fc2ブログ

始まりの木*夏川草介

  • 2022/06/15(水) 18:18:51


「少しばかり不思議な話を書きました。
木と森と、空と大地と、ヒトの心の物語です」
--夏川草介

第一話 寄り道【主な舞台 青森県弘前市、嶽温泉、岩木山】
第二話 七色【主な舞台 京都府京都市(岩倉、鞍馬)、叡山電車】
第三話 始まりの木【主な舞台 長野県松本市、伊那谷】
第四話 同行二人【主な舞台 高知県宿毛市】
第五話 灯火【主な舞台 東京都文京区】

藤崎千佳は、東京にある国立東々大学の学生である。所属は文学部で、専攻は民俗学。指導教官である古屋神寺郎は、足が悪いことをものともせず日本国中にフィールドワークへ出かける、偏屈で優秀な民俗学者だ。古屋は北から南へ練り歩くフィールドワークを通して、“現代日本人の失ったもの”を藤崎に問いかけてゆく。学問と旅をめぐる、不思議な冒険が、始まる。
“旅の準備をしたまえ”


民俗学にスポットが当てられている。就職に役立つわけでもなく、マイナーな学問であることは間違いないと思うが、人間が生きていくためには欠かせない学問でもあるのだと、本作を読んで思うようになった。偏屈な准教授・古屋と、優秀ではないと自覚している一年目の大学院生の藤崎のフィールドワークを追いながら、人間模様を描き出している。パワハラ・セクハラと言われかねない行動でもあるが、厭な感じでは全くなく、却って清々しささえ感じられる。物語中のそこここにちりばめられた明言は、人生訓と言ってもよく、折に触れて胸に沁みてくる。生きることの、生かされて在ることの意味をもう一度静かに考えたくなる一冊でもある。

新章 神様のカルテ*夏川草介

  • 2022/06/05(日) 16:02:56


信州にある「24時間365日対応」の本庄病院に勤務していた内科医の栗原一止は、より良い医師となるため信濃大学医学部に入局する。消化器内科医として勤務する傍ら、大学院生としての研究も進めなければならない日々も、早二年が過ぎた。矛盾だらけの大学病院という組織にもそれなりに順応しているつもりであったが、29歳の膵癌患者の治療方法をめぐり、局内の実権を掌握している准教授と激しく衝突してしまう。
舞台は、地域医療支援病院から大学病院へ。


ドラマを観てからしばらく経っているが、読み進めるごとにその情景がまざまざと浮かんでくる。ドラマも原作にとても忠実に作られていたことがわかる。大学病院では、個人病院とは全く質の異なるジレンマが多々あるが、それでも栗原一止は栗原一止で安心する。本人にとっては至極生きにくいことであろうとは察するが。病院での心も身も削る奮闘と、家族と過ごす穏やかな時間の対比が相変わらず素晴らしい。この家族でいる限り、どこへ行ってもやって行けるだろうと確信させられる。読みながら何度も涙があふれて文字が見えなくなる一冊だった。

勿忘草の咲く町で ~安曇野診療記~*夏川草介

  • 2022/05/09(月) 18:31:33


たとえ命を延ばせなくても、人間にはまだ、できることがある。

看護師の月岡美琴は松本市郊外にある梓川病院に勤めて3年目になる。この小規模病院は、高齢の患者が多い。 特に内科病棟は、半ば高齢者の介護施設のような状態だった。その内科へ、外科での研修期間を終えた研修医・桂正太郎がやってきた。くたびれた風貌、実家が花屋で花に詳しい──どこかつかみどころがないその研修医は、しかし患者に対して真摯に向き合い、まだ不慣れながらも懸命に診療をこなしていた。ある日、美琴は桂と共に、膵癌を患っていた長坂さんを看取る。妻子を遺して亡くなった長坂さんを思い「神様というのは、ひどいものです」と静かに気持ちを吐露する桂。一方で、誤嚥性肺炎で入院している88歳の新村さんの生きる姿に希望も見出す。患者の数だけある生と死の在り方に悩みながらも、まっすぐに歩みを進める2人。きれいごとでは済まされない、高齢者医療の現実を描き出した、感動の医療小説!


