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グランドシャトー*高殿円

  • 2021/10/24(日) 18:44:18


昭和38年、大阪京橋のキャバレー「グランドシャトー」に流れ着いた家出少女ルーは、ナンバーワンの真珠の家に転がり込む。下町の長屋に住み、ささやかな日常を大切にして暮らす真珠を家族のように慕いながらも、彼女に秘密の多いことが気になるルー。そんな中、人を楽しませる才によって店の人気者となったルーのアイデアが苦境のグランドシャトーに人を呼ぶが―。導かれるように出会ったルーと真珠。昭和から平成へ、30年の物語。


モデルになった店があるようだが、そんなことを知らずに読んでも充分惹きつけられる物語である。個人的には、読後に知って切なさが増した。キャバレーという偽りのまばゆさの中で、懸命に自分をしゃんとさせて生き抜いてきた女たちの気概を感じる。寂しい者たちが集まってくる誘蛾灯のような場所とも言えるキャバレーという舞台があればこそ、日々を暮らせる女たちがいて、また過酷な明日に向かっていける男たちがいる。ひとりひとりが何かしらの事情を抱え、さまざまな思いを秘めて、きらびやかに着飾り、にぎやかに過ごすひとときは、空しく儚いが、凝縮した人生でもある。そんな中で、終始一貫自らの姿勢を貫いているように見える真珠のすっと伸びた背筋が、尊く見えると同時に哀しくもある。矜持という言葉を思い起こさせる人である。時代は移ろい、昭和のキャバレーは成り立たなくなっても、受け継がれていく魂は確かにあるのだろう。涙にぬれて目覚めるが、内容を覚えていない夢のような切ないやるせなさと、確かな充実感で満たされる一冊である。

もどかしいほど静かなオルゴール店*瀧羽麻子

  • 2021/09/18(土) 06:58:14


「耳利きの職人が、お客様にぴったりの音楽をおすすめします」
ここは、お客様の心に流れる曲を、世界でたったひとつのオルゴールに仕立ててくれる、不思議なお店。
"小さな箱"に入っているのは、大好きな曲と、大切な記憶……。

北の小さな町にあった『ありえないほどうるさいオルゴール店』が、最果ての南の島で、リニューアルオープンしました!
今回も、7つの物語が奏でる美しいメロディーに載せて、やさしい涙をお届けします。


大きなガジュマルの木の根方にあるので「ガジュマルの店」と呼ばれる店で開業したのは、オルゴール店だった。普通の既製品のオルゴールももちろん売っているが、その人の心のなかに流れる曲を、店主が聴き取ってオルゴールを作ることもできるという。そんな店を訪れる人々が抱えるさまざまな屈託を、オルゴールの音色が穏やかに解きほぐしていく。スポットライトは店主に当てられるわけではなく、店を訪れる人々を照らし、爪先を向ける方向を示唆してくれる。結果が読者にゆだねられることも多いが、そこがまた心地好いところでもある。まだまだ続きがありそうでわくわくするシリーズである。

上流階級 冨久丸百貨店外商部 其の三*高殿円

  • 2021/07/21(水) 07:28:58


ドラマ化大ヒット作、待望の書き下ろし続編

神戸の老舗、富久丸百貨店芦屋川店で敏腕外商員として働く鮫島静緒。日本一の高級住宅地のセレブ相手に、きょうも奔走する。
美容整形に興味があり静緒に試させる女性投資家、息子の中学受験に静緒を巻き込む元CAセレブ主婦。「強い」宝石を集めるイラストレーターの訴訟事件……。そして、プライベートも落ち着かない日々の静緒にヘッドハンティングの話が。同居するゲイの同僚・桝家修平の反応は?

ドラマ化もされた話題作の続編を、「トッカン」「シャーリーホームズ」シリーズ、『政略結婚』など大ヒット作連発の著者が書き下ろしたハイクラスエンタメ!

解説は、読書家で書評エッセイの連載や、新聞の書評委員もつとめる、女優の南沢奈央!


