勁草*黒川博行

  • 2015/08/11(火) 07:06:18

勁草 (文芸書)
勁草 (文芸書)
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黒川 博行
徳間書店
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橋岡は「名簿屋」の高城に雇われていた。名簿屋とはオレオレ詐欺の標的リストを作る裏稼業だ。橋岡は被害者から金を受け取る「受け子」の手配も任されていた。騙し取った金の大半は高城に入る仕組みで、銀行口座には金がうなっているのだ。賭場で借金をつくった橋岡と矢代は高城に金の融通を迫るが…。一方で大阪府警特殊詐欺班の刑事たちも捜査に動き出していた。最新犯罪の手口を描き尽くす問題作!直木賞作家、迫真の犯罪サスペンス。


オレオレ詐欺を題材にした物語である。人はどうやってオレオレ詐欺の掛け子(ターゲットに電話をする役)や受け子(お金を受け取る役)になり、ずぶずぶと深みにはまっていくのかが、目の前で見ているようによく判って恐ろしい。そして、ターゲットが、どんな風にはまり込んで被害者になっていくのかも手に取るようにわかって空恐ろしくなる。もう誰に何を聞かれても、何も答えたくない。さらには、尻尾を掴まれないようにどんどん巧みになる手口から、大元の逮捕を目指して地道に歩き回り、可能性をつぶしていく警察の捜査の苦労もよく判る。そんなドキュメンタリーのような出来事のなかで、登場人物たちのキャラクタがいい。詐欺を働く側も、それを追いつめる側も、どちらも人間であり、それぞれに人生があるのが見て取れて、興味深い。ラストはそれまでのハラハラ感からすると、えっ?と思うような展開ではあるが、それ故読者が橋岡の行く末を想像する余地もある。興味深い一冊だった。

星読島に星は流れた*久住四季

  • 2015/07/24(金) 18:51:33

星読島に星は流れた (ミステリ・フロンティア)
久住 四季
東京創元社
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天文学者サラ・ディライト・ローウェル博士は、自分の住む孤島で毎年、天体観測の集いを開いていた。ネット上の天文フォーラムで参加者を募り、招待される客は毎年、ほぼ異なる顔ぶれになるという。それほど天文には興味はないものの、家庭訪問医の加藤盤も参加の申し込みをしたところ、凄まじい倍率をくぐり抜け招待客のひとりとなる。この天体観測の集いへの応募が毎回凄まじい倍率になるのには、ある理由があった。孤島に上陸した招待客たちのあいだに静かな緊張が走るなか、滞在三日目、ひとりが死体となって海に浮かぶ。犯人は、この六人のなかにいる―。奇蹟の島で起きた殺人事件を、俊英が満を持して描く快作長編推理!


数年に一度隕石が落ちるという星読島。そしてその島には個人所有の天体観測所「星読館」があり、天文学者・ローウェル博士が天体観測をしながら暮らしている。これだけですでに何か仕掛けがありそうな予感が膨れ上がる。さらに、天文好きが集うインターネット上のフォーラムのメンバーから厳選された数名が島に招待され、運よく隕石が落ちたら、彼らのうちの誰かがそれをもらうことができるというのである。天文にさほど興味があるわけではない医者で、物語の主人公である加藤盤も、ある事情から応募して運よく招待されるのだが、孤島と言ってもいい星読島で殺人事件が起こる。招待者たちには面識がなく、年齢も住まいも境遇もさまざまななか、犯人探しと疑心暗鬼に苛まれるのである。加藤盤が探偵役となって、事件を解明しようとするのだが、そこにまた新たな事件が――。判断材料が少ない中、答えにたどり着くが、それがまた二転三転するのも興味深い。真犯人は誰もが考えるだろう人物ではあるものの、その動機は哀し過ぎてやり切れない。なかなか魅力的な一冊だった。

蜘蛛の糸*黒川博行

  • 2015/07/07(火) 16:34:20

蜘蛛の糸
蜘蛛の糸
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黒川博行
光文社
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彫刻家・遠野公彦。独身、四十二歳。頭髪と体型に少々の難あれど、相続資産あり。そんな遠野に巡ってきた、千載一遇のモテモテチャンス。だが、ひょんなミスをしたことが運の尽き。艱難辛苦、抱腹絶倒、めくるめく夜の迷走劇がはじまった―(表題作「蜘蛛の糸」)。他、しょうもなさ天井知らずの男たちを濃厚に描いた全七編。


こういうテイストだと判っていれば手に取らなかった一冊である。男の哀れな性が哀れさそのままに描かれている。大して女はみなしたたかで、男の下心など初めからお見通しなのが、辛うじて痛快とも言える。