東京の花屋の息子・桂正太郎が、信濃大学進学を機にやってきた安曇野に魅せられ、小規模病院で研修医として勤める日々の物語である。三年目の看護師・月岡美琴と知り合い、忙しく気が抜けない日々のなかにも喜びやしあわせを感じる時間はあるが、高齢患者たちの病状や治療や看取りの方針、家族との関わり方など、学ぶべき、悩むべき事柄が多すぎる。それらひとつひとつに、生真面目に真摯に向き合う桂の姿に、思わず応援したい気持ちが湧いてくる。きっといい医者になるだろうと思われるが、本人にとっては気の休まるときがないだろうとも案ぜられる。美琴とふたりで、悩みながら乗り越えて行ってほしいものである。指導医の「小さな巨人」こと三崎先生も人間として格好いい。この先も見守りたくなる一冊である。

カード師*中村文則

  • 2021/09/27(月) 16:40:21


占いを信じていない占い師であり、違法カジノのディーラーでもある僕に舞い込んだ、ある組織からの指令。それは冷酷な資産家の顧問占い師となることだった──。国内外から新作を待望される著者が描き切った、理不尽を超えるための強き光。新たな代表作、誕生!


カードゲームには全くと言っていいほど疎いので、その部分では愉しめなかった印象であり、カードの配分や駆け引きの妙を愉しむにはいささか力不足だった気がするが、この世の理不尽はたっぷり味わえた。めくられたカード一枚で、その後の人生がひっくり返ったり、微妙に進路がずれ、途方もないことに巻き込まれ、大幅に人生が変わったり。信じるか信じないか、選ぶか選ばないか。人生は一瞬一瞬の選択の積み重ねでできており、一旦選んだら取り返しがつかず、意図せずに選ばされたとしても抗えないという理不尽さも受け容れて生きていかなければならない。絶望しかないとしか思えない前途に、僅かな希望を見出せるかどうかが、生き続けられるかどうかの分かれ目なのかもしれない。胸の中をひっかきまわされるような一冊だった。

臨床の砦*夏川草介

  • 2021/08/06(金) 16:40:06


緊急出版!「神様のカルテ」著者、最新作

「この戦、負けますね」
敷島寛治は、コロナ診療の最前線に立つ信濃山病院の内科医である。一年近くコロナ診療を続けてきたが、令和二年年末から目に見えて感染者が増え始め、酸素化の悪い患者が数多く出てきている。医療従事者たちは、この一年、誰もまともに休みを取れていない。世間では「医療崩壊」寸前と言われているが、現場の印象は「医療壊滅」だ。ベッド数の満床が続き、一般患者の診療にも支障を来すなか、病院は、異様な雰囲気に包まれていた。
「対応が困難だから、患者を断りますか? 病棟が満床だから拒絶すべきですか? 残念ながら、現時点では当院以外に、コロナ患者を受け入れる準備が整っている病院はありません。筑摩野中央を除けば、この一帯にあるすべての病院が、コロナ患者と聞いただけで当院に送り込んでいるのが現実です。ここは、いくらでも代わりの病院がある大都市とは違うのです。当院が拒否すれば、患者に行き場はありません。それでも我々は拒否すべきだと思うのですか?」――本文より


令和三年の年明けからひと月あまりのコロナ対応最前線を描いたドキュメント小説である。涙なくして読めない。医療現場の苛烈さは、想像以上のすさまじさで、医療従事者の方々の、死をも覚悟した奮闘ぶりに、いくら言葉を尽くしても足りないほどの感謝の気持ちをささげたい。それとは裏腹に、行政の切迫感のなさには、地団太を踏みたくなるほどのいら立ちともどかしさを覚える。現場の状況をあまりにも解っていなさすぎて、哀しくすらなる。本作は、一旦小康状態になった所で終わっているが、現在の状況を見れば、医療現場のさらなる過酷さは推して知るべしであり、わが身の危険ももちろんだが、現場の医療者のみなさんの安全を祈らずにはいられない。いま読むべき一冊だと思う。

幕間のモノローグ*長岡弘樹

  • 2021/06/23(水) 13:33:24


名演技に潜む「罪」と「罰」――

ドラマや映画の撮影中、舞台の演技中に起こるさまざまな事件やトラブルを鮮やかに解決するベテラン俳優の南雲。――そこにはある秘密が隠されていた。
『教場』の著者が、芸能界に生きるものたちの‟業“を描いた連作短編ミステリー。
「辞めたい」という俳優に、自信を取り戻させた不思議な練習方法。
「斬られ役」の俳優が、なぜかカメラに背を向けて倒れた理由とは。
俳優のマネージャーが「わざと」自動車事故に遭ったのはなぜか。
脚本家に「下手だ」と思われていた俳優を、なぜ南雲は主役に抜擢したのか。

