蛇行する月*桜木柴乃

  • 2016/12/24(土) 07:06:00

蛇行する月
蛇行する月
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桜木 紫乃
双葉社
売り上げランキング: 275,602

人生の岐路に立つ六人の女の運命を変えたのは、ひとりの女の“幸せ”だった。―道立湿原高校を卒業したその年の冬、図書部の仲間だった順子から電話がかかってきた。二十も年上の職人と駆け落ちすると聞き、清美は言葉を失う。故郷を捨て、極貧の生活を“幸せ”と言う順子に、悩みや孤独を抱え、北の大地でもがきながら生きる元部員たちは、引き寄せられていく―。彼女たちの“幸せ”はどこにあるのか?


雪深い町の高校時代の図書部の仲間、という繋がりの女性たちと、その周囲の人々の物語である。彼女たちそれぞれの人生の中で、悩み迷い立ち止まる瞬間に、いつも思いが及ぶのは須賀順子というひとりの仲間なのである。勤め先の和菓子店の主である父親ほども歳の離れた男の子を身ごもり、逃げるように東京へ行き、いまはラーメン屋をやって貧しいながらもしあわせにやっているという。1984年から2009年まで、時代をたどりながら、それぞれ別の人物の視点で描かれるそれぞれの人生。だがその中にはいつも順子が出てくるのだった。それが、誰からもうらやまれるような暮らしをしているわけではない順子だというところが、しあわせの形ということについて考えさせられる。切なくてあたたかい一冊である。

古書カフェすみれ屋と本のソムリエ*里見蘭

  • 2016/09/29(木) 07:16:15

古書カフェすみれ屋と本のソムリエ (だいわ文庫)
里見 蘭
大和書房
売り上げランキング: 222,443

すみれ屋で古書スペースを担当する紙野君が差し出す本をきっかけに、謎は解け、トラブルは解決し、恋人たちは忘れていた想いに気付く―。オーナーのすみれが心をこめて作る絶品カフェごはんと共に供されるのは、まるでソムリエが選ぶ極上のワインのように心をとらえて離さない5つの忘れ難いミステリー。きっと読み返したくなる名著と美味しい料理を愉しめる古書カフェすみれ屋へようこそ!


またまたどこかで見たようなテイストだとは思いつつ、この手のタイトルにはついつい惹かれてしまう。すみれがオーナーシェフとして営むカフェには、古書の販売コーナーが設けられ、カフェの客は自由に読むことができる。その古書コーナーを請け負っているのは、紙野くんという本好きの青年。すみれのほっとさせる雰囲気と、紙野くんの観察力や想像力、そして本に関する知識が相まって、客たちの抱える問題を解きほぐしていくのである。すみれの作る料理はどれもとても丁寧で、材料にも過程にもこだわりを持っているが、採算がとれるのかいささか心配になってしまうくらいである。空腹時に読んだら堪らない。二人のこれからも気になる一冊である。

市立ノアの方舟*佐藤青南

  • 2016/06/12(日) 20:47:34

市立ノアの方舟
市立ノアの方舟
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佐藤青南
祥伝社
売り上げランキング: 541,443

野亜市役所職員の磯貝健吾は、突然の人事異動で廃園が噂される市立動物園の園長を命じられた。着任早々、飼育員たちから“腰掛けの素人園長”の烙印を押されて挫けそうになった彼を立ち直らせてくれたのは、一人娘が描いたゾウの絵だった。そこに描かれていたのは、健吾が子供の頃に見たゾウそのものだったのだ。それを見た磯貝は、存続に向けて園を立て直す決意を固め、まず動物園のことを知る努力を始める。やがて見えてきたのは動物たちが抱える様々な問題と、くせ者揃いの飼育員たちの熱く、一途な想いだった…。


表題作のほか、「アジアゾウの憂鬱」 「気まぐれホッキョクグマ」 「恋するフラミンゴ」

廃園間近と囁かれる野亜動物園の再生物語である。野生動物に無理を強いている動物園という在り方そのものの是非や、職員たちのマンネリの仕事ぶり、動物たちの飼育環境の悪さ、等々、問題を山ほど抱えた動物園に新しく着任した園長は、市役所でテーマパークの誘致を手掛けてきた全くの門外漢だった。園長の磯貝自身も、早く市役所に戻りたいというのが本音だったが、ある日見せられた五才の娘の遠足の絵に描かれていた、耳の切れたゾウが、その考えを改めさせ、動物園に活気を取り戻すためのやる気のスイッチを押したのだった。飼育員はじめ職員たちの動物に対する愛情と、なにをしても無駄だという諦めが、少しずつ前向きに変わっていく様子に胸が熱くなり、応援したくなるのだった。動物園はこの先どうなるか判らないが、僅かずつでも前に進み続けることで変わることもあるのだと改めて思わされる一冊である。

