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R.I.P. 安らかに眠れ*久坂部羊
- 2022/07/12(火) 16:16:50
優しかった兄が、三人もの自殺志願者を殺めた――。世間から極悪人と糾弾される村瀬真也。連続凶悪事件を犯した兄が語り始める不可解な動機を解き明かそうと、妹の薫子は奔走するが、一線を越えてしまった真也の「知らなかった一面」に衝撃を受ける。自殺志願者を次々殺めた男の告白から見えてきた真実とは――。行きすぎた正義と、無関心な親切は、どちらが正しいのだろうか。誰もが目を逸らしたくなる問題に、著者自身も懸命に向き合い書き下ろした長編小説。
自殺したい者とそれを幇助した者、という現実を描いているが、本質はそこにとどまらず、個人の苦しみと他者の関わり方、誰の気持ちを優先するか、等々、立場や視点によって見え方が変わってくるものごとに焦点を当てているように思える。三人の自殺に手を貸した慎也の考え方には、最初は拒否感しかなかったが、読み進めるうちに、納得できるとは言えないまでも、そういう側面もあるかもしれないと、見方を変えて考えてみるきっかけを与えてくれた。だからと言って、慎也を擁護しようとは思えないのではあるが。そして、さらには、信頼して心を預けた人の影響がどれほど計り知れないかということも思い知らされる。導き方によって、人の進む道は変わってしまうのだと、改めて怖ささえ感じる。読後も重いものが胸に沈む一冊である。
MR*久坂部羊
- 2021/08/27(金) 16:26:21
大阪に本社を置く中堅製薬会社・天保薬品。その堺営業所所長であり、MRの紀尾中正樹は、自社の画期的新薬「バスター5」が高脂血症の「診療ガイドライン」第一選択Aグレードに決定するべく奔走していた。決まれば年間売上が1000億円を超えるブロックバスター(=メガヒット商品)化が現実化する。ところが、難攻不落でMR泣かせの大御所医科大学学長からようやく内定を得た矢先、外資のライバル社タウロス・ジャパンの鮫島淳による苛烈な妨害工作によって、一転「バスター5」はコンプライアンス違反に問われる。窮地に追い込まれた紀尾中以下、堺営業所MRチームの反転攻勢はあるのか。ガイドラインの行方は? 注目集める医薬業界の表と裏を描いたビジネス小説の傑作、誕生!
お仕事小説MR編である。小説なので、実際とは違う部分も多々あるのだろうとは思うが、MRという仕事のご苦労の一端を覗いた気分にはなる。どの業界でも変わらないとは思うが、仕事をするうえで、何を、誰を重視するか、どこに目線を据えるかによって、同じものを見ても、見え方が変わってくる状況がよくわかる。患者ファースト、利益ファースト、それぞれの立場でそれなりの苦悩があり、自分の掲げる理念に向かって進むために邪魔になるものを排除しようとする心理もよくわかる。医療界、製薬界に必要以上に理想を持っているわけでもないが、できれば裏側のどろどろはあまり目にしたくはないところではある。患者ファーストチームの完全勝利で終わってほしいところだが、最後の最後に厳しい現実を突き付けられたようで、思わずうならされる一冊でもあった。
善医の罪*久坂部羊
- 2020/12/18(金) 19:02:36
意識不明の重体で運ばれた、横川達男。主治医の白石ルネは、延命治療は難しいと治療を中止。家族の同意のもと、尊厳死に導いた。三年後、カルテと看護記録の食い違いが告発される。白石は筋弛緩剤を静脈注射したというのだ。医療業界を揺るがす大問題へと発展し、検察は彼女を殺人罪で起訴した。保身に走る先輩医師、劣等感を感じる看護師、虚偽の報道を繰り返すマスコミ。様々な思惑が重なり合い、事態は思わぬ方向へと転がって―。
