東京二十三区女*長江俊和

  • 2017/05/03(水) 12:44:47

東京二十三区女
東京二十三区女
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長江 俊和
幻冬舎 (2016-09-09)
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フリーライターの原田璃々子は、民俗学の講師だった先輩・島野仁と東京二十三区を巡り取材をしている。板橋区を訪れた二人は、自殺の名所、高島平団地に向かった。だがーー「私が探している場所は、ここではありません」。彼女は“何を"探しているのか。板橋の縁切神社、渋谷の暗渠、港区の外苑西通りを走るタクシー、江東区の埋め立て地「夢の島」、品川区の大森貝塚。誰もが知っている"あの場所"の誰も知らない過去を知るとき、璃々子は、「本当の秘密」を知ることになる。


読む前に想像していた内容とは違うテイストの物語だったが、面白かった。東京二十三区のあちこちを霊感の強いフリーライター・原田璃々子が何かを探して訪れ、先輩・島野仁が行動をともにして、その場所の薀蓄を滔々と語るというのがストーリーの主な流れである。その合間に、その場所にまつわるホラーテイストの出来事が差し挟まれ、璃々子が探すものとどう関連してくるのかに興味を惹かれる。時間も過去と現在を行きつ戻りつしていて、過去からその地に積み重ねられてきた歴史さえも感じられるようである。自分が暮らす場所の過去に想いを馳せてみたくなる。そして最後の品川区では、予想外の結末が待っていて驚かされるが腑にも落ちるのである。大都会東京にも歴史や人の思いが積み重なっているのだと改めて思わされる一冊でもある。

時が見下ろす町*長岡弘樹

  • 2017/03/25(土) 18:23:19

時が見下ろす町
時が見下ろす町
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長岡弘樹
祥伝社
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町のシンボル、大きな時計が目印の時世堂(じせいどう)百貨店の隣に立つ一軒の家。その家で、和江は抗癌剤治療に苦しむ四十年連れ添った夫を介護している。ある日、夫の勧めで、気分転換に写生教室に出かけることになり、孫娘のさつきに留守番を頼むことに。その日だけのつもりだったのだが、なぜかさつきはそのまま居座ってしまい……。和江の家が建つ前は時世堂の物置き、その前は製鞄工場、さらにその前は中古タイヤの倉庫……。様々に変わりゆく風景の中で、唯一変わらなかった百貨店。その前で、繰り広げられてきた時に哀しく、時に愛しい事件とは?


第一章 白い修道士  第二章 暗い融合  第三章 歪んだ走姿(フォーム)  第四章 苦い確率  第五章 撫子の予言  第六章 翳った指先  第七章 刃の行方  第八章 交点の香り

一見ミステリとは思えないストーリー展開なのだが、いつの間にかするりとミステリの世界に滑り込んでいる印象である。時世堂百貨店がある町で起こる出来事を集めた短編集なのだが、狭い町のあちこちでこんなことが起こっていることを想像すると、それだけでかなり怖い。それは、殺人事件などの大きなものばかりではなく、時に人の心の中に仕舞いこまれた思いまで抉り出すことにもなるのだが、逆にそれを食い止めようとする愛にあふれた行動につながることもある。怖くもあり、胸がじんわりあたたかくもなる一冊である。

白衣の嘘*長岡弘樹

  • 2017/03/17(金) 18:32:34

白衣の嘘
白衣の嘘
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長岡 弘樹
KADOKAWA (2016-09-29)
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悲哀にみちた人間ドラマ。温かな余韻が残るラスト。
『傍聞き』『教場』を超える、傑作ミステリ集!
バレーボール全日本の女子大生・彩夏と、彼女を溺愛する医者の姉・多佳子。彩夏の運転で実家に向かう途中、ふたりはトンネル崩落事故に遭ってしまう。運転席に閉じ込められた妹に対して姉がとった意外な行動とは……(「涙の成分比」)。
命を懸けた現場で交錯する人間の欲望を鮮やかに描く、珠玉の六編。

