ロスト・ケア*葉真中顕

  • 2017/01/13(金) 09:25:55

ロスト・ケア
ロスト・ケア
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葉真中 顕(はまなか・ あき)
光文社
売り上げランキング: 310,854

社会の中でもがき苦しむ人々の絶望を抉り出す、魂を揺さぶるミステリー小説の傑作に、驚きと感嘆の声。人間の尊厳、真の善と悪を、今をいきるあなたに問う。第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。


X県八賀市が舞台。羽田洋子、斯波宗典、佐久間功一郎、大友秀樹、そして、裁判で死刑が確定した<彼>の立場で、交互に物語が進められる。八賀市で親の介護に苦悩する人たちと、介護施設職員の仕事の過酷さの現状が、かなり具体的に描かれていて、胸が潰れる心地であるが、他人事とは到底思えず、ページを閉じたくなるのに目が離せないという矛盾が起こる。介護の現状と社会制度の脆弱さのギャップを考えずにはいられないが、それが厳然としてある現状で、なにがいちばんの大作なのだろうかと考えると、答えが見つからない。<彼>の行為は罪なのだろうか、それとも救いなのだろうか。重く深く考えさせられる一冊である。

三人屋*原田ひ香

  • 2016/10/12(水) 16:47:50

三人屋
三人屋
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原田 ひ香
実業之日本社
売り上げランキング: 298,969

朝は三女の喫茶店、昼は次女の讃岐うどん屋、夜は長女のスナック―時間帯によって出すものが変わるその店は、街の人に「三人屋」と呼ばれていた。三女にひと目ぼれするサラリーマン、出戻りの幼なじみに恋する鶏肉店の店主、女にもてると自負するスーパーの店長など、ひとくせある常連客たちが、今日も飽かずにやって来る…。さくさくのトースト、すだちの香るぶっかけうどん、炊きたての白飯!心も胃袋もつかむ、おいしい人情エンターテインメント!


両親が亡くなった後、営んでいた喫茶店を、朝は三女の朝日がモーニングを出し、昼は次女のまひるがうどん屋をやり、夜は長女の夜月がスナックを営んでいることから、近所では「三人屋」と呼ばれている。姉妹は、両親の生前からのさまざまな確執によって仲が悪く、ことに長女と次女はほとんど口をきくことさえない。ただ、生前、小さなオーケストラのピッコロ奏者だったという父が、たった一度録音したレコードを探し、父のピッコロを聴くという夢だけを共有している。盛り込まれた要素はどれも興味深く、先を知りたくなるようなものなのだが、それぞれの掘り下げ方がいささか散漫になっている印象である。ラストは、姉妹間の感情の問題だからだろうか、あまりにもあっけなく、肩透かしされたような不消化感が残る。おもしろかったが、もう少し突き詰めてほしかった気もする一冊である。

絶叫*葉真中顕

  • 2016/10/11(火) 19:08:29

絶叫
絶叫
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葉真中 顕
光文社
売り上げランキング: 80,870

平凡な女、鈴木陽子が死んだ。誰にも知られずに何カ月も経って……。
猫に喰われた死体となって見つかった女は、どんな人生を辿ってきたのだろうか?
社会から棄てられた女が、凶悪な犯罪に手を染め堕ちていく生き地獄、魂の叫びを描く!


まず冒頭に、ひとりの男性が殺害された新聞記事が置かれている。それに続くプロローグで、物語の主人公である鈴木陽子は、多数の猫に食い荒らされて死因すらわからない孤独死状態で発見されるのである。物語は、陽子が幼いころから順を追って、彼女を「あなた」と呼ぶ誰かによって語られる章と、捜査する刑事・奥貫綾乃の視点で語られる章とが交互に繰り返される形で進んでいく。無残な死体となるまでの陽子の生き様は、ほんの少し踏み出す角度がずれていたら、誰もが陥ってしまったかもしれない道筋のように思われ、そのときどきには抗うことができなかっただろうと、絶望的な気分にさせられる。それでも、なんとかならなかったのは、やはり彼女の育った環境と、それを跳ね返せなかった彼女自身の弱さゆえなのだろうか。さまざまな汚れ仕事を経験し、犯罪の片棒を担ぐまでになってしまった彼女だが、彼女を「あなた」と呼ぶ人物に光が当たったとき、驚きに目を瞠るとともに、なぜか少しだけほっとしてしまったのも事実である。読み始めたら目を離せなくなる一冊である。

