- | こんな一冊 トップへ |
- 次ページへ»
見えない轍*鏑木蓮
- 2022/07/21(木) 06:19:52
京都を舞台とした、本宮慶太朗シリーズ第1弾!
ひとり暮らしの女性・小倉由那がある日、自ら命を絶った。由那の最後の姿をみた女子高生・棚辺春来は「由那は自殺なんかしていない」と訴える。
心療内科医・本宮慶太郎は、彼女の訴えを聞き、独力で由那のことを調べ始める。
それは、大きな悲劇へとつながる第一歩となる――。
探偵役が心療内科の医師、というのは初めてのパターンではないだろうか。クライエントの悩みを解決するために、きっかけとなった事件を調べるというのは、業務の範囲なのか、逸脱しているのか、微妙なところだが、クリニックの経営的には不安が大きい。とはいえ、医師の本宮の患者に寄り添う姿勢と、心療内科ならではではないかと思わされる人当たりのやわらかさと穏やかさ、そして洞察力の深さには好感度が高い。謎を解くことが、結果としてクライエントの心を救うことにつながるというのは、新たなミステリの愉しみかもしれない。長く続くシリーズになってほしい一冊である。
密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック*鴨崎暖炉
- 2022/07/18(月) 18:12:22
第20回『このミステリーがすごい! 』大賞・文庫グランプリ受賞作!
「連発される密室トリックの中ではドミノの密室がイチ推し。本格ミステリ刊行ラッシュの中に割って入るだけの力はありそうだ」大森 望(翻訳家・書評家)
「密室殺人づくしの趣向が楽しい。主役の二人をはじめキャラ設定もいかにもマニアックかつ軽快」香山二三郎(コラムニスト)
「これでもかというくらい密室ネタを盛り込んで、遊び心たっぷり。探偵役となる少女も謎めいていて魅力的だ」瀧井朝世(ライター)
「密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある」との判例により、現場が密室である限りは無罪であることが担保された日本では、密室殺人事件が激増していた。
そんななか著名なミステリー作家が遺したホテル「雪白館」で、密室殺人が起きた。館に通じる唯一の橋が落とされ、孤立した状況で凶行が繰り返される。
現場はいずれも密室、死体の傍らには奇妙なトランプが残されていて――。
密室が何より好きな主人公と、かつて前代未聞の密室を作り、父を殺害した少女のコンビ(と言えるのかどうかはさておき)が、いままでにない設定で興味深い。犯人が誰かよりも、密室をどうやって破るかの方に重きを置くという姿勢も新しい。ただ、会話のリズムがどうも個人的な好みからは外れているせいかしっくりこないので、何となく物語にのめりこめないのが残念ではある。ラストに含みを残しているところから、次があるのかもしれない。さまざまな密室の破り方を楽しめる一冊ではある。
もう別れてもいいですか*垣谷美雨
- 2022/03/17(木) 16:39:00
58歳の主婦・澄子は、横暴な夫・孝男との生活に苦しんでいた。田舎の狭いコミュニティ、ギスギスした友人グループ、モラハラ夫に従うしかない澄子を変えたのは、離婚して自分らしく生きる元同級生との再会だった。勇気を振り絞って離婚を決意するも、財産分与の難航、経済力の不安、娘夫婦の不和など、困難が山積。澄子は人生を取り戻せるのか?平凡な主婦による不屈の離婚達成物語
