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僕はいつも巻きこまれる*水生大海

  • 2020/03/08(日) 13:10:06


大手損保会社に入社した僕―椎名逸斗は立ち寄ったコンビニで暴走車の激突事故に遭遇!一人が死亡、一人が心不全の大惨事。救命処置を行なった僕は、命を救った英雄…のはずが、死亡した被害者が強盗犯だという事実に事態は一変!なぜか共犯者だと疑われネットは炎上、会社は冷遇。窮地の僕は、6年ぶりに再会した元カノの清夏と、無実を証明するため事件の謎に迫る!


偶然が偶然を呼び、さまざまな不運が重なり、椎名はとんでもない事態に巻き込まれることになる。だがそれはほんとうに偶然なのだろうか、あるいは単なる不運なのだろうか。次々に椎名の周りに現れるアクの強すぎる人物たちにも翻弄され、会社の信用問題まで取りざたされるようになり、一体椎名は巻きこまれた厄介事から抜け出すことができるのだろうか、というハラハラドキドキの物語である。何を言っても信じてもらえない焦燥感と、誰を信じていいのか判らなくなる猜疑心にも駆られ、果てには命まで狙われる事態になるとは、物語の冒頭では想像もできなかった。翼が回復しなかったらどうなったのだろうという疑問もなくはないが、まあ納得できる結果にはなったのではないだろうか。椎名の日常をもっと見たいと思わされる一冊ではある。

ランチ探偵 容疑者のレシピ*水生大海

  • 2020/02/19(水) 16:26:55


社宅の闖入者、密室の盗難……オフィス街の事件の犯人は?
大仏ホームのOL・麗子は「トラブルが起こっている」の一言で、ランチの外食を渋る同僚・ゆいかを誘い出すことに成功。
訪れた洋食店には、呪われた社宅に住んでいると悩む男性が……。(「その部屋ではなにも起こらない」)。
閉ざされた美容室での盗難、命を狙われるペットなど、合コ社宅の闖入者、密室の盗難……オフィス街の事件の犯人は?
大仏ホームのOL・麗子は「トラブルがン相手が持ち込む謎にOLコンビが挑む全5話。好評シリーズ第2弾。


ドラマとリンクしている部分があることもあり、ストーリーがわかっているものもあるが、ゆいかと麗子のキャラクタ設定など、ドラマに流されずに楽しめる部分もあって、さらに興味深かった。ゆいかがその場にいないという新展開もあり、それが嬉しいラストにもつながっていくので、ほっとした。次もあってほしいシリーズである。

きみの正義は 社労士のヒナコ*水生大海

  • 2019/12/19(木) 11:51:20


私はいったい、誰の味方なの?
社労士を主人公にした、究極のお仕事小説!

派遣社員から一念発起し、社労士の資格をとった朝倉雛子(まもなく28歳)。
小さな社労士事務所の一員となるが、舞い込んでくる案件は難しいものばかり。

・雇用の新ルールで有期雇用から無期雇用へ! それでも辞めさせたい経営者。
・年齢を偽って働いていた未成年の従業員が、就業中に怪我をしてしまった!
・人件費を減らすため、残業代を申請しないチェーン書店の店長。そんなのアリ?
・出張中に上司からセクハラを受けたという社員。しかし証言は食い違い……
・介護問題で時短を望むも、経営者からはアルバイトに戻ることを勧められた!

読んでいるうちにいつにまにか労働問題にも詳しくなれる!
ミステリー風味が効いたお仕事小説の傑作です。


ひよっこ社労士の朝倉雛子は、事務所では相変わらずヒヨコちゃんと呼ばれているが、仕事内容は日々難度が増している。今回も、一筋縄ではいかない案件ばかりである。無自覚な経営者や、我が道を行く経営者、労働者側にも問題が多々あり――と、八方塞がりに見える案件が目白押しだが、ひとつずつ根気よく整理整頓していけば、なんとかなるものである。ただ、そこまで行くまでに、経営者側に立つだけではなく、働く現場の人たちの現状に寄り添い、各人の背景にまで思いを致すヒナコの仕事は、一見無駄が多そうでもあるが、出来得る限り最善の解決策に着地させてしまうところが見事でもある。もう立派にひとり立ちと言っていい。次作にも大いに期待したいシリーズである。

