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秘密は日記に隠すもの*永井するみ
- 2012/08/07(火) 19:42:27
![]() | 秘密は日記に隠すもの (2012/07/18) 永井 するみ 商品詳細を見る |
父親の秘密を見つけた女子高生の日記「トロフィー」、母の死を引きずる43歳独身男性の日記「道化師」、姉妹で同居している結婚を控えた姉の日記「サムシング・ブルー」、熟年夫婦の日常を記した夫の日記「夫婦」。まったく無関係な4人だが、本人たちも気づかぬところで、実は不思議な繋がりがあった……。急逝した著者の絶筆となった最後の作品。著者は一体、どんな秘密を作品の中に隠したのか……。その謎を解くのはあなたです。
日記がキーになる連作短編集である。だがそれだけではなく、それぞれの物語の登場人物たちに緩く微かなつながりがあるので、物語同士がより親しみのあるものになっている。これが絶筆になったなんて、信じたくないが、物語は途中で終わり、著者の意図を想像してみようとするが、到底叶わない。ある点を境に、がらりと世界が変わる瞬間はぞくぞくするような快感であり、著者の巧さが際立つ場面でもある。この先を読むことが絶対にできないとは、残念でならない。味わい尽くしたい一冊である。
逃げる*永井するみ
- 2010/08/09(月) 16:40:23
![]() | 逃げる (2010/03/19) 永井 するみ 商品詳細を見る |
優しい夫と愛しい子供との日々に、突然襲いかかる父との再会。忌まわしい過去を、おぞましい父の存在を、決して知られてはならない。家族を捨て、憎しみを胸に、死と隣り合わせの父親と彷徨う生活が始まる。どこへ行けばいいのか、いつまで逃げればいいのか…。追いつめられた女の苦渋の選択も切ない、哀しみの長編サスペンス。
上手いなぁ、と思わず唸りたくなる一冊である。死ぬまで逃げ続けたかったものに思いがけず出会ってしまったその一瞬のからだ中を巡るものが瞬時に凍るほど冷たくなる感じや、自分を見失いそうなとき頭の片隅がキンと冷える感じがダイレクトに伝わってくるようである。そして、逃げている――実際には逃げているのか守っているのか曖昧なようにも思えるが――ときの不穏な空気が、読む者をも一緒に逃げさせるようである。真実は割と早い段階で想像がつくものの、そのことが興をそぐどころかさらに面白さを加えるのがさすが著者である。主人公・澪の中の不穏さが消え去ったわけではないが、ラストにつづく日々が安心に守られるものであることを祈りたくなる。
マノロブラニクには早すぎる*永井するみ
- 2010/08/01(日) 08:24:21
![]() | マノロブラニクには早すぎる (2009/10) 永井 するみ 商品詳細を見る |
華やかに見えるファッション誌の世界。その裏側には女のプライドがせめぎ合い、ゴシップがあふれていた。厳しい現場の中で、自分の居場所を見失っていた世里。しかし、彼女の前に現れた中学生・太一との出会いによって、少しずつ自分らしさを取り戻していく―。
自分の希望とは大きく異なるファッション誌の編集部に配属された世里(より)。ファッションには興味もなく、いつも機能性重視の服装をしている世里だったが、松田編集長の靴には目を惹かれていた。それがマノロブラニクの靴だった。昨年末に亡くなった写真家・二之宮伸一の息子太一が、世里を父の不倫相手と勘違いしたのがきっかけで、編集部にいるらしい二之宮の相手を探すべく世里はあれこれと調べはじめる。同時に任された読者モデルの企画が軌道に乗りはじめ、忙しく動き回ることになる。太一との出会いによって少しずつ変化する世里自身のスタンスと、そのことによって期せずして近づいていく二之宮の死の真相にページを捲る手が止まらなくなる。鍵になるものが靴であるというのが珍しく興味深く、まさにこの物語にピッタリだと思える一冊である。
悪いことはしていない*永井するみ
- 2009/05/23(土) 07:57:46
![]() | 悪いことはしていない (2009/03/20) 永井 するみ 商品詳細を見る |
