Another エピソードS*綾辻行人

  • 2013/09/07(土) 16:43:42

Another エピソード S (単行本)Another エピソード S (単行本)
(2013/07/31)
綾辻 行人

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1998年、夏休み―両親とともに海辺の別荘へやってきた見崎鳴、15歳。そこで出会ったのは、かつて鳴と同じ夜見山北中学の三年三組で不可思議な「現象」を経験した青年・賢木晃也の幽霊、だった。謎めいた古い屋敷を舞台に―死の前後の記憶を失い、消えたみずからの死体を探しつづけている幽霊と鳴の、奇妙な秘密の冒険が始まるのだが…。


前作の詳細をほとんど覚えていなかったので、初めてのように新鮮に読んだ。前作は確か学園ドラマっぽかった印象があるが、今作は夜見山中学の不思議というキーワードはそのままだが、舞台は中学ではなく、湖畔の館である。しかもまた思わせぶりな仕掛けもいろいろあり、そうきたか!、と思わされる展開ありで、ハラハラドキドキさせられる。苦手分野のホラーのにおいに警戒しつつ読み始めたはずが、いつの間にか綾辻流に惹きこまれているという感じの一冊である。

深泥丘奇談・続*綾辻行人

  • 2011/06/02(木) 16:55:44

深泥丘奇談・続 (幽ブックス)深泥丘奇談・続 (幽ブックス)
(2011/03/18)
綾辻 行人

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怪談専門誌『幽』創刊以来圧倒的な人気を誇る新本格の旗手・綾辻行人による連作怪談、待望の第二集。作者の分身とおぼしき小説家の日常の風景がぐにゃりと歪みはじめる前作に引き続き、作中世界の変容に拍車がかかる。
歪んでゆく世界を表現した、ブックデザイン界の鬼才・祖父江愼氏による話題沸騰の「表紙の裏表がひっくり返った」装幀には、さらにどんな仕掛けがほどこされるのか? 主人公の住む「深泥丘(みどろがおか)」の全貌は明かされるのか? 目眩(めまい)? 揺れているのは自分なのか世界なのか。人間の存在が根底から揺さぶられる、哲学的な問と奇妙な味わいをたたえた挑発的連作集。


「鈴」 「コネコメガニ」 「狂い桜」 「心の闇」 「ホはホラー映画のホ」 「深泥丘三地蔵」 「ソウ」 「切断」 「夜蠢く」 「ラジオ塔」

著者を思わせる主人公のように、目眩がしそうな物語の数々である。主人公自身の記憶も曖昧であり、ときにはほんとうの夢であり、またときには白昼夢のごときであり、現実と思しきときであってさえ一筋縄ではいかぬ歪みのただなかに在る心地なのである。おどろおどろしいながらもその向こうにまだなにか語られていないことがあって、あと一歩何かきっかけさえあればはっきりその姿が浮かび上がってくるのではないかというような、期待をこめた怖いもの見たさの気分にさせられもする一冊である。

Another*綾辻行人

  • 2010/04/13(火) 19:08:55

AnotherAnother
(2009/10/30)
綾辻 行人

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その「呪い」は26年前、ある「善意」から生まれた―。1998年、春。夜見山北中学に転校してきた榊原恒一(15歳)は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、いっそう謎は深まるばかり。そんな中、クラス委員長の桜木ゆかりが凄惨な死を遂げた!この“世界”ではいったい、何が起こっているのか?秘密を探るべく動きはじめた恒一を、さらなる謎と恐怖が待ち受ける…。


