ルールズ*新藤晴一

  • 2017/10/23(月) 06:57:08

ルールズ
ルールズ
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新藤晴一
マガジンハウス
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人気ロックバンド、ポルノグラフィティの新藤晴一が描く
青春ロック小説の傑作!

ポルノグラフィティのギタリスト・作詞家として活躍する著者が、
2010年の小説家デビュー以来、待望の第2作目を上梓!

舞台は、著者が長きにわたって身を置く音楽業界。
メジャーデビューを目指して奮闘する
ロックバンドのベーシストを主人公にすえ、
ロッカーたちの生き様を追いかけた本書は、
細部にまでリアリティが宿るロック小説の傑作!

運命をともにするメンバーたちとの人間関係、
デビューにかけるひたむきな想いや葛藤、
成功を夢みる男たちの欲望……。
彼らの未来のカギを握るのは、いったい誰なのか?
この出来事は、伝説となりうるのか?
夢か現実か?
一気読み必至の青春グラフティ。


ロックは全くの門外漢だが、それでもそのばかばかしいほどの熱さがひしひしと伝わってくる。なにを大切に思い、なにを最優先に生きていくかということは、ロッカーに限らず、その人なりの譲れない理由があるだろう。彼らにとって、それがロックだということだ。損得勘定など微塵も考えずにいられた時代から、人生設計を俯瞰してみなければならない年代になってもなお、譲れないものは譲れないけれど、少しずつ妥協も覚えなければ生き残ってはいけない。そんなジレンマと、それでも熱い仲間たちとの結びつきが、読んでいて心地好い。有名人が物した小説という色眼鏡を外しても充分読み応えのある一冊だと思う。

騙し絵の牙*塩田武士

  • 2017/10/12(木) 16:23:36

騙し絵の牙
騙し絵の牙
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塩田 武士
KADOKAWA (2017-08-31)
売り上げランキング: 741

大手出版社で雑誌編集長を務める速水。誰もが彼の言動に惹かれてしまう魅力的な男だ。ある夜、上司から廃刊を匂わされたことをきっかけに、彼の異常なほどの“執念”が浮かび上がってきて…。斜陽の一途を辿る出版界で牙を剥いた男が、業界全体にメスを入れる!


主人公の編集者・速水には俳優の大泉洋があてがきされているので、初めから明確なイメージを持って読み進められるという、テレビドラマを観た後で原作を読んでいるような不思議な読書体験ができる。ほんとうにこの速水、大泉洋氏以外では考えられないキャラクタである、と思ってしまった時点でまんまとやられているのだろう。エピローグがあるからこその騙し絵ということなのだろうが、流れとしては当然とも言えるのではないかとも思った。カバー写真の仕掛けも秀逸で、物語をよく表している。仕掛けでも内容でも愉しませてくれる一冊だった。

罪の声*塩田武士

  • 2016/12/02(金) 19:19:47

罪の声
罪の声
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塩田 武士
講談社
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逃げ続けることが、人生だった。

家族に時効はない。今を生きる「子供たち」に昭和最大の未解決事件「グリ森」は影を落とす。

「これは、自分の声だ」
京都でテーラーを営む曽根俊也は、ある日父の遺品の中からカセットテープと黒革のノートを見つける。ノートには英文に混じって製菓メーカーの「ギンガ」と「萬堂」の文字。テープを再生すると、自分の幼いころの声が聞こえてくる。それは、31年前に発生して未解決のままの「ギン萬事件」で恐喝に使われた録音テープの音声とまったく同じものだった――。