ビューティーキャンプ*林真理子

  • 2016/08/12(金) 07:11:54

ビューティーキャンプ
林 真理子
幻冬舎 (2016-02-25)
売り上げランキング: 33,123

苛酷で熾烈。嫉妬に悶え、男に騙され、女に裏切られ。ここは、美を磨くだけじゃない、人生を変える場所よ。並河由希の転職先はミス・ユニバース日本事務局。ボスは、NYの本部から送り込まれたエルザ・コーエン。ブロンドに10センチヒール、愛車ジャガーで都内を飛び回り、美の伝道師としてメディアでひっぱりだこの美のカリスマだ。彼女の元に選りすぐりの美女12名が集結し、いよいよキャンプ開始。たった一人が選ばれるまで、運命の2週間。小説ミス・ユニバース。


読む前に抱いていた期待の方向が間違っていたのかもしれないが、肩透かし感があったことは否めない。もっとドロドロした精神的心理的な闘いが描かれているのかと思ったのだが、ファイナリストたちの内面にはさほど踏み込んでいるとは言えず、由希の目を通したさらっとしたレポートといった印象である。もっと個性と個性のぶつかり合いが見たかった気がする一冊である。

夏のバスプール*畑野智美

  • 2015/12/07(月) 07:20:23

夏のバスプール
夏のバスプール
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畑野 智美
集英社
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夏休みまであと5日! 青春初恋物語
2012年、世界は12月で滅亡するとの噂だが、高校1年生の涼太は、仙台から来た同級生に恋をする。一風変わった彼女には複雑な事情が…? 小説すばる新人賞受賞第一作、胸キュン青春小説!


夏の、ときて、バスプールと続くので、泳ぐプールを連想してしまったのだが、バスターミナルのことらしい。
夏休み直前の高校一年生の物語である。彼らみな、まだ何者でもなく、それぞれが鬱屈した想いを抱えながら、一般的に見れば広いとは言えない自分の場所で、その時その時にいちばんいいと思ったことをしている。あるときは逃げ出し、籠り、爆発させ、弾け、頭を抱えるが、あしたが少しでも良くなればいいという漠然とした気持ちは伝わってくる。絶対的に良い人も悪い人もいなく、ひとりの中にさまざまなその人がいて揺れている様が、この年代ならではのもどかしさを絶妙に描いている。彼らがよくびしょ濡れになっているからというわけではないが、瑞々しい一冊だった。

海の見える街*畑野智美

  • 2015/11/29(日) 19:24:12

海の見える街
海の見える街
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畑野 智美
講談社
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この街でなら、明日が変わる。
海が見える市立図書館で働く20、30代の4人の男女を、誰も書けない筆致で紡ぐ傑作連作中編集。

一年あれば、奇跡も起きる。

●「マメルリハ」……7月、僕の変わらない日常に異変が起きた。
●「ハナビ」……11月、私のまわりで違う何かが起きている。
●「金魚すくい」……2月、俺はまた理解されずに、彼女を待つ。
●「肉食うさぎ」……5月、わたしの誕生日を祝う人がいる街で。



海が見える街の高台にある図書館と児童館で働く四人の男女の物語である。生い立ちも性格もさまざまだが、四人とも他人との関係の作り方がいささか苦手で、仕事は真面目にやるが、友人や恋人には恵まれない。その不器用さゆえに、友人関係でも恋愛関係でも駆け引きが上手くできず、気になりつつも相手の気持ちに深く入り込んでいけないのである。だが、誰もがやさしく、他人を慮り、押しつけがましくなく目配りができるように思う。それぞれの抱える事情と、上手くいかない姿を見ている読者のもどかしさが、海が見える街を舞台にすることによって、面と向き合わずに同じ方向を見ながら語ることで、少しずつ歩み寄らせることができているようにも思われる。哀しみを抱えながらも穏やかで暖かい印象の一冊である。