「いつか“命”をテーマに医療の世界をミステリとして書きたいと思っていました。自分にとって集大成と言える作品です」――長岡弘樹


「最後の良薬」 「涙の成分比」 「小医は病を医(なお)し」 「ステップ・バイ・ステップ」 「彼岸の坂道」 「小さな約束」

白衣の下に隠された医者の嘘、医者の罪、偽の医者。状況はそれぞれであり、心情もさまざまであり、嘘にもいろいろある。誰かを守ろうとする嘘もあれば、保身のための嘘もあり、他人を貶めようとする嘘もある。だが、どの物語の登場人物も、たとえ何かを偽っていたとしても、最後の人間らしさまではなくしていないのが救いでもある。白衣の現場でなくとも当てはまる人間ドラマの一冊でもある。

総理に告ぐ*永瀬隼介

  • 2016/11/11(金) 07:16:04

総理に告ぐ
総理に告ぐ
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永瀬 隼介
KADOKAWA/角川書店 (2016-04-30)
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ノンフィクションライターの小林は、1年前に脳梗塞で倒れて病気療養中の元与党幹事長・佐竹の回顧録のゴーストライターを引き受けた。生活に苦しむ小林は現状からの一発逆転を狙い、佐竹に過去のスキャンダルを告白させようと試みるが、国の行く末を憂う佐竹が語り出したのは、戦争のできる国家へと大きく舵を切る現総理大臣の大スキャンダルだった。しかし、佐竹の告白が終わった刹那、佐竹邸の監視についていた公安警察が現れて乱闘になり、脳梗塞を再発した佐竹は死亡、公安に立ちはだかった書生は射殺される。佐竹の告白と乱闘の一部始終が録音されたレコーダーを手に現場から命からがら逃げ出した小林は、旧知の警察官の助けを得て、マスコミを巻き込んだ大勝負に出るが――。


政界の裏側、腰砕けのマスコミ、フリーライターの矜持、警察の威信、公安の執拗さ。さまざまな要素が交錯し、現政権が覆り、日本の進路が修正されるかもしれないという期待を抱かせる展開である。猛進あり、駆け引きあり、裏取引ありと、命を張っての攻防が繰り広げられるが、主役のフリーライター小林のキャラに情けなさがあることで――それがリアルでもあるのだが――緊迫感にかける部分もあるような気がする。それでもこの結末である、終章のタイトル「光射す闇へ」というのが秀逸である。情報を鵜呑みにせずにアンテナを張り巡らせていないと恐ろしいことになると改めて感じさせられる一冊でもある。

表参道・リドルデンタルクリニック*七尾与史

  • 2016/09/26(月) 19:03:52

表参道・リドルデンタルクリニック
七尾 与史
実業之日本社
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表参道ヒルズのすぐ近くにある錦織デンタルオフィスは、
錦織早苗院長以下、スタッフは全員女性という歯科医院。
場所柄、芸能人やセレブ患者も多く、街の雰囲気とともに華やぎに満ちている。
院長以外のもう一人のドクター、月城この葉はもの静かな知的美人。
長い黒髪とFカップの胸、歯科医師としての腕に優れ、彼女目当てに通う男性患者も多いのだ。
だがこの葉は明晰な頭脳をもって、患者をはじめ、様々な人間関係に隠された真実をつかむ、名探偵としての顔も有しているのだ。
錦織デンタルオフィスの歯科衛生士・高橋彩女はそんなこの葉に憧れつつ、期せずして助手的な役割をつとめている。
たとえば、以下のように三つの独立した事件に――。


なんともゴージャスな歯科医院が舞台である。スタッフ全員が美形の女性で、プロ意識が強く、技術も一流なのである。なんだかんだと理由をつけて男性患者が予約を取りたがる気持ちはよくわかる。男性でなくともお世話になりたくなる歯科医院である。そんな歯科医院の個室で交わされる会話や、受付で得られる情報から、患者の抱える謎を解き明かしてしまう名探偵のような存在なのもまた、美人歯科医・この葉と歯科衛生士・彩女のコンビなのである。しかも、この葉は、自らの父の死に疑問を抱き、その謎を何とか解きたいという思いをずっと抱え続けているのだった。ゴージャスな気分と、見事な推理、そして歯科治療の裏側もちょっぴり覗けて、いろいろ愉しめる一冊である。

偶然屋*七尾与史

  • 2016/08/24(水) 20:50:18

偶然屋
偶然屋
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七尾 与史
小学館
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その「偶然」は仕組まれたものかもしれない

出会いと別れ、栄光と挫折、幸福と不幸、そして生と死・・・・・・。
運命だと思っていたことは、実はすべて仕組まれていたのかもしれない!?

