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N*道尾秀介

  • 2022/02/07(月) 06:47:34


全六章。読む順番で、世界が変わる。
あなた自身がつくる720通りの物語。

すべての始まりは何だったのか。
結末はいったいどこにあるのか。

「魔法の鼻を持つ犬」とともに教え子の秘密を探る理科教師。
「死んでくれない?」鳥がしゃべった言葉の謎を解く高校生。
定年を迎えた英語教師だけが知る、少女を殺害した真犯人。
殺した恋人の遺体を消し去ってくれた、正体不明の侵入者。
ターミナルケアを通じて、生まれて初めて奇跡を見た看護師。
殺人事件の真実を掴むべく、ペット探偵を尾行する女性刑事。

道尾秀介が「一冊の本」の概念を変える。


いままで見たことのない本である。どの章から読み始め、どんな順番で読んでも物語が成り立つというのももちろん、章ごとに、本を物理的に反転させて読む、という作り方も斬新である。次の物語に移るまでにワンクッション置くことで、時空を切り替える効果もあるような気がする。物語はゆるく繋がり、人物も出来事も、シンクロしていて、あの時あの出来事の裏では、この人がこんなことをしていたのかと、あとになって納得させられることも多い。その感覚が新鮮であり興味深い。象徴的な存在である天使の梯子が作る花が、切なさとあたたかさを同時に感じさせてくれる一冊だった。

雷神*道尾秀介

  • 2021/11/19(金) 16:14:31


埼玉で小料理屋を営む藤原幸人のもとにかかってきた一本の脅迫電話。それが惨劇の始まりだった。
昭和の終わり、藤原家に降りかかった「母の不審死」と「毒殺事件」。
真相を解き明かすべく、幸人は姉の亜沙実らとともに、30年の時を経て、因習残る故郷へと潜入調査を試みる。
すべては、19歳の一人娘・夕見を守るために……。
なぜ、母は死んだのか。父は本当に「罪」を犯したのか。
村の伝統祭〈神鳴講〉が行われたあの日、事件の発端となった一筋の雷撃。後に世間を震撼させる一通の手紙。父が生涯隠し続けた一枚の写真。そして、現代で繰り広げられる新たな悲劇――。
ささいな善意と隠された悪意。決して交わるはずのなかった運命が交錯するとき、怒涛のクライマックスが訪れる。


あの四人さえいなければ、これほど悲惨で後々まで哀しみを引きずる出来事にはならなかったのではないか。そう思うと、男たちの身勝手さが心底恨めしい。そして、胸の裡に渦巻く不安と、罪の意識などによる思いこみと勘違いによって、さらに事態は悪い方に転がってしまう。誰もが大切な人を思いやり、互いに大事なことを隠し合ったがための悲劇もある。それらがすべて白日の下にさらされた時、哀しみはさらに募り、胸が締めつけられる。できれば、三十一年前の宵宮の前日に時を戻したいものである。何とか前を向いて生きてほしいと祈る思いにさせられる一冊である。

カエルの小指*道尾秀介

  • 2019/12/31(火) 20:09:38


詐欺師から足を洗い、口の上手さを武器に実演販売士として真っ当に生きる道を選んだ武沢竹夫。しかし謎めいた中学生・キョウが「とんでもない依頼」とともに現れたことで彼の生活は一変する。シビアな現実に生きるキョウを目の当たりにした武沢は、ふたたびペテンの世界に戻ることを決意。そしてかつての仲間―まひろ、やひろ、貫太郎らと再集結し、キョウを救うために「超人気テレビ番組」を巻き込んだド派手な大仕掛けを計画するが…。


『カラスの親指』のタケと仲間たちが再集結して、またひと仕事やらかしてくれる。今回も、タケ(武沢竹夫)が助けた人物が物語が始まるきっかけになる。ある日、助けた女性の娘だという少女・キョウが武沢のもとに現れ、責任を取ってくれと迫る。事情を聴いた武沢は、昔の仲間を集めて仕掛けることにするのである。途中、何度も騙されてはまたひっくり返され、誰が誰をだましているのか、誰が味方でだれが敵なのか、どこまでが本当でどこからが嘘なのか、わけが分からなくなってくるが、騙されるたびに喜んでしまうのはなぜだろう。だが、騙しだまされているときにも、隙間に覗く本心に熱いものが感じられるので、ついつい応援したくなってしまうのである。騙されても騙されてもまだその先があるのが、喜びが尽きないようで期待してしまう。物語としては、いちばん納得できるところに落ち着いたのではないだろうか。嘘をつかずに生きていけるのが、誰にとってもいちばんだろう。文句なく愉しめる一冊だった。

