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放課後スプリング・トレイン*吉野泉
- 2016/05/26(木) 19:47:41
東京創元社
売り上げランキング: 102,572
四月のある日、私は親友から年上の彼氏を紹介され、同席していた大学院生の飛木さんと知り合う。彼は、天神に向かう電車で出会った婦人の奇妙な行動や、高校の文化祭でのシンデレラのドレス消失騒動など、私の周りで起こる事件をさらりと解き明かしてみせる不思議な人だった。「飛木さん、どうしたら謎が解けるようになりますか?」福岡を舞台に贈る、透明感溢れる青春ミステリ。
舞台は福岡。しばらく住んでいたことがあるので、馴染み深く、まずそこから興味をそそられた。日常の謎を探偵役が解き明かす物語であり、主人公は高校生女子。だが、探偵役は知り合ったばかりの大学院生で、親友の彼の友人、飛木さんである。なかなか珍しい状況ではないだろうか。しかもこの飛木さん、ずいぶんシャイな印象なのだが、よく食べる。人の三倍は軽くいきそうなのである。その辺のミスマッチも魅力的。そんな彼が解き明かす謎は、いかにも高校生らしく、トラブルではあるものの青春という感じで、これもいい。そしてなにより、解き明かし方に愛があるのがいちばん好ましい。明かされた後のことまでちゃんと考えたうえで発言している飛木さん、素敵である。文章もヘンに凝ることなく、さらりとしているのが読みやすくていい。さらに最後に飛木さんに告白した名前の謎が、さすがである。なるほどーー。二人の今後も気になるし、続きも読みたい一冊である。
秋の大三角*吉野万理子
- 2007/12/14(金) 18:09:42
根岸線に現れる「キス魔」という痴漢は憧れの先輩の彼氏だった!でもその怪しい男の正体は―。横浜を舞台に女子校生たちの不思議な経験を描いた学園ファンタジー。第1回新潮エンターテインメント新人賞。秋の大三角
(2005/12/15)
吉野 万理子
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横浜・元町にある中高一貫の女子校に通う中学二年の里沙が主人公。殺人的な朝のラッシュの電車内で痴漢にあったところを絶妙に助けられて以来、里沙は高校二年の真央先輩に憧れるようになった。ある日、彼女たちの間で噂になり始めていた「根岸線のキス魔」のことで知っていることがあったら教えて欲しいと真央先輩に頼まれ、里沙と真央の距離は少しだけ近づくのだった。そして近づいてみると、真央先輩にはたくさんの謎があったのだ。
女子校特有の空気感や横浜という街の独特の雰囲気がとてもよく描かれていて、そこで生きている少女たちの姿も現実感を持って伝わってくる。普通に考えればありえなそうな設定も、過去と未来が入り混じる横浜という場所だからか、さほど違和感なくすんなりと受け入れられ、少女たちの切なさばかりが際立って感じられるように思う。なにかを信じられることのあたたかさや安心感に満たされるような一冊である。
ROUTE 134*吉野万理子
- 2007/12/09(日) 20:43:03
ROUTE134
(2007/08/30)
吉野 万理子
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東京で業務委託の編集者をしている33歳の青山悠里(ゆり)は、担当しているイラストレーターのモンキー間中の引越し先の葉山へ打ち合わせのためにやってきた。実は葉山は悠里が小学校五年から中学三年までを過ごした場所だった。しかも忘れたいのに忘れられない出来事のあった・・・・・。
国道134号線沿いに感じのいいカフェを見つけ、近づいてみると「ROUTE 134」という店名だったので思わず入ってしまう。悠里は中学のころ杉山清貴のファンだったのだ。するとあろうことかその店のマスターはかつての同級生で、いちばん会いたくなかった夕樹だったのだ。
現在のROUTE 134で繰り広がられる人間関係と、そのなかに在って悠里がときにたち戻ってしまう過去の出来事とが交錯しながら物語りは進み、悠里の屈託のわけがなかなか明かされないのでもどかしさを感じるころにぽつりぽつりと中学時代のことが語られ、彼女の屈託が腑に落ちるのである。
飾り気のないさらりとした言葉で書かれた物語は、必要以上の装飾がない分ストレートに胸に響き、悠里やROUTE 134に集う人々の心に自然と読者を寄り添わせる。ただひとり、夕樹だけが最後の最後まで想いを外に漏らさないのだが、最後にその言葉が聞けてよかった。
大人も子どもも、ここぞというときにはきっちりと言葉にして主張しなければいけないのだなぁと、このひとつの物語のなかのいろいろな人から教わったような心地がする。
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