サッド・フィッシュ 行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2016/06/10(金) 20:55:01


相手のしぐさから嘘を見破る美人取調官・楯岡絵麻が、相棒の西野とともに様々な事件に挑みます。
人気シンガーソングライターの自殺、ご近所トラブルにより過失致死に問われた老夫婦、集団リンチの果てに殺された女子中学生事件。
さらには、かつての恋人が絵麻に接触してきて……。自供率100%を誇る、エンマ様シリーズ第4弾!


第一話「目の上のあいつ」 第二話「ご近所さんにご用心」 第三話「敵の敵も敵」 第四話「私の愛したサイコパス」

サッド・フィッシュとは、Sadness=悲しみ、Anger=怒り、Disgust=嫌悪、Fear=恐怖、Interest=興味、Surprise=驚き、Happiness=幸福の頭文字を取ったもので、人間が生まれながらにして持つ七つの感情のことだそうである。エンマ様こと楯岡絵麻は、相手の表情やしぐさに表れるこれらの兆候によって、嘘を見抜き、事件解決の糸口を掴むのである。本作では、取調室でのキャバクラ嬢のごとき振舞いの描写はほとんどないが、捜査の過程のあちこちで、被疑者や参考人らの行動を観察し分析する様が興味深い。そしてさらに、絵麻の冷静なばかりではない部分も描かれていて、別の顔も垣間見られる。ひとりの生身の人間なのだと再確認させられる思いでもある。西岡とのコンビもどんどん息が合ってきて、過去を吹っ切った絵麻との今後も気になる。絵麻の分析ぶりをもっともっと見たいシリーズである。

大きくなる日*佐川光晴

  • 2016/05/27(金) 21:22:01

大きくなる日
大きくなる日
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佐川 光晴
集英社
売り上げランキング: 39,446

どこかにありそうな町の、どこかにいそうな家族。そんな一家のありふれた日常の中に、かけがえのない大切な瞬間が詰まっている―。四人家族の横山家の歩みを中心に、人生の小さな転機の日を描く、九つの連作成長物語。そんな素晴らしい一日が、あなたの周りにも、きっとある―。子供に、親に、保育士さんに、先生に…。その日、小さな奇跡が起きる。人それぞれの小さな一歩に温かく寄り添う、感動の連作短編!珠玉の家族小説。


「ぼくのなまえ」 「お兄ちゃんになりたい」 「水筒のなかはコーラ」 「もっと勉強がしたい」 「どっちも勇気」 「保育士のしごと」 「四本のラケット」 「本当のきもち」 「やっぱり笑顔」

保育園児の太二が高校生になるまでなので、かなり長いスパンの物語である。父と母と弓子と太二の四人家族の横山一家を軸に、それぞれが日々関わる周りの人たちをも含めて、よく見かける日常の風景が描かれている。ひとつひとつは些細な出来事でも、それらが積み重なって人は少しずつ成長していくのだということがよく判る。笑っていられることばかりではない毎日が、愛おしく思えるようになる一冊である。

白バイガール*佐藤青南

  • 2016/03/11(金) 17:17:22

白バイガール (実業之日本社文庫)
佐藤 青南
実業之日本社 (2016-01-30)
売り上げランキング: 28,481

神奈川県警の白バイ隊員になったばかりの本田木乃美は、違反ドライバーからの罵詈雑言に泣かされる日々。同僚の女性隊員・川崎潤ともぎくしゃくしている。そんな中、不可解なバイク暴走死亡事故が発生。木乃美たちが背景を調べ始めると、思いがけない事件との接点が―。隊員同志の友情、迫力満点の追走劇、加速度的に深まる謎、三拍子揃った警察青春小説の誕生!