ホラーは正直言ってあまり得意ではないのだが、本作は、たくさん人が死ぬ割にはおどろおどろしさが少なく、舞台が夜見山という地方都市の公立中学校だということもあるだろうが、ある種爽やかな青春ドラマのようなのである。語り口も、いつもの著者とはひと味違っていて、軽いタッチで読み易い。
どこの学校にもあるだろう学校の七不思議とは、明らかに趣を異にする不穏な出来事が、新学期に机がひとつ足りない年には、夜見山中学三年三組で起こるのである。それは、ほんとうはいない誰かが紛れ込んでいるからだという。家庭の事情でひとり母方の祖父母の家に世話になり、中学三年の一年間を夜見山で過ごすことになった榊原恒一も、否応なく渦中に呑みこまれていくのである。病院で出会い、のちに同級生とわかった少女・見崎鳴(ミサキメイ)の不思議な雰囲気や、クラスメイトの腑に落ちない行動。そして著者によって仕掛けられた見事な罠。恒一の目線で、少しずつ明らかになる三年三組の秘密にドキドキしていたと思ったら、ある時急に現れた全貌は、想像もしていなかったものであり、一瞬にしてあれもこれもが腑に落ちたのだった。原稿用紙1000枚という長さをまったく感じさせない一冊だった。

フリークス*綾辻行人

  • 2009/08/27(木) 16:45:23

フリークス (光文社文庫)フリークス (光文社文庫)
(2000/03)
綾辻 行人

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「J・Mを殺したのは誰か?」。私が読んだ患者の原稿は、その一文で結ばれていた。解決篇の欠落した推理小説のように…。J・Mは、自分より醜い怪物を造るため、5人の子供に人体改造を施した異常な科学者。奴を惨殺したのは、どの子供なのか?―小説家の私と探偵の彼が解明する衝撃の真相!(表題作)夢現、狂気と正常を往還する物語。読者はきっと眩暈する。


表題作のほか、「夢魔の手-三一三号室の患者-」 「四〇九号室の患者」

「K**総合病院」の精神科を舞台としたミステリなのだが、一般的な謎解きの要素に加え、患者の心の動きに翻弄されながら、読者である自分がいまいる場所を見極めながら読み進まなければならないという要素もあるので、考えなければならないことが多い一冊である。
視点によって、物事がいともあっけなく反転してしまうということを改めて思わされる。

深泥丘奇談(みどろがおかきだん)*綾辻行人

  • 2008/09/24(水) 17:03:11

深泥丘奇談 (幽BOOKS)深泥丘奇談 (幽BOOKS)
(2008/02/27)
綾辻行人

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誰も見たことのない「綾辻行人の世界」
京都の奥には、何かが潜んでいる・・・。深泥丘病院の屋上で見た幻鳥、病院の地下へと続く階段、痛む歯、薄れゆく街の記憶・・・作家である「私」がみた日常が一瞬にして怪談に変わるとき、世界は裏の顔を表す!
物語の舞台は、作者が生まれ育ち、現在も居を構える古都・京都を彷彿させる町。語り手である「私」の家は「町の東地区、北寄りの山ぎわ」「紅叡山の麓のあたり」にある。物語の始まりは、晩春の黄昏時。自宅から少し離れた「深泥丘」周辺を散策していた語り手は、突如烈しい眩暈に襲われ、行く手に見かけた「医療法人再生会 深泥丘病院」を訪れる。そこは入院設備も整った、古びた四階建ての小病院だった。一話目の「顔」は、精密検査を勧められ短期入院することになった語り手が、病院内で奇怪なモノを目撃する話。「ちちち……と、最初はそう聞こえた。――ような気がした」という特徴的な冒頭の一節といい、妖しげな病院が舞台となっている点といい、主人公を見舞う記憶の混濁といい、綾辻行人版『ドグラマグラ』。 ところが二話目の「丘の向こう」に至って、物語のパースペクティヴは俄然、一挙に拡がりを見せる。深泥丘の向こう側に散策の足を伸ばした語り手は、そこに鉄道の線路が走っていることを知り愕然とする。帰宅後、妻にその話をすると、それは「Q電鉄の如呂塚線」であり、終点にある如呂塚遺蹟を見物に、二人で出かけたこともあると指摘され、語り手の困惑はさらに深まってゆくのだ。いにしえの水都の幻影が顕ちあらわれる「長びく雨」、歯科治療をめぐり作者一流の生理的恐怖描写が冴える「サムザムシ」、微妙にクトゥルー神話を彷彿させて心弾ませる「開けるな」、京都名物・五山の送り火が、シュルレアリスム絵画さながらの幻視の光景へ一変する傑作「六山の夜」、秋祭りの夜に病院で開催される奇術ショーの奇怪な顛末を描く「深泥丘魔術団」、語り手の自宅周辺に謎の生き物が出没する「声」……自宅と病院を楕円の両極とする語り手の散策=夢幻彷徨が、驚異と幻想の地誌学とでも称すべき光景を開示し、謎めいた世界観の全貌が、精妙な手つきで明らかにされてゆく――本連作に秘められた奇計は、未だその片鱗を覗かせたばかり。(推薦文・・東雅夫)


