猫の傀儡*西條奈加

  • 2017/06/14(水) 18:15:08

猫の傀儡(くぐつ)
猫の傀儡(くぐつ)
posted with amazlet at 17.06.14
西條 奈加
光文社
売り上げランキング: 105,566

人を遣い、人を操り、猫のために働かせる。それが傀儡師だ。

傀儡師となった野良猫・ミスジは、売れない狂言作者の阿次郎を操って、寄せられる悶着に対処していく。やがて一匹とひとりの前に立ち現れる、先代傀儡師失踪の真相とは――? 当代屈指の実力派が猫愛もたっぷりに描く、傑作時代“猫"ミステリー! !


表題作のほか、「白黒仔猫」 「十市と赤」 「三日月の仇」 「ふたり順松」 「三年宵待ち」 「猫町大捕り物」

ひと言で言えば、猫が人を操って事件を解決に導く物語である。猫界では傀儡師は代々受け継がれ、傀儡としてふさわしい人間を、上手い具合に誘導して事件に関わらせ、それとなく道筋をつけて解決へと導くのである。傀儡にされた人間はそうとは知らず、自らの意志で謎を解きほぐした気になっているのだが、ふと気づくといつも同じ猫がそこにいるという寸法である。なんだか痛快である。天敵でもある烏との人情話もあり、現傀儡師のミスジの賢さと機転も見事である。シリーズになればいいなあと思う一冊である。

みやこさわぎ*西條奈加

  • 2017/02/21(火) 13:18:52

みやこさわぎ (お蔦さんの神楽坂日記)
西條 奈加
東京創元社
売り上げランキング: 107,686

高校生になった滝本望は、いまも祖母と神楽坂でふたり暮らしをしている。芸者時代の名前からお蔦さんと呼ばれる祖母は、料理は孫に任せきりだしとても気が強いけれど、ご近所衆から頼られる人気者だ。そのお蔦さんが踊りの稽古をみている、若手芸妓・都姐さんが寿退職することになった。幸せな時期のはずなのに、「これ以上迷惑はかけられない」と都姐さんの表情は冴えなくて…(「みやこさわぎ」)。神楽坂で起こる事件をお蔦さんが痛快に解決する!粋と人情と、望が作る美味しい料理がたっぷり味わえるシリーズ第三弾。


神楽坂という独特の趣のある街の人たちの日々の暮らしが見えてくるのが愉しいシリーズである。そんな街の人たちの日常に何気なく紛れ込む謎に経験と想像力で、思いやりのある答えを導き出すのがお蔦さんなのである。高校生になった孫の望(のぞむ)の料理の腕もますます上がっているようで、登場する料理の数々も魅力的である。神楽坂の裏路地に迷い込んでみたくなるシリーズである。

上野池之端 鱗や繁盛記*西條奈加

  • 2016/11/20(日) 17:09:28

上野池之端 鱗や繁盛記 (新潮文庫)
西條 奈加
新潮社 (2016-09-28)
売り上げランキング: 7,546

騙されて江戸に来た13歳の少女・お末の奉公先「鱗や」は、料理茶屋とは名ばかりの三流店だった。無気力な周囲をよそに、客を喜ばせたい一心で働くお末。名店と呼ばれた昔を取り戻すため、志を同じくする若旦那と奮闘が始まる。粋なもてなしが通人の噂になる頃、店の秘事が明るみに。混乱の中、八年に一度だけ咲く桜が、すべての想いを受け止め花開く――。美味絶佳の人情時代小説。


出会い茶屋のような店だった鱗やに、不忠義をした従姉妹のお軽の代わりとして奉公することになった13歳のお末が主人公である。一年前に主の娘お鶴の元に婿入りした若旦那・八十八朗が、お客においしい料理を出す店として立て直そうとするのを助け、店の行く末を親身に考えながら奉公するお末の成長する姿が微笑ましい。しかしそれとは別に、若旦那には別の顔があるように思われ、時として身がすくむ心持ちにさせられることもあるのだった。鱗やの抱える問題と、若旦那の思惑、使用人たちの身の振り方、主一家の抱える闇。さまざまな要素が絡まり合って、鱗やの行く末を不安にさせる。時が一気に進んだラストは、ほっとさせられたとともに、鱗やの明るい未来を見届けたくもなる一冊である。

