左目に映る星*奥田亜希子

  • 2017/03/01(水) 16:55:03

左目に映る星
左目に映る星
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奥田 亜希子
集英社
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小学5年生の時に出会った奇跡のような存在の少年・吉住を忘れられないまま大人になり、他者に恋愛感情を持てなくなった26歳の早季子。恋愛未経験で童貞、超がつくほどのオタクで、人生をアイドル・リリコに捧げる宮内。どうしようもない星たちを繋げるのは、片目を閉じる癖、お互いが抱える虚像。第37回すばる文学賞受賞作。


幼いころに、右目を瞑ると世界ががらっと変わる――左目が乱視と近視だった故――ことに気づいた早季子。それ以来、嫌なことがあると右目を瞑るようになった。小学五年のときに同じクラスになった住吉も、ときどき右目を瞑っているのを見て、どうしようもなく惹かれる。それ以来、住吉は早季子の人生になくてはならない存在になるのである。ある日、早季子にとっての住吉を失ってからは、恋愛もできず、孤独な寂しさを抱え続けているのだった。そんなときに右目を瞑る癖のある宮内のことを聞き、無性に彼に会いたくなる。宮内は、折り紙付きのアイドルオタクで、なにからなにまで早季子とは価値観が違っているのだが、なぜか離れがたくなっていく。ずっと持て余していた自分という存在を愛おしんでもいいんだよ、と言ってあげたくなる一冊である。

名古屋駅西喫茶ユトリロ*太田忠司

  • 2017/02/07(火) 17:01:50

名古屋駅西 喫茶ユトリロ (ハルキ文庫)
太田 忠司
角川春樹事務所
売り上げランキング: 79,298

東京生まれの鏡味龍(とおる)は名古屋大医学部に今春から通う大学生。
喫茶店を営む祖父母宅に下宿した龍は、店の常連客から、家にピンポンダッシュをされ、
外に出ると家の前に手羽先の骨が置かれ困っていると相談を受ける。
龍は友人と先輩の助けを借りて、謎に挑む。
手羽先唐揚げ、寿がきやラーメン、味噌おでん…名古屋めしの魅力が満載の連作ミステリー。書き下ろし!


第一話 手羽先唐揚げと奇妙なイタズラ
第二話 カレーうどんとおかしなアフロ
第三話 海老フライ(エビフリャー)と弱気な泥棒
第四話 寿がきやラーメンと家族の思い出
第五話 鬼まんじゅうと縁結びの神
第六話 味噌おでんとユトリロが似合う店

一話にひとつずつ名古屋飯と呼ばれる名古屋の食べものが登場し、龍(とおる)が、大学の先輩の明壁(あすかべ)さんにアドバイスをもらったり、喫茶ユトリロの常連の紳士さんと呼ばれる男性の話を聴いたりしながら、ユトリロに持ち込まれる厄介事を解き明かしていく。明壁さんが連れていってくれる名古屋飯はおいしそうだし、もちろんユトリロで出されるモーニングやほかのメニューもおいしそうで、卵サンドはぜひ食べてみたい。そして、謎解きを通して、龍が少しずつ名古屋のことを知っていくのも微笑ましい。シリーズ化されたら嬉しいと思わされる一冊である。

ファミリー・レス*奥田亜希子

  • 2017/02/03(金) 20:01:38

ファミリー・レス
ファミリー・レス
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奥田 亜希子
KADOKAWA/角川書店 (2016-05-27)
売り上げランキング: 187,941

姉と絶縁中のOLと、ルームメイトの毒舌女子。怒りん坊の妻と、そんな彼女を愛しているけれど彼女のかぞくに興味を持てない画家の夫。バツイチのアラフォー男性と、妻に引き取られた娘。ほんとうの親子になりたい母親と、姉の忘れ形見の少女。同じ屋根の下で暮らす女ともだちや、ふたつきに一度だけ会う親子。家族というには遠すぎて、他人と呼ぶには近すぎる――単純なことばでは表せない現代的な"かぞく"の姿を、すばる文学賞受賞新鋭が切り取りました。瀧井朝世、豊崎由美、東えりかなど本読みたちが大絶賛! 紡がれるひと言ひと言が心を揺さぶる、感涙必至の短編集。