著者初の怪談集、ということである。が、そこは綾辻行人である。著者のテイストがたっぷり行き渡った綾辻流怪談とでも言ったらいいのではないかと思う。
語り口は妖しさ満載のミステリと同じく、思わせぶりで、時空を自在に行きつ戻りつする感じであり、それが一層、現実ならざる浮遊感を物語りに与えている。
眩暈に悩まされる作家の主人公の、自らが立っている場が根底から揺らぐ不安と心許なさが、そのまま物語の雰囲気になっているのも巧みである。
このあとつづく、綾辻流怪談にも期待したい。

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四〇九号室の患者*綾辻行人

  • 2008/08/10(日) 16:35:57

四〇九号室の患者四〇九号室の患者
(1995/05)
綾辻 行人

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多くの読者を魅了する推理小説家の著者が、プロデビュー前に書いた作品。自動車事故で失った記憶を求めて綴られる日記。次第に明らかになる自らの謎。二転三転の末に待ちうける結末とは。1993年森田塾出版の再刊。


作品のほとんどが、事故にあって生き残りはしたが記憶を失って精神科の病棟に入院している主人公の日記で占められている。その間にほんの少し、看護師や担当医師の思惑が挟み込まれているだけである。それだけで、「わたしは誰?」という主人公の狂おしい胸のうちと、怖いもの見たさの読者の興味とが加速度的に盛り上がるのである。
綾辻氏なので、いちばんありえない結末を予想してみたのだが、まさにそんな結末だった。

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鳴風荘事件*綾辻行人

  • 2007/11/22(木) 19:40:45


鳴風荘事件 殺人方程式II (講談社文庫)鳴風荘事件 殺人方程式II (講談社文庫)
(2006/03/15)
綾辻 行人

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奇天烈な洋館に集まった人々は目を疑った。六年前に殺された女流作家そっくりに、その妹が変貌していたのだ。そして姉の事件と同じ月蝕の晩、惨劇が彼女を襲う。"不思議な力"を持っているという黒髪を切られる手口も酷似してーー。必要な手掛かりをすべて提示して「読者へ挑戦」する新本格ミステリの白眉!


明日香井響と明日香井叶の一卵性双生児シリーズ第二弾。
叶の妻・深雪が十年前に埋めたタイムカプセルを掘り出す約束を果たしに当時の美術部顧問・青柳の自宅を訪れ、美術部の仲間たちと再会したところから事件は始まる。
物語ではその前に、叶と深雪のなれそめが明かされている。
鳴風荘の見取り図はじめ、各人のデータが随所に示され、ラストには「読者への挑戦」も用意されている。これぞ本格、というお膳立てである。
個人データを見た時点で、引っからずにはいられなかった人物が結局のところ犯人だったが、その動機にはまったく思い至らなかった。
この物語も舞台は館であるが、著者の館シリーズのようないかにもというようなおどろおどろしさはなく、軽やかとも言えるかもしれない。

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殺人方程式*綾辻行人

  • 2007/11/21(水) 07:28:37


殺人方程式―切断された死体の問題殺人方程式―切断された死体の問題
(1989/05)
綾辻 行人

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「く、く、首がない!」小心刑事・明日香井叶の眼前には、なんと、首と左腕が切断された死体が―!被害者は『御玉神照命会』の教主・貴伝名剛三。彼は本部ビル内で“密室”状態にあったが、何故か、死体が発見されたのは川を越えた対岸のマンションだった。しかも、前教主・貴伝名光子が謎の死を遂げた直後の惨劇。やがて息子の光彦に嫌疑が…叶の双子の兄・響が周到に練り上げられた完全犯罪に挑む。ミステリー界期待の大型新鋭が、空前のトリックと、強烈なドンデン返しで世に問う、堂々の本格推理登場。