刑罰0号*西條奈加

  • 2016/10/28(金) 17:09:06

刑罰0号 (文芸書)
刑罰0号 (文芸書)
posted with amazlet at 16.10.28
西條 奈加
徳間書店
売り上げランキング: 467,378

記憶を抽出して、画像化を行い、他人の脳内で再生するシステム―0号。これを用いて犯罪被害者の記憶―殺された際の恐怖を加害者に経験させる…。もともとは、死刑に代わる新たな刑罰として、法務省から依頼されたプロジェクトであったが、実際は失敗に終わる。0号そのものに瑕疵はなかったが、被験者たちの精神が脆く、その負荷に耐えられなかったのだ…。開発者の佐田洋介教授は、それでも不法に実験を強行し、逮捕されてしまう。助手の江波はるかは、さるグローバルIT企業のバックアップのもと、ひそかに研究を続けるが…。0号を施した者、0号を施された者たちの物語は、今、人類の“贖罪”のために捧げられる―。


罪を犯した者を、心の底から悔い改めさせることのできることができるなら、それは被害者にとっても、もちろん本人にとっても、前を向いて一歩踏み出す大きな助けになるだろうと思う。死刑やその他の刑罰によって、ほんとうにそれが成し得るのかどうか疑問は大きく、ことに被害者感情には納得できない部分が多いだろうと察せられる。刑罰0号は、犯罪者に、被害者の記憶を見せることによって、自分の犯した罪の重さを実感させ、心底から罪を償わせようという狙いで始められたプロジェクトである。しかし、まず被験者とされた犯罪者たちにかかる負荷は予想以上に大きく、プロジェクトは半ばで頓挫することになる。だが、研究者というのは、その程度のことで、はいそうですかと諦められる人種ではないのだろう。水面下で続けられていた研究が、後々想像もしなかった事態を引き起こすことになるのである。辛うじて正気を保ち、成長していく被験者・森田俊と研究者の江波はるかの関わり、俊とそもそもの開発者・佐田行雄の関わり、佐田と息子の洋介との関係。さまざまな人物たちが絡み合い、それぞれの思惑で0号の周囲で動き回っている。ラストは、そもそもの狙いからするとかなり大規模なことになったし、実際にそんなことになったらと思うと身が震えるが、もしかするとこの先、平和が続いてくれるかもしれないという小さな希望もなくはない。良かれと思って考え出したことも、その影響力は留まる事を知らないのだと、改めて考えさせられることが多い一冊でもあった。

九十九藤(つづらふじ)*西條奈加

  • 2016/04/14(木) 18:34:27

九十九藤
九十九藤
posted with amazlet at 16.04.14
西條 奈加
集英社
売り上げランキング: 4,277

江戸の人材派遣業、口入屋・冬屋(かずらや)の女主人となったお藤。「商いは人で決まる」が口癖の祖母に口入稼業を仕込まれ育ったが、実家の不幸が重なり天涯孤独の身に。義母から女衒に売られるも必死に逃げ、江戸で生きてきた。
お藤は、払いが悪く悶着の多い武家が相手の商いで傾いた店を救うため、ある勝負に打って出る。取り扱う客を商家に絞り、男の奉公人志願者に徹底した家事指南を行い、大店へ送り込む。前代未聞の大転換は周囲の猛反発を呼んでしまう。
そんな折、お藤は女衒から逃げていた時に助けてくれたお武家によく似た男と出会う。男は黒羽の百蔵と呼ばれ、江戸中の武家奉公人の上に立つ恐ろしい人物だった。
冬屋の挑戦がようやく成果をあげはじめた頃、その好調ぶりを忌々しく思う人宿組合の顔役たちは百蔵を相談役に据え、冬屋潰しを目論む。お藤たちは真っ向勝負を挑むが――。
人は何のために働くのか、仕事の喜びとは何かを問い直す渾身の長編時代小説。


