- | こんな一冊 トップへ |
- 次ページへ»
あなたにおススメの*本谷有希子
- 2021/08/22(日) 16:06:43
気づけば隣にディストピアーー
世界が注目する芥川賞作家・本谷有希子が描く、心底リアルな近未来!
「推子のデフォルト」
子供達を<等質>に教育する人気保育園に娘を通わせる推子は、身体に超小型電子機器をいくつも埋め込み、複数のコンテンツを同時に貪ることに至福を感じている。そんな価値観を拒絶し、オフライン志向にこだわるママ友・GJが子育てに悩む姿は、推子にとっては最高のエンターテインメントでもあった。
「マイイベント」
大規模な台風が迫り河川の氾濫が警戒される中、防災用品の点検に余念がない渇幸はわくわくが止まらない。マンションの最上階を手に入れ、妻のセンスで整えた「安全」な部屋から下界を眺め、“我が家は上級”と悦に入るのだった。ところが、一階に住むド厚かましい家族が避難してくることとなり、夫婦の完璧な日常は暗転する。
荒唐無稽と言い切ってしまえない、背中がむず痒くなるような近未来の物語二編である。こんな世界に生きていたくない、こんな状態に置かれたくない、と願いながら読むが、否応なく巻き込まれ、引きずり込まれて、もがくほどに這い上がれなくなるような無力感にさいなまれる。決してヒステリックではなく、むしろ淡々としすぎるくらいの筆致で描かれているのがかえって怖い。読みながらも、読んだ後も、厭な気持ち悪さを引きずる一冊である。
涼子点景 1964*森谷明子
- 2020/03/21(土) 16:12:21
「父は、姿を消したのよ。私が九歳の夏に。それ以上のことを言わない、誰にも」。
1964年オリンピック決定に沸く東京で、競技場近くに住む一人の男が失踪した。
娘は自分の居場所と夢を守るため、偶然と幸運と犠牲を味方につけ生き抜いてゆくことを誓う。
時代の空気感を濃密に取り込みながら描いた蠱惑の長編ミステリー!
不意に届いた小学校の同窓会通知を志学女子学園の理事長室で見ている涼子。そこから、60年前に時間は巻き戻されていく。抱えてしまった秘密を守り続けるために、変わり続け、あるいはかたくなに守り続けて生きてきた涼子のその時その時を、何も知らない周りの数人が、ほんとうに何気なく、あるいは、なにがしかの疑問を抱いて思い出し、それをすべてつなげてみたときに見えてくるものがあるのである。涼子の人生は幸福だったのだろうか、と思わずにはいられない一冊である。
毒よりもなお*森晶麿
- 2019/04/16(火) 18:14:04
連続殺人犯「首絞めヒロ」は、本当に私の知っている「ヒロアキ」なの?―― カウンセラーの美谷千尋は、自殺願望のある高校生、今道奈央から〈首絞めヒロの芝居小屋〉という自殺サイトの存在を知らされる。犯罪の匂いを感じた千尋は、そのサイトの管理人が8年前に故郷の山口で知り合った「ヒロアキ」ではないかと疑いを抱く。千尋によって徐々に明らかにされていくヒロアキの恐ろしくも哀しい過去。ヒロアキはなぜ連続殺人犯になってしまったのか? 千尋は奈央の命を救うことはできるのか? 千尋とヒロアキの間に流れる8年間物語とは? 衝撃の結末が待ち受ける、祈りと狂気のミステリ!
