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むらさきのスカートの女*今村夏子

  • 2019/07/18(木) 18:59:14

【第161回 芥川賞受賞作】むらさきのスカートの女
今村夏子
朝日新聞出版
売り上げランキング: 6

近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性のことが、気になって仕方のない〈わたし〉は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で働きだすように誘導し……。

『こちらあみ子』『あひる』『星の子』『父と私の桜尾通り商店街』と、唯一無二の視点で描かれる世界観によって、作品を発表するごとに熱狂的な読者が増え続けている著者の最新作。


不思議な物語である。とはいえ、作中で起こっていることにはさほど不思議なことはなく、(癖はあるが)普通の女たちの日常が描かれているに過ぎない。それでも、始まりから不穏さが漂う。「むらさきのスカートの女」は、働いたり働かなかったりで、昼間公園の決まったベンチでクリームパンを食べていたり、人にぶつからずに道を歩くことができたり、何となく変わり者として町の名物のようであり、自称「黄色いカーディガンの女」であるわたしは、彼女と友だちになりたいがためにあれこれ策を弄するのである。むらさきの女=変人、と思い込んで読み進めるのだが、ふと立ち止まると、ほんとうに変わっているのは別の人のように思われてくる。その視点の切り替わり方が不思議さにつながるのかもしれない。自分の目が信じられなくなるような……。むらさきのスカートの女を描いていると見せかけて、実は別の人のことをクローズアップしたかったのではないかと、ページが残り少なくなってやっと気づかされる。一筋縄ではいかない物語であり、ラストのその後が気になって仕方がない一冊でもある。

ジグソーパズル48*乾くるみ

  • 2019/06/27(木) 12:53:43

ジグソーパズル48
ジグソーパズル48
posted with amazlet at 19.06.27
乾 くるみ
双葉社
売り上げランキング: 449,614

『イニシエーション・ラブ』で日本中を驚かせた著者による待望の新刊、次なる舞台は女子校!? 私立曙女子高等学院の問題児ばかり集められるクラス(通称マルキュー)に、ある生徒が異動してきた。家族が抱えた借金のために、学費を稼ぐ目的でやっていたアルバイトがバレたのが理由だという。それを知ったマルキューのメンバーは彼女が特待生資格をとれるよう一致団結するが…(「マルキュー」)ほか、6篇を収録。個性豊かな生徒達が、学校やクラスで起きる事件をチームワークで解決!


名門女子高が舞台である。連作短編ではあるが、登場人物は各章でそれぞれ違う。しかもその名前がどれも独特で忘れられないのだが、いささか人物を連想しにくい。女子高で起こる事件にしては、ずいぶんとハードなものが多く、この学校にいたら、日常的に緊張が絶えない気がしてしまう。ジグソーパズルというよりも、知恵の輪的な複雑さを愉しめる一冊だった。

父と私の桜尾通り商店街*今井夏子

  • 2019/04/05(金) 21:23:36

父と私の桜尾通り商店街
今村 夏子
KADOKAWA (2019-02-22)
売り上げランキング: 38,782

違和感を抱えて生きるすべての人へ。不器用な「私たち」の物語。

桜尾通り商店街の外れでパン屋を営む父と、娘の「私」。うまく立ち回ることがきず、商店街の人々からつまはじきにされていた二人だが、「私」がコッペパンをサンドイッチにして並べはじめたことで予想外の評判を呼んでしまい……。(「父と私の桜尾通り商店街」)
全国大会を目指すチアリーディングチームのなかで、誰よりも高く飛んだなるみ先輩。かつてのトップで、いまは見る影もないなるみ先輩にはある秘密があった。(「ひょうたんの精」)
平凡な日常は二転三転して驚きの結末へ。
『こちらあみ子』『あひる』『星の子』と、作品を発表するたびに読む者の心をざわめかせ続ける著者の、最新作品集!

収録作品
・白いセーター
・ルルちゃん
・ひょうたんの精
・せとのママの誕生日
・モグラハウスの扉(書き下ろし)
・父と私の桜尾通り商店街


タイトルや表紙から想像するのどかさとはいささか趣が違う物語たちである。それぞれにとってごく普通に流れていくはずの日常に、ほんの些細な要素が入り込むことによって、違和感が生じ、初めはぽつんとした点のようだったそれが、じわりじわりと広がっていって、日常そのものを侵食していくようなイメージである。何かが違う、と思った時はすでに遅く、後戻りできずに進むしかない。ほんの半歩違う方向に足を踏み出せば、健やかな流れに乗れそうなのに、それはとてつもなく難しいことなのかもしれない。何となく胸のなかがざわついた感じにさせられる一冊である。

