人魚姫の椅子*森晶麿

  • 2017/02/24(金) 18:36:12

人魚姫の椅子
人魚姫の椅子
posted with amazlet at 17.02.24
森晶麿
早川書房
売り上げランキング: 338,103

瀬戸内海に面した椅子作りの町、宝松市鈴香瀬町。高校生の海野杏(うみのあん)は、毎朝海辺で小説を書きながら、椅子職人を目指す同級生・五十鈴彗斗(いすずすいと)と少しだけ話すことを日課としていた。
ある日の朝、いつものようにやってきた彗斗から、「高校をやめて町を出る」と告げられる。特別仲がよかったわけではないが、傍にいて当然の存在がいなくなることに焦りを覚える杏。
時を同じくして、杏は親友の翠(みどり)からラヴレターの代筆を頼まれる。戸惑う杏だったが、必死に頼む姿にほだされ、誰にでも好かれる、明るくてかわいい翠を思い浮かべながら、一文一文を丁寧に書きだしていく。
そのラヴレターから、小さな町を揺るがす失踪事件が始まるとも知らずに。
〈黒猫シリーズ〉の著者が描く、新たな青春ミステリ。


椅子作りに夢中になる少年と、心の内を物語として紡ぎ出す少女。芽生え始めた恋心と友情の狭間で揺れる心は、そのまま物語に込められていく。勘違い、すれ違い、若い恋にありがちなシチュエーションではあるのだが、特別な椅子作りに魅入られたある人物が現れ、思っても見ない流れに呑み込まれていく。想像するとものすごくグロテスクなのだが、人魚姫の物語とシンクロすることで、グロテスクさはいささか和らいでいる。それにしても残酷この上ないことに変わりはないだろう。ラストに光は見えるものの、その点がなんとなく腑に落ちなくもある。現実と物語とを行ったり来たりしているような心地の一冊である。

ピロウボーイとうずくまる女のいる風景*森晶麿

  • 2016/05/29(日) 17:24:23

ピロウボーイとうずくまる女のいる風景
森 晶麿
講談社
売り上げランキング: 297,970

貧困のどん底から、顔に深い傷跡を持つ男キムラに救われた絢野クチルは、政治家を目指して大学に通い、夜は「ピロウボーイ」として女たちと関係を持つ。「シェイクスピアを読む女」「バッハしか愛せない女」「ドヌーヴに似た女」「リキテンスタインを待つ女」女たちはみな問題を抱えているが、クチルとの関わりのなかで立ち直っていく。一方、クチルの部屋には、謎の同級生知紅が押しかけて居候となり、クチルの帰りを待っている。


恵まれない生い立ちから政治家を目指して大学に通う絢野チクル、彼に目をつけ「ピロウボーイ」に仕立て上げたキムラ、そしてその妻・冴子、チクルの部屋に押しかけてきて居ついている知紅。それぞれが只事ではない事情を抱え、願いをかけ、望みを抱きながら、ねじれた関係のなかに身を置き、しかも純粋に生きている。一見モラルも何もない自堕落な世界である印象を受けるが、登場人物が自分というものをきっちりわかっていて、背筋が伸びているように思えるので、厭な感じは全く受けず、却って清々しささえ感じられるのである。人物相関図が絡まり合っていることが、このストーリーが必然であったことを納得させる。思いがけず面白い一冊だった。

ホテル・モーリス*森晶麿

  • 2016/05/20(金) 07:30:41

ホテル・モーリス
ホテル・モーリス
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森 晶麿
講談社
売り上げランキング: 352,095

圧倒的なおもてなし。
毎日ギャングがやってくる。彼らを迎え撃つのは、伝説のホテルマンの妻、元殺し屋のチーフ・コンシェルジュ、そして新人支配人。

芹川准(せりかわじゅん)は、突如ホテルの支配人を任された。期間は六日、ギャングたちの大宴会まで。初日から早速、怪しげなカップル(ギャング&美女)とスキッパー(泊まり逃げ)疑惑のある少女がチェックインした。
伝説のホテルは、再び栄光を取り戻す──。


