ビブリア古書堂の事件手帖 7~栞子さんと果てない舞台~*三上延

  • 2017/05/17(水) 16:29:45


ビブリア古書堂に迫る影。太宰治自家用の『晩年』をめぐり、取り引きに訪れた老獪な道具商の男。彼はある一冊の古書を残していく―。奇妙な縁に導かれ、対峙することになった劇作家ウィリアム・シェイクスピアの古書と謎多き仕掛け。青年店員と美しき女店主は、彼女の祖父によって張り巡らされていた巧妙な罠へと嵌っていくのだった…。人から人へと受け継がれる古書と、脈々と続く家族の縁。その物語に幕引きのときがおとずれる。


完結してしまったんだなぁというのが読後の素直な気持ちである。一応八方丸く収まったので、めでたしめでたしということなのだろうが、長年の積もり積もった思いを消化して仕事をともにする母・智恵子さんと栞子さんの姿や、それをすぐそばで見守る大輔君の姿も見てみたかった気はする。今作では、いままでになかった大金が動く難しい取引が行われ、手に汗握る緊張感もあったが、行ってみれば門外漢である大輔君の存在が助けになっていることも確かで、栞子さんには公私ともになくてはならないパートナーになっている様子が、読者にとってはとてもうれしい。いつか気まぐれに続きを書いてくれないだろうか、とつい思ってしまうシリーズである。

江ノ島西浦写真館*三上延

  • 2016/02/19(金) 09:40:44

江ノ島西浦写真館
江ノ島西浦写真館
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三上 延
光文社
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江ノ島の路地の奥、ひっそりとした入り江に佇む「江ノ島西浦写真館」。百年間営業を続けたその写真館は、館主の死により幕を閉じた。過去のある出来事から写真家の夢を諦めていた孫の桂木繭は、祖母の遺品整理のため写真館を訪れる。そこには注文したまま誰も受け取りに来ない、とごか歪な「未渡し写真」の詰まった缶があった。繭は写真を受け取りに来た青年・真鳥と共に、写真の謎を解き、注文主に返していくが―。


ビブリア古書堂の趣をそのままに、舞台を江ノ島の写真館に移したような物語である。主人公の繭は、写真館を営む祖母の手ほどきで、写真に興味を持ち、専門学校に通うようになるが、そこで、自分の考えの足りなさから、自ら撮った写真によってある人物を傷つけてしまう。それをトラウマとしてずっと胸に抱え続け、それ以後カメラさえ手放して写真から遠ざかる暮らしをしていたが、祖母が亡くなり、遺品整理のために写真館を訪れなければならなくなった。そこで出会った真鳥秋孝や、残されていた未渡しの写真に絡む謎を、繭が解き明かしていくのである。閉じられた写真館に残された写真、というどこか暗い雰囲気が、繭の心象ともマッチしていて、趣きのある風景になり、しっとりとした時間が流れる印象になっている。ラストの種明かしには、閉じられていた窓を開け放ったような明るさが感じられて、ほっとさせてくれる。やさしい一冊である。

消えない夏に僕らはいる*水生大海

  • 2015/10/17(土) 16:56:08

消えない夏に僕らはいる (新潮文庫nex)
水生 大海
新潮社 (2014-09-27)
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5年前、響の暮らす田舎町に、都会の小学生たちが校外学習で訪れた。同学年の5年生と言葉を交わすうち、彼らを廃校に案内する。きもだめしをすることになった響たちは、ある事件に遭遇し、一人の女子が大怪我を負ってしまう。責任を感じ、忌まわしい記憶を封印した響だが高校生活に希望を抱くなか、あの日の彼らと同じクラスで再会する―少年少女の鮮烈な季節を描く、青春冒険譚。


小学校五年の夏の校外学習で体験した衝撃的な出来事を、そのときの五人(響、友樹、紀衣、ユカリ、宙太)は、何らかの形でそれぞれ引きずったまま高校生になって再開し、そのまま封じ込めようとしていたものが再びよみがえってきてしまう。五年生のときの立場や役割によって、それぞれが抱えるものが少しずつ違い、それがその後の性格形成にも影響を及ぼしていたり、僅かずつずれて微妙な気遣いになっているあたりが興味深い。高校のクラスの中の人間関係も絡み、面白く読ませるが、ラストの決着がいささか物足りなかった印象はある。彼らの本当の青春はこれから始まるのだと思わせてくれる一冊ではある。

