サーモン・キャッチャー the Novel*道尾秀介

  • 2017/01/27(金) 16:53:52

サーモン・キャッチャー the Novel
道尾 秀介
光文社
売り上げランキング: 230,987

君の人生は、たいしたものじゃない。でも、捨てたものでもない。場末の釣り堀「カープ・キャッチャー」には、「神」と称される釣り名人がいた。釣った魚の種類と数によるポイントを景品と交換できるこの釣り堀で、もっとも高ポイントを必要とする品を獲得できるとすれば、彼しかいない、と噂されている。浅くて小さな生け簀を巡るささやかなドラマは、しかし、どういうわけか、冴えない日々を送る六人を巻き込んで、大きな事件に発展していく―


ミーちゃんが着ていた浴衣の柄と似た赤い模様の鯉を探す物語なのに、なぜサーモン・キャッチャー?と言う疑問には、まさに最後の一文が応えてくれるのだが、「それか!?」という種明かしで、思わず笑ってしまった。ヒツギム語とはまったくふざけた言葉である。物語自体は、冴えない日々を送る六人が、なんだかんだと結びついていき、なんだかんだと危ないことに巻き込まれたりしながら、なんだかんだと心を通わせて、ほのぼのとした気分にさせてくれたりもする。見事に全員が繋がってしまうところが、そんなにうまいこといくものかと思いながらも、妙に気分が好い。これはこれで面白かったな、という一冊である。

スタフ staph*道尾秀介

  • 2016/08/30(火) 07:24:53

スタフ staph
スタフ staph
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道尾 秀介
文藝春秋
売り上げランキング: 22,917

街をワゴンで駆けながら、料理を売って生計をたてる女性、夏都。彼女はある誘拐事件をきっかけに、中学生アイドルのカグヤに力を貸すことに。カグヤの姉である有名女優のスキャンダルを封じるため、ある女性の携帯電話からメールを消去するという、簡単なミッションのはずだったのだが―。あなたはこの罪を救えますか?想像をはるかに超えたラストで話題騒然となった「週刊文春」連載作。


大部分が、偶然が積み重なってどんどん深みにはまり、二進も三進もいかなくなる物語のように見える。だがほんとうは、そこに偶然はほんのひと欠片しかなかったのである。途中でさまざまな思いはあったにせよ、詰まるところは「寂しさ」なのだ。動機と行動がずいぶんとかけ離れているようで、そこに却って真実味を感じてしまったりもする。あまりにも切なくて可愛くて愛おしくなる一冊である。

透明カメレオン*道尾秀介

  • 2015/03/31(火) 07:22:03

透明カメレオン透明カメレオン
(2015/01/30)
道尾 秀介

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ラジオのパーソナリティの恭太郎は、冴えない容姿と“特殊”な声の持ち主。今夜も、いきつけのバー「if」で仲間たちと過ごすだけの毎日を、楽しくて面白おかしい話につくり変えてリスナーに届ける。恭太郎が「if」で不審な音を耳にしたある雨の日、びしょ濡れの美女が店に迷い込んできた。ひょんなことから彼女の企てた殺害計画に参加することになる彼らだが―。陽気な物語に隠された、優しい嘘。驚きと感動のラストが心ふるわす―。


声と見た目のギャップが激しすぎるだけの主人公・桐畑恭太郎とその仲間たちの笑えるがちょっぴり切ない物語かと思って読んでいたのだが、ラスト近くなって事情が判ってみると印象が一変する。バー「if」の常連客たちは、ママをはじめ誰もが個性的で、一見能天気にも見えるのだが、それぞれが抱えているものの重さが読者の胸にも重く沈む。だが、重苦しいだけではなく、途中から紛れ込んだ恭太郎に対する態度は、どこの誰よりもあたたかく、思わず胸が熱くなるのである。この人たちがいればいいじゃないか、でもみんなに幸せになってほしい、と思わされる一冊である。