南雲の狙いは何だったのか。彼にはなぜ真実が見えたのか――。


胸の裡に昏いものがある人間にとっては、南雲の存在は脅威かもしれない。だが、表立って何かをすることはなく、さりげなく本人の心に直接訴えかける行動が、さらに身に堪えるだろうと想像できる。ただ、それによって最悪の選択を免れることも多く、救いの神のようでもある。とは言え、南雲自身も爆弾を抱えるような日々であり、それを思うとなんとも言えない気持ちになる。映像化されたら見てみたいと思わされる一冊だった。

小説 「安楽死特区」*長尾和弘

  • 2020/06/06(土) 16:48:05


~日々、死と向き合っている医師だから書けた、現代人のエゴイズム、そして愛と情~

まだここだけの話、ということで“安楽死特区”構想についてざっくり説明しますね。国家は、安楽死法案を通そうと目論んでますよ。なぜなら、社会保障費で国が潰れそうだからです。しかし国民皆保険はどうしても維持したい。それならば、長生きしたくない人に早く死んでもらったほうがいい、そう考えています。ベストセラー医師による、初の本格医療小説。


日進月歩する医療の進歩と超高齢化社会という、ありがたいのかそうでないのか判断に迷う現実に切り込んでいて興味深い。ひと昔前は、当たり前のように施されてきた延命治療であるが、それを選ばない自由は保障されつつある現代ではある。だが本作には、2025年という、間近に迫った未来に起こり得る現実が描かれていて、目前に迫っているだけに切迫感がある。開業医の鳥居が言うように、枯れるようにして逝けるのがいちばんだろうが、なかなかそうはいかない現実で、安楽死という選択がどう扱われるのか、わが身のこととなった時にどうするのか、さまざま考えさせられる。医療現場のことはともかく、政府の目論見があまりにも身勝手で、呆れかえる。改めて、ぴんぴんころりで逝きたいと思わされた一冊である。

リレキショ*中村航

  • 2020/05/12(火) 07:48:13


大切なのは意志と勇気。それだけでね、大抵のことは上手くいくのよ―“姉さん”に拾われて“半沢良”になった僕。ある日届いた一通の招待状をきっかけに、いつもと少しだけ違う世界が、ひっそりと動き始める。深夜のガソリンスタンドが世界を照らし出す、都会の青春ファンタジー。第三九回文藝賞受賞作。


半沢良は誰なのか。読み進んでいけば謎が解けるのかと思ったが、そういうわけでもなく、物語は、半沢良を日々創り上げる過程が淡々と描かれている。そしてその結果が「リレキショ」に書き加えられ、さらに半沢良になっていく。名前や生年月日、生い立ちやさまざまなことは、生きていく上での必須条件ではなく、いまをどう生き、周りとどう関係性を築いていくかが大切なのだと思わされる。半沢良が本当は誰なのか、とてもとても知りたくなるが、それはたぶん知らぬが花でもあるのだろう。遠くて近く、とても寂しくてあたたかい。胸の奥がきゅんとする一冊だった。

第一級殺人弁護*中嶋博行

  • 2020/05/09(土) 18:20:42


自白した被疑者がなぜ無罪に!?救済されるべき被害者に法はいったい何ができるのだろうか。金融犯罪、中国系マフィア、そして快楽殺人。イリーガルに挑む刑事当番弁護士・京森英二が直面した事件は、日本の社会病理と深く係わっていた。現役弁護士ならではの精密な筆致で描く傑作リーガル・サスペンス。


なんだかやる気のなさそうな、おざなりな感じの冴えない弁護士・京森英二が主人公。当番弁護を何とか免れようとするが、いつも捕まってしまい、無難に切り上げようとするも、ちょっとした違和感や、些細な引っ掛かりを放っておけず、首を突っ込むうちに、事件の真相を暴き出してしまう。結果的に見ると見事なのだが、優秀という印象にはどうにも程遠い。なぜかと言えば、物語の最後に、何かしら間抜けな結果が待ち構えていたりするのである。だがそれが、人間臭くて魅力にもなっているのかもしれない。憎めない京森なのである。次第に京森に期待しはじめてしまう一冊である。

