- | こんな一冊 トップへ |
八つ花ごよみ*山本一力
- 2015/07/24(金) 07:29:55
新潮社 (2012-04-27)
売り上げランキング: 243,699
満開の美しさも散りゆく儚さも、一緒に眺めたいと願うのはいつだってただ一人、おまいさんだけだった。幾年もの時を重ね、季節の終わりを迎えた夫婦が愛でる花。あるいは、苦楽をともにした旧友と眺める景色。桔梗、女郎花、菖蒲、小梅、桜…移ろいゆく花に、ゆっくりと熟した想いを重ね綴られる、八つの絆。江戸市井に生きる人々の、ゆかしい人情が深く心に泌み渡る、傑作短編集。
「炉ばたのききょう」 「海辺橋の女郎花」 「京橋の小梅」 「西應寺の桜」 「佃町の菖蒲」 「砂村の尾花」 「御船橋の紅花」 「仲町のひいらぎ」
花を織り込んだ物語八編である。主人公はそれぞれもう若くはないが、さまざまな事情を抱えて時を重ねてきた人たちである。花を愛でる余裕などないときにも、そのそばにはひっそり咲く花があり、周りには見守る目もあるのである。淡々と静かに語られる出来事に、愛おしささえ感じられるようになる一冊である。
にこにこ貧乏*山本一力
- 2007/11/03(土) 16:47:18
はぐれ牡丹*山本一力
- 2007/10/21(日) 14:05:57
一乃は夫・鉄幹と四歳になる幹太郎と三人、深川冬木町の裏店に暮らしている。日本橋両替商の跡取り娘であった彼女は、かけ落ちして鉄幹と一緒になったが、貧しくとも幸福な日々を送っていた。そんなある日、一乃がにせ一分金を見つける。一方同じ裏店のおあきが人さらいにあってしまう。一乃たちは、おあきを助けるために立ち上がるが…。助け合い、明るくたくましく生きる市井の人々を情感こめて描く長篇時代小説の傑作。はぐれ牡丹 (時代小説文庫)
(2005/06)
山本 一力
商品詳細を見る
一乃・鉄幹・幹太郎一家の貧しいながらもしあわせな暮らし、貧乏長屋の人たちの「お互い様」の心と人情の機微が、しあわせというものの本来の姿を思い出させてくれて胸にあたたかい。
しかし、それとは別に、すぐ近くではきな臭いことが起こりつつあり、いや応もなく一乃たちも巻き込まれていくのだった。
日本橋の大店のお嬢様だった一乃の持ち前の明るさと一本気、そして思うことを頭の中に仕舞っておけないおおらかさで次々と口にする思い付きを、寺子屋の教師もしている鉄幹が誰にもわかりやすく整理して話すところには、この夫婦の円満の秘訣が伺えるようだった。
そして、その一乃の一見とんでもないように思われるインスピレーションのおかげで、事件のあらましが一本の線につながり、一乃(の魅力)に呼び寄せられた人々の情の通った働きで、見事事件も解決を見るのである。
家族、近隣、親子の人情話と活劇の要素とを併せ持ったような痛快な一冊である。
だいこん*山本一力
- 2007/07/12(木) 07:43:04
☆☆☆☆・ 江戸に心から愛されている一膳飯屋がありました。知恵を使い、こころざしを捨てず、ひたむきに汗を流したおんなの生き方。直木賞作家の魅力あふれる細腕繁盛記。 人定めのコツ―― だいこん
山本 一力 (2005/01/21)
光文社
この商品の詳細を見る
江戸情緒豊な物語である。肩を寄せ合って長屋で暮らす人びとの、躰を張って仕事をする職人たちの、さまざまな江戸の人びとの息遣いすら感じられるようである。
長屋に暮らす通い大工の安治の長女として生まれたつばきは、幼いころから自分の目で見た両親や長屋の大人たちのあれこれを、自分の頭で考えて自分の行いに活かす子どもだった。そのことが、どんな立場に立たされても自分の行く道を見失わない強さになっているのだろう。自分の目で見たことを自分の頭で考えることの大切さを改めて思わされる。
つばきが知らず知らず身につけたそんな生きる知恵が、年若くして一膳飯屋を構えるときにも、なにか岐路に立たされたときにも、自然と手が差し伸べられる理由のひとつでもあるのだろう。そして、他人に頼るときにはきっちりと頼ることができるというのもつばきの偉いところだろう。
一膳飯屋「だいこん」の洗い場に人を雇う折に周旋屋からもらったアドバイスもそのうちのひとつである。
笑顔がきれいなひと。
骨惜しみをせず、腰が軽いひと。
声が明るいひと。
好き嫌いを言わず、出されたものは残さずなんでも食べるひと。
あかね空*山本一力
- 2007/07/03(火) 17:09:00
☆☆☆☆・ 京から江戸に下った豆腐職人・永吉一家二代の有為転変に、かけがえのない家族の絆を描く入魂の書き下ろし時代長篇。 あかね空
山本 一力 (2001/10)
文藝春秋
この商品の詳細を見る
江戸の長屋や職人の暮らしようが興味深い一冊である。そして、夫婦・親子・兄弟・長屋の住人たち・得意先・同業者など、毎日の暮らしに否応なしにかかわる人たちとの心の通い合いや意地の張り合いなどがつぶさに描かれていて惹きこまれる。
はじめにテレビドラマのように目に見える事実が描かれ、あとから――思い出語りだったり 他人への説明であったりと状況はそのときどきで違うが――そのときの事情や心情が明かされ、そうだったのかと納得させられる。それも、別の場で別の人物の立場で語られると、同じ出来事にもまた別の想いが織り込まれていたりして、人が生きていくことの一筋縄でいかないさまがもどかしくもあり愛しくもなる。
根っこのところに他人を思いやる心がしっかりとあることがこちらの気持ちをもあたためてくれる。
- | こんな一冊 トップへ |