モラハラ夫にうんざりしていた澄子に届いた、高校の同級生からの喪中はがき。亡くなったのは彼女の夫だった。そこから澄子の夫への嫌悪が加速していく。さらには、やはり高校の同級生が離婚したといううわさを聞き、揺れ動きながらも離婚への心づもりを固めていくことになる。全面的に共感できるわけではないが、うなずける部分もあり、澄子の気持ちに加速度がつくのはよくわかる。実家の母や弟夫婦、娘たちの事情も絡めながら、澄子が晴れやかな自分を取り戻していく様子は、陰ながら応援したくなる。離婚後の夫の心情には全く触れられてはいないが、そこも知りたい気がする。結婚はあっという間だが、離婚には並々ならぬエネルギーがいることを改めて思い知らされる一冊でもある。
ヴィンテージガール 仕立屋探偵 桐ケ谷京介*川瀬七緒
- 2022/03/11(金) 18:19:57
東京の高円寺南商店街で小さな仕立て屋を営む桐ヶ谷京介は、美術解剖学と服飾の深い知識によって、服を見ればその人の受けた暴力や病気などまでわかる特殊な能力を身につけていた。そんな京介が偶然テレビの公開捜査番組を目にする。10年前に起きた少女殺害事件で、犯人はおろか少女の身元さえわかっていないという。さらに、遺留品として映し出された奇妙な柄のワンピースが京介の心を捉える。10年前とは言え、あまりにデザインが時代遅れ過ぎるのだ。京介は翌日、同じ商店街にあるヴィンテージショップを尋ねる。1人で店を切り盛りする水森小春に公開捜査の動画を見せて、ワンピースのことを確かめるために。そして事件解明に繋がりそうな事実がわかり、京介は警察への接触を試みるが……。
美術解剖学に精通した仕立屋の桐ケ谷が、未解決事件の公開捜査のテレビ番組に映った、被害者が着ていたワンピースに目を止め、しわの寄り方や摩耗具合から、死因を推測し、情報提供したところから物語が始まる。商店街の店主仲間でもあるヴィンテージショップの小春の知恵も借りながら、10年も進展がなかった殺人事件が、いままでになかった視点からの情報によって、少しずつ真相に近づいていく。初めはうさん臭く思っていた警察も、次第に注目するようになり、少しずつ暗黙の協力体制ができていく感じが、好ましい。一着のワンピースや、釦などから、さまざまなことが判るというのが新しく興味深い。彼らが関わる別の事件の顛末も、もっと知りたくなる一冊である。
うらんぼんの夜*川瀬七緒
- 2022/02/20(日) 18:27:08
片田舎での暮らしを厭う高校生の奈緒は、東京から越して来た亜矢子と親しくなる。しかし、それを境に村の空気は一変し、亜矢子の口数も少なくなる。疑念を抱く奈緒は、密かに彼女の自宅に忍び込もうとするが……。書き下ろしミステリー。
ホラーっぽいテイストではあるものの、読み進めるにつれ、ホラーでもなんでもなく、閉ざされた村社会に現実にありがちなことなのではないかと思わされることが多くあり、代々村を守り続けてきた年寄りたちの言い分にも一理あると思わされる。主人公の高校生・奈緒に代表される若者は、否応なく従わされるわけのわからないしきたりと閉塞感に、村から外へ出たいと思いがちだが、結局は村の人間関係に守られている部分も多々あって、失いそうになって初めてそれに気づくことになるのである。読み始めは、奈緒の立場で読んで、年寄りたちの理不尽に憤ったが、段々と、その理由に思いを馳せるにつれ、そうするしかなかった苦しさにも理解が及ぶようになる。一筋縄ではいかない一冊でもあった。
終活の準備はお済みですか?*桂望実
- 2021/07/08(木) 18:28:12
後悔せずに死ねますか? 終活サロン――そこは、人生最後の駆け込み寺。
『県庁の星』の著者が贈る、超高齢化時代に必読の¨エンディング¨小説!
