星に願いを、そして手を。*青羽悠

  • 2017/05/10(水) 10:10:21

星に願いを、そして手を。 (集英社文芸単行本)
集英社 (2017-02-24)
売り上げランキング: 47,171

「小説すばる新人賞」史上最年少受賞

大人になった僕たちの、“ 夢"との向き合い方。
16 歳の現役高校生が描く、ストレートな青春群像劇。

中学三年生の夏休み。宿題が終わっていない祐人は、幼馴染の薫、理奈、春樹とともに、町の科学館のプラネタリウムに併設された図書室で、毎年恒例の勉強会をおこなっていた。そんな彼らを館長はにこやかに迎え入れ、星の話、宇宙の話を楽しそうに語ってくれた。小学校からずっと一緒の彼らを繋いでいたのは、宇宙への強い好奇心だった。宇宙の話をするときはいつでも夢にあふれ、四人でいれば最強だと信じて疑わなかった。時が経ち、大人になるまでは――。
祐人は昔思い描いていた夢を諦め、東京の大学を卒業後、故郷に帰り、公務員となった。そんな祐人を許せない理奈は、夢にしがみつくように大学院に進み、迷いながらも宇宙の研究を続けている。薫は科学館に勤め、春樹は実家の電気店を継いだ。それぞれ別の道を歩いていた彼らが、館長の死をきっかけに再び集まることになる――。
第29 回小説すばる新人賞 受賞作


宇宙への興味と憧れで最強に結びつけられていた高校時代の四人、裕人・理奈・春樹・薫。大人になって、夢は夢としてそれぞれの道を歩んでいる現在、放課後の長い時間を過ごしていた科学館の館長の訃報を受け、思いは現在から過去へ、消化しきれないまま置き去りにしてきてしまったなにかへと戻っていく。その後、追い打ちをかけるように科学館の閉館が決まり、館長夫妻の事情も絡めて、答えを探す心の旅に身を置くことになるのである。そこここに若さゆえの角の取れない感じがある印象もあるが、基本的に前向きで、あしたを信じられるストーリー展開には好感が持てる。高校時代を懐かしく思い出させられる一冊でもある。

雨利終活写真館*芦沢央

  • 2017/01/22(日) 19:23:36

雨利終活写真館
雨利終活写真館
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芦沢 央
小学館
売り上げランキング: 67,883

巣鴨の路地裏にひっそり佇む、遺影専門の写真館。祖母の奇妙な遺言が波紋を呼ぶ(「一つ目の遺言状」)。母の死を巡る、息子と父親の葛藤(「十二年目の家族写真」)。雨利写真館に残る1枚の妊婦写真の謎(「三つ目の遺品」)。末期癌を患う男性の訳ありの撮影(「二枚目の遺影」)。見事な謎解きで紡ぎ出すミステリー珠玉の4編。


遺影専門の写真館が舞台である。高齢化社会故でもあるのだろう、昨今、「終活」という言葉を目にする機会が、以前と比べて随分と増えてきている。そんな折にタイムリーな設定である。雨利終活写真館のスタッフは、終活コーディネーターの永坂夢子(金儲け主義)、アシスタントの道頓堀(似非大阪弁のお調子者)、カメラマンの雨利(不愛想で態度が悪い)、そして一話目の主人公で、後に雨利写真館のスタッフになる元有名美容室のヘアメイク・黒子ハナ、と癖がありすぎる面々である。依頼される案件も、ひと口に遺影と言っても事情はさまざまで、事前のカウンセリングで聞き出した客の要望に添うように考えて撮影される。そして、それぞれの事情にただならむものを感じ取り、ついつい首を突っ込んで真相を解き明かそうとしてしまうのがハナの悪い癖である。道頓堀がナイスアシストし、雨利がぼそりとつぶやくひと言が、意外なヒントになったりして、すっかり謎解き集団になっている。今作は、登場人物の紹介っぽくもあるし、シリーズ化されたら嬉しいと思う一冊である。