いけない*道尾秀介

  • 2019/10/21(月) 07:34:03

いけない
いけない
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道尾 秀介
文藝春秋
売り上げランキング: 2,206

騙されては、いけない。けれど絶対、あなたも騙される。
『向日葵の咲かない夏』の原点に回帰しつつ、驚愕度・完成度を大幅更新する衝撃のミステリー!

第1章「弓投げの崖を見てはいけない」
自殺の名所付近のトンネルで起きた交通事故が、殺人の連鎖を招く。
第2章その話を聞かせてはいけない」
友達のいない少年が目撃した殺人現場は本物か? 偽物か?
第3章「絵の謎に気づいてはいけない」
宗教団体の幹部女性が死体で発見された。先輩刑事は後輩を導き捜査を進めるが。

どの章にも、最後の1ページを捲ると物語ががらりと変貌するトリックが……!
ラストページの後に再読すると物語に隠された〝本当の真相〟が浮かび上がる超絶技巧。
さらに終章「街の平和を信じてはいけない」を読み終えると、これまでの物語すべてがが絡み合い、さらなる〝真実〟に辿り着く大仕掛けが待ち受ける。感戦したくなること必至の、体験型ミステリー小説。


連作短編として読んでも、それぞれに想像を裏切られる展開が盛り込まれているが、長編として読むと、さらに驚きの結末が待っている。ラストを踏まえて思い返せば、あちこちに穴があることに気づくことができるが、初読では全く想像もしていなかった。だが、すんなりすべての仕掛けに気づけたかと言えば、いまだに気づけていないひっかけが潜んでいるのかもしれないという危惧も抱く。どこまで深読みすればいいのか悩ましくもある一冊である。

スケルトン・キー*道尾秀介

  • 2018/09/16(日) 19:53:07

スケルトン・キー
スケルトン・キー
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道尾 秀介
KADOKAWA (2018-07-27)
売り上げランキング: 18,457

週刊誌記者のスクープ獲得の手伝いをしている僕、坂木錠也。この仕事を選んだのは、スリルのある環境に身を置いて心拍数を高めることで、“もう一人の僕”にならずにすむからだ。昔、児童養護施設<青光園>でともに育ったひかりさんが教えてくれた。僕のような人間を、サイコパスと言うらしい。
ある日、<青光園>の仲間の“うどん”から電話がかかって来て、平穏な日常が変わり始めた。これまで必死に守ってきた平穏が、壊れてしまう――。


サイコパスとして生まれてしまった人間の、恐ろしさ、哀しみ、報われなさ、などなど、言葉にはできないさまざまな葛藤が描かれている。残虐な描写も多く、思わず目をそむけたくはなるが、彼らにそうさせてしまった背景のことを思うと、胸の中を冷たい風が吹き抜けるような気分にもさせられる。ある場面で、ダウンジャケットの袖口のほつれに違和感を覚えて以来、どうしてなのかずっと考えながら読み進んだが、後になって腑に落ち、それまで以上の恐ろしさを感じもした。母の最期の言葉が錠也に光をもたらしてくれることを切実に祈る。なんとも重くやるせない一冊だった。

風神の手*道尾秀介

  • 2018/04/17(火) 16:55:31

風神の手
風神の手
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道尾秀介
朝日新聞出版 (2018-01-04)
売り上げランキング: 32,495

彼/彼女らの人生は重なり、つながる。
隠された“因果律(めぐりあわせ)"の鍵を握るのは、一体誰なのかーー

遺影専門の写真館「鏡影館」がある街を舞台にした、
朝日新聞連載の「口笛鳥」を含む長編小説。
読み進めるごとに出来事の〈意味〉が反転しながらつながっていき、
数十年の歳月が流れていく──。
道尾秀介にしか描けない世界観の傑作ミステリー。