「プレパラートの瞬き」 「指と筆が結ぶもの」 「ウーパールーパーは笑わない」 「さよなら、エバーグリーン」 「いちでもなく、さんでもなくて」 「アオシは世界を選べない」

親子や姉妹や、伴侶の家族など、現家族、元家族などの、近いようでありながら、さほど近いとは言えないような、微妙な関係性が見事に描かれている。登場人物たちそれぞれが、自身の身の置き所を手探りしているような心許なさがあって、「家族」が在るものではなく、作り上げていくものだということがよくわかる。いろんな立場の人の思いが想像できて、なんだかしみじみとしてしまう一冊なのである。

五つ星をつけてよ*奥田亜希子

  • 2017/01/21(土) 07:49:42

五つ星をつけてよ
五つ星をつけてよ
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奥田 亜希子
新潮社
売り上げランキング: 27,815

既読スルーなんて、友達じゃないと思ってた。ディスプレイに輝く口コミの星に「いいね!」の親指。その光をたよりに、私は服や家電を、そして人を選ぶ。だけど誰かの意見で何でも決めてしまって、本当に大丈夫なんだろうか……? ブログ、SNS、写真共有サイト。手のひらサイズのインターネットで知らず知らずに伸び縮みする、心と心の距離に翻弄される人々を活写した連作集。


表題作のほか、「キャンディ・イン・ポケット」 「ジャムの果て」 「空に根ざして」 「ウォーター・アンダー・ザ・ブリッジ」 「君に落ちる彗星」

インターネットがなければ、どこかの街でなんということのない日々を平凡に暮らす人々が主人公である(例外もあるが)。なまじインターネットで世界と繋がってしまったがゆえに、自分の存在意義の振れ幅に戸惑い、そこに思わぬ化学反応が起こったりもするのだろう。自分自身の判断基準が曖昧になり、ネットの反応に翻弄される。それは日々の張合いにもなるだろうが、行き過ぎると泥沼にはまることにもなる。そんなひとたちのオフラインの暮らしにも生身の人とのかかわりがあり、感情の揺れもある。それが見事に描かれていて、胸に沁みる。思わずじんわりと涙がにじんできたりもするのである。失った自分を取り戻せるような気がする一冊でもある。

道然寺さんの双子探偵*岡崎琢磨

  • 2016/11/14(月) 21:03:20

道然寺さんの双子探偵 (朝日文庫)
岡崎 琢磨
朝日新聞出版
売り上げランキング: 30,331

福岡県の夕筑市にある寺院・道然寺には、
中学2年生の双子が住んでいる。
「寺の隣に鬼が住む」が信条のレンと、
「仏千人神千人」が主義のラン。
性格が正反対の双子たちは、
それぞれの論理で事件の謎を解決しようと試みるのだが……。


「寺の隣に鬼は棲むのか」 「おばあちゃんの梅が枝餅」 「子を想う」 「彼岸の夢、此岸の命」

道然寺の二代目・一海は、16歳の時、寺の境内に段ボールに入れられて置き去りにされていた双子(ランとレン)を見つける。双子は寺で育てられ中学生になっている。人の善の面を見るランと、悪の面を見るレン。性格はまったく違うが、穏やかな毎日を送っている。一海が見かけたり相談されたりした檀家さんたちが抱える厄介事を、ランとレンが善悪二方向から推理する。ランが合っていることもあり、レンが合っていることもあるのだが、味方によって出来事の様相ががらりと変わる様が興味深い。道然寺の人たちの人柄もそれぞれとても好ましく、もっと見ていたいと思わされる一冊である。

土方美月の館内日誌~失せ物捜しは博物館で~*大内しおり

  • 2015/09/11(金) 07:15:50

土方美月の館内日誌 ~失せ物捜しは博物館で~ (メディアワークス文庫)
大平しおり
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス (2014-12-25)
売り上げランキング: 318,123

月曜日だけ探偵事務所を開くという『姫神郷土博物館』。大切なものを失ってしまった人は、不思議とこの博物館に集まるという。名前負けコンプレックスを持つ従業員・沖田総司もそんな奇妙な縁に引き寄せられた一人である。彼は就職詐欺に遭い、途方に暮れていたところを“名前だけ”で美人館主に拾われた。「すべてのものには来歴がある」が口癖の館主・土方美月は、単越した古物知識と新選組をこよなく愛する女性。総司は彼女と奇妙な事件を解くうちに、美月が捜し続けているものに気付いていく…。