持ち前の粘りとアイディアで、男社会の口入屋で新しい商いを始め、評判をとったお藤の奮闘ぶりと恋心の物語である。昨今テレビドラマも女性が活躍するものが人気を博しているが、その小説版といったところであろうか。お藤の生い立ちから逃げだしてきた顛末、そして増子屋主人の太左衛門に拾われて江戸に出てきてからの苦労と充実ぶりに、胸がすく心地である。黒羽の百蔵との関わり方もいい。ラストにふっと時が飛んだ場面が描かれているのがまたまたいいのである。溜飲が下がる思いの一冊である。

大川契り--善人長屋*西條奈加

  • 2016/01/02(土) 17:02:10

大川契り: 善人長屋
大川契り: 善人長屋
posted with amazlet at 16.01.02
西條 奈加
新潮社
売り上げランキング: 180,180

長屋の平和を守るため、悪党たちしぶしぶ大奮闘!スリに詐欺師に美人局、実は凄腕ばかりの善人長屋に迷い込んだ本物の善人・加助。人助けに燃え、減らず口の不良娘やケガをした当たり屋、不審な傷だらけの男児など、面倒の種をせっせと連れ帰り、そのたび騒動に巻き込まれる住人たちは戦々恐々。しかも拾った行き倒れが西国の盗賊一味と判明。とばっちりで差配の母娘が囚われて―!?


表題作のほか、「泥つき大根」 「弥生鳶」 「兎にも角にも」 「子供質」 「雁金貸し」 「侘梅」 「鴛鴦の櫛」

善人長屋と呼ばれる千七長屋の住人は、(まったく事情を知らない)加助を除いて、実は、裏稼業を持つ悪人なのである。あまりにも極端な善人ぶりの加助が、親切の果てに見境なく持ち込む厄介ごとに、善人長屋の面々は、否応なく巻き込まれることになる。苦りながらも、それぞれの得意分野を駆使し、手分けして問題を解決に導くのであるが、その様子や手際の良さがすかっとさせてくれる。仄かな恋心の成り行きもからめつつ、江戸の風物と裏事情を堪能できる一冊である。

秋葉原先留交番 ゆうれい付き*西條奈加

  • 2015/11/21(土) 17:02:41

秋葉原先留交番ゆうれい付き
西條 奈加
KADOKAWA/角川書店 (2015-10-02)
売り上げランキング: 282,636

「さきどまり」という不吉な名を持つ交番に勤める権田は、秋葉原をこよなく愛するオタク。コンビを組む向谷はコミュニケーション能力の高さがこうじて、足だけの幽霊を連れてきて…!?ネオンまたたく電気街の裏路地に隠された5つの人情ミステリ。


足だけの幽霊を登場させてしまうなんて、なんと斬新な!しかも足子さんと名づけ、交信までしてしまうとは。東大出のくせに一生秋葉原に居続けたいがために昇進試験も受けず、あの手この手を使って秋葉原の駐在所勤務という希望を叶えた権田と、女関係で問題を起こして謹慎中で、霊感がある向谷という凸凹コンビの掛け合いが愉しく、そんな彼らが、交番に持ち込まれるトラブルを解決しつつ、足子さんが幽霊になった原因を探るべく奔走するのが、軽快なテンポで愉しめる。ほろりとさせられるところもあり、文句なく愉しめる一冊だった。

世直し小町りんりん*西條奈加

  • 2015/08/18(火) 18:32:26

世直し小町りんりん (講談社文庫)
西條 奈加
講談社 (2015-05-15)
売り上げランキング: 29,529

長唄の師匠であるお蝶は三味線の腕前と美声で気性も粋な弁天との評判。お蝶の兄嫁の沙十はたおやかな色白美人で観音のたたずまい。人呼んで“弁天観音”美人姉妹は、頼まれ事を抜群の機知で解決していく。にぎやかな日々の裏で、お蝶を狙う影が大きく動き始める。凛とした痛快時代小説。