ドタバタコメディのようでいて、状況はこれ以上ないほどシリアス。そしてキャラクタもひと癖もふた癖もある個性派揃い。話の流れは無茶苦茶なのに、舞台はこれ以上ないおもてなしを謳うパラダイスのようなホテル。何もかもがミスマッチなのに、なぜかしっくりと納まってしまう不思議。どうしてこういう状況になっているのかということそのものがミステリであり、結構ハートウォーミングでもあるのがまたまたミスマッチでなかなかである。ホテル・モーリスの極上サービスを(もちろんギャング集団がいないときに)受けてみたいと思わせる一冊でもある。

アドカレ!戸山大学 広告代理店の挑戦*森晶麿

  • 2016/05/15(日) 06:43:05

アドカレ! 戸山大学広告代理店の挑戦 (富士見L文庫)
森 晶麿
KADOKAWA/富士見書房 (2016-01-13)
売り上げランキング: 84,800

名コピーライターだった亡き父と同じ道を目指す私は、父の母校戸山大学に入学した。意気揚々と広告概論を受講するも、中身は期待外れ、広告研究サークルは言わずもがな…。そんなとき、目に飛び込んできた学生だけの広告代理店“アド・カレッジ”の求人看板。訪れた私に、バードと名乗る代表取締役はいきなり採用試験を言い渡した。「豆腐屋のキャッチコピーを提案すること、期限は三日」豆腐屋では強面の店主が待ち構えていて…?広告業界希望者必見の青春物語


前回の戸山大学は、飲んだくれてばかりだったが、今回は真面目に励んでいて気持ちが好い。とは言え、学生生活の描写は少なく、もっぱら広告代理店の社員として働いている姿ではあるが。亡き父がらみの人間関係が幸いしたとはいえ、最終章まで名前が明かされない「私」は、コピーライターとしての素質がある。呑み込みも早いし、なにより目のつけどころがなかなかいいのではないだろうか。豆腐屋、マンション、お詫び広告、夜行列車、謎の絵コンテ、と素材も多岐にわたっていて興味深い。バードこと海月越(うみづきこえる)と、「私」=小枡歩美のこれからも気になるし、もっと続きが読みたい一冊である。

名無しの蝶は、まだ酔わない 戸山大学<スイ研>の謎と酔理*森晶麿

  • 2016/04/29(金) 18:17:49

名無しの蝶は、まだ酔わない    戸山大学〈スイ研〉の謎と酔理 (単行本)
森 晶麿
KADOKAWA/角川書店
売り上げランキング: 687,959

『ここは推理研究会ですよね?』『いかにも、ここは酔理研究会だ』―それが神酒島先輩と、私の世界を変えるサークルとの出会いだった。憧れの“スイ研”で待っていたのは、果てなき酒宴と“酔い”の理。そして不思議な瞳を持つ幹事長・神酒島先輩で―。共感度抜群!!名無しの大学生たちの青春歳時記!


基本、酔っ払い大嫌いなわたしとしては、時を選ばず酔い潰れて、無茶苦茶をしている輩の描写には、正直うんざりである。だが、〈スイ研〉の話を読もうとする時点で、それは判り切っているのだから、文句をつける筋合いではないだろう。酔ってさえいなければ、みんな個性的でいい人っぽいのが、ある意味救いか。神酒島先輩がぽろりと漏らすひと言には、含蓄があり、蝶子との掛け合いも、突き放すでもなく、甘くなりすぎるでもなく、絶妙なバランスを最後まで貫く辺りは、見事である。二人の今後が愉しみな限りである。そんなあれこれにミステリ風味をまぶしました、と言う感じの一冊である。

異類婚姻譚*本谷有希子

  • 2016/03/18(金) 18:41:29

異類婚姻譚
異類婚姻譚
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本谷 有希子
講談社
売り上げランキング: 2,529

「ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。」――結婚4年の専業主婦を主人公に、他人同士が一つになる「夫婦」という形式の魔力と違和を、軽妙なユーモアと毒を込めて描く表題作ほか、「藁の夫」など短編3篇を収録。大江健三郎賞、三島由紀夫賞受賞作家の2年半ぶり、待望の最新作!


