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白バイガール 最高速アタックの罠*佐藤青南

  • 2019/07/03(水) 16:41:32

白バイガール 最高速アタックの罠 (実業之日本社文庫)
佐藤 青南
実業之日本社 (2019-04-05)
売り上げランキング: 129,761

公道でマシンの限界まで飛ばす「最高速アタック」動画の投稿者を捜査するなか、不審なひき逃げ事件が発生!
神奈川県警の白バイ隊員・本田木乃美は、後輩白バイ隊員・鈴木に手を焼きつつも彼が容疑者の娘に肩入れしていることに気づく。
疾走感満点の展開と、心打たれる家族の絆に、最高速で一気読み間違いなし!笑って泣ける青春ミステリー。


女性白バイ隊員のお仕事小説、とも言えるが、それよりは、青春小説とでも言った方がいいような物語である。扱う事件は、さわやかさとは程遠いものではあるが、隊員同士の信頼関係や、任務に臨む個々の姿勢や考え方が伝わってきて、読者の胸をもたぎらせる。今回は、木乃美の全国白バイ安全運転競技大会への出場権をかけた競技会の結果にも興味を惹かれる。後輩隊員の鈴木の今後も愉しみなシリーズである。

セブンス・サイン 行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2019/05/08(水) 16:56:52


行動心理学で相手のしぐさから嘘を見破る美人刑事“エンマ様”こと楯岡絵麻。真っ白な着物を着た男性の餓死死体が河川敷で発見された。胃の中に漆が見つかったことで即身仏を試みたと思われたが、遺体には監禁された跡があった。宗教団体の関与を疑って赴くも、信者らに嘘をついている様子はない。しかし聴取の途中で驚愕の事件が起こり―?鮮やかな手腕で嘘を暴く痛快心理ミステリー!


エンマ様・楯岡絵麻の捜査手法にもすっかり慣れた。だが、取り調べられている被疑者にとっては、一刻も油断できない相手であり、いくら気をつけていたとしても、微細行動によってその犯行が暴かれてしまう。今回のターゲットは宗教団体ということで、嘘をついている自覚がないまま、事実と異なる主張を繰り返すなど、厄介である。だが、粘りに粘った末に、やはり勝利の女神はエンマ様に微笑むのである。このお決まりの設定が気持ち好い。まだまだ続いてほしいシリーズである。

たとえば、君という裏切り*佐藤青南

  • 2019/04/14(日) 20:43:02

たとえば、君という裏切り (祥伝社文庫)
佐藤青南
祥伝社 (2018-12-12)
売り上げランキング: 254,783

病に冒されたベストセラー作家に最期のインタビューをするライター、アルバイト先に現れる女子大生に恋をした大学生、公園で出会ったお姉さんから遠い国のお話を聞くのを楽しみにしている少女―彼らが好きになってしまった“あの人”はいつも自分ではない“誰か”を想っていた。三つの物語は時を越え、“ある人”の深い愛に結実する。あまりに切なく、震える純愛ミステリー!


読み始めは、ごく普通の短編集の印象である。だが、いくつかの物語を読んでいくうちに、隠されたからくりに気づかされる。それからは、いま読んでいるのは「いつの」「だれの」物語で、「どこに」「だれに」つながるのだろうと考えながら読むことになる。そして、どれもが予想をはるかに超えた展開で、思いの深さに驚愕する。初めから時系列に並んでいれば、なんということもない流れなのかもしれないが、人間の思い込みというのは不思議なもので、真実を目の前にしても、なかなか脳内で切り替えがなかなかできずにうろたえる。それも含めて、いやそれだからこそ右往左往を愉しませてもらった一冊である。

ヴィジュアル・クリフ 行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2018/09/27(木) 09:26:59


似非健康商品を売りつける「ご長寿研究所」の店長が殺された。別件で指名手配中の男が現場付近で目撃されていたが、絵麻は違和感を覚える。そして新たに捜査線上に上がった人物は、行動心理学のかつての第一人者で絵麻の恩師・占部亮寛だった。店の常連客らしい占部。絵麻が聴取に行くと、占部は心を読み取られないよう抗不安薬を飲み―。相手のしぐさから嘘を見破る“エンマ様”シリーズ第6弾。