出自も気性も正反対のような義姉妹・沙十とお蝶を主人公にした痛快世直し物語。身近なことから大きな企みまで、目のつけどころと度胸と腕で、気持ち好いほど鮮やかに決着をつけてくれる。周りを固める男性陣もなかなかな個性派ぞろい。それこそ身分も立場も全く違えど、お蝶を守るためなら何事も厭わない。だが……。そんな彼らを疑わなければならない事態になり、疑心暗鬼は募るばかり。しかも身に危険も降りかかる始末。誰が味方か誰が敵か。最後までハラハラドキドキさせられる一冊である。

ごんたくれ*西條奈加

  • 2015/06/07(日) 10:55:53

ごんたくれ
ごんたくれ
posted with amazlet at 15.06.07
西條 奈加
光文社
売り上げランキング: 107,801

当代一の誉れ高い絵師・円山応挙の弟子・吉村胡雪こと彦太郎。その応挙の絵を絵図とこき下ろし、我こそ京随一の絵師と豪語する深山箏白こと豊蔵。彦太郎が豊蔵を殴りつけるという最悪の出会いから、会えば喧嘩の二人だが、絵師としては認め合い、それぞれ名声を高めながら数奇な人生を歩んでいく―。京画壇華やかなりし頃を舞台に、天才絵師の矜持と苦悩、数奇な生き様を描いた、読みごたえたっぷりの傑作時代小説!


絵師として、ひとりの人間として、どう生きるかが描かれた物語である。絵師として名が売れたものが人間的にも優れているかと言えば、あながちそうでもなく、ひと癖もふた癖もある人物が大成したりもする。円山応挙という穏やかで技を極めた師匠の下で、その色に染まらない画風を貫きながらも師匠を尊敬し、葛藤し続けた彦太郎と、応挙をも彦太郎もけなし続け、独自の道を行く豊蔵の、絵師としてのぶつかり合いと、人間としての心の通い合いが興味深い。内容紹介のとおり、読みごたえたっぷりの一冊である。

睦月童*西條奈加

  • 2015/05/24(日) 18:43:58

睦月童(むつきわらし)
睦月童(むつきわらし)
posted with amazlet at 15.05.24
西條 奈加
PHP研究所
売り上げランキング: 208,287

おめえの鏡は罪じゃあなく、人に残った人らしいところを映すんだ。人にとっていちばん大事な、あったかい心だ。
ある東北の村から日本橋の酒問屋に招かれた一人の少女・イオ。彼女は「人の罪を映す」という不思議な目を持っていた。荒れた生活を送っていた酒問屋の跡取り息子・央介は、彼女の目をみたことで激しい良心の呵責に襲われ、かつて自分が犯した罪を贖おうとする。やがて更生した央介とイオは、彼女の目を使って、江戸で起こる数々の事件を解決していくことに。しかし、イオの出生の秘密を知る侍が現れたことで、二人の運命は大きく動き始める……。
人にとって「罪」とは何か。そして「許し」とは何か。イオの不思議な能力の源泉に隠された秘密とは何か。そしてイオの過酷な運命を、央介は救うことができるのか。日本ファンタジーノベル大賞でデビューした著者が贈る、感動の時代小説。


江戸物語とファンタジーの融合といった趣である。ホラーテイストもほんの一滴、という感じ。ファンタジーもホラーも苦手な分野ではあるが、本作は無理なく読み進めることができた。下酒問屋(くだりさけどいや)の放蕩息子・央介と、彼の両親が息子を案じて呼び寄せた睦月童のイオとの出会いと心の通い合いが微笑ましく、あたたかくて、二人とその周りの人たちとのしあわせを知らず知らず願ってしまうのである。睦月神とそれを崇める里人、そして里人たちのためにその信仰を断とうとする想いに切なさも募る。ラストは、ほのぼのとしているようでもあり、また何か恐ろしいことが始まる予感も含んでいるようでもあり、ドキドキさせられる一冊である。