生い立ちや生育環境は、人格形成にどれほど影響を与えるものなのなのだろうか。本作は、虐待や親の性的趣向によって、真っ直ぐに成長することを妨げられたひとりの人間が周囲に与えた影響と、起こした犯罪に迫っている。と思って大部分を読み進み、それは間違いではないのだが、ラスト近くで様相はがらりと変わってくる。テーマそのものは変わらないが、現実と小説、さらには精神世界までもが入り交じり、境目があいまいになって、いま自分がいる場所を見失いそうになる。足元が突然不安定になったような覚束なさに見舞われて眩暈がする気分である。閉じた眼を再び開けたら、自分が物語のなかにいるかもしれないという漠然とした恐ろしさが足元から這いあがってくる気分にもなる。まったくの他人事と読み飛ばすことのできない一冊である。
黒猫のいない夜のディストピア*森晶麿
- 2019/01/29(火) 16:57:54
大学院修了後に博士研究員となった私は、所無駅付近で自分そっくりの女性と遭遇する。 白い髪、白い瞳、白いワンピースの彼女はあきらかにこちらを見つめていた。 学部長の唐草教授の紹介で出会った反美学研究者、灰島浩平にその話をすると、様々な推理を展開する。 本来なら黒猫に相談したいところだったが、黒猫の言葉――とにかく、まだ結婚は無理――がひっかかり、連絡できずにいた。 白を基調にした都市開発計画が持ち上がる所無。 自宅に届いた暗号が書かれた葉書。 私そっくりの女性となぜか会っていた母の雪絵。 いったい私の周りで何が起きているの――? アガサ・クリスティー賞受賞作から連なる人気シリーズ、待望の再始動。
シリーズものとは知らずに読んだが、たぶん何の問題もなかった。キャラクタやいきさつを把握していれば、より深く読めたのかもしれないが……。ポオと竹取物語を関連付けたり、モダニズムとゴシックやグロテスクを論じたりと、学術的な部分はわかったようなつもりになっただけで読み進めたが、完璧に理解できなくてもおそらく問題はなかっただろう。舞台となった所無のモデル都市に、かつてなじみがあったこともあり、道筋や街並みを思い浮かべられるので、より愉しめた。都市開発という公共的な題材を扱っているようであって、実はごくごく個人的な人間と人間との結びつきが語られている。私と黒猫の信頼がより深まったようでなによりである。シリーズのほかの作品も読んでみたくなる一冊だった。
静かに ねぇ、静かに、*本谷有希子
- 2018/11/13(火) 18:22:42
海外旅行でインスタにアップする写真で“本当”を実感する僕たち、ネットショッピング依存症から抜け出せず夫に携帯を取り上げられた妻、自分たちだけの印を世界に見せるために動画撮影をする夫婦―。SNSに頼り、翻弄され、救われる私たちの空騒ぎ。
読みながら、どういう気持ちになればいいのか戸惑うような物語たちである。登場人物たちは、SNSによって、世界とつながっているような気になっているが、その実、ものすごく閉じた世界にいるように思われる。生身の自分では生きている実感を持てず、外に向けて発信したものを見ることでしか、その実感を得られないとしたら、生きている、とはどういうことなのだろう。何かに違和感を覚えながらも、そのことを深く掘り下げようとはせずに、表層を滑るように日々を過ごしているように見える。なんだかものすごくもどかしい心地にさせられる一冊である。
火刑列島*森晶麿
- 2018/09/14(金) 18:29:24
現象学者の凪田緒ノ帆は、半年前に自宅の火災で恋人を失った。まる焦げで発見されたその死体が持っていたスマホのロック画面には、下着姿の謎の女性の画像が残されていた。突然、緒ノ帆の前に現れた美青年・露木は“予現者”を自称し、「僕が予現したあなたの恋人以外の直近三件の火災事故では、いずれも被害者の男性のスマホにこの女性の画像がありました」といい、事件と女性の関係を一緒に調べようと誘う。さらに、謎の女性の画像を手がかりに、メグミという名前と、彼女を探す消防士・海老野ホムラが見つかる。三人は、露木の“予現”する火災とメグミの手がかりを追う旅をはじめた―。