読めない遺言書*深山亮

  • 2015/06/26(金) 18:54:20

読めない遺言書
読めない遺言書
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深山 亮
双葉社
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平凡な教師の竹原は、ある日、警察から父の孤独死を知らされる。いつか我が家に帰ってくると思っていた父。だが、見つかった遺言書は“全遺産を小井戸広美に遺贈する”という、見ず知らずの人物に宛てられた信じがたいものだった。家族を捨てた事への憤りとやりきれなさを胸に広美を追い始めた途端、尾行、盗撮、放火と、立て続けに事件に巻き込まれ―。竹原は遺言書を握りしめ、父が残した「謎」を追う。緻密な構成と劇的な展開が導く、驚愕のラスト。珠玉の長編推理小説。


家族を捨てた――とずっと思っていた――父の孤独死によって、見ず知らずの人物に全財産を譲るという遺言書を手にすることになった中学校教師・竹原が主人公。遺言書にある人物・小井戸広美とはどんな人物で、父とはどんな関係なのか。調べる内に、ホームレスの支援活動に行き着き、さらにその裏側にはびこるものを知ることになる。教師としての存在意義、教え子の抱える問題、同僚に抱くコンプレックスなどなど、さまざまな要素を絡めながら、流れが次第に一本にまとまっていくのが心地好い。泥沼に陥るかと思った物語であるが、最後は胸の中がほんのりぬくもる一冊である。

本格小説 下*水村美苗

  • 2015/03/17(火) 17:13:27

本格小説 下本格小説 下
(2002/09)
水村 美苗

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夏目漱石の遺作を書き継いだ『続明暗』で鮮烈なデビューを果たし、前代未聞のバイリンガル小説『私小説from left to right』で読書人を瞠目させた著者が、七年の歳月を費やし、待望の第三作を放つ。21世紀に物語を紡ぐことへの果敢な挑戦が、忘れかけていた文学の悦びを呼び招く。


上巻を読んでから時間が空いてしまったが、やっと下巻を読むことができた。上巻から持ち越された緊張感と昂揚感はそのまま続き、東太郎、冨美子、よう子、そして三枝三姉妹や関係者たちもそれぞれ歳を重ねて状況はずいぶん変わってくる。よう子は重之ちゃんと結婚し、娘も生まれたが、太郎に対する気持ちが消え去ってしまったわけではなかったのである。太郎とよう子、夫の重之三人の関係は、危うい緊張感の上に安定し、しあわせの極みとも言える時を過ごしもする。彼らが主役の物語でありながら、それよりも、語り手とも言える冨美子の一生の物語とも思われ、最後に語られる事実にその感をさらに強くするのである。人というもののむずかしさ奥深さ、底知れなさを思わされる一冊である。

ビブリア古書堂の事件手帖6--栞子さんと巡るさだめ*三上延

  • 2015/02/22(日) 13:56:57

ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~ (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~ (メディアワークス文庫)
(2014/12/25)
三上 延

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太宰治の『晩年』を奪うため、美しき女店主に危害を加えた青年。ビブリア古書堂の二人の前に、彼が再び現れる。今度は依頼者として。違う『晩年』を捜しているという奇妙な依頼。署名ではないのに、太宰自筆と分かる珍しい書きこみがあるらしい。本を追ううちに、二人は驚くべき事実に辿り着く。四十七年前にあった太宰の稀覯本を巡る盗難事件。それには二人の祖父母が関わっていた。過去を再現するかのような奇妙な巡り合わせ。深い謎の先に待つのは偶然か必然か?


栞子さんと大輔くんはやっとつきあい始めたものの、なんだかもどかしすぎるほどにぎこちないままである。それなのに、妹の文音がみんなに知らせて歩くものだから、会う人ごとにからかわれてさらにぎこちなくなる二人なのである。そんな折、栞子さんにけがを負わせた張本人の田中が今度は依頼人として近づいてくる。もう一冊ある太宰の『晩年』を探してほしい、というのだ。調べていくうちに、祖父母の時代の絡まった人間模様が浮き彫りにされてくる。古書に関しては栞子さんの知識と洞察力には目を瞠るものがあるが、人間関係をここまでややこしくしなくてもよかったのではないか、と思わなくもない。ともかく、次回作では二人にもう少し進展があることを祈らずにはいられないシリーズである。