◆終わりに直面した人々の、それぞれの「終活」
1.鷹野亮子 五十五歳……独身・子無し・仕事一筋で生きてきたキャリアウーマンの「終活」
2.森本喜三夫 六十八歳……憧れの長兄が認知症になった後期高齢者三兄弟の三男の「終活」
3.神田 美紀 三十二歳……仕事と育児に母親の介護が重なり絶望するシングルマザーの「終活」
4.原優吾 三十三歳……突然のガン宣告で人生が一変した若き天才シェフの「終活」
5.三崎清 五十三歳……七十歳で貯金ゼロの未来予想図を突き付けられた終活相談員の「終活」
終活と聞くと、とかく後ろ向きなイメージであるが、これは、これまでの人生を振り返りつつ、その時点から最期までの自分の人生設計を見つめ直し、充実した日々を過ごせるようにするという前向きな物語なのである。残りの人生をどう生き切るか、残される人に何を伝えるか、過去の、未来の、そして何より現在の自分と真剣に向き合わなければできないことだというのが、しみじみと伝わってくる。どこから手をつけたらいいかわからない時に、満風ノートのようなものがあると、指針になっていいな、と思う。いろいろ考えさせられる一冊だった。
希望病棟*垣谷美雨
- 2021/06/24(木) 16:10:33
神田川病院に赴任した女医の黒田摩周湖は、二人の末期癌の女性患者をみている。先輩のルミ子に促され、中庭で拾った聴診器を使うと患者の“心の声”が聞こえてきた。児童養護施設で育った桜子は、大人を信じていない。代議士の妻の貴子は、過去に子供を捨てたことがあるらしい。摩周湖の勧めで治験を受けた二人は快方に向かい、生き直すチャンスを得る。“従順な妻”として我慢を強いられてきた貴子は、驚きの行動に出て…!?孤独と生きづらさを抱えてきた二人はどのような道を歩むのか。共感の嵐を呼んだヒューマン・ドラマ『後悔病棟』に続く感動の長編。
神田川病院に赴任した医師の黒田摩周湖は、幼いころから両親が忙しかったせいで親との交流をほとんど知らずに育ったせいか、人とのコミュニケーションが苦手で、あれこれと考えすぎるせいで思ったことを言葉にできずに誤解されることが多かった。
ある日、中庭に落ちている聴診器を拾うと、先輩のルミ子に、自分で使えばいいと言われ、使い始める。すると、聴診器を患者の胸に当てた途端に患者の心の声が聞こえるようになったのだった。それから少しずつ自信を取り戻した摩周湖は、患者たちの気持ちに寄り添い、時にはちょっとしたアドバイスをして勇気を与えたりもするようになる。癌患者の高校生・桜子と、議員の妻の貴子は、それぞれ前向きに生きることができるようになる。
摩周湖自身も、心の持ちようが変化し、幼いころの母親の立場にも思いを致すことができるようになって、胸のなかが穏やかになるのだった。さらには、母の思わぬ告白によって、より理解し合うこともできた。気の持ちようの大切さと、自分の人生を切り拓く思いの強さを感じさせられる一冊だった。
週末は家族*桂望実
- 2021/05/27(木) 16:33:27
シェイクスピアに心酔する小劇団主宰者の大輔と、その連れ合いで他人に愛を感じることができない無性愛者の瑞穂は、母親の育児放棄によって児童養護施設で暮らす演劇少女ひなたの週末里親になって、特殊な人材派遣業に起用することになるが―ワケあり3人が紡ぐ新しい“家族”の物語。
世間の目と自分の思いのはざまで揺れ動くのは、性別も年齢も関係なく、誰にでもあることである。思いこみに縛られ過ぎて、自分を型にはめ、自ら生き辛くしていることもあるのかもしれない。思いこみに囚われない、とはなかなか難しいことだと思うが、ほんの少し立ち止まって、想像してから行動を起こすことはできるかもしれない。家族の形もいろいろあっていい。大輔と瑞穂とひなた、この三人のチームが、この先もいいチームでいられるといいな、と思わされる一冊だった。
総選挙ホテル*桂望実
- 2021/05/25(火) 16:22:06
いまいちやる気のない従業員で売り上げが落ちこむ中堅ホテル・フィデルホテル。
支配人の永野は悩みながらも改善策を打ち出せないでいた。
そんなある日、大学で社会心理学を教えていた変人教授が社長職に就くことに。
彼が打ち出した案は「従業員総選挙」。
