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窓辺のこと*石田千
- 2020/08/11(火) 18:42:47
50歳になった作家の2018年、暮らしに根づいている言葉を丁寧にすくい、文章に放つ。 いいことも悲しいことも書く。人気作家の新境地をひらく傑作エッセイ集! 2018年の1年間、「共同通信」に連載した作品を中心に、その1年に雑誌などに発表したエッセイをまとめる。
特に華々しいこともなく、堅実に丁寧に生きる日々の暮らしに、著者の視線が向けられるだけで、これほどにも愛おしく豊かに感じられるものだということに感動さえ覚える。キラキラと飾った言葉を遣うわけでもなく、淡々と目の前のこと、胸の中のことを書き綴っているような言葉の中に、その「人」がすべて現れていて、うなずかされる。悲しみの深さも、しあわせの噛みしめ方も、抑え目に書かれているからこそ真に伝わるというものだろう。ますます好きになる一冊である。
ヲトメノイノリ*石田千
- 2018/03/03(土) 18:35:29
果たして、イノリは通じるのか。七十六歳にしてピアノを習い始める佃煮屋の女将、彼女の願いと挑戦を軽妙に語る表題作ほか、幼児から老女まで、様々な年代の女性の日常と「イノリ」を描いた傑作連作短篇集。
表題作のほか、「{ぶらんこ」 「うぐいす」 「青嵐」 「梅雨明け」 「風鈴」 「素麺」 「球根」 「木枯らし一号」 「去年今年」
それぞれ別のお話しなのだが、どこかで淡く繋がっている気がする。それぞれが、各々の場所で、各自の人生を生きているということが、別の場所の別の人の人生と、知らず知らずのうちに淡くかかわりを持ってくるような。ほんのりとあたたかな気持ちになる。そして表題作は熱い思いが並々と溢れている。そしてそれも人との関わりなのだなぁと思わされる。人はいろんなことを考え、いろんな気持ちを胸に仕舞って生きている。それをお互いに少しずつ見せ合うと、僅かずつでも繋がっていくのかもしれないと思えてくる。まず何かに気づくことが始まりなのかもしれないと気づかせてくれる一冊でもある。
箸もてば*石田千
- 2017/07/01(土) 13:10:56
箸もてば、いつかの夕方、いつかの乾杯。ひとくちめのビールが、喉もとすぎる。会えなくなったひとにも会える。(「あとがき」より)
作家・石田 千による、つくる、飲む、食べる日々をつづったエッセイ。
年々歳々、食相い似たり、年々歳々、人同じからず。
時のうつろい、四季のうつりかわりととも自然の恵みとどう出合い、どう調理し、食べ、そして飲んだか。
飲食は命を養い、心を支える。食べものへの思い、そして杯を手にすれば、思いおこすあの人たちの声、姿、気配。
生まれたばかりのような繊細なことばで語られる、飲食をめぐる珠玉の掌篇集。
またまた素敵な読書タイムをありがとう、である。どんなときに何をどうやって食べるか、それはその人を如実に表すことだと思う。著者は、自らの躰の声にきちんと耳を傾け、弱ったときには弱ったなりに、元気なときには元気ななりに。そして、季節の声もちゃんと聞いて、旬のものに丁寧に手をかけて食している。それは必ずしも凝った料理というわけではなく、その部分は外の食事に任せ、却って素朴で素材を生かした食べ方で、思う存分幸せを感じながら食べていることがうかがわれて好もしい。実際に食べているわけではないのに、読んでいるだけで、滋味あふれる湯気に包まれ、太陽の恵みたっぷりの素材の滋養が、躰の芯に沁みこんでいく心地になる。至福の一冊である。
からだとはなす、ことばとおどる
- 2016/03/28(月) 07:11:49
ときにドキッとする描写や、微妙な女心も顔をのぞかせる、独特のことばの「肌触り」。けっして〈わたし〉とは言わない石田千の〈わたし〉が、抑制の利いた文章ながら、いままでで一番自分をさらしている。22枚の章扉を飾る石井孝典による著者の写真にも、本人も気づいていない〈わたし〉が写っている。
これ以上ないくらい著者らしく、これまでに増して、さらに著者のことが愛おしくなる一冊である。写真もとてもいい。
バスを待って*石田千
- 2016/03/06(日) 17:03:15
町の景色と人情が心に沁みる石田千連作小説
<いちばんまえの席があいた。となりのおじいさんは、いそいで移動して椅子によじのぼった。男のひとは、いつまでもあの席が好きでおかしい。> 夫をなくしたばかりのお年寄り、自分の進路に迷う高校生、上司とそりが合わず落ち込むサラリーマン、合コンに馴染めないOL……、季節、場所、人は違えど、バスにゆられて「明日もがんばるか」と元気を回復する二十篇。
第一回古本小説大賞、2011年、12年芥川賞候補の石田千氏の最新小説。「お洒落なイタリアンより酒肴の旨い居酒屋が好き」「流行のファッションより古着やナチュラル系の服が好き」という女性を中心に人気を博している小説家・エッセイストの、人情に溢れ、ほろっときたり、ほほ笑んだりしながら読める物語。