緑色のうさぎの話*道尾秀介・作 半崎信朗・絵

  • 2014/08/24(日) 21:18:21

緑色のうさぎの話緑色のうさぎの話
(2014/06/24)
道尾 秀介

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直木賞作家、道尾秀介がデビュー前の17歳の冬に描いた絵本の原作を、
Mr.Childrenのプロモーションビデオ『花の匂い』『常套句』を制作し
話題を呼んだ半崎信朗が描き下ろす、これまでにない質感の感動絵本!
いじめにあった緑色のうさぎが、自らの悲惨な境遇や大切な人の死を
乗り越えて生きていく姿を美しく描く、こころ温まる物語。


珍しいことに、少年時代の著者が書いた絵本を、絵の部分だけ半崎信朗氏が描いたのが本作である。微笑ましくもあり、哀しくもある物語なのだが、緑色のうさぎのその後をいろいろ思い描いてみる。緑色のうさぎがしあわせになってくれたらいいな、と思わされる一冊である。

貘の檻*道尾秀介

  • 2014/06/22(日) 13:46:11

貘の檻貘の檻
(2014/04/22)
道尾 秀介

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真実は「悪夢」の中に隠されている――。幻惑の極致が待ち受ける道尾ミステリーの頂点! あの女が、私の眼前で死んだ。かつて父親が犯した殺人に関わり、行方不明だった女が、今になってなぜ……真相を求めて信州の寒村を訪ねた私を次々に襲う異様な出来事。はたして、誰が誰を殺したのか? 薬物、写真、昆虫、地下水路など多彩な道具立てを駆使したトリックで驚愕の世界に誘う、待望の書下ろし超本格ミステリー!


悪夢と現実が入り交じり、見えていたものが一瞬にしてぐるりと反転して様相を変える。疑わしい人物が実は自分を見守ってくれていたり、信じていた人が初めから自分を欺いていたり。すべてが終わった後でも、実際は誰が誰を殺したのか、どれが事実なのかが定かにはならないような心地である。自分自身さえ信じきることができないような、不安な気分の一冊である。

鏡の花*道尾秀介

  • 2013/10/15(火) 16:51:36

鏡の花鏡の花
(2013/09/05)
道尾 秀介

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製鏡所の娘が願う亡き人との再会。少年が抱える切ない空想。姉弟の哀しみを知る月の兎。曼珠沙華が語る夫の過去。少女が見る奇妙なサソリの夢。老夫婦に届いた絵葉書の謎。ほんの小さな行為で、世界は変わってしまった。それでも―。六つの世界が呼応し合い、眩しく美しい光を放つ。まだ誰も見たことのない群像劇。


登場人物をほぼ同じくする六つの世界。だがそれは、少しずつ様相を変えた別の世界の物語のようでもある。それが、鏡に映るパラレルワールドのようでもあって不思議な心地にさせられる。それぞれの世界では欠けている人物が変わり、それ故哀しみの形は違うのだが、どの物語も哀しみと喪失感に満たされている。どの物語でも、登場人物たちは完全に満たされることはない。それでも、どの物語にもしあわせな瞬間はあって、人が生きていくというのはこういうことかもしれないとも思わされる。合わせ鏡を恐る恐る覗くような不思議な一冊である。

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笑うハーレキン*道尾秀介

  • 2013/03/03(日) 16:43:33

笑うハーレキン笑うハーレキン
(2013/01/09)
道尾 秀介

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経営していた会社も家族も失い、川辺の空き地に住みついた家具職人・東口。仲間と肩を寄せ合い、日銭を稼ぐ生活。そこへ飛び込んでくる、謎の女・奈々恵。川底の哀しい人影。そして、奇妙な修理依頼と、迫りくる危険―!たくらみとエールに満ちた、エンターテインメント長篇。