ささいな嘘が、女子高校生と若き漁師の運命を変える――心中花
まめ&でっかち、小学5年生の2人が遭遇した“事件"――口笛鳥
死を前にして、老女は自らの“罪"を打ち明ける ――無常風
各章の登場人物たちが、意外なかたちで集う ――待宵月


登場人物ひとりひとり、エピソードのひとつひとつにまったく無駄がない。力士が塩をまくようにばらまかれた要素が、見事なまでに拾い集められ、知りたかったことがすべて明らかにされる。だからと言って窮屈さはまったくなく、ストーリー展開も興味津々で読む手が止まらない。風が生まれるところを見たような心地にさせてくれる一冊である。

満月の泥枕*道尾秀介

  • 2017/08/23(水) 13:11:13

満月の泥枕
満月の泥枕
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道尾 秀介
毎日新聞出版 (2017-06-08)
売り上げランキング: 41,591

生の悲哀、人の優しさが沁みわたる、人情ミステリーの傑作。

娘を失った二美男と母親に捨てられた汐子は、貧乏アパートでその日暮らしの生活を送る。このアパートの住人は、訳アリ人間ばかりだ。
二美男はある人物から、公園の池に沈む死体を探してほしいと頼まれる。大金に目がくらみ無謀な企てを実行するが、実際、池からとんでもないものが見つかった!
その結果、二美男たちは、不可解な事件に巻き込まれていくことになる……。


自分の不注意から最愛の娘を死なせてしまった凸貝二美男は、さまざまな事情を抱えた住人たちの棲むアパートで自堕落な暮らしをしていたが、行く場所を失くした姪の汐子を引き取ることになり、いまは二人で暮らしている。ある日、泥酔して公園で伸びていた二美男は、二人の男が池の端で何かを言い合い、何かが落ちたような大きな水音を聞いた。それがそもそもの物語のはじまりだったのである。そのことにかかわりがありそうな出来事が、あちこちから二美男のもとにやって来て、彼は否応なくその流れに巻き込まれていく。汐子に関わる問題や、剣道場の人間関係にまつわるあれこれや、大切な人を失った哀しみや虚しさなどなど、さまざまな問題要素を織り込みながら、流れはどんどん速くなり、巻き込まれ方も激しくなっていく。だらしないだけだと思っていた二美男にも、複雑な思いが胸の底にあることも判り、周りの人たちとの関係に和まされることもある。生きるって大変だけどいいこともあるんだと思わされる一冊でもある。

サーモン・キャッチャー the Novel*道尾秀介

  • 2017/01/27(金) 16:53:52

サーモン・キャッチャー the Novel
道尾 秀介
光文社
売り上げランキング: 230,987

君の人生は、たいしたものじゃない。でも、捨てたものでもない。場末の釣り堀「カープ・キャッチャー」には、「神」と称される釣り名人がいた。釣った魚の種類と数によるポイントを景品と交換できるこの釣り堀で、もっとも高ポイントを必要とする品を獲得できるとすれば、彼しかいない、と噂されている。浅くて小さな生け簀を巡るささやかなドラマは、しかし、どういうわけか、冴えない日々を送る六人を巻き込んで、大きな事件に発展していく―


ミーちゃんが着ていた浴衣の柄と似た赤い模様の鯉を探す物語なのに、なぜサーモン・キャッチャー?と言う疑問には、まさに最後の一文が応えてくれるのだが、「それか!?」という種明かしで、思わず笑ってしまった。ヒツギム語とはまったくふざけた言葉である。物語自体は、冴えない日々を送る六人が、なんだかんだと結びついていき、なんだかんだと危ないことに巻き込まれたりしながら、なんだかんだと心を通わせて、ほのぼのとした気分にさせてくれたりもする。見事に全員が繋がってしまうところが、そんなにうまいこといくものかと思いながらも、妙に気分が好い。これはこれで面白かったな、という一冊である。

スタフ staph*道尾秀介

  • 2016/08/30(火) 07:24:53

スタフ staph
スタフ staph
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道尾 秀介
文藝春秋
売り上げランキング: 22,917

