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岩窟姫*近藤史恵

  • 2015/05/31(日) 08:52:53

岩窟姫 (文芸書)
岩窟姫 (文芸書)
posted with amazlet at 15.05.30
近藤史恵
徳間書店
売り上げランキング: 294,176

人気アイドル、謎の自殺―。彼女の死を悼む暇もなく、蓮美は激動の渦に巻き込まれる。蓮美からのいじめに悩む様子がブログに残されていたのだ。まったく身に覚えがなかったが、マネージャーにもファンにも信じてもらえず…。すべてを失った蓮美は、己の無実を証明しようと立ち上がる。「サクリファイス」シリーズの著者が描き出す、ガーリー冒険譚!疾走感×ミステリー!!


アイドルの周りで渦巻く大人の企みと、夢や希望を抱きつつも自分を殺さなければならない世界に対する絶望も抱え、本音と建て前、虚と実の狭間で、その時その時をギリギリで生きている女の子たちの姿に胸が痛み哀しみも覚える。自殺したアイドル仲間に貶められて舞台を降りざるを得なくなった主人公の蓮美は、初めは被害者としか思われなかったが、読み進めるにつれて、ある意味いちばん恵まれていたのかもしれないと思うようになった。人の思いに恵まれるということが、これほど心に安定をもたらしてくれるのだということも、改めて思わされる。ラストはいささか強引な感もなくはないが、希望の光が見えたという点では喜ばしいことなのだろう。人の心の裏表を垣間見せられる一冊でもあった。

私の命はあなたの命より軽い*近藤史恵

  • 2015/02/27(金) 17:24:43

私の命はあなたの命より軽い私の命はあなたの命より軽い
(2014/11/13)
近藤 史恵

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「どうして人の命の重さには違いがあるの?」東京で初めての出産をまぢかに控えた遼子。夫の克哉が、突如、ドバイへ赴任することになったため、遼子は大阪の実家に戻り、出産をすることに。実家に帰ると、両親と妹・美和の間に、会話がないことに気がつく。そして父は新築したばかりの自宅を売却しようとしていた。実家で何があった?明らかになっていく家族を襲った出来事とは―。『サクリファイス』の著者が「命の重さ」を描く渾身ミステリー!!


上記の内容紹介を読むまで、ミステリとは全く思わず、命を題材にした家族ドラマだと思っていた。それはともかく、同じ命でも祝福され望まれて生まれてくることもあれば、生まれ出るはるか以前に疎まれ望まれないこともある。さらに生まれることさえもできない命もあるし、生まれたとしても自ら断ってしまう命もある。本作では、そんなさまざまな状況に置かれた命の不平等を明るみに出していて、いろいろ考えさせられる。だが、いくら結婚して家を離れ、出産のために里帰りした身で、躰のことが心配だとは言え、長女にあそこまで事情を隠し続けるだろうか。いちばん気になったのは、家族の在りようだった。事情が明らかにされていく過程はサスペンスめいた一冊である。

胡蝶殺し*近藤史恵

  • 2014/08/19(火) 16:32:30

胡蝶殺し胡蝶殺し
(2014/06/20)
近藤 史恵

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歌舞伎子役と親同士の確執を描くミステリー

「美しい夢ならば、夢の中でも生きる価値がある」
『サクリファイス』で大藪春彦賞、第5回本屋大賞2位を獲得した、近藤史恵氏が長年温めてきた、歌舞伎の子役を主人公にしたミステリー。
市川萩太郎は、蘇芳屋を率いる歌舞伎役者。花田屋の中村竜胆の急逝に伴い、その息子、秋司の後見人になる。同学年の自分の息子・俊介よりも秋司に才能を感じた萩太郎は、ふたりの初共演「重の井子別れ」で、三吉役を秋司に、台詞の少ない調姫(しらべひめ)役を俊介にやらせることにする。しかし、初日前日に秋司のおたふく風邪が発覚。急遽、三吉は俊介にやらせる。そこから、秋司とその母親由香利との関係がこじれていく。さらに、秋司を突然の難聴が襲う。ふたりの夢である「春鏡鏡獅子」の「胡蝶」を、ふたりは舞うことが出来るのか…?