息子を失い、妻が出て行き、会社も倒産して家を失くし、出張家具職人として細々と生きている東口が主人公である。ホームレス仲間との気楽を装いながらも最後の寄る辺を失くすまいとするギリギリの暮らし。家具職人としての誇り。失ったと思っていたものは、思いたがっていただけで、ほんとうは初めから持とうとしていなかったものではなかったのか、ということをわかっていながら必死に気づかないふりをする苦しさ。誰でもが素顔で生きている振りをして、実は仮面をかぶっているのかもしれない。そして、ホームレス仲間の突然の死、それに続く奇妙な家具修理の依頼。守りたいものができたときの、あすへの希望が見えたときの、人間の力。仮面を完全に取り去ることはないとしても、哀しすぎる仮面は剥ぎ取りたい、と思わされる一冊である。

ノエル*道尾秀介

  • 2012/11/20(火) 17:14:01

ノエル: a story of storiesノエル: a story of stories
(2012/09/21)
道尾 秀介

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物語をつくってごらん。きっと、自分の望む世界が開けるから――理不尽な暴力を躱(かわ)すために、絵本作りを始めた中学生の男女。妹の誕生と祖母の病で不安に陥り、絵本に救いをもとめる少女。最愛の妻を亡くし、生き甲斐を見失った老境の元教師。それぞれの切ない人生を「物語」が変えていく……どうしようもない現実に舞い降りた、奇跡のようなチェーン・ストーリー。最も美しく劇的な道尾マジック!


「光の箱」 「暗がりの子供」 「物語の夕暮れ」 「四つのエピローグ」

どの物語もどの主人公も、とても切なくて、胸の奥がぎゅっと締めつけられるような心持ちになる。だが、互いの物語、登場人物の思いもよらないつながりに気づくと、ひたひたと温かなものに足もとから少しずつ満たされていくような心地になる。どんな境遇に置かれても、どんなに切羽詰まった思いに駆られても、存在自体が意味のあることなのだと、救いはあるのだと思わせてくれる。四つのエピローグで明らかにされる真実を知ったとたん、堰を切ったように涙があふれた。切なくて哀しくて、愛しくてあたたかい一冊である。

光*道尾秀介

  • 2012/08/03(金) 18:32:04

光
(2012/06/08)
道尾秀介

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あのころ、わたしたちは包まれていた。まぶしくて、涙が出る――。

都会から少し離れた山間の町。小学四年生の利一は、仲間たちとともに、わくわくするような謎や、逃げ出したくなる恐怖、わすれがたい奇跡を体験する。
さらなる進境を示す、道尾秀介、充実の最新作!


山間の町で過ごす子ども時代。暗い夜、恐ろしい言い伝え、大切な思い、宝物、仲間だけの秘密。そんなノスタルジックなあれこれが語られる折々に挟みこまれた、そのころを懐かしむような語り。それが誰だかどうしてそんな形になっているのかが明かされるのは最後である。そうだったのか。利一、清隆、慎司、宏樹、という性格も境遇も違う四人の同級生が慎司の姉・悦子を交えて知恵と勇気と思いやりの気持ち全開で出会う出来事の数々は、彼らだけの奇蹟だったのだろうか。かけがえのないひと時は、彼らの成長にどんな影響を与えたのだろうか。読む者に子どものころのみっしり詰まった時間を思い出させてくれる一冊である。

水の柩*道尾秀介

  • 2011/12/10(土) 17:18:21

水の柩水の柩
(2011/10/27)
道尾 秀介

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老舗旅館の長男、中学校二年生の逸夫は、自分が“普通”で退屈なことを嘆いていた。同級生の敦子は両親が離婚、級友からいじめを受け、誰より“普通”を欲していた。文化祭をきっかけに、二人は言葉を交わすようになる。「タイムカプセルの手紙、いっしょに取り替えない?」敦子の頼みが、逸夫の世界を急に色付け始める。だが、少女には秘めた決意があった。逸夫の家族が抱える、湖に沈んだ秘密とは。大切な人たちの中で、少年には何ができるのか。