山奥に人知れず(?)在る博物館という舞台と言い、館長・美月のとらえどころのないキャラクタと言い、名前にコンプレックスを抱いて生きてきた沖田総司の頼りないながらも偶然の力が上手く働いてしまう運の良さと言い、設定は現実離れしていることこの上ないのだが、解決する事件や謎は至極真面目なものであり、美月の抱える屈託もとても根深いもなのである。脇を固める幼馴染とその妹もあたたかくいい味を出しているし、今後も知りたくなる一冊である。

季節はうつる、メリーゴーランドのように*岡崎琢磨

  • 2015/09/04(金) 19:49:31

季節はうつる、メリーゴーランドのように
岡崎 琢磨
KADOKAWA/角川書店 (2015-07-25)
売り上げランキング: 74,771

奇妙な出来事に説明をつける、つまり、「キセツ」。夏樹と冬子は高校時代、「キセツ」を同じ趣味とする、唯一無二の存在だった。しかしそれは、夏樹の秘めた恋心の上に成り立つ、微妙な関係でもあった。天真爛漫で、ロマンチストで、頭は切れるのにちょっと鈍感な冬子。彼女への想いを封印したまま大人になった夏樹は、久々に冬子と再会する。冬の神戸。バレンタインのツリーを避けて記念写真に収まるカップルを見て、冬子は言った。「キセツ、しないとね」謎を乗せて、季節はめぐる。はじけるような日常の謎、決して解けない恋愛の謎。夏樹の想いの行方は…。「珈琲店タレーランの事件簿」の著者が描く、究極の片想いミステリ。


 第一話 冬 記念写真小考
 第二話 春 菜の花、コスモス、月見草
 第三話 夏 夏の産声
 第四話 秋 夢の国にてきみは怯える
 最終話 冬 季節はうつる、メリーゴーランドのように

夏樹と冬子の交わらない恋物語を軸に、身の回りの、あるいは出先で出会った謎を解き明かす物語である。恋物語も巧みに謎の一部に織り込まれているのでなおさら興味を惹かれる仕組みである。ただ、この二人の恋の経過には納得しきれない部分もあって、すっきり腑に落ちるというわけではないのだが。結局は誰もしあわせにはならなかった気がしてなんだか残念。ことに亜季さんは、「キセツ」には必要な人であっても可哀想である。個人的にはラストでみんながしあわせになってくれたらもっと愉しめた一冊かもしれない。

珈琲店タレーランの事件簿3*岡崎琢磨

  • 2014/06/28(土) 07:36:15

珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
(2014/03/24)
岡崎 琢磨

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実力派バリスタが集結する関西バリスタ大会に出場した珈琲店“タレーラン”の切間美星は、競技中に起きた異物混入事件に巻き込まれる。出場者同士が疑心暗鬼に陥る中、付き添いのアオヤマと犯人を突き止めるべく奔走するが、第二、第三の事件が…。バリスタのプライドをかけた闘いの裏で隠された過去が明らかになっていく。珈琲は人の心を惑わすのか、癒やすのか―。美星の名推理が光る!


KBC=関西バリスタコンペティションの第五回大会の日程に従って物語は展開する。が、思わせぶりに五年前の場面がプロローグとして描かれているのが、このあと起こる事件のヒントになるのだろうと読者を身構えさせる。当然、どうつながるのかを探りながら読むことになる。その種明かしが、いささか拍子抜けと言えないこともない。ほのぼのとしたエピソードではあるのだが。事件自体は、無理やりな感じもしなくはないが、タレーランを抜け出して謎解きをする美星バリスタもたまにはいいかもしれない。コーヒー豆を挽きながら集中する姿があまり見られなかったのは残念でもある。次はタレーランで会いたいと思う一冊だった。

真夜中のパン屋さん--午前3時の眠り姫*大沼紀子

  • 2014/05/22(木) 19:53:47

真夜中のパン屋さん 午前3時の眠り姫 (ポプラ文庫 日本文学)真夜中のパン屋さん 午前3時の眠り姫 (ポプラ文庫 日本文学)
(2013/10/04)
大沼紀子

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午前3時――真夜中にオープンする不思議なパン屋さんに現れたのは、ワケアリ男女の二人組。居候女子高生の希実は、彼らが抱える不穏な秘密によって、不本意ながらも、またまた事件に巻き込まれていく。降り止まない雨の中、希実の過去に隠された謎が明らかに……。人気シリーズ第4弾!!