今回の捜査は、エンマ様こと楯岡絵麻にとっては、辛いものだったことだろう。というのも、捜査対象が、かつての恩師・占部であり、絵麻に行動心理学を教えてくれたその人だったのだから。とはいえ、胸の裡はともかく、捜査に手を抜くことはないのがエンマ様である。占部と絵麻の駆け引きから目が離せない。相棒の西野も、ずいぶん頼もしくなっている。彼以外ではエンマ様とのコンビは成り立たないのではないかとすら思わされる。今回、西野も贔屓のキャバクラ嬢の真実の姿に目が覚めたようでもあるし、今後の展開も愉しみである。じっくり味わいたいシリーズである。

白バイガール  駅伝クライシス*佐藤青南

  • 2018/02/25(日) 08:49:54

白バイガール 駅伝クライシス (実業之日本社文庫)
佐藤 青南
実業之日本社
売り上げランキング: 44,013

箱根駅伝1日目の深夜、翌日10区を走る選手の妹が誘拐される。神奈川県警の白バイ隊員・本田木乃美は、年末に起きた七里ガ浜殺人事件の捜査を進めていたが、駅伝先導を務める川崎潤から、選手の妹を探して欲しいと電話が入り―。駅伝×事件が同時進行、白熱の追走劇と胸熱の人間ドラマで一気読み間違いなし!大好評青春お仕事ミステリー!


毎年こたつに入ってぬくぬくとテレビ観戦している箱根駅伝の裏側で、これほど熾烈な駆け引きが起こっていようとは誰が想像できるだろうか。駅伝を先導する白バイ隊員と、表には出ないが、その裏で事件を未然に防ごうと格闘する警察官たちの、からだを張った鬼気迫る活躍に、興奮させられる。木乃美たちが熾烈な戦いを強いられなければならなかった理由は、身勝手で唾棄すべき犯罪であり、とても許すことはできないのだが、ぎりぎりのところでさらなる最悪な事態を防ぐことができたのは、仲間同士の信頼と連携以外のなにものでもなく、胸を熱くさせられる。白バイガールたち、次は何をしてくれるのか愉しみなシリーズである。

夏の情婦*佐藤正午

  • 2017/11/22(水) 13:39:37

夏の情婦 (小学館文庫)
佐藤 正午
小学館 (2017-08-08)
売り上げランキング: 81,569

第一五七回直木賞を『月の満ち欠け』で受賞した著者が、デビュー直後、瑞々しい感性で描いた永遠の恋愛小説集。ネクタイから年上女性との恋愛を追憶する『二十歳』、男と女の脆い関係を過ぎゆく季節の中に再現した『夏の情婦』、高校生の結ばれぬ恋を甘く苦く描く『片恋』、夜の街を彷徨いながら人間関係を映していく『傘を探す』、放蕩のなかでめぐり遭った女性との顛末『恋人』、小説巧者と呼ばれる才能がすでに光り輝く五編を収録。


情事の物語は個人的にはいささか苦手分野である。だが、それぞれの物語の主人公の男性の一人称での語りが、あまりにも淡々としすぎていて、倫理観とか道徳観念とか、その他世間一般の規範からはかなりずれているのに、彼のペースに巻き込まれてしまいそうになるのは不思議な感覚である。熱心なのか、冷めているのか、求めているのか、逃げているのか、その辺りのスタンスも曖昧で、それがなおさらとらえどころのない印象を増している。『傘を探す』では、永遠のスパイラルに巻き込まれたかのような理不尽さと、やはりここでも熱心なのか投げやりなのか判然としない主人公の振舞いに、いつしか絡めとられて、やり切れなくも満たされた心地になるのである。不思議な魅力をたたえる一冊である。

花のようなひと*佐藤正午 牛尾篤・画

  • 2017/10/23(月) 16:41:53

花のようなひと
花のようなひと
posted with amazlet at 17.10.23
佐藤 正午
岩波書店
売り上げランキング: 435,429

日々の暮らしの中で揺れ動く一瞬。その心象風景を花々に託して、あざやかに描き出す。花のような女性たちに贈る優しさの花束。『PHPカラット』連載に未発表の作品を加えて単行本化。