緒ノ帆、露木、ホムラという縁のなさそうな三人が、露木の予現に従ってあちこちに出向くのだが、その道中はまるで深刻さはなく、コメディのようでもある。露木もホムラも、その正体は何ともよくわからず、信じていいのやら決めかねながら読み進むが、露木の予現があながち当てずっぽうでもないことが次第にわかり、かなり危険な事態が続出する。それでも最後まで、裏に何かあるような気配はなくならないのだが、それが最後の最後に明らかにされると、腑に落ちる部分もあるが、驚きを隠せない。あの一件からすべてが始まっていたということである。恨み、憎しみ、執念、そして愛情。あまりにも強すぎるさまざまな感情が渦巻く一冊である。
望月のあと 覚書源氏物語『若菜』*森谷明子
- 2018/09/05(水) 13:48:15
紫式部が物語に忍ばせた、栄華を極める道長への企みとは?平安の都は、盗賊やつけ火が横行し、乱れはじめていた。しかし、そんな世情を歯牙にもかけぬかのように「この世をばわが世とぞ思う…」と歌に詠んだ道長。紫式部は、道長と、道長が別邸にひそかに隠す謎の姫君になぞらえて『源氏物語』を書き綴るが、そこには時の大権力者に対する、紫式部の意外な知略が潜んでいた。
役職や人名の読み方を呑み込むのがなかなか大変で、初めのうちは現代もののようにスムーズには読み進められないのだが、次第にそれも気にならなくなり、物語の展開に惹き込まれていく。源氏物語が、刻々と出来上がり、周りに少なくない影響を及ぼすさまを見ていると、物語というものの力を強く感じる。影のフィクサーは実は紫式部、だったりして……、なんて。そして、いつの時代も、女たちの逞しさは変わらない。殿方の陰で、つつましやかにしているように見えて、その実、ほんとうに肝が据わっているのは女たちなのである。なかなかに痛快。副題には若菜とあるが、玉葛の印象が強い一冊でもあった。
さよなら、わるい夢たち*森晶麿
- 2018/04/10(火) 16:43:06
朝日新聞出版 (2018-02-20)
売り上げランキング: 180,106
〈日本悪夢すぎるだろ。待機児童って何だよ、待機してんのは俺たち家族な〉
〈出てったよ。もう疲れました、だってよ。〉
〈嫁帰ってこない。詰んだな。〉
ジャーナリストの長月菜摘は、
学生時代の友人・薄井麻衣亜の夫のSNSから、彼女が幼い息子を連れて家庭を捨てたことを知る。
夫も、両親も、友人も、同僚も、彼女が消えた理由を知らないというが、
誰もが麻衣亜を失踪に駆り立てるだけの要因を持っていた――。
現代女性が背負わされた、見えない「重荷」の正体を抉りだす、
本格社会派ミステリー。
アガサ・クリスティー賞受賞作家の新境地!
読み進めるにしたがって、少しずつ印象が変わってくる物語である。失踪した友人の行方を捜す高校時代の友人のジャーナリスト菜摘の懸命さがクローズアップされる前半から、失踪した麻衣亜とその家庭の事情の救いのなさに胸を締め付けられる中盤。そして、次第にさまざまな事情が明らかになるにつれて、かすかに苛立ちを覚え始める後半からラストにかけては、だんだんと厭な気分が募ってくる。何かとんでもないものに振り回されたような心地の一冊である。
人魚姫の椅子*森晶麿
- 2017/02/24(金) 18:36:12
瀬戸内海に面した椅子作りの町、宝松市鈴香瀬町。高校生の海野杏(うみのあん)は、毎朝海辺で小説を書きながら、椅子職人を目指す同級生・五十鈴彗斗(いすずすいと)と少しだけ話すことを日課としていた。
ある日の朝、いつものようにやってきた彗斗から、「高校をやめて町を出る」と告げられる。特別仲がよかったわけではないが、傍にいて当然の存在がいなくなることに焦りを覚える杏。
時を同じくして、杏は親友の翠(みどり)からラヴレターの代筆を頼まれる。戸惑う杏だったが、必死に頼む姿にほだされ、誰にでも好かれる、明るくてかわいい翠を思い浮かべながら、一文一文を丁寧に書きだしていく。
そのラヴレターから、小さな町を揺るがす失踪事件が始まるとも知らずに。
〈黒猫シリーズ〉の著者が描く、新たな青春ミステリ。
椅子作りに夢中になる少年と、心の内を物語として紡ぎ出す少女。芽生え始めた恋心と友情の狭間で揺れる心は、そのまま物語に込められていく。勘違い、すれ違い、若い恋にありがちなシチュエーションではあるのだが、特別な椅子作りに魅入られたある人物が現れ、思っても見ない流れに呑み込まれていく。想像するとものすごくグロテスクなのだが、人魚姫の物語とシンクロすることで、グロテスクさはいささか和らいでいる。それにしても残酷この上ないことに変わりはないだろう。ラストに光は見えるものの、その点がなんとなく腑に落ちなくもある。現実と物語とを行ったり来たりしているような心地の一冊である。