タイトルのなんと哀しいことか。そして、普通に倦んだ逸夫の日々のなんと贅沢なことか。読み進めるごとに思い知らされるのである。クラスメイトの敦子、祖母のいく、両親だって、敦子の母、誰でもが何かしら重いものを胸に抱え、それでもそれを見せまいと、あるいはそれから逃れようと嘘をつく。人に、自分に。そんな人たちになにができるのだろう。逸夫が彼らのために考えたことが、彼らを救ったのかどうかはすぐには判らないが、滞っていた流れを動かすことにはなったのだろう。なにより、逸夫自身がさまざまなことを考えるきっかけにはなったのだ。人が生きていくには、平坦な道の方が少ないかもしれないが、それでも誰かをほんの少しでも笑顔にできる瞬間があれば、生きている甲斐があるのかもしれない、と思わされもする。胸に重いが、誰かに寄り添いたくもなる一冊である。

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カササギたちの四季*道尾秀介

  • 2011/03/29(火) 11:44:05

カササギたちの四季カササギたちの四季
(2011/02/19)
道尾秀介

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リサイクルショップ・カササギは、店員二人の小さな店だ。店長の華沙々木は謎めいた事件に商売そっちのけで首をつっこむし、副店長の日暮はガラクタを高く買い取らされてばかり。でも、この店には、少しの秘密があるのだ――。あなたが素直に笑えるよう、真実をつくりかえてみせよう。再注目の俊英による忘れ得ぬ物語。


春 鵲の橋 / 夏 蜩の川 / 秋 南の絆 / 冬 橘の寺

華沙々木と日暮のコンビネーション――華沙々木に自覚があるかどうかは謎だが――が絶妙である。リサイクルショップ・カササギの唯一の店員で、付け入られる隙だらけの頼りない日暮の菜美を思うやさしさが、華沙々木をフォローせずにはいられなくさせるのだろう。そして当の華沙々木だって、能天気なだけではなく充分いいやつなのだ。読者は華沙々木が示すヒントから彼が解き明かした謎を推理し、さらに日暮が内緒で施した仕掛けを知って溜飲を下げる、という仕組みで二度愉しめるのである。このリサイクルショップ、まだまだネタが転がっていそうである。つづきをもっと読みたい一冊である。

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月と蟹*道尾秀介

  • 2010/10/05(火) 16:42:07

月と蟹月と蟹
(2010/09)
道尾 秀介

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「ヤドカミ様に、お願いしてみようか」「叶えてくれると思うで。何でも」やり場のない心を抱えた子供たちが始めた、ヤドカリを神様に見立てるささやかな儀式。やがてねじれた祈りは大人たちに、そして少年たち自身に、不穏なハサミを振り上げる―やさしくも哀しい祈りが胸を衝く、俊英の最新長篇小説。


転校生の慎一と春也。ふたりはそれぞれにクラスに溶け込めない理由を抱えていた。そしてなぜかふたりに普通に接してくれた鳴海。三人はいつしか一緒に行動するようになる。実は鳴海の母は、慎一の祖父が乗る漁船の事故で亡くなっており、鳴海は屈折した思いを胸に秘めているのだった。子どもたちには子どもたちなりの屈託があり、周りの大人たちにも抱えるものがある。子ども同士も大人と子どもも、それぞれが互いを気遣いながら傷ついていく。哀しく切なくやりきれない一冊である。

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光媒の花*道尾秀介

  • 2010/04/28(水) 16:46:34

光媒の花光媒の花
(2010/03/26)
道尾 秀介

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印章店を細々と営み、認知症の母と二人、静かな生活を送る中年男性。ようやく介護にも慣れたある日、幼い子供のように無邪気に絵を描いて遊んでいた母が、「決して知るはずのないもの」を描いていることに気付く……。三十年前、父が自殺したあの日、母は何を見たのだろうか?(隠れ鬼)/共働きの両親が帰ってくるまでの間、内緒で河原に出かけ、虫捕りをするのが楽しみの小学生の兄妹は、ある恐怖からホームレス殺害に手を染めてしまう。(虫送り)/20年前、淡い思いを通い合わせた同級生の少女は、悲しい嘘をつき続けていた。彼女を覆う非情な現実、救えなかった無力な自分に絶望し、「世界を閉じ込めて」生きるホームレスの男。(冬の蝶)など、6章からなる群像劇。大切な何かを必死に守るためにつく悲しい嘘、絶望の果てに見える光を優しく描き出す、感動作。


