ストロベリーライフ*荻原浩

  • 2017/01/16(月) 07:14:45

ストロベリーライフ
ストロベリーライフ
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荻原 浩
毎日新聞出版 (2016-09-23)
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直木賞受賞第一作の最新長編小説。
明日への元気がわいてくる人生応援小説!

農業なんてかっこ悪い。と思っていたはずだった。
イチゴ農家を継げと迫る母親。猛反対の妻。
志半ばのデザイナーの仕事はどうする!?
夢を諦めるか。実家を捨てるか。
恵介36歳、いま、人生の岐路に立つ!

デビューより20年、新直木賞作家がたどりついた〈日本の家族〉の明るい未来図。
懐かしい笑顔あふれる傑作感動長編。


フリーになって、仕事の依頼もまばらになり、先行きに不安を感じ始めている36歳のグラフィックデザイナーの恵介が主人公である。妻とは仕事でデザイナーと手タレとして出会った。実家は静岡で農業を営んでいる。ある日、母から父が倒れたという電話があって実家に帰り、家族の様子と農作業の状況を目にして、葛藤はあったものの、しばらく手伝うことになる。専門家に言わせれば、いろいろ難をつけるところはあるのだと思うが、恵介がいちごに愛を感じるようになっていく様子は、思わず応援したくなるし、兄弟間の思惑のすれ違いや、地域のほかの農家の反応や、いちご農家の同級生との関係も、逆境も追い風も含めて愉しんだ。根本的に何かが解決したとは言い難い部分もあるが、少なくとも妻子との関係には光が見えてほっとした。この先の物語が読みたいと思わされる一冊である。

海の見える理髪店*荻原浩

  • 2016/05/02(月) 16:57:21

海の見える理髪店
海の見える理髪店
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荻原 浩
集英社
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主の腕に惚れた大物俳優や政財界の名士が通いつめた伝説の床屋。ある事情からその店に最初で最後の予約を入れた僕と店主との特別な時間が始まる「海の見える理髪店」。
意識を押しつける画家の母から必死に逃れて十六年。理由あって懐かしい町に帰った私と母との思いもよらない再会を描く「いつか来た道」。
仕事ばかりの夫と口うるさい義母に反発。子連れで実家に帰った祥子のもとに、その晩から不思議なメールが届き始める「遠くから来た手紙」。
親の離婚で母の実家に連れられてきた茜は、家出をして海を目指す「空は今日もスカイ」。
父の形見を修理するために足を運んだ時計屋で、忘れていた父との思い出の断片が次々によみがえる「時のない時計」。
数年前に中学生の娘が急逝。悲嘆に暮れる日々を過ごしてきた夫婦が娘に代わり、成人式に替え玉出席しようと奮闘する「成人式」。
人生の可笑しさと切なさが沁みる、大人のための“泣ける"短編集。


胸の奥深くにしまい込まれたまま、忘れそうになっていたものたちが、ある日、あるきっかけで光の当たる場所に出てきたような物語である。言わなかったこと、言えずにいたこと、言われなかったから知らなかったこと。そんなあれこれが、懐かしい場所、懐かしい時間から立ち上ってくるようである。著者が企むちょっとした仕掛けがやさしくじんと胸に沁みる一冊である。

ギブ・ミー・ア・チャンス*荻原浩

  • 2015/12/26(土) 18:39:10

ギブ・ミー・ア・チャンス
荻原 浩
文藝春秋
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元相撲取りの探偵、相方に逃げられた芸人…人生の転機を迎えた人々の悲喜こもごもを掬いあげる、笑いと涙の「再チャレンジ」短篇集。


表題作のほか、「探偵には向かない職業」 「冬燕ひとり旅」 「夜明けはスクリーントーンの彼方」 「アテンションプリーズ・ミー」 「タケぴよインサイドストーリー」 「押し入れの国の王女様」 「リリーベル殺人事件」