握る男*原宏一

  • 2015/11/05(木) 18:50:39

握る男
握る男
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原 宏一
角川書店(角川グループパブリッシング)
売り上げランキング: 189,054

「この国のキンタマは“食”なんすから」そうのたまい、一介の鮨職人から、外食産業の帝王に成り上がった男・徳武光一郎が自殺。長年「番頭」として彼に尽くしてきた金森は、刑務所でその報を知る。人、金、権力。全てをその手に握った「食王」に、一体何が起こったのか。


冒頭で、徳武光一郎(通称ゲソ)の自殺が知らされ、その後、そこに至るまでの一部始終が語られる。語るのは、ゲソの腹心・金森であり、ゲソの死の知らせを聞いたのは刑務所である。一体彼らはどんな関係で、なにがあったのか。読者の興味はいやが上にも増すのである。ゲソは、謎の多い少年だったが、人当たりが良く、才覚もあって、同じ寿司屋の修行の身であり先輩である金森を瞬く間に追い越して、取り立てられるようになる。誰にでも愛想の良いゲソだが、裏の顔は大きすぎる野望のためには手段を選ばない非道さも秘めている。いつの間にか金森はゲソに着いていかざるを得ない状況になり、二人で日本の職を牛耳るという野望を実現すべく行動を起こすのである。ゲソのやり口に憤りながらも、どこまで上り詰めるかに興味を惹かれ、ラストに向かって、ありがちな罠に陥るゲソを複雑な思いで眺めることになった。本店の親方の堅実さが唯一ほっとさせてくれる救いで、あとは、もどかしくやるせない思いで満たされる一冊である。

運転、見合わせ中*畑野智美

  • 2015/10/28(水) 18:56:57

運転、見合わせ中
運転、見合わせ中
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畑野 智美
実業之日本社
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朝のラッシュ時に電車が停止!
そのとき、大学生、フリーター、デザイナー、OL、引きこもり、駅員は?
突然のアクシデントに見舞われた若者6人のドラマを描く私鉄沿線・恋愛青春小説!


「大学生は、駅の前」 「フリーターは、ホームにいた」 「デザイナーは、電車の中」 「OLは、電車の中」 「引きこもりは、線路の上」 「駅員は、線路の上」

突然電車が止まり、その影響を受けた六人の物語、というなんとも魅力的な設定である。電車が止まったことで誰にどんな影響があり、彼らの人生はどんなふうに違っていき、それによってどんな出会いがあって……、と読む前から想像の翼は大きく広がるのだった。それぞれにそれらしいエピソードはあり、ちょっとしたつながりも用意されてはいるのだが、全体を通しての盛り上がりがいまひとつな印象である。繋がり方も、一応つなげてみました感が否めない。そして何より登場人物のキャラクタが個人的には魅力的に思えなかったのが、物足りなさのいちばんの要因だったかもしれない。期待値が高かった分いささか残念な気がする一冊だった。

国道沿いのファミレス*畑野智美

  • 2015/10/26(月) 07:23:02

国道沿いのファミレス
畑野 智美
集英社
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第23回小説すばる新人賞受賞作
仕事上のトラブルで左遷され、6年半ぶりに帰郷した善幸。一見静かな町では、親友、家族、恋人、そして勤務先のファミレスでも、一筋縄ではいかない人間関係が・・・。現代をリアルにすくう青春小説。


これが現代をリアルにすくっているとしたら、現代って一体なんなのだ、と思わなくもないが、現代に生きる人間も多様なのだから、こんな現代もあるかもしれないということで一応納得する。主人公のチェーン店のファミレス社員・佐藤善幸も、その父も、善幸の恋人の綾も、その他の登場人物たちも、ほとんどが、なにに対しても行き当たりばったりの「なんとなく」な印象なのが、ものすごくもやもやしてしまう。シンゴ(とその恋人の吉田さん)が辛うじて、総崩れになるのを食い止めているように思われる。ラスト近くになってようやく、善幸の芯にわずかな力を感じられるようになったのがせめてもである。何気ない日常が興味深く読めるのは、やはり人物ありきなのかもしれないと思わされた一冊でもある。

女神めし--佳代のキッチン2*原宏一

  • 2015/10/24(土) 13:47:05

女神めし 佳代のキッチン2
原宏一
祥伝社
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新鮮な食材とともに持ち込まれる、ちょっとした厄介事。移動調理屋・佳代が、心にしみる一皿で美味しく解決?幸せの味を届けに、キッチンワゴンは全国を走る!


