きみが住む星*池澤夏樹・ERNST HAAS

  • 2006/10/16(月) 07:05:59

☆☆☆☆・

きみが住む星 きみが住む星
エルンスト ハース、池澤 夏樹 他 (1992/10)
文化出版局

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世界を旅してまわる男性が恋人に書き送った絵はがきの形で語られる短編集。色彩の魔術師といわれたエルンスト・ハースの写真に、作家の池澤夏樹が文を添えた。


手紙の送り主の男性のことも、その恋人の女性のことも、具体的には何も語られていないのだが、――しかも、手紙は男性から女性へのものだけ――ふたりのありようがほのぼのとした気持ちとともに目に浮かぶようである。
どうやら男性は、仕事で長い長い旅にでているようであり、その旅先の地の風景を写真に撮って手紙に添えているのだが、この写真もとても素晴らしい。

今、美しい風景を見たい。
今、美しい文章を読みたい。
今、美しいものに触れたい。

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最後に空港できみの手を握って、抱き合って、別れた後、飛行機に乗った時、離陸して高く高く上がり、群青の成層圏の空を見た時、ぼくはこの星が好きだと思った。それから、どうしてそんな気持ちになったのか、ゆっくりと考えてみた。飛行機の中って、時間がたっぷりあるからね。そうして、ここがきみが住む星だから、それで好きなんだって気がついた。他の星にはきみがいない。  (「最初の手紙」より)

マリコ/マリキータ*池澤夏樹

  • 2006/10/05(木) 17:15:36

☆☆☆・・

マリコ/マリキータ マリコ/マリキータ
池澤 夏樹 (1990/07)
文芸春秋

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南の島、異国の子供たちと暮らすマリコ。
研究者の僕に日本を脱け出し、彼女を追う生き方ができるだろうか(「マリコ/マリキータ」)?前人未踏の遺跡を探検した僕とピエールは、静謐のなか忘我の日々を過ごした。
でも僕には、そこにとどまり現世と訣別する道は選べなかった(「帰ってきた男」)。
夜に混じり合う情熱の記憶。
肌にしみわたる旅の芳香。
深く澄んだ水の味わい、5篇の珠玉の短篇集。


表題作のほか、「梯子の森と滑空する兄」「アップリンク」「冒険」「帰ってきた男」
本能的なのか、哲学的なのか、どちらでもないのか、どちらもなのか。簡単には判断できないような趣の物語たちである。
奔放で伸びやかだと思えば、裡に篭ったように静まり返り、めらめらと燃えるかと思うと、漣ひとつ立たない湖面のようにしんとする。
そして、ある一点かと思えば 拡散して覆い尽くし全体になる。
とらえどころがないのにとらわれてしまうような物語たちだった。

キップをなくして*池澤夏樹

  • 2006/09/23(土) 21:41:08

☆☆☆☆・

キップをなくして キップをなくして
池澤 夏樹 (2005/07/30)
角川書店

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「キップをなくしたら、駅から出られない。キミはこれからわたしたちと一緒に駅で暮らすのよ、ずっと」「ずっと?」キミは今日から、駅の子になる。学校も家もないけれど、仲間がいるから大丈夫。電車は乗りたい放題、時間だって止められるんだ!子供たちの冒険、心躍る鉄道ファンタジー。


イタルはひとりで銀座の切手屋さんに行くところだった。もうすぐコレクションが完成するのだ。何度も来ているからもう迷うこともない、と思っていたら、ポケットに入れたはずのキップがどこにも見当たらない。そのとき、フタバコさんに声をかけられ、着いていった先は東京駅の詰め所と呼ばれる部屋だった。そしてそこには、イタルと同じようにキップをなくして駅から出られなくなった子どもたちが「駅の子」として暮らしていたのだった。

心躍るのはもちろんだが、それだけではなくとてもいろいろなことを考えさせられる一冊だった。ただ単に鉄道ファンタジーと名づけてしまうにはあまりにも盛りだくさんなのである。ほんとうの自由とは?とか、どう生きる?とか、教訓的なことはさまざまあるが、そんな風に構えなくても、わくわくと愉しく 胸がキュンとして ほろりと切なくなる物語なのだ。
子どもだったら 誰でも一度は「駅の子」になってみたいんじゃないだろうか。

スティル・ライフ*池澤夏樹

  • 2005/06/13(月) 17:14:28

☆☆☆・・
スティル・ライフ

 新芥川賞作家登場
 静かに、叙情をたたえてしなやかに――清新な文体で、
 時空間を漂うように語りかける不思議な味。
 ニュー・ノヴェルの誕生
     (帯より)


表題作のほか ヤー・チャイカ。

1988年の出版であるが、充分に現代にも通用する。
大事を大事ともせずに淡々と静かに受け止めやり過ごす落ち着きを備えた雰囲気である。
表題作のタイトルがまさに物語の雰囲気を現わしているようだ。