内容紹介にはミステリ、とあるし、ある意味ミステリと言える部分もあるが、一般的なミステリとはひと味違う物語である。梨園という一般人にはなかなか理解の及ばない世界に生きる子どもたち。いずれ名を継ぎ、大舞台に立つために、ほかの同級生たちとはいささか違った日々を送る幼い者たちであるが、親たちの思惑とは別に、彼らにも興味や喜びや悲しみがあるのである。6~7歳の子どもだからと言って侮ってはいけない。ある時は大人よりも深くものを想っているのである。俊介と秋司、そして彼らを取り巻く大人たちの後悔と希望の一冊である。

さいごの毛布*近藤史恵

  • 2014/05/25(日) 18:35:04

さいごの毛布 (単行本)さいごの毛布 (単行本)
(2014/03/26)
近藤 史恵

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年老いた犬を飼い主の代わりに看取る老犬ホームに勤めることになった智美。なにやら事情がありそうなオーナーと同僚、ホームの存続を脅かす事件の数々――。愛犬の終の棲家の平穏を守ることはできるのか?


幼いころから家族とうまくいかず、自分に価値を見いだせないまま世間と折り合えずにいた智美は、友人の紹介で老犬ホームに住み込みで働くことになる。さまざまな事情で飼えなくなった老犬たちの終の棲家となる老犬ホームで、智美はオーナーの麻耶子や同僚の碧、そしてそれぞれの飼い主の事情でここにいる犬たちに接し、求められることで、少しずつ自分を確立していく。犬たちのこと、人間関係のこと、いろいろ考えさせられる物語である。必要とされることの重みとあたたかさを感じさせられる一冊である。

土蛍【猿若町捕物帳】*近藤史恵

  • 2013/07/09(火) 16:52:20

土蛍 猿若町捕物帳土蛍 猿若町捕物帳
(2013/06/19)
近藤 史恵

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業の深い男たち。見捨てることも、許すこともできぬ女たち。

長屋の差配人の殺し。芝居小屋で見つかった変死体。そして、青柳屋の遊女・梅が枝も巻きこまれた吉原の火事……。
背後にある男女の相剋を、同心・玉島千蔭はどう解きほぐすのか?
好評シリーズ最新作!


表題作のほか、「むじな菊」 「だんまり」 「はずれくじ」

玉島千蔭のシリーズである。千蔭をはじめとして、父の後添いのお駒、小者の八十吉、役者の巴之丞、遊女の梅が枝など、みな一様に情が厚い。そしてどこか頑固であるので、時に伝わるものも伝わらなかったりするのが歯がゆくもある。だが、そのおかげで、救われる者がいたりもするので興味深い。人と人というものは、むずかしくも面白いものだと思わされる一冊である。

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キアズマ*近藤史恵

  • 2013/05/13(月) 14:10:15

キアズマキアズマ
(2013/04/22)
近藤 史恵

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決して交わるはずのなかった、俺たち。喪失を超えるように、ただ走り続ける――。命をかける覚悟? 誰かを傷つける恐怖? そんなもの呑み込んで、ただ俺は走りたいんだ。ひたすらに、自分自身と向き合うために。助けられなかったアイツのために――。一年間限定で自転車ロードレースに挑むことになった正樹。「サクリファイス」シリーズ4作目、新たな舞台は大学自転車部! ファン待望の最新長編小説。

【キアズマ/chiasma】減数分裂の前期後半から中期にかけて、相同染色体が互いに接着する際の数か所の接着店のうち、染色体の交換が起こった部位。X字形を示す。(三省堂・大辞林)


競技としての自転車に乗ることになろうとは夢にも思っていなかった岸田正樹。大学入学間もない通学路で思わぬ事故に遭い、期間限定で自転車部に入部することになってしまった。それからの一年間の物語である。著者は、自転車レースに出たことがあるのではないかと疑いたくなるほど、走っているときの風や音や自分の躰の状態、疾走感や恐怖、高揚感などがリアルで、上り坂では読みながら脚が重くなり、ふくらはぎがパンパンに張ってくる心地になるほどである。さまざまなものを抱え、自転車にかける思いはそれぞれだが、走るのが好きだというその一点での繋がりは、おそらくなによりも心強いのだろう。その後の彼らを見てみたくなる一冊である。

はぶらし*近藤史恵

  • 2013/01/20(日) 08:30:46

はぶらしはぶらし
(2012/09/27)
近藤 史恵

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10年ぶりに会った友達を、
どこまで助けたらいい?
揺れる心が生み出した傑作ミステリー!