六花落々(りっかふるふる)*西條奈加

  • 2015/01/24(土) 17:08:38

六花落々六花落々
(2014/12/11)
西條奈加

商品詳細を見る

冬の日、雪の結晶の形を調べていた下総古河藩の下士・小松尚七は藩の重臣・鷹見忠常(のちの泉石)に出会う。その探究心のせいで「何故なに尚七」と揶揄され、屈託を抱える尚七だったが、蘭学に造詣の深い忠常はこれを是とし、藩の世継ぎ・土井利位の御学問相手に抜擢した。やがて江戸に出た主従は、蘭医・大槻玄沢や大黒屋光太夫、オランダ人医師・シーボルトらと交流するうちに、大きな時代の流れに呑み込まれていく…。


「何故なに尚七」と呼ばれ、周りにある意味迷惑がられていた尚七が、古河藩の重臣・鷹見忠常と出会い、蘭学を知ることで、より広い世界へと興味を広げ、動く時代の渦中に呑みこまれていく物語である。だが、大きなことだけでなく、日々の些細な出来事に尚七が心を動かされ、興味を惹きつけられる様が、とてもリアルに描かれていて、読者は尚七に惹きつけられていくのである。運命の妻との出会いや、その後の家庭のあたたかさも尚七の探求心を見守っているのがよく判る。知ることの第一歩は、知りたいと思うことだと改めて思わされる一冊である。

まるまるの毬(いが)*西條奈加

  • 2014/09/07(日) 21:09:13

まるまるの毬まるまるの毬
(2014/06/25)
西條 奈加

商品詳細を見る

武士から転身した変わり種、諸国の菓子に通ずる店の主・治兵衛。菓子のことなら何でもござれ、驚異の記憶力を持つ出戻り娘・お永。ただいま花嫁修業中!ご存じ、南星屋の“看板娘”・お君。親子三代で営む菓子舗「南星屋」。繁盛の理由は、ここでしか買えない日本全国、銘菓の数々。でもこの一家、実はある秘密を抱えていて…。思わず頬がおちる、読み味絶品の時代小説!


表題作のほか、「カスドース」 「若みどり」 「大鶉」 「梅枝」 「松の風」 「南天月」

公方様のご落胤という出自を持つ主・治兵衛が、出戻り娘・お永と孫娘のお君と三人で営む和菓子屋「南星(なんぼし)屋」が舞台の物語である。治兵衛が諸国を旅して見覚えたご当地の菓子を真似て作り、しかも安く売り出すので、南星屋には毎日行列ができる。各章のタイトルは、すべてそれらの菓子の名であり、菓子にまつわる出来事が描かれている。おいしそうな菓子の魅力に思わず惹き込まれるが、それだけではない。主の出自ゆえの屈託や、登場人物たちの情の通い合い、家族のあたたかさにも胸を打たれる。お君の縁談は残念だったが、きっとこの先いいご縁があるに違いない。「南天月」だけではなく、新しいオリジナルの菓子ももっともっと見たいと思わされる一冊である。

上野池之端 鱗や繁盛期*西條奈加

  • 2014/04/28(月) 16:47:39

上野池之端 鱗や繁盛記上野池之端 鱗や繁盛記
(2014/03/20)
西條 奈加

商品詳細を見る

なぜみんな気がつかないの? 優しい若旦那の背中で口を開ける蛇の姿に――。騙されて江戸に来たお末の奉公先「鱗や」は料理も接客も三流の料理店だった。少しでもお客を喜ばせたい。お末の願いが同じ志を持つ若旦那に通じ、名店と呼ばれた昔を取り戻すための奮闘が始まった。甦った名物料理と粋なもてなしが通人の噂になる頃、お末は若旦那のもう一つの顔に気づいていく……。美味絶佳の人情時代小説。


料理屋とは名ばかり、連れ込み宿まがいの鱗やが、若旦那と幼い女中の心意気で料理番付に載るまでの料理屋にのし上がる、というだけならばいかにもありそうな物語である。そしてそれだけでも充分に面白いのだが、本作にはその裏側に鱗や自体の由緒やら、ろくでなしの旦那一家の所業やら、菩薩の若旦那とも異名をとるよく働き、客にはもちろん使用人に対する人当たりもいい若旦那の隠された顔など、さまざまな要素が織り交ぜられて読み応え満載なのである。この先の物語もぜひ読みたいと思わされる一冊である。