各地の港で取れた魚介を使った魚介飯をきっかけに調理屋の存在を知ってもらい、持ち込まれた食材で依頼された料理を作る佳代。魚介飯は各地で評判を博し、どこへ行っても順調にお客さんが増えていく。地元の人たちとの交流で人脈を広げ、ちょっとした厄介ごとの解決のお手伝いをしたり、人助けをしたりしながら、佳代自身もたくさんの人たちに助けられて旅を続ける。各地に調理屋を広めようという松江のばあちゃんの支援を受けて、新たに調理屋を始める人も出初め、すっかり軌道に乗ったようである。そんなときに松江のばあちゃんの訃報が。ばあちゃんの気持ちに応えるためにも、佳代はこれからも全国各地を厨房車で走り抜けるのだろう。お腹が鳴り、胸が熱くなる一冊だった。

スクラップ・アンド・ビルド*羽田圭介

  • 2015/10/08(木) 17:05:51

スクラップ・アンド・ビルド
羽田 圭介
文藝春秋
売り上げランキング: 447

「早う死にたか」毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。日々の筋トレ、転職活動。肉体も生活も再構築中の青年の心は、衰えゆく生の隣で次第に変化して…。閉塞感の中に可笑しみ漂う、新しい家族小説の誕生!第153回芥川賞受賞作。


毎日を躰の痛みと死への渇望とともに暮らす――と孫の健斗は思っている――88歳の祖父と、休職中で自分の躰を鍛えるという名目でいじめ続ける以外ほとんどすることのない孫の健斗の、介護という名の攻防のようにも見える。祖父に彼の望むような苦しみのない死をもたらす手伝いをしようと真面目に考え行動する健斗と、「早う死にたか」と事あるごとにぼやきながらも、ふとした折に生への執着を垣間見せる祖父。いささかボケているように見える祖父ではあるが、実のところは健斗の目論見などお見通しで、手のひらでころがしているように見えなくもない。あるいは見たままそのままで、健斗の思い通りの経過をたどることになるのか。さまざまに読めて興味深い。なんとなく祖父に軍配が上がりそうな印象はあって、健斗の一途さと空回りが微笑ましくも思えてくることもある。ストレートなようでなかなか曲者な一冊かもしれない。

悲素*帚木蓬生

  • 2015/09/27(日) 16:40:56

悲素
悲素
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帚木 蓬生
新潮社
売り上げランキング: 37,480

悲劇は、夏祭りから始まった―。多くの犠牲者を出した砒素中毒事件。地元刑事の要請を受け、ひとりの医師が、九州から和歌山へと向かった。医師と刑事たちは地を這うように、真実へと近づいていくが―。現役医師の著者にしか描きえない、「鎮魂」と「怒り」に満ちた医学ミステリーの最高峰!


まるでノンフィクションのような小説である。丁寧に取材され、おそらく限りなく事実に忠実な形に仕上げられているのだと思われる。読みながら、事件当時毎日のようにテレビ画面から見せつけられていた挑発的な態度がまざまざと思い出された。そしてその裏に、これほど真剣に、自らの時間を捧げるようにして、診察し、検証し、捜査する人々がいたことに改めて思いを致すのである。個人が起こしたとは思えないほどの被害者の数とその後も続く苦しみを思うと、忘れてはいけない事件だと改めて思う。周到なようで杜撰でもあり、事実は小説よりも奇なりを地で行くような事件でもある。息詰まるような緊張感とやり切れなさ、そして感謝の気持ちに満たされた一冊である。