事実をモデルにしたフィクションということで、まさに医療の現場、上層部の思惑、医師同士の確執、出世欲、さらにはマスコミの実態、などなど、現場の空気感がリアルに伝わってくる物語である。ルネの誠心誠意の治療や患者家族への対応には頭が下がる思いがする。それなのに、主張が全く伝わらないもどかしさと無力感といったら、読んでいるこちらも、歯噛みしながら地団太を踏みたくなるほどである。人の命にかかわることでさえ、身勝手な思惑が事実を変えてしまうこともあるのか、とやりきれなさと憤りに包まれる。公正なはずの裁判でさえ然りである。孤立無援の戦いではなかったことがせめてもの救いだろう。死にゆく者と、送る者、その間に立つものなどのことを、さまざま考えさせられる一冊だった。
生かさず殺さず*久坂部羊
- 2020/09/18(金) 18:19:57
がんや糖尿病をもつ認知症患者をどのように治療するのか。認知症専門病棟の医師・三杉のもとに、元同僚で鳴かず飛ばずの小説家・坂崎が現われ、三杉の過去をモデルに「認知症小説」の問題作を書こうと迫ってくる。医師と看護師と家族の、壮絶で笑うに笑えない本音を現役医師が描いた医療サスペンスの傑作。
さまざまな病気を抱える認知症患者専門の病棟、人呼んで、にんにん病棟が舞台である。それだけで、一筋縄ではいかないことは想像に難くない。どんな日常が繰り広げられているのか興味が湧く。現実問題として、病気の認知症患者の身内をお持ちの方は、おそらく、こんな描写はまだまだ生ぬるいとおっしゃるだろうということも想像できる。それを踏まえてさえ、現場の壮絶さがうかがい知れる。患者本人のケアの大変さはもとより、家族の思惑が絡み、家族が複数いれば、それぞれの思惑が同じとは言えず、混乱に拍車をかける。あっちをなだめ、こっちをなだめ、さらには自分の胸の裡までなだめながら、日々ご苦労を重ねておられる病棟スタッフのみなさんには、頭が下がる。さらには、他人事と割り切って読むことができないから、なおさら気分が沈むのである。スパッと解決する方法があればどれほどいいだろう、と思わずにはいられない一冊である。
怖い患者*久坂部羊
- 2020/06/19(金) 09:28:21
いくつもの病院を渡り歩くドクターショッピング、快適なはずの介護施設で起こるおそろしい争い…現役医師がおくる、強烈にブラックな短編集!全5編。
「天罰あげる」 「蜜の味」 「ご主人さまへ」 「老人の園」 「注目の的」
フィクションだということは判ってはいるが、著者が現役の医師であるということもあって、事実が下地になっているのでは、と勘繰ってしまう。それほど、真に迫っていて、現実感があるということでもあるのだが、どこかで違う対応の仕方をしていれば、別の結果になったのか、それともなにをどうしても結果は変わらないのか、よく判らずに怖さが募る。医師の立場でも怖いし、患者としても怖い一冊である。
黒医*久坂部羊
- 2020/02/10(月) 16:32:23
努力と競争を過剰にもてはやす「ネオ実力主義」が台頭し、働かないヤツは人間の屑、と糾弾される社会で、思いがけず病気になってしまった男。(「人間の屑」)気軽に受けた新型の出生前診断で、胎児の重い障害を宣告されて中絶するか悩む夫婦。(「無脳児はバラ色の夢を見るか?」)医療や技術の進歩の先に見える、幸せな人生は幻想なのか。救いなき医療と社会の未来をブラックユーモアたっぷりに描く7編で綴る作品集。
どの物語も、そう遠くない未来に実際に起こりそうで怖い。さらには、大人になり切れない大人が増えている気がしてならない昨今、医者でさえも例外ではないと、改めて気づかされて、空恐ろしくもなる。何に頼ればいいのか不安になるが、しょせん医者も人間であるということだ。ブラックすぎるユーモアで、到底笑えないが、自分の身は自分で守らねば、との思いを改めて強くさせられる一冊でもある。
オカシナ記念病院*久坂部羊
- 2020/02/02(日) 18:41:15
離島の医療を学ぼうと、意気込んで「岡品記念病院」にやってきた研修医の新実一良。ところが先輩医師や看護師たちはどこかやる気がなく、薬の処方は患者の言いなり、患者が求めなければ重症でも治療を施そうともしない。反発心を抱いた一良は在宅医療やがん検診、認知症外来など積極的な医療を取り入れようとするが、さまざまな問題が浮き彫りになっていき―。現代の医療の問題点を通して、生とは何か、死とは何かを問いかける。著者渾身の医療エンターテインメント。
エンターテインメントとして書かなければ、さまざまな軋轢を生むだろう問題が凝縮されている。文句なく面白いのだが、その裏には、現代医療の抱える問題がうずたかく積み上げられているのだということを、改めて突き付けられる思いである。気づいていながら気づかないふりをして、医者の言うなりに検査を受け、薬を飲んでいるいまの状況を、患者側の意識改革だけで何とかするのは至難の業だろうが、少しでも立ち止まって自分の頭で考えたいと、切実に思わされる。医療関係者すべてに読んでほしい一冊でもある。
老父よ帰れ*久坂部羊
- 2019/11/20(水) 18:41:32
45歳の矢部好太郎は有料老人ホームから認知症の父・茂一を、一念発起して、自宅マンションに引き取ることにした。
認知症専門クリニックの宗田医師の講演で、認知症介護の極意に心打たれたからだ。勤めるコンサルタント会社には介護休業を申請した。妻と娘を説得し、大阪にいる弟一家とも折にふれて相談する。好太郎は介護の基本方針をたててはりきって取り組むのだが……。
隣人からの認知症に対する過剰な心配、トイレ立て籠もり事件、女性用トイレ侵入騒動、食事、何より過酷な排泄介助……。ついにマンションでは「認知症対策」の臨時総会が開かれることになった。
いったい家族と隣人はどのように認知症の人に向き合ったらいいのか。
懸命に介護すればするほど空回りする、泣き笑い「認知症介護」小説。
認知症の親を自宅で介護する大変さの予備知識になる物語である。認知症を患う父親を家で看たいという長男、その家族、遠方に住む弟一家、マンションの住人たち、それぞれの立場や思いは、その立場になって考えれば、それなりにどれも納得できるものであり、だからこそ、いま自分がどの立場に立っているのかで見方が変わってくることもあるだろうと思われる。並々ならない苦労があることはよくわかるのだが、同居する家族の感じ方や、日々の不自由さがいまひとつ伝わってこなかったのが、いささかきれいごとめいて感じられる一因かもしれないとも思う。現実はとても書き尽くせないものであろうことは想像に難くないので、ある程度仕方のないことかもしれないが、認知症介護の表層をさらっと一通り描いた感が拭えないのも確かである。「自分の都合で考えず、患者本位で接すること」という心構えがわかっただけでも収穫かもしれないと思える一冊である。
介護士K*久坂部羊
- 2019/02/26(火) 16:53:43
介護施設「アミカル蒲田」で入居者の転落死亡事故が発生した。高齢者虐待の疑いを持ち、調査を始めたジャーナリストの美和は、介護の実態に問題の根の深さを感じていた。やがて取材をした介護士・小柳恭平の関与を疑った美和は、再び施設を訪れる。恭平は「長生きで苦しんでいる人は早く死なせてあげた方がいい」という過激な思想を持っていた。そんななか、第二、第三の死亡事故が。家族の問題を抱え、虚言癖のある小柳による他殺ではないのか--疑念が膨らむ一方の美和だが、事態は意外な方向に展開してゆく。高齢者医療の実態に迫り、人間の黒い欲望にメスを入れる問題作!
介護の現場や実態について、考えざるを得ない物語である。わたし自身は介護の経験がないので、実際のところはまるで解っていないとは思うが、想像するだけでも、一時も気を抜けず、手も抜けない現状の苦労の大変さは壮絶なものだということは判る。入居者の相次ぐ不審死に関わったのでは、と疑われる若い介護士・小柳恭平の真実はどこにあるのだろう。親切で、骨身を惜しまずよく働き、入居者の人気者であるという一面もあり、虚言癖があるという面も持つ彼の言葉は、どこまで真実なのだろう。そして、彼が目指しているのは何だったのだろう。判らないことだらけで答えは見つからないのだが、たくさんのことを考えさせられたことだけは確かである。読んでいて気が重くなるが、目を背けてはいけない一冊だと思う。
院長選挙*久坂部羊
- 2017/10/15(日) 06:51:07
国立大学病院の最高峰、天都大学医学部付属病院。その病院長・宇津々覚が謎の死を遂げる。「死因は不整脈による突然死」という公式発表の裏では自殺説、事故説、さらに謀殺説がささやかれていた。新しい病院長を選ぶべく院長選挙が近く病院内で開かれる。候補者は4人の副院長たち。「臓器のヒエラルキー」を口にして憚らない心臓至上主義の循環器内科教授・徳富恭一。手術の腕は天才的だが極端な内科嫌いの消化器外科教授・大小路篤郎。白内障患者を盛大に集め手術し病院の収益の4割を上げる眼科教授・百目鬼洋右。古い体制の改革を訴え言いにくいこともバンバン発言する若き整形外科教授・鴨下徹。4人の副院長の中で院長の座に就くのは誰か?まさに選挙運動の真っ盛り、宇津々院長の死に疑問を持った警察が動き出した…。
ミステリ要素がちょっぴり入ったコメディという趣である。大学病院の院長選挙をコメディ化したらこうなるだろうという、まさにお手本のようなドタバタぶりで、院長候補の医師たちの俗物ぶりに、思わず顔を背けたくなるほどである。同じ医師として、著者はよくここまで書けたと逆に感心する。途中ほんのちょこっと、それぞれの俗物医師たちの日ごろの努力や本業における手技の確かさにも触れられているが、実際の医療現場ではこの部分が大多数だと信じたい。ミステリ部分は、付け足し感がどうしても否めないのがいささか残念ではある。医師あるある的に愉しめる一冊ではある。
カラダはすごい! モーツァルトとレクター博士の医学講座*久坂部羊
- 2017/07/28(金) 19:04:07
扶桑社 (2017-04-30)
売り上げランキング: 69,856
ようこそ、ミステリアスな医療の世界へ――。
本講座では、モ-ツァルト、レクター博士、手塚治虫、ドストエフスキー、芥川龍之介、ゴッホ、デビットボウイなど、文学や映画、芸術を切り口に人体の不思議を紐解いてゆきます。
レクター博士に脳ミソを喰われても痛くないってホント? モーツァルトの耳はヘン? 「医療商人」にダマされない方法とは?
面白くて眠れなくなるカラダのトリビアが満載です!
医師であり、作家でもある著者だが、外科や麻酔科の経験もあり、外務省の医務官として海外赴任したこともあり、高齢者の在宅医療にも携わり、大学で講座を持つなど、医学に関する様々なキャリアをお持ちである。そんな実体験を踏まえて、身体のしくみや成り立ちから、医療や健康志向に関する「あるある」といったものまで、多岐にわたって触れられているので、小説ではなくいわば実用書なのだが、飽きることなく愉しめる。ある意味、雑学講座のようでありながら、実際に自分が直面した時の判断に役立ちそうな気もするのである。興味深い一冊だった。
反社会品*久坂部羊
- 2017/06/10(土) 09:02:36
KADOKAWA/角川書店 (2016-08-31)
売り上げランキング: 350,535
法に護られた高齢者と、死にものぐるいで働く若年層に分断された社会。若者は圧倒的な劣勢で。(「占領」)「働かないヤツは人間の屑!」と主張する愛国一心の会が躍進した社会で、病人は。(「人間の屑」)七編。
医療の近未来を描く、キケンな短篇小説集!
いま現在、本書に描かれた世界はまだ想像の域を出てはいない。だが、完全に絵空事だと言い切れる自信はない。いずれこんな社会になったとしても不思議はないとどこかで思ってしまうことが恐ろしくもある。何かきっかけがあれば、人々があっけなくある流れに呑み込まれ、流されていくことはよくわかっている。本作はその心理をとらえて見事であると思う。こんな世界にならないことを強く願い、安易に流されないように身を引き締めていかなければ、と思わされる一冊でもあった。
老乱*久坂部羊
- 2017/05/22(月) 07:17:01
在宅医療を知る医師でもある著者が描く迫力満点の認知症小説。
老い衰える不安をかかえる老人、
介護の負担でつぶれそうな家族、
二つの視点から、やっと見えてきた親と子の幸せとは?
現実とリンクした情報満載の新しい認知症介護の物語。
医師、家族、認知症の本人の
それぞれの切実な“不都合な"真実を追いながら、
最後にはひと筋の明るいあたたかさのある感動の長篇小説。
著者は再発したがん患者と万策尽きた医師との深い葛藤をえがいた『悪医』で日本医療小説大賞を受賞している。
介護する立場で書かれたものは多く出回っているように思うが、介護される側の胸の裡の苦悩までリアルに描き出したものは珍しい気がする。歳を重ね、少しずつ自身でも老いを感じ始め、覚束なさや不甲斐なさ、情けなさを実感している舅と、別居してはいるが、ときどき舅の様子を見に通う嫁が、その都度感じる異変と先行きの不安、自分たちの生活が脅かされるかもしれないという漠然とした恐怖心、目の当たりにしていない夫の反応に対するもどかしさなどが、とても丁寧に描かれていて、現場をリアルに想像させられる。医療や福祉の現場の実態にも筆は及び、ほんの一端ではあろうが、その頼りなさが浮き彫りにされている。実態は、本作に描かれている以上に心身ともに苦労の多いことと思うが、老いていく者自身の覚悟と、それを支える者たちの覚悟を思い知らされる一冊でもある。
テロリストの処方*久坂部羊
- 2017/05/05(金) 16:40:46
医療格差が広がる日本で、勝ち組医師を狙った連続テロが発生!
迫りくる日本の医療危機を予見する、戦慄の医療ミステリー。
医療費の高騰で病院に行けなくなる人が急増した日本。医療勝ち組と負け組に患者が二分され、同じく医師も、高額な医療で破格の収入を得る勝ち組と、経営難に陥る負け組とに二極化。そんな中、勝ち組医師を狙ったテロが連続して発生する。現場には「豚ニ死ヲ」の言葉が残されていた。若くして全日本医師機構の総裁となった狩野のもとにも、脅迫状が届く。医事評論家の浜川は、狩野に依頼され、テロへの関与が疑われる医師・塙の行方を探すことに。三人は医大時代の同級生だったのだが――。
遠くない未来の日本の医療現場の実態が生々しく描かれていて興味深い。医師の勝ち組負け組だけでなく、一般国民も贅沢で高度な医療を受けられる勝ち組と、最低限の処置さえ拒否されることもある負け組に分かれ、命をめぐる現場は混沌としている。癌や認知症の治療や健診の是非にも触れ、考えさせられることがありすぎて恐ろしくもなる。医療に携わる人たちにとっても一般の患者にとっても、もちろん制度を作る政治家にとっても問題を多く孕む一冊である。
虚栄*久坂部羊
- 2015/12/05(土) 17:15:58
KADOKAWA/角川書店 (2015-10-02)
売り上げランキング: 13,799
凶悪化がん治療国家プロジェクト「G4」の発足に、外科医・雪野は期待を抱いた。手術、抗がん剤、放射線治療、免疫療法。四グループの邂逅は陰謀に満ちた覇権争いに発展。がん医療の最先端をサスペンスフルに描く!
有名人が次々と凶悪がんで亡くなる事例がマスコミをにぎわした。そんな折、国は、診療科を跨いだがん撲滅に力を注ごうと、プロジェクト「G4」を起ち上げた。だが、いざ蓋を開けてみれば、それぞれの診療科の覇権争いに終始し、しかも、医者たち自身が、次々にがんに侵されていく。いざ自分ががんになったときの対応や、診療科同士はもちろん、科内での出世競争は、見ていて哀れさえも感じられる。これが医療の現実だとしたら、かなり厭だが、似たり寄ったりのことはあるのだろうと想像できてしまうところがまたなんとも言えない思いである。極端な描き方をされている部分もあるとは思うが、興味深く、486ページというボリュームを感じさせない一冊だった。
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