたら、とか、勇気をもって告白していたら、というのは簡単だが、そのときにはきっと、大きな流れに呑み込まれるように引きこまれてしまったのだろう、とも思う。子どもたちも、親たちも――繭子にはそんな日は来ないとわかってはいるが――、いつか心の傷が少しでも癒えて、屈託なく笑いあえる日が来ることを願うだけである。考えさせられることが多いが、切なすぎる一冊でもあった。

星に願いを、そして手を。*青羽悠

  • 2017/05/10(水) 10:10:21

星に願いを、そして手を。 (集英社文芸単行本)
集英社 (2017-02-24)
売り上げランキング: 47,171

「小説すばる新人賞」史上最年少受賞

大人になった僕たちの、“ 夢"との向き合い方。
16 歳の現役高校生が描く、ストレートな青春群像劇。

中学三年生の夏休み。宿題が終わっていない祐人は、幼馴染の薫、理奈、春樹とともに、町の科学館のプラネタリウムに併設された図書室で、毎年恒例の勉強会をおこなっていた。そんな彼らを館長はにこやかに迎え入れ、星の話、宇宙の話を楽しそうに語ってくれた。小学校からずっと一緒の彼らを繋いでいたのは、宇宙への強い好奇心だった。宇宙の話をするときはいつでも夢にあふれ、四人でいれば最強だと信じて疑わなかった。時が経ち、大人になるまでは――。
祐人は昔思い描いていた夢を諦め、東京の大学を卒業後、故郷に帰り、公務員となった。そんな祐人を許せない理奈は、夢にしがみつくように大学院に進み、迷いながらも宇宙の研究を続けている。薫は科学館に勤め、春樹は実家の電気店を継いだ。それぞれ別の道を歩いていた彼らが、館長の死をきっかけに再び集まることになる――。
第29 回小説すばる新人賞 受賞作


宇宙への興味と憧れで最強に結びつけられていた高校時代の四人、裕人・理奈・春樹・薫。大人になって、夢は夢としてそれぞれの道を歩んでいる現在、放課後の長い時間を過ごしていた科学館の館長の訃報を受け、思いは現在から過去へ、消化しきれないまま置き去りにしてきてしまったなにかへと戻っていく。その後、追い打ちをかけるように科学館の閉館が決まり、館長夫妻の事情も絡めて、答えを探す心の旅に身を置くことになるのである。そこここに若さゆえの角の取れない感じがある印象もあるが、基本的に前向きで、あしたを信じられるストーリー展開には好感が持てる。高校時代を懐かしく思い出させられる一冊でもある。

雨利終活写真館*芦沢央

  • 2017/01/22(日) 19:23:36

雨利終活写真館
雨利終活写真館
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芦沢 央
小学館
売り上げランキング: 67,883

巣鴨の路地裏にひっそり佇む、遺影専門の写真館。祖母の奇妙な遺言が波紋を呼ぶ(「一つ目の遺言状」)。母の死を巡る、息子と父親の葛藤(「十二年目の家族写真」)。雨利写真館に残る1枚の妊婦写真の謎(「三つ目の遺品」)。末期癌を患う男性の訳ありの撮影(「二枚目の遺影」)。見事な謎解きで紡ぎ出すミステリー珠玉の4編。


遺影専門の写真館が舞台である。高齢化社会故でもあるのだろう、昨今、「終活」という言葉を目にする機会が、以前と比べて随分と増えてきている。そんな折にタイムリーな設定である。雨利終活写真館のスタッフは、終活コーディネーターの永坂夢子(金儲け主義)、アシスタントの道頓堀(似非大阪弁のお調子者)、カメラマンの雨利(不愛想で態度が悪い)、そして一話目の主人公で、後に雨利写真館のスタッフになる元有名美容室のヘアメイク・黒子ハナ、と癖がありすぎる面々である。依頼される案件も、ひと口に遺影と言っても事情はさまざまで、事前のカウンセリングで聞き出した客の要望に添うように考えて撮影される。そして、それぞれの事情にただならむものを感じ取り、ついつい首を突っ込んで真相を解き明かそうとしてしまうのがハナの悪い癖である。道頓堀がナイスアシストし、雨利がぼそりとつぶやくひと言が、意外なヒントになったりして、すっかり謎解き集団になっている。今作は、登場人物の紹介っぽくもあるし、シリーズ化されたら嬉しいと思う一冊である。