  第一章  隠れ鬼
  第二章  虫送り
  第三章  冬の蝶
  第四章  春の蝶
  第五章  風媒花
  第六章  遠い光


しりとりのように、前章からなにかを掬いとって展開していく連作物語である。どの物語も切なく哀しく寂しく、そして頬を濡らす涙のようにあたたかい。
ひとつの風景のなかに、物語は決してひとつだけではなく、そこにもここにもちりばめられているのだということを改めて思わされた。誰かの物語の背景にも、次の物語の主役になるものが映りこんでいるのである。そして、その物語の背景にもまた同じように、別の物語の主役になるものが映りこんでいるはずなのである。

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花と流れ星*道尾秀介

  • 2009/12/30(水) 17:14:21

花と流れ星花と流れ星
(2009/08)
道尾 秀介

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死んだ妻に会いたくて、霊現象探求所を構えている真備。その助手の凛。凛にほのかな思いをよせる、売れないホラー作家の道尾。三人のもとに、今日も、傷ついた心を持った人たちがふらりと訪れる。友人の両親を殺した犯人を見つけたい少年。拾った仔猫を殺してしまった少女。自分のせいで孫を亡くした老人…。彼らには、誰にも打ち明けられない秘密があった。


表題作のほか、「モルグ街の奇術」 「オディ&デコ」 「箱の中の隼」 「花と氷」

真備庄介と北見凛、そして道尾のシリーズである。
不思議な現象と傷ついた心、呼ばれるのか、惹き寄せるのか、本来の仕事とは少し違った相談事が多く集まる真備霊現象探求所である。真備自身の傷ついた心が未だ癒されないことと関係があるのだろうか。どの物語も、もの哀しく胸を締めつける。少年少女が登場するのも、幼さゆえのある意味残酷な真っ直ぐさが胸を刺す。真備の心にまだ夜明けはきそうもなく、それも案じられる。

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球体の蛇*道尾秀介

  • 2009/12/19(土) 11:28:28

球体の蛇球体の蛇
(2009/11/19)
道尾 秀介

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1992年秋。17歳だった私・友彦は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主人の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと姉娘サヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサヨに私は小さい頃から憧れていた。そして、彼女が死んだ本当の理由も、誰にも言えずに胸に仕舞い込んだままでいる。乙太郎さんの手伝いとして白蟻駆除に行った屋敷で、私は死んだサヨによく似た女性に出会う。彼女に強く惹かれた私は、夜ごとその屋敷の床下に潜り込み、老主人と彼女の情事を盗み聞きするようになるのだが…。呑み込んだ嘘は、一生吐き出すことは出来ない―。青春のきらめきと痛み、そして人生の光と陰をも浮き彫りにした、極上の物語。


冒頭に、『星の王子さま』の中のゾウを呑み込んだウワバミの逸話が載せられており、それがこの物語を象徴している。呑み込んだものの真実は、ウワバミ自身にしかわからない。
乙太郎さんの葬儀に向かう現在の友彦が、十六年前の少年時代を思い出すという形の物語である。その思い出は、高校生という輝かしい時代であるにもかかわらず、どうにもならない哀しさにあふれていて読む者の胸の裡を切なさで満たす。思いやりから出た嘘が、勘違いから出た嘘が、人をこうまで縛るのか。一度狂った歯車は、二度と元に戻せはしないのか・・・。ラストの明るい未来にさえ、嘘の影が寄り添っているのか。影を消すほどの光が、ふたりに降り注ぐことを祈らずにいられない。

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