夫婦が同化していくというところにはうなずけはするが、それに違和感を覚え始めた途端に、夫の存在そのものが輪郭をあやふやにし、よく判らないものになっていくというのは、実感としてはよくわからない。目のつけどころは面白いと思うが、ここまでホラーっ気を強くしなくてもよかったのではないかという気がしなくもない。それともこれは真性のホラーなのだろうか。それならまた別の話しではある。好みが分かれる一冊かもしれない。

そして、何も残らない*森晶麿

  • 2016/03/02(水) 17:07:12

そして、何も残らない
森 晶麿
幻冬舎
売り上げランキング: 559,727

真琴は高校の卒業式を終え、既に廃校となっている母校の平静中学校を訪ねた。朽ち果てた校舎に、彼女が所属していた軽音楽部のメンバーが集められたのだ。目的は中学三年のときに部を廃部に追い込んだ教師への復讐。だが、再会を祝して全員で乾杯した瞬間、ミニコンポから、その教師の声が響き渡った。「平静中学校卒業生諸君に死を」。一同が驚愕するなか、突然メンバーのひとりが身体を痙攣させ、息を引き取る。真琴は警察に連絡をしようとするも、携帯電話の電波が届かない。しかも学校を囲む川に架かる橋が何者かによって焼き落とされ、町に戻ることができない状態になっていた…。すべて伏線、衝撃のどんでん返し…。究極の「青春+恋愛」ミステリー。


内容紹介にある通り、まさに伏線だらけである。そして、現在は高校卒業間近であると言っても、事件の発端となった中学時代のことが多く語られているのである。ほんとうにこれが中学生?と思うようなっ描写ばかりで、いささかついていけなくなる。本歌取り、というか、見立て殺人によって、橋が壊されて閉じ込められた廃校で、次々にかつての仲間が殺されていくのだが、いくら伏線があっても、これほどうまくいくものだろうかという気がしなくもない。これによって、誰かカタルシスを得たのだろうか、あるいは幸せになったのだろうか、というところも気になる。後味がいいとは言えない一冊ではある。

かぜまち美術館の謎便り*森晶麿

  • 2016/02/20(土) 19:06:24

かぜまち美術館の謎便り
森 晶麿
新潮社
売り上げランキング: 415,556

18年前に死んだはずの画家から届いた絵葉書が封印された町の過去を解き明かす―イクメンでカリスマ学芸員のパパと保育園児のかえでちゃん。寂れゆく町に引っ越してきた、オアシスのような父娘コンビが、ピカソ、マティス、ゴーギャン、シャガールらの名画解釈をもとに、夭折の天才画家が絵に込めた想いを読み解き、その最期の真相に迫る!


保育士のカホリの隣に引っ越してきたのは、町の美術館の館長に就任したカリスマ学芸員の佐久間と娘のかえで父娘。かえではカホリの保育園の園児でもある。そしてカホリの兄・ヒカリは、絵を描いていたが、若くして亡くなっていた。カホリの胸のなかに澱んでいる思いや、町に停滞しているわだかまりを、かえでの子どもらしい発想と、巨匠たちの絵画を通して、佐久間が解きほぐしていく。ひとつひとつの謎に答えを与えるだけでなく、物語全体を通しての大きな謎である、ヒカリの死とある日忽然と姿を消した、ミツバチと呼ばれる郵便配達員の件にも、佐久間は光を当てるのである。生臭い事件の記憶を掘り返す合間の、かえでと佐久間のやり取りがほのぼのしていて、暗くなりがちな気分を和ませてくれるのも嬉しい。胸がきゅんとして、あしたが明るく思えてくる一冊である。

葬偽屋は弔わない*森晶麿

  • 2015/12/16(水) 18:46:50

葬偽屋は弔わない: 殺生歩武と5つのヴァ二タス
森 晶麿
河出書房新社
売り上げランキング: 298,320

自分が死んだら周りの人たちはどんな反応するんだろう。その願い<葬偽屋>が叶えます。人の本音が見えてくる本格人情ミステリ!


葬儀屋、ならぬ、葬偽屋の物語である。殻と呼ばれる本人そっくりの人形を作って偽の葬儀を執り行い、列席者の反応を確かめるという仕事である。終わった後には必ず偽の葬儀だということを明かす、などいくつかのルールがあるが、基本、依頼は断らない。煩悩時の原液住職・殺生歩武の副業なのである。元保険調査員で、わけありのセレナ、殻の製作者であり、カフェサボタージュのオーナーの黒村が一応スタッフである。依頼者が抱える問題を調査し、葬儀を行って周りの反応を見ることで解決に導くのだが、怪しげな仕事の割には心温まる結末に落ち着くのが不思議でもある。最後には歩武自身の過去も、セレナのしがらみも、黒村の屈託も、納まるべきところに納まり、物語自体も、一応ハッピーエンドと言えよう。葬偽屋の仕事ぶりをもっと見たいと思わされる一冊である。シリーズ化希望。

