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新米ベルガールの事件録 チェックインは謎のにおい*岡崎琢磨

  • 2021/05/06(木) 06:51:36


「あのトイレ、呪われてます!」。経営難で廃業の噂が絶えない崖っぷちホテルで、次々に起こる不可解な事件。おっちょこちょいの新入社員・落合千代子は、なぜか毎回その渦中に巻き込まれることに。イケメンの教育係・二宮のドSな指導に耐えながらも、千代子が事件の真相に迫るとき、宿泊客たちの切ない事情が明らかになる。本格お仕事ミステリ!


お仕事ミステリと呼ぶには、ベルガールの仕事に当てる焦点が緩すぎるのではないかとは思う。新米ベルガール・千代子が崖っぷちホテルを訪れる客や、彼らが抱える事情に巻き込まれてじたばたしながらも、いつの間にか何となく一件落着にもっていっている、という奮闘物語と言った方が当たっているだろう。そこに、素直ではない恋愛エッセンスも加わって、読みやすい一冊になっている。

白野真澄はしょうがない*奥田亜希子

  • 2020/12/25(金) 18:24:59


頼れる助産師の「白野真澄」には、美しい妹・佳織がいる。仲の良い姉妹で、東京でモデルをしている佳織は真澄の誇りだったが、真澄にはその妹にも言えない秘密があった…。駆け出しイラストレーター、夫に合わせて生きてきた主婦、二人の男性の間で揺れる女子大生、繊細な小学四年生。同姓同名の「白野真澄」の五者五様のわだかまりと秘密を描く。この世界に同じ名前を持つ人はたくさんいるけれど、どれひとつとして同じ悩みはない。少し頑固で、生きることに不器用な人たちを優しい眼差しで掬いあげる傑作短編集。


年齢も性別も立場も住んでいる場所も、何もかも違う五人の白野真澄の物語である。面白い切り取り方である。同じ名前であっても、当然それぞれが抱える問題はそれぞれに異なっており、自分の名前に対する思い入れもそれぞれなのだが、なんとはなしに、名前の印象による周りの反応には似通ったものがあるような気がするのである。「白野真澄」でなければ成り立たない物語なのだとも思われて、いささか不思議な納得感があったりもする。どの白野真澄さんも幸せになってほしいなと、つい願ってしまう一冊でもある。

焦茶色のパステル*岡嶋二人

  • 2020/12/06(日) 07:19:41


競馬評論家・大友隆一が東北の牧場で銃殺された。ともに撃たれたのは、牧場長とサラブレッドの母子・モンパレットとパステル。隆一の妻の香苗は競馬について無知だったが、夫の死に疑問を抱き、怪事件に巻き込まれる。裏にある恐るべき秘密とは?ミステリー界の至宝・岡嶋二人のデビュー作&江戸川乱歩賞受賞作。


デビュー作とは思えないほどの充実した内容である。殺人事件が起こったことにより、競馬、牧場、それらを取り巻く人間関係に、汚職まで絡み、さらには思ってもいなかったような現実にまで広がりを見せる。物語の展開のスリルと、あることの発見で様相を変える事件の真相が、読者にとっては嬉しい裏切りでもあって興味深い。ただ、被害者の妻・香苗の友人の芙美子の推理力が優秀過ぎるのが、いささか現実離れしている印象かもしれない。とは言え、ハラハラドキドキさせられる一冊だった。

コンピュータの熱い罠*岡嶋二人

  • 2020/11/27(金) 18:37:11


コンピュータ結婚相談所“エム・システム”のオペレータ夏村絵里子はある女性のデータを見たいという客・土井綾子の申し出を断わる。綾子の兄は、エム・システム紹介の女性と新婚旅行中、死亡したのだ。ところが、その綾子は翌日、殺された!疑問を抱いた絵里子はデータを調べるうちに、恋人市川輝雄がエム・システムの会員であることを知り衝撃をうける。さらに、データに重大な秘密が隠されていることに気づく!彼女は同僚古川信宏に相談。彼は、コンピュータに仕掛けられた何かに迫るが、殺されてしまう。謎を追う絵里子。二つの殺人事件の交錯するところにさらに大きな陰謀が…?!何重もの“罠”が読者を魅了するコンピュータ推理の傑作!鬼才の才気あふれる推理作家協会賞受賞第一作!!