新章 神様のカルテ*夏川草介

  • 2019/04/26(金) 21:12:48

新章 神様のカルテ
新章 神様のカルテ
posted with amazlet at 19.04.26
夏川 草介
小学館
売り上げランキング: 3,365

信州にある「24時間365日対応」の本庄病院に勤務していた内科医の栗原一止は、より良い医師となるため信濃大学医学部に入局する。消化器内科医として勤務する傍ら、大学院生としての研究も進めなければならない日々も、早二年が過ぎた。矛盾だらけの大学病院という組織にもそれなりに順応しているつもりであったが、29歳の膵癌患者の治療方法をめぐり、局内の実権を掌握している准教授と激しく衝突してしまう。
舞台は、地域医療支援病院から大学病院へ。
シリーズ320万部のベストセラー4年ぶりの最新作にして、10周年を飾る最高傑作! 内科医・栗原一止を待ち受ける新たな試練!


引きの栗原、どこにいても過酷な日々である。大学病院でもそれは変わらず、毎日走り回っている。だが、なんとかなってしまうのだろうな、と思わされるのは、たぶんその語り口やキャラによるものなのだろう。さらには、背後で静かに支える妻の榛名と娘の小春の存在によるところも大きい。そして、登場人物の誰もが至極個性的でありながら、みんなが真摯で真剣で格好いいことが、このシリーズの最大の魅力なのである。じわりじわりと身体中に、清新なものが沁み渡る心地がする。いつまでもこの物語の世界に浸っていたいと思わされるシリーズである。

一週間のしごと*永嶋恵美

  • 2019/02/16(土) 12:33:33

一週間のしごと (創元推理文庫)
永嶋 恵美
東京創元社
売り上げランキング: 693,420

優等生だがほかに取り立てて特徴のない男子高校生・開沢恭平は、日曜日に幼なじみの青柳菜加に呼びつけられ、一方的に相談された。渋谷の雑踏で母親から見捨てられた子どもを保護し、家まで送り届けたが、荒れ果てた無人の室内に危機を覚え、自宅に連れてきたという。昔から行動力だけが突出している菜加は、事の重大さをまったく認識していなかった。「誘拐罪。お前がやったことはれっきとした犯罪だ」――大人たちを頼らず事態の収拾を図るため、恭平たちの波瀾の一週間が幕を開ける!


OLさんのお仕事ものがたりかと思いきや、主人公は高校生たち。しかもかなりショッキングなストーリーである。高校生が主人公だということをつい忘れてしまいそうになる瞬間が何度もある。前半は、不穏な描写もあって興味を惹かれながらも、高校生の日常的な趣が強いのだが、次第に真相に近づくにしたがって、読み始めるときには想像もしなかった展開になり、なかなか納得できなくて、胸が苦しくなる。真犯人にとっては全編救いがなくて、重たいものを呑み込んだような気分だが、それ以外の登場人物にとっては、あしたに光が見えるのが救いである。養護教諭の存在が素晴らしい。さまざま考えさせられる一冊である。

院内カフェ*中島たい子

  • 2018/10/13(土) 18:21:01

院内カフェ (朝日文庫)
中島たい子
朝日新聞出版
売り上げランキング: 57,998

「ここのコーヒーはカラダにいい」と繰り返す男や、態度の大きい白衣の男が常連客。その店で働く亮子は売れない作家でもある。夫との子どもは望むけれど、治療する気にはなれない。病院内カフェを舞台にふた組の中年夫婦のこころと身体と病を描く長編小説。


病院のなかにあって、病院ではない。院内カフェは独特の存在である。入院患者も外来患者も、その家族も見舞客も、誰でも分け隔てなく迎え入れ、ここではみな等しく客という存在になる。そんな、中立国のようなこの場所にも、毎日、さまざまな人生模様が描かれ続ける。主婦であり、作家であり、カフェのバイト店員でもある亮子の目が捉える人間模様を、彼女自身の家庭の事情も織り込みながら、紡ぎだしているのが本作である。自分というものの在りようや、夫婦や親子のかかわりあい方のことを、いままでにない角度から考えさせられる一冊でもある。