どの物語も、挫折あり、悲哀ありで、虐げられ、存在を認められない鬱屈ありで、暗い話しではあるのだが、沈み込むばかりでなく、それを斜め上から見下ろして笑い飛ばしてしまう客観的な目線で描くことで、コミカルで前向きな印象にしているのは見事である。それにしてもいつも思うのだが、荻原さんって何者?と今回も随所で思わされた。常々荻原浩オバサン説を唱えているわたしだが(生のご本人にお会いしたことがあるので、もちろんおばさんではないことは承知の上であるが)、今作では、売れない演歌歌手だったり、元相撲取りだったり、なにより、旬は過ぎたとはいえ女子だったりして、その誰もの私生活の描写が細かすぎるのである。実際に体験したことがあるに違いないと思わされることばかりで、感心するのを通り越して、恐ろしくさえある。荻原浩、いったい何者?である。なにがあっても生きていけるとなんだか元気になれる一冊であり、文句なく面白い。

金魚姫*荻原浩

  • 2015/11/07(土) 07:39:28

金魚姫
金魚姫
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荻原 浩
KADOKAWA/角川書店 (2015-07-31)
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勤め先の仏壇仏具販売会社はブラック企業。同棲していた彼女は出て行った。うつうつと暮らす潤は、日曜日、明日からの地獄の日々を思い、憂鬱なまま、近所の夏祭りに立ち寄った。目に留まった金魚の琉金を持ち帰り、入手した『金魚傳』で飼育法を学んでいると、ふいに濡れ髪から水を滴らせた妖しい美女が目の前に現れた。幽霊、それとも金魚の化身!?漆黒の髪、黒目がちの目。えびせんをほしがり、テレビで覚えた日本語を喋るヘンな奴。素性を忘れた女をリュウと名付けると、なぜか死んだ人の姿が見えるようになり、そして潤のもとに次々と大口契約が舞い込み始める―。だがリュウの記憶の底には、遠き時代の、深く鋭い悲しみが横たわっていた。


読み終えて改めて装丁を見ると、物語の空気そのままで切なくなる。ブラック企業の仏具会社でまったく芽が出ず、明日を生きる気力も失いかけていた潤が、ふらりと立ち寄った縁日で掬った琉金との日々奇譚である。時空を超えた愛と憎しみの物語でもあるのだが、人間の女性に姿を変えたリュウの言動や振舞いが可愛らしくも可笑しく、振り回される潤の気持ちの変化も興味深い。だが、リュウが自らの出自の記憶を取り戻すにつれ、胸が痛くなってくる。どうにかならないものか。二人で乗り越えることはできないのか。ラストはあまりにも哀しく切なく、そして愛にあふれている。不思議なおかしみのある一冊だった。

冷蔵庫を抱きしめて*荻原浩

  • 2015/02/15(日) 17:10:35

冷蔵庫を抱きしめて冷蔵庫を抱きしめて
(2015/01/22)
荻原 浩

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心に鍵をかけて悪い癖を封じれば、幸せになれるかな? いや、それではダメ――。新婚旅行から戻って、はじめて夫との食の嗜好の違いに気づき、しかしなんとか自分の料理を食べさせようと苦悶する中で、摂食障害の症状が出てきてしまう女性を描いた表題作他、DV男ばかり好きになる女性、マスクなしでは人前に出られなくなった男性など、シニカルにクールに、現代人を心の闇から解放する荻原浩の真骨頂。


表題作のほか、「ヒット・アンド・アウェイ」 「アナザーフェイス」 「顔も見たくないのに」 「マスク」 「カメレオンの地色」 「それは言わない約束でしょう」 「エンドロールは最後まで」

ほんの些細なきっかけで、封じ込めていたものが堰を切ったように。始まりはさまざまだが、心を病み、さまざまな症状を呈する人々の日々の物語である。以前からここにも書いているように、荻原浩オバサン説は、今作でも健在である。ご本人のお姿を拝見したことがあってさえ、オバサン説を唱えたくなるほどである。女性のふとした思考回路や振舞いの描写がお見事である。しかもいつもよりも年齢の幅も広がっているような。傍から見ると、なにがこんなに深刻にさせているのか理解に苦しむが、本人は生き死にに関わるほどの苦悩のただなかにいる様子が絶妙である。深刻さのなかに、可笑しみもある一冊である。