三途の川で落としもの*西條奈加

  • 2014/03/17(月) 19:40:52

三途の川で落しもの三途の川で落しもの
(2013/06/27)
西條 奈加

商品詳細を見る

死者の未練はミステリー。三途の川で出会った生意気な小学6年生と江戸の侍2人。でこぼこトリオは死者の未練解決に奔走する。

小学6年生の叶人(かなと)は、学校の近くの大きな青い橋から落ちて、三途の川へ辿り着いた。そこでは輪廻転生からはずれた江戸時代の武士とあらくれ者が、死者を現世から黄泉の国へと送りだす渡し守をしていた。神話では、この三途の川の渡し守を"カローン"と呼ぶ。親殺しという呪われた因果から逃れられず、優しいまなざしの中にいつも悲しみをたたえる十蔵。殺人鬼と恐れられ、動物的勘にすぐれるあらくれ者・虎之助。死者を無事黄泉の国へと渡すには、現代世界へ降り立ちその者が強烈に残した未練の元を解決しなければならない。「事故か、自殺か、他殺か」死因がわからず現実世界へも黄泉の国へも行けない叶人は、いがみ合う2人の江戸者を手伝うカローン隊の一員となる。


輪廻の輪から外れた江戸者の二人・十蔵と虎之助と、生死の境をさまよっている小学生・叶人が、ダ・ツ・エヴァ(奪衣婆)と県営王(懸衣爺)の計らいによって、三途の川の渡し守になり死者を彼岸に渡すことになる。現世に心を残した死者の魂(地蔵玉)は、ふとしたきっかけで三途の川から現世に落ちてしまい、三人は別人の躰を借りてそれを探しに行き、地蔵玉の持ち主の心残りを解決すべく奔走するのである。筋としては、ときどき見かけるものではあるが、舞台設定と三人のキャラクタの取り合わせとが意表をついていて、なかなか面白い。三途の川にやってくる人たちを見ているうちに、叶人の投げやりだった心持ちにも次第に変化が現れ、自身の気持ちとしっかりと向き合うことができるようになっていく様子がとてもいい。それぞれが抱えている心の闇はとても深く、気持ちが沈むが、それを上回る大きなものに守られているような心地になる一冊である。

いつもが消えた日*西條奈加

  • 2014/01/25(土) 16:54:59

いつもが消えた日 (お蔦さんの神楽坂日記)いつもが消えた日 (お蔦さんの神楽坂日記)
(2013/11/28)
西條 奈加

商品詳細を見る

もと芸者でいまでも粋なお蔦さんはご近所の人気者だ。滝本望はそんな祖母と神楽坂でふたり暮らしをしている。三学期がはじまって間もないある日、同じ中学に通うサッカー部の彰彦とその後輩・有斗、幼なじみの洋平が滝本家を訪れていた。望手製の夕飯をお腹いっぱい食べ、サッカー談義に花を咲かせた、にぎやかな夜。しかし望と彰彦が有斗を自宅に送り届けた直後、有斗が血相を変えて飛び出してきた「部屋が血だらけで!家ん中に、誰もいないんだ!」消えた有斗の家族の行方、そして家族が抱える秘密とは―。
お蔦さんの活躍がますます光る、人情味あふれる〈お蔦さんの神楽坂日記〉シリーズ第2弾。


お蔦さん、粋でご近所に信望も厚く、肝が据わっていて、カッコイイ女性である。孫の望の料理の腕は相変わらず一級品だし、学校の仲間やご近所さんの連帯感も並じゃない。ある日家族が突然自分ひとりを残して消えてしまった有斗にとっても、それがとても大きな救いになったことと思う。事件が解決に向かうにつれて、胸が痛む事実が次々に明らかにされるが、そのショックを上回るほどの、周りのあたたかい見守りの目が、心を穏やかにしてくれる。いつまでも続いてほしいシリーズである。