弁護士試験に挫折して就職活動中の水氷里美は、ある日、電信柱に貼られた「オフィス油炭」という錦糸町にある会社の求人広告を見つける。藁にもすがる思いで連絡を入れると、面接場所に指定されたのは、なんとパチンコ屋!?
数々のミッションをなんとかクリアした里美に与えられたのは「アクシデントディレクター」という聞き慣れないお仕事だった――。
確率に異常にこだわる社長の油炭、かわいいけれど戦闘能力の超高い女子中学生・クロエとともに、里美はクライアントからの依頼を遂行していくが、あるとき「偶然屋」たちの前に、悪魔のような男の存在が浮かび上がる・・・・・・。

ブラックユーモアミステリーの名手、本領発揮!
『ドS刑事』シリーズなどで人気の著者の新たなる代表作!!


なかなかうまくいかない就活中、偶然見つけた電柱に貼られたアシスタントディレクターの求人広告に飛びついて、指定された場所に行ってみると、そこはパチンコ屋で……。始まりからしてほんとうに偶然?と思わされる出来事で幕を開ける。アシスタントディレクターというのは、里美の早とちりで、実際はアクシデントディレクター=偶然屋だったのだが、とりあえず見習いとして採用された里美は、なんとか与えられた仕事をクリアしていくのである。そうしているうちに、時間を前後してあちこちで起こっていた、まったく無関係と思われる事件にある共通項を見つけ、恐ろしい企てに巻き込まれていくのである。偶然なんてないのかも。ドミノ倒しのように、最初のピースが倒れたときには、既に決められたシナリオに向かって、ひとつの絵を描くだけなのかもしれないとさえ思ってしまう。コミカルなタッチで軽く読めるのだが、かなり深く怖い物語でもある。里美と油炭のこの先も気になるし、もっと続きを読みたい一冊である。

インターフォン*永嶋恵美

  • 2016/01/10(日) 06:53:15

インターフォン (幻冬舎文庫)
永嶋 恵美
幻冬舎 (2010-10-08)
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市営プールで見知らぬ女に声をかけられた。昔、同じ団地の役員だったという。気を許した隙、三歳の娘が誘拐された。茫然とする私に六年生の長男が「心当たりがある」と言う(表題作)。頻繁に訪れる老女の恐怖(「隣人」)、暇を持て余す主婦四人組の蠱惑(「団地妻」)等、団地のダークな人間関係を鮮やかに描いた十の傑作ミステリ。


壁を隔てれば、上下左右には別の世界がある。そこでは何が起こっているのか知るべくもない。そんな団地で日々起こっているブラックな出来事が集まっている。実際にこんなことはないだろう、と思わされることもあるが、もしかすると小説よりも奇な現実では、もっと恐ろしいことが起きているのかもしれないと、背筋が寒くなる。年齢も境遇も違う見知らぬ人々が隣り合って暮らす団地という場所の特殊な恐ろしさが凝縮されているような一冊である。

W――二つの夏*永嶋恵美

  • 2015/12/24(木) 17:14:42

W――二つの夏
W――二つの夏
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永嶋 恵美
講談社
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二つの物語が交わった時、驚愕の事実が! 一人暮らしのナナミ、元ヤンキーのクニコ。ある日、クニコがカフェでメールを送ったところ・・・。ドメスティック・サイエンスの旗手が放つ驚愕の書下ろし長編。


クニコとナナの定型文の往復のようなそっけないメールのやり取りを軸にした、クニコとナナの物語である。と、読み始めてすぐにそう思った。だが端々にちょっとした、あるいは大きな違和感を覚え、あちこちに引っかかりながらもつい流してしまいながら読み進んだ。それぞれの人生は、さまざまな困難や壁に満ちていて、家族の事情に振り回され、自らの蒔いた種に翻弄されながら過ぎていく。そして最後の最後の種明かしで、それまで流してきた数々の違和感がすべて腑に落ち、彼女たちのこれからを見守りたくなるのである。わだかまりをすべて溶かして、しあわせになってほしいと願わずにいられない一冊である。

掲載禁止*長江俊和

  • 2015/08/20(木) 09:34:40

掲載禁止
掲載禁止
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長江 俊和
新潮社
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とびきりの謎、五連発、最凶の「禁止フェスティバル」開宴! しかも、切れ味は本格派! 熱狂的なカルトを生んだ深夜番組「放送禁止」。読書界の度肝を抜いた『出版禁止』。「禁止」界日本代表、長江俊和が放つ待望の最新作、いよいよ刊行! 人間が「死ぬ瞬間」を目撃させるツアー、歪んだ愛が誘う天井裏の悪魔、完全犯罪の遂行者だけが知る真実――。期待を裏切らない恐怖と驚愕がみっしり詰まった作品集!