晴天の迷いクジラ*窪美澄

  • 2012/09/24(月) 17:13:19

晴天の迷いクジラ晴天の迷いクジラ
(2012/02/22)
窪 美澄

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壊れかけた三人が転がるように行きついた、その果ては?人生の転機に何度も読み返したくなる、感涙の物語。


生まれたときはおなじひとつの命なのに、どこでどう道が分かれていくのだろう。間違いに気づかずに、あるいは間違っていると判っていながら改めることができなかったり、正しいと信じている尺度がほかの人とは違っていたり。苦しみながらもがきながら、いま歩いている道から逃れようとのた打ち回るさなかに、出会った三人の物語である。自分では見えないことも、他人を見てわかることがある。ほかの人に望むことがある。「ただ生きていてくれればそれでいい」そのことが大切に思えるようになる一冊である。

クレイジー・クレーマー*黒田研二

  • 2012/05/24(木) 07:10:47

クレイジー・クレーマー (ジョイ・ノベルス)クレイジー・クレーマー (ジョイ・ノベルス)
(2003/04)
黒田 研二

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騙しのテクニックを駆使した大どんでん返しミステリ!

大型スーパー<デイリータウン>のマネージャー袖山剛史は、クレーマー・岬圭祐、
万引き常習犯「マンビー」という二人の敵と闘っていた。
激化する岬との対立関係といやがらせに限界を感じ始めた袖山の前で、ついに殺人事件が発生する……。
最終章で物語は突如変貌! あなたは伏線を見破り、真相に辿り着けるか?


どこから騙されていたのだろう、と読み終えて振り返ってみたが、よく判らない。まんまと誘導されてしまったのだった。それにしても、この結末を想像できる人はいるのだろうか。「サイコ・ミステリ」と銘打たれている意味が、最後の最後でやっと判った。驚愕の一冊である。

騙し絵の館*倉阪鬼一郎

  • 2007/05/01(火) 20:31:08

☆☆☆・・

騙し絵の館 騙し絵の館
倉阪 鬼一郎 (2007/03)
東京創元社

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過去に怯えながら瀟洒な館でひっそりと暮らす少女。過剰なまでに彼女を守ろうとする執事。そして頑なに作品の刊行を拒むミステリー作家。「額縁の中の男」と名乗る者による、連続少女誘拐殺人事件が勃発するなか、謎めいた彼らの秘密が少しずつ明かされる。張り巡らされた大量の伏線に、倉阪鬼一郎は何を仕掛けたのか? 幻想的な館を舞台に描かれた、詩情溢れる野心的本格ミステリ。


見方によって内側が外側になり、あるいは裏が表になる。まさにそんな騙し絵のような物語である。
細かい部分で言えば容易に想像がつくことも多々あり、想像し得たことは大体においてその通りだったのが些か物足りなくもあったが、作品全体の構造はとても興味深いものだった。
恩田陸さんの『中庭の出来事』と似た眩惑感もあるが、こちらは消化不良を起こすことなくきっちり落ち着くところに落ち着いているのが違う点だろう。

横断歩道*黒井千次

  • 2006/10/01(日) 17:31:28

☆☆☆・・

横断歩道 横断歩道
黒井 千次 (2002/02)
潮出版社

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東京・中央線沿線に住む三十代後半の子供のない主婦・小知子。スポーツクラブで知り合い親しくなった友人の薊子が、何も告げずに突然姿を消す。自分の中から持ち去られたものがあるような不安に駆られて、小知子は彼女の行方を追う。その先々で奇妙な人物達に出会い、探索は曲折する。何が隠されていて、何が見えないのか―。

車道とも歩道ともつかぬ不思議な場所。安全のようで、危険もはらむ奇妙な場所。今日も様々な人影が、その場所に足を踏み出す――


逃げ水のように 手が届くかと思うとするりと逃げる、捉えどころがなく落ち着かない心持にさせられる物語だった。
プールで知り合い、プールを通してだけつきあいのあった友人・薊子(けいこ)が突然プールに来なくなり、家に電話しても 夫の曖昧な対応に不安は募るばかりで、小知子は薊子を探さずにいられなくなる。
探し出したからといってどうなるのかも判らないまま、探し出さなければ自分の中の何かを持ち去られたままになるような心許なさに駆られて、あちこち手を尽くす。そしてとうとう小知子は薊子を探し当てるのだが・・・・・。

結婚し、妊娠し、流産し、病を得て子どもはないが、夫と二人穏やかに暮らしていると思っていた小知子がふとつぶやく「半分幸せで半分不幸」という言葉が、足りない何かを摑みたいともがく 渇きにも似た想いをよく現していると思う。