ピロウボーイとうずくまる女のいる風景*森晶麿
- 2016/05/29(日) 17:24:23
貧困のどん底から、顔に深い傷跡を持つ男キムラに救われた絢野クチルは、政治家を目指して大学に通い、夜は「ピロウボーイ」として女たちと関係を持つ。「シェイクスピアを読む女」「バッハしか愛せない女」「ドヌーヴに似た女」「リキテンスタインを待つ女」女たちはみな問題を抱えているが、クチルとの関わりのなかで立ち直っていく。一方、クチルの部屋には、謎の同級生知紅が押しかけて居候となり、クチルの帰りを待っている。
恵まれない生い立ちから政治家を目指して大学に通う絢野チクル、彼に目をつけ「ピロウボーイ」に仕立て上げたキムラ、そしてその妻・冴子、チクルの部屋に押しかけてきて居ついている知紅。それぞれが只事ではない事情を抱え、願いをかけ、望みを抱きながら、ねじれた関係のなかに身を置き、しかも純粋に生きている。一見モラルも何もない自堕落な世界である印象を受けるが、登場人物が自分というものをきっちりわかっていて、背筋が伸びているように思えるので、厭な感じは全く受けず、却って清々しささえ感じられるのである。人物相関図が絡まり合っていることが、このストーリーが必然であったことを納得させる。思いがけず面白い一冊だった。
ホテル・モーリス*森晶麿
- 2016/05/20(金) 07:30:41
圧倒的なおもてなし。
毎日ギャングがやってくる。彼らを迎え撃つのは、伝説のホテルマンの妻、元殺し屋のチーフ・コンシェルジュ、そして新人支配人。
芹川准(せりかわじゅん)は、突如ホテルの支配人を任された。期間は六日、ギャングたちの大宴会まで。初日から早速、怪しげなカップル(ギャング&美女)とスキッパー(泊まり逃げ)疑惑のある少女がチェックインした。
伝説のホテルは、再び栄光を取り戻す──。
ドタバタコメディのようでいて、状況はこれ以上ないほどシリアス。そしてキャラクタもひと癖もふた癖もある個性派揃い。話の流れは無茶苦茶なのに、舞台はこれ以上ないおもてなしを謳うパラダイスのようなホテル。何もかもがミスマッチなのに、なぜかしっくりと納まってしまう不思議。どうしてこういう状況になっているのかということそのものがミステリであり、結構ハートウォーミングでもあるのがまたまたミスマッチでなかなかである。ホテル・モーリスの極上サービスを(もちろんギャング集団がいないときに)受けてみたいと思わせる一冊でもある。
アドカレ!戸山大学 広告代理店の挑戦*森晶麿
- 2016/05/15(日) 06:43:05
KADOKAWA/富士見書房 (2016-01-13)
売り上げランキング: 84,800
名コピーライターだった亡き父と同じ道を目指す私は、父の母校戸山大学に入学した。意気揚々と広告概論を受講するも、中身は期待外れ、広告研究サークルは言わずもがな…。そんなとき、目に飛び込んできた学生だけの広告代理店“アド・カレッジ”の求人看板。訪れた私に、バードと名乗る代表取締役はいきなり採用試験を言い渡した。「豆腐屋のキャッチコピーを提案すること、期限は三日」豆腐屋では強面の店主が待ち構えていて…?広告業界希望者必見の青春物語
前回の戸山大学は、飲んだくれてばかりだったが、今回は真面目に励んでいて気持ちが好い。とは言え、学生生活の描写は少なく、もっぱら広告代理店の社員として働いている姿ではあるが。亡き父がらみの人間関係が幸いしたとはいえ、最終章まで名前が明かされない「私」は、コピーライターとしての素質がある。呑み込みも早いし、なにより目のつけどころがなかなかいいのではないだろうか。豆腐屋、マンション、お詫び広告、夜行列車、謎の絵コンテ、と素材も多岐にわたっていて興味深い。バードこと海月越(うみづきこえる)と、「私」=小枡歩美のこれからも気になるし、もっと続きが読みたい一冊である。
名無しの蝶は、まだ酔わない 戸山大学<スイ研>の謎と酔理*森晶麿
- 2016/04/29(金) 18:17:49
KADOKAWA/角川書店
売り上げランキング: 687,959
『ここは推理研究会ですよね?』『いかにも、ここは酔理研究会だ』―それが神酒島先輩と、私の世界を変えるサークルとの出会いだった。憧れの“スイ研”で待っていたのは、果てなき酒宴と“酔い”の理。そして不思議な瞳を持つ幹事長・神酒島先輩で―。共感度抜群!!名無しの大学生たちの青春歳時記!