路線バスにまつわる二十の物語である。いつものように、急に思い立って、誰かに会いに、誰かと別れて、浮き浮きと、涙をこらえて。さまざまな状況で、いろんな人が路線バスに乗る。同じバスに乗り合わせた人たちのそれぞれに人生があり、その人たちに関わる人たちの人生も絡まっている。そしてそんなバスを運転する人も、その周りの人もいる。そのすべてにそれぞれが主役の物語があるのだと、本作を読むとしみじみと思われてきて、丁寧に生きてみたい心地にさせられる。心なしかいつもよりも文体が柔らかく、著者らしさは失わないまま、愛おしさがより増すような印象でもある。自分が少しだけやさしくなったような気分になれる一冊である。
家へ*石田千
- 2015/11/26(木) 20:15:22
東京の美大で彫刻を学ぶ大学院生「シン」は、母と、その内縁の夫「じいさん」と新潟の海辺の町で育った。一方、島に住む実の父親「倫さん」とも親しく交流を続けている。複雑ながら穏やかな関係を保つ家族だったが、シンの心には小さな違和感が芽生えはじめる…。
とても穏やかで静かなのに、なんて複雑で込み入った人間関係なのだろう。逆に言えば、これほどの複雑さを描いて、どうしてここまで穏やかな風情でいられるのだろう、と不思議になる。登場人物それぞれに屈託がないわけがないのだから、各人がそれを大らかに呑みこんで裡側の波風を外に放たないのだろう。それでもまだ若いシン(新太郎)は、そのすべてをそのまま呑みこみ切れずに、違和感としてわだかまりを覚えもするのだろう。なにがあっても迎え入れてくれる屋根がふたつある、という、島のばっちゃんの言葉が胸に響く。みんなしあわせになれ、と思わされる一冊である。
唄めぐり*石田千
- 2015/06/20(土) 19:29:56
日本人の真心を伝える歌声を訪ねて――唄と踊りとお酒で紡いだ愉快至極な民謡紀行! 民謡はなぜ、人を元気にするのだろう……佐渡おけさ、木曾節、会津磐梯山、河内音頭、黒田節などの名曲から福島復興の祈りを込めた盆踊りまで、全国各地を訪ね歩いて歌う現場を生で体感。唄の名手たちと語らい、歌い継がれてきた歴史と変遷を繙きながら、根底に流れる人びとの情念をすくっていく滋味豊かな紀行エッセイ!
日本各地の民謡を訪ね歩き、歌を習うだけでなく、その背景や伝承の様子、そして暮らしに溶け込む生きた唄たちの姿まで。傍で見るだけでなく、著者が自らまざって体感したあれこれが綴られていて、各地の風景や風の匂いまで感じられるような一冊である。
夜明けのラジオ*石田千
- 2014/02/10(月) 16:54:10
きつねの遠足*石田千
- 2013/11/16(土) 16:42:13
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からりと晴れたら町に出て、風邪をひいたら本を読む。銭湯、寄席、銀座のバアでも商店街でも、いつもなにかに手をひかれ、かならずだれかとめぐりあう…。ありきたりな日々の、ゆたかな時間を綴るエッセイ。
いつもながら、興味の向う先、その切り取り方に著者らしさが現れていて魅力的である。目線の先にあるものへのまなざしのあたたかさ――ときには辛辣さ――が飾らなくてとてもいい。どっぷりと中心に浸るのではなく、やや斜めから、外側から観察するように向けられる視線がたまらない。言い切りがいつもよりもやさしく感じられるのはわたしだけだろうか。寄り添ってともに歩いているような心地の一冊である。
バスを待って*石田千
- 2013/08/16(金) 16:58:28
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町の景色と人情が心に沁みる石田千連作小説
<いちばんまえの席があいた。となりのおじいさんは、いそいで移動して椅子によじのぼった。男のひとは、いつまでもあの席が好きでおかしい。> 夫をなくしたばかりのお年寄り、自分の進路に迷う高校生、上司とそりが合わず落ち込むサラリーマン、合コンに馴染めないOL……、季節、場所、人は違えど、バスにゆられて「明日もがんばるか」と元気を回復する二十篇。
第一回古本小説大賞、2011年、12年芥川賞候補の石田千氏の最新小説。「お洒落なイタリアンより酒肴の旨い居酒屋が好き」「流行のファッションより古着やナチュラル系の服が好き」という女性を中心に人気を博している小説家・エッセイストの、人情に溢れ、ほろっときたり、ほほ笑んだりしながら読める物語。
乗り物が少し苦手なので、自分からバスを選んで乗ることは滅多にない。どこかへ行こうと思うと、最短経路を検索して電車や地下鉄を乗り継いで出かけている。だが、それほど急いでいかなければならない場所がどれほどあるだろうか、と考えると、首を捻らざるを得ない。この一冊を読んでいるうちに、もっとのんびり風景を愉しみながら移動するのもいいのではないかと思えてくる。さらに言えば、目的地を決めずに、来たバスにふらっと乗るのも愉しいかもしれないとさえ思えてくる。バスの座席では、人は自分に戻れるのかもしれないと思わされる一冊でもある。
役たたず、*石田千
- 2013/04/03(水) 16:55:01