脚本家の鈴音は高校時代の友達・水絵と突然再会した。子連れの水絵は離婚して、リストラに遭ったことを打ち明け、1週間だけ泊めて欲しいと泣きつく。鈴音は戸惑いながらも受け入れた。だが、一緒に暮らし始めると、生活習慣の違いもあり、鈴音と水絵の関係が段々とギクシャクしてくる。マンションの鍵が壊されたり、鈴音が原因不明の体調不良を起こしたり、不審な出来事も次々と起こる。水絵の就職先はなかなか決まらない。約束の1週間を迎えようとしたとき、水絵の子供が高熱を出した。水絵は鈴音に居候を続けさせて欲しいと訴えるのだが……。人は人にどれほど優しくなれるのか。救いの手を差し伸べるのは善意からか、それとも偽善か。揺れる心が生む傑作ミステリー!


ミステリではないのでは?とは思うが。人間の心の揺れや、さほど親しかったわけではない旧友との駆け引き、損得勘定、微妙な罪悪感などがとても見事に描かれていてうならされる。他人事として客観的に見れば、なんとでも言えるが、いざ我が身に降りかかったときに鈴音と同じ選択をしないとは言い切れない。いや、おそらく同じ選択をしてしまう人が多いことだろう。どちらの道を選ぶかの岐路に立たされた時の揺れ方が絶妙でドキドキさせられる一冊である。タイトルでもある「はぶらし」のエピソードがすべてを表していて秀逸である。

シフォン・リボン・シフォン*近藤史恵

  • 2012/06/24(日) 16:39:47

シフォン・リボン・シフォンシフォン・リボン・シフォン
(2012/06/07)
近藤 史恵

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下着が人の気持ちを変える? 弾ませる? 東京のファッションビルの一角でランジェリーショップ「シフォン・リボン・シフォン」を成功させた水橋かなえは、母の介護のため、活気をうしないつつある地方都市に戻ってきた。まだ30代の彼女は、通信販売で固定客を得ていたこともあって、この街でも店を開く。機能的な下着から自由でチャーミングなものまで、いろいろ勢ぞろい。さびれた商店街にできたこのちょっと気になるお店に、やがて人々は引き寄せられる。かなえと同様に介護生活をおくる32歳の佐菜子、米穀商店の女装する若い息子、旧家の時代を忘れられない年配の女性……。レースやリボン、小さい花柄をあしらった下着が、彼らの人生をほのかに弾ませる。母と娘の屈託、息子と父の反目、嫁と姑の気詰まりをなぜかほどいていく。小さな人生模様がえがかれ、摩訶不思議でほのぼのとした小説集。


寂れつつある地方都市の商店街にオープンしたランジェリーショップ、「シフォン・リボン・シフォン」が繋ぐ、四つの連作短編集である。
たかが下着、されど下着である。誰に見せるわけでなくても、身体に合った機能的で美しい下着を身につければ、それだけで身体が軽く感じられ、気持ちまで軽やかになるのである。女性ならたぶん誰でもうなずくことだろう。ことさら表立って語られることがない分、下着に関する悩みもおそらく十人十色、様々であることだろう。そんな下着に関する憧れや思い入れが随所に感じられ、ほほえましくなると同時に、気分がしゃきっとするような心地にもなる。あたたかい気持ちにさせてくれる一冊でもある。

ダークルーム*近藤史恵

  • 2012/03/01(木) 18:47:42

ダークルーム (角川文庫)ダークルーム (角川文庫)
(2012/01/25)
近藤 史恵

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シェフの内山が勤める高級フレンチレストランに毎晩ひとりで来店する謎の美女。黙々とコース料理を口に運ぶ姿に、不審に思った内山が問いかけると、女は意外な事実を語り出して…(「マリアージュ」)。立ちはだかる現実に絶望し、窮地に立たされた人間たちが取った異常な行動とは。日常に潜む狂気と、明かされる驚愕の真相。ベストセラー『サクリファイス』の著者が厳選して贈る、謎めく8つのミステリ集。書き下ろし短編収録。


表題作のほか、「マリアージュ」 「コワス」 「SWEET BOYS」 「過去の絵」 「水仙の季節」 「君の下には」 「北緯六十度の恋」

どれもちょっぴり怖い物語である。背筋が凍るような怖さではなく、じわじわと足元から這い上がってくるような怖さである。どの物語にも逆転する――というか逆なのだということに気づく――瞬間があり、その一瞬の怖さといったら思わず息が止まるようである。たとえば、復讐していると思っていたのに初めから陥れられている、とか。こんなことが我が身に起こってほしくないと思うことばかりだが、その辺中に罠がありそうな気になってくる一冊である。