レプリカたちの夜*一條次郎

  • 2018/09/06(木) 16:54:19

レプリカたちの夜
レプリカたちの夜
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一條 次郎
新潮社
売り上げランキング: 192,326

「とにかくこの小説を世に出すべきだと思いました」伊坂幸太郎激賞、圧倒的デビュー作。動物のレプリカをつくる工場に勤める往本は、残業中の深夜、動くシロクマを目撃する。だが野生のシロクマは、とうに絶滅したはずだった――。不条理とペーソスの息づく小説世界、卓越したユーモアと圧倒的筆力。選考委員の伊坂幸太郎、貴志祐介、道尾秀介から絶賛を浴びた、第二回新潮ミステリー大賞受賞作にして超問題作。


伊坂さん絶賛、に惹かれて読んだのだが、わたしにはいささか哲学的というか、不条理が過ぎて、馴染めなかったというのが正直なところである。浅く読めば、おかしなことばかり起こるようであり、深く読めば、含んでいるものが深すぎて、表層に現れるものとのバランスが保たれなくなってくる印象で、頭の奥の方が疲労してくる。わたしにとっては愉しいとは言えない一冊である。

60 tとfの境界線*石川智健

  • 2018/07/05(木) 12:58:04

60 tとfの境界線
60 tとfの境界線
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石川 智健
講談社
売り上げランキング: 227,120

老刑事・有馬と、女性検事・春名、若手弁護士・世良の三名は、国の政策で創設された「誤判対策室」に配属された。無罪を訴える死刑囚を再調査し、冤罪の可能性を探る組織だ。配属から半年後、有馬は小料理屋の女将から、二人組の客が殺人の犯行を仄めかしていたことを聞く。冤罪事件を有馬は疑い、母親とその子供二人を殺害した罪で、古内博文という男の死刑が確定していることを突き止める。誤判対策室は調査を開始するが、古内の死刑執行が迫る!


初めからいささか姥捨て山的な雰囲気を漂わせる「誤判対策室」である。メンバーは、刑事の有馬、検事の春名、弁護士の世良というたった三人である。しかも関係は良好とはいえない。一体彼らに何ができるのか。はたして、半年たったいまでも成果ゼロである。そんな折、有馬が、裡に屈託を秘めて通っている小料理屋の女将から、ある事件に関する新しい話を聞かされる。それから三人の関係性が少しずつ変化し、当該事件の冤罪を証明するのに情熱を傾けるようになっていく。だが、そんな彼らの行動に水を差す事実が明らかにされる。それぞれの職務に忠実であろうとする中で抱えたジレンマや後悔に悩みながらも、前に向かっていく彼らの執念と、真実を追求することの難しさをひしひしと感じさせられる一冊だった。

わたしの忘れ物*乾ルカ

  • 2018/06/20(水) 16:40:02

わたしの忘れ物
わたしの忘れ物
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乾 ルカ
東京創元社
売り上げランキング: 479,553

中辻恵麻がH大学生部から無理矢理に紹介された、大型複合商業施設の忘れ物センター―届けられる忘れ物を整理し、引き取りに来る人に対応する―でのアルバイト。引っ込み思案で目立たない、透明なセロファンのような存在の私に、この仕事を紹介したのはなぜ?なぜこんな他愛のない物を引き取りに来るの?忘れ物の品々とその持ち主との出会い、センターのスタッフとの交流の中で、少しずつ心の成長を遂げる恵麻だが―。六つの忘れ物を巡って描かれる、じんわりと心に染みる連作集。


妻、兄、家族、友、彼女、そして私、という六つの忘れ物の物語である。大型商業施設の喧騒から離れた先の、スタッフオンリーかと思ってしまうような通路を曲がったところにある忘れ物センターが物語の舞台である。中辻恵麻は、母の介護のために休職中の係長の穴埋めのために、成り行きで半ば無理やりにここでアルバイトすることになったのである。舞台や設定からは、何やら小川洋子めいた匂いがするし、ガラクタにしか見えない忘れ物たちに、見えない価値を見つけ出す水樹さんや橋野さんも、いささか謎めいていて、興味を惹かれる。忘れ物を取りに訪れる人たちにもそれぞれ生活があり、さまざまなものを抱え込んでいて、そんなその人だけの価値を知ることにも心惹かれる。だが、それだけでこの物語は終わらない。恵麻の忘れ物の物語が解き明かされるとき、いままでの不思議が氷解し、あたたかい涙とともに流れ出してくるのである。遅くなくてよかった、と恵麻に行ってあげたくなる一冊である。

屍人荘の殺人*今村昌弘

  • 2018/03/24(土) 18:34:51

屍人荘の殺人
屍人荘の殺人
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今村 昌弘
東京創元社
売り上げランキング: 970

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け―。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった…!!究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?!奇想と本格ミステリが見事に融合する選考委員大絶賛の第27回鮎川哲也賞受賞作!