双子の明日香井兄弟――刑事の弟・叶(きょう)と26歳でまだ大学生の兄・響(きょう)――のコンビ(?)シリーズ第一弾。
一卵性双生児であるにもかかわらず、まったく正確の違う饗と叶の物語に果たす役割がまず興味深い。キャラクターとは逆の役割を果たしているようにも見えるが、実際は叶が刑事で正解である気もする。
物語は冒頭から正体の判らない人物の目線で幕を開ける。そして、さほど難しくなさそうに思われる犯人探しにはどんでん返しが待っている。そうか、そうきたか、と思わせておいて、さらに別の答えが用意されていたのには参ってしまった。振り返ってみれば、「そういえば・・・」ということがあちこちに見られるのだが・・・。さらに、舞台選びもなんと絶妙なことか。

余談だが、町田が舞台の作品と出会う機会が多いように思う。小説にしやすい町なのだろうか?

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びっくり館の殺人*綾辻行人

  • 2006/09/24(日) 17:07:35

☆☆☆・・

びっくり館の殺人 びっくり館の殺人
綾辻 行人 (2006/03)
講談社

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とある古書店で、たまたま手に取った1冊の推理小説。読みすすめるうち、謎の建築家・中村青司の名前が目に飛び込む。その瞬間、三知也の心に呼び起こされる遠い日の思い出……。三知也が小学校6年生のとき、近所に「びっくり館」と呼ばれる屋敷があった。いろいろなあやしいうわさがささやかれるその屋敷には、白髪の老主人と内気な少年トシオ、それからちょっと風変わりな人形リリカがいた。クリスマスの夜、「びっくり館」に招待された三知也たちは、<リリカの部屋>で発生した奇怪な密室殺人の第一発見者に! あれから10年以上がすぎた今もなお、事件の犯人はつかまっていないというのだが……!?


「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」と銘打たれた ミステリーランドのなかの一冊。
読者の多くは少年少女なのだろう。が、これはれっきとした「館シリーズ」の第八作でもある。ということは、館は当然 かの中村清司の手によるものである。
十年以上も昔のびっくり感と呼ばれていた古屋敷邸で起こった事件とその頃の出来事を、当時 殺人事件の第一発見者のひとりとなった三知也が思い出し、阪神淡路大震災を生き延びた 当のびっくり館を訪ねるという趣向である。
ラスト近くなってはじめて、殺人事件発見当時に何があったかが語られ、驚愕するのだが、あのラストは何なのだろう。トシオはともかく、あおいはどうなってしまったのだろう。なんだかキツネにつままれたようだった。

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水車館の殺人*綾辻行人

  • 2006/02/21(火) 17:16:33

☆☆☆・・



古城を思わせる異形の建物「水車館」の主人は、過去の事故で顔面を傷つけ、常に仮面をかぶる。そして妻は幽閉同然の美少女。ここにうさんくさい客たちが集まった時点から、惨劇の幕が開く!
密室から男が消失したことと、一年前の奇怪な殺人とは、どう関連するか?
脅威の仕掛けをひそませた野心作。
  ――文庫裏表紙より


中村清司の手に成る館シリーズの第2弾。
過去とされる1985年と、現在とされる1986年を行ったり来たりしながら物語は進む。
過去に水車館で起こった事件と、現在の水車館で起こりつつある事件とは関連があるのだろうか。あるとしたらどんな?
からくりを好んで造ったという中村清司の手に成る館が舞台である故に起こり、過去から現在までその謎を潜ませつづけたとも言える殺人事件の数々である。
1985年と1986年の同日、嵐といい雷といいあまりにも似通った条件なので、ふっとどちらの事件を目にしているのか判らなくなる瞬間があり、それが益々思考を迷路の中に迷い込ませるのである。
焼却炉の前に薬指が落ちていたところで、うっすらと気づいたような気がするのは謎が解かれたからだろうか。

迷路館の殺人*綾辻行人

  • 2006/02/07(火) 08:59:13

☆☆☆・・



複雑な迷路をその懐に抱く地下の館「迷路館」。集まった四人の推理作家たちが、この館を舞台に小説を書き始めた時、惨劇の幕は切って落とされた!
密室と化した館の中で起こる連続殺人。真犯人は誰か?