詩画集のような趣である。花言葉や花の名前など、ときどきの花に、一瞬の心の動きをゆだねているのが、とても効果的で、短い物語が、添えられる絵によってさらに鮮やかに情景を思い浮かべさせる。やさしくてあたたかい一冊である。

君を一人にしないための歌*佐藤青南

  • 2017/10/13(金) 18:33:46

君を一人にしないための歌 (だいわ文庫 I)
佐藤 青南
大和書房
売り上げランキング: 417,767

中3の夏、全国出場をかけた吹奏楽コンクールで大失敗を犯したことをきっかけに、ドラム演奏をやめた僕――
高校入学から1カ月が過ぎたある日。
七海(ななみ)という見知らぬ女子生徒に強引に誘われ、バンドを組むことになってしまう。
豊富な音楽知識をもつ凛(りん)も加入して、バンド活動が始まるかと思いきや、
ギタリストだけが見つからない!
メンバー募集をかけるが、やってくる人は問題児ばかりで…
なぜかバンドをすぐにやめてしまう! ? いつになったら演奏できるの?
往年のロックの名曲も謎にからむ日常ミステリーの新定番、爆誕!


正直言って、読み始める前の期待値はあまり高くなかった。だが、読み進める内にどんどん惹きこまれ、登場人物たちに親しみを感じるようになっていく。ロックをやっているお気楽な高校生ではなく、それぞれが傷つき、屈託を解決できないままにもがいていたのである。キャラクタもそれぞれに魅力的で、素直に言葉にできないながらも、互いを思いやっていることが伝わってくるのもいい。どんどん三人が好きになる一冊である。

古書カフェすみれ屋と悩める書店員*里見蘭

  • 2017/09/14(木) 16:24:02

古書カフェすみれ屋と悩める書店員 (だいわ文庫)
里見 蘭
大和書房
売り上げランキング: 320,659

「この本、買っていただけませんか?」「それってつまり―いまわたしが話した不可解さの答えがこのなかにあると?」すみれ屋の古書スペースを担当する紙野君がお客様に本を薦めるとき、きっと何かが起こる―。初デートの相手のつれない行動の理由も、見つからない問い合わせ本のタイトルも、恋人が別れを匂わせた原因も、…すべてのヒントと答えは本のなかにある!?日常ミステリー第2弾!大切な一歩を踏み出す誰かを応援する、スウィート&ビターな4つのミステリー!


「ほろ酔い姉さんの初恋」 「書店員の本懐」 「サンドイッチ・ラプソディ」 「彼女の流儀で」

おいしそうな料理と、読みたくなる本が魅力のシリーズである。すみれ屋も順調に人気店になってきているようで、今回は新人のほまりさんも加わって、ちょっぴりにぎやかになったすみれ屋である。お料理はどれもおいしそうで、紙野くんが薦める本にもいずれも興味をそそられる。お客さんの悩みを聞いて、たちどころに推理を巡らせ、的確な本を薦めて謎を解き明かしてしまう紙野くんは、相変わらず素敵である。お客さんたちも、みんながおいしい料理を愛し、じっくり味わいながら愉しんでいる様子で、好感が持てる。謎を解きほぐすのは、やはり人のことを想うまごころなのだろうと思わされる一冊である。

校長、お電話です!*佐川光晴

  • 2017/07/10(月) 07:22:34

校長、お電話です!
校長、お電話です!
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佐川 光晴
双葉社
売り上げランキング: 322,551

シバロクこと柴山緑郎は、問題が頻発していた中学の校長として赴任。
母校でもある学校を建て直すべく奮起した矢先、休職中の教師が自殺未遂を起こす。
校内からはタバコの吸い殻…。これらの問題を引き起こしたのは、元官僚の教育評論家である前校長の振舞いだった。
学校現場を、一人の校長の目を通してリアルに描きだした物語。