落選すれば解雇もやむなしという崖っぷちの投票制度。
ざわつく従業員を尻目に、さらに管理職の投票も行われた。
混乱しつつもなんとか新体制が整い、徐々にそれぞれが新たなやりがいを見いだしていき……。
『県庁の星』の著者が描く、感動のエンタメ小説。
想像通りの展開ではあるが、その過程には悲喜こもごもさまざまあって興味深い。現実問題として、社員同士による総選挙でリストラされる身になると、納得のいかない部分は多々あるが、そこは小説、前向きに捉えて愉しむことにする。運良く残っても、腑に落ちなかったり、納得できないままに新しい部署で働き始めた者もいるが、次第に自分の適性とやりがいに目覚め、チームの一員としてホテルをより良くしようと、自然に考えるようになるのが頼もしい。このホテルのこれからをもっと見ていたくなる一冊である。
代理母、はじめました*垣谷美雨
- 2021/04/18(日) 07:29:20
義父の策略で、違法な代理母出産をさせられた17才のユキ。命がけで出産したにもかかわらず、報酬はすべて義父の手に。再び代理母をさせ稼ごうとする義父の手から逃げだし、ユキは自らの経験を逆手に取り、自分のような貧しい女性を救う大胆な〈代理母ビジネス〉を思いつく。ユキを支えるのは医師の静子&芽衣子のタッグと、ゲイのミチオ&一路。さまざまな事情を抱えた「子どもを持ちたい」人々が、最後の砦としてユキたちを頼ってやってくるが……日本の生殖医療の闇、貧困層の増大、妊娠・出産をめぐる負担など、現代日本が放置した社会問題を明るみにしながら、「代理母」ビジネスのタブーに切り込んだ問題作。
表紙からは、もっと軽くコミカルな感じの物語を想像したのだが、いきなり悲惨な現状が目の前に展開していて驚いた。主人公のユキの年齢に比しての無知さも気になる。義父に都合のいいように言いくるめられて代理母を引き受けてしまうなんて、16歳としてはあまりにも自分のことも世間のことも知らなすぎるのではないか。題材はとても興味深く、知らないことも多かったが、いささか都合よく進み過ぎの感が否めず、しかも結局、代理母たちは実情を偽っていたりするのが腑に落ちないところもある。社会においての女性の立場を少しでも良くしたいという思いはとても伝わってくるので、疑問符も浮かびながら共感する点もたくさんあった一冊である。
結婚させる家*桂望実
- 2020/10/05(月) 07:34:45
40歳以上限定の結婚情報サービス会社「ブルーパール」で働く桐生恭子は、婚活界のレジェンドと崇められている。担当する会員のカップリング率一位のカリスマ相談員なのだ。恭子の発案で、大邸宅「M屋敷」に交際中の会員を泊まらせ、一緒に暮らしてみるという「プレ夫婦生活」プランがスタートした。中高年の彼らは、深刻な過去、家族の存在、健康不安と、様々な問題を抱えているが…。人生のパートナーを求める50代男女の滋味あふれる婚活物語。
40歳代以上にターゲットを絞った結婚情報サービス会社が舞台の物語である。もちろん、パーティーや紹介で出会った男女が、どういう過程を経、どんな葛藤をしながら最終的な決断を下すのかという、婚活物語ではあるのだが、カリスマ担当者の50歳代独身の桐生恭子さんの人生の物語でもあるのが、興味を倍増させている。さまざまな婚活カップルに関わるなかで、恭子さんも、悩み、考え、気持ちを切り替えながら成長していく姿を、陰ながら応援したくなってしまう。いろいろ考えさせられながらも、愉しく読める一冊だった。
うちの父が運転をやめません*垣谷美雨
- 2020/06/09(火) 18:55:53
「また高齢ドライバーの事故かよ」。猪狩雅志はテレビニュースに目を向けた。そして気づく。「78歳っていえば…」。雅志の父親も同じ歳になるのだ。「うちの親父に限って」とは思うものの、妻の歩美と話しているうちに不安になってきた。それもあって夏に息子の息吹と帰省したとき、父親に運転をやめるよう説得を試みるが、あえなく不首尾に。通販の利用や都会暮らしのトライアル、様々な提案をするがいずれも失敗。そのうち、雅志自身も自分の将来が気になり出して…。果たして父は運転をやめるのか、雅志の出した答えとは?心温まる家族小説!