ホテル・ピーベリー*近藤史恵

  • 2011/12/11(日) 17:21:30

ホテル・ピーベリーホテル・ピーベリー
(2011/11/16)
近藤 史恵

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不祥事で若くして教師の職を追われ、抜け殻のようになっていた木崎淳平は、友人のすすめでハワイ島にやってきた。宿泊先は友人と同じ「ホテル・ピーベリー」。なぜか“滞在できるのは一度きり。リピーターはなし”というルールがあるという。日本人がオーナーで、妻の和美が、実質仕切っているらしい。同じ便で来た若い女性も、先客の男性3人もみな、日本人の旅行者だった。ある日、キラウェア火山を見に行った後に発熱した淳平は、和美と接近する。世界の気候区のうち、存在しないのは2つだけというこの表情豊かな島で、まるで熱がいつまでも醒めないかのごとく、現実とも思えない事態が立て続けに起こる。特異すぎる非日常。愛情、苦しみ、喜び、嫉妬―人間味豊かな、活力ある感情を淳平はふたたび取り戻していくが…。著者渾身の傑作ミステリー。


ハワイ島のヒロという田舎にあるホテル・ピーベリー。滞在は三ヶ月まで、そして一度きり。リピーターは受けつけない。それだけで充分いわくあり気である。さらに、オーナーの日本人夫婦のうち、ホテルの世話をするのは妻の和美のみ、夫の洋介は朝早くから夜まで町のカフェで・WAMIで働いている。ホテルに帰ってくるときも無愛想そのものなのである。宿泊客同士も、経歴など個人的なことは詮索せず、その場限りの関係から踏み込むことはない。そんななか、宿泊客がたてつづけに事故で亡くなる。割り切れないもやもやを抱えたまま、淳平も一度は帰国するが、四ヵ月後にふたたびハワイに渡ることになる。そこで、思ってもみなかった真相が明らかにされる。と同時に、いわくあり気なホテルの方針も腑に落ちるのである。なにもしないで時を過ごすことを罪悪と思わずに済むヒロでの生活は、淳平にとってはわずかな期間となったが、彼の何かを変えたのだろうか。彼が抱える問題は何一つ解決されてはいないが、きちんと考えて前へ進めるきっかけになったのならいいな、と思わされる。大らかさと冷酷さ、諦めと焦りが混在するような一冊だった。

サヴァイヴ*近藤史恵

  • 2011/11/28(月) 08:07:16

サヴァイヴサヴァイヴ
(2011/06)
近藤 史恵

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他人の勝利のために犠牲になる喜びも、常に追われる勝者の絶望も、きっと誰にも理解できない。ペダルをまわし続ける、俺たち以外には―。日本・フランス・ポルトガルを走り抜け、瞬間の駆け引きが交錯する。ゴールの先に、スピードの果てに、彼らは何を失い何を得るのか。


シリーズ三作目。
日本を出、ヨーロッパ各地でペダルを回す白石誓、かつてのチームメイトの伊庭、先輩の赤城の物語が六つの短篇として語られる。チーム内の軋轢、他チームとの駆け引き、自分自身の精神状態、元チームメイトの不祥事。さまざまな壁を乗り越え、突き崩し、それでもゴールをそしてその先を見つめる男たちの苦悩や悦びや闘志が迫力を持って訴えかけてくるような一冊である。

モップの精と二匹のアルマジロ*近藤史恵

  • 2011/09/25(日) 08:59:45

モップの精と二匹のアルマジロ (ジョイ・ノベルス)モップの精と二匹のアルマジロ (ジョイ・ノベルス)
(2011/02/18)
近藤 史恵

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大人気本格ミステリー、「女性清掃人探偵キリコ」シリーズ第4弾!
ポップなファッションで清掃作業員として働くキリコが、今回も鮮やかに事件を解決、となるか――
事の始まりは、キリコがたまたま、夫・大介が通うオフィスビルの清掃を受け持ったことだった。
ある日キリコは、見知らぬ女性から「夫の浮気を調査してほしい」と頼まれる。
ところが思いがけない事件が発生して――。地味な妻と目が覚めるほど美形の夫、どこか不釣り合いな
夫婦に秘められた謎に、キリコ&大介の名コンビが迫る、心があたたまる本格ミステリー。