街をワゴンで駆けながら、料理を売って生計をたてる女性、夏都。彼女はある誘拐事件をきっかけに、中学生アイドルのカグヤに力を貸すことに。カグヤの姉である有名女優のスキャンダルを封じるため、ある女性の携帯電話からメールを消去するという、簡単なミッションのはずだったのだが―。あなたはこの罪を救えますか?想像をはるかに超えたラストで話題騒然となった「週刊文春」連載作。


大部分が、偶然が積み重なってどんどん深みにはまり、二進も三進もいかなくなる物語のように見える。だがほんとうは、そこに偶然はほんのひと欠片しかなかったのである。途中でさまざまな思いはあったにせよ、詰まるところは「寂しさ」なのだ。動機と行動がずいぶんとかけ離れているようで、そこに却って真実味を感じてしまったりもする。あまりにも切なくて可愛くて愛おしくなる一冊である。

透明カメレオン*道尾秀介

  • 2015/03/31(火) 07:22:03

透明カメレオン透明カメレオン
(2015/01/30)
道尾 秀介

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ラジオのパーソナリティの恭太郎は、冴えない容姿と“特殊”な声の持ち主。今夜も、いきつけのバー「if」で仲間たちと過ごすだけの毎日を、楽しくて面白おかしい話につくり変えてリスナーに届ける。恭太郎が「if」で不審な音を耳にしたある雨の日、びしょ濡れの美女が店に迷い込んできた。ひょんなことから彼女の企てた殺害計画に参加することになる彼らだが―。陽気な物語に隠された、優しい嘘。驚きと感動のラストが心ふるわす―。


声と見た目のギャップが激しすぎるだけの主人公・桐畑恭太郎とその仲間たちの笑えるがちょっぴり切ない物語かと思って読んでいたのだが、ラスト近くなって事情が判ってみると印象が一変する。バー「if」の常連客たちは、ママをはじめ誰もが個性的で、一見能天気にも見えるのだが、それぞれが抱えているものの重さが読者の胸にも重く沈む。だが、重苦しいだけではなく、途中から紛れ込んだ恭太郎に対する態度は、どこの誰よりもあたたかく、思わず胸が熱くなるのである。この人たちがいればいいじゃないか、でもみんなに幸せになってほしい、と思わされる一冊である。

緑色のうさぎの話*道尾秀介・作 半崎信朗・絵

  • 2014/08/24(日) 21:18:21

緑色のうさぎの話緑色のうさぎの話
(2014/06/24)
道尾 秀介

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直木賞作家、道尾秀介がデビュー前の17歳の冬に描いた絵本の原作を、
Mr.Childrenのプロモーションビデオ『花の匂い』『常套句』を制作し
話題を呼んだ半崎信朗が描き下ろす、これまでにない質感の感動絵本!
いじめにあった緑色のうさぎが、自らの悲惨な境遇や大切な人の死を
乗り越えて生きていく姿を美しく描く、こころ温まる物語。


珍しいことに、少年時代の著者が書いた絵本を、絵の部分だけ半崎信朗氏が描いたのが本作である。微笑ましくもあり、哀しくもある物語なのだが、緑色のうさぎのその後をいろいろ思い描いてみる。緑色のうさぎがしあわせになってくれたらいいな、と思わされる一冊である。

貘の檻*道尾秀介

  • 2014/06/22(日) 13:46:11

貘の檻貘の檻
(2014/04/22)
道尾 秀介

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真実は「悪夢」の中に隠されている――。幻惑の極致が待ち受ける道尾ミステリーの頂点! あの女が、私の眼前で死んだ。かつて父親が犯した殺人に関わり、行方不明だった女が、今になってなぜ……真相を求めて信州の寒村を訪ねた私を次々に襲う異様な出来事。はたして、誰が誰を殺したのか? 薬物、写真、昆虫、地下水路など多彩な道具立てを駆使したトリックで驚愕の世界に誘う、待望の書下ろし超本格ミステリー!