何様*朝井リョウ

  • 2016/11/14(月) 07:16:59

何様
何様
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朝井 リョウ
新潮社
売り上げランキング: 1,343

生きていくこと、それは、
何者かになったつもりの自分に裏切られ続けることだ。
光を求めて進み、熱を感じて立ち止まる。
今秋映画公開予定『何者』アナザーストーリー集。

光太郎が出版社に入りたかったのはなぜなのか。
理香と隆良はどんなふうに出会って暮らし始めたのか。
瑞月の両親には何があったのか。拓人を落とした面接官の今は。
立場の違うそれぞれの人物が織り成す、`就活'の枠を超えた人生の現実。
直木賞受賞作『何者』から3年。いま、朝井リョウのまなざしの先に見えているものは――。


『何者』のアナザーストーリーなので、もちろん読んでいれば、あちこちになるほどと思えることが出てきて、何者の登場人物たちのキャラクタがより補完され、深く知ることができる。だが、本作単体でも充分に読み応えがある。人が抱える己の不充分さや未熟さ、それでも何事かを成しながら生きていかなければならないという葛藤の中で、より自らの内面を見つめ、他者の救いを求めるのかもしれない。著者の人間観察の充実ぶりに驚かされる一冊でもある。

許されようとは思いません*芦沢央

  • 2016/08/13(土) 09:11:44

許されようとは思いません
芦沢 央
新潮社
売り上げランキング: 49,588

あなたは絶対にこの「結末」を予測できない! 新時代到来を告げる、驚愕の暗黒ミステリ。かつて祖母が暮らしていた村を訪ねた「私」。祖母は、同居していた曾祖父を惨殺して村から追放されたのだ。彼女は何故、余命わずかだったはずの曾祖父を、あえて手にかけたのか……日本推理作家協会賞短編部門ノミネートの表題作ほか、悲劇をひき起こさざるを得なかった女たちを端整な筆致と鮮やかなレトリックで描き出す全五篇。


表題作のほか、「目撃者はいなかった」 「ありがとう、ばあば」 「姉のように」 「絵の中の男」

どの物語も昏く凄惨で救いがないように見える。だが、ラストの思ってもみない仕掛けによって、それまで見えていたものとは全く違う世界が立ち現われ、一点の救いの光が差してくるものもある。どれも読後感がいいとは言えないが、すっと納得できる一冊である。

書店ガール 5*碧野圭

  • 2016/07/21(木) 07:19:58

書店ガール 5 (PHP文芸文庫)
碧野 圭
PHP研究所 (2016-05-06)
売り上げランキング: 30,758

取手駅構内の小さな書店の店長に抜擢された彩加。しかし意気込んで並べた本の売れ行きは悪く、店員たちの心もつかめない。一方、ライトノベル編集者の小幡伸光は、新人賞作家の受賞辞退、編集者による原稿改ざん騒動などトラブル続きの中、期待の新人作家との打合せのために取手を訪れる。彩加と伸光が出会った時、思わぬ事実が発覚し……。書店を舞台としたお仕事エンタテインメント第五弾。文庫書き下ろし。


今回は、東京を離れ、取手の駅中の小さな書店が舞台である。店長は、かつて、吉祥寺のペガサス書房でアルバイトしていた宮崎彩加。彼女は、自分の理想の書店と、現実の客層や売れ筋とのギャップに悩んでいた。だが、アルバイトスタッフに余計な仕事を振ることができず、自分の胸のなかでもやもやと思い悩むだけで、何の解決にもならないのだった。そんなとき訪れた書店で、アルバイトも含めてスタッフみんなを巻き込んで書棚を展開しているのを見て、これではいけないと、客層に合わせたラノベやコミックに力を入れようと、詳しそうなアルバイトに声をかけると、次第に彼らと心が通じ合うようになり、よい効果が表れてくるのである。ペガサス書房の亜紀の夫・小幡が編集長を務める疾風書房の新人賞にまつわるあれこれも絡んで、今回も為せば成る的カタルシスを得られ、胸温まる本への愛や家族愛も堪能できる一冊になっている。