随所に散りばめられた伏線。破天荒な逆転につぐ逆転。作中作『迷路館の殺人・・・・・・』が畏怖すべき真相を晒した後、さらに綾辻行人が仕掛けた途方もない二つの罠!
  ――文庫裏表紙より


迷路館というタイトルだからというわけではないのだろうが 迷路のように入り組んだ作りの作品である。
講談社から出版された『迷路館の殺人』という綾辻行人著の小説の中にもうひとつ稀譚社から出版されたとされる鹿谷門実著の『迷路館の殺人』が入り込み――しかも、鹿谷門実著の『迷路館の殺人』方が本書に占める割合が大きい――さらにその中で四人の小説家に探偵小説を書かせようという趣向なのである。加えてその舞台は、健康を害し 自らの創作にも行き詰まりを感じて引退宣言をした小説家・宮垣葉太郎の居である迷路館であった。

まず初めに読んでしまったあとがきにも、伏線が随所に張られていることが明言されているにもかかわらず――明言されているからこそかもしれないが――、やはり騙されてしまった。思い込みは恐ろしい。
そして、やっと真犯人に到達したと ほっとしたにもかかわらず、最後の最後でまたもや覆されるのである。まさに裏切られどおしの一冊だった。

最後の記憶*綾辻行人

  • 2005/09/07(水) 17:41:21

☆☆☆・・



 目覚めている間も眠りの中の夢でも、
 思い出せるのはただひとつの記憶だけ――。
 
 若年性の痴呆症を患い、ほとんどすべての記憶を失いつつある母・千鶴。
 彼女に残されたのは、幼い頃に経験したという「凄まじい恐怖」のきおくだけだった。
 バッタの飛ぶ音、突然の白い閃光、血飛沫と悲鳴、
 惨殺された大勢の子供たち・・・・・。
 死に瀕した母を今もなお苦しめる「最後の記憶」の正体とは何なのか?
 本格ホラーの恐怖と本格ミステリの驚き――両者の妙なる融合を果たした、
 綾辻行人・七年ぶりの長編小説。
             (帯より)


母・千鶴は50歳になって間もなく若年性の痴呆症に取り憑かれてしまう。
近いところからどんどん急激に記憶を失い、人間性も失い、自分で動くこともままならなくなり、最後に残されたのは 幼い頃のこの上ない恐怖の記憶だけになり、日々刻々その恐怖に苛まれながら死を待つしかなくなっている。
千鶴の次男であり、この物語の語り手である森吾は、美しくやさしかった母の変わりようと、自分の将来についての不安から情緒不安定になりかけていた。
そんな折、偶然に幼なじみの唯に久しぶりに出会い、背中を押されて 母のルーツを辿ることになるのだが。

著者独特の、思考の合い間合い間に差し挟まれる恐怖のキーワードが謎の答えを知りたいという欲求を高め、恐怖感を煽るのに効果的である。
少しずつじりじりと核心に迫っていく緊張感に心臓が苦しくなるほどだ。
そして辿り着いたところにあったもの。それは、あってはならないが、あの場合なくてはならなかった もっとも恐ろしいことだったのだ。

十角館の殺人*綾辻行人

  • 2005/07/09(土) 10:57:38

☆☆☆・・




 ミステリを書く人間というのは、悪戯好きの子供です。
 少なくとも、僕の場合は間違いなくそうです。
 フェア、アンフェアすれすれのところで、いかにして読み手を「騙す」か、
 そんなことばかり考えて悦に入っています。
 だから、出来上がった作品を人に差し出すのは、いつも、おずおずと、です。
 そして、物陰からこっそりと、その反応を窺います。
 この気分、たまりません。
          (著者のことば)