基本、酔っ払い大嫌いなわたしとしては、時を選ばず酔い潰れて、無茶苦茶をしている輩の描写には、正直うんざりである。だが、〈スイ研〉の話を読もうとする時点で、それは判り切っているのだから、文句をつける筋合いではないだろう。酔ってさえいなければ、みんな個性的でいい人っぽいのが、ある意味救いか。神酒島先輩がぽろりと漏らすひと言には、含蓄があり、蝶子との掛け合いも、突き放すでもなく、甘くなりすぎるでもなく、絶妙なバランスを最後まで貫く辺りは、見事である。二人の今後が愉しみな限りである。そんなあれこれにミステリ風味をまぶしました、と言う感じの一冊である。
異類婚姻譚*本谷有希子
- 2016/03/18(金) 18:41:29
「ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。」――結婚4年の専業主婦を主人公に、他人同士が一つになる「夫婦」という形式の魔力と違和を、軽妙なユーモアと毒を込めて描く表題作ほか、「藁の夫」など短編3篇を収録。大江健三郎賞、三島由紀夫賞受賞作家の2年半ぶり、待望の最新作!
夫婦が同化していくというところにはうなずけはするが、それに違和感を覚え始めた途端に、夫の存在そのものが輪郭をあやふやにし、よく判らないものになっていくというのは、実感としてはよくわからない。目のつけどころは面白いと思うが、ここまでホラーっ気を強くしなくてもよかったのではないかという気がしなくもない。それともこれは真性のホラーなのだろうか。それならまた別の話しではある。好みが分かれる一冊かもしれない。
そして、何も残らない*森晶麿
- 2016/03/02(水) 17:07:12
真琴は高校の卒業式を終え、既に廃校となっている母校の平静中学校を訪ねた。朽ち果てた校舎に、彼女が所属していた軽音楽部のメンバーが集められたのだ。目的は中学三年のときに部を廃部に追い込んだ教師への復讐。だが、再会を祝して全員で乾杯した瞬間、ミニコンポから、その教師の声が響き渡った。「平静中学校卒業生諸君に死を」。一同が驚愕するなか、突然メンバーのひとりが身体を痙攣させ、息を引き取る。真琴は警察に連絡をしようとするも、携帯電話の電波が届かない。しかも学校を囲む川に架かる橋が何者かによって焼き落とされ、町に戻ることができない状態になっていた…。すべて伏線、衝撃のどんでん返し…。究極の「青春+恋愛」ミステリー。
内容紹介にある通り、まさに伏線だらけである。そして、現在は高校卒業間近であると言っても、事件の発端となった中学時代のことが多く語られているのである。ほんとうにこれが中学生?と思うようなっ描写ばかりで、いささかついていけなくなる。本歌取り、というか、見立て殺人によって、橋が壊されて閉じ込められた廃校で、次々にかつての仲間が殺されていくのだが、いくら伏線があっても、これほどうまくいくものだろうかという気がしなくもない。これによって、誰かカタルシスを得たのだろうか、あるいは幸せになったのだろうか、というところも気になる。後味がいいとは言えない一冊ではある。
- | こんな一冊 トップへ |
- 次ページへ»