ひよっこ社労士のヒナコ*水生大海

  • 2019/10/26(土) 12:32:57

ひよっこ社労士のヒナコ
水生 大海
文藝春秋
売り上げランキング: 117,510

パワハラ、産休育休、残業代、裁量労働制、労災、解雇、ブラックバイト…。新米社労士の朝倉雛子(26歳、恋人なし)が、6つの事件を解決。


ひよっこ社労士の朝倉雛子が、さまざまなクライアントのもとへ駆けつけ、各社の問題点を提起し、改善策をアドバイスしながら、人間関係を観察したり、しがらみに絡めとられそうになったりしながらも奮闘し、成長していく物語である。ヒナコの葛藤を、読者も無理なく共有できるので、同じ目線で共感したり憤ったりする愉しみもある。今後の成長も愉しみな一冊である。

教室の灯りは謎の色*水生大海

  • 2019/10/07(月) 16:40:50

教室の灯りは謎の色
教室の灯りは謎の色
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水生 大海
KADOKAWA/角川書店 (2016-08-27)
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塾には通いながらも不登校を続ける、高校生の遥。遥には母親が教師をしている学校へ行けない理由があった。ある日、塾の近くのレンタルショップで事件が起き、遥は犯人だと疑われる。窮地を救ってくれたのは、居合わせた塾講師の黒澤だった。寡黙ながら救いの手を差し伸べてくれる黒澤に、遥の心は少しずつ解きほぐされていく。レンタルショップの事件は、遥が不登校になるきっかけとなった出来事にもつながっていき、やがて、黒澤の言葉が彼女の世界を変える――。


言ってみれば、塾講師とその生徒のコンビ探偵物語と言えるだろうか。塾講師の黒澤は、身体に合わないおじさんぽい背広に、実はきれいな顔を隠すようなメガネをかけた、寡黙で一見冷たい先生なのだが、事に当たった際の着眼点と洞察力には、優れたものがある。一方の塾生・遥は、そんな先生を慕って、探偵の助手よろしく、事件にかかわるさまざまな調査を買って出る。それが解決につながることもなくはない。なので、コンビと言っていいかは微妙なところではあるのだが。黒澤の個人の事情に踏み込み過ぎないスタンスは好ましく、遥の一生懸命さも微笑ましい。もっと二人のコンビを見たい一冊である。

ランチ探偵*水生大海

  • 2019/09/30(月) 16:58:25

ランチ探偵 (実業之日本社文庫)
水生大海
実業之日本社 (2016-10-06)
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大仏ホーム経理部のOL・阿久津麗子は、同僚の天野ゆいかを誘ってランチ合コンへ。
恋人に振られたばかりでいい出会いを求める麗子だが、
なぜか男性陣から持ち込まれる話題は、犯人探しや暗号解読ばかり。
深夜に動くエレベーター、金曜日に大量の弁当を購入する美女、ストーカー事件の真犯人、
失踪した新婦が残したメッセージ、アパートの窓に日替わりで現れる動物、消えた結婚指輪。
ミステリマニアのゆいかは、それらの「謎」に興味を示し……。
オフィス街の怪事件に安楽椅子探偵のニューヒロイン・天野ゆいかが挑む!