大手企業リーロテックに入社して4年。真野穂波は、尊敬する上司・山之辺の秘書として慌ただしくも充実した日々を送っていた。ところが、ある日、同期の亜衣が突然失踪した。彼女のブログには「会社の上司にホテルに連れ込まれそうになってショック…」と最後の書き込みが。穂波は山之辺を疑い始め、亜衣の部屋を訪ねる。そこには、いつか見た光景―ピスタチオナッツの殻が散っていた。
ちょっとしたミステリ要素を盛り込んだワーキングガール物語、というテイストの一冊である。
仕事ができる尊敬する上司・山之辺の臨時秘書になり、自分がステップアップしているような気分で、仕事が愉しくて仕方がない穂波が周囲にひたひたと広げる波紋が、――本人に自覚はないかもしれないが――結果として、あちこちにまったく別の形でひずみとして現れたと言ってもいいかもしれない。
確かに穂波は、何も悪いことはしていない。
レッド・マスカラの秋*永井するみ
- 2009/03/22(日) 13:26:07
![]() | レッド・マスカラの秋 (ミステリーYA!) (2008/12) 永井 するみ 商品詳細を見る |
街路樹が色づき、空気がこうばしくなる。なにか素敵なことが起きそうな予感に満ちた、秋。ティーン向けのファッションショー、東京ガールズフェスティバルは、トレンドに敏感な女の子たちで大盛況。私は、三浦凪、17歳。ファッションに興味がないわけじゃないけど、今日ここに来たのは、モデルの友人、ミリの晴れ姿を見るため。ランウエイを颯爽と歩くミリはレッド・マスカラを塗ったアイメイクも印象的で、文句なくカッコよかった。でもその舞台裏は、彼女が勧めたマスカラのせいで、まぶたが腫れたモデルがいるという噂で持ちきり。あんなに仕事に情熱とプライドを持っていたミリが、モデルを辞めようとまで思いつめている。マスカラに問題があるのか、モデル仲間の嫉妬なのか?ミリには胸を張ってランウエイに立ってほしい。私は調査に乗り出す決心をした。『カカオ 80%の夏』につづく、大好評のハードボイルド・ミステリー、シリーズ第2作。
『カカオ80%の夏』の続編だということに初めまったく気づかなかった。カフェ・ズィードが出てきてやっと、「あぁ!」この凪は、あの凪だったのか、と気づいた次第。前作に登場した雪絵も登場し、すでに凪を探偵扱いしている。
今回は、「火の鳥」と呼ばれる紅のマスカラをめぐる出来事である。モデル業界や化粧品業界の裏側、流行の仕掛け人たちの苦悩なども垣間見られ、若い世代にはことさら興味深いのではないかと思われる。
凪の行動範囲も交際範囲もその幅も徐々に広がり、あたたかい目に囲まれていると嬉しくなる。ズィードのマスターとの関係も、この先がたのしみである。次は冬?
グラニテ*永井するみ
- 2009/02/02(月) 17:26:12
![]() | グラニテ (2008/07) 永井 するみ 商品詳細を見る |
愛しているから許さない。母と娘の物語。
万里はカフェのオーナー。夫に先立たれ、17歳の娘唯香と暮らしている。年下の恋人・凌駕との関係も順調だったが、唯香と凌駕が出会ったことで、歯車が狂い始める…母親と娘との三角関係を描く長編。
母と娘とひとりの男との三角関係。たしかに、万里と唯香の胸の中の葛藤や煩悶、歪な形としての想いのぶつかり合いが多くの部分を裂いているが、「恋愛」という点だけではない、母と娘それぞれの、それぞれからの卒業の物語でもあるように思われた。決して、ただのどろどろとした三角関係の物語ではない。
読む年齢によって、受け取り方はまるで違ってくるのだろうとも思うが、唯香の年齢も、万里の年齢も通り過ぎてきたわたしには、最愛の夫を早くに亡くし、一時は抜け殻のようになったにもかかわらず、立ち直って、子育てしながらカフェの経営を始め、順調に店舗を増やすまでにした万里の、強くて弱い胸のうちは、想像に難くなく、この物語のような反応は無理もないのではないかと思えるのである。
ラストに母娘の関係修復の兆しがちらりと見えて、涙を誘われた。
義弟*永井するみ
- 2008/10/04(土) 16:31:24
![]() | 義弟 (2008/05/20) 永井 するみ 商品詳細を見る |