白の祝宴--逸文 紫式部日記*森谷明子

  • 2015/09/03(木) 07:19:27

白の祝宴 (逸文紫式部日記 )
森谷 明子
東京創元社
売り上げランキング: 699,907

平安の世、都に渦巻く謎をあざやかに解き明かす才女がいた。その人の名は、紫式部。親王誕生を慶ぶめでたき場に紛れ込んだ怪盗の正体と行方は?紫式部が『源氏物語』執筆の合間に残した書をもとに、鮎川哲也賞受賞作家が描く、平安王朝推理絵巻。


中宮彰子の出産日記を編纂するようにと、土御門邸に呼び戻された紫式部が、次々に持ち込まれる女房たちの日記にいささかうんざりしながら、小さな祖語に着目し、さらに大きな疑問を解き明かしていきながら、真実にたどり着く物語であるが、時代や人間関係の複雑さもあり、現代のようにすっきりと白黒つけられるわけではなく、後世を見据えての思惑も見え隠れするのがまた一興でもある。ミステリ部分はもちろん、雅な日常と、その裏に蠢く女房その他の思惑の生々しさや奔放さもまた独特で興味深い。謎を解き明かしながら式部自身の人となりをも解き明かすような一冊である。

春や春*森谷明子

  • 2015/07/13(月) 17:00:50

春や春
春や春
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森谷 明子
光文社
売り上げランキング: 176,581

須崎茜は私立藤ヶ丘女子高校に通う俳句好きの女の子。ある日、俳句に否定的な国語教師と授業で対立したことをきっかけに、俳句の趣味を理解してくれるトーコという友人ができる。2人は「俳句甲子園」を目指して俳句同好会を設立するが、出場に必要な人数は5人。メンバーを集めるため、茜とトーコは校内を駆け回る。俳句経験者の茜、切れ者のトーコ、書道有段者の真名、音感の鋭い理香、口達者な夏樹、情緒豊かな瑞穂…初めはばらばらだった6人の個性が“俳句バトル”で輝きを増す!少女たちの友情と成長がまばゆい、圧倒的青春小説!!


女子高校生6人が主役の爽やかな青春小説、なのだが、モチーフが俳句というのがユニークである。俳句甲子園を目指して、部員集めをするところから始まり、顧問を見つけ、同好会として認めてもらい、個性豊かなメンバーをまとめながら、初心者が俳句甲子園に出場できるまでにするのは並大抵の努力ではないと思われるが、上手い具合にメンバーそれぞれの個性が生かされて、苦労しながらも愉しそうな様子が微笑ましい。キャプテンの茜が会いたかった澗くんと会えたところで終わってしまったので、その後の物語も読んでみたい。続編があるといいな、という一冊である。

花野に眠る--秋葉図書館の四季*森谷明子

  • 2015/01/12(月) 07:33:00

花野に眠る (秋葉図書館の四季)花野に眠る (秋葉図書館の四季)
(2014/11/28)
森谷 明子

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れんげ野原のまんなかにある秋葉図書館は、いつでものんびりのどか。新人司書の文子の仕事ぶりも、どうにか板についてきた。そんななか、図書館のお向かいの日向山から突然、白骨死体が…。誰が、どうして、こんなところに埋められていたのか?文子は、図書館の利用者が持ち込む、ふとした謎を解決しつつ、頼もしい先輩司書たちの助けを借りて、事件の真相究明に挑むが―。本を愛してやまない人の心をくすぐる、やさしい図書館ミステリ!


『れんげ野原のまんなかで』に続く、秋葉図書館シリーズ二作目である。大賑わいとは言えない秋葉図書館ではあるが、いつでも来館者に向けるまなざしは暖かく、訪れた人がいま何を求めているかを親身に考えてくれ、寄り添ってくれるのは、都会の大規模図書館にはなかなかない良さである。新人の文子もだいぶ慣れてきて、保育園の親子に向けたブックトークを任されたり、訳あり気な少年の疑問に親身になったりと、立派な司書ぶりを見せているのも嬉しくなる。本作でも、人の気持ちに寄り添うからこそ解決できた事件の数々が、めぐりめぐり繋がり合って、人の心を解きほぐすことにもなったのではないだろうか。長く続いてほしいシリーズである。