二千七百の夏と冬 下*荻原浩

  • 2014/07/14(月) 16:56:36

二千七百の夏と冬(下)二千七百の夏と冬(下)
(2014/06/18)
荻原 浩

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紀元前七世紀、東日本―ピナイ(谷の村)に住むウルクは十五歳。野に獣を追い、木の実を集め、天の神に感謝を捧げる日々を送っている。近頃ピナイは、海渡りたちがもたらしたという神の実“コーミー”の噂でもちきりだ。だがそれは「災いを招く」と囁かれてもいた。そんなある日、ウルクは足を踏み入れた禁忌の南の森でカヒィという名の不思議な少女と出会う。


ピナイを追放されたウルクは、南の森の果てをめざし、過酷な旅をしている途中、陽の色のクムゥを倒し、何者かにさらわれて以前であったピナイの人ではない少女カヒィの住むフジミクニに連れてこられる。容貌違い、言葉も通じないフジミクニでは、暮らし方や約束事など何もかもがピナイとは異なっていて、ウルクはなかなか馴染めないが、仕事と棲家を与えられて、なんとかコーミィのことを知ろうと、奮闘する。それをピナイに持ち帰ることをまだあきらめてはいないのだった。2011年の日本では、手をつなぎ合うような二体の古代人骨の発掘が着々と進み、記者発表されることになる。二千七百年前では、ウルクとカヒィは、お腹の子と三人でフジミクニを逃げ出し、フジィを目指すが……。2011年に発掘された二体の古代人骨の事情が読者に明らかにされるとき、切なさと悔しさが胸に迫る。途方もなく壮大で、とても身近な一冊である。

二千七百の夏と冬 上*荻原浩

  • 2014/07/13(日) 16:54:16

二千七百の夏と冬(上)二千七百の夏と冬(上)
(2014/06/18)
荻原 浩

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2011年、夏――ダム建設工事の掘削作業中に、縄文人男性と弥生人女性の人骨が同時に発見された。二体は手を重ね、顔を向け合った姿であった。
3千年近く前、この二人にいったいどんなドラマがあったのか?新聞記者の佐藤香椰は次第にこの謎にのめりこんでいく。
紀元前7世紀、東日本――ピナイの村に住むウルクは15歳。5年前に父を亡くし、一家を支える働き頭だが、猟ではまだまだ半人前扱い。
いろいろと悔しい目にあうことも多い。近ごろ村は、海渡りたちがもたらしたという神の実コーミーの話でもちきりだが、同時にそれは「災いをもたらす」と噂されていた。


縄文人少年と弥生人少女の骨が発見された2011年の夏と、彼らが生きていたであろう二千七百年前とが交互に描かれている。2011年に、こういう形で骨が発見されることになるには、どんな経緯があったのだろう。興味ははるか昔に遡る。当たり前のことだが、二千七百年前の日本で営まれていた人々の暮らしがあったからこそ、2011年の香椰たちがいるのである。なんとわくわくすることか。上巻では、ウルクが掟を破って南の森へ入ったことでピナイを追放され、南の森に入っていったところまでが描かれているが、下巻ではどんな展開になるのか愉しみな一冊である。

家族写真*荻原浩

  • 2013/07/12(金) 13:27:12

家族写真家族写真
(2013/05/30)
荻原 浩

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娘の結婚、加齢に肥満、マイホーム購入、父親の脳梗塞……家族に訪れる悲喜こもごもを、ときに痛快に、ときに切なく描き、笑ったあとにじんわり心に沁みてくる、これぞ荻原浩!の珠玉の家族小説。勝手でわがまま、見栄っ張り、失礼なことを平気で言って、うっとうしいけどいないと困る、愛すべき家族の物語。


表題作のほか、「結婚しようよ」 「磯野波平を探して」 「肉村さん一家176kg」 「住宅見学会」 「プラスチック・ファミリー」 「しりとりの、り」

どの物語の主人公家族も平凡などこにでもいそうな一家である。取り立てて悪いことをするわけでもなく、日々を普通に平凡に暮らしている。だがそんな平凡な家族にも波風は立つのである。外から見れば小さな小さな波風だとしても、本人たちには一大事だったりもするのである。そんな、愉しく仲睦まじいだけではない数組の家族を、時にピリッとスパイスを利かせ、時に苦いものを噛みつぶしてしまったような厭な気分にさせたりもしながら、結局はこの家族あっての自分なのだと思わせてくれるようなしみじみと面白い一冊である。

花のさくら通り*荻原浩

  • 2012/08/12(日) 17:02:43

花のさくら通り花のさくら通り
(2012/06/26)
荻原 浩

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シャッター通りまであと一歩。さびれた商店街の再生プロジェクトを請け負ったのは、和菓子屋の2階に移転してきたばかりの超零細&倒産寸前の広告制作会社だった…。『オロロ畑でつかまえて』『なかよし小鳩組』に続くユニバーサル広告社シリーズ、待望の第3弾。


ユニバーサル広告社シリーズの最新作である。なんと、地味な駅の、一応商店街と呼べる通りを抜け、シャッターが閉まった店も多い寂れた通りに入り、社員一同(杉山・村崎・猪熊)が全身を不安に包まれきったところで到着したのは、昔ながらの和菓子屋の前。果たしてその二階が、ユニバーサル広告社の新オフィスなのだった。しかも成り行きで、杉山はその三階に住みこむことになってしまうのだった。
シャッター商店街まであと半歩、という現状を打開する意思があるのかないのか、商店会の長老たちの事なかれ主義や排他主義と、二代目三代目の商店主たちとの噛み合わなさは、あまりにもお約束通りなのだが、ここだけではなくどこにでもあることのようで、何とももどかしく歯がゆい思いで堪らない。採算度外視で商店街の再生を請け負った杉山たちの苦労も容易に想像ができる。杉山の離婚した妻と一緒に暮らすひとり娘との関係や、寺の息子と教会の娘の恋物語など、盛りだくさんで、どう収拾をつけるのかと思ったが、どの要素もそれなりの場所にピタリとはまって、大団円を迎えるのはお見事である。老若の確執がすっかり解消したわけではないので、これからもいろいろごたごたがあるかもしれないが、修行中の寺の跡取り・光照が帰ってきたらまた愉しいことになりそうな気がする。ユニバーサル広告社はきっとしばらくここに腰を落ち着けるのだろうな、と次を期待したくなる一冊である。

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幸せになる百通りの方法*荻原浩

  • 2012/04/01(日) 08:41:18

幸せになる百通りの方法幸せになる百通りの方法
(2012/02)
荻原 浩

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このムズカシイ時代を、滑稽だけど懸命に生きる人たち―。短篇の名手が贈るユーモア&ビターテイスト溢れる七つの物語。


表題作のほか、「原発がともす灯の下で」 「俺だよ、俺。」 「今日もみんなつながっている。」 「出逢いのジャングル」 「ベンチマン」 「歴史がいっぱい」

どれもそれぞれ、くすりと笑わされた後にしんみりしてしまうような物語たちである。さまざまな環境、立場の人々が登場するが、読者は多かれ少なかれ我が身に引き比べて読んでしまうのではないだろうか。そんななか、最初の物語のおばあちゃんの逆襲(?)を思わず応援したくなったり、オレオレ詐欺を自然体でやっつける大阪のオバチャンの潜在能力に笑いながらも感嘆したり、生きている人間の底力のようなものを感じさせてくれる一冊でもあった。荻原さん、上手いなぁ。

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誰にも書ける一冊の本*荻原浩

  • 2011/12/28(水) 19:10:14

誰にも書ける一冊の本 (テーマ競作小説「死様」)誰にも書ける一冊の本 (テーマ競作小説「死様」)
(2011/06/18)
荻原浩

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「私」は、アルバイトと自分を含めて五人の広告制作会社を営んでいる。広告業のかたわら小説を書き、二冊の本を出している。会議中に、母親から電話があった。入院している父親の容態が悪くなり、医者から、会わせたい人は今のうち呼ぶように言われたという。函館に飛ぶ。父は、生体情報モニタという機械に繋がれていた。父とは不仲だったわけではないが、男同士で腹を割った話をした経験も、二人きりの親密な体験をした記憶もない。母から原稿用紙の束を渡された。父が書いていたものだという。本にしたくて、専門家のお前に意見を聞きたいんじゃないかと。父は八十年間、北海道で暮らしていた。出世したとは言い難い会社員、見合い結婚、子どもは「私」と妹の二人。平凡な人生を綴ったであろう厚さ四、五センチの原稿を息子以外の誰が読みたがるだろう。読み始めた。少年時代に羆の一撃を食らい、祖父とのニシン漁で学資を稼ぎ、北大文学部の英文科を目指すところまで読んだ時点で、父は事切れた。すべて初めて知ることばかりであった。最初は、素人が陥りやすい自慢話と思ったが、その後創作と思うようになる。葬儀まで暦の関係で日にちが空き、物言わぬ父の傍らで読み終えた。そして葬儀の日、すべては明らかになった……。  一人の人間が死した後に厳然と残り、鮮やかに浮かび上がってくるものとは。


「死様」というテーマの競作のなかの一冊のようである。ほかには、佐藤正午、白石一文、土居伸光、藤岡陽子、盛田隆二各氏が参加している。
父の死に接し、父が残した自伝のような原稿を読む息子である「私」は、生きているころには聞けなかった、聞こうともしなかった父の生き様をじっくりと知っていくことになる。戦争を体験し、北海道に移民として入植して並々ならぬ苦労をしてきたひとりの男の人生の重みが胸にずっしりと訴えかけてくるようである。校正しながら読み進み、自費出版でもしてやろうというつもりで読み始めた「私」も、いつしか惹き込まれ、読み終える頃にはそんな気持ちはなくなっていたのだった。これは、自分と母と妹が読めばそれでいい。そう思えるようになったのである。そして迎えた葬儀当日は、雪に降り込められ一面白い世界であった。争議会場となる自宅へ向かってやってくる人々の顔を見たとき、「私」は父の人生の宝を目の当たりにしたような心地だったのだろう。ひとりの人間の歴史を感じさせられる一冊である。

月の上の観覧車*荻原浩

  • 2011/06/24(金) 09:12:08

月の上の観覧車月の上の観覧車
(2011/05)
荻原 浩

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守れるはずもないことを、いくつ約束したのだろう。逃げ出した故郷、家族に押しつけた身勝手な夢。いつだってその残酷さに、気付かぬわけでは決してなかった―。月光の差し込む観覧車の中で、愛する人々と束の間の再会を遂げる男を描いた表題作ほか、繰り返せない時間の哀歓を描く著者最高の傑作短篇集。


表題作のほか、「トンネル鏡」 「金魚」 「上海租界の魔術師」 「レシピ」 「胡瓜の馬」 「チョコチップミントをダブルで」 「ゴミ屋敷モノクローム」

どれも胸を締めつけられるような切なさを内包した八つの物語である。取り戻せないからこその後悔や郷愁、過去のあるときへと飛ばす思いのどうしようもなさが見事である。そしてまた今作でも荻原さん=おばさん説が浮上するのだった。ご本人の講演会に伺ったことがあるので男性だということは重々承知しているが、それでもなお女性――ことに中年女性――の心情を描いて妙である。ときにどきりとさせられるほどなのである。どういうことなのだ、とご本人に問いたいくらいである。高いところは苦手なので観覧車にも自分から乗りたいとは思わないが、月の出ている夜になら乗ってみてもいいかもしれない、などと思ってしまう一冊である。

砂の王国 下*荻原浩

  • 2011/04/24(日) 19:19:55

砂の王国(下)砂の王国(下)
(2010/11/16)
荻原 浩

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奇跡のような成功の中、私は思う。
誰かに救ってほしいと。

作りだされた虚像の上に見る間に膨れ上がってゆく「大地の会」。
会員たちの熱狂は創設者の思惑をも越え、
やがて手に負えないものになった。

ホームレス生活からの劇的な生還。
だが多くを手に入れ、ふと振り返ると
そこにあるのは空虚な祝祭と、不協和音だった。

人の心を惹きつけ、操り、そして--壮大な賭けが迎える結末は。

人間の底知れぬ強さとかぎりない脆さ。
傑作長編小説、衝撃のラスト!


途中までは上巻を読みながら想像していた通りの成り行きだった。勢いづいた大地の会は、創始者である山崎遼一の思惑をはるかに超えて入会者を増やし、ひとり歩きをはじめたのである。ここまでは容易に想像できる話である。だが、ラストに向かって風向きがいささか怪しくなってくる。教祖に祭りあげられた仲村の行動も、最後の最後で意外だった。山崎の人生、いったいどこからが間違いだったのだろう、と彼と一緒に考え込みたくなる一冊だった。

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砂の王国 上*荻原浩

  • 2011/04/23(土) 11:03:38

砂の王国(上)砂の王国(上)
(2010/11/16)
荻原 浩

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俺はまだ自分の運というやつに貸しがある。
さぁ、勝負だ。

全財産は、3円。転落はほんの少しのきっかけで起きた。
大手証券会社勤務からホームレスになり、
寒さと飢えと人々の侮蔑の目中で閃く--「宗教を興す」

段ボールハウスの設置場所を求めて辿り着いた公園で
出会ったのは、怪しい辻占い師と若い美形のホームレス。
世間の端に追いやられた3人が手を組み、
究極の逆襲が始まる--

驚愕のリアリティで描かれる極貧の日々と宗教創設計画。

『明日の記憶』から6年。人間の業(ごう)を描き出す
新たなる代表作の誕生!


ほんのしばらく前まで大手証券マンだった山崎遼一は、自分がホームレスだとなかなか認められなかったが、プライドを捨てて認めてしまえば生きる術はあれこれとあるのだった。潜入取材でもしたのかと思わせる過酷なその日暮らしの様子は薄ら寒くもあるが、一匹狼では生きていけない過酷さもよくわかる。そして山崎が、ねぐらに決めた公園で知り合った二人の男を巻き込み、証券会社時代に培ったビジネスのノウハウを生かして最低限の元手を蓄え、宗教団体「大地の会」を起こして活動をはじめたところまでがこの上巻で描かれている。
ここまでは、山崎のもくろみは成功しているように見える。このタイトルなので先はある程度想像できるが、「大地の会」がどうなっていくのかに興味津々である。下巻が愉しみ。

ひまわり事件*荻原浩

  • 2009/12/08(火) 19:11:54

ひまわり事件ひまわり事件
(2009/11/13)
荻原 浩

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実行犯は、ジジババと幼稚園児?隣接する有料老人ホーム「ひまわり苑」と「ひまわり幼稚園」。老人とガキどもの不思議な交流、やがて起こるカゲキな「事件」とは?荻原浩渾身の熱血幼老小説!―。


101の章から成るが、101章目(現在)が冒頭に置かれ、そのあとに1章(13年前)以降がつづく。
隣り合った、経営者を同じくする老人ホームと幼稚園。経営者側の勝手な思惑に降りまわされながら、甘んじている老人たちと、そんなことは関知せずに無邪気にはしゃぐ園児たち。そんな中、ホームの待遇など姿勢のあり方に疑問を投げかける人物が現れ、落ちこぼれ園児たちを巻き込んで、権力闘争へと発展するのである。
普段交流のない老人と園児が、いきなり苑園合同行事をつきつけられ、はじめは戸惑い、恐る恐る様子を伺うが、次第に自然に振舞えるようになって行く過程が無理なく描かれていて微笑ましい。老人も子どもも、それぞれが自分の身に引き比べて相手のことを考える様も興味深い。重いテーマがいくつも盛り込まれているのだが、園児の奔放な行動力や無邪気なのか生意気なのかわからない生態を交えて、重苦しくなくコメディタッチで描かれているので、難なく読めるのだが、考えさせられることは意外に多い一冊だった。

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