克己と彩は血の繋がりのない義理の姉弟。成人した今、克己の彩に対する感情は、姉以上のものになっていた。そんな中、彩の不倫相手が彼女の職場で急死する。助けを求められた克己は、彼女を守るため遺体の処理をするのだが……。克己の抑えられない破滅的な衝動、男性を受け入れられない彩の秘密。それぞれの心の闇を描く、衝撃の問題作。
タイトルから想像したよりも、どうしようもない泥沼の物語ではなくてよかった。単なる不倫物語でもミステリでもなく、期せずして姉弟になってしまったふたりの葛藤の物語、というようなニュアンスの物語である。姉と弟それぞれが、相手に対する想いを胸にしまって、「ひとり」として生きようともがく姿が切なさを誘う。ふたりの本当の人生は、このラストのまたその先にこそあるのだろうと思われる。語られない物語のなかでは、ふたりの人間としてありのままに生きて欲しいと願う。
グラデーション*永井するみ
- 2007/12/13(木) 17:05:36
一つ一つ、迷ったらいい。歩き続けていれば、日々は色濃くなってゆくものだから。14歳の少女が、友人、家族、憧れの人との関係のなかで、一つずつ自分の感情を増やしてゆく――。進学や恋愛、就職の悩み……誰にでも訪れる当たり前のような出来事を、自分らしく受け止め、大人の入り口に立つ23歳になるまでを丁寧に辿る。いつかの自分を投影するような、心地よい等身大の成長小説。グラデーション
(2007/10/20)
永井 するみ
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真紀は、好きな男の子やアイドルの話題できゃーきゃー盛り上がる同級生のなかにいて、少しばかり居心地の悪さをおぼえる十四歳だった。高校・大学と進んでも、いつも自分の居場所が定まらないような自信のなさや迷いを抱えているのだった。
そんな真紀を遠く近く支えてくれた友人たちや出会った人たちとのかかわりのなかで、真紀は彼女なりに少しずつ成長していくのだった。
主人公の真紀は、華やかなわけでも目立つわけでもないどこにでもいそうな普通の女の子である。迷い、他人をうらやみ、自分を卑下する、どちらかといえば目立たないタイプの女の子。そんな真紀だからこそ、読者はどこかに自分のかけらを重ね合わせ、真紀と一緒に悩み考え、真紀と一緒に喜びながらページを繰るのだろう。そして、真紀を応援しながらこっそりと自分をも応援しているのだ。だから真紀にはしあわせな大人になってほしいのである。
ドロップス*永井するみ
- 2007/11/15(木) 18:11:16
愛したい。愛したい。愛させてほしい。三十代、女性。ないものねだり!?二度目の思春期!?愛したくて仕方がない女性たち。ドロップス
(2007/07/26)
永井 するみ
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二十代は「愛されたい」、三十代からは「愛したい」!
●誰が見ても幸せなはずの結婚生活を送るフリー編集者
●高校の同級生に言い寄られる、バツイチ子持ち美女
●奔放な恋愛をし続ける、シングルマザーのオペラ歌手
●かつての略奪愛を経て、夫と静かに暮らすホール経営者
フリー編集者の夏香を軸に、彼女の人間関係上にいる女性たちを描く連作集。
夏香が主になってはいるが、章ごとに語り手を替えてそれぞれの生活と胸のうちが語られる。
傍目からは決して判らない個々人の胸のうちが実にリアルに繊細に描かれている――というか描かれすぎていないせいで実にリアルである。感情の襞に埋もれそうになりながらも不意に顔をのぞかせるなにかがとてもよく伝わってくるのである。
読む人によっても、読むときの状態によっても印象がものすごく変わってきそうな物語のようにも思われる。わたしはラストに向かうに連れて涙が止まらなくなってしまった。
カカオ80%の夏*永井するみ
- 2007/10/30(火) 18:57:59
私は、三浦凪、17歳。好きなものは、カカオ80%のチョコレートとミステリー。苦手なことは、群れることと甘えること。カカオ80%の夏 (ミステリーYA!)