道具箱はささやく*長岡弘樹

  • 2018/08/05(日) 20:03:30

道具箱はささやく
道具箱はささやく
posted with amazlet at 18.08.05
長岡 弘樹
祥伝社
売り上げランキング: 228,761

資産家の娘・早百合に意中の相手がいるのか。調査を依頼された探偵の木暮と菜々は、最後の候補者と早百合がスクランブル交差点ですれ違うよう仕向ける。だが、その寸前に、なぜか木暮は早百合に電話を入れた…(「意中の交差点」)。借金苦から、休暇を利用して質屋に押し入った刑事の角垣。逃走中に電柱に衝突するも目撃者はなく、無事逃げおおせた。だが、なぜか上司の南谷は、角垣が犯人だと見抜くのだった…(「ある冬のジョーク」)。とっておきのアイデアを注ぎ込み、ストイックに紡がれた贅沢な作品集。


ひとつひとつの物語はほんの短いものなのだが、その中に、必ず一度は、「ほほぅ」と思わされる要素が埋め込まれている。それはときに、はっとするようなことだったり、なるほどと合点するようなことだったり、ちょっぴり笑ってしまうようなことだったりとさまざまなのだが、それらのスパイスによって、物語が格段に魅力的になっているのは間違いない。ちょっぴり洒脱な印象もある一冊である。

すずらん通り ベルサイユ書房 リターンズ!*七尾与史

  • 2018/07/06(金) 10:56:25

すずらん通り ベルサイユ書房 リターンズ! (光文社文庫)
七尾 与史
光文社 (2018-05-09)
売り上げランキング: 115,035

日本一の本の街・神田神保町にあるベルサイユ書房。テレビで有名なイケメン写真家・ジョージ久保田のサイン会が脅迫された。彼の新作写真集の中に、脅迫犯に都合の悪い何かが写っているらしい。剣崎店長の指令で、作家志望の書店員・研介らは写真の謎を追うことに。卑劣な脅迫犯を捕まえ、写真集を刊行中止から救えるか?タダモノじゃない七尾ワールドが大展開!


今回もベルサイユ書房は物騒な厄介事のオンパレードである。ここで働く面々が、嫌気がささずに働き続けているのが不思議なくらい、次々に起こる物騒な事々。もはや、誰かが引き寄せているとしか思えなくなってくる。キャラクタも、一作目より安定し、素直にそれぞれの人物を受け入れられるようになった気がする。そして、一作目の「ノブエ」事件もまだ引きずっているのが、得したようでもあり、おぞましすぎるようでもある。今回は、美月のポップに焦点が当たらなかったが、次回はまたそこから始まる事件も見てみたい。次も早く読みたいシリーズである。

すずらん通りベルサイユ書房*七尾与史

  • 2018/06/30(土) 12:24:43

すずらん通り ベルサイユ書房 (光文社文庫)
七尾 与史
光文社 (2015-04-09)
売り上げランキング: 262,664

ミステリ作家を目指す日比谷研介は神保町すずらん通りの「ベルサイユ書房」でアルバイトを始めた。そこは男装の麗人・剣崎瑠璃子店長、“カリスマポップ職人”の美月美玲など、濃いキャラの書店員ばかりが働いていた。しかも穏やかなバイト生活と思っていた研介の前で、次々と不可思議な事件が発生し…。気鋭のミステリ作家が贈る破天荒にして新たなる書店ミステリー!


ベルサイユ書房シリーズの一作目。キャラの濃すぎる店長のいるベルサイユ書房が舞台である。ベルサイユ書房は、店長のキャラだけではなく、美月美玲というポップ書きの天才がいて、そのポップを見ると、思わず手に取ってしまうと評判である。そして、本のセレクトにも独自性があり、書店の間でも注目されている店なのである。アルバイトしていた古書店が閉店したために、ここでアルバイトすることになった日比谷研介の目線で物語は進む。事件を呼ぶのか、事件に呼ばれるのか、ベルサイユ書房の周りではちょこちょこ事件が起きている。しかも、結構深刻な事件である。美月の目の付け所の鋭さは興味深いし、周りを固める登場人物たちも気になるところである。シリーズのこれからさらにキャラが定着していくと、ますます面白くなりそうな一冊である。