未解決事件の闇には、犯人も、その家族も存在する。
圧倒的な取材と着想で描かれた全世代必読!
本年度最高の長編小説。

昭和最大の未解決事件―「ギンガ萬堂事件」の真相を追う新聞記者と「男」がたどり着いた果てとは――。
気鋭作家が挑んだ渾身の長編小説。


グリコ森永事件を題材にした409ページの大作である。青酸ソーダ入りのお菓子が店頭に置かれたということで、当時子どもが生まれたばかりだったわたしも我が身のこととして恐ろしさを感じた事件だったので、興味深く読んだ。大々的に報道された割には、実際犯人は何が目的だったのかよくわからず、尻すぼみに終わった印象があったが、本書を読むと、妙に納得できてしまう。記者が、大きな事件の取材に際して、犯人はどんなにもっともらしい大義名分を持っているのかと思って臨むと、どうしようもない理由で事件を起こしていることが多々あり、がっくりする、というようなことを言っているが、このギンガ萬堂事件の犯人たちも、まさにそうで、それがリアルさをより増している。読後は、あの事件の真相はまさにこうだったのだろうと思えてしまうほどである。テープの声の子どもにスポットを当てたのも見事だと思う。読み応えのある一冊だった。

田嶋春にはなりたくない*白河三兎

  • 2016/09/06(火) 17:02:04

田嶋春にはなりたくない
白河 三兎
新潮社
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正しいことを正しいと言って、何が悪いんですか! 史上最高に鬱陶しい主人公、誕生! 一流私大の法学部に在籍する女子大生「田嶋春」、通称タージ。曲がったことが大嫌いで、ルールを守らない人間のことは許せない。そのうえ空気は、まったく読まない。もちろん、友達もいない。そんなタージが突撃した「青春の謎」には、清冽で切ない真実が隠されていて――。読めば読むほど、不思議とタージが好きになるかも! ?


個人的には、初めからちょっと好きだったかも、田嶋春。これほど極端に空気を読まないわけではない(と自分では思う)が、似たところがある気がして、親しみを覚えてしまったりもする。なので、タージの気持ちが全く分からないというわけではなく、かと言って、全面的に支持できるというわけでもないので、肩頬に苦笑いを浮かべて眺めてしまうような読書タイムだった。きっと深く知ればみんな好きになると思うよ、田嶋春。彼女のことをもっともっと知りたくなる一冊なのである。

殺人犯はそこにいる*清水潔

  • 2014/06/01(日) 17:08:49

殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件
(2013/12/18)
清水 潔

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犯人が野放しになっている? 「桶川ストーカー事件」を手掛けた記者が迫る! 5人の少女が標的になった知られざる大事件。それを追う記者が直面したのは、杜撰な捜査とDNA型鑑定の闇、そして司法による隠蔽だった――。執念の取材で冤罪「足利事件」の菅家さんを釈放へと導き、真犯人を特定するも、警察は動かない。事件は葬られてしまうのか。5年の歳月を費やし、隠された真実を暴きだす衝撃作。


報道を鵜呑みにしてはいけない、と常々思ってはいることだが、本書を読むと、一体何を信じればいいのだろう、と戸惑い、憤りさえ覚えてしまう。警察とは、市民の安全を守り、何を措いても市民の安全安心を脅かす真犯人を捕まえてくれるもの、というのは建前に過ぎないのだろうか。なにを信じればいいのか疑心暗鬼に駆られる中、著者の取材と調査が真実に迫る様子はもどかしさのなかから一条の光が差すようである。そしてそれでも自身の保身ゆえに動かない警察組織には落胆を隠せない。真実を知りたいと切実に思わせる一冊である。

叫びと祈り*梓崎優

  • 2013/09/08(日) 16:43:31

叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)
(2010/02/24)
梓崎 優

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砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦、ロシアの修道院で勃発した列聖を巡る悲劇…ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた第五回ミステリーズ!新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」を巻頭に据え、美しいラストまで一瀉千里に突き進む驚異の連作推理誕生。大型新人の鮮烈なデビュー作。