「ワタクシハ」*羽田圭介

  • 2015/08/13(木) 18:32:45

「ワタクシハ」
「ワタクシハ」
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羽田 圭介
講談社
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人生賭けたい夢がある。でも、内定は欲しい。かつて、高校生でギタリストデビューを果たした山木太郎。しかし栄光も束の間、バンドは解散。すっかり燻り、大学三年の秋を迎えた太郎の周囲は「シューカツ」に向けて慌しく動き出していた。その“一発逆転システム”に魅せられ、就活戦線に身を投じる決意をする太郎。「元有名人」枠で楽々内定を勝ち取れると思っていたのだが―。就職氷河期「以下」の今に問いかける、書き下ろし最新長篇。


17歳でギタリストとしての腕を見出されてデビューし、一時世間を騒がせた山木太郎が主人公の大学生活後半物語である。大学三年にして、早くも過去の栄光にしがみついているとも言える現状は、客観的に見れば、学生にもギタリストにもなり切れないどっちつかずにしか見えない。同級生たちが黒づくめで奔走する就活も、初めは横目で見ているだけだったが、人生勉強と自分に言い訳しつつ、ある意味甘く見て臨むのだったが……。就活に向き合うことが自分と向き合うことになり、恋人や友人たちと向き合うことにもなり、少しずつ成長していく姿は、応援したくもなるのだが、就活の在り方自体に対する疑問や不信感は増すばかりである。自分の人生を掴み取るために奔走する学生たちの賢明さは評価しながらも、(言い過ぎかもしれないが)どこか滑稽にも見えてしまうのはわたしだけだろうか。大学の存在意義までも考えさせられてしまう。ラストの後日譚があまりに平穏なのも、ちょっとなぁ、という感じである。いろいろ考えさせられる一冊であったことは間違いない。

あなたは、誰かの大切な人*原田マハ

  • 2015/01/26(月) 17:03:14

あなたは、誰かの大切な人あなたは、誰かの大切な人
(2014/12/18)
原田 マハ

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家族と、恋人と、そして友だちと、きっと、つながっている。大好きな人と、食卓で向かい合って、おいしい食事をともにする―。単純で、かけがえのない、ささやかなこと。それこそが本当の幸福。何かを失くしたとき、旅とアート、その先で見つけた小さな幸せ。六つの物語。


「最後の伝言」 「月夜のアボカド」 「無用の人」 「緑陰のマナ」 「波打ち際のふたり」 「皿の上の孤独」

かけがえのない人と離れてみて初めて気づく、その人の大切さ。何気ない日常にこれほど豊かなしあわせがあったのかと気づかされる旅の途中。言葉にしなければわからないことも多いが、自らの心の持ちようで違って見える毎日もあることに、それぞれの物語の主人公たちが、それぞれの場所で気づき、大切な人に思いを馳せる。何気ない日常を切り取ったようで、とても大切なことを教えてくれる一冊である。

ミチルさん、今日も上機嫌*原田ひ香

  • 2014/11/13(木) 07:13:09

ミチルさん、今日も上機嫌ミチルさん、今日も上機嫌
(2014/05/26)
原田 ひ香

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恋を謳歌し、気ままなシングルライフを満喫する山崎ミチル・45歳。ところが生まれて初めて男に裏切られ、おまけに仕事まで失った。残されたものは元夫が譲ってくれたマンションと僅かな貯金だけ。やむなく始めた地味なアルバイト。そこで出会ったのは、個性豊かな愛すべき老若男女たち。彼らとの交流で、どん底バブリー女が手に入れた希望の切符とは―。


「上機嫌」という割には、主人公のミチルさんは鬱屈を抱えているように見える。バブル期に青春を謳歌し、その後さまざまなものを失ってまだ、もっと満たされるという思いがどこかにあり、地に足をつけた生き方ができずにいるのである。ある意味バブルの被害者とも言えるのかもしれない。スーパーの面接に落とされ、チラシ配りを始めることになった彼女は、いままで知合わなかった人たちと知り合い、ある意味未知の世界を知る。抱えていた鬱屈がいつの間にかひとつふたつと減っていき、次第にいまを生きられるようになっていく彼女を見守るように読み進んだ。バブルもあってその後もあって、そして現在がある。そのときどきをその人らしさで生き抜いてこその幸福であると思わせてくれる一冊である。