1986年の作品である。当時はおそらく最先端だったであろうコンピュータ用語や、データ処理などの用語が出てくるが、現在では別のものに取って代わられているものも多い。そして、関連会社すべてをネットワークでつなぎ、社員の個人情報をつぶさに管理するなど、現在では普通に行われていることのはじまりを覗き見たようでもあって興味深い。とは言え、人間の考えることは、昔も今もあまり変わりがないようで、ずるがしこい奴はいつの時代も狡猾な手を使って自分だけ得をしようとするものである。パソコンが一人に一台の時代でもなく、もちろんスマホなどない時代の物語だが、意外にも古びた印象はそれほどなく、ハラハラしながら先を楽しみに読むことができる一冊だった。

チョコレートゲーム*岡嶋二人

  • 2020/10/08(木) 18:24:36


名門秋川学園大付属中学3年A組の生徒が次々殺された。犯人とされたのは作家・近内の息子の省吾。なぜ事件は起きたのか?なぜ息子は何も言わなかったのか。そこに「チョコレートゲーム」という謎のゲームが浮かび上がる。中学生の生態と親の苦悩も見事に描かれた名作サスペンス。日本推理作家協会賞受賞作。


ほとんど息子とかかわってこなかった作家の近内は、ある日、妻から、中学生の息子の様子がおかしいと聞かされ、さらに、担任教師からも、ここ二週間で何人かの生徒の欠席や早退が急に増えていると知らされる。そのさなかに、同級生のひとりが殺されたことがわかり、当日息子がひと晩中帰ってこなかったこともあって、不安が頭をよぎる。その後の展開は、さらにひどいことになり、結局、息子が逃げられないと思って自殺した、ということで終結する。だが、何か腑に落ちないものを感じた近内の執拗とも言える調査によって、真実があらわにされると、にわかには信じられない思いにとらわれる。親子の葛藤や、友人間の抜き差しならない関係、ほんのひとときの心のよりどころなど、ミステリ要素のほかにも、人間関係について思いを馳せる一冊だった。

99%の誘拐*岡嶋二人

  • 2020/05/27(水) 19:04:06


末期ガンに冒された男が、病床で綴った手記を遺して生涯を終えた。そこには八年前、息子をさらわれた時の記憶が書かれていた。そして十二年後、かつての事件に端を発する新たな誘拐が行われる。その犯行はコンピュータによって制御され、前代未聞の完全犯罪が幕を開ける。第十回吉川英治文学新人賞受賞作。


時を隔てて起こった二件の誘拐事件。どちらも、犯人からの細かい指示によって、捜査が撹乱され、まんまと身代金を奪われてしまい、犯人逮捕にも至らないという共通点がある。しかも、どちらにもかかわりのある人物が複数いるのである。一件目は、フェリーを使い、二件目はコンピュータのプログラムを駆使して、捜査陣をけむに巻いている。初出はなんと1988年だという。当時の警察には、まだまだ不得意な領域だったのだろう。現代で起こったとしても、かなり厄介なことになりそうな印象である。次にどう出るか、という興味は尽きず、ハラハラドキドキしながら読み進むことができるのだが、誘拐事件という負の連鎖故か、読後にもやもやしたものが残るのは否めないのが残念ではある。それを置けば、愉しめる一冊だった。

珈琲店タレーランの事件簿6 コーヒーカップいっぱいの愛*岡崎琢磨

  • 2020/02/04(火) 16:24:10


狭心症を発症し、突然倒れてしまった珈琲店“タレーラン”のオーナー・藻川又次。すっかり弱気になった彼は、バリスタである又姪の切間美星にとある依頼をする。四年前に亡くなった愛する妻・千恵が、生前一週間も家出するほど激怒した理由を突き止めてほしいと。美星は常連客のアオヤマとともに、大叔父の願いを聞き届けるべく調査を開始したが…。千恵の行動を追い、舞台は天橋立に!