菜の花食堂のささやかな事件簿*碧野圭

  • 2016/07/12(火) 20:57:30

菜の花食堂のささやかな事件簿 (だいわ文庫)
碧野 圭
大和書房
売り上げランキング: 57,918

「自分が食べるためにこそ、おいしいものを作らなきゃ」菜の花食堂の料理教室は今日も大盛況。オーナーの靖子先生が優希たちに教えてくれるのは、美味しい料理のレシピだけじゃなく、ささやかな謎の答えと傷ついた体と心の癒し方…?イケメンの彼が料理上手の恋人に突然別れを告げたのはなぜ?美味しいはずのケーキが捨てられた理由は?小さな料理教室を舞台に『書店ガール』の著者がやさしく描き出す、あたたかくて美味しい極上のミステリー!書き下ろし。

「はちみつはささやく」 「茄子は覚えている」 「ケーキに罪はない」 「小豆は知っている」 「ゴボウは主張する」 「チョコレートの願い」


こだわりの食材で丁寧に作られた料理を出す菜の花食堂。オーナーの下河辺靖子先生が、月に二回開いている料理教室にはさまざまな人が集まってくる。まずは、助手として働くことになった私こと館林優希も実はある事情で靖子先生に助けられたのだった。婚約者とうまくいかなかったり、友人関係が歪だったり、歳の差婚の決断ができなかったり、家族関係に悩みがあったり、料理教室に通う生徒たちもさまざまな事情を抱えているのだが、言葉の端々やちょっとした仕草から推理した靖子先生のアドバイスで、絡み合った事情が少しずつ解きほぐされていくのだった。そして実は、靖子先生自身も家族の問題を抱えていて、優希は少しでも役に立ちたいと思うのである。含みを持たせたラストなので、続編が期待できるかもしれない。靖子先生にもぜひ幸せになってもらいたい一冊である。

高座の上の密室*愛川晶

  • 2016/07/06(水) 19:34:57

高座の上の密室 (文春文庫)
愛川 晶
文藝春秋 (2015-06-10)
売り上げランキング: 145,243

出版社から寄席・神楽坂倶楽部に出向中の希美子は新米の席亭(プロデューサー)代理として奮闘中。寄席に欠かせない色物芸の世界を覗き見ると…。手妻「葛篭抜け」で人気を博す美貌の母娘。超難度の芸に精進する太神楽師。彼らの芸が謎と事件を次々と引き寄せる。超絶技巧の本格ミステリ、鍵は「人情」だ!


神楽坂倶楽部シリーズの二作目。希美子も寄席のことが少しずつ分かってきて、なんとか席代の役目を果たしている。いやいや出向してきたはずが、次第に寄席のあれこれに興味を持ち始め、思案を巡らすようにもなってきた。自らの生い立ちをはじめとして、聞かされていないこともまだまだあるが、少しずつ明らかになってきていることもあって、ますます愉しみである。今回スポットが当たっているのは、落語家ではなく、色物と呼ばれる手妻と太神楽であり、落語とはひと味違った興味が湧く。謎解きも、人間関係を軸にしたものであり、やはりつまるところ人間なのだと思わされる。まだまだ解けていない謎があるので、次が愉しみなシリーズである。

ままならないから私とあなた*朝井リョウ

  • 2016/06/18(土) 07:35:47

ままならないから私とあなた
朝井 リョウ
文藝春秋
売り上げランキング: 6,383

先輩の結婚式で見かけた新婦友人の女性のことが気になっていた雄太。
しかしその後、偶然再会した彼女は、まったく別のプロフィールを名乗っていた。
不可解に思い、問い詰める雄太に彼女は、
結婚式には「レンタル友達」として出席していたことを明かす。 「レンタル世界」