相変わらず日々大忙しの静緒である。(どうしても頭のなかは竹内結子さんに変換されるので、複雑な思いにはなるが)物語のなかでは、一日24時間では足りなそうなほどパワフルである。外商部のお得意様に、ここまで深く寄り添う必要があるのか、とも思うが、だからこそ、新しい企画も生まれてくるのだろう。プライベートでも揺れ動く年代であり、親のこと、自身の行く末、立場、などなど、惑うことばかりなのが悩ましい。そして、それを隠さないのも静緒に人間味を感じ、親しみを感じる所以だろう。桝家との関係も、名前がないだけで、極めて良好で、出会ったころとは全く違って、ベストな状態に見える。これからどんな風に走り続けるのか、まだまだ見守りたいシリーズである。

女神のサラダ*瀧羽麻子

  • 2021/03/19(金) 12:41:00


土の匂い、太陽の光、作物が繋ぐ人との絆。いいじゃない、農業。全国各地のさまざまな年代の農業に関わる女性を描いた八つの短編集。


お仕事ものがたり農業女子編。そして、それだけではない愛と慈しみにあふれた物語である。勘違いや思いこみ、偏見や無知。そんなあれこれに縛られて不自由だった自分が、人とコミュニケーションをとり、関わっていくことで、相手の思いと自分の思いを互いにやり取りできるようになっていく。ちょっとした誤解は、ほんとうにあちこちに転がっていて、放っておくかおかないかで、人生そのものの見え方までが変わってしまうこともある。殻を破れば道は開けるかもしれないと、勇気づけられる一冊でもある。

政略結婚*高殿円

  • 2020/12/03(木) 18:35:24


加賀藩主前田斉広の三女・勇は、加賀大聖寺藩主前田利之の次男・利極と結婚。やがて家を支える存在になる勇だが―(「てんさいの君」)。
加賀藩の分家・小松藩の子孫である万里子。日本で初めてサンフランシスコ万博の華族出身コンパニオン・ガールになった女性は、文明開化後をどう生きるのか―(「プリンセス・クタニ」)。
瀟洒豪壮な洋館に生まれ育った花音子の生活は、昭和恐慌によって激変。新宿のレビュー劇場に立つことになった花音子は一躍スターダムにのし上がるが―(「華族女優」)。
不思議な縁でつながる、三つの時代を生き抜いた女性たち。聡明さとしなやかさを兼ね備え、自然体で激動の時代を生き抜く彼女らをドラマチックに描き出した、壮大な大河ロマン!


江戸時代の加賀藩の姫君から始まり、明治大正、昭和と続く、系譜が、大きな流れとして大元にあり、そこにまつわる女性たちの生きざまが描かれている。時代ごとに常識や価値観も変化し、しあわせの形や、女たちの在りようも変わってくるが、彼女たちの芯にある強さは、時代が流れても変わらないという印象である。降りかかる運命に、打ちひしがれることなく、一歩でも前へ、と進んでいく姿は、置かれた状況が違っても、共通している。ストーリーは、タイトルから想像するのとはいささか異なってはいたが、どの時代の主人公も思わず応援したくなる物語である。それにしても、なんとも波乱万丈な一生を送られた女性たちだこと、と思わされる一冊ではある。

あなたのご希望の条件は*瀧羽麻子

  • 2020/11/16(月) 13:09:26


人生の選択肢はひとつじゃない。それぞれが選ぶ道とは―?千葉香澄は、転職エージェントに勤める四十歳のキャリアアドバイザー。「転職した先輩からすすめられて」「営業以外ならなんでも」「勤め先が倒産して」「あこがれの会社に再挑戦したい」…さまざまなきっかけで転職を考えている人々に相応しい求人を、ちょっぴり頭の固いAI「ソフィア」を活用しながら紹介するのが仕事だ。ときには悩みを打ち明けられたり、あらためて再考を促したりもする。十人十色の仕事観や人生模様にふれるうち、自分自身の仕事や人生も見つめ直すことに―。