本格小説 上*水村美苗

  • 2015/01/20(火) 18:49:56

本格小説 上本格小説 上
(2002/09)
水村 美苗

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ある夜、“水村美苗”は奇跡の物語を授かった。米国での少女時代に出逢った実在する男の、まるで小説のような人生の話。それが今からあなたの読む『本格小説』…。軽井沢に芽生え、階級と国境に一度は阻まれた「この世ではならぬ恋」がドラマチックに目を覚ます。脈々と流れる血族史が戦後日本の肖像を描く。


本格小説というタイトルだが、まず「本格小説の始まる前の長い長い話」という章があり、水村美苗のアメリカ滞在中の少女時代のあれこれが描かれていて、それがこの小説を書くきっかけになったのだという。初読みの著者なので、どんな仕掛けが隠されているのか皆目想像がつかず、自伝のような出だしに少なからず戸惑う。本編(?)が始まってからは、物語に惹きこまれはするが、冒頭の章がどうかかわってくるのかが気になったまま、上巻は終わり、物語の主人公・東太郎のこの先の生き方も気になるが、どんな構成になっているのかも気になって仕方がない。早く下巻を読みたくなる一冊である。

倒立する塔の殺人*皆川博子

  • 2014/09/24(水) 17:08:50

倒立する塔の殺人 (PHP文芸文庫)倒立する塔の殺人 (PHP文芸文庫)
(2011/11/17)
皆川 博子

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少女を殺したのは、物語に秘められた毒――戦時中のミッションスクールでは、少女たちの間で小説の回し書きが流行していた。蔓薔薇模様の囲みの中に『倒立する塔の殺人』とタイトルだけ記されたその美しいノートは、図書館の書架に本に紛れてひっそり置かれていた。ノートを手にした者は続きを書き継ぐ。しかし、一人の少女の死をきっかけに、物語に秘められた恐ろしい企みが明らかになり……物語と現実が絡み合う、万華鏡のように美しいミステリー。


女学校というある意味閉ざされ守られた場所が主な舞台であり、さらに戦時下という特殊な心理状況の下であったからこその物語であろう。物語の中で綴りあげられていく物語と、物語の中の現実とが入り組み互いに影響を与え合ってより不可思議な景色を見せているようでもある。時を隔て、ふとした勘違いを利用し、当初は思いもしなかった事実が明らかにされていくのだが、読むうちにだんだんと現実と作中作のどちらが先なのか判然としなくなってくるのがめまいのような感覚で、タイトルとも相まって不思議な心持ちにさせられる一冊である。

ビブリア古書堂の事件手帖5~栞子さんと繋がりの時~*三上延

  • 2014/09/11(木) 16:25:24

ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)
(2014/01/24)
三上 延

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静かにあたためてきた想い。無骨な青年店員の告白は美しき女店主との関係に波紋を投じる。彼女の答えは―今はただ待ってほしい、だった。ぎこちない二人を結びつけたのは、またしても古書だった。謎めいたいわくに秘められていたのは、過去と今、人と人、思わぬ繋がり。脆いようで強固な人の想いに触れ、何かが変わる気がした。だが、それを試すかのように、彼女の母が現れる。邂逅は必然―彼女は母を待っていたのか?すべての答えの出る時が迫っていた。


またまた面倒な事件に首を突っ込んでいる栞子さんなのである。そして、その事件のいくつかは、何と母が彼女を試すために仕掛けているのではないかという疑惑も。さらに、思い切って告白した大輔に五月いっぱいまで返事を保留し、栞子がしなければならないこととは。もどかしくほのぼのとした大輔と栞子の関係と、それを進めるために栞子が乗り越えなくてはならないことに立ち向かい、さらにそのために母の挑戦を受けて謎を解く。栞子さんにとってはなにやら決死の感じでもある。今後のあれもこれも気になるシリーズである。

致死量未満の殺人*三沢陽一

  • 2013/12/15(日) 17:12:05

致死量未満の殺人致死量未満の殺人
(2013/10/25)
三沢 陽一

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雪に閉ざされた山荘で、女子大生・弥生が毒殺された。容疑者は一緒に宿泊していた同じ大学のゼミ仲間4人――龍太、花帆、真佐人、圭。外の世界から切り離された密室状況で、同じ食事、同じ飲み物を分け合っていたはずなのに、犯人はどうやって弥生だけに毒を飲ませることができたのか。警察が到着するまで、残された4人は推理合戦を始める……15年後、雪の降る夜。花帆と夫の営む喫茶店を訪れたのは、卒業以来、音信不通の龍太だった。あと数時間で時効を迎える弥生の事件は、未解決のまま花帆たちの人生に拭いきれない影を落としていた。だが、龍太はおもむろに告げる。「弥生を殺したのは俺だよ」たび重なる推理とどんでん返しの果てに明かされる驚愕の真相とは? 〈第3回アガサ・クリスティー賞〉に輝く正統派本格ミステリ。