いつも割と狭い範囲が舞台となり、タレーラン自体も裏路地の奥にひっそりとたたずむ店なのだが、今作は、まるでトラベルミステリのように、天橋立と浜松とを行ったり来たりすることになる。藻川氏」は狭心症で手術を待つ見だし、途中美星さん自身も何者かに襲われて軽いとはいえ怪我をする。その前には、ひとりこっそり姿を消し、ほんの一時行方知れずになりもする。ただならぬ展開ではある。しかも、久しぶりに会う藻川さんの孫の小原ちゃんと行動を共にすることにもなり、あれこれ番狂わせが起こる。美星さんの頑固で強い一面も垣間見られ、ラストには、思い切った展開もあって、次がまた楽しみである。相変わらずおいしいコーヒーが飲みたくなるシリーズである。

きょうの私は、どうかしている*越智月子

  • 2020/02/01(土) 12:36:40


性、仕事、家族との関係性——。様々な局面で四十歳を目前にした未婚女性たちが、日常のなかで一瞬垣間見せる「ぶれ」のようなものをリアルかつ澄んだ筆致でとらえた連作短編集です。
白石一文氏に「あなたは小説を書かなくてはいけない人」と明言されたことをきっかけに短編を書き始めた注目の新人、越智月子氏のデビュー作。月刊「きらら」での読み切り連載に書き下ろしを加えた十一編、それぞれの作品が幽かな繋がりを持った連作短編集です。恋愛、仕事、家族との関係性——。越智氏が澄んだ筆致でとらえるのは、四十歳を目前にした未婚女性たちが、日常のなかで一瞬垣間見せる「ぶれ」のようなもの。仕事は頑張っている。でも、肌は徐々に若い頃のハリを失い、恋愛はいつも、なぜか思い通りにはいかない。きょうの私は、どうかしている——すべての現代女性が感じたことのある気持ちを鮮やかに描いた、今、もっともリアルな1冊。


四十歳を目前にした女性たちの、独身ゆえの世間の中での不安定感、一時の安定を通り過ぎたふたたびの不安定、親の老いをじわじわと感じ始める恐ろしさ、などなどの、なんとはなしに心をぞわぞわさせる事々に翻弄されつつ、それでも日々を生きていかなければならない息苦しさと、何もかもを投げ出したくなる時に逃げ込む場所が繊細に描かれている。平静な気持ちでは読めない一冊でもあるかもしれない。

ひと*小野寺史宜

  • 2019/10/28(月) 16:42:41

ひと
ひと
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小野寺 史宜
祥伝社
売り上げランキング: 5,148

母の故郷の鳥取で店を開くも失敗、交通事故死した調理師の父。女手ひとつ、学食で働きながら一人っ子の
僕を東京の大学に進ませてくれた母。――その母が急死した。柏木聖輔は二十歳の秋、たった一人になった。
全財産は百五十万円、奨学金を返せる自信はなく、大学は中退。仕事を探さなければと思いつつ、動き出せ
ない日々が続いた。そんなある日の午後、空腹に負けて吸い寄せられた商店街の総菜屋で、買おうとしていた
最後に残った五十円コロッケを見知らぬお婆さんに譲った。それが運命を変えるとも知らずに……。

そんな君を見ている人が、きっといる――。


主人公・聖輔の境遇は、劇的だが、それを除いて、物語は淡々と描かれている。人の縁に恵まれ、自らの判断にも助けられながら、さまざまなものを捨てながらも、それ以上のものを得て生きている聖輔の日々が愛おしくなる。誰かに見せるためでなくても、自分を律し、他人のことを慮って生きている姿に、とても好感が持てる。日々は淡々と過ぎていくように見えるが、確実に何かが積み重ねられているのだと感じられる。もっと他人に頼ればいいのに、と思ってしまうが、それができないところが聖輔であり、それだからこそ今、そしてこれからがあるのかもしれない。頼り合え、支えあえる存在がずっと一緒にいてくれることを願いたくなる一冊である。