転職エージェンシーにスポットを当てたお仕事小説。転職の相談に来る人たちの、それぞれの事情や転職を決めるまでのいきさつが興味深いのはもちろん、相談を受ける側の担当者・千葉香澄の抱える事情も興味深い。ただ、個人的には、別れた元夫のことが、禁忌になりすぎている印象は多少あって、本人も周りも、もう少しさっぱりした気分になってもいいのではないかという気はしなくもない。そこを於けば、香澄の自身の仕事に対するモチベーションや、転職希望者とかかわる中での葛藤など、魅力はたくさんあって、愉しい時間を過ごせる一冊だった。

我らが少女A*高村薫

  • 2020/03/24(火) 16:41:14


一人の少女がいた――
合田、痛恨の未解決事件

12年前、クリスマスの早朝。
東京郊外の野川公園で写生中の元中学美術教師が殺害された。
犯人はいまだ逮捕されず、当時の捜査責任者合田の胸に、後悔と未練がくすぶり続ける。
「俺は一体どこで、何を見落としたのか」
そこへ、思いも寄らない新証言が――
動き出す時間が世界の姿を変えていく人々の記憶の片々が織りなす物語の結晶


著者の作品はあまり読んだことがなく、合田シリーズも初読みである。だが、初めてにして、あっという間に惹きこまれてしまった。12年前の水彩画教師殺人事件の周りにいた人々の、そのころの在りようと、12年経って、年齢も立場もそれぞれ変わった現在になったからこそ、新たに思い出される当時のあれこれ。捜査中には目も止めなかった人々の動きの中にある真実。などなど何もかもが、本作の魅力のひとつでもある武蔵野の自然の描写の細やかさとともに、凍える冬の朝の川霧の向こうに隠され、もどかしい思いに駆られるしかないのである。どうやら事件の核心にいるようであり、さまざまな意味でだれからも注目されていたにもかかわらず、それから12年後に同棲相手に殺され、話すこともかなわなくなり、いつからか少女Aと呼ばれるようになった上田朱美の胸の裡こそが、最後までいちばんよくわからなくてもどかしい。起こったことそのものよりも、そこに行きつくまでの感情の動きに、どうしようもなく興味をそそられる一冊だった。

虹にすわる*瀧羽麻子

  • 2019/12/14(土) 16:32:15


――職人気質の先輩と、芸術家肌の後輩。
性格も能力も正反対のアラサー男子が、“10年前の夢"を叶えることにした。――

椅子作りの才能があるのに、実家のじいちゃんと修理屋をしている徳井。
椅子への情熱を持て余し、大手工房を飛び出して、徳井のもとへやってきた魚住。
違うタイプのふたりが、学生時代の約束にしたがって、小さな工房を始める。
不器用なふたりは、友情でも恋でも仕事でもギクシャク……。
それでも、お互いの能力を誰よりも認め、お互いの存在を誰よりも求めていた。
正反対のふたりだから、かなえられるものがある! 夢を失いかけたふたりが、つまづきながらも、同じ未来に向かって歩き始める。


ここに辿り着くまでのいきさつに決着はついていないような、未消化な部分がないとは言えないが、この先に続く物語ではある。世間一般の常識に当てはまらない生き方をしてきた二人が、それぞれの夢をかなえようと、いままさに動き出したという感じである。これまでのことや、これからの人間関係も含めて、続編があるのかもしれないと思わせる一冊でもある。ぜひ続きを読んでみたい。

上流階級 冨久丸百貨店外商部Ⅱ*高殿円

  • 2019/08/30(金) 19:15:55

上流階級 富久丸百貨店外商部II
高殿 円
光文社
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仕事ができて何が悪い! 人気作家が描く、闘う女の人生エンターテインメント!
ひょんなことから芦屋の高級マンションをシェアして暮らす、富久丸百貨店外商員の鮫島静緒と桝家修平。バツイチ独女で仕事に燃える静緒とゲイでセレブな修平は、月のノルマ2000万円!?に奮闘しながら、今日もお客様に究極のサービスを売る!