ある晩、希実の従姉妹の沙耶がブランジェリークレバヤシにいきなりやって来てこの物語は始まる。沙耶の事情、希実の事情、そしていまここに希実がいること、さまざまなことが明るみになる、それがきっかけだったのだ。いまの希実には、ブランジェリークレバヤシにかかわる人たちとのしっかりとした信頼関係があるから、こういう展開になっても心が耐えられたのだろう。今回は、希実にとっても沙耶にとっても、いちばん好いところに落ち着いたのだと思う。だがラストでまた問題が提起されているので、次作でまた望みが翻弄されることにならなければいいが、と心配してしまう。
余談だが、ドラマを観た後でシリーズを読むと、必ずと言っていいほどドラマの配役に引きずられるのだが、暮林さんは、読みながらなぜかまったくタッキーにはならない。いままでの暮林さんのイメージのままで読めるので、何となく嬉しくなる。
次回作も愉しみなシリーズである。

穴*小山田浩子

  • 2014/04/05(土) 17:11:21

穴
(2014/01/24)
小山田 浩子

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仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ夏。見たことのない黒い獣の後を追ううちに、私は得体の知れない穴に落ちる。夫の家族や隣人たちも、何かがおかしい―。ごく平凡な日常の中に、ときおり顔を覗かせる異界。『工場』で話題を集めた著者による待望の第二作品集。芥川賞受賞作のほか「いたちなく」「ゆきの宿」を収録。


突き詰めれば、夫の転勤に伴い、同じ県内でも田舎の夫の実家の隣に立つ二階家に引っ越してきた妻が遭遇する少し変わった人たちと、そこでの暮らしに折り合いをつけようとする妻の物語であろう。家賃を払わなくてよくなり、特に好きでもない仕事も辞められていいことばかりのように思えた引っ越しも、移ってみれば当たり前だがいろいろと勝手が違うことがあり、悪意のないすれ違いなどが度重なったりするところへ、不妊の悩みなども加わって、ほんのわずか不安定になっている妻の精神状態そのものの物語のようでもある。客観的に見れば幸せそうであるにもかかわらず、とても不安定で暗い印象なのは、たぶんそんなわけなのではないだろうか。妻・あさひは穴から抜け出せたのだろうか、それとも……。その後が気になる一冊でもある。

珈琲店タレーランの事件簿2*岡崎琢磨

  • 2013/10/26(土) 13:24:15

珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る (宝島社文庫)珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る (宝島社文庫)
(2013/04/25)
岡崎 琢磨

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新人にしていきなり80万部突破、話題沸騰の岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿』、待望の第2弾が登場です! 京都の街にひっそりとたたずむ珈琲店《タレーラン》に、女性バリスタ切間美星の妹、美空がやってきた。外見も性格も正反対の美星と美空。常連客のアオヤマと、タレーランに持ち込まれる“日常の謎"を解決していくうち、「妹の様子がおかしい」と美星が言い出して……。姉妹の幼い頃の秘密が、大事件を引き起こす! 大人気シリーズ最新刊です。


一作目とさほど印象は変わらない。思わせぶりなのか、思いやりなのかよく判らないが、美星の言葉足らずがあちこちに波紋を広げているのがいささかもどかしい。コーヒーはおいしそうなのに、勿体無い印象がどうしてもぬぐえないのは、やはりあの作品と設定が似すぎているからだろうか。事件の収拾も、ちょっと出来過ぎのような気がする。それでもなんとなく続きが気になってしまうシリーズでもある。