密室謎解きミステリとしては面白いのだが、ゾンビが出てきた段階で――たとえそれなくしてはトリックが成立しないとしても――、昂揚感がすっと引いてしまった――個人的な好みの問題なのだが――のが、残念でならない。なにかもっと、現実に起こる可能性が高い設定にしてくれたら、もっと愉しめたのだろうと思うと、ゾンビが必要不可欠な要素だからと言っても、がっかり感がぬぐえない。感染症まではいいが、それをゾンビにする以外なんとかしようがなかったものかと思ってしまう。評判が高いだけに、個人的にはいささか腑に落ちない一冊になってしまった。

彼方の友へ*伊吹有喜

  • 2017/12/26(火) 16:19:39

彼方の友へ
彼方の友へ
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伊吹 有喜
実業之日本社
売り上げランキング: 3,426

「友よ、最上のものを」
戦中の東京、雑誌づくりに夢と情熱を抱いて――
平成の老人施設でひとりまどろむ佐倉波津子に、赤いリボンで結ばれた小さな箱が手渡された。
「乙女の友・昭和十三年 新年号附録 長谷川純司 作」。
そう印刷された可憐な箱は、70余年の歳月をかけて届けられたものだった――
戦前、戦中、戦後という激動の時代に、情熱を胸に生きる波津子とそのまわりの人々を、あたたかく、生き生きとした筆致で描く、著者の圧倒的飛躍作。

実業之日本社創業120周年記念作品
本作は、竹久夢二や中原淳一が活躍した少女雑誌「少女の友」(実業之日本社刊)の存在に、著者が心を動かされたことから生まれました。


現在の佐倉波津子は高齢者施設で夢と現を行き来するような日々を送っている。傍からは、何も考えていないように見えるかもしれないが、頭の中には、来し方のあれこれが渦巻いていて忙しい。そんな波津子が駆け抜けてきた人生が彼女の目線で繰り広げられている。時折現在の様子に立ち戻るとき、そのギャップは人の老いというものを思い知らされるが、頭の中は存外誰でも活き活きしているのかもしれないとも思わされて、勇気づけられもする。そんな波津子の元へ、あのころの思い出の品とともに、関わって来た人たちとゆかりのある若い人たちが訪れ、話を聴きたいと言いう。積年の想いも報われ、波津子と「乙女の友」に関わった人たちの生き様が語り継がれることになるのである。ラスト三分の一は、ことに、涙が止めどなく、あふれるままに読み進んだ。外で読むには向かないが、中味がぎっしり詰まった読み応えのある一冊である。

地の星 なでし子物語*伊吹有喜

  • 2017/11/05(日) 16:08:38

地の星 なでし子物語
地の星 なでし子物語
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伊吹 有喜
ポプラ社
売り上げランキング: 78,714

自立、顔を上げて生きること。自律、美しく生きること―。遠州峰生の名家・遠藤家の邸宅として親しまれた常夏荘。幼少期にこの屋敷に引き取られた耀子は、寂しい境遇にあっても、屋敷の大人たちや、自分を導いてくれる言葉、小さな友情に支えられて子ども時代を生き抜いてきた。時が経ち、時代の流れの中で凋落した遠藤家。常夏荘はもはや見る影もなくなってしまったが、耀子はそのさびれた常夏荘の女主人となり―。ベストセラー『なでし子物語』待望の続編!


今作は、耀子に焦点が当てられている。常夏荘の女主人・おあんさんと呼ばれるようになり、遠藤家の龍治との間に瀬里という娘のいる母親になっている。凋落した遠藤家のために、スーパーに働きに出ている耀子であるが、そのことについては、遠藤家の内外からさまざま取りざたされもしている。それでも、前を向いて、一歩ずつ歩を運ぶ耀子が、弱々しげだった印象から少しずつ脱皮して、たくましさまで感じさせられるようになっていく姿は、思わず応援したくなる。次作は、一作目と今作の間の物語のようだが、そちらもとても気になるシリーズである。

カンパニー*伊吹有喜

  • 2017/09/27(水) 16:39:54

カンパニー
カンパニー
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伊吹 有喜
新潮社
売り上げランキング: 62,322