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だいじなことは、役にたたない。そして一見、役にたっているようにみえるものも、ひと皮むけば役たたず。役にたつことばかりしていると、暮らしも人も、痩せていく―。古風な下町感覚の文章を書きファンの多いエッセイストで、ここ最近は小説家としても頭角を現している石田千が、日常のなかで綴った「役たたず」の視点からの風景。二年あまりにわたる連載の途中では、大震災が起き、そのときの空気感も文章としてリアルに切り取られている。相撲好き、競馬好き、ビール好きの「町内一のへそまげちゃん」が、だいじにしたいもの。へなちょこまじめ日常記。
タイトルの最後の「、」が味わい深い。役たたずと自認していても、どんな些細なことでも、何かしらことを起こせば、まわりまわって何かしらの役に立つことになる、という含みが「、」に込められているように思えてならない。いつも通りの決して優等生ではない、むしろ同じ場所で足踏みしてばかりいるような親しさで、ぽつりぽつりと語られることに真実が感じられる。震災後のあれやこれやに、珍しく憤りをあらわにする様にも頷きたくなる。隣にいるような体温を感じられる心地の一冊である。
きなりの雲*石田千
- 2012/02/22(水) 17:04:34
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古びたアパートの住人たち。編みもの教室に通う仲間たち。大切にしていた恋を失くし、すさんだ気持ちから、ようやく顔を上げたとき、もっと、大切なものが見つかった。傷ついた心だけが見えるほんとうの景色。愛おしい人たちとのかけがえのない日々を描き、「群像」発表時から話題を集める著者初の長篇小説。第146回芥川賞候補作。
傷心のあまり体調を崩し、殻の内側に篭もるように過ごした日々から、少しずつ外に目を向けられるようになり、人の暖かさや縁の不思議、すくすくと育つ植物の生命力に助けられ見守られて、生きることを取り戻してゆく物語である。アパートの管理人や住人、編み物教室の生徒たちなどの想いに触れ、幾度も熱いものがこみあげてくる。人はひとりきりでは生きられない、そして、助けを求めるのは忌むべきことでもなんでもないのだと、あたたかさと共に思わせてくれる一冊である。
あめりかむら*石田千
- 2011/10/12(水) 14:13:08
![]() | あめりかむら (2011/08) 石田 千 商品詳細を見る |
病再発の不安を消そうと出た旅先で、体の異変に襲われた道子。その瞬間脳裏に現われたのは、あれほど嫌っていた青年の姿だった―。エリートビジネスマンへの道をまっしぐらに進み、周囲の誰からも煙たがられた友人との心の絆を描き、芥川賞候補作となった表題作。下町の、古本屋を兼ねた居酒屋で繰り広げられる人情ドラマ「大踏切書店のこと」。いじめにあう幼な子と、犬との心の交流を描いた「クリ」など五篇を収録。著者初の小説集。
表題作のほか、「「クリ」 カーネーション」 「夏の温室」 「大踏切書店のこと」
初の小説集とのこと。だが、これほどエッセイと小説の手触りが変わらない作家も珍しいのではないだろうか。そのままエッセイであると言われても少しの違和感もないだろう。「大踏切書店のこと」の主人公が男性だと判ったときに少なからず驚かされたくらいで。どの物語も「病」というキーワードでゆるくつながるので、もの哀しさと切実さが漂い流れている。最後に配された「大踏切書店のこと」だけがほんの少し異質で、そしてわたしはこれがいちばん好きだった。それでも日々は流れていくのだと思わされる一冊である。
並木印象*石田千
- 2011/09/08(木) 17:09:59
![]() | 並木印象 (2011/04/26) 石田 千 商品詳細を見る |
帰りそびれた春の夜、戻らない夏の時間、校庭で膝を抱えていた秋……思い出の背景にはいつも並木がいてくれた。さくら、けやき、いちょう……季節ごとに想起する20篇の物語。
1 さくら けやき すずかけ いちょう まつ とち ふう やなぎ
2 ヒマラヤスギ メタセコイヤ こぶし はなみずき とねりこ 白樺 フェニックス えんじゅ さるすべり しいのき きんもくせい くすのき
さまざまな時、さまざまな場所、ときどきに高く低く心持ちを抱いて並木道を歩く。一本一本の木に心を止め、木肌に触れて、そのときそのときの自らのありように想いを馳せる。
わたしの勝手な印象だが、著者は自分ルールをしっかりと持っていらっしゃるように思う。控えめながら芯のしっかりした女の人なのだろうと想像する。それでいていつもどこかに心細さを感じさせられるのだが、今作ではその心細さが際立っているように思われる。体調の不安のせいかもしれない。お節介とは判りつつ、木肌にそっと手のひらを当てるようにそばにいてあげたいと思ってしまう。ところどころで著者の振れ幅に共鳴して泣いてしまうような一冊である。
みなも*石田千
- 2011/08/08(月) 16:38:36
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