道然寺さんの双子探偵 揺れる少年*岡崎琢磨

  • 2019/08/27(火) 09:50:47

道然寺さんの双子探偵 揺れる少年 (朝日文庫)
岡崎 琢磨
朝日新聞出版 (2019-05-13)
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福岡の夕筑市にある寺院・道然寺で暮らす中学3年生のランとレン。
人の善意を信じるランと悪意を敏感にかぎ取るレン、正反対の視点を持つ双子が活躍するシリーズ第2弾。
熊本地震から逃れ、転校してきた少年の秘めた思いが引き起こした事件の謎を解き明かす。


複雑な境遇にある双子のレンとランが、身近な問題を解きほぐす物語の二作目である。置き去りにされていた赤ん坊のリンが加わったことで、誰かに守られること、そして誰かを守ることをより意識するようになったように見える。そんな折に、熊本地震で家を失って転校してきた志垣雄哉に関して心配事が出現し、レンがこの頃仲良くしている蓬莱司が深くかかわっていることがわかる。何とかしようともくろむ二人(特にラン)だったが、事態はそれほど単純なものではなかったのである。人の心のなかというのは、表からはうかがい知れないほど複雑で、良かれと思ってしたことが裏目に出ることも少なくない。人と人との関わりの難しさを、中学生のランとレンのみならず、保護者的な立場の僧侶である一海も、改めて認識させられたことだろう。そして、難しくはあるが、誠意をもってあたれば、思いは通じる、というのもまた真理であるような気がする。少しずつ成長していく双子と、一海さんのこれからも、見守り続けたいシリーズである。

魔法がとけたあとも*奥田亜希子

  • 2019/06/23(日) 20:16:09

魔法がとけたあとも
魔法がとけたあとも
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奥田 亜希子
双葉社
売り上げランキング: 102,226

妊娠した。周りは正しい妊婦であるよう求めてくる(「理想のいれもの」)。
鼻のつけ根にある大きなホクロ。コンプレックスから解放される日が来た(「君の線、僕の点」)。
中学生の息子に髭、自分の頭には白いものが(「彼方のアイドル」)。
誰もが経験しうる、身体にまつわるあれこれ。
そこから見えてくる新たな景色を、やわらかな眼差しで掬いとった短編集。


人は、一時として同じところに留まってはいない。きのうの自分ときょうの自分は、すっかり同じではないし、だれかとの関係も、きのうときょうでは違っているのだろう。だが、そのことを嘆くのではなく、ほんのわずか視点を変えて見てみれば、新たな何かをみつけることもできるかもしれない。人という生きものの、心細さとたくましさが描かれているような気がした。自分を肯定してやりたくなる一冊と言えるかもしれない。

九十九書店の地下には秘密のバーがある*岡崎琢磨

  • 2019/01/19(土) 12:53:01

九十九書店の地下には秘密のバーがある (ハルキ文庫)
岡崎琢磨
角川春樹事務所 (2018-11-14)
売り上げランキング: 103,375

訳あって入社二年で会社を辞め、自信をなくしていた長原佑(たすく)。ある日訪れた書店で、謎めいた女性店主から“仕事を探しているなら、今夜この店にもう一度来て”と告げられる。再訪した佑が案内されたのは、書店の地下を改装した秘密のバー。そこで店主のトワコさんから言い渡された、思いがけない“仕事”とは―。夜ごと悩みを抱えた人が訪れる、小さな書店とバーの日々。


昼間は書店、夜はバー、という極端な設定からまず興味が湧く。書店&バーのオーナーは九十九十八子と書いて「つくもとわこ」と読む。佑は、昼間は書店でアルバイトをし、夜は、バーのママとなったトワコさんからの指令を受けて、さまざまな仕事をこなすことで、飲み代をタダにしてもらうことになっている。常連さんたちの協力も得て、バーに持ち込まれる厄介事を解決するような仕事なのだが、なんの経験もない佑は、右往左往しながら奮闘する。その一生懸命な姿に、思わず応援したくなる。思ったように運ばないことも多々あるが、何となく納まるところに収まってしまうのが不思議なものである。登場人物の背景も少しずつ分かってきたところなので、シリーズ化されると嬉しい一冊である。