表題作のほか、「原罪SHOW」 「マンションサイコ」 「杜の囚人」 「斯して、完全犯罪は遂行された」

それぞれ常識では考えづらいことが目の前で繰り広げられていて、おぞましさを禁じ得ないのだが、ラストで視点が変わると、がらりと様相を変え、さらに深みにはまっていく印象である。どれをとっても後味が悪い一冊である。

あなたが消えた夜に*中村文則

  • 2015/08/08(土) 07:13:55

あなたが消えた夜に
あなたが消えた夜に
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中村文則
毎日新聞出版
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ある町で突如発生した連続通り魔殺人事件。所轄の刑事・中島と捜査一課の女刑事・小橋は“コートの男”を追う。しかし事件は、さらなる悲劇の序章に過ぎなかった。“コートの男”とは何者か。誰が、何のために人を殺すのか。翻弄される男女の運命。神にも愛にも見捨てられた人間を、人は救うことができるのか。人間存在を揺るがす驚愕のミステリー!


市高署の中年刑事・中島と警視庁捜査一課から来た若い女刑事・小橋のコンビが連続通り魔事件を追う警察小説なのだが、それだけでは語れない、一筋縄ではいかない捻じれた心模様や抑圧された欲望や、捌け口を求めてのたうち回る鬱屈が、(追う側にも追われる側にも)根底に流れているので、読んでいて息苦しくなるほどである。偶然と作為と意志によって、一連の(と扱われている)事件は複雑な様相を見せるが、その実、わかってみれば、歪んだ愛の裏返しとも言えるように思われる。捜査一課の女刑事・小橋さんのキャラが唯一救いになっているようでもある。読後はどんよりとした気分になるが、このコンビのその後はちょっと見てみたいと思わせる一冊でもある。

神様のカルテ0*夏川草介

  • 2015/05/03(日) 17:08:26


シリーズ300万部突破のベストセラー『神様のカルテ』にまつわる人々の前日譚であり、かつ珠玉の短編集です。栗原一止は、信州にある24時間365日営業の本庄病院で働く内科医です。本作では、医師国家試験直前の一止とその仲間たちの友情、本庄病院の内科部長・板垣(大狸)先生と敵対する事務長・金山弁二の不思議な交流、研修医となり本庄病院で働くことになった一止の医師としての葛藤と、山岳写真家である一止の妻・榛名の信念が描かれます。ますます深度を増す「神カル」ワールドをお楽しみください。


一止の医学生時代から物語は始まっている。国家試験直前から、24時間365日受け入れを掲げる本庄病院の研修医になってからしばらくの物語である。現在の一止と榛名の忙しいながらも穏やかな暮らしの基礎が、すでにこのときにはできあがっているように思われる。静な激しさを感じられて、印象的である。命というものととことん向き合う二人なのだと改めて思わされる一冊でもある。

出版禁止*長江俊和

  • 2015/04/15(水) 06:24:36

出版禁止出版禁止
(2014/08/22)
長江 俊和

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社会の暗部を暴き続ける、カリスマ・ドキュメンタリー作家の「心中事件」。相手は、有名女優の妻ではなく、不倫中の女だった。そして、女だけが生き残る。本当は、誰かに殺されたのではないか?「心中」の一部始終を記録したビデオが存在する。不穏な噂があったが、女は一切の取材に応じなかった。7年が経った。ひとりのルポライターが彼女のインタビューに成功し、記事を書き上げる。月刊誌での掲載予告。タイトルは「カミュの刺客」。しかし、そのルポは封印された―。いったい、なぜ?伝説のカルト番組「放送禁止」創造者が書いた小説。