(2007/04)
永井 するみ
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夏休みに、クラスメートの雪絵が、書き置きを残して姿を消した。おとなしくて、ボランティアに打ち込むマジメな雪絵が、いったいどうして…?カレでもできたのか?気乗りはしないけれど、私は調査に乗り出した。ひと夏のきらきらした瞬間を封じ込めた、おしゃれなハードボイルド・ミステリー。
大学の助教授で公私共に忙しい母との二人暮らし――いわゆる母子家庭――の凪は、クラスメイトと群れることもなくある意味自立した女の子である。ある日、そんな凪に、それほど親しいとはいえない真面目なクラスメイトの雪絵が洋服を買うのに付き合って欲しいと声をかけ、凪は雪絵に洋服を見立ててあげたのだった。それからほどなく、雪絵は「一週間くらいで戻ります。合宿にでも参加するんだと思ってください、心配しないで」という書置きを残して行方不明になる。
凪が、特に仲良しというわけでもない雪絵のことを心配したのは、洋服を買ったときの微かな違和感のようなものや、元来のミステリ好きの気質がそうさせたのかもしれない。十七歳の少女・凪が探偵役をすることになる経緯にも無理がなく、その後の行動にも自然に結びついている。
群れるのが苦手な凪だが、友人とのつながりを拒んでいるわけではなく、雪絵や、雪絵探しの途中でネットを通じて出会った少女たちとのつながりを心地好くも感じているのが十七歳の素直な気持ちの表れのようでほほえましい。他人との関係を築くのが上手くない、といわれる近頃の若者たち。なにかのために、誰かのために、心を砕く仲間がいるということの心強さを感じさせてくれる物語でもある。ズィードのマスターと凪のこれからも気になるところである。
カカオ80%のほろ苦さと、それでもやはりチョコレートとしての甘さとを併せ持つ一冊である。
年に一度、の二人*永井するみ
- 2007/06/12(火) 17:17:19
☆☆☆・・ 来年の同じ日に、同じ場所で。男と女は再会の約束をした-。7年間、秘密の逢瀬を重ねる主婦の物語「シャドウ」、1年後の約束に思いを募らせるOLの姿を描く「コンスタレーション」など、全3編を収録。 年に一度、の二人
永井 するみ (2007/03/07)
講談社
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上記のほか「グリーンダイアモンド」。連作短編集である。
それぞれの物語は、香港のハッピーバレー競馬場の同じ場所で10月の第三水曜日に会う、というキーワードでつながり、さらに最後の物語でそれぞれの登場人物たちにつながりができるという仕組みになっている。
いささかつながる必然性が弱いような気もするが、舞台になる「場」を思えばそれほど気にならないかもしれない。
どの物語のどの二人にも何の結論も出させずに物語りは終わっているのだが、ここで終わりではなく きっとこれからがあるのだろうと予感させるラストになっているので中途半端な感じはしない。
欲しい*永井するみ
- 2007/01/03(水) 20:44:40
☆☆☆☆・ 他人の不幸でかなえられる、私の願い。 欲しい
永井 するみ (2006/12)
集英社
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人材派遣会社を経営する由希子。42歳、独身、愛人がありながらホストで寂しさを紛らわす日々。愛人の不慮の死に疑念を持ち、真相を探ろうとするが…。女性心理を鋭く描き出すミステリータッチの長編。
由希子の経営する人材派遣会社に登録している槙ありさは、由希子の愛人・久原が取締役をしているMIKASA商事で派遣社員として働いている。その職場へ、ありさの別れた夫が金の無心にやってきてトラブルになり、ありさは迷惑をかけることを良しとせず辞めると言い出すが、由希子は何とか続けるように説得し、久原にも相談する。
物静かで控えめで仕事も真面目にするありさは、どこか人を放っておけない気持ちにさせるものを持っている。そのせいか、彼女と関わった人たちはなんとかしてやりたいとあれこれ心を砕くのだったが、ありさ自身はどこか煮え切らないのだ。
由希子と久原、そして由希子と派遣ホストのテル、また ありさと別れた夫とのトラブル、という三本のラインが絡みあう物語として読み進んでいたのだが、あるところから何かもっと深い事情の匂いが漂いだす。そうなると物語は一度に混沌とし始め、何が真実か、誰が信じられるのかが途端に判らなくなる。いちばん冷たい心を笑顔の裏側に隠しているのは誰なのか。最後の最後まで心を許せないのである。