文章探偵*草上仁

  • 2006/08/09(水) 19:47:47

☆☆☆・・

文章探偵 文章探偵
草上 仁 (2006/05)
早川書房

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中堅ミステリ作家・左創作は、文章からそれを書いた人間をプロファイルする文章探偵である。彼は、審査を務める新人賞に応募された作品の中に、自分が講師をしている創作講座の生徒のものらしき作品を発見する。しかしその作品内容に酷似した殺人事件が起こり、左は文章プロファイリングを開始する。真実を述べているのは誰なのか?謎が謎を呼ぶ、不可解な展開!妙手、草上仁がしかける本格ミステリ。


着想と趣向に惹かれて手にした一冊。
文章の書き方、単語の選び方、漢字と送り仮名、誤字、言葉の誤用、ワープロの入力法、推測変換の仕方。 そんな個人が普段意識せずに書き出す文章から 細かいことを推測してゆくのが文章探偵である。 物語は、文章探偵である中堅作家・左創作が語り手となって進む。
『ザ・ノベル講座』の受講生の提出作品を手がかりに 執筆者を推理するくだりなどは なかなか興味深く、自分の書き癖と併せて愉しんだ。 ストーリーもまあ愉しめたのだが、やはり少なからず反則なのでは?という感は否めなくて、その分興が削がれた気はする。

邂逅の森*熊谷達也

  • 2005/01/15(土) 08:55:56

☆☆☆・・


 第131回直木賞受賞!
 奔放に生きてきた富治を巨大熊に向かわせたものは何か。
 俊英が送る感動の物語

                           (帯より)


物語は大正の初めの 山形県の深い山から始まる。
主人公の松橋富治はマタギ――山で獣を狩る猟師――なのである。

厳しい掟を守りながら厳しい山奥で狩をするマタギには、マタギにしかわからない厳しさと愉悦、そして何より誇りがあった。

訳ありで追われるように村を出てからも、富治の人生は獲物を待ち、追い、そして撃つようにしてつづいているように思える。それはおそらく、マタギとしての誇りのなせる業なのであろう。

物語最後巨大熊との勝負では、躰はぼろぼろになったが、心は満たされきっていたことだろう。

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日の砦*黒井千次

  • 2004/10/24(日) 20:27:28

☆☆☆・・


 結婚する息子、老いていく夫婦、勤め始めて帰りが遅くなる娘、
 郊外で暮す男の日常と、穏やかな日々の底にひそむ
 正体の掴めぬ不安に迫る連作小説。
 定年後、家族の心を乱すものは…。

                           (帯より)


定年を迎え、都心へばかり向かう自分から 住まいとする郊外の些細なことに目を向ける自分となった高太郎。その目に映るものは 穏やかな日々の中にそこはかとない違和感や不安を抱かせる。
変わったのは自分なのか それとも周りなのか。しあわせなさみしさを感じさせられる些細な物語たちである。

短歌を楽しむ*栗木京子

  • 2004/09/29(水) 19:57:12

☆☆☆・・


 観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生

 短歌は、身近で親しみやすい表現手段です。この本では、
 その面白さや伝統のもつ奥深さを発見していくことをめざします。
 短歌の材料はどこにもころがっています。
 あとは心に響くきらめきをキャッチするだけです。
 この本を読んでいくと、いつのまにかページの余白に
 自分の歌を書きつけたくなっているでしょう。

                         (裏表紙より)

岩波ジュニア新書の一冊。
ジュニア向けに平易な言い回しでわかりやすく解説されており初心者にも親しみやすかった。
まずは、作って愉しもう!と思えたことがいちばんの収穫かもしれない。

月に吠えろ!*鯨統一郎

  • 2004/03/22(月) 14:07:38

☆☆☆・・


登場人物の顔ぶれがまず壮観である。
語り手である「わたし」が室生犀星、探偵役が萩原朔太郎。
他にも山村暮鳥、北原白秋がほぼ常連。
一話ごとに 今では著名な詩人・文人たちが大勢登場する。

表題でおおよその見当はつくと思うが 萩原朔太郎の『月に吠える』に載せられた詩の裏舞台を描いたものである。ミステリィにことよせたお遊びとも言えよう。

朔太郎観が 少し変わるかもしれない。

こどものころにみた空は*工藤直子

  • 2003/10/27(月) 19:55:46

☆☆☆・・   こどものころにみた空は

工藤直子さんが絵も描かれた 詩画集。

こどものころに 出会ったいろいろなものやできごと。
そのほんの欠片が ちょっとしたきっかけで 鮮やかに甦ることがある。
一部分だけ いつもいつも くっきりと。
そんな「あれは何だったのだろう?」
という思い、子どもの言葉では言い表せなかったもろもろを
大人になって 引き出してみたのが この作品。

どの詩も 大人にとってはなんてことのない 日常のひとコマなのに
子どもにとっては 重大事であり永遠なのだということを 思い出させてくれる。
きゅんと切なく 甘酸っぱく懐かしく、大人であることにあぐらをかいていちゃいけないな
と 思わせてくれる一冊でした。