事務職員・福良さんの「校長、お電話です!」というひと言から展開する、新任校長・柴山緑郎(通称シバロク)の奮闘の日々の物語である。
市長の肝煎りで民間から着任した前任校長の元教育評論家・野田欣也の対応に対する不満が爆発して荒れ放題だった百瀬中を立て直すために送り込まれたのがシバロクである。着任早々、たまりにたまった厄介事が押し寄せ、問題が次々に明るみに出るが、名校長の誉れ高かった亡父に言われた言葉が折々によみがえり、偶然の成り行きにも味方されて、ひとつひとつ着実に解決していくのである。私生活も絶妙に織り交ぜ、ついつい手に汗握って応援したくなってしまう。娘や友人の支えもあり、スーパーマンではないシバロクが奮闘する姿は、見ていて気持ちが好い。何事も人間関係と誠意が大切だと改めて感じさせてくれる一冊だった。

月の満ち欠け*佐藤正午

  • 2017/06/07(水) 16:32:20

月の満ち欠け
月の満ち欠け
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佐藤 正午
岩波書店
売り上げランキング: 8,106

新たな代表作の誕生! 20年ぶりの書き下ろし
あたしは、月のように死んで、生まれ変わる──目の前にいる、この七歳の娘が、いまは亡き我が子だというのか? 三人の男と一人の少女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく。この数奇なる愛の軌跡よ! さまよえる魂の物語は、戦慄と落涙、衝撃のラストへ。


月が満ちては欠け、欠けてはまた満ちるように、魂も何度でも生まれ変わることができるかもしれないという「一理」を核に物語は進む。強すぎる思いを残して、思いがけず命を落とすことになった瑠璃は、何度でも生まれ変わってアキヒコと出会おうとする。そのたびに、そのときどきの周りの人たちを巻き込み、惑わせ、心の平静を失わせるのだが、そんなことに頓着しないところに、思いの強さが表れているとも言えるのかもしれない。現実問題、巻き込まれた人たちにとってはいい迷惑とも言えるのだが……。起きていること自体は、恐ろしくもあるのだが、ホラーテイストを感じさせない物語の運びになっていて、ラストの場面に向かってひたすら進んでいく印象である。瑠璃とアキヒコにとっては、めでたしめでたしだと言えよう。前世の記憶、というところに興味をひかれる一冊ではある。

ストレンジ・シチュエーション 行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2017/05/20(土) 16:49:56


相手のしぐさから真実を読み取る自供率100%の取調官、通称エンマ様のシリーズ最新刊!

本駒込署のトイレで宮出巡査が拳銃自殺をした。
一方、強盗殺人事件の現場に向かった絵麻と西野だったが、被害者夫婦の血痕がついた衣類が宮出の自宅から発見された。
宮出の単独犯として事件は解決したかに見えたが、宮出の同期・綿貫刑事は自殺を断固否定する。
絵麻は宮出の犯行方法のずさんさに違和感を覚え――。
ほか、女子大生失踪事件やアイドル殺害事件、大手企業の長女誘拐事件など、全4話を収録。シリーズ第5弾です。


楯岡絵麻・西野コンビは、もう不動のものになったと言っていいだろう。二人の掛け合いを見ているだけでも微苦笑が浮かんでくる。微笑ましいと言われれば、ご本人たちは心外かもしれないが、なかなかいいコンビネーションである。絵麻の、容疑者の心の動きを見極める目の確かさも相変わらず鋭く、言い当てられた時の容疑者の反応も、なるほどとうなずける。ただ、取調室での尋問の際の行動パターンはそう多くはなさそうなので、そろそろネタが尽きた感は否めない気もしてしまう。まだ続くとしたら、まったく別の状況での行動捜査を見てみたい。自分の無意識の行動について、改めて考えさせられるシリーズでもある。

蛇行する月*桜木柴乃

  • 2016/12/24(土) 07:06:00

蛇行する月
蛇行する月
posted with amazlet at 16.12.23
桜木 紫乃
双葉社
売り上げランキング: 275,602

人生の岐路に立つ六人の女の運命を変えたのは、ひとりの女の“幸せ”だった。―道立湿原高校を卒業したその年の冬、図書部の仲間だった順子から電話がかかってきた。二十も年上の職人と駆け落ちすると聞き、清美は言葉を失う。故郷を捨て、極貧の生活を“幸せ”と言う順子に、悩みや孤独を抱え、北の大地でもがきながら生きる元部員たちは、引き寄せられていく―。彼女たちの“幸せ”はどこにあるのか?