高齢の親の運転に不安を覚え、やめさせたいと思うが、一筋縄ではいかずに試行錯誤する顛末を軸に、親元を離れて東京で家族と暮らす息子一家の実情とこれから、息子自身の生きがいを絡めた物語である。
どんどん過疎化して、買い物や病院通いにも車が必要な田舎で、高齢の親に運転をやめさせる難しさは想像を絶する。運転をやめれば、その日から暮らしが成り立たなくなるのは目に見えている。さらには、外にも出なくなり、人とのかかわりも絶たれて、なんのために生きているかさえわからなくなりそうなのである。何とかしなければ、と思うが、どうすればいいか思案するばかりの息子・雅志は、田舎に暮らす同級生たちの暮らしぶりを見聞きし、移動スーパーひまわり号に出会ったことで、自らの生き方をも見直すことになる。そしてそれとともに、ぎこちなかった高校生の息子・息吹との関わり方にも変化が現れ、両親や地域の人たちとの関わり方も変わってくるのだった。いささかうまく運びすぎな感は否めないが、「いつか」を待ちわびるよりも、「いま」を生きることの大切さを前向きに考えるきっかけになる一冊ではないだろうか。
シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官*川瀬七緒
- 2020/04/05(日) 16:35:02
東京・葛西のトランクルームから女性の腐乱死体が発見された。全裸で遺棄された遺体は損傷が激しく、人相はおろか死亡推定日時の予測すら難しい状態だった。捜査一課の岩楯警部補は、若手刑事の月縞を指名して捜査に乗り出した。検屍を終えてわかったことは、死因が手足を拘束されての撲殺であることと、殺害現場が他の場所であると思われることの2点だった。発見現場に蠅とウジが蝟集していたことから、捜査本部は法医昆虫学者の赤堀涼子の起用を決定する。赤堀はウジの繁殖状況などから即座に死亡推定日時を割り出し、また殺害状況までも推論する。さらに彼女の注意を引いたのは、「サギソウ」という珍しい植物の種が現場から発見されたことだった。「虫の知らせ」を頼りに、法医昆虫学者が事件の解明に動き出した。
警察の捜査だけでは絶対に見つけ出せないだろうと思われるような、昆虫やその周辺に関連する微細な要素に引っかかり、深く掘り下げていく昆虫学者・赤堀涼子。犯罪を解明するという使命感はもちろんあるだろうが、それ以上に、虫が知らせるあれこれに耳を傾けて、真実を知りたいという探求心が勝っているように見える。執拗なまでの実地調査や観察が導き出すものは、既成観念に凝り固まった警察官たちを驚愕させるばかりである。だが、そのおかげで、思ってもみないほど根深い恨みと復讐心が暴き出されることになるのである。蛆の描写には、相変わらず馴染めないが、興味深いことこの上ないシリーズである。
147ヘルツの警鐘 法医昆虫学捜査官*川瀬七緒
- 2020/03/09(月) 16:33:56
全焼したアパートから1体の焼死体が発見され、放火殺人事件として捜査が開始された。遺体は焼け焦げ炭化して、解剖に回されることに。その過程で、意外な事実が判明する。被害者の腹腔から大量の蠅の幼虫が発見されたのだ。しかも一部は生きた状態で。混乱する現場の署員たちの間に、さらに衝撃が走る。手がかりに「虫」が発見されたせいか、法医昆虫学が捜査に導入されることになる。法医昆虫学はアメリカでは導入済みだが、日本では始めての試み。赤堀涼子という学者が早速紹介され、一課の岩楯警部補と鰐川は昆虫学の力を存分に知らされるのだった。蠅の幼虫は赤堀に何を語ったのか!
炭化した焼死体からボール状のウジ虫が出てくる描写など、目をそむけたくなるような場面が数多くあり、蟲が苦手な者としては、読むのがつらい部分もあったが、昆虫学者・赤堀涼子には、愉しくて仕方がないようなので、おつきあいすることにした。その描写以外はとても興味深く、初めて知ることもたくさんあって、刺激的な読書タイムだった。小柄で一見天然な赤堀が、「福家警部補」とダブってしまうのはわたしだけだろうか。とはいえ、警察上層部も引き続き捜査協力を依頼したようだし、次が愉しみなシリーズである。
賞金稼ぎスリーサム!*川瀬七緒
- 2020/03/04(水) 16:36:46
警察マニアのイケメン、コミュ障な凄腕ハンター、母親想いのくたびれた元刑事、前代未聞の凸凹トリオ!!報奨金の懸かった放火事件、何者かが執拗に攻撃。犯人はとんでもない凶悪犯!?サスペンス&ユーモアミステリー。
新しいトリオの誕生である。ひとりひとりを見ると、なかなかにこじれた人物たちである。だが、そんなアンバランスな三人が、賞金のためにひとつになるとき、見事に狩場の猟師になるのだから面白い。三人がともに行動する理由にはいささか無理がある気もしないではないが、今後何かが飛び出してきそうな気配も感じられるので、是非ともシリーズ化してほしい一冊である。
- | こんな一冊 トップへ |
- 次ページへ»