ミステリと呼んでいいのかどうか迷うくらい、いままでなかったミステリなのではないだろうか。少なくともわたしがいままで読んできたミステリとは別のもののように思われる。斉木という一人の男が世界のあちこちを旅して体験した出来事というキーで繋がる連作短編集なのだが、物語とか筋立てとか舞台とか、それら自体が初めから謎解きなどなくても成立してしまうような気がする。それでいてきちんと謎解きもあるのだが、その種明かしの根拠もまたただ事ではないのである。そしてそれらの物語を束ねるラストの一作が、何とも切ないというか、それでいいのか、と読む者を悩ませるのである。悪い意味でなくとらえどころのない一冊とも言えるかもしれない。

続 岳物語*椎名誠

  • 2013/09/04(水) 16:42:57

続 岳物語続 岳物語
(1986/07/18)
椎名 誠

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ご存知、シーナさんちの岳少年。いま、男の自立の季節を迎えている。ローバイしつつも、ひとりうなずく父シーナ。カゲキな父と子のやさしい時代が終わり、新しくキビシイ友情物語が始まる!


家族の、というよりも、親子の、というよりも、男と男の、人間と人間の友情物語なのだと改めて思わされる。教育的とか躾の極意とか、そんな意図は微塵も感じられない、ひとりとひとりのぶつかり合いである。岳くんが成長してくるに従って、それは幼いころよりもなお顕著になってきて、この物語のその後もさらに厳しくも愛しいぶつかり合いが続いていくことになるのだろう。全身全霊で考え悩みためらい応える力について考えさせられる一冊でもある。

岳物語*椎名誠

  • 2013/08/21(水) 16:56:23

岳物語岳物語
(1985/05/14)
椎名 誠

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彼の名は岳(がく)。椎名誠の息子である。椎名誠よりもシーナ的といわれている。これは、ショーネン・岳がまだ父親を見棄てていない頃のウツクシイ父と子の友情物語である。著者初の私小説。


私小説と聞かなければ、フィクションの少年物語だと思ってしまうくらいである。岳少年の少年らしい無邪気さや一途な興味の向い方、父との関係、母との関係、現れ方は様々だが、きわめて健やかに描かれていて好ましい。気持ちの好い一冊である。

快挙*白石一文

  • 2013/07/02(火) 17:04:32

快挙快挙
(2013/04/26)
白石 一文

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変質しない夫婦関係などない。罪と罰を抱き共に生きる。それこそが、結婚――。あの日、月島の路地裏であなたを見つけた。これこそが私の人生の快挙。しかし、それほどの相手と結婚したのに五年が過ぎると、夫婦関係はすっかり変質してしまった。共に生きるためには、不実さえも許す。それこそが夫婦。そう思っていたが、すべては私の驕りにすぎなかった……。結婚の有り様をあなたに問う傑作夫婦小説。


男と女がある日出会って夫婦となり、愛ばかりではなくさまざまな波風に翻弄され、壁に突き当たり、乗り越えたり回り込んだりしながら共に暮らす日々を、淡々と描いた物語である。マニュアルなどどこにもなく、一筋縄ではいかない夫婦生活だが、これぞ快挙、と思える一瞬が確かにあったこと、そのことを忘れずにいられること、それが共に生きる味わいとでもいうものだろう、と思わせてくれる。しみじみと味わい深い一冊である。

狭小邸宅*新庄耕

  • 2013/04/18(木) 07:08:30

狭小邸宅狭小邸宅
(2013/02/05)
新庄 耕

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戸建物件を売る不動産会社に勤める「僕」。ノルマ、容赦ない上司の罵声。そこは売上という結果以外、評価されない過酷な職場だった。戦力 外通告を受けた異動先の営業所でも辞職を迫られるが、ある日幸いにもひとつの物件が売れ、周囲からも徐々に認められ、自身も変わっていく のだが……。