アリバイ崩し承ります*大山誠一郎

  • 2018/12/30(日) 16:30:52

アリバイ崩し承ります
大山 誠一郎
実業之日本社
売り上げランキング: 8,337

美谷時計店には、「時計修理承ります」だけでなく「アリバイ崩し承ります」という貼り紙がある。「時計にまつわるご依頼は何でも承る」のだという。難事件に頭を悩ませる捜査一課の新米刑事は、アリバイ崩しを依頼する。ストーカーと化した元夫のアリバイ、郵便ポストに投函された拳銃のアリバイ、山荘の時計台で起きた殺人のアリバイ…7つの事件や謎に、店主の美谷時乃が挑む。あなたはこの謎を解き明かせるか?


捜査一課の新米刑事の僕は、腕時計の電池を交換してもらおうと、商店街の時計店に入った。そこには、時計修理や、電池交換のほかに、「アリバイ崩し承ります」という貼り紙が。若い女性店主・時乃が、成功報酬五千円でアリバイを崩してくれるという。ちょうど担当している事件のアリバイ崩しに行き詰っていた僕は、アリバイ崩しを頼んでみることにする。頼りない男性としっかり者の女性という組み合わせには、特に目新しさはない。しかも、キャラクタがいささか弱い印象でもある。シリーズ化されて練れてくると違ってくるのかもしれないとも思う。アリバイはあっけなく崩れるが、その後の謎解きは面白く読んだ。次があることを期待したい一冊ではある。

夏を取り戻す*岡崎琢磨

  • 2018/12/23(日) 10:53:24

夏を取り戻す (ミステリ・フロンティア)
岡崎 琢磨
東京創元社
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これは、もうすぐ二十一世紀がやってくる、というころに起きた、愛すべき子供たちの闘いの物語。―不可能状況下で煙のように消え去ってみせる子供たちと、そのトリックの解明に挑む大人の知恵比べ。単なる家出か悪ふざけと思われた子供たちの連続失踪事件は、やがて意外な展開を辿り始める。地域全体を巻き込んだ大騒ぎの末に、雑誌編集者の猿渡の前に現れた真実とは?いま最も将来を嘱望される俊英が新境地を切り拓く、渾身の力作長編。ミステリ・フロンティア百冊到達記念特別書き下ろし作品、遂に刊行!


小学4年生の子どもたちが考えたこととは思えない出来事の連続だった。初めは単純に、子どもらしい動機からだと思って読み始めたが、ほどなく、なにかもっと深い理由が隠されているのではないかと思い始めた。城野原団地の内と外(傘外)との確執や、雑誌記者の佐々木と城野原との関わり、キャンプで起きた哀しい出来事、などなどが絶妙に絡み合い、事実が単純には見えてこないのも興味をそそられる。当事者の子どもたちが、意外過ぎるほど深刻にいろんなことを考えていることにも驚かされ、また、大人もその気持ちをないがしろにはできないと思い知らされる。ラストは、明るい未来を感じさせられるものになっていて、ほっとした。ほんの短い期間の出来事とは思えないほど濃密な内容の一冊だった。

桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活*奥泉光

  • 2018/08/29(水) 10:10:36

桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活
奥泉 光
文藝春秋
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日本一下流の大学教師は今日もまた自虐の詩をうたう。


まさに、上記内容紹介の一文の通りである。読んでいてイライラするほどの自虐と向上心のなさ、そのくせ、ひょんなところで自己評価の高さが垣間見られ、なおさらイライラさせられる。今回は、レータンからたらちねに移籍したクワコーの毎日である。どっちもどっちな底辺の大学で、文芸部の女子たちに囲まれる(教授室を乗っ取られる)クワコーだが、やはり着任早々あれこれと厄介事に巻き込まれている。文芸部の女子たちも、それぞれ個性的に過ぎるキャラだが、学校の裏の林の段ボールハウスで暮らしているホームレス女子大生のジンジンの洞察力と推理力で、何となくミステリチックな謎を解き明かしてしまうのが、今回の注目点だろう。ここだけもっと深く描いてくれたらいいのに、と思わなくもない。ジンジン以外の誰にも思い入れが湧かなかったので、次はもういいか、と思う一冊である。