合併、社名変更、グローバル化。老舗製薬会社の改革路線から取り残された47歳の総務課長・青柳と、選手に電撃引退された若手トレーナーの由衣。二人に下された業務命令は、世界的プリンシパル・高野が踊る冠公演「白鳥の湖」を成功させること。主役交代、高野の叛乱、売れ残ったチケット。数々の困難を乗り越えて、本当に幕は開くのか―?人生を取り戻す情熱と再生の物語。


何の予備知識もなしに読み始めたのだが、とても面白かった。バレエの世界には全く縁がないので知らなかったが、バレエ団のことをカンパニーと呼ぶらしい。タイトルはまさにバレエ団のことなのだが、製薬会社の再編成やリストラに絡んで、会社に人生を振り回される青柳や瀬川を見ていると、会社のカンパニーが描かれているとも言えるかもしれない。世界に名だたるプリンシパルにも、わき役に甘んじるダンサーにも、トレーナーにも、企業から出向してきた社員にも、それぞれ人生があり、抱えているものがあり、コンプレックスがあり、誇りがある。仕事も立場も違えど、同じ人間なのだという思いを強くする。どんな立場にいようとも、ひとりでは何も成し遂げられず、周りの人々と一緒に作り上げていく喜びがあるのである。決断は自分でするものだが、そこに至る道筋にはたくさんの人がいて、さまざまな思いがあるのだと、あたたかい気持ちにさせてくれる一冊だった。

がん消滅の罠*岩木一麻

  • 2017/07/19(水) 19:04:47


日本がんセンター呼吸器内科の医師・夏目は、生命保険会社に勤務する森川から、不正受給の可能性があると指摘を受けた。
夏目から余命半年の宣告を受けた肺腺がん患者が、リビングニーズ特約で生前給付金3千万円を受け取った後も生存しており、
それどころか、その後に病巣が綺麗に消え去っているというのだ。同様の保険支払いが4例立て続けに起きている。
不審を抱いた夏目は、変わり者の友人で、同じくがんセンター勤務の羽島とともに、調査を始める。
一方、がんを患った有力者たちから支持を受けていたのは、夏目の恩師・西條が理事長を務める湾岸医療センター病院だった。
その病院は、がんの早期発見・治療を得意とし、もし再発した場合もがんを完全寛解に導くという病院。
がんが完全に消失完治するのか? いったい、がん治療の世界で何が起こっているのだろうか―。


がんで余命診断された患者が、湾岸医療センターにかかると、病巣が消え去り、がんが寛解するという事実が多発していることに気づいたがんセンターの医師・夏目は、友人で同センターに勤務する羽島と調査を始める。がんと診断されたときに保険金が支払われる保険のリビングニーズ特約も絡み、突然退職した夏目の恩師の消息も絡み、事態は厭な感じに複雑になっていく。がんが治るという願ってもないことにもかかわらず、なにやら喜べないことが裏で行われていることは初めから判るものの、それが何を目的に企てられ、どんな手順で進められているのか、そのトリックに興味はそそられる。さらにそれだけではなく、夏目の恩師・西條の個人的な事情も絡み、思わぬ事実が明らかにされる。がん寛解の手順については腑に落ちたが、その目的に関しては、いささか消化不良な印象もぬぐえない。興味深い一冊であることは間違いない。

あひる*今村夏子

  • 2017/05/08(月) 11:00:36

あひる
あひる
posted with amazlet at 17.05.08
書肆侃侃房 (2016-12-14)
売り上げランキング: 3,126

あひるを飼うことになった家族と学校帰りに集まってくる子供たち。一瞬幸せな日常の危うさが描かれた「あひる」。おばあちゃんと孫たち、近所の兄妹とのふれあいを通して、揺れ動く子供たちの心の在り様を、あたたかくそして鋭く描く「おばあちゃんの家」「森の兄妹」の3編を収録。


表題作のほか、「おばあちゃんの家」 「森の兄妹」

外から一見すると、ほのぼのとした日常の暮らしのひとコマのように見える。だが、一歩近づいてみると、そこにはほんのわずかな歪みや傷があり、胸のどこかをざわめかせるのである。しあわせそうに見える光景から、表面の薄皮をはいでみたら、見てはいけないものがふと現れてしまったような、不穏な心地にさせられるのである。かと言って、ほんとうにひどいことが行われているわけでもない。その不穏さの忍び込ませ方が絶妙で、何となく厭な気持ちになりそうになりながらも先へ進まずにはいられないのである。あっという間に読めてしまうにもかかわらず、胸の奥深くまで沁みとおる一冊である。

物件探偵*乾くるみ

  • 2017/04/18(火) 16:43:13

物件探偵
物件探偵
posted with amazlet at 17.04.18
乾 くるみ
新潮社
売り上げランキング: 7,708

不動産の間取り図には、あなたの知らない究極のミステリが潜んでいる。利回り12%の老朽マンション!? ひと りでに録画がスタートする怪現象アパート? 新幹線の座席が残置された部屋??――そんなアヤシイ物件の謎、解けますか? 『イニシエーション・ラブ』で日本中をまんまと騙した作家が、不動産に絶対欺されないコツを教えます。大家さんも間取りウォッチャーも興奮の超実用的ミステリ!