不動産業界が――多少の誇張はあるかもしれないが――まことにリアルに描かれているらしい。まずは、我が子が不動産業界に就職しなくてよかった、と胸をなでおろしてしまった。優秀な大学を卒業しているが、なかなか実績を出せずにいる松尾が主人公。上司に罵られ、殴られ蹴られ、ねちねちと嫌みばかり言われながらも、なぜか辞めずに家を売ろうとし続けている。人間性を根こそぎ否定されるような毎日はまさに地獄のようである。それが変わったのは、辞めるのも仕方がないと腹をくくった最後の一か月に焦げ付いている物件を売ったことがきっかけだった。それからは、優秀な部長の個人指導の下、どんどん不動産屋になり切っていく松尾であった。営業は実績がすべて、とは言え、あんまりな職場環境だなぁ、と思うのは甘いのだろうか。他人事として読むには面白い一冊である。

幻影の星*白石一文

  • 2012/01/30(月) 07:50:37

幻影の星幻影の星
(2012/01)
白石 一文

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死に満ちたこの星で、あなたにまた会えるでしょうか?
郷里の母から送られてきた、バーバリーのレインコート。
なぜ?ここにもあるのに・・・・・。
震災後の生と死を鋭く問う、白石一文の新たな傑作。


熊沢武夫と滝井るり子、現在ではまったく接点のない二人の様子と、彼らに起こる少しばかり不思議な出来事が並行して語られる。二人がたどり着く場所は、一体どこなのだろうという興味も湧くが、それよりも、時間の流れの不思議さ、人間が生まれて生きて、逃れようもなく死んでいくということ、「現在」という一瞬がどれほど不確かなものであるかということなどを――ときに受け容れがたいところもあるが――、さまざま考えさせられる一冊である。

翼*白石一文

  • 2012/01/20(金) 18:58:50

翼 (テーマ競作小説「死様」)翼 (テーマ競作小説「死様」)
(2011/06/18)
白石一文

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田宮里江子は、職場近くのクリニックで長谷川岳志と再会した。医師である岳志は里江子の親友・聖子の夫で、夫婦には二人の子どもがいる。里江子は学生時代、聖子から恋人として五つ年上の岳志を紹介されたことがあった。その初対面の翌日、里江子は岳志から呼び出される。あまりにも唐突な話であった。「きみと僕とだったら別れる別れないの喧嘩には絶対にならない。一目見た瞬間にそう感じたんだ」と言われた。そして、結婚してほしい、聖子とは別れると。話しているうちに、悪ふざけでもなく至って真面目なことは分かったが、もちろん里江子は何ら応えることはできない。そのことは、聖子には黙っていた。結婚した二人の渡米、就職後の里江子の転勤などもあり、里江子と聖子は疎遠になっていた。十年ぶりにあった岳志の気持ちは、まったく変わっていなかった。それどころか、確信を深めたと言う。その後里江子は、岳志のアメリカでの現地女性とのこと、そして学生時代に起こした心中事件の一部始終を知ることになる。自分の直観を信じて生きたいと願う男。何に囚われているのか正直になれない女。二人の行く末は……。  常識と道徳の枠外にあるものが胸に迫り、深い考察を促す新たな代表作の誕生。


死様というテーマの競作の一冊であるが、つくづく死様とは生き様のことであるのだなぁ、と思わされる物語である。主人公の里江子と岳志だけでなく、その周囲の人々の生き様がすべて絡み合ってひとりの人間の人生を織り成している。死様とは自分で決めるものではなく、どう生きたかが映し出されるものなのかもしれないと思わされる一冊である。

悪貨*島田雅彦

  • 2010/11/13(土) 16:52:10

悪貨 (100周年書き下ろし)悪貨 (100周年書き下ろし)
(2010/06/23)
島田 雅彦

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ある日、ホームレスが大金を拾う。だが、その金は偽札だった!捜査にあたった日笠警部が事件解決のために招喚したのが、偽札捜査のスペシャリスト・フクロウ。
一方、「美人すぎる刑事」エリカは、国際的金融犯罪を取り締まるため、マネー・ロンダリングの拠点となる宝石商・通称「銭洗い弁天」に潜入捜査をすることになった。そこで捜査線上に浮かび上がってきたのが、グローバルな資本主義を超える社会を目指す共同体「彼岸コミューン」で育ち、今や巨額の資金を操る野々宮という男だった。
最後に勝利するのは、金か、理想か、正義か、悪か?ハイスピードで展開する「愛とお金の物語」


昨今の国際情勢を考えると、あり得ないと断言できない物語であり、背筋が寒くなる心地さえする。
理想の社会の実現に向かう真摯な魂と、私利私欲にまみれた穢れた心根が奇しくも同じ土俵に立たされ、何も知らないその他多勢が押し寄せる波をもろに被る。偽札を使って現行の経済社会を覆そうという発想にとりつかれた段階で結末は目に見えている気もするが、緊張感と物語の行き先への期待で先へ先へとページを捲る手を止めさせない。
「彼岸コミューン」のような理想郷は小規模のうちは志が同じ方を向いていたとしても、大所帯になればなるほど理想の実現をむずかしくするのだろうとも思われるが、この結末の先にどうなっていくのか少し気になる。

ボクは坊さん。*白川密成

  • 2010/06/26(土) 13:47:59

ボクは坊さん。ボクは坊さん。
(2010/01/28)
白川密成

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24歳、突然、住職に。
仏教は「坊さん」だけが独占するには、あまりにもったいない!
笑いあり、涙あり、学びあり!
大師の言葉とともに贈る、ポップソングみたいな坊さん生活。


お寺の孫として生まれはしたが、そして幼いころからお坊さんに可能性を感じてはいたが、ある日住職である祖父が病を得、亡くなって、24歳という若さで栄福寺の住職になることになった。Tシャツにジーパンの白川歩くんが、法衣を実につけ白川密成として、生きることになったのである。とはいえ、そこは24歳の若者、伝統を踏まえつつ新しい可能性も探りはじめる。戸惑いためらいながらも、興奮し生きがいを感じる密成さんの気持ちが漲る一冊である。
読みながら、日本に生まれ日本人として生きている自分には、ことさら仏教だとか宗教だとか考えなくても、自然にそのことが根底にある行いをして入ることが少なからずあるように思われて、それもまた素敵なことなのではないかと思えたのだった。


栄福寺のホームページ「山歌う」はこちらです。→ http://www.eifukuji.jp/

カリスマ 上下*新堂冬樹

  • 2009/12/01(火) 19:00:39

カリスマ (上)カリスマ (上)
(2001/03)
新堂 冬樹

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カリスマ (下)カリスマ (下)
(2001/03)
新堂 冬樹

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人間はなぜ、カリスマとなることができるのか? 新興宗教とその最高幹部、そして魅入られたように入信する女性。その夫をめぐり究極の人間ドラマが展開される。これ以上ない程リアルに描かれる洗脳・プロパガンダ・覚醒…。


新興宗教の教祖への盲信によって、目の前で父を殺し自殺した母を求めるあまりに、自らも神の郷の教祖となった男・神郷宝仙。彼は、心理学の理に叶ったシステムで悩める人々を洗脳し、カリスマになることを目指した。洗脳の様子には鬼気迫るものがあり、間違ってもこんなところに参加してはならないという思いを新たにさせられる。神の郷の教えのほとんどは荒唐無稽のたわごとなのだが、ほんのひと握りの真理が混ぜ込まれているのがかえって恐ろしい。
ただ、子どものころのトラウマによって、自らをカリスマに仕立て上げるようになる動機が、もうひとつ納得できなくて、唐突にも思えた。さらに、母の無償の愛を求める、いわばマザコンであり、自らの欲求を制御できない俗物である神郷を描くのに都合が良くもあったのだろうが、性欲にまつわる描写が多用されるのにはいささかうんざりであった。途中で本を閉じたくなったほどである。
ラストで二転三転する展開には、息をつかせぬものがあったが、あまりにも急転直下という感じで、説明的でもあったような気がする。後味がいい一冊とは言いがたい。