悪夢と現実が入り交じり、見えていたものが一瞬にしてぐるりと反転して様相を変える。疑わしい人物が実は自分を見守ってくれていたり、信じていた人が初めから自分を欺いていたり。すべてが終わった後でも、実際は誰が誰を殺したのか、どれが事実なのかが定かにはならないような心地である。自分自身さえ信じきることができないような、不安な気分の一冊である。

鏡の花*道尾秀介

  • 2013/10/15(火) 16:51:36

鏡の花鏡の花
(2013/09/05)
道尾 秀介

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製鏡所の娘が願う亡き人との再会。少年が抱える切ない空想。姉弟の哀しみを知る月の兎。曼珠沙華が語る夫の過去。少女が見る奇妙なサソリの夢。老夫婦に届いた絵葉書の謎。ほんの小さな行為で、世界は変わってしまった。それでも―。六つの世界が呼応し合い、眩しく美しい光を放つ。まだ誰も見たことのない群像劇。


登場人物をほぼ同じくする六つの世界。だがそれは、少しずつ様相を変えた別の世界の物語のようでもある。それが、鏡に映るパラレルワールドのようでもあって不思議な心地にさせられる。それぞれの世界では欠けている人物が変わり、それ故哀しみの形は違うのだが、どの物語も哀しみと喪失感に満たされている。どの物語でも、登場人物たちは完全に満たされることはない。それでも、どの物語にもしあわせな瞬間はあって、人が生きていくというのはこういうことかもしれないとも思わされる。合わせ鏡を恐る恐る覗くような不思議な一冊である。

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笑うハーレキン*道尾秀介

  • 2013/03/03(日) 16:43:33

笑うハーレキン笑うハーレキン
(2013/01/09)
道尾 秀介

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経営していた会社も家族も失い、川辺の空き地に住みついた家具職人・東口。仲間と肩を寄せ合い、日銭を稼ぐ生活。そこへ飛び込んでくる、謎の女・奈々恵。川底の哀しい人影。そして、奇妙な修理依頼と、迫りくる危険―!たくらみとエールに満ちた、エンターテインメント長篇。


息子を失い、妻が出て行き、会社も倒産して家を失くし、出張家具職人として細々と生きている東口が主人公である。ホームレス仲間との気楽を装いながらも最後の寄る辺を失くすまいとするギリギリの暮らし。家具職人としての誇り。失ったと思っていたものは、思いたがっていただけで、ほんとうは初めから持とうとしていなかったものではなかったのか、ということをわかっていながら必死に気づかないふりをする苦しさ。誰でもが素顔で生きている振りをして、実は仮面をかぶっているのかもしれない。そして、ホームレス仲間の突然の死、それに続く奇妙な家具修理の依頼。守りたいものができたときの、あすへの希望が見えたときの、人間の力。仮面を完全に取り去ることはないとしても、哀しすぎる仮面は剥ぎ取りたい、と思わされる一冊である。

ノエル*道尾秀介

  • 2012/11/20(火) 17:14:01

ノエル: a story of storiesノエル: a story of stories
(2012/09/21)
道尾 秀介

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物語をつくってごらん。きっと、自分の望む世界が開けるから――理不尽な暴力を躱(かわ)すために、絵本作りを始めた中学生の男女。妹の誕生と祖母の病で不安に陥り、絵本に救いをもとめる少女。最愛の妻を亡くし、生き甲斐を見失った老境の元教師。それぞれの切ない人生を「物語」が変えていく……どうしようもない現実に舞い降りた、奇跡のようなチェーン・ストーリー。最も美しく劇的な道尾マジック!


「光の箱」 「暗がりの子供」 「物語の夕暮れ」 「四つのエピローグ」

どの物語もどの主人公も、とても切なくて、胸の奥がぎゅっと締めつけられるような心持ちになる。だが、互いの物語、登場人物の思いもよらないつながりに気づくと、ひたひたと温かなものに足もとから少しずつ満たされていくような心地になる。どんな境遇に置かれても、どんなに切羽詰まった思いに駆られても、存在自体が意味のあることなのだと、救いはあるのだと思わせてくれる。四つのエピローグで明らかにされる真実を知ったとたん、堰を切ったように涙があふれた。切なくて哀しくて、愛しくてあたたかい一冊である。