テレビ番組のことも著者のことも知らなかったが、テレビ番組と似たようなスタンスで書かれた作品のようである。目に見えているものが真実とは限らず、事実を語る告白が真実であるとも限らない。同じ描写が、真実を知ると全く違う様相を呈するようにもなるのである。読者はどうしてもルポライターの視線で事件を見ることになるので、騙されないようにしなければならない。疑いつづけ、緊張感が続く一冊である。

悪意の手記*中村文則

  • 2015/03/23(月) 17:14:38

悪意の手記悪意の手記
(2005/08/30)
中村 文則

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「なぜ人間は人間を殺すとあんなにも動揺するのか、動揺しない人間と動揺する人間の違いはどこにあるのか、どうして殺人の感触はああもからみつくようにいつまでも残るのか」―死への恐怖、悪意と暴力、殺人の誘惑。ふとした迷いから人を殺した現代の青年の実感を、精緻な文体で伝え、究極のテーマに正面から立ち向かう、新・芥川賞作家の野心作。


15歳で、致死率80%という難病を患い、死と真正面から向き合った挙句、すべてを憎むことで何とか折り合いをつけてきた主人公が、はっきりした理由もわからないながら急速に回復し、普通の生活を送れることになったときの動揺が、リアルに描かれていて驚く。それは、死を宣告されたときとは全く別のもののようである。それからの彼の心の動きや生き様は、彼自身に制御できるものだったのだろうか、と読みながら暗澹たる気持ちになる。おそらく表面上はいささか暗く変わったヤツ、くらいの印象だったのではないかと思われる彼の中で、さまざまな思いと葛藤が渦巻いていたのだろう。このまま病気が再発しなかったとしたら、今後の彼の人生はどうなって行ったのか、恐ろしくもあり哀れでもある。どんよりと思い気分と無力感が胸に残る一冊である。

災厄*永嶋恵美

  • 2015/03/22(日) 16:55:12

災厄災厄
(2007/11/06)
永嶋 恵美

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妊婦ばかりが次々と狙われる連続殺人事件の容疑者は男子高校生だった。しかも夫がその弁護を…。妊娠5ヵ月めの妻・美紗緒の恐怖は、それから始まった。現代社会の病理を描く、衝撃の書き下ろしサスペンス。


妊婦ばかりを狙った連続殺人の犯人である高校生、その弁護を引き受けることになった弁護士、そして同じ妊婦であるその妻、マタニティスイミングの妊婦仲間たち、弁護士の夫の職場の人々、無責任に誹謗中傷するネットの住人。さまざまな立場から見ることができる物語である。そしてそのどの立場の人たちにも悪意と憎悪が潜んでおり、それらが重層的に膨らんで、加速度的にこじれていく様に身震いしそうになる。良かれと思ってすることがすべて裏目に出、さらなる誤解を生み、さらにこじれる。まだまだ事件は終わっていないので、見届けたい思いと、もうこれ以上見たくない思いとに揺れる一冊でもある。

視線*永嶋恵美

  • 2015/03/15(日) 06:51:23

視線視線
(2012/08/18)
永嶋 恵美

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劇団員の夏帆は、アルバイトをしながら日々の生計を立てている。一人暮らしの32歳。20代のころのように素直に夢を追うこともできず、かといって郷里には戻りたくない。アルバイトの住宅地図の調査に訪れた埼玉県のベッドタウンは、小学校の頃に一時期住んでいた街だった。夏帆は小学校の同級生と再会し、その夜、彼女の家に向かう途中で運悪く通り魔に遭遇してしまう…。「日常の些細な悪意」の連鎖が引き起こす長編サスペンス。


劇団員としても目が出ず、住宅地図調査員のアルバイトも充実しているとはいいがたい。32歳独身の夏帆がある日調査で訪れた、小学生のわずかな期間を過ごした街で、通り魔に遭う。そこから物語は展開し始めるのである。かつての級友たちは身勝手なおばさんになり、自分とは全く別の世界に生きている。彼女らの身近で起きた殺人を含む連続通り魔事件に否応なく巻き込まれることで、夏帆自身もいままで目を逸らしていた自分自身と対峙することになる。そして通り魔事件にどんどん深入りしていくのだった。住宅地図調査員として受ける視線、近隣の人間関係における視線、外部からのその地域への視線、世間全般からの視線。さまざまな視線が動機にもなり目くらましにもなっていて、恐ろしさがじわじわと足元から這い上がってくる心地がする。先が気になって手が止まらない一冊だった。