犯人が事項間際に当時の仲間に告白し、そのときのことを振り返るという趣向なので、誰が犯人かというハラハラ感はなく、如何にして殺したかというところに注目して読むことになるのだが、それさえも著者の仕掛けたトリックだったのかもしれない。最後まで読むと、あのとき無差別殺人を疑ってパニックにならなかった理由も腑に落ちるのである。そうだったのか…。最後の最後のどんでん返しは、あまりにも身勝手すぎて、胸が悪くなる感もあるが、最後まで緊張を切らせない一冊だった。

ビブリア古書堂の事件手帖4~栞子さんと二つの顔~*三上延

  • 2013/04/22(月) 17:13:30

ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ (メディアワークス文庫)
(2013/02/22)
三上 延

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珍しい古書に関係する、特別な相談―謎めいた依頼に、ビブリア古書堂の二人は鎌倉の雪ノ下へ向かう。その家には驚くべきものが待っていた。稀代の探偵、推理小説作家江戸川乱歩の膨大なコレクション。それを譲る代わりに、ある人物が残した精巧な金庫を開けてほしいと持ち主は言う。金庫の謎には乱歩作品を取り巻く人々の数奇な人生が絡んでいた。そして、深まる謎はあの人物までも引き寄せる。美しき女店主とその母、謎解きは二人の知恵比べの様相を呈してくるのだが―。


ドラマを先に観てしまったせいで、謎解きのわくわく感はまったくなかったが、ドラマでは描かれなかったところに、ほんのちょっとしたどきどきがあったりもして、やはり原作は想像力をかきたてられていいものである。大輔も、少しずつ長く本を読めるようになっているようだし、栞子さんとの距離もじりじりと縮まってもきていることだし、次作辺りでそろそろ母とも決着がつくのだろうか。ドラマがなかったらもっと愉しめた一冊である。

ビブリア古書堂の事件手帖3~栞子さんと消えない絆~*三上延

  • 2013/02/16(土) 17:09:30

ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)
(2012/06/21)
三上 延

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鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂は、その佇まいに似合わず様々な客が訪れる。すっかり常連の賑やかなあの人や、困惑するような珍客も。人々は懐かしい本に想いを込める。それらは予期せぬ人と人の絆を表出させることも。美しき女店主は頁をめくるように、古書に秘められたその「言葉」を読みとっていく。彼女と無骨な青年店員が、その妙なる絆を目の当たりにしたとき思うのは?絆はとても近いところにもあるのかもしれない―。これは“古書と絆”の物語。


 第一話/ロバート・ヤング『たんぽぽ娘』(集英社文庫)
 第二話/『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』
 第三話/宮澤賢治『春と修羅』(関根書店)

シリーズ三作目にして、栞子さんが胸の裡に押し込めていた母をめぐる何かが動き出したようである。プロローグとエピローグでは、妹の文香の母に対する思いも垣間見られ、姉妹それぞれの屈託が少しずつ明るみに出てくる予感もある。そして、篠川家の問題だけでなく、ビブリア古書堂の客の家庭でもさまざまな本に関する厄介ごとが持ち上がり、栞子さんが静かに、ある時は熱くそれを解き明かし、家族の絆を再確認することになるのである。放映中のドラマに、『春と修羅』がもう登場してしまい、先に映像を観てしまったが、さほど違和感はなかった。姉妹と母、栞子さんと大輔の関係は、次の作品で何らかの展開を見せるのだろうか。そちらも愉しみなシリーズである。

清須会議*三谷幸喜

  • 2012/08/17(金) 18:11:18

清須会議清須会議
(2012/06/27)
三谷 幸喜

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生誕50周年記念「三谷幸喜大感謝祭」のラストを飾る、満を持しての書き下ろし小説、遂に刊行! 信長亡きあとの日本の歴史を左右する五日間の攻防を「現代語訳」で綴る、笑いと驚きとドラマに満ちた、三谷印の傑作時代エンタテインメント!

日本史上初めての会議。「情」をとるか「利」をとるか。
本能寺の変、一代の英雄織田信長が死んだ。跡目に名乗りを上げたのは、柴田勝家と羽柴秀吉。その決着は、清須会議で着けられることになる。二人が想いを寄せるお市の方は、秀吉憎さで勝家につく。浮かれる勝家は、会議での勝利も疑わない。傷心のうえ、会議の前哨戦とも言えるイノシシ狩りでも破れた秀吉は、誰もが驚く奇策を持って会議に臨む。丹羽長秀、池田恒興はじめ、会議を取り巻く武将たちの逡巡、お市の方、寧、松姫たちの愛憎。歴史の裏の思惑が、今、明かされる。


これで歴史を知ったつもりになってはいけないと思うが、教科書の中にしか存在しないイメージだった戦国武将たちが、一瞬にして身近な存在になることは請け合いである。本作は歴史小説ではなく、現代語(訳)の会話と思考のみで成り立っていることを思えば、小説かどうかも判断に迷うのだが、面白いことだけは確かである。信長を取り巻く武将たちの、信長亡き後の思惑や腹の探り合いの本音を、透明人間になって見聞きしたような心地になれる一冊である。

ビブリア古書堂の事件手帖*三上延

  • 2012/04/10(火) 18:26:09

ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)
(2011/03/25)
三上 延

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鎌倉の片隅でひっそりと営業をしている古本屋「ビブリア古書堂」。そこの店主は古本屋のイメージに合わない若くきれいな女性だ。残念なのは、初対面の人間とは口もきけない人見知り。接客業を営む者として心配になる女性だった。だが、古書の知識は並大低ではない。人に対してと真逆に、本には人一倍の情熱を燃やす彼女のもとには、いわくつきの古書が持ち込まれることも、彼女は古書にまつわる謎と秘密を、まるで見てきたかのように解き明かしていく。これは“古書と秘密”の物語。


 プロローグ
 第一話 夏目漱石『漱石全集・新書版』(岩波書店)
 第二話 小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)
 第三話 ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』(青木文庫)
 第四話 太宰治『晩年』(砂子屋書房)
 エピローグ

ビブリア古書堂シリーズ一作目。物語は一話完結の連作形式なので、どこから読んでも愉しめるが、二作目から先に読んでしまったので、想像するしかなかった詳しい事情がやっとわかっていろいろと納得できた。それにしても栞子さんの本に対する愛情の深さの並大抵でなさを、またまた思い知らされた。そして、今回は骨折して病院のベッドにいるので、比喩でもなんでもなく動くことができないので、まさに安楽椅子探偵なのである。ほんの少しの手がかりから事件の背景や当事者の心の動きまで推理してしまうのには、舌を巻くしかない。人が出会い、心酔し、強い絆で結ばれるようになるというのはこういうことなのだと思わせてくれる一冊でもある。

ビブリア古書堂の事件手帖2*三上延

  • 2012/03/27(火) 08:48:10

ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫)
(2011/10/25)
三上 延

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鎌倉の片隅にひっそりと佇むビブリア古書堂。その美しい女店主が帰ってきた。だが、入院以前とは勝手が違うよう。店内で古書と悪戦苦闘する無骨な青年の存在に、戸惑いつつもひそかに目を細めるのだった。変わらないことも一つある―それは持ち主の秘密を抱えて持ち込まれる本。まるで吸い寄せられるかのように舞い込んでくる古書には、人の秘密、そして想いがこもっている。青年とともに彼女はそれをあるときは鋭く、あるときは優しく紐解いていき―。


またシリーズ逆読みになってしまった。一作目で何があったのか気にはなるが、事件としては一話完結の連作なので、充分愉しめる。坂口三千代の『クラクラ日記』、アントニイ・バージェスの『時計じかけのオレンジ』、福田定一の『名言随筆 サラリーマン』、足塚不二雄の『UTOPIA 最後の世界大戦』にまつわる謎を、ビブリア古書堂の美しい女店主・篠川栞子が解き明かす、という日常の謎ミステリである。店員として働く大輔の目線で語られることによって、客観的に眺められるようにもなり、二人の関係にも興味を引かれる。栞子さんと失踪した母とのこともこれからどうなるのか気がかりである。一作目も次回作も早く読みたい一冊である。