今回もまたまた面白かった。百貨店の外商部という普段覗くことのない仕事の裏側を多少なりとも知ることができ、外商部員たちが関わる上流階級の暮らしぶりも、ちょっぴり垣間見られて、興味津々である。ただ、どんな階層、どんな職業にあっても、それなりの苦労はつきものなのだということもよく判る。だれもが、自分の置かれた場所で、精いっぱい頑張っているのだ。ある者は劣等感を、またある者は社会的に弱い立場を、そしてまた別のある者は恩義を、活力の源として。静緒と桝家の同居生活がこの先どうなっていくのか、葉鳥さんの影響力がどこまで及ぶのかも興味深いし、静緒が企画した特別催事の成否と、冨久丸百貨店の変化にも注目したい。次も愉しみにしたいシリーズである。

その日、朱音は空を飛んだ*武田綾乃

  • 2019/08/28(水) 10:40:21

その日、朱音は空を飛んだ
武田 綾乃
幻冬舎 (2018-11-22)
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学校の屋上から飛び降りた川崎朱音。彼女の自殺の原因は―そもそも本当に自殺だったのか。ネットに流れる自殺現場の動画を撮ったのは誰?映っていたのは誰?いじめはあったのか、遺書はあったのか。クラスメイトに配られたアンケートから見え隠れする、高校生たちの静かな怒り妬み欲望…。少女の死が浮き彫りにした、箱庭の中で生きる子供たちの本当の顔。ヒエラルキー、マウンティング、役割分担、キャラ設定…。青春小説界の新鋭が描き切った「わたしたちの」物語。


タイトルの朱音は、プロローグですでに屋上から飛んでしまう。その後は、章ごとに視点を変えて、クラスメイトたちが語り手になる。各章の冒頭には、事件の後に行われたアンケートが配されている。読み進めるごとに、少しずつ謎が解消され、最後に朱音が飛んだ本当の理由が明らかにされる物語だろうと思いながら読んだのだが、それだけではなく、語り手各人の胸の裡に隠し持ったものの手強さを知らされることにもなる。誰が悪いのか、誰が悪くないのかを突き止めることはまったくの無駄で、アンケートなどほぼ何の役にも立たないことがよくわかる。ひとことで総括でき、万人が納得できる理由などどこにもないのだろう。高校という狭い世界のなかだからこそ余計に凝縮された、人間の怖さが沁み出してくるようでもある。ちょっと人間が信じられなくなるような一冊でもある。それでも彼女たちは、ごく普通の大人になるのだろうな、と思うと、なおさら怖い。

マタタビ町は猫びより*田丸雅智

  • 2019/08/10(土) 18:31:51

マタタビ町は猫びより
田丸 雅智
辰巳出版
売り上げランキング: 84,306

1話5分で楽しく読める! ショートショート"猫"の不思議な世界15編。
謎の猫の案内に導かれて、「短い短い物語」の魅力がいっぱいにつまった夢の世界で遊んで楽しめる一冊です。


ネコ・猫・ねこのショートショートである。ちょっぴり近未来っぽくもあり、猫もさまざまであるが、人のそばにいるのは、いつでもどこでも変わらないようである。次はどんな猫が出てくるか、愉しみに読める一冊である。

上流階級 冨久丸百貨店外商部*高殿円

  • 2019/08/06(火) 18:50:55


芦屋にある老舗百貨店で働くアラフォーの鮫島静緒は高校卒のたたき上げ契約社員。仕事が認められ、晴れて正社員になったとたん、男性しかいない外商部に配属される。実はカリスマ外商員・葉鳥の退職を控え、後任者を探すべく、全店舗から選りすぐりのメンバーが集められたのだ。一筋縄ではいかない同僚たちとともに、数十万、数百万、数千万円の商品を売る外商の世界に戸惑いつつも、静緒はお客様のところに今日も足を運ぶ――。