なぜなら雨が降ったから*森川智喜

  • 2014/11/11(火) 07:08:41

なぜなら雨が降ったからなぜなら雨が降ったから
(2014/09/17)
森川 智喜

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ある雨の日「Yuregi Detective Office」の表札がある部屋の前で、女の人が一人で煙草を吸っていた。「あの、もしかしてここの事務所の方ですか」「そうよ」「探偵さん…ということですか?」「そうなるわね」「すごいですねえ。あの。探偵さんってことは、推理とか、するんですか?」「まあね。あなた、もしかして最近、新しく靴を買ったんじゃない?」史上最短、デビュー2作目で今年度本格ミステリ大賞受賞。天才モリカワによる前代未聞の名探偵、登場!春夏秋冬、そしてまた春―雨女探偵が出会う5つの事件!


「雨女探偵」 「てるてる坊主」 「雨天決行」 「雪女探偵」 「狐の嫁入り」

タイトルからして雨だらけである。なぜなら女探偵・揺木茶々子(ゆれぎちゃちゃこ)が雨女だから。そしてこの物語の主人公であり、大学に合格し、同じマンションに探偵事務所があるという興味から部屋を決めた野崎圭人は、偶然というか当然というか、成り行きで揺木探偵の助手を務めることになる。出会いの時から揺木の一瞬の目のつけどころが鋭く、野崎ともどもわたしも先が愉しみになる。雨女探偵なので、雨が降らないと事件を解決に導く推理が成り立たないという弱点もあるが、そもそも雨の日しか活動していないようなものなので、そこは深く突っ込まなくてもいいのかもしれない。いまひとつとらえどころのない揺木のキャラクター隣幸助手の野崎という適当なコンビがなかなか魅力的な一冊である。続編もぜひ読みたい。

ひとごと*森浩美

  • 2014/06/23(月) 07:10:26

ひとごと (単行本)ひとごと (単行本)
(2014/02/26)
森 浩美

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交通事故で幼い息子を失い、自分を責め続ける妻。ともに悲しみを乗り越えなければならないはずの夫との間には、次第に亀裂が入っていった。一周忌の法要が終わり、夫は躊躇いながらも、妻に意外な話を切り出すが…。(第一話「桜ひらひら」)。幼い息子を虐待して殺した母親を逮捕―残酷な事件のニュースが、人々の心に起こした波紋…。8組の家族の人生の転換期を、鮮やかな手法で描いた感動の連作集。


「桜ひらひら」 「かたくなな結び目」 「仮面パパ」 「接ぎ木ふたたび」 「親子ごっこ」 「愛情ボタン」 「捨てる理由」 「晴れ、ところにより雨」

<幼い息子を母親が虐待して殺した>というニュースを縦糸に、八つの家族が横糸となって物語が紡がれている。それぞれの家族には何の関係もなく、完全に独立した物語でありながら、遠目で見ると哀しく愛おしい色調が似通っている。そして最後にちいさな光が見えるのも気持ちが救われる。いまは他人事でも、いつ自分のことになるか判らないような、苦しいものが胸に押し寄せてくる一冊でもある。

こちらの事情*森浩美

  • 2014/06/06(金) 17:13:34

こちらの事情こちらの事情
(2007/04)
森 浩美

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『荷物の順番』―「老人介護施設に預けることにしたから、母を送り届けてほしい」。兄に頼まれ、正文は辛い役目を任される。割り切れず、思い悩む正文に、母は諭すように言う。「正文、人の手はふたつしかないからね。もっと大事なものができれば、先に持ってたものは手放さなきゃならない。世の中は順番なんだから」それでいいんだよと。当日、施設の車寄せに着き、いよいよ万感胸に迫った正文は―自分の中の「いい人」にきっと出会える作品集。


「靴ひもの結び方」 「妻のパジャマ」 「荷物の順番」 「葡萄の木」 「晴天の万国旗」 「甘噛み」 「短い通知表」 「福は内」

もう若くはない世代が主人公の短編集である。衰えてくる親との関係、可愛いだけでは済まない子どもたちとのかかわり、解っているようで解らない、近くて遠く遠くて近い夫婦の関係。しあわせも重荷もそれなりに抱えた主人公たちが、日々を暮らし、生きている姿は、不器用でも下手くそでも微笑ましい。周りがあって自分があるということを改めて思わされる一冊でもある。