情熱のナポリタン*伊吹有喜

  • 2017/03/11(土) 18:37:31

情熱のナポリタン―BAR追分 (ハルキ文庫)
伊吹 有喜
角川春樹事務所 (2017-02-14)
売り上げランキング: 3,423

かつて新宿追分と呼ばれた街の、“ねこみち横丁”という路地の奥に「BAR追分」はある。“ねこみち横丁”振興会の管理人をしながら脚本家を目指す宇藤輝良は、コンクールに応募するためのシナリオを書き上げたものの、悩んでいることがあって…。両親の離婚で離れて暮らす兄弟、一人息子を育てるシングルマザー、劇団仲間に才能の差を感じ始めた男―人生の分岐点に立った人々が集う「BAR追分」。客たちの心も胃袋もぐっと掴んで離さない癒しの酒場に、あなたも立ち寄ってみませんか?大人気シリーズ第三弾。


今回もおいしそうなものがたくさん出てきて、バール追分に行ってみたくてたまらなくなる。登場人物もみんなそれぞれに魅力的で、誰もが何かを抱えているのだが、そのことで歪まずに、却って人柄に深みを増す役に立っている気がする。助け合い、というと軽い感じもするが、深いところで結びつき思いやり、支え合っているように見える。宇藤君も階段を一段上がった感があるし、桃ちゃんはまだよくわからないし、さらに楽しみなシリーズである。

今はちょっと、ついてないだけ*伊吹有喜

  • 2016/12/12(月) 07:00:34

今はちょっと、ついてないだけ
伊吹 有喜
光文社
売り上げランキング: 363,480

かつて、世界の秘境を旅するテレビ番組で一躍脚光を浴びた、「ネイチャリング・フォトグラファー」の立花浩樹。バブル崩壊で全てを失ってから15年、事務所の社長に負わされた借金を返すためだけに生きてきた。必死に完済し、気付けば四十代。夢も恋人もなく、母親の家からパチンコに通う日々。ある日、母親の友人・静枝に写真を撮ってほしいと頼まれた立花は、ずっと忘れていたカメラを構える喜びを思い出す。もう一度やり直そうと上京して住み始めたシェアハウスには、同じように人生に敗れた者たちが集まり…。一度は人生に敗れた男女の再び歩み出す姿が胸を打つ、感動の物語。


覇気もやる気も向上心もすべてどこかへ置き忘れてきたような中年男・立花浩樹が主人公である。もともと目立つ方ではなかった浩樹が、ひょんなことから注目を浴び、作られた姿と現実の狭間で自分を見失い、しかもバブル崩壊に伴うあれこれによって、財産もすべて失うことになった結果のこの体たらくである。ある日、母が暮らす施設の母の友人の写真を撮ったことがきっかけで、心の持ち方が少しずつ変わり、周りの人やそのつながりに後押しされて、自分の居場所や進む道を見つけるまでになるのである。見た目と身体だけで注目されてきたと卑下するばかりだった浩樹だが、外見と内面のギャップも魅力的に思われ、つい応援したくなる。どん底にいても、人とのつながりを断たなければ、浮かぶ瀬もある、と思わせてくれる一冊である。

オムライス日和 BAR追分*伊吹有喜

  • 2016/10/29(土) 07:23:11

オムライス日和 BAR追分 (ハルキ文庫)
伊吹有喜
角川春樹事務所 (2016-02-12)
売り上げランキング: 31,309

有名電機メーカーに勤める菊池沙里は、大学時代にゼミで同期だった宇藤輝良と再会する。卒業して五年、宇藤は「ねこみち横丁振興会」の管理人をしながら、脚本家になる夢を追い続けているという。数日後、友人の結婚式の二次会後に、宇藤がよくいるというねこみち横丁のBAR追分に顔を出した沙里だったが…(「オムライス日和」より)。昼はバールで夜はバー―二つの顔を持つBAR追分で繰り広げられる人間ドラマが温かく胸に沁みる人気シリーズ、書き下ろしで贈る待望の第二弾。


またまたおいしそうなものがたくさん登場して、ついつい想像してしまう。ねこみち横丁での宇藤の立場もすっかり定着したようで、注文も「いつものあれね」で通じるようになっている。ものすごく遠慮がちで、自分に自信がなさそうな宇藤を見ていると、つい二十歳そこそこの若者を想像してしまうが、実は36歳という分別盛りなのである。その辺りにいささか違和感がなくもないが、それが宇藤の魅力でもあるのかもしれない、とも思う。ねこみち横丁の面々のプライベートが少しずつ明かされていく一冊でもあり、今後の展開が愉しみな、長く続いてほしいシリーズである。

BAR(バール)追分*伊吹有喜

  • 2016/10/05(水) 18:20:15

BAR追分 (ハルキ文庫)
BAR追分 (ハルキ文庫)
posted with amazlet at 16.10.05
伊吹 有喜
角川春樹事務所
売り上げランキング: 9,334

新宿三丁目交差点近く―かつて新宿追分と呼ばれた街の「ねこみち横丁」の奥に、その店はある。そこは、道が左右に分かれる、まさに追分だ。BAR追分。昼は「バール追分」でコーヒーやカレーなどの定食を、夜は「バー追分」で本格的なカクテルや、ハンバーグサンドなど魅惑的なおつまみを供する。人生の分岐点で、人々が立ち止まる場所。昼は笑顔かかわいらしい女店主が、夜は白髪のバーテンダーがもてなす新店、二つの名前と顔でいよいよオープン!


場所柄と言い、隠れ家的な感じと言い、なんだか勝手にもっとアウトサイダーっぽい物語を想像していたのだが、さにあらず。夜はバー、昼間はその場を借りてバールとしての営業、ということで、常連客からは「ヤドカリ食堂」と呼ばれる「BAR(バール)追分」を核として、そこに集まる常連客たちと、ひょんなことからねこみち横丁振興会の管理人になってしまった宇藤輝良の物語である。バールのオーナーシェフ・桃子の作る、丁寧で味わい深い料理の数々は、どれも魅力的で、それに引き寄せられるように集まってくる客たちの屈託を、あたたかく解きほぐしてくれるようである。読んでいて心地好いのは、それぞれの距離感が絶妙で、突き放しすぎず、踏み込み過ぎず、これ以上ないほど良い加減だからかもしれない。思わず、ねこみち横丁を探しに行きたくなってしまいそうな一冊である。

リップヴァンウィンクルの花嫁*岩井俊二

  • 2016/05/23(月) 18:35:36

リップヴァンウィンクルの花嫁
岩井 俊二
文藝春秋
売り上げランキング: 12,753

「この世界はさ、本当は幸せだらけなんだよ」

声の小さな皆川七海は、派遣教員の仕事を早々にクビになり、SNSで手に入れた結婚も、浮気の濡れ衣を着せられた。行き場をなくした七海は、月に100万円稼げるというメイドのバイトを引き受ける。
あるじのいない大きな屋敷で待っていたのは、破天荒で自由なもうひとりのメイド、里中真白。
ある日、真白はウェディングドレスを買いたいと言い出すが……。
岩井俊二が描く現代の噓(ゆめ)と希望と愛の物語。


想像していた以上に惹きこまれてしまった。穏やかな日常を送る人間はひとりも出てこない。登場人物の誰もが、事情こそ違うものの、何かを抱え、平凡とは言い難い人生を送っている。それなのに、全体に流れる空気は静かなのである。不思議だ。切なくて、危なっかしく、それでいて確固としていてあたたかい。寂しいけれどとても親密な一冊なのである。ただ、映像として見るのは(観ていないが)ちょっと苦手かもしれない、とも思う。

ひとりぼっちのあいつ*伊岡瞬

  • 2015/04/30(木) 17:05:12

ひとりぼっちのあいつひとりぼっちのあいつ
(2015/03/23)
伊岡 瞬

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「故郷に帰れ、田舎もん!」毒づきながら、内心コンプレックスに苛まれている宮本楓太は二十五歳のサラリーマン。ひょんなことで出会った冴えない中年男の秘密を知って、以来なぜか彼から目が離せなくなる。まわりには、謎の美女に強面の老人、なんだか危ない人たちまで…一体彼は何者なのか?素直になれず孤独を抱える楓太と、過去に傷つき未来に希望を持てない春輝。居場所を求めてあえぐすべての人に贈る、希望のラプソディ!


宮本楓太と大里春輝の日々が、過去と現在を織り交ぜながら綴られている。どの時代においても、精彩を放っているとはいいがたく、運命を呪いたくもなりそうな二人の人生が、あるところで交錯し、互いに何か気になるものを感じるのだった。このまま何事も怒らず、穏やかに生きていけたらいいのに、と途中で何度も思うが、そうはいかないのが人生なのだろう。そして、もうこんな世界は嫌だと思ったとき、何が起こったのだろう。薄れていく意識下の妄想なのか、神がかり的な何かが働いたのか……。ささやかなしあわせこそが宝物だと思わされる一冊である。

電車道*磯崎憲一郎

  • 2015/04/10(金) 18:33:05

電車道電車道
(2015/02/27)
磯崎 憲一郎

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鉄道開発を背景に、日本に流れた百年の時間を描いた著者最高傑作! 橋を架け山を切り開き、四六時中ひっ きりなしに電車を走らせよう。そうすればこの国の人間たちも、絶望の淵からほんの何歩かは引き戻されるはずだから――。日本の近代から現在に至る百年の時間を描き、自然災害、戦争、さらには資本主義経済と抗いがたいものに翻弄されながら、絶えまなく続いてきた人間の営みを活写した長編小説。


全編通して淡々と綴られている。だがその内容はといえば、日本が近代国家に様変わりしていく過程とも言える百年がぎっしり詰まっているのである。変化の著しいこの百年という時間をコマ送りで見せられているような印象でもある。人の意志により、あるいは欲望により、意図せざる状況によって変わり変えられていく街の様子は、そこに暮らす人の営みと合わせて興味深いものがある。ただ、個人的には著者の文章になかなか馴染めず、内容にのめりこみにくかったのが残念でもある。淡々としていながら壮大な一冊である。

誰かと暮らすということ*伊藤たかみ

  • 2014/09/28(日) 21:10:25

誰かと暮らすということ誰かと暮らすということ
(2009/10/30)
伊藤 たかみ

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当たり前の幸せは、当たり前そうに見えれば見えるほど手に入れにくいものなのです。うまく気持ちを伝えられない不器用な男女、倒産寸前の店を抱える夫婦、離婚してひとり暮らしを始めた女性…ひとつの町に浮かび上がる、著者新境地のハートウォーミング・ストーリー。


表題作のほか、「セージと虫」 「子供ちゃん」 「やや」 「サッチの風」 「イモムシ色」 「アンドレ」 「サラバ下井草」 

物語の本流は、職場の同期で、存在感のない虫壁知加子と安藤正次が、お互いをなんとなく嫌いではないところから、次第に近づいていく過程である。そこに、彼らが暮らす下井草で、ほんの少しずつかかわった人たちのエピソードが挟み込まれ、緩やかな連作になっている。誰かと暮らすことの自由さと不自由さ、気楽さと窮屈さ、そしてし幸福と少しずつの我慢などをしみじみと思ったりしてみるきっかけになりそうな一冊である。

ミッドナイト・バス*伊吹有喜

  • 2014/02/21(金) 17:03:10

ミッドナイト・バスミッドナイト・バス
(2014/01/24)
伊吹 有喜

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東京での過酷な仕事を辞め、故郷の新潟で深夜バスの運転手をしている利一。
ある夜、彼が運転するバスに乗ってきたのは、十六年前に別れた妻だった――。

父親と同じく、東京での仕事を辞めて実家に戻ってきた長男の怜司。
実現しそうな夢と、結婚の間で揺れる長女の彩菜。
そして、再婚した夫の浮気と身体の不調に悩む元妻、美雪。

突然の離婚で一度ばらばらになった家族は、
今、それぞれが問題を抱えて故郷に集まってくる。
全員がもう一度前に進むために、利一はどうすればいいのか。

家族の再生と再出発をおだやかな筆致で描く、伊吹有喜の新たな代表作!


故郷の新潟と東京を結ぶ深夜バス。「はくちょうさん」と呼ばれる白鳥(しらとり)交通のバスを運転する利一が主人公である。どういうわけかなにかが上手くいかず、少しずつ歯車が合わなくなってバラバラになっていった家族。バラバラになりそれぞれに懸命に生きてきたが、そこでもまた悩み、傷つき、戻ってくる。言いたいことを言わず、取り繕うように暮らした過去から抜け出し、家族それぞれが傷を癒して再び巣立っていくまでが、静かに描かれた物語である。誰が悪いわけでもないのにすれ違っていく様には切ないものがあるが、家族といえども言葉が大切なのだと思わされもする。利一の選択で傷つく人もいないわけではないが、彼の家が、家族の要になったことは確かだと思える。夜を超えて走るバスが、人生のように思える一冊である。

嫉妬事件*乾くるみ

  • 2013/05/25(土) 07:20:56

嫉妬事件 (文春文庫)嫉妬事件 (文春文庫)
(2011/11/10)
乾 くるみ

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城林大ミステリ研究会で、年末恒例の犯人当てイベントが開催され、サークル一の美人・赤江静流が、長身の彼氏を部室へ連れてきた当日、部室の本の上には、あるものが置かれていた。突如現れたシットを巡る尾篭系ミステリの驚愕の結末とは!?「読者への挑戦」形式の書き下ろし短編、「三つの質疑」も特別収録。


表紙とタイトルから想像するのとは全く違う物語だった。タイトルはまぁ、そうだったのか、というものだったが…。電車の中で読み始めた途端に、題材であるアレが登場したのだが、隣の人が覗き込んでいたので、とても堂々とは読んでいられなかった(嘆)。それを置いた犯人を真面目に推理&検証しているミステリ研のメンバーもさすがと言おうか、やはりと言おうか、マニアックではある。しかも、動機に至っては、至極個人的な趣向からくるものであり、客観的に推理するのは難しいだろうと思われる。ボーナストラックの「三つの質疑」が、事件当日披露されるはずだったメンバーの作品というのは面白かった。この表紙で、このタイトルで、この著者名(女性のような)でこの題材はないだろう、という一冊である。

こちら弁天通りラッキーロード商店街*五十嵐貴久

  • 2013/02/15(金) 17:16:33

こちら弁天通りラッキーロード商店街こちら弁天通りラッキーロード商店街
(2013/01/18)
五十嵐 貴久

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印刷工場を経営していた笠井武は、友人の連帯保証人になったことから莫大な借金を抱えてしまった。苛烈な取り立てから逃げた先の無人の寺で一夜を過ごし、首をくくろうかと考えていた彼は、町の老人たちに新しい住職と勘違いされる。「ポックリ逝かせてほしい」と懇願された笠井が事情を尋ねると、彼らはシャッター商店街の老店主たちで、もう生きていても仕方ないと言うのだが―。老店主たちに頼られたニセ坊主の思いつきは、町と人々を再生できるのか!?読んだら希望が湧いてくる、痛快エンターテインメント。


紹介文の通り、愉快痛快な物語なのは間違いない。どうしても荻原さんのユニバーサル広告社を思い出してしまうとしても。ただ、もはや死に体とも言えるラッキーロード商店街を、ほんの思いつきの提案で蘇えらせてしまうのは、午前様こと笠井武の力だけでなく、商店主たちの働いて誰かの役に立ちたいという、長いこと胸の底でくすぶっていた思いの発露の結果なのだろう。午前様のアドバイスがたぶん消えていた導火線に火をつけたのだ。地の果てまでも追ってくるはずの貸金業者が、あの提案をあっさり受け入れてしまうのも、まぁいいとしよう。愉しく前向きに読める一冊である。

土井徹先生の診療事件簿*五十嵐貴久

  • 2013/02/07(木) 16:58:38

土井徹先生の診療事件簿土井徹先生の診療事件簿
(2008/11)
五十嵐 貴久

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殉職警官を父に持つ令子は、24歳にして南武蔵野署の副署長。毎日暇にしていたら、「命を狙われている」と訴えるノイローゼ気味の偏屈な老人を訪ねることに。その老人宅で出会ったのが、病気のダックスフントを往診していた獣医の土井徹先生とその孫・桃子。ダックスフントと「話した」先生は、驚きの真実を令子に告げる…(「老人と犬」)。いつでも暇な副署長・令子、「動物と話せる」獣医・土井先生、おしゃまな先生の孫・桃子。動物にまつわるフシギな事件を、オカシなトリオが解決。心温まるミステリー。


「老人と犬」 「奇妙な痕跡」 「かえるのうたが、きこえてくるよ」 「笑う猫」 「おそるべき子供たち」 「トゥルーカラー」 「警官殺し」

井の頭公園を管轄内に持つ、南武蔵野署が舞台である。主人公は、ノンキャリアながら絶大な人望があったのに殉職した父を持つ、バリバリのキャリアの立花令子、24歳。父のおかげで大事にされ過ぎ、いわばお飾りのような存在になっているのだが、たまたま声がかかった事件で偶然に知り合った獣医の土井先生の力を(全面的に)借りて、曲がりなりにも事件を解決してしまったりする。真の主役は土井先生と言ってもいいだろう。最後の事件は、未解決のようなものなので、ぜひ続編を書いてほしい。土井先生と桃子ちゃんの活躍ももっと見たいし。土井徹先生のファンになってしまった一冊である。

なでし子物語*伊吹有喜

  • 2012/12/16(日) 07:13:36

なでし子物語 (一般書)なでし子物語 (一般書)
(2012/11/07)
伊吹 有喜

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父を亡くし母に捨てられ、祖父に引き取られたものの、学校ではいじめに遭っている耀子。夫を若くして亡くした後、舅や息子と心が添わず、過去の思い出の中にだけ生きている照子。そして、照子の舅が愛人に生ませた男の子、立海。彼もまた、生い立ちゆえの重圧やいじめに苦しんでいる。時は一九八〇年、撫子の咲く地での三人の出会いが、それぞれの人生を少しずつ動かしはじめる―『四十九日のレシピ』の著者が放つ、あたたかな感動に満ちた物語。


山持ちのお坊ちゃんである立海、その山の世話をする使用人の孫娘である耀子。二人の子どもは、生い立ちや立場の違いはもちろん、抱える苦悩もそれぞれなのだが、それでも奥深くで共感・共鳴し、強く惹かれあうのである。立海の義姉であり、「おあんさん」と呼ばれる照子も、大人ではあるが、屈託を抱え、子どもたちに放っておけないものを感じながら見守るようになるのだった。子どもたちを照子や立海の家庭教師・青井らが見守りながら支え、立海と耀子が互いに欠けたところを埋めるように過ごすのを見ていると、しあわせとはなんだろう、と考えずにはいられない。青井の教え、「自立と自律」が胸に沁みる一冊である。

蒼林堂古書店へようこそ*乾くるみ

  • 2012/10/19(金) 07:14:10

蒼林堂古書店へようこそ (徳間文庫)蒼林堂古書店へようこそ (徳間文庫)
(2010/05/07)
乾 くるみ

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書評家の林雅賀が店長の蒼林堂古書店は、ミステリファンのパラダイス。バツイチの大村龍雄、高校生の柴田五葉、小学校教師の茅原しのぶ―いつもの面々が日曜になるとこの店にやってきて、ささやかな謎解きを楽しんでいく。かたわらには珈琲と猫、至福の十四か月が過ぎたとき…。乾くるみがかつてなく優しい筆致で描くピュアハート・ミステリ。


林四兄弟シリーズ。今回登場するのは次男の林雅賀(はやしまさよし)。彼はカフェ付古書店のマスターで探偵役でありながら、主役ではなく、目線は常連客で高校の同級生の大村龍雄である。100円以上の売買をした客にコーヒーを振舞う、という独自のサービス目当てにやってくる常連客たちが持ち込むちょっとした引っ掛かりを解き明かす、という趣向である。北森鴻氏の香菜里屋シリーズに趣向は似ているが、数段こぢんまりさせたような感じではある。探偵役の林雅賀が――答えがあらかじめわかっているとは言え――インターネットで検索してみせる、というのはいまの時代ならでは、なのか、なぁ。気軽に愉しめる一冊ではある。

林真紅郎と五つの謎*乾くるみ

  • 2012/10/13(土) 16:58:14

林真紅郎と五つの謎 (カッパ・ノベルス)林真紅郎と五つの謎 (カッパ・ノベルス)
(2003/08/21)
乾 くるみ

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複雑な波形が脳裏で重なるとき、林真紅郎の前にもはや謎はない!
林真紅郎は35歳の元法医学者。妻を事故で亡くしたことがきっかけで大学を辞めてからは、「隠居」生活を送っている。そんな彼が出会う不思議な5つの事件。バラバラに見える謎すべてが脳裏でシンクロした時に見える真相とは?


「いちばん奥の個室」 「ひいらぎ駅の怪事件」 「陽炎のように」 「過去から来た暗号」 「雪とボウガンのパズル」

林四兄弟シリーズの一作目。探偵役は四男・真紅郞。190cmを超える長身が特徴で、一年半前に妻を亡くして以来、三十五歳の若さで隠居暮らしである。だがなぜか、彼が赴くところに事件があり、謎を解きほぐさんと思考をめぐらすうちに、パズルの最後のピースがカチッとはまるようにシンクロして謎を解き明かすのである。だから真紅郞というのはどうかと思わなくもないが、まぁ、お遊びと言ったところか。三男の茶父とは全く違うキャラクターだが、どことなくとらえどころがないところは似ていると言えるかもしれない。謎解きにさして一生懸命ではないように見受けられるし、ときに見当違いだったりもするし、人任せだったりもするが、なぜか憎めないキャラクターではある。林四兄弟の揃い踏みを見たいシリーズである。