何様*朝井リョウ

  • 2016/11/14(月) 07:16:59

何様
何様
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朝井 リョウ
新潮社
売り上げランキング: 1,343

生きていくこと、それは、
何者かになったつもりの自分に裏切られ続けることだ。
光を求めて進み、熱を感じて立ち止まる。
今秋映画公開予定『何者』アナザーストーリー集。

光太郎が出版社に入りたかったのはなぜなのか。
理香と隆良はどんなふうに出会って暮らし始めたのか。
瑞月の両親には何があったのか。拓人を落とした面接官の今は。
立場の違うそれぞれの人物が織り成す、`就活'の枠を超えた人生の現実。
直木賞受賞作『何者』から3年。いま、朝井リョウのまなざしの先に見えているものは――。


『何者』のアナザーストーリーなので、もちろん読んでいれば、あちこちになるほどと思えることが出てきて、何者の登場人物たちのキャラクタがより補完され、深く知ることができる。だが、本作単体でも充分に読み応えがある。人が抱える己の不充分さや未熟さ、それでも何事かを成しながら生きていかなければならないという葛藤の中で、より自らの内面を見つめ、他者の救いを求めるのかもしれない。著者の人間観察の充実ぶりに驚かされる一冊でもある。

許されようとは思いません*芦沢央

  • 2016/08/13(土) 09:11:44

許されようとは思いません
芦沢 央
新潮社
売り上げランキング: 49,588

あなたは絶対にこの「結末」を予測できない! 新時代到来を告げる、驚愕の暗黒ミステリ。かつて祖母が暮らしていた村を訪ねた「私」。祖母は、同居していた曾祖父を惨殺して村から追放されたのだ。彼女は何故、余命わずかだったはずの曾祖父を、あえて手にかけたのか……日本推理作家協会賞短編部門ノミネートの表題作ほか、悲劇をひき起こさざるを得なかった女たちを端整な筆致と鮮やかなレトリックで描き出す全五篇。


表題作のほか、「目撃者はいなかった」 「ありがとう、ばあば」 「姉のように」 「絵の中の男」

どの物語も昏く凄惨で救いがないように見える。だが、ラストの思ってもみない仕掛けによって、それまで見えていたものとは全く違う世界が立ち現われ、一点の救いの光が差してくるものもある。どれも読後感がいいとは言えないが、すっと納得できる一冊である。

書店ガール 5*碧野圭

  • 2016/07/21(木) 07:19:58

書店ガール 5 (PHP文芸文庫)
碧野 圭
PHP研究所 (2016-05-06)
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取手駅構内の小さな書店の店長に抜擢された彩加。しかし意気込んで並べた本の売れ行きは悪く、店員たちの心もつかめない。一方、ライトノベル編集者の小幡伸光は、新人賞作家の受賞辞退、編集者による原稿改ざん騒動などトラブル続きの中、期待の新人作家との打合せのために取手を訪れる。彩加と伸光が出会った時、思わぬ事実が発覚し……。書店を舞台としたお仕事エンタテインメント第五弾。文庫書き下ろし。


今回は、東京を離れ、取手の駅中の小さな書店が舞台である。店長は、かつて、吉祥寺のペガサス書房でアルバイトしていた宮崎彩加。彼女は、自分の理想の書店と、現実の客層や売れ筋とのギャップに悩んでいた。だが、アルバイトスタッフに余計な仕事を振ることができず、自分の胸のなかでもやもやと思い悩むだけで、何の解決にもならないのだった。そんなとき訪れた書店で、アルバイトも含めてスタッフみんなを巻き込んで書棚を展開しているのを見て、これではいけないと、客層に合わせたラノベやコミックに力を入れようと、詳しそうなアルバイトに声をかけると、次第に彼らと心が通じ合うようになり、よい効果が表れてくるのである。ペガサス書房の亜紀の夫・小幡が編集長を務める疾風書房の新人賞にまつわるあれこれも絡んで、今回も為せば成る的カタルシスを得られ、胸温まる本への愛や家族愛も堪能できる一冊になっている。