雪深い町の高校時代の図書部の仲間、という繋がりの女性たちと、その周囲の人々の物語である。彼女たちそれぞれの人生の中で、悩み迷い立ち止まる瞬間に、いつも思いが及ぶのは須賀順子というひとりの仲間なのである。勤め先の和菓子店の主である父親ほども歳の離れた男の子を身ごもり、逃げるように東京へ行き、いまはラーメン屋をやって貧しいながらもしあわせにやっているという。1984年から2009年まで、時代をたどりながら、それぞれ別の人物の視点で描かれるそれぞれの人生。だがその中にはいつも順子が出てくるのだった。それが、誰からもうらやまれるような暮らしをしているわけではない順子だというところが、しあわせの形ということについて考えさせられる。切なくてあたたかい一冊である。

古書カフェすみれ屋と本のソムリエ*里見蘭

  • 2016/09/29(木) 07:16:15

古書カフェすみれ屋と本のソムリエ (だいわ文庫)
里見 蘭
大和書房
売り上げランキング: 222,443

すみれ屋で古書スペースを担当する紙野君が差し出す本をきっかけに、謎は解け、トラブルは解決し、恋人たちは忘れていた想いに気付く―。オーナーのすみれが心をこめて作る絶品カフェごはんと共に供されるのは、まるでソムリエが選ぶ極上のワインのように心をとらえて離さない5つの忘れ難いミステリー。きっと読み返したくなる名著と美味しい料理を愉しめる古書カフェすみれ屋へようこそ!


またまたどこかで見たようなテイストだとは思いつつ、この手のタイトルにはついつい惹かれてしまう。すみれがオーナーシェフとして営むカフェには、古書の販売コーナーが設けられ、カフェの客は自由に読むことができる。その古書コーナーを請け負っているのは、紙野くんという本好きの青年。すみれのほっとさせる雰囲気と、紙野くんの観察力や想像力、そして本に関する知識が相まって、客たちの抱える問題を解きほぐしていくのである。すみれの作る料理はどれもとても丁寧で、材料にも過程にもこだわりを持っているが、採算がとれるのかいささか心配になってしまうくらいである。空腹時に読んだら堪らない。二人のこれからも気になる一冊である。

市立ノアの方舟*佐藤青南

  • 2016/06/12(日) 20:47:34

市立ノアの方舟
市立ノアの方舟
posted with amazlet at 16.06.12
佐藤青南
祥伝社
売り上げランキング: 541,443

野亜市役所職員の磯貝健吾は、突然の人事異動で廃園が噂される市立動物園の園長を命じられた。着任早々、飼育員たちから“腰掛けの素人園長”の烙印を押されて挫けそうになった彼を立ち直らせてくれたのは、一人娘が描いたゾウの絵だった。そこに描かれていたのは、健吾が子供の頃に見たゾウそのものだったのだ。それを見た磯貝は、存続に向けて園を立て直す決意を固め、まず動物園のことを知る努力を始める。やがて見えてきたのは動物たちが抱える様々な問題と、くせ者揃いの飼育員たちの熱く、一途な想いだった…。


表題作のほか、「アジアゾウの憂鬱」 「気まぐれホッキョクグマ」 「恋するフラミンゴ」

廃園間近と囁かれる野亜動物園の再生物語である。野生動物に無理を強いている動物園という在り方そのものの是非や、職員たちのマンネリの仕事ぶり、動物たちの飼育環境の悪さ、等々、問題を山ほど抱えた動物園に新しく着任した園長は、市役所でテーマパークの誘致を手掛けてきた全くの門外漢だった。園長の磯貝自身も、早く市役所に戻りたいというのが本音だったが、ある日見せられた五才の娘の遠足の絵に描かれていた、耳の切れたゾウが、その考えを改めさせ、動物園に活気を取り戻すためのやる気のスイッチを押したのだった。飼育員はじめ職員たちの動物に対する愛情と、なにをしても無駄だという諦めが、少しずつ前向きに変わっていく様子に胸が熱くなり、応援したくなるのだった。動物園はこの先どうなるか判らないが、僅かずつでも前に進み続けることで変わることもあるのだと改めて思わされる一冊である。