工場*小山田浩子

  • 2013/07/25(木) 06:57:25

工場工場
(2013/03/29)
小山田 浩子

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何を作っているのかわからない、巨大な工場。敷地には謎の動物たちが棲んでいる――。不可思議な工場での日々を三人の従業員の視点から語る新潮新人賞受賞作のほか、熱帯魚飼育に没頭する大金持ちの息子とその若い妻を描く「ディスカス忌」、心身の失調の末に様々な虫を幻視する女性会社員の物語「いこぼれのむし」を収録。働くこと、生きることの不安と不条理を、とてつもなく奇妙で自由な想像力で乗り越える三つの物語。


まるでひとつの町のような巨大な工場が舞台である。タイトルは「工場」だが、スポットライトが当たっているのは「人」である。特に三人の、エリートにはなり得ず、どちらかといえば落ちこぼれ的存在であり、だが、それなりの矜持は持ち合わせている三人。何かを成し遂げることもなく、カタルシスを得ることもない。それでもそれぞれなりに真面目に仕事に取り組む毎日なのではある。小川洋子さんの世界観に似ているかな、と思うところも所々にあったが、あれほど別世界へ連れ去られる感覚はなく、どこまで行ってもそれは工場の敷地内であるところに、得も言われぬ閉塞感を覚えるのである。体力がないときに読むと引きずりおろされそうな気もする一冊である。

空ちゃんの幸せな食卓*大沼紀子

  • 2013/07/15(月) 10:53:48

空ちゃんの幸せな食卓 (ポプラ文庫 日本文学)空ちゃんの幸せな食卓 (ポプラ文庫 日本文学)
(2013/04/03)
大沼紀子

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血の繋がりのない義母と、奇妙な共同生活をはじめた私と姉は、同じ食卓を囲むうちに、少しずつ新しい関係を築いていく…。(「空ちゃんの幸せな食卓」より)。デビュー作「ゆくとしくるとし」(坊っちゃん文学賞大賞受賞)を収録。


表題作のほか、「ゆくとしくるとし」 「僕らのパレード」

表題作以外は既読である。
実の父が飛んで行ったきりなのに、一緒に暮らすことになってしまった姉妹と血の繋がらない義母との物語である。姉妹――特に姉――は義母を受け入れられず、義母は義母で母になろうとは端から思っていない。だがそれでも一緒に食卓を囲むうちに、通じ合い繋がり合い大切に思い合うことはできるようになるのだ。ほろ苦く切ないけれどあたたかな一冊である。

密室蒐集家*大山誠一郎

  • 2013/06/26(水) 16:48:41

密室蒐集家 (ミステリー・リーグ)密室蒐集家 (ミステリー・リーグ)
(2012/10/18)
大山 誠一郎

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目撃された殺人と消えた犯人、そして目の前を落下する女、鍵を飲み込んだ被害者に雪の足跡…いつの間にか現れた「彼」の前に開かない「扉」はない。


「柳の園 1937年」 「少年と少女の密室 1953年」 「死者はなぜ落ちる 1965年」 「理由ありの密室 1985年」 「佳也子の屋根に雪ふりつむ 2001年」

警察が真相を掴みかねている密室殺人事件があると、どこからともなく現われて、状況を聴いただけでいとも簡単にしかも鮮やかに謎を解き、いつの間にか煙のように消えてしまう密室蒐集家の物語である。最後にはその正体が明らかにされるのかと思えば、さにあらず。最後まで彼が何者なのかは謎のままなのである。物語の中で唯一解かれない謎がそれである。ファンタジーのような設定だが、れっきとした密室物であり、密室蒐集家に見破られたとはいえ、トリックを考え出した犯人も見事であると思ってしまう。短編集なのだが、緩い連作のようでもある一冊である。

楽天屋*岡崎祥久

  • 2013/06/02(日) 06:03:02

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(2000/07)
岡崎 祥久

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漂泊の魂が声を放つのだ―ここではないどこかへ!と。30過ぎ、臍の緒つき。無為徒食のクズ男といかれた女たちのさすらい。独自のユーモアと繊細なセンスで時代の空気を映すあたらしい文学。


表題作のほか、「なゆた」 「孤独のみちかけ」

内容紹介の通り、さすらい漂っているような人々ばかりが出てくる物語である。誰もが何かを求め、求めながらゆらゆらと揺らぎ、見つけ出せないままなおも求め続けているような一冊である。