「田町9分1DKの謎」 「小岩20分一棟売りアパートの謎」 「浅草橋5分ワンルームの謎」 「北千住3分1Kアパートの謎」 「表参道5分1Kの謎」 「池袋5分1DKの謎」

書類上では、それぞれ、それなりに魅力的な物件に思えるが、いざ契約を済ませて実際に入居してみると、さまざまな不都合が出てくるものである。そんなときにいきなり、宅建の資格を持ち、部屋の気持ちが判るという不動尊子(ふどうたかこ)という女性がやって来て、なにやら関係者と話をつけて解決してしまう、という物語である。不動産売買のむずかしさや、駆け引きの複雑さなど、裏事情が垣間見られるのも興味深い。不動の突然の登場も設定が突飛すぎて、あっさり受け入れてしまうのも一興である。もっと別の物件が見たくなる一冊である。

情熱のナポリタン*伊吹有喜

  • 2017/03/11(土) 18:37:31

情熱のナポリタン―BAR追分 (ハルキ文庫)
伊吹 有喜
角川春樹事務所 (2017-02-14)
売り上げランキング: 3,423

かつて新宿追分と呼ばれた街の、“ねこみち横丁”という路地の奥に「BAR追分」はある。“ねこみち横丁”振興会の管理人をしながら脚本家を目指す宇藤輝良は、コンクールに応募するためのシナリオを書き上げたものの、悩んでいることがあって…。両親の離婚で離れて暮らす兄弟、一人息子を育てるシングルマザー、劇団仲間に才能の差を感じ始めた男―人生の分岐点に立った人々が集う「BAR追分」。客たちの心も胃袋もぐっと掴んで離さない癒しの酒場に、あなたも立ち寄ってみませんか?大人気シリーズ第三弾。


今回もおいしそうなものがたくさん出てきて、バール追分に行ってみたくてたまらなくなる。登場人物もみんなそれぞれに魅力的で、誰もが何かを抱えているのだが、そのことで歪まずに、却って人柄に深みを増す役に立っている気がする。助け合い、というと軽い感じもするが、深いところで結びつき思いやり、支え合っているように見える。宇藤君も階段を一段上がった感があるし、桃ちゃんはまだよくわからないし、さらに楽しみなシリーズである。

今はちょっと、ついてないだけ*伊吹有喜

  • 2016/12/12(月) 07:00:34

今はちょっと、ついてないだけ
伊吹 有喜
光文社
売り上げランキング: 363,480

かつて、世界の秘境を旅するテレビ番組で一躍脚光を浴びた、「ネイチャリング・フォトグラファー」の立花浩樹。バブル崩壊で全てを失ってから15年、事務所の社長に負わされた借金を返すためだけに生きてきた。必死に完済し、気付けば四十代。夢も恋人もなく、母親の家からパチンコに通う日々。ある日、母親の友人・静枝に写真を撮ってほしいと頼まれた立花は、ずっと忘れていたカメラを構える喜びを思い出す。もう一度やり直そうと上京して住み始めたシェアハウスには、同じように人生に敗れた者たちが集まり…。一度は人生に敗れた男女の再び歩み出す姿が胸を打つ、感動の物語。


覇気もやる気も向上心もすべてどこかへ置き忘れてきたような中年男・立花浩樹が主人公である。もともと目立つ方ではなかった浩樹が、ひょんなことから注目を浴び、作られた姿と現実の狭間で自分を見失い、しかもバブル崩壊に伴うあれこれによって、財産もすべて失うことになった結果のこの体たらくである。ある日、母が暮らす施設の母の友人の写真を撮ったことがきっかけで、心の持ち方が少しずつ変わり、周りの人やそのつながりに後押しされて、自分の居場所や進む道を見つけるまでになるのである。見た目と身体だけで注目されてきたと卑下するばかりだった浩樹だが、外見と内面のギャップも魅力的に思われ、つい応援したくなる。どん底にいても、人とのつながりを断たなければ、浮かぶ瀬もある、と思わせてくれる一冊である。