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漂流家族*池永陽

  • 2012/02/06(月) 11:03:00

漂流家族漂流家族
(2011/03/16)
池永 陽

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様々な家族の情景を切り取った短編集。娘を嫁に出す父親、自身の再婚と息子の問題で揺れる女性、不倫を清算したい会社員、食堂を切り盛りする女将と従業員の微妙な関係など、背筋が凍るような物語から心温まる物語まで8編を収録。


「父の遺言」 「いやな鏡」 「若い愛人」 「紅の記憶」 「不鈴」 「十年愛」 「薄いカツレツ」 「バツイチ」

胸を熱くする物語、チクリと刺しこむような物語、薄ら寒くなる心地の物語、と趣はさまざまだがどれも見えているようで見ていない家族の情景を描き出していて見事である。テイストにかかわらず、最後の最後でひと捻りされているのも心憎い。家族のことを心をこめて考えてみようと思わされる一冊でもある。

殴られ屋の女神*池永陽

  • 2007/05/16(水) 18:49:53

☆☆☆☆・

殴られ屋の女神 殴られ屋の女神
池永 陽 (2005/03/19)
徳間書店

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一発千円の殴られ屋。奇妙な商売を始めた理由は、ノックアウトされる寸前に見える幻の女性。仕事を失い、妻を失い、家を失い、全てを失って、今夜も男は街に出る。


須崎康平は、幼いころ母親に虐待されていた。殴られたときに一瞬恍惚となり、目の前に現れたのは白い姿の女神だった。リストラされ、愛妻に愛想をつかされて離婚した康平は、あの女神にまた会い それが誰なのかを確かめたくて自ら殴られ屋になり、今夜も恵比寿駅前に立つのだった。
康平が居候しているマンションの持ち主・豊は、自傷癖のある十六歳の美形の男娼で、やはり母親に虐待されており、康平も自分も「死ぬために生まれてきた犬」だと考えている。たくさん生まれた子犬の中には、兄弟たちから阻害され、母親からさえも疎まれ、ほかの兄弟たちが生き延びるために死ぬ運命の子犬がいるのだという。
さまざまな人に殴られながら、康平と豊は ときには自分たちと同じように「死ぬために生まれてきた犬」のような人たちの悩みを聞き、手を貸したりするのだが、相手の事情に踏み込みすぎず真心を注ぐさまが胸をあたたかくする。
お互いに弱い者同士である康平と豊の救い合い補い合うあたたかな関係には何の利害もなく、相手を思いやる心からの気持ちにあふれていて涙が出そうになる。
康平はなかなか女神を見ることができないが、ラストになってようやく願いがかなう。でもそれはなんと切ない出会いなのだろう。それでも康平はしあわせだったのだろうか。

ゆらゆら橋から*池永陽

  • 2006/10/15(日) 13:30:22

☆☆☆・・

ゆらゆら橋から ゆらゆら橋から
池永 陽 (2004/12)
集英社

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憧れ、初恋、上京、旅立ち…今はコンクリート製だが、かつては粗末な木の橋だった。橋桁がゆるんでいて、人が乗るとふわふわと揺れた。子供たちはゆらゆら橋と呼んだが、大人たちのなかには戻り橋というものもいた。この橋を渡ってからよそから村に来た女は、この橋を渡って村を去っていく。こんな風説が健司の子供のころ、村中でささやかれていたことがあった。健司の脳裏を、去っていった身近な女性たちの顔がよぎる。女の心はゆらゆら揺れない。ゆらゆら揺れるのは男のほう。『コンビニ・ララバイ』から2年半、情感豊かにつづられた“ゆらぎ”の物語。人は一生に何度、恋をすることができるのか。


ゆらゆら橋と呼ばれる橋のある村で生まれ育った健司の その歳々での恋愛模様を描きながら、彼と その愛が姿を変えていく様子がリアルに物語られている。
ある女性と出会って恋をする。そして、ひとつ恋をするたびに、ゆらゆらと心が揺れるように何かが少しずつ変わり、気づかないとしても もうもとの場所には立っていないのである。
戻り橋を渡って故郷に帰った健司は、もうそこには過去の自分がいないことに気づいたのだろう。

となりの用心棒*池永陽

  • 2006/10/04(水) 18:36:43

☆☆☆・・

となりの用心棒 となりの用心棒
池永 陽 (2004/09)
角川書店

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頼もしい男が商店街にやってきた! 気は優しくて力持ち、情に脆くて女にちょっぴり弱い用心棒。
婿養子に入った巨漢の勇作は一念発起して空手道場をオープン。気の優しい勇作はたちまち商店街のよき相談相手に。が、肝心の門下生は思うように集まらず…。
脛に傷をもった善良な人々と悲哀ただよう“弱者の味方”を描く、涙と笑いが交錯する傑作人情小説。


沖縄出身で岩のような巨漢・勇作は、祖父に空手の手ほどきを受け 滅法強い。アメリカで道場破りをしながら無鉄砲な暮らしをしていたこともあったが、日本へ帰り、ひょんなことから夏子と結婚し 婿養子に入ることに。
滅法強いが、ただ強いだけではない勇作の 幸福と悲哀。それに、商店街の人たちや 道場に集まる人たちの悩みや事情やあれこれが絡んで、涙あり笑いありの人情物語になっている。
勇作がアメリカで自ら抱えてしまった命題が、勇作にとっては不本意だろうが、彼の人柄の魅力を増しているようにも思える。

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コンビニ・ララバイ*池永陽

  • 2006/09/30(土) 17:15:19

☆☆☆・・

コンビニ・ララバイ コンビニ・ララバイ
池永 陽 (2002/06)
集英社

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お人好しで商売気のない店長と、訳ありの店員さんにお客さん。みんな何かを抱えて生きている。何かを求めてやってくる。それぞれのはぐれた愛が切なくて、まぶしくて──小さなコンビニの物語。


登場人物は、一人息子を轢逃げで亡くし、ショックを受けた妻といつも一緒にいたいと、チェーン店ではない小さなコンビニ「ミユキマート」をはじめたが、ほどなく妻をも交通事故で失い、やり切れぬまま無気力にコンビニの店主でいつづける幹郎。その代わりに店を取り仕切る 妻・有紀美の友人でもあった治子。そしてコンビニにやってくる客たち。
そんな 有紀美曰く「賑やかだけど乾いている」コンビニに集まる人たちとちっぽけなコンビニ店主・幹郎の「乾いていない」七つの連作。
以前は妻に苦労もかけたが、失ってからその大切さを痛感している幹郎の力の抜け具合と、彼のことを想う気持ちのやり場を 店を守ることに見つけている治子のしっかり者具合が、切なくもありコミカルでもあってコンビの味を出している。
甘いところはたくさんあるのかもしれないが、読んでいてほっとする物語だった。大切なものを大切だと認めるのには、遅すぎることなどないのだと、それを認めるところから何かが始まるのだと思わせてくれる。
幹郎にも新しいあすが始まりますように。そしてそれでも「賑やかでちょっぴりあたたかな湿り気のある」ミユキマートでありつづけてくれますように。