消防士の次は、白バイ隊員のお仕事小説である。箱根駅伝の先導をしてくて白バイ隊員を目指した本田木乃美が主人公。二人だけの女性隊員の川崎潤とも仲良くなれず、ライドの技術にも取り締まりの話術にも自信が持てない。人より秀でているのは並外れた動体視力だけ。それさえ仲間に指摘されるまでは気づいていなかった。そんな木乃美が警邏中にちらっと目にしたステッカーは、いまは殲滅されたはずの暴走族グループのものだった。自分の分を超えて捜査を始める木乃美に、仲間たちも手を貸してくれ、それが大事件解決のの手掛かりにつながるのである。鬼気迫る追跡劇や、きゅんとさせられるロマンスの欠片も盛り込まれ、愉しく読める青春小説でもある。なにより、気分がスカッとする一冊になっている。

ミリオンセラーガール*里見蘭

  • 2015/08/15(土) 18:30:36

ミリオンセラーガール
里見 蘭
中央公論新社
売り上げランキング: 523,056

彼氏にはフラれ、アパレルショップはクビになった沙智。心機一転、ファッション誌の編集者を目指して出版社へ転職するが、配属されたのは、書店営業を行う販売促進部だった。しかも、初版1万部にも満たない無名作家の小説を『ミリオンセラーにせよ』との特命まで課せられた!営業、編集、取次、そして書店員をも巻き込んで、沙智は次第に火をつけていくが…。


何もかもうまくいかずに落ち込んでいる正岡沙智が、心機一転出版社に転職し、憧れの編集部ではなく、不本意な販売促進部に配属されてやる気をなくすが、そこから這い上がって周りの人たちにも助けられて成長するというお仕事サクセス物語である。沙智の職場は出版社だが、書店の事情や、配本の仕組みなど、本が流通する仕組みの解説書のような趣もあり、その大変さはよくわかるものの、その辺りにやや説明じみた印象を受けなくもない。登場人物は、出版社の社長をはじめとして個性派ぞろいで、この人たちと円満に付き合っていくのはさぞ苦労するだろうと思わされるが、ひとたび目的意識が一致したときのパワーはものすごいものがある。物語の展開は定番的で、完全に予想の範囲内ではあるが、それがまたいいところかもしれない。沙智の奮闘記、ライバル出版社の有森さんとの絡みなど、続きが読みたい一冊である。

インサイド・フェイス--行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2015/06/27(土) 18:30:40


行動心理学を用いて相手のしぐさから嘘を見破る、美人刑事・楯岡絵麻。その手腕から“エンマ様”と呼ばれる。離婚した元夫に刺されたという被害者女性の証言により、被疑者の取調べに当たった絵麻。しかし、ふたりの娘が三年前に殺されていた事実を知った絵麻は、筆談でしか応じようとしない不可解な行動をする被疑者から、ある可能性を感じ、後輩の西野とともに調査に乗り出すと…。自供率100%を誇る美人取調官「エンマ様」シリーズ第3弾!


今回も、楯岡絵麻の行動心理学を駆使した取り調べと捜査が興味深い。これまでよりも絵麻のキャバクラ的取り調べ術の描写が少なかったのがかえって落ち着いた印象でよかった(絵麻のキャラクタが浸透したからということもあるだろう)。相棒の西野との表面上はともかく、深いところでの信頼関係もさらに深まっているように見受けられ、勝手に嬉しくなる。さらに、いままで反感を買うだけだったほかの刑事たちにも絵麻の捜査の価値が少しずつ認められていく様子もほっとさせられる。次もまた読みたいシリーズになってきた。

鳩の撃退法(下)*佐藤正午

  • 2015/05/21(木) 16:58:35

鳩の撃退法 下
鳩の撃退法 下
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佐藤 正午
小学館
売り上げランキング: 103,106

「このままじゃおれたちはやばい、ラストに相当やばい場面が待っているかもしれない。おれたちというのは、床屋のまえだとおれ、それにもちろん津田さんの三人組のことだ。だけど厳密にやばいのはあんただよ。わからないか。夜汽車に乗って旅立つ時だよ」いきなり退職金を手渡された津田伸一にいよいよ決断の機会が訪れる―忽然と姿を消した家族、郵便局員の失踪、裏社会の蠢き、疑惑つきの大金…たった一日の交錯が多くのひとの人生を思わぬ方向へと導いてゆく。


現実の津田伸一の身に起こったことと、彼が書いている小説が、行きつ戻りつして、一体いま自分はどこにいるのだろうかとときどき迷う。鳩の意味も判り、でも撃退法が見つかったとは思えないし、撃退できたとも思えない。それは於くとしても、もつれたり絡まったりしながら、ぐるぐるめぐる二月二十八日だったということだけは間違いない事実だろう。翻弄されてあちこち連れまわされたような面白さの一冊である。

