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窓の外を見てください*片岡義男

  • 2019/10/16(水) 18:45:29

窓の外を見てください
片岡 義男
講談社
売り上げランキング: 213,662

デビューしたばかりの青年作家・日高は、勝負の2冊目執筆のため、かつて親しかった3人の美女を訪ねようと思い立つ。その間にも、創作の素材となる出会いが次々に舞い込んできて…。小説はどのように発生し、形になるのか。めぐり逢いから生まれる創造の過程を愉しく描く。瑞々しい感性を持つ80歳の“永遠の青年”片岡義男、4年ぶりの最新長篇。


いま自分は、小説を読んでいるのか、それとも作中の小説を読んでいるのか、はたまた、作中作の中の小説を読んでいるのか……。ふと判らなくなって、元来た道を引き返して、角から来し方をのぞいてみたくなるような物語である。どこまでが現実であり事実であるのか、どこからが物語であり虚構であるのか。裏の裏は表ではなく、めくればめくるほど別の地平に立っていることに気づくような。きわめて日常的であるにもかかわらず重層的で、なんとも不可思議な一冊である。

うちの子が結婚しないので*垣谷美雨

  • 2019/08/09(金) 18:22:02

うちの子が結婚しないので (新潮文庫)
垣谷 美雨
新潮社 (2019-03-28)
売り上げランキング: 7,055

老後の準備を考え始めた千賀子は、ふと一人娘の将来が心配になる。 28歳独身、彼氏の気配なし。自分たち親の死後、娘こそ孤独な老後を送るんじゃ……? 不安を抱えた千賀子は、親同士が子供の代わりに見合いをする「親婚活」を知り参加することに。しかし嫁を家政婦扱いする年配の親、家の格の差で見下すセレブ親など、現実は厳しい。果たして娘の良縁は見つかるか。親婚活サバイバル小説!


婚活を通り越して、親婚活の物語である。結婚相手探しは、もはや本人だけには任せておけないという親の切実な思いはどこから来るのか。年金制度の頼りなさや、給与の低さ、待遇の不安定さなどもろもろの理由で、子世代の(娘だとなおさらである)将来設計が成り立たないことを憂うとともに、自分たち亡き後の我が子の人生まで考えた末の親婚活なのである。自分たち世代の結婚観や、取り巻く社会状況と、子世代のそれとの違いも、考えるほどに顕著に思われ、結婚という制度そのもののことから考え直すきっかけにもなる。いざ親婚活に参加してみれば、古い世代の親たちの結婚観と嫁の立場に打ちのめされることもあり、社会的立場の差による無言の圧力も感じたりして、問題点はさらに増えていくのである。コミカルでありながら、これ以上ないほどシリアスで、愉しんで読みながらも、やり切れなくなってくる。ラストは、いささかうまくまとめ過ぎな感もあるが、このくらいの希望はあってほしいものである。これからの結婚がどうなっていくのか、気になって仕方なくなる一冊でもある。

姑の遺品整理は、迷惑です*垣谷美雨

  • 2019/04/29(月) 18:19:58

姑の遺品整理は、迷惑です
垣谷 美雨
双葉社
売り上げランキング: 8,538

姑が亡くなり、住んでいたマンションを処分することになった。
業者に頼むと高くつくからと、嫁である望登子はなんとか
自分で遺品整理をしようとするが、あまりの物の多さに立ちすくむばかり。
「安物買いの銭失い」だった姑を恨めしく思いながら、
仕方なく片づけを始める。夫も手伝うようになったが、
さすが親子、彼も捨てられないタイプで、望登子の負担は増えるばかりである。
誰もが経験するであろう、遺品整理をユーモアーとペーソス溢れる筆致で描く長編小説。


姑の遺品を整理する嫁・望登子の立場で、物を溜め込んだまま亡くなった姑と、指輪ひとつしか残さずに亡くなった実母を比較してしまうのである。あまりの物の多さに呆然とし、と気に悪態をつきつつ片付けに通ううち、少しずつ姑の生きざまが明らかにされてきて、望登子の心情にも変化が表れ始める。遺品整理という厄介事を通して、人ひとりの生き様や生きがい、幸せなどをあれこれ考えさせられる。なにより、さっそく自らの断捨離を始めたくなる。可笑しみと哀しみと愛と実益にあふれた一冊だった。

オーディションから逃げられない*桂望実

  • 2019/04/01(月) 20:17:09

オーディションから逃げられない
桂 望実
幻冬舎 (2019-02-07)
売り上げランキング: 91,407

渡辺展子はいつも「ついてない」と思っていた。中学でできた親友は同じ苗字なのに学校一の美女・久美。同じ「渡辺」でも、注目されない方の「渡辺」になった。絵が好きで美術部に入るが、そこでは「一風変わった絵」を描くだけの同級生がなぜか注目を集め評価されてしまう。就職活動をしてみれば、仲良し四人組の中で自分だけ内定が取れない。幸せな結婚生活を夢見ていたのに、旦那の会社が倒産する…。“選ばれなかった”女性の、それでも幸せな一生を描く。


人の一生は、選択の繰り返し。何かを選んで、誰かに選んでもらう。それはあたかもオーディションのよう。自分はついていない星の元に生まれたと思い込み、次は選んでもらえるだろうか、と思い続けて生きていた。だが、歳を重ねるにつれ、周囲にも不運な人がいることに気づき、もしかしたら自分は幸運だったのではないだろうかと思うようにもなってくる。夫の太一にはわたしも個人的にイライラさせられ通しで、長い目で見ればなくてはならない存在だとしても、その境地に辿り着くのは並大抵ではない気がしてしまう。そして、折々に挿みこまれる独白形式の描写が気になっていたのだが、ラストになってそういうことだったのかと納得させられる。思い描く希望を叶えられたり叶えられなかったり、上手くいったりいかなかったり。人生いろいろなのである。なんだかんだ言って、展子は幸せなのだ。自分の尺度で人を量ってはいけないと思わされもした一冊である。

定年オヤジ改造計画*垣谷美雨

  • 2019/03/20(水) 16:26:24

定年オヤジ改造計画
定年オヤジ改造計画
posted with amazlet at 19.03.20
垣谷美雨
祥伝社
売り上げランキング: 30,553

女たちのリアルな叫びに共感必至、旦那にも読ませたい本No.1!?

女は生まれつき母性を持っている? 家事育児は女の仕事? 女は家を守るべき……?
“都合のいい常識"に毒された男たちに、最後通告!

大手石油会社を定年退職した庄司常雄。
夢にまで見た定年生活のはずが、良妻賢母だった妻は「夫源病」を患い、娘からは「アンタ」呼ばわり。
気が付けば、暇と孤独だけが友達に。
そんなある日、息子夫婦から孫二人の保育園のお迎えを頼まれて……。
定年化石男、離婚回避&家族再生を目指して人生最後のリベンジマッチに挑む!


この年代の男性にこれを読ませて、自らを省みる人であるなら、見どころがあると言えるのかもしれない。多くの男たちは、それのどこが悪い、と開き直るのではないだろうか。だとしたらもう、やってられないわ、と女たちに見限られても何も言えないだろう。常雄の元同僚の荒木がまさにそんな男の代表として描かれていて、哀れにすら思えてくる。長い年月の刷り込みというのはほんとうに恐ろしいものだと痛感させられる。そして、共働きが当然のこととされるにもかかわらず、女性の置かれる状況が何ら改善されていない現代において、男性が家事や育児を「手伝う」というのがそもそもの間違いなのだろう。自ら率先して関わってもらわなくては、一家は立ち行かなくなるのである。多分に啓蒙的ではあるが、お説教めいていなくて愉しく読める一冊だった。

思い出が消えないうちに*川口俊和

  • 2018/11/29(木) 07:39:35

思い出が消えないうちに
川口俊和
サンマーク出版
売り上げランキング: 2,374

伝えなきゃいけない想いと、
どうしても聞きたい言葉がある。

心に閉じ込めた思い出を
もう一度輝かせるために、
不思議な喫茶店で過去に戻る4人の物語――。


不思議な力を持った時田ファミリーの営む、不思議な席のある喫茶店が舞台。これまでよりもさらに、ユカリさんの力が時間を超えて影響力を及ぼしている印象が強い。成り行きに任せるのではなく、操作できてしまうところに、いささかの違和感を抱かなくもない。それでうまくいっているので、物語的にはそうでなければならないのだろうが。たとえ過去に戻れたとしても、事実を変えることはできないが、心の持ちようはずいぶんと変わってくるものだと、改めて感じる。その時その時を後悔のないように暮らすのがいちばんなのだろうが、人間、なかなかそういうわけにはいかない。そんな風に抱え込んでしまった屈託が、過去に戻ることで晴らされ、あしたにつながることもあるのである。希望が持てるようになるシリーズである。

僕は金(きん)になる*桂望実

  • 2018/11/21(水) 18:47:13

僕は金(きん)になる
僕は金(きん)になる
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桂望実
祥伝社
売り上げランキング: 236,729

僕が小学六年生の春、両親が離婚した。家を出たギャンブル好きの父ちゃんは、将棋の天才の姉ちゃんに賭け将棋をやらせて暮らしている。父ちゃんが「ご立派」と呼ぶ母ちゃんの元に残された「普通」の僕は、非常識で破天荒で、将棋以外何にもできないくせに、楽しそうに生きる二人を軽蔑しながらも、どこか羨ましい――読む人の心を激しくゆさぶる、おかしな家族の四十年。


傍から見ると、母と僕=守はきちんとした親子、父と姉=りか子はいい加減でだらしない親子、に見えることだろう。実際、現象としてはその通りなのである。だが、家族というのは、それほど簡単に割り切れるものでもないのだ。父と姉のことを他人に紹介するのを恥ずかしいと思っても、だからと言って彼らのことが嫌いなわけではない。そして守は、普通以外の何者でもない自分のことを、なかなか認められない。昭和54年(守:小学六年生)から、平成29年までの38年間の父や姉と守とのかかわり方の移り変わりが、変化しているようであり、何も変わらないようでもあって、切ないやら、ほほえましいやらで、よくわからなくなる。しっかりしなさいと、はっぱをかけるのは簡単だが、そういう風にしか生きられない人もいるのかもしれないと、ちょっと立ち止まって考えたくもなる一冊である。

夫の彼女*垣谷美雨

  • 2018/08/18(土) 07:42:19

夫の彼女
夫の彼女
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垣谷 美雨
双葉社
売り上げランキング: 420,278

夫の浮気を疑った妻が、彼の部下である相手の女性に会いに行く。言い争っていると、突然現れた老婆が「物事は相手の立場になって考えることが大切。つまらない喧嘩ばかりしていると、本当の敵を見失う」と言い、ふたりにとんでもないことをする。そのおかげで、確かに相手の立場はわかったけど、これから先、どうやって生きていけばいいの!? 想像もつかない展開と、ラストは思わず納得!の書き下ろし長編小説。


ドラマになったのを知らずに読んだので、予想外の展開にびっくりである。小説ならではの愉しみとも言える。導入部は、夫の浮気を疑う妻の、なんとも言えない心情と行動が描かれているので、この先泥沼の展開になるのかと思いきや、謎の老婆が現れてからの展開は、思わず目が点になってしまう。だが、その後のストーリーは、身につまされる部分もあり、考えさせられる要素もたくさんあって興味深かった。ラストは、無理やり無難にまとめた印象がなくもないが、それはそれで、心の安定を得られる気もして、嫌いではない。やきもきしながらも愉しく読める一冊だった。

エデンの果ての家*桂望実

  • 2017/09/04(月) 10:04:55

エデンの果ての家
エデンの果ての家
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桂 望実
文藝春秋
売り上げランキング: 211,982

母が殺された――その悲しみの葬儀の席で逮捕連行されたのは、弟だった。

大企業勤務のエリートサラリーマンの父、良妻賢母を絵にかいたような料理上手の母、幼いころから両親の期待を一身に背負い、溺愛されてきた弟、そして彼らのなかで、ひとり除けものであるかのように成長した主人公、葉山和弘。
遺棄死体となって発見された母親の被疑者が弟であったことで、父親は半狂乱になって弟の無実を証明しようとするのだが――。


ミステリでもあるが、名ばかりの家族がほんとうの家族になっていく苦しい道のりの物語でもあるような気がする。親は子どものことを、実は何もわかってはいないし、子もまた親の心底の気持ちを理解しているとは言えず、互いにすれ違い、思い違ったまま、別々の記憶を背負って苦しんでいるのである。葉山家の場合、それを解きほぐすきっかけになったのが、母の死だったのである。その後、犯人として弟が逮捕されてからの証人探しのなかで少しずつ明らかになっていく真実を直視することで、これまでの家族に対する思い込みが崩壊し、初めから組み立て直さなければならなくなる。被害者家族であり、加害者家族でもあるという複雑な立場に置かれた葉山家の葛藤と、だからこそ家族の形が取り戻せるかもしれないという微かな喜びがまじりあった一冊でもある。

嫁をやめる日*垣谷美雨

  • 2017/06/19(月) 18:22:34

嫁をやめる日
嫁をやめる日
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垣谷 美雨
中央公論新社
売り上げランキング: 11,394

ある晩、夫が市内のホテルで急死した。「出張に行く」という言葉は、嘘だった―。ショックを受けながらも、夫の隠された顔を調べはじめた夏葉子。いっぽう、義父母や親戚、近所の住人から寄せられた同情は、やがて“監視”へと変わってゆき…。追い詰められた夏葉子を、一枚の書類が救う!義父母、嫁家からの「卒業」を描く、「嫁」の役割に疲れたあなたに!人生大逆転ストーリー。


夫の急死をきっかけに、ぎくしゃくしていて遠いと感じていた夫の存在が、ある意味大きくなり、それまで意識したこともなかった「嫁」という立場もくっきりと浮き彫りになってくる。夫がいる間は、他所にないくらいうまくいっていると思っていた、舅・姑との関係も、夫がいなくなってみると、鬱陶しい以外の何物でもなくなる。上品でいい人だと思っていた旧家の奥さまである義母の行動のあれこれが鼻につき、知人の多さが、閉ざされた地方都市では監視の目が多いことにつながる。生前の夫の行いにも不信感が募り、悶々としているときに、がさつで品がないと思っていた実家の父が大いなる力になってくれたりと、ほんとうに頼るべき人が誰なのかを思い知らされたりもするのである。だが、一度はまりこんだ負のスパイラルの渦中では見えなくなっていたことが、ほんの少し距離を置いて冷静に眺めると別の様相が見えてきたりすることもある。結婚とは、個人と個人のものとは言え、その背後にいる家族と関わらずにいられるわけではない。「嫁」という存在についても改めて考えさせられもした。人と人の関係というのは誠に一筋縄ではいかないものであると思い知らされる一冊でもある。

この嘘がばれないうちに*川口俊和

  • 2017/04/28(金) 16:19:29

この嘘がばれないうちに
川口俊和
サンマーク出版
売り上げランキング: 1,715

とある街の、とある喫茶店の
とある座席には不思議な都市伝説があった
その席に座ると、望んだとおりの時間に戻れるという

ただし、そこにはめんどくさい……
非常にめんどくさいルールがあった

1.過去に戻っても、この喫茶店を訪れた事のない者には会う事はできない
2.過去に戻って、どんな努力をしても、現実は変わらない
3.過去に戻れる席には先客がいるその席に座れるのは、その先客が席を立った時だけ
4.過去に戻っても、席を立って移動する事はできない
5.過去に戻れるのは、コーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ

めんどくさいルールはこれだけではない
それにもかかわらず、今日も都市伝説の噂を聞いた客がこの喫茶店を訪れる

喫茶店の名は、フニクリフニクラ

あなたなら、これだけのルールを聞かされて
それでも過去に戻りたいと思いますか?

この物語は、そんな不思議な喫茶店で起こった、心温まる四つの奇跡。

第1話 22年前に亡くなった親友に会いに行く男の話
第2話 母親の葬儀に出られなかった息子の話
第3話 結婚できなかった恋人に会いに行く男の話
第4話 妻にプレゼントを渡しに行く老刑事の話

あの日に戻れたら、あなたは誰に会いに行きますか?


前作は、かなり評価が分かれたようだが、個人的には好きだったので、本作も愉しみに手にした。コーヒーが冷めないうちなら好きな時にタイムトリップできるという設定は前作のままに、今回は、相手を思うやさしい嘘がまぶしてある。そして、元の席に帰ってきてからのひと言や胸の裡に広がるものが、本人自身や周りの人をやわらかな気持ちにさせるものだというのが、さらに好ましく思える。過去に戻っても何も変えることはできないとは言え、それは現象のことであり、人の胸の裡はほんの少しだけでも好ましく変わっているのだろう。誰もがやさしい気持ちになれる一冊である。

クラウド・ガール*金原ひとみ

  • 2017/03/27(月) 16:30:55

クラウドガール
クラウドガール
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金原ひとみ
朝日新聞出版 (2017-01-06)
売り上げランキング: 19,635

刹那にリアルを感じる美しい妹・杏と、規律正しく行動する聡明な姉の理有。二人が「共有」する家族をめぐる「秘密」とは?姉妹にしか分かりえない濃密な共感と狂おしいほどの反感。スピード感と才気あふれる筆致がもたらす衝撃のラスト!


母と娘、父と娘、姉と妹。家族でありながら、ひと塊としての家族とは言えない家庭で育った姉妹の、複雑な親とのそして姉妹間の関係が描かれている。あるひとつの事象に関して、全員が同じように受け止め感じているわけではないことは当たり前のことでありながら、年齢や感受性、互いの関係によってこれほどまでに大きく違うことがあるのかと驚かされる。それほどまでになにもかもが違っている姉妹でありながら、共依存とも言える離れがたい関係でもあり、それが歪な印象を抱かせる。他者との関係の前に、誰かを通してでないと判断できない自己との向き合い方の稚拙さも印象的である。ともかく、しあわせになるのがとても難しそうな姉妹で、やり切れなくなる。一度からっぽになってみればいいのに、と思わず言いたくなる一冊でもある。

あなたのゼイ肉、落とします*垣谷美雨

  • 2017/01/10(火) 16:44:48

あなたのゼイ肉、落とします
垣谷 美雨
双葉社
売り上げランキング: 114,359

ダイエットは運動と食事制限だけではない。
大庭小萬里はマスコミには一切登場しない謎の女性だが、
彼女の個別指導を受ければ、誰もが痩せられるという。
どうやら、身体だけでなく「心のゼイ肉」を落とすことも大事なようだ……。
身も心も軽くなる、読んで痩せるダイエット小説。


なんだか爽快なダイエット小説である。巷にはさまざまなダイエット情報が氾濫しているが、大庭小萬里の個人指導は、まさに個人指導の極みと言っても過言ではなく、難しいことは何ひとつ言っていないにもかかわらず、指導を受ける本人や、その周囲の人たちのの人生まで変えてしまう力を持っているのである。これはやはり、躰のゼイ肉だけではなく、「心のゼイ肉も落とします」というところが肝心なのであろう。読後はなんとなく人生が愉しくなるような気がするから不思議である。大庭小萬里が結構好きになってしまう一冊である。

パラドックス実践 雄弁学園の教師たち*門井慶喜

  • 2017/01/04(水) 16:49:02

パラドックス実践 雄弁学園の教師たち
門井 慶喜
講談社
売り上げランキング: 1,443,205

弁論術学習に特化した超エリート校「雄弁学園」。6歳から演説、議論、陳述研究の訓練に励み、大人も太刀打ちできないほどの技術を持つ高校生たちが、新担任・能瀬雅司着任の日に三つの難題を投げかけた。議論混乱をきっかけに前担任を休職に追いやった生徒たちを前に、これまで要領のよさだけで生きてきた能瀬の回答は???第62回日本推理作家協会賞「短編部門」最終候補作「パラドックス実践」をはじめ、初等部、中等部、高等部、大学を舞台にした四つの学園小説。


個人的には、絶対に入学したくない学校である。だが、万が一はまったら、抜け出ることは難しいかもしれないとも思わされる不思議な魅力があることも確かである。6歳から弁論の英才教育を受けてきた生徒たちと、彼らを育てた教師たち。導入部を読むと、さぞかし血も涙も通わない殺伐とした学園生活が繰り広げられそうで、自分がついていけるかどうか危惧もするのだが、物語の展開は、予想とはいささか違う方向に進むのである。どんな場でも、人間が集まる限りひとつの社会であり、そこには様々な葛藤があり、心の通い合いもあるのである。新しい風が吹き込んだ学園は無敵になるかもしれないと思わされる一冊である。

農ガール、農ライフ*垣谷美雨

  • 2016/12/29(木) 07:33:12

農ガール、農ライフ
農ガール、農ライフ
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垣谷美雨
祥伝社
売り上げランキング: 77,994

「結婚を考えている彼女ができたから、部屋から出て行ってくれ」派遣ギリに遭った日、32歳の水沢久美子は同棲相手から突然別れを切り出された。5年前、プロポーズを断ったのは自分だったのに。仕事と彼氏と家を失った久美子は、偶然目にした「農業女子特集」というTV番組に釘付けになった。自力で耕した畑から採れた作物で生きる同世代の輝く笑顔。―農業だ!さっそく田舎に引っ越し農業大学校に入学、野菜作りのノウハウを習得した久美子は、希望に満ちた農村ライフが待っていると信じていたのだが…。


派遣切りに遭った日に同棲相手に別れを切り出され、部屋の明け渡しを宣告されるという踏んだり蹴ったりの目に遭い、ホームレスになるか野垂れ死にするかという切羽詰まった気分でいるとき、たまたま目にしたテレビの農業女子特集に感動し、安易にその道に踏み出した久美子の物語である。元手も知識も縁故も何もないというないない尽くしの状況なのに、なぜか明るい未来を思い描けてしまうのは、長所と言っていいのか短所と言っていいのか悩むところだが、この場合は結果がまあまあなので、良かったのだろう。農業や農家が抱える現実も、さらっと表面的ではあるが描かれており、考えさせられるところではある。そしてやはり、人生何事も人とのつながりなのだと思い知らされる。とっかかりになる関係を築くことができると、思いもかけない方面に人脈が広がっていくのが興味深い。さまざまな年代の女性たちの生き様も、それぞれがそれぞれらしくて好ましい。農業の物語であって、人とのつながりあっての人生の物語でもある一冊である。