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青天の霹靂*劇団ひとり
- 2020/05/14(木) 18:53:32
学歴もなければ、金もなく、恋人もいない三十五歳の晴夫。一流マジシャンを目指したはずが、十七年間場末のマジックバーから抜け出すことができない。そんなある日、テレビ番組のオーディションではじめて将来への希望を抱く。だが、警察からの思いもかけない電話で、晴夫の運命が、突如、大きく舵を切る―。人生の奇跡を瑞々しく描く長編小説。
負け続きでいいことなどなにもないと、拗ねた気持ちで日々を過ごしている35歳の売れないマジシャン・轟晴夫の物語である。これから自分が勝ち組になれる可能性など無きに等しいと、わが身に起こる負の要素に言い訳ばかり繰り返してきた。そんなとき、警察から電話があり、久々に、捨ててきた父親に思いを馳せる。そこからがこの物語のクライマックスである。荒唐無稽な設定ではあるが、思わず惹き込まれ、晴夫の気持ちに寄り添って一緒に感動してしまった。いい話だった、と思わせてくれる一冊である。
四雁川流景*玄侑宗久
- 2010/08/16(月) 16:49:05
![]() | 四雁川流景 (2010/07) 玄侑 宗久 商品詳細を見る |
出逢い、別れ、そして流れゆく、川の水の如き群像の心。僧侶にして芥川賞作家がおくる、鮮烈な「一期一会」の作品集。
「Aデール」 「残り足」 「布袋葵」 「地蔵小路」 「塔」 「スクナヒコナ」 「中洲」
四雁川の周りに暮らす人々を主人公にした短編集である。
四雁川で繋がっているというだけで、登場人物たちにはなんの関わりもないのだが、同じ川を身近に感じながら生きているという背景が、全体の雰囲気を作り上げているように思われる。それぞれの物語のなかで、人々は自分に与えられた人生を健気に生きている。取り立てて華々しい出来事や事件があるわけではないが、人々の暮らしぶりのひたむきさが胸に迫る一冊である。
陰日向に咲く*劇団ひとり
- 2006/07/12(水) 19:26:40
☆☆☆・・ すごい。圧倒され、心から泣かされた。お笑いブームなどはるかに飛び越えた才能と可能性がこの美しい物語の中に在ると思う。きっと買いかぶりでなしに。――大槻ケンヂ 陰日向に咲く
劇団ひとり (2006/01)
幻冬舎
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こんなに笑えて、胸が熱くなって、人間が愛しくなる小説に出会ったのは何年ぶりか。文体のリズムとバランスも完璧。そして行間にきらめく毒気のある才能。とにかく読んでみて。ぶったまげるよ。――山田宗樹 ――帯より
道草・拝啓、僕のアイドル様・ピンボケな私・Over run・泣き砂を歩く犬、という5つの連作短編集。そして最後に、陰日向に咲く。
初めの方の章では、同じ人物が顔を出すゆるい連作かと思っていた。が、もっともっと周到に考えられた深さだった。人生の物語と言ってもいいかもしれない。一度終わったかに見せて、最後の最後の見開き2ページの「陰日向に咲く」でそれは見事にすべてが繋がり、涙が押し寄せてくる。そうか、そうだったのか!
そして、駄目押しのようなほんとうに最後の一文である。
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