鳩の撃退法(上)*佐藤正午

  • 2015/05/14(木) 06:56:38


かつての売れっ子作家・津田伸一は、いまは地方都市で暮らしている。街で古書店を営んでいた老人の訃報が届き形見の鞄を受け取ったところ、中には数冊の絵本と古本のピーターパン、それに三千万円を超える現金が詰め込まれていた。「あんたが使ったのは偽の一万円札だったんだよ」転がりこんだ大金に歓喜したのも束の間、思いもよらぬ事実が判明する。偽札の動向には、一年前に家族三人が失踪した事件など、街で起きる騒ぎに必ず関わっている裏社会の“あのひと”も目を光らせていた。


上巻を読む限り、まだタイトルの意味は判らない。そして物語自体も、売れない作家・津田伸一の困った日常に突如として紛れ込んだ夢物語が一転して疑心暗鬼の世界に追いやられるかと思えば、家族三人失踪事件に至る物語が延々と挿入されていたり、しかもどこかで見た憶えがある話だったりするので、どこに重きを置いて読めばいいのか戸惑いもある。下巻では、このとりとめのなさが、ある人物をキーにして、一点に収束していきそうな予感はあるが、どんな収束の仕方をするのかは全く読めず、下巻が愉しみな一冊である。

インディアン・サマー騒動記*沢村浩輔

  • 2015/02/24(火) 07:28:57

インディアン・サマー騒動記 (ミステリ・フロンティア)インディアン・サマー騒動記 (ミステリ・フロンティア)
(2011/03/24)
沢村 浩輔

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「もしかして俺たち―遭難してるのかな」「遭難と決めるのはまだ早い。要は気の持ちようだ」軽い気持ちで登った山で道に迷い、その夜無人駅に泊まる羽目に陥った大学生・佐倉とその友人・高瀬は、廃屋と思い込んでいた駅前の建物“三上理髪店”に深夜明かりが灯っているのを目撃する。好奇心に駆られた高瀬は佐倉が止めるのも聞かず、理髪店のドアを開けてしまう。そこには…第四回ミステリーズ!新人賞受賞作の「夜の床屋」ほか、子供たちを引率して廃工場を探索することになった佐倉が巻き込まれる、真夏の奇妙な陰謀劇「ドッペルゲンガーを捜しにいこう」など全七編。“日常の謎”に端を発しながら予期せぬ結末が用意された、不可思議でチャーミングな連作短編集。


「夜の床屋」 「空飛ぶ絨毯」 「ドッペルゲンガーを探しにいこう」 「葡萄荘のミラージュⅠ」 「葡萄荘のミラージュⅡ」 「『眠り姫』を売る男」 「エピローグ」

途中までは、単なる短編集かと思って読んでいたのだが、次第にすべての物語が少しずつ繋がっていることが判り、――やや無理やり感もあるが――そうだったのか、と思う。どれもほんの少し異世界めいて不思議なのにもかかわらず、主人公たちが割と平然と日常的に対処しているのも別の意味で不思議な気もしなくもない。もしも自分がまきこまれたら、と思うと恐ろしくなる一冊でもある。

灰と話す男--消防女子!高柳蘭の奮闘*佐藤青南

  • 2014/11/04(火) 17:06:06

灰と話す男 消防女子!! 高柳蘭の奮闘灰と話す男 消防女子!! 高柳蘭の奮闘
(2013/10/09)
佐藤 青南

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横浜市消防局湊消防署に勤める任官二年目の女性消防士、高柳蘭。中区内では、二ヶ月間で四十二件もの火災が発生していた。そのうちの十六件は半径一・五キロ圏内に集中し、火災原因も明らかになっていないことから、警察は事件性を疑う。火災原因調査員の木場は、根拠の薄いことから「事件」との見方に慎重になるが、ある人物の存在に気づき…。一方、民家の消火に当たった浜方隊は、殉職者を出してしまう。それを機に蘭に異変が起こって…。『このミス』大賞シリーズ。


高柳蘭シリーズの二作目。連続放火なのか、はたまた偶然なのか、それともただの失火なのか。警察との通報者の取り合いやら、仲間の殉職やら、今回も見どころ満載である。そして「灰と話す男」と呼ばれる消火後の現場をくまなく検証し、灰の状態まで観察し尽くす予防課の木場がいい仕事をしている。高柳蘭が主役なので仕方がないのかもしれないが、タイトルにもなっているのだから、もう少し木場をクローズアップして欲しかった気もする。裏方担当、大好きである。どんどん成長する蘭のこれからが愉しみなシリーズである。

消防女子!!--女性消防士・高柳蘭の誕生*佐藤青南

  • 2014/10/13(月) 16:52:38

消防女子!! 女性消防士・高柳蘭の誕生 (宝島社文庫)消防女子!! 女性消防士・高柳蘭の誕生 (宝島社文庫)
(2013/06/06)
佐藤 青南

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横浜市消防局湊消防署で唯一の女性消防士、高柳蘭。新米の蘭は食事作りや洗濯などの雑務に訓練、消火活動と多忙な日々を過ごす。ある日、毎日確認しているにもかかわらず、蘭の使用している空気呼吸器の空気残量が不足していることに気づく。やがて辞職を迫る脅迫状まで届き、蘭は同僚の犯行を訝り疑心暗鬼に陥る。ちょうどその頃、世界一周中の豪華客船が横浜に寄港することになり…。


火災現場で父を亡くした女の子・高柳蘭は、父の後を継いで消防士になった。横浜市消防局湊消防署でただ一人の女性だが、もちろん男性消防士と一緒に厳しい訓練もこなさなくてはならない。体力的にもきついし、先輩の叱咤も厳しく、しかも新人の役目として雑用もこなさなくてはならないというぎりぎりの毎日である。そんなとき、空気呼吸器のエアが抜かれるというトラブルに見舞われ、疑心暗鬼に陥る。訓練や現場の様子など、ちょうど始まったドラマ「ボーダーライン」とついダブらせて読んでしまうので、消防とい未知の現場ながら容易に映像が浮かぶ。蘭の成長と、湊消防署のメンバーとの絆が深められていく様子が描かれた物語であり、家族愛の物語でもあるかもしれない。蘭の命名は父であり、山火事の焼野原に真っ先に咲く花・ファイヤーウィード(ヤナギラン)からであり、焼け野原を薄桃色に染めて、火災で大切なものを奪われた人たちに安らぎを与え、被災者を癒す復興の象徴なのである。夫を失い、娘をまた消防士として送り出した母の想いも胸に熱い一冊である。

ある少女にまつわる殺人の告白*佐藤青南

  • 2014/09/19(金) 16:58:01

ある少女にまつわる殺人の告白ある少女にまつわる殺人の告白
(2011/05/06)
佐藤 青南

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「亜紀ちゃんの話を、聞かせてください」10年前に起きた、少女をめぐる忌わしい事件。児童相談所の元所長や小学校教師、小児科医、家族らの証言を集める男の正体とは…。哀しくも恐ろしい結末が待ち受ける!2011年『このミス』大賞優秀賞受賞作。


ジャーナリストを名乗り、亜紀ちゃんの過去のことを訊ねて回る男は一体誰なのか。幼いころから母の恋人に虐待されていた亜紀ちゃんはどんなふうに育ちどんな人生を送っているのか。さまざまな興味からページを繰る手は止まらない。虐待する親の身勝手に心が波立ち、児童相談所の力の及ばなさには地団太を踏みたくなるようなもどかしさを感じ、亜紀ちゃんの逞しさを応援したくなる。だが……。世間の目から隠された家庭の中で起こっていたことは、想像を超えることだった。そして、男の正体が判ったとき、何も解決されず、なんの光明も見えないラストが待っていて、胸に石をつめこまれたようなやりきれない思いに満たされるのである。深く深くため息をつきたくなる一冊である。

ユーミンの罪*酒井順子

  • 2014/07/25(金) 17:05:00

ユーミンの罪 (講談社現代新書)ユーミンの罪 (講談社現代新書)
(2013/11/15)
酒井 順子

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ユーミンの歌とは女の業の肯定である。ユーミンとともに駆け抜けた1973年~バブル崩壊。ユーミンが私達に遺した「甘い傷痕」とは?キラキラと輝いたあの時代、世の中に与えた影響を検証する。


ユーミンを語ると、日本の時代の変遷までわかってしまうという面白さである。そしてユーミンはどの時代でもその先駆けであったのがよく解る。ユーミンの罪とは、つまるところ、その時代時代の女性たちが、ユーミンの歌にあまりにも共感し、その中で自己完結してしまったことかもしれない。「自分の歌が、詠み人知らずの曲として、残っていってほしい」というユーミンの言葉が、あぁやっぱりユーミンだなぁ、と思わされる。さらにユーミン大好きになる一冊である。