静緒は脳内ではすっかり竹内結子である。なので、本作の描写とはいささか違うのだが、すでにそこに違和感はない。異色の経歴を持つたたき上げ外商部員である静緒が、外商のプロになれるのか、というお仕事ものがたりであり、成長物語でもあるのだが、生い立ちや経歴、そして性癖など、それぞれに並々ならぬものを抱える人たちとのつきあい方指南としてもおもしろい。上流階級の暮らしや、だからこその大変さもほんの少し垣間見られる気がするのも、興味を掻き立ててくれる。続編も愉しみなシリーズである。

オバペディア*田丸雅智

  • 2019/07/01(月) 18:49:44

オバペディア
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田丸 雅智
潮出版社 (2019-05-07)
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田丸雅智史上初の試みが実現!
読者から募ったアイデアを田丸雅智が小説化。1話5分で読める奇想天外のショートショート集。
予測不可能な結末の物語、全18篇!


読者からアイディアを募ったというだけあって、さまざまなテイストで飽きさせない。ちょっぴりブラックなものや、ほろりとさせられるもの、さらには近い未来に実現してしまうかもしれないと思えるものまで、色とりどりで、一話ずつはあっという間に読めてしまうので、気軽に愉しめる一冊である。

おとぎカンパニー*田丸雅智

  • 2019/04/20(土) 16:27:09

おとぎカンパニー
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田丸雅智
光文社
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新人OLが会社で見つけた不思議な鏡。こっそり訪れ、「鏡よ鏡、同期で一番仕事ができるのは、だぁれ?」と話しかけると……。
誰もが読んだことのあるグリム童話を、現代ショートショートの名手が、独自の視点で大胆アレンジ!
「赤ずきん」、「ヘンゼルとグレーテル」、「小人と靴屋」、「ジャックと豆の木」など、著者初の全編書下ろし14編!
1話5分であなたをユーモア溢れる夢の世界に誘う、珠玉のショートショート集!


まさに大胆アレンジではあるが、元の物語の姿は失われておらず、程よくブラックで愉しめる。大人向けの童話、といった趣の一冊である。

戒名探偵卒塔婆くん*高殿円

  • 2019/02/06(水) 13:29:01

戒名探偵 卒塔婆くん
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高殿 円
KADOKAWA (2018-11-02)
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「僕に解読できない戒名はない」前代未聞の戒名ミステリー!

のほほんと生きる金満寺の次男・春馬は
金に汚く横暴な住職代行の兄に寺の無理難題をふっかけられがち。
今日も今日とて、古い墓石の身元を探している。
手がかりは石に刻まれたたった数文字の戒名だけ!?
しかし、春馬には同じ高校に通う『戒名探偵』――外場(そとば)薫という切り札があった。
なぜか仏教に異様に詳しい彼は、この日も墓石の写真を見ただけで
すらすらと身元を言い当てるのだ。

有力檀家のルーツ探しに、仏教界びっくりドッキリイメージアップ大作戦!
謎が謎を呼ぶ、巨大コンテンツメーカー創始者の生前戒名を巡る骨肉の遺産争い……

知れば知るほど面白い仏教の世界の謎を、外場=卒塔婆くんが解き明かす!


麻布の寺の次男坊・金満春馬と戒名や仏教に異様に詳しい同級生の外場くんとの(ほとんど一方的な)掛け合いが面白い。元ヤンの兄で、金満時の住職代行の兄・哲彦に、頻繁に突きつけられるミッションの解決も興味深いが、外場くんの謎めいた実態も興味深い。そして、戦争から戦後にかけての生き方と人生の仕舞い方という大命題も重くなり過ぎずに描かれていて、胸に沁みる。友情なんてものにはてんで無関心に見える外場くんも、意外に居心地よさそうでほほえましい。このコンビにはもっと活躍してほしいと思わされる一冊である。