 奇怪な四重殺人が起こった孤島を、ミステリ研のメンバー七人が訪れた時、
 十角館に連続殺人の罠は既に準備されていた。
 予告通り次々に殺される仲間。犯人はメンバーの一人か!?
 終幕近くのたった“一行”が未曾有の世界に読者を誘いこむ、島田荘司氏絶賛の本格推理。
 まだあった大トリック、比類なきこの香気!
      (文庫裏表紙より)


後に中村清司の館シリーズとなる第一作目であり、著者にとっても最初の一冊である。
からくり好きな中村清司の設計による十角館という場所ならではのトリックであり、読者は初めからそこに現われるからくりを期待して読むことになるのだが、期待を裏切らず、十角館に頼るだけではないトリックにさらに驚かされることになる。
ミステリ研の部員、しかも稀代の名探偵の名をニックネームに持つという設定こそが、そもそも読者の目を欺く大トリックと言えるだろう。

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霧越邸殺人事件*綾辻行人

  • 2005/07/02(土) 21:28:20

☆☆☆・・




 信州の山深き地にひっそりと建つ、「霧越邸」と呼ばれる秘密めいた洋館が、
 この物語の舞台であり、主人公でもあります。
 人間たちはもちろんたくさん登場しますが、真の主人公はやはり
 「夢越邸」そのものの方だろう、と考えています。
 綾辻行人の代表作である、という風に云われることもしばしばあります。
 それが正しいかどうかはさておき、僕が少年時代から抱きつづけていた
 「本格ミステリ」への想いを、すべて封じ込めたような作品であることは
 間違いのないところです。
 浮世のあれこれをしばし忘れて、どっぷりと
 作品世界に浸っていただければと思います。
  (著者のことば) 

演劇集団≪暗色天幕(あんしょくテント)≫の面々が信州の山の中で突然の吹雪に阻まれ、「霧越邸」に身を寄せたことから物語ははじまる。

吹雪のため身動きが取れず、外部との連絡も不能になったいわゆる密室で、北原白秋の童謡「雨」に見立てた殺人が起こる。そして、それは連続殺人事件となるのだ。
劇団の責任者・槍中が探偵役となって事件を検証していくことになるのだが・・・。

「霧越邸」とその住人たち、そしてそこで行き会った人びととの不可思議な共時性と未来の予言。不思議なことだらけなのだが、妙に納得させられてしまう雰囲気がある。
最後に残った犯人の動機には些か首を捻らされるのだが...。

暗黒館の殺人 上下*綾辻行人

  • 2005/05/14(土) 21:11:47

☆☆☆・・


 九州の山深く、外界から隔絶された湖の小島に立つ異形の館――暗黒館。
光沢のない黒一色に塗られたこの浦登家の屋敷を、
 当主の息子・玄児に招かれて訪れた学生・中也は、
 <ダリアの日>の奇妙な宴に参加する。
 その席上、怪しげな料理を饗された中也の実には何が?
 続発する殺人事件の“無意味の意味”とは・・・・・?
 シリーズ最大・最深・最驚の「館」、ここに落成!

                      (単行本・上巻裏表紙より)


江南と暗黒館との関係は?
中也と呼ばれる学生の本当の名は?そして暗黒館との繋がりは?
宿り主を次々と変える「視点」の主は?
館の意匠の謎?
宴に饗された肉とは?

たくさんの謎を提示しながら物語は進み、進むごとにさらなる謎を目の前に突きつけられる。
夥しい数の捻れひねくれたパズルのピースが辺り一面に散らばっていて、過去と現在を捻れたパイプで繋ぐ、かと思うと 引き剥がす、ということが繰り返されて次第に じりじりと収まるべき場所にピースが嵌め込まれていく。

「視点」のつぶやきが、パズルの穴を埋めるようでいてなおさら混乱させるのが、もどかしさを募らせて絶妙である。