ランチタイムにセッティングした合コンの場で、話題に出た謎を解き明かすという安楽椅子探偵物語である。話題に出した本人は、解き明かしてもらおうという気などさらさらないのだが、麗子の同僚のゆいかが、そのたびに食いつくのである。でも、結果としてその謎解きで、合コン相手が救われたり、腑に落ちて次に進めるようになったりするので、後味は悪くない。恋人がいつまでも見つからないのは、そのせいなのかどうなのか。こんなちょっとした謎解きがみられるなら、ランチ合コン、いつまでも続いてほしい気もする。次も愉しみな一冊である。

最後のページをめくるまで*水生大海

  • 2019/09/18(水) 16:23:10

最後のページをめくるまで
水生 大海
双葉社
売り上げランキング: 87,951

小説の、最後の最後でおどろきたい方、ぜひどうぞ。「どんでん返し」をテーマに描いたミステリー5編。
「使い勝手のいい女」「わずかばかりの犠牲」「骨になったら」「監督不行き届き」「復讐は神に任せよ」……
どの短編も、ラストで景色が一変します。


割と軽く読めるが、ラストでガラッと視点が変わると、いままで見えていたのとは別の景色が見えてくる。人間の思い込みと、脳のだまされやすさを思い知らされる一冊である。

ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と不思議な客人たち~*三上延

  • 2018/12/16(日) 19:03:50


ある夫婦が営む古書店がある。鎌倉の片隅にひっそりと佇む「ビブリア古書堂」。その店主は古本屋のイメージに合わない、きれいな女性だ。そしてその傍らには、女店主にそっくりな少女の姿があった―。女店主は少女へ、静かに語り聞かせる。一冊の古書から紐解かれる不思議な客人たちの話を。古い本に詰まっている、絆と秘密の物語を。人から人へと受け継がれる本の記憶。その扉が今再び開かれる。


栞子さんと大輔くんが結婚し、生まれた子ども・扉子が6歳の時のお話である。外見は母親似だが、はきはきしていて、本が大好き。でも、人とかかわるのは少々苦手のようである。そんな扉子が興味を持った過去の出来事を、栞子が話して聞かせるという趣向の本作である。これまで出てきたさまざまな事件を、別の角度から眺めているような感もあり、なるほどそうだったのか、と思わせられることもある。扉子にとっては、面白かったり面白くなかったりそれぞれのようだが、いまのところまだ何を思っているのかはよくわからない。これからどんな風に育っていくのか、栞子の才能を受け継いでいくのか、ますます愉しみなシリーズである。

ビブリア古書堂の事件手帖 7~栞子さんと果てない舞台~*三上延

  • 2017/05/17(水) 16:29:45


ビブリア古書堂に迫る影。太宰治自家用の『晩年』をめぐり、取り引きに訪れた老獪な道具商の男。彼はある一冊の古書を残していく―。奇妙な縁に導かれ、対峙することになった劇作家ウィリアム・シェイクスピアの古書と謎多き仕掛け。青年店員と美しき女店主は、彼女の祖父によって張り巡らされていた巧妙な罠へと嵌っていくのだった…。人から人へと受け継がれる古書と、脈々と続く家族の縁。その物語に幕引きのときがおとずれる。


完結してしまったんだなぁというのが読後の素直な気持ちである。一応八方丸く収まったので、めでたしめでたしということなのだろうが、長年の積もり積もった思いを消化して仕事をともにする母・智恵子さんと栞子さんの姿や、それをすぐそばで見守る大輔君の姿も見てみたかった気はする。今作では、いままでになかった大金が動く難しい取引が行われ、手に汗握る緊張感もあったが、行ってみれば門外漢である大輔君の存在が助けになっていることも確かで、栞子さんには公私ともになくてはならないパートナーになっている様子が、読者にとってはとてもうれしい。いつか気まぐれに続きを書いてくれないだろうか、とつい思ってしまうシリーズである。

江ノ島西浦写真館*三上延

  • 2016/02/19(金) 09:40:44

江ノ島西浦写真館
江ノ島西浦写真館
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三上 延
光文社
売り上げランキング: 8,524

江ノ島の路地の奥、ひっそりとした入り江に佇む「江ノ島西浦写真館」。百年間営業を続けたその写真館は、館主の死により幕を閉じた。過去のある出来事から写真家の夢を諦めていた孫の桂木繭は、祖母の遺品整理のため写真館を訪れる。そこには注文したまま誰も受け取りに来ない、とごか歪な「未渡し写真」の詰まった缶があった。繭は写真を受け取りに来た青年・真鳥と共に、写真の謎を解き、注文主に返していくが―。