シリーズ初の長編であり、キリコと大介が協力して真実に迫るという趣向になっている。物語は根が深く苦しみや哀しみにあふれているのだが、出会って間がない依頼者(?)・真琴や夫の友也のことを親身に考えてあれこれ手を尽くすキリコと大介の姿が重く苦しい気持ちを和らげてもくれる。キリコと大介、真琴と友也、どちらにとっても後味のいい事件ではなかったが、中身は違っても絆はそれぞれ深まったのだと思えば、ハッピーエンドと言えるのかもしれない。キリコと大介をますます好きにさせてくれる一冊である。

三つの名を持つ犬*近藤史恵

  • 2011/06/07(火) 17:05:34

三つの名を持つ犬三つの名を持つ犬
(2011/05/17)
近藤史恵

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売れないモデルの草間都にとって、愛犬エルはかけがえのない存在だった。一人暮らしの孤独を癒してくれるだけでなく、エルとの生活を綴ったブログが人気を集め、ようやく仕事が入り始めたのだ。だが、ある日エルは死んでしまう。エルの死によって仕事を失うことを恐れた都の前にエルそっくりな犬が現れたとき、思わず都は…。人ゆえの脆さと犬への情愛ゆえに、大きな罪を背負った都を救うのは誰?大藪賞受賞作家が描く、切なくも美しいミステリー。


タイトルからどんな物語だろうと思いながら読んだが、切なくやりきれない物語だった。三つの名を持つことになった一匹の犬。表紙でもの問いたげにこちらを見ているその表情が、読み終えた後では涙を誘う。都のエルを愛する気持ちに嘘はなく、犯してしまったことはあまりにも哀しい。そこにつけこんできた千鶴の利己主義には唖然とするが、目先のことしか考えられずにそれに乗ってしまった都にはため息が出てしまう。振り込め詐欺の手先に使われていた江口らが絡み、問題は複雑になっていく。一方、都はエルに成りすまさせたササミ(元の名をナナという)をもまた心から愛するようになる。その愛が、都をどん底まで落ちるのを食い止めてくれたのかもしれない。都もササミも、そしてもしかすると江口も、未来に光が見えるようなラストにやっと気持ちが救われる。首のまわりと耳だけにふさふさと長い毛の生えた、白い子犬が、今度こそひとつの名前で呼ばれるといいと思わされる一冊である。

アンハッピードッグズ*近藤史恵

  • 2011/02/21(月) 16:53:44

アンハッピードッグズアンハッピードッグズ
(1999/10)
近藤 史恵

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なんだろう。壊してしまうとなんとなく安心するの―要するにわたしはまだ、子供なのかしら。ことばや約束事を重ねることで築き上げてきた関係。気鋭が挑む、邪悪な恋愛小説。


ホテルで働いている岳(ガク)の飼い犬・弁慶の世話係として日本から呼びつけられて、真緒はパリにやってきた。岳と真緒は恋人同士と呼ぶにはつきあいが長すぎるほど幼馴染で腐れ縁である。そんなある日、空港で置き引きに遭って途方に暮れている日本人の新婚旅行カップルを部屋に泊めることになったのだった。それからふた組の男女の関係が微妙に捻じれていくのである。
情熱で結ばれているようにはまったく見えない岳と真緒だが、きっと似た者同士なのだ。ページの裏と表のように、背中合わせになっていなければ成り立たないようなつながり方をしているのではないだろうか。危ういのになぜか安定してもいる一冊だった。

砂漠の悪魔*近藤史恵

  • 2010/10/17(日) 14:06:12

砂漠の悪魔砂漠の悪魔
(2010/09/30)
近藤 史恵

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親友を裏切った報いがこの過酷な人生なのか親友を自殺に追い込んだ広太は、ヤクザに脅されて厳寒の北京へ旅立つ。第十回大藪春彦賞受賞者の近藤史恵が、日本と中国を舞台に描く渾身のロードノベル!


著者のこれまでの作風とはまったく違う広大で凄絶な一冊だった。日本で起こった至って個人的な事件と、それが元で広太が連鎖的に転がるように巻き込まれていく出来事の落差にまず目眩のようなものを覚える。中国という広大な国のそのまた辺境に置かれると、こうまで価値感が変わるのかという驚きもある。そして、日本にいるときには言い訳と我が身可愛さが先立っていた広太は、辺境の地での凄絶な体験を通して次第に逞しく変わっていくようである。帰国した彼を待っているのも安閑としたことではないのだが、なぜか光が感じられるようなラストである。立ち向かう勇気を身につけた広太を応援したい。