ダブル*永井するみ
- 2006/12/18(月) 07:43:15
☆☆☆☆・ 若い女性が突然、路上に飛び出し、車に轢かれて死亡した。事故と他殺が疑われたこの事件は、被害者の特異な容貌から別の注目を浴びることになった。興味を持った女性ライターが取材を進めると、同じ地域でまた新たな事件が起こる。真相に辿り着いた彼女が見たものは―。かつてない犯人像と不可思議な動機―追うほどに、女性ライターは事件に魅入られていく。新たなる挑戦の結実、衝撃の長編サスペンス。 ダブル
永井 するみ (2006/09)
双葉社
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物語は二人の視点で語られる。ひとりは、おっとりとやさしい雰囲気を持つ妊婦・柴田乃々香。もうひとりは、何とか自分を世間に認めさせる記事を書きたいと日々思っているライターの相馬多恵。
多恵は、自分でなくても書けるようなどうでもいい記事を書くことに嫌気がさしているところだった。そんなとき、デスクの清里が「いちゃつきブス女事件」と呼ぶ事件が起きる。結局は事故として処理されたこの事件に違和感を覚えた多恵は、被害者・鉤沼いづるの周辺を取材し続けるうちに その後起こった別の事件との共通点に気づく。
そして、その取材の過程で乃々香に出会うのである。二人は同い年ということもあり、近づいていくのだが、多恵の側には乃々香を一連の事件の犯人と疑う気持ちもあり、二人の距離感とかけひきが絶妙に描かれていてスリルさえ感じさせられる。
二人の視点で描かれているから『ダブル』なのかと思って読んでいたのだが、それが間違っていることがわかるのは最終章に辿り着いてからである。思わず「そんな・・・」とつぶやいてしまうような展開が待っていたのである。
ソナタの夜*永井するみ
- 2006/12/01(金) 18:52:35
☆☆☆・・ 愛しているから、私が、嘘をついた…。それぞれに秘密のある七つの危険な恋愛、隠されたさらなる「たくらみ」。『小説現代』掲載作品に書き下ろしも加え、女性心理の真髄を描く7短編を収録。 ソナタの夜
永井 するみ (2004/12)
講談社
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「おかしいわよ、あなたの奥さん」国枝の表情が険しくなる。「真穂、きみは分かっていないんだ」私は黙って国枝を見た。「夫婦が寝なくなるのは、不仲だからとは限らないんだよ」<「ソナタの夜」より>
やはり不倫話は好きになれない。特に、子どもの無邪気な描写があると嫌悪感すら覚えてしまう。誰かの不幸を踏み台にした幸福は、ほんとうの幸福とは言えないと どうしても思えてしまう。
恋心はわからなくはないが、どの女性も自分の殻が薄すぎるように思える。そして、不倫の常として、どの男もずるい。
ミレニアム*永井するみ
- 2006/10/26(木) 13:01:31
☆☆☆☆・ システム・アナリストの久武の死の謎を握るのは、コンピュータ2000年問題(ミレニアム・バグ)だった。久武の部下で恋人だった真野馨が突き止めた衝撃の真実とは。コンピュータ社会の陥穽を描く長編ミステリー。 ミレニアム
永井 するみ (1999/03)
双葉社
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出版されたのは、まさに2000年問題が大きく騒がれていた1999年3月である。
前半では、コンピュータが日付の西暦部分“00”を“1900年”と認識してしまうことで世界が陥るであろう事態の危機感がシステムを作り、2000年問題に当たっては 無事それをクリアするための修正を施す側の作業の問題として 緊迫感といくらかの疲労感を伴って描かれ、後半は、プロジェクトの責任者・久武の死と その延長上にある 作業を進める上で導入したソフトに関する疑惑の追求に焦点が合わせられている。
システムのことやらプログラミングのことやら、まったく解らなくても その緊迫感はしっかり伝わってきて、出版当時、2000年問題がまさに大騒動になっている時期に読んでいたとしたら かなり不安をかきたてられただろうと思う。
そして、全社挙げて対応に奔走しているまさにそのとき、こんなにも利己的な理由で久武が殺されたのかと思うと、憤りよりも虚しさを感じてしまう。よりによって久武が!だが、久武だったからこそ!なのである。失うには惜しすぎる。
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