ビブリア古書堂の趣をそのままに、舞台を江ノ島の写真館に移したような物語である。主人公の繭は、写真館を営む祖母の手ほどきで、写真に興味を持ち、専門学校に通うようになるが、そこで、自分の考えの足りなさから、自ら撮った写真によってある人物を傷つけてしまう。それをトラウマとしてずっと胸に抱え続け、それ以後カメラさえ手放して写真から遠ざかる暮らしをしていたが、祖母が亡くなり、遺品整理のために写真館を訪れなければならなくなった。そこで出会った真鳥秋孝や、残されていた未渡しの写真に絡む謎を、繭が解き明かしていくのである。閉じられた写真館に残された写真、というどこか暗い雰囲気が、繭の心象ともマッチしていて、趣きのある風景になり、しっとりとした時間が流れる印象になっている。ラストの種明かしには、閉じられていた窓を開け放ったような明るさが感じられて、ほっとさせてくれる。やさしい一冊である。

消えない夏に僕らはいる*水生大海

  • 2015/10/17(土) 16:56:08

消えない夏に僕らはいる (新潮文庫nex)
水生 大海
新潮社 (2014-09-27)
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5年前、響の暮らす田舎町に、都会の小学生たちが校外学習で訪れた。同学年の5年生と言葉を交わすうち、彼らを廃校に案内する。きもだめしをすることになった響たちは、ある事件に遭遇し、一人の女子が大怪我を負ってしまう。責任を感じ、忌まわしい記憶を封印した響だが高校生活に希望を抱くなか、あの日の彼らと同じクラスで再会する―少年少女の鮮烈な季節を描く、青春冒険譚。


小学校五年の夏の校外学習で体験した衝撃的な出来事を、そのときの五人(響、友樹、紀衣、ユカリ、宙太)は、何らかの形でそれぞれ引きずったまま高校生になって再開し、そのまま封じ込めようとしていたものが再びよみがえってきてしまう。五年生のときの立場や役割によって、それぞれが抱えるものが少しずつ違い、それがその後の性格形成にも影響を及ぼしていたり、僅かずつずれて微妙な気遣いになっているあたりが興味深い。高校のクラスの中の人間関係も絡み、面白く読ませるが、ラストの決着がいささか物足りなかった印象はある。彼らの本当の青春はこれから始まるのだと思わせてくれる一冊ではある。

読めない遺言書*深山亮

  • 2015/06/26(金) 18:54:20

読めない遺言書
読めない遺言書
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深山 亮
双葉社
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平凡な教師の竹原は、ある日、警察から父の孤独死を知らされる。いつか我が家に帰ってくると思っていた父。だが、見つかった遺言書は“全遺産を小井戸広美に遺贈する”という、見ず知らずの人物に宛てられた信じがたいものだった。家族を捨てた事への憤りとやりきれなさを胸に広美を追い始めた途端、尾行、盗撮、放火と、立て続けに事件に巻き込まれ―。竹原は遺言書を握りしめ、父が残した「謎」を追う。緻密な構成と劇的な展開が導く、驚愕のラスト。珠玉の長編推理小説。


家族を捨てた――とずっと思っていた――父の孤独死によって、見ず知らずの人物に全財産を譲るという遺言書を手にすることになった中学校教師・竹原が主人公。遺言書にある人物・小井戸広美とはどんな人物で、父とはどんな関係なのか。調べる内に、ホームレスの支援活動に行き着き、さらにその裏側にはびこるものを知ることになる。教師としての存在意義、教え子の抱える問題、同僚に抱くコンプレックスなどなど、さまざまな要素を絡めながら、流れが次第に一本にまとまっていくのが心地好い。泥沼に陥るかと思った物語であるが、最後は胸の中がほんのりぬくもる一冊である。

本格小説 下*水村美苗

  • 2015/03/17(火) 17:13:27

本格小説 下本格小説 下
(2002/09)
水村 美苗

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夏目漱石の遺作を書き継いだ『続明暗』で鮮烈なデビューを果たし、前代未聞のバイリンガル小説『私小説from left to right』で読書人を瞠目させた著者が、七年の歳月を費やし、待望の第三作を放つ。21世紀に物語を紡ぐことへの果敢な挑戦が、忘れかけていた文学の悦びを呼び招く。


上巻を読んでから時間が空いてしまったが、やっと下巻を読むことができた。上巻から持ち越された緊張感と昂揚感はそのまま続き、東太郎、冨美子、よう子、そして三枝三姉妹や関係者たちもそれぞれ歳を重ねて状況はずいぶん変わってくる。よう子は重之ちゃんと結婚し、娘も生まれたが、太郎に対する気持ちが消え去ってしまったわけではなかったのである。太郎とよう子、夫の重之三人の関係は、危うい緊張感の上に安定し、しあわせの極みとも言える時を過ごしもする。彼らが主役の物語でありながら、それよりも、語り手とも言える冨美子の一生の物語とも思われ、最後に語られる事実にその感をさらに強くするのである。人というもののむずかしさ奥深さ、底知れなさを思わされる一冊である。

ビブリア古書堂の事件手帖6--栞子さんと巡るさだめ*三上延

  • 2015/02/22(日) 13:56:57

ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~ (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~ (メディアワークス文庫)
(2014/12/25)
三上 延

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太宰治の『晩年』を奪うため、美しき女店主に危害を加えた青年。ビブリア古書堂の二人の前に、彼が再び現れる。今度は依頼者として。違う『晩年』を捜しているという奇妙な依頼。署名ではないのに、太宰自筆と分かる珍しい書きこみがあるらしい。本を追ううちに、二人は驚くべき事実に辿り着く。四十七年前にあった太宰の稀覯本を巡る盗難事件。それには二人の祖父母が関わっていた。過去を再現するかのような奇妙な巡り合わせ。深い謎の先に待つのは偶然か必然か?


栞子さんと大輔くんはやっとつきあい始めたものの、なんだかもどかしすぎるほどにぎこちないままである。それなのに、妹の文音がみんなに知らせて歩くものだから、会う人ごとにからかわれてさらにぎこちなくなる二人なのである。そんな折、栞子さんにけがを負わせた張本人の田中が今度は依頼人として近づいてくる。もう一冊ある太宰の『晩年』を探してほしい、というのだ。調べていくうちに、祖父母の時代の絡まった人間模様が浮き彫りにされてくる。古書に関しては栞子さんの知識と洞察力には目を瞠るものがあるが、人間関係をここまでややこしくしなくてもよかったのではないか、と思わなくもない。ともかく、次回作では二人にもう少し進展があることを祈らずにはいられないシリーズである。

本格小説 上*水村美苗

  • 2015/01/20(火) 18:49:56

本格小説 上本格小説 上
(2002/09)
水村 美苗

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ある夜、“水村美苗”は奇跡の物語を授かった。米国での少女時代に出逢った実在する男の、まるで小説のような人生の話。それが今からあなたの読む『本格小説』…。軽井沢に芽生え、階級と国境に一度は阻まれた「この世ではならぬ恋」がドラマチックに目を覚ます。脈々と流れる血族史が戦後日本の肖像を描く。


本格小説というタイトルだが、まず「本格小説の始まる前の長い長い話」という章があり、水村美苗のアメリカ滞在中の少女時代のあれこれが描かれていて、それがこの小説を書くきっかけになったのだという。初読みの著者なので、どんな仕掛けが隠されているのか皆目想像がつかず、自伝のような出だしに少なからず戸惑う。本編(?)が始まってからは、物語に惹きこまれはするが、冒頭の章がどうかかわってくるのかが気になったまま、上巻は終わり、物語の主人公・東太郎のこの先の生き方も気になるが、どんな構成になっているのかも気になって仕方がない。早く下巻を読みたくなる一冊である。