成長するに従って、無駄なことを次々と切り捨ててく薫。
無駄なものにこそ、人のあたたかみが宿ると考える雪子。
幼いときから仲良しだった二人の価値観は、徐々に離れていき、
そして決定的に対立する瞬間が訪れる。 「ままならないから私とあなた」


レンタル派遣業、ずいぶん前から小説の題材としてはあって、そのときどきで興味深く読みはしたが、現実問題になってくると、怖すぎて言葉を失う。ほんとうのことって何だろう、人間関係ってなんだろう、と疑心暗鬼に駆られてしまいそうになる。
表題作は、まったく人間というものは、なんとままならないものだろうというのが、率直な感想である。雪子と薫、アナログとデジタルの象徴であるかのようなふたりだが、お互いの考え方がまるで違うことに(主に雪子が)疑問を抱きながらも、遠ざからず遠ざけずに一緒にいるということ自体、0か1かで割り切れない何事かがあるからだろう。人間ってやつは、自分で自分のことすらわからないのであり、ままならないのが普通のことなのかもしれない。雪子と薫の補完し合う関係性が愛おしくもある。自分は雪子寄りだと思って読み進んだが、薫の言葉にも頷けるところがあって、そんなところも、0か1かではないのだと思わされる一冊だった。

神楽坂謎ばなし*愛川晶

  • 2016/06/14(火) 19:45:43

神楽坂謎ばなし (文春文庫)
愛川 晶
文藝春秋 (2015-01-05)
売り上げランキング: 183,157

武上希美子は中堅老舗出版社の編集者、三十一歳。元気な祖母と二人暮し。手堅く教科書を出版している社が三代目の独断で人気落語家の本を出すことに。妊娠や病気で同僚が戦線離脱していくなか、この本を担当した希美子は制作の最終段階で大失敗。彼氏の浮気も判明し、どん底の彼女に思いがけぬ転機が…。


妊娠や病気入院で人手不足のため、てんてこ舞いの編集部で、希美子はなれない落語関係の本の校正でとんだ失敗をしてしまい、そのせいで寄席の席亭の代理を務めることになってしまう。幼いころのおぼろげな記憶、両親の離婚の理由、僅かばかりの記憶で想像する父親の姿。いくつかの偶然が重なって、祖母に訊けなかったあれこれが解き明かされてくる。希美子の生い立ちだのことだけでなく、寄席、神楽坂倶楽部で希美子が初めて体験する落語界のしきたりや、落語の演目の内容のこと、そして人間同士の関わり合いのことなど、ちょっとした謎が、自称下足番の義蔵さんによって丁寧に解きほぐされ、希美子を納得させるのである。二十年近くも探していた猫のマコちゃんに会えたのも、偶然なのだろうか。まったく興味のなかった落語に、少しずつ親しみを持ってきた希美子のこれからが愉しみな一冊である。続編もぜひ読みたい。

18きっぷ*朝井リョウ

  • 2016/06/04(土) 09:05:52

18 きっぷ
18 きっぷ
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朝井リョウ 朝日新聞社
朝日新聞出版
売り上げランキング: 404,964

人生の岐路を迎える18歳を撮影したモノクロのポートレート写真と、彼らの声を書き留めた。盲目の女子大生、バンドのボーカル、非行防止ボランティア、鳶職人、僧侶見習い、ダンサーなど、46人を紹介していく。
壁や悩みに直面しながらも、新しい世界に向け、それぞれの一歩を踏み出す等身大の若者の姿を追った。
書籍化にあたり、直木賞作家の朝井リョウによる書き下ろしロングエッセイ「18歳の選択」を掲載。

本文中には、
「朝井リョウからの質問、最近怒ったこと」
「どういう大人になりたいか」
「元気をくれる作品」
「もし1週間自由に使っていいならば」
「今いちばん欲しいもの」
など、新たに5つの質問項目をもうけ、
46人の若者たちの生の声を聞く。

朝日新聞名古屋本社版に2014年から約1年間連載された「18きっぷ」、東海地方の新聞・通信・放送の加盟社からない中部写真記者協会の2014年度「企画部門賞」を受賞した好評連載が、ついに書籍化される!


18歳というのは、ある意味これからの自分の人生の方向をある程度決定づける決断をする時期ではないだろうか。ひとりひとり違った境遇の若者たちのそんな時期の写真と、その時考えていたこと、感じていたこと、抱いていた思いが見事に切り取られていて興味深かった。巻末に載せられているそれぞれの一年後を読むと、彼らの変わらなさの中にある自由さと可能性をさらに思わされる。なんだかわくわくする一冊だった。

いつかの人質*芦沢央

  • 2016/05/17(火) 18:42:13

いつかの人質
いつかの人質
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芦沢 央
KADOKAWA/角川書店 (2015-12-26)
売り上げランキング: 76,531

幼い頃に連れ去りにあい、失明した愛子。借金を残し失踪した妻・優奈を捜す、漫画家の礼遠。行方をくらました優奈は、誘拐犯の娘だった。事件から12年、魔の手が再び愛子を襲う! 戦慄のサスペンス・ミステリー。


小さな偶然が重なって起こってしまった、一度目の誘拐事件。不幸にもそれが原因で視力を失った被害者の愛子が、十二年後に再び誘拐された。ここまでは、一気に読ませる。愛子の両親のぎくしゃくした関係や、友人たちの対応も絡め、愛子のこれからがどうなるのかにも興味が湧く。一方、一度目の事件の加害者の娘・優奈も、辛い目に遭いながら成長し、漫画家を目指すなか、礼遠という伴侶にも恵まれている。大きな二本の流れがどこで合流するのかも気になるところである。そんな中で起きる二度目の誘拐事件である。被害者・愛子の扱われ方のあまりのひどさには、目を覆いたくなる。しかも容疑者と疑われるのは優奈なのだ。警察も翻弄され、最後にすべてが明らかになったときには、犯人の身勝手さに震えそうになる。その目的のために、愛子をあそこまでの目に遭わせる必要があったのだろうか、という疑問も湧く。あまりにも身勝手ではないか。あちこちで歪んだ愛情が行き違っているような一冊である。

ノッキンオン・ロックドドア*青崎有吾

  • 2016/05/16(月) 17:16:51

ノッキンオン・ロックドドア (文芸書)
青崎 有吾
徳間書店
売り上げランキング: 9,654

密室、容疑者全員アリバイ持ち、衆人環視の毒殺など「不可能(HOW)」を推理する御殿場倒理と、理解できないダイイングメッセージ、現場に残された不自然なもの、被害者の服がないなど「不可解(WHY)」を推理する片無氷雨。相棒だけどライバル(!?)な探偵ふたりが、数々の奇妙な事件に挑む!


悪魔のような真黒な巻き毛の御殿場倒理は不可能犯罪を、紺色のネクタイを締めたサラリーマンのような出で立ちで、いつも助手に間違われる片無氷雨は不可解犯罪を解き明かす探偵である。事務所の名前は「ロッキンオン・ノックドドア」。ノックの仕方によって、ドアの外に立つのがどんな人物かが判るからという理由で、インターホンも呼び鈴もつけていないのである。そして薬師寺薬子ちゃんという家事全般をこなす女子高生が、週に何度かアルバイトにきている。始終暇な探偵事務所であるが、たまに学生時代からの腐れ縁の仲介者、神保が事件を持ってやってくる。不可能と不可解、二人の探偵が牽制しつつ、憎まれ口をききつつ、結局は助け合って事件を解決する過程を愉しめる。やはり学生時代からの腐れ縁の女刑事、穿地との絡みも、お約束ながら面白い。なにやら過去に屈託がありそうな彼らであり、これは続編があるのだろう。倒理と氷雨の関係も気になる一冊である。

図書館の殺人*青崎有吾

  • 2016/04/02(土) 17:04:10

図書館の殺人
図書館の殺人
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青崎 有吾
東京創元社
売り上げランキング: 162,339

期末試験中のどこか落ち着かない、ざわついた雰囲気の風ヶ丘高校。試験勉強をしようと学校最寄りの風ヶ丘図書館に向かった袴田柚乃は、殺人事件捜査のアドバイザーとして、警察と一緒にいる裏染天馬と出会う。男子大学生が閉館後の図書館内で殺害された事件らしいけど、試験中にこんなことをしていていいの? 閉館後に、山田風太郎の『人間臨終図巻』で撲殺された被害者は、なんとなんと、二つの奇妙なダイイングメッセージを残していた……。“若き平成のエラリー・クイーン"が満を持して贈る第三長編。
“館"の舞台は図書館、そしてダイイングメッセージもの!


キャラクタもすっかり定着し、裏染天馬のただならなさも際立っている。舞台が図書館というのも興味をそそられるし、期末試験真っ只中というのもスパイスになっていて好ましい。回り道あり、道を間違えることもあり、それでも一歩ずつ不可能を取り除き、可能性を突き詰め、真犯人に迫る裏染の動きそのものからなにより目が離せない。そしてその過去も。柚乃がじりじりと近づいているようで、もう一歩詰められないのももどかしい。それが明らかにされるときにはシリーズが終わってしまうとしたら、それも残念なので、もうしばらくじらされてもいいから、もうしばらく続いてほしいシリーズである。

世にも奇妙な君物語*朝井リョウ

  • 2016/03/03(木) 18:21:47

世にも奇妙な君物語
世にも奇妙な君物語
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朝井 リョウ
講談社
売り上げランキング: 68,110

今年二十五周年を迎えたテレビドラマ、「世にも奇妙な物語」の大ファンである、直木賞作家・朝井リョウ。映像化を夢見て、「世にも奇妙な物語」のために勝手に原作を書き下ろした短編、五編を収録。

1 シェアハウさない
2 リア充裁判
3 立て! 金次郎
4 13.5文字しか集中して読めな
5 脇役バトルロワイアル


それぞれの物語も、それぞれが、いささかずれた方向性に向かっている可笑しさや恐ろしさや奇妙さがあるのだが、本作は、それも含めて一冊全体の構成の奇妙さが興味深い。最終章では、なぁんだそうだったのか、と思わされ、しかも最後まで気が抜けない仕掛けである。愉しませてもらった一冊である。

桜の下で待っている*彩瀬まる

  • 2015/11/18(水) 17:01:46

桜の下で待っている
桜の下で待っている
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彩瀬 まる
実業之日本社
売り上げランキング: 264,262

面倒だけれど愛おしい――「ふるさと」をめぐる5つの物語

桜前線が日本列島を北上する4月、
新幹線で北へ向かう男女5人それぞれの行先で待つものは――。
婚約者の実家を訪ねて郡山へ。亡くなった母の七回忌に出席するため仙台へ。
下級生を事故で亡くした小学4年生の女の子は新花巻へ。

実家との確執、地元への愛着、生をつなぐこと、喪うこと……
複雑にからまり揺れる想いと、ふるさとでの出会いを
あざやかな筆致で描く、「はじまり」の物語。
ふるさとから離れて暮らす方も、ふるさとなんて自分にはない、という方も、
心のひだの奥底まで沁みこむような感動作。


表題作のほか、「モッコウバラのワンピース」 「からたち香る」 「菜の花の家」 「ハクモクレンが砕けるとき」

東北新幹線で北へ向かう人たちと、それぞれの家族の事情、幼いころの思い出とこれからのこと。懐かしさ、覚悟、複雑な思い、さまざまな思いを抱えて故郷に帰り、そこで何かを得て、いまの居場所に戻っていく。そしてそんな人たちを見守る車内販売の女性たちのまなざし。なんとなく故郷の懐かしい風景を観に行きたくなるような物語ではあるのだが、